普段ロックバンドやその近辺にいるようなアーティストばかり聴いてはライブに行っているので、年に100本以上ライブに行っていてもJ-POPシーンに属するアーティストのライブを見る機会というのは大型フェスにそうした方々が出演するような時くらいしかない。
なので当然ながらaikoという存在自体は子供の頃に「花火」がリリースされたタイミングから知ってはいるのだが、あくまでテレビから流れてくる音楽というくらいのものであった。(「音楽と人」などにインタビューが載ることがあるので、それは読んだりしている)
そんな自分がこうしてaikoのワンマン、しかもZepp Tokyoという貴重極まりないライブを観に来ることにしたのは、自分がライブに行きまくっている大好きなバンドを同じように好きな人が「是非一度ライブを観ていただきたい」と言ってくれたからであるのだが、まさか自分がaikoのワンマンに行くことになるなんて1%足りとも想像したことがなかった。
なのでいつも以上にどこか緊張感のようなものを感じる中、検温と消毒を終えて場内に入ると、Zeppの客席の中に花道が作られていることに驚く。確かに9mm Parabellum Bulletや忘れらんねえよもライブハウスに花道を作ってロックバンドとしてライブを行っていたが、何というか普段からこうしたものを使ったライブをしていりしているのがわかる設営というか。加えて、まだ全然暗転する前から観客がBGMに合わせて手拍子をしているというのもaikoのライブのいつもの光景なのだろうかというくらいに驚きである。それくらいに集まった人たちがこのライブを心から楽しみにしていたということか。
開演時間の19時を少し過ぎた頃に場内が暗転すると、ステージを覆った幕に次々と映像が映し出されていく。それはaikoが自ら描いた文字や動物の絵であると思われるのだが、そうした映像の後にこのライブタイトルである「Love Like Rock」の文字が映し出されると幕が落ち、すでにステージ上に揃っていたメンバーたちが「どろぼう」のポップなサウンドを鳴らし始める。
ステージ左右にギタリスト、下手奥にベース、上手奥にキーボード、中央奥にドラムという5人のバンドメンバーを引き連れているのだが、やはりサウンドのバランスはaikoの歌を真ん中にしたものであり、それを支えながらも元気に溢れているというような印象である。
そして真ん中にすでにスタンバイしているaikoはビッグTシャツを着て伸びた茶髪という出で立ちなのだが、どうにも最序盤は歌声があまり聞こえなかった感じだ。それは声が出ていなかったのではなくてマイクの音量が小さかったからなのだろうということはライブが進むにつれてわかったことであるのだが。
しかしながらタイトルこそ「Love Like Rock」というものであるが、aikoの曲を有名ヒット曲くらいしか知らない(なので普段のようなレポとはだいぶ異なるものになる)自分からしたら「ロックとは?」と思ってしまうのも確かなことであるのだが、「エナジー」でギタリスト2人が向き合うようにして派手なギターを弾きまくる姿を見ていると、自分が今まで知らなかったaikoの音楽がそこには鳴っている。ラブソングやバラードのイメージが勝手に非常に強いのは「カブトムシ」のインパクトが強すぎるからだろうけれど、早くも花道を駆け出していくようにして歌うaikoの姿も含めて、想像していたライブとはだいぶ違う、そのタイトル通りの音楽を、タイトル通りの姿で鳴らしている。
そのイメージを自分は勝手に「若い女性が多そう」という客層にも抱いていたのだが、三三七拍子的な手拍子をしている観客の姿を見ていると、男性も非常に多いこと、確かに若い人もたくさんいるけれど、自分より先輩であろう人もたくさんいることに気づく。それはやはりお茶の間にも曲がたくさん流れるポップスターならではというか、あらゆる年代の人が触れることができる音楽を作ってきた人であるということがよくわかる。それと同時に、この人のライブが曲やリズムをちゃんと知っていたらもっと楽しいだろうということも。
MCでも花道に出てきて観客に近い位置でしっかり顔を見て喋るのだが、その際に1階席後方の席を指差して
「あ、久しぶり!」
と言って手を振るあたり、観客の顔を覚えているということだろうか。2階席に演奏に参加してくれていたミュージシャンの姿を見つけて手を振るというところまではわかるのだが、観客までも覚えていたら相当なものである。声が出せないだけにボードに「母は2階席で見てます」と書く観客も、それにちゃんと気づいて拾うaikoも相当なものだが、この人がずっとファンと親密なコミュニケーションを取るライブをしてきたということがよくわかる。
aikoが
「10代の頃に作ったけど、今はそんな起こされ方嫌やわ(笑)」
とセルフツッコミを入れた「キスでおこして」からはポップなメロディを感じさせる曲も増えていくのだが、花道を飛び跳ねまくりながら歌う「あなたと握手」は自分でも知っている曲だった。多分シングルとしてリリースされた時にテレビで耳にしていたからだと思うのだが、人と人の距離が遠くなったことを否が応でも感じざるを得ないこのご時世でもまさに観客と握手をするかと思うくらいに花道にいるaikoと観客の物理的な距離も精神的な距離も実に近い。こうした部分は「永遠の少女」というイメージ通りだ。
バンマス佐藤達哉の切ないキーボードから跳ねるようなリズムになる「明日の歌」の歌詞のメロディへの詰め込み方というか嵌め込み方は実にaikoならではという感じもするのだが、そのaikoはこのZepp Tokyoでライブをするのが60回目であり、歴代2位の回数を誇るという。ちなみに1位はHYDEで3位はDIR EN GREYなのだが、かつてその2組に挟まれて3組でこの会場でライブをやったことなど、Zepp Tokyoを愛し、この会場の歴史を作ってきたアーティストだからこその思い出を口にしつつも、最後にこの会場(翌日には61公演目を行うけれど)を爆発させる勢いで、とさらにライブは元気と熱気を増していく。
とはいえ次に演奏された今年リリースの最新アルバム「どうしたって伝えられないから」収録の「ハニーメモリー」はその歌詞、メロディ、歌唱からどうしたって切なさが滲み出てくる。
この時期にピッタリな選曲となった「寒いね…」も、aikoはもちろん歌は抜群に上手いし、聞けばすぐにaikoだとわかる記名性を持つ声であるが、圧倒的な歌唱力のみで持っていくというよりは、その軽快かつパワフルな、とても46歳とは思えない全身の動きでもって歌を、音楽を表現していくようなタイプのシンガーなのだなとその姿を見ていて思う。意外にもそう感じるような人は他にそうそういないし、この年齢の運動量ではないくらいに動き回りまくっているのも、ライブの楽しさによってそうなってしまう部分もあるのだろう。
Perfumeのあ〜ちゃんがaikoのライブを観て取り入れたという「男子〜!」「女子〜!」「そうじゃない人〜!」「全員〜!」のコール&レスポンスはレスポンスができないというご時世上、手拍子とアクションによるレスポンスとなるのだが、「全員〜!」のアクションが最近スタッフがやっているというTinderというマッチングアプリで相手を気に入った時にやる画面スワイプにしようということで、実際にTinderをやっている観客を探してその男性に上に向かってスワイプするというやり方を教えてもらい、全員で一斉に右手人差し指を挙げるというポーズに決まるのだが、そんな観客とのやり取りを経ながらもこの日数少なかったバラード曲の「スター」を挟んだりしながらも、基本的にはこの日はアッパーかつキャッチーな曲を連発していく。
自分は「Rock」がタイトルに冠されていてもなんやかんやでヒットシングル連発みたいな内容の感じになるんじゃないかと思っていたので、自分の予想が甘かったことがここでわかるというくらいに全然自分みたいなやつが知っているヒットシングル曲をやらないということに驚いてしまったのだが、それはaikoが今やりたい曲をやるという姿勢によるものであろうし、そこからは確かにRockなものを感じるのだが、やりたい曲をやりながらも、それはずっとaikoを見てきた、聴いてきたファンに向けてのサービス的な面も含んでいるのだろうし、セトリを見てもらえればその内容はわかると思う。
しかしそれでもコアな、内向きの閉じたような感覚は見ていて全く感じない。全ての曲がポジティブなエネルギーによって、どこからでも飛び込んで来ていい、というように開かれている。それを感じるのはaikoのエネルギッシュなパフォーマンスと歌唱、さらにはメンバーの演奏が全てを開かれたものとして鳴らしている。そこにはこのライブをずっと待っていてくれたファンへの感謝という気持ちが滲み出ていた。(このライブはコロナ禍になる前から予定されていたライブの振替公演でもある)
後半は突っ走るようにアッパーかつキャッチーな曲を連発していくのだが、その合間にaikoは普通に
「明日学校の人〜!君は何時起き?あ、9時起きでいいのはリモートだからか!」
と観客に話しかけて会話していたりする。ロックバンドのライブハウスでのライブの客席を考えたら「え?いいの?」という感じですらあるのだが、よくよく考えたらライブ中以外でも普通にマスク越しに会話したりはしているわけで、マスクを外したりしていない限りはこれくらいは大丈夫なんじゃないかとも思う。
以前、インタビューでaikoは配信ライブをやったことを「キツかったし、できればやりたくない」というように話していた。テレビでの収録に慣れているであろう人がそう言うのは少し意外にも感じたけれど、その言葉はこうした姿を見てわかった気がした。
aikoにとってのライブとは単に歌う、演奏するというものではなく、来てくれた人、aikoを愛する人とのコミュニケーションであり、生存や元気でいてくれることの確認の場なのだと。だからいつもライブに来ている人を覚えているのだろうし、観客と会話をしたりする。つまりはaikoにとってはライブとは目の前にあなたがいてくれないと成立しないものである。
配信ライブを通常のライブとは違う、新しい面白いことをできるものだと捉えているアーティストもいるし、配信だからこその映像などの表現を今の技術で進化させて研ぎ澄ませる人もいるけれども、このライブがほぼ照明だけというシンプル極まりない演出で行われていることも含めて、aikoはストイック過ぎるくらいにこれまでのライブ、自分なりの意義としてのライブに拘っている。
終盤には背後のスクリーンにバンドメンバーそれぞれの名前や写真も含めた紹介映像が流れるとともに1人ずつソロを披露し、それぞれが曲、ライブのタイトルに合わせたロックな演奏を見せてくれる。
そんな中で最後に演奏されたのはFM802のキャンペーンソングとして豪華なボーカルたちが参加したことでも話題になった「メロンソーダ」であり、やはり花道を歩きながら歌うaikoもバンドメンバーの演奏も実にロックさを感じるものだった。その熱気は12月であっても汗をかいてしまうくらいのものであり、彼女がこうして人の体温と存在を近くで感じられるライブハウスでライブを積み重ねてきた理由がわかった気がした。
アンコールではバンドメンバーたちがそれぞれ好きな色のツアーTシャツに着替えて登場すると、aiko自身もTシャツに着替えており、髪をまとめて結んだことによってイメージはだいぶ変わるというか、昔はこれくらい短かったようなという気持ちにもなる。
「アンコール、行かせていただきます!」
と元気は本編から全く変わらないというか、さらに今この瞬間を楽しみ切るように演奏するのだが、その際に花道を歩きながら、本編でTinderをやっていることを教えてくれた男性に向かって指を向けて手を振ると、その男性も嬉しそうに飛び上がって手を振っていた。なんだかその仕草から、こんなにもメロメロになってしまう人がいるのもわかる気がした。自分がこの指の向け先にいたとしたら自分もそうなってしまうだろうと思う。こんな経験できたんならもうTinderやらなくてよくない?とも思うけど、それはまた違うものなのだろうか。
そんなアンコールを終えると、メンバーが前に出てきて手を繋いで一礼するのだが、その際の観客の拍手が明らかに拍手のテンポと叩き方ではないところでも察していたのだが、実際にベースの須長和広がなぜかマイクを渡されて挨拶するも、全然このまま終わるような感じがなく、aikoとともに
「聞こえへんな〜」
とさらなる大きな拍手と、さらにその場での足踏み(aikoは翌日も平日にも関わらず観客を筋肉痛にしようとしていた)をさせるのだが、こうしたさらなるアンコールを求めるやり取りもお馴染みのものであるようで、どうりでステージを去らずともずっとアンコール待ちをしているかのように手を叩いていたわけである。
そうしてさらなるアンコールを演奏するのだが、その際にメンバー全員で集まって話をしてから、下手ギターの設楽博臣がスタッフに何やら指示をしていたのはアンコールでやる曲を事前に決めてはいないということなのだろうか。
それは自分にはわからないけれど、そんなアンコールでもヒットシングルを演奏しないというのは本当にロックな姿勢であると思ったし、どんなアルバムのどんな曲もが等しくファンに愛されてきたんだなというのをそうした曲でも飛び跳ねて手拍子をする観客の姿を見ていて感じたのだった。
演奏が終わり、再び並んで一礼するとメンバーたちがステージから捌けて行ったので、今度こそ終わりかな?と思っていると、aikoは去り際に
「私はまだ帰りたくないねんけど〜!みんなの拍手が小さくて聞こえへんから終わってしまう〜!」
と袖とステージのギリギリの部分で踏み止まって観客にさらなる拍手と足踏みを煽るとより拍手の音が大きくなってaikoがメンバーをステージに呼び戻す。
するとまたしてもメンバーと話し合うようにしてからそれぞれの位置につくと、なぜか佐藤が設楽を
「来いよ!」
と煽り、しかしイントロはドラムからというのが佐藤の
「エイエイオー!」
の掛け声とともにズルっと転げてしまうのだが、aikoは小さなおもちゃのトランペットのようなものを吹いていたようにも見えたのだが、あれはなんだったのだろうか。
「まだ終わらせへんで!」
と、すでに25曲も演奏しているというのに凄まじいサービス精神だなと思っていたら、この最後の最後についに自分でもよく知っている「ボーイフレンド」のイントロが鳴らされるのだが、この曲こんなにダンサブルな感じだっけ?と思うくらいにリズムが躍動感に満ち、この曲こんなに激しかったっけ?と思うくらいにギターは音も動きも激しい。(設楽は寝転がりながらギターを弾いていた)
そしてステージを動き回りながら歌うaikoはもう上手く歌うということを敢えて放棄するかのように、ただただ自分の感情を爆発させるような歌唱を見せる。それはつまりライブが、この瞬間が「楽しい」ということを自分の体や声を全て使って示すものだった。きっちり完成度が高いポップミュージックではない、ただ剥き出しで感情と感情をaikoと観客がぶつけ合うような。それは自分が普段からライブを見ているバンドたちと変わらないものだった。
シンガーソングライターという入れ替わりや流行り廃りが非常に激しいスタイルの中でaikoがそうした流れに飲み込まれない、ずっと変わらぬ規模のままでいられる理由がライブを見てよくわかった。
演奏が終わり、3回目の全員で横一列に並んで一礼すると、aikoは名残惜しそうに花道を歩きながら、
「もう本当に、ただただみんなが元気でいて欲しい。風邪とかひかないようにね。それだけを願ってます!」
と最後まで観客との距離感の近さは変わらない言葉を口にしてからステージを去るかと思いきや、規制退場を促すアナウンスを真似するという最後まで観客を楽しませることに徹していた。最後の最後に「ボーイフレンド」をやった余韻によるものもデカいだろうけれど、終わった後には曲を全然知らない自分のようなやつですらも「楽しかった」という感情になっていた。曲を全部知っている人だったら、このライブが見れたらまた明日からも頑張れるって思えていたんだろうな。そう、確かに楽しい一夜だった。
コロナ禍になって以降、明確にコロナ禍であることを感じさせるライブが増えた。それは楽しみ方が変わったり、あるいは曲の歌詞が今の状況とリンクすることによってこちらがそう捉えたり。
aikoのライブもきっとコロナになる前の楽しみ方とはだいぶ変わったんだろうと思う。今でこうした感じなら、前まではもっと直接的なコミュニケーションを観客と取っていたのだろうと。
でも自分はライブを見ている間はそんなことは全く感じなかった。それはaikoの持っている、そして発しているスーパーポジティブな空気やオーラやライブの作り方が、コロナ禍であることを忘れさせるようなものだったからだ。コロナ禍になる前と楽しみ方が変わらないバンドもいるけれど、そんなバンドのライブでもこうは思えなかった。そんな力を持った人はそうそういない。インタビューでは悩んだりすることもあったことを話していたが、ライブでは1%足りともそれを感じさせることがない。aikoという人間の強さと、その人間の作った音楽とライブの凄さを感じざるを得なかった。
1.どろぼう
2.エナジー
3.夢見る隙間
4.be master of life
5.キスでおこして
6.あなたと握手
7.明日の歌
8.ハニーメモリー
9.問題集
10.寒いね…
11.スター
12.恋ひ明かす
13.食べた愛
14.何時何分
15.beat
16.列車
17.恋愛ジャンキー
18.Last
19.58cm
20.メロンソーダ
encore
21.猫
22.染まる夢
23.陽と陰
24.あたしの向こう
25.mix juice
26.ボーイフレンド
文 ソノダマン