それぞれがa flood of circle、UNISON SQUARE GARDENというコロナ禍の中でも全く活動を止めないバンドのメンバーであり、ソングライターであるにもかかわらず、佐々木亮介と田淵智也はこのTHE KEBABSも一切止めることなく活動を続け、今年は6ヶ月連続シングルリリース、さらにはアルバム「セカンド」(これ以上ないくらいに簡潔な2ndアルバムのタイトルである)をリリースと、他にバンドをやっていなくても精力的と言えるような活動を行ってきた。
そんなTHE KEBABSの「セカンド」のリリースツアーはまさかのホールツアーであり、このヒューリックホール東京はツアーファイナルとなる。
有楽町という日本の中心と言えるような場所のビルの11階にあるホールに着き、来場者フォームの確認と消毒、検温を経て場内に入ると、客席は1階席のみという造りで、どこか映画館のようにも感じる。ステージはそこまで大きくはないが、近隣にある日比谷野音のようにステージに近づくに連れて低くなっていくすり鉢型の客席であるために、後ろの方の客席でもステージが見やすいんじゃないかと思われる。
イベンターの人の諸注意的な前説を終えて18時半を少し過ぎた頃に場内が暗転してメンバーが登場。田淵は曲中で亮介に歌詞にされるくらいに目立つ真っ赤なTシャツを着ており、a flood of circleでは革ジャンがトレードマークでもある亮介はTHE KEBABSではロングコートを着ているというのもすっかり見慣れた姿である。
するとメンバーがキメ連発の演奏とともに、
「食欲を満たします」
などの食べ物としてのケバブの効果と、
「元気が出てきます」
などのバンドとしてのTHE KEBABSの効果を歌詞にした「食事」で始まるという先制攻撃。新たなTHE KEBABSのテーマとも言えるロックソングであるが、椅子から立ち上がっていたとはいえまだほとんどの観客は立ったままの状態である。
「優勝 優勝」
とサビで聴こえてきた気もするのだが、ホール、しかも有楽町という場所でこんなにも爆音のロックンロールが鳴らされている場にいることができているという時点で我々は優勝している。
その新曲では亮介もギターを弾いていたが、早くもギターは新井弘毅に任せてハンドマイクとなり、サビでは右腕を高く掲げて歌うと、観客も同じように腕を掲げて応えるのは亮介と田淵のthe pillows愛が炸裂する「枕を変えたら眠れない」であり、さらにタイトルや
「ロバート・デ・ニーロの袖のボタン」
という、なんだそれ!?という歌詞がシンプルなロックンロール(タッピングを駆使しまくる新井のギターは冒頭から実にテクニカルであるが)にマッチし、観客が声を出せる状況で演奏されたらそのシュールなフレーズを大合唱しているであろうことが容易に想像できる「ロバート・デ・ニーロ」、亮介が
「TBC!」
と独特な呼び方で田淵にボーカルを振り、10代の頃からの友人である亮介と田淵の2人が一つのマイクで歌っている姿が楽しくも実に胸を熱くさせる「オーロラソース」と、ライブが始まってからの15分くらいでTHE KEBABSというバンドがロックンロールバンドでありながらもキャッチー極まりない曲を生み出しているバンドであることがよくわかる。余談であるが、この曲を聴いてからフライドポテトにオーロラソースが付いていると少し嬉しく思うようになった。
「忘年会へようこそ!」
という亮介の言葉によって、年末というものが近づいてきていることを実感しながらも、ピョンピョン跳びはねながら弾く新井のギターリフからして実にキャッチーな「ピアノのある部屋で」の美メロの応酬は確かに忘年会に相応しく、本来なら集まってみんなで歌いまくれる曲であるが、それが爽やかさと切なさを共存させたサウンドの「テストソング」からは徐々にその空気、雰囲気も変わっていく。
それがよりハードに振り切れて行く「やさしくされたい」では鈴木浩之の跳ねるような高速ビートがさらにバンドに勢いをもたらしていき、それは明らかに亮介(と田淵も?)が某漫画に影響を受けて書いたと思われる、田淵のゴリゴリのベースがライブで観て聴くとよりロックバンドのカッコよさを伝えてくれる「チェンソーだ!」へと続いていくのだが、ここで亮介はドリンクのおかわりを取りに一度ステージ袖へ。その間の繋ぎを任されたのは新井によるファンキーなギターであるが、普段はステージ上でも酒を飲む(ライブハウスでもアルコール販売を停止していた緊急事態宣言下では酒を飲まないという弁えた部分もちゃんと持っている)亮介(と田淵も)がノンアルを飲んでいたのは確実に酒が似合わないこの会場だからという影響もあるのだろうか。
その新井が繋ぐファンキーなギターサウンドからそのまま曲へと繋がっていくというのも、思いついたままのことをやっているような自由さを感じさせながらも、しっかりとライブそのものの流れを考えて構築していることがよくわかるという見事なものになっているのだが、その流れで演奏された「ジャンケンはグー」は音源ではシンセによるファンクサウンドがTHE KEBABSの「セカンド」だからこそのサウンドの幅の広がりを示していたのが、ライブではシンセを誰も弾くことがないだけに完全にシンプルかつストレートなロックンロールになっている。
そしてそのアレンジでツアーを回って鳴らしてきたことによって、この段階ですでに「凄いメンバーたちのバンドであるということはバンド立ち上げ時からわかっていたけれど、そのメンバーによる「楽しむこと」を第一義にしているであろうバンドがこんなにも凄まじい存在になるとは」と驚くくらいに進化している。もしかしたらアーティストにとっては止まらざるを得なかった2021年で最も劇的に進化したバンドはこのTHE KEBABSなのかもしれない、と思うくらいに。
それは
「予定調和なんてつならない〜」
と口にしていた亮介がその言葉をステージ上のパフォーマンスで示すように、曲終盤では上手の新井の位置に田淵が移動して向き合うようにして演奏していると、亮介がその田淵の背後にマイクスタンドを置いて、元の位置に戻らなくてもコーラスができるようにするという、観客はついつい笑ってしまう状況に。田淵も笑っていたけれど、マイクスタンドを動かす際に亮介は田淵のスタンドについていたピックを盛大にステージに落としまくっていたけれど。
そのタイトルと囁くような亮介のボーカルによって一気に会場の雰囲気がおどろおどろしくなる「ホラー映画を観よう」では鈴木のカウントでキメを打ちまくると、アウトロでは
「だんだん上手くなってきている」
という田淵の口笛が何回も繰り返されて、やはり観客は笑うのを堪えきれない。その際に鈴木が波の音を楽器を使って再現したりと、思いつきでやっているようにも見えて実はかなり芸は細かいのがTHE KEBABSならではである。
「もうすぐクリスマス〜」
と亮介がおなじみのブルースを歌うように口にすると、確かにこの会場の周り、銀座あたりもイルミネーションをたくさん目にするようになったな、とフラッドの歌詞を聴けばわかる通りに亮介のロマンチックさを感じさせたかと思いきや、
「でもそんなの関係ない〜」
と言ってあらゆる意味で季節外れ、真逆とすら言える「サマバケ」が演奏されるあたりは亮介と田淵のこれまでに書いてきた歌詞やバンドの活動の天邪鬼っぷりがこのバンドにも作用していることが実によくわかるのだが、ホールという会場であり、これだけ腕を振り上げさせるロックンロールを演奏しているが故に熱さすら感じる会場となっているだけに、この曲を聴いている時は本当に夏に戻ったようですらあった。それは周りに半袖Tシャツのみという出で立ちの人がたくさんいたからかもしれないが。
そんな暑さはハンドマイクで飛び跳ねまくりながら歌う亮介の姿に合わせて観客も飛び跳ねまくっていることによって生じる熱気というのもあったと思われるが、何やら客席の中をボードを持ったスタッフが何度も通過するようになってきている。それは
「ジャンプ禁止」「ジャンプ控えめで」
という注意喚起ボードだったのだが、ビルの11階という立地のホールであるだけに、下の階から「揺れを感じる」という意見がきていたらしい。この会場が普段どんなアーティストのライブで使われているのかわからないが、そんなことを言われたことが今までにあるのだろうか。
そう思いながらも心も体もついつい飛び跳ねてしまうのは「ドンドン」というリズムに合わせて体がつい跳ねてしまう「うれしいきもち」が演奏されたからであるが、この曲を聴いているとシンプルな曲こそが最高の名曲なんじゃないかと思えてくるし、ユニゾンでは斎藤宏介という凄まじいボーカリストがいるためにボーカルを取る機会がない田淵が、亮介のロックンロールなしゃがれ声とのコントラストによって実は優れたというか、実に味のあるボーカリストであるということもよくわかる。それがわかって、こうしてこのライブが見れていて本当に、うれしいきもち。亮介は
「上着も脱いじゃえ」
という歌詞に合わせてコートを脱ぎかけるような仕草も見せるが、さすがに全部脱ぎ去るようなことはしなかった。
そんなTHE KEBABS屈指の名曲の流れはさらなる名曲へと連なる。アルバムリリース前からライブで演奏されていた、
「今年の夏は海に行けなかったし
山にも行けなかったし
お祭り そもそもなかったし」
という亮介のポエトリーリーディング的なボーカルと、それに合わせたようなリズムが淡々と流れていくようなサウンドが今年や去年の、夏フェスが次々になくなっていってしまったことを思い出さざるを得ない「ラビュラ」であるのだか、しかしそんな切ない我々の感情をも亮介のボーカルは
「それでかまわない
時は戻らない
それでかまわない
だって会えたじゃん」
と、今こうしてこの場にいれていることによって肯定してみせる。その亮介のボーカルの後だからこそ、
「大好きだよ 大切だよ
だから忘れないでくれよ
生きてるだけで幸せだよ
アイラビュラビュラ」
というユニゾンでは絶対書かないであろう歌詞を歌う田淵のボーカルに涙が出てしまいそうになるのだ。「セカンド」が出る前はTHE KEBABSの曲でこんな感情になるなんて想像したこともなかったし、忘れるわけがないじゃないかと思う。
フェスやイベントに出演した時などもMCを全く挟まずに曲を連発するというライブをしてきたバンドであるが、やはりこの日もここまでは長いMCはせずにきたのが、いったん立ち止まるようにして亮介が
「コロナや地震とかもそうだけど、予期してない時に急に病気になったりする。まっちゃんだってガンで死んじゃったし。(ライブハウス「神戸太陽と虎」のオーナーであった松原氏のことだと思われる)
だから予期せぬ時に急になんか来るんだよね。TBCの無茶振りの新曲も、急に来る」
としんみりさせたかと思いきや、実はそのまんまなタイトルである新曲「急に来る」のフリだったことがわかるのだが、ソリッドなロックンロールかと思ったら、曲間では田淵が
「佐々木が好きなように喋る時間」
を設けているという、亮介が言う通りの無茶振り曲である。
その無茶振りを亮介は「ヒューリックホール」の母音に合わせた言葉を次々に繰り出しての(「豪速球」「ダルビッシュ」など野球用語が出てきたのも野球ファンとしては嬉しい)、亮介のフリースタイルラッパーとしての技術の高さに田淵も
「めちゃくちゃすごいわ〜」
と感嘆していたメンバー紹介から、急に
「みんな油断したでしょ?」
と再び演奏に転じるあたりもまさに、急に来る。こうした曲が思いつきかのように次々に生まれてくるのはお題をもらって曲を作ったりもしてきた、THE KEBABSの自由さあってこそである。
そんな新曲を挟んでの後半になるとバンドのサウンドはさらにハードに、そしてロックンロールになっていく。駆け抜けているかのような鈴木のリズムによるスピード感溢れるサウンドが、まさに恐竜があらわれて逃げているかのような臨場感を与えてくれる「恐竜あらわる」から、こちらも「セカンド」の収録曲としてバンドのサウンドの幅を広げたダンサブルなバンドサウンドと亮介のポエトリー的なボーカルの「てんとう虫の夏」は歌詞に合わせたシンセの音はやはり一切使うことがないためによりロックンロール色が強くなるのだが、リズム隊による間奏では亮介と新井がスティックを持って鈴木のシンバルを連打し、鈴木もそれを見てめちゃくちゃ笑顔になっているというのが、ART-SCHOOL脱退間際のメンバー同士のピリピリというかバチバチしまくった経験のある彼の姿や表情を見ているだけにより嬉しくなる。ツアーの名古屋が終わった時に
「バンドやってて良かった」
というツイートをしたというくらいに、このバンドでいれることを心から楽しんでいるし、その姿が我々のことも楽しくしてくれているのだ。
しかしこうして「セカンド」収録曲をライブという場で聴いていると、同じ曲を2回も3回も演奏する時もあったTHE KEBABSもだいぶ持ち曲が増えたなと感じるのだが、そんな曲の中でもほぼ英語という歌詞で幅の広がりと言葉の自由さを感じさせてくれる「おねがいヘルプミー」は、亮介と田淵がそうした英語の歌詞を歌っているというそれぞれのバンドでは滅多に見ることができない光景を見れる曲である。
そして鈴木の祭囃子的なリズムのドラムから、亮介の
「踊れるやついるか」
の問いかけに全身で応えるように踊りまくる(なんなら亮介もハンドマイクで踊るようにして歌っている)「猿でもできる」でさらにこの日の熱狂のピークを更新すると、最後に演奏されたのは「セカンド」の最後に収録されている「夢がいっぱい」。
タイトルだけ見ると実に頭が悪そうな人がつけたようにも感じるのだが、こうして様々なサウンドや歌詞で季節を超えてきたような気分にしてくれる「セカンド」の曲を聴いてきた後にこの曲を聴くと、来年は今年やることができなかったことをやろう、行くことが出来なかった場所にも行こう、という夢がまだまだ自分にあることを実感させてくれる。
それはイコール、人生にもこんな世界にも見方次第ではまだまだ希望が満ち溢れているということであり、THE KEBABSの音楽とライブはそんなことを我々に伝えてくれる。それは4人の演奏している時や、演奏が終わった後の表情から感じられるものでもある。結成時から良いバンドだったけれども、THE KEBABSは本当に良いバンドになったのだ。
そんなライブがもうこれで終わりのようにすら感じたのは、これまでのTHE KEBABSのライブがワンマンでも1時間くらいで終わるくらいのボリュームだったからなのだが、前説担当者が再びステージに現れると、5分間の換気タイムの後に第二部が始まるという驚きの告知を行う。アンコールではなくて、第二部。その内容とは。
そんな得体の知らないドキドキとワクワクを抱えながら待っていると、メンバー4人が「セカンド」の受注盤付属のユニフォーム型背ネーム入りTシャツ(亮介は「THE KEBABS」とネームを入れた背番号2)を着て、亮介と新井はさらに帽子まで被って、全員がステージ上に置かれた椅子に座る。
何が始まるのかと思ったら、田淵が
「曲が驚くぐらいに増えて、ライブでやれない曲も増えてきたから、本編でやってない曲をリクエスト形式で募ってやろうかと。ただ、新井君が曲を覚えてないので、リクエストされた曲の音源を聴いて思い出しながらやります」
ということで、スタッフによって手書きの「今日本編でやってない曲リスト」が客席に向けて広げられるのだが、明らかにやっていた「オーロラソース」も入っているというのはこれをリクエストして欲しいというフリだったりしたのだろうか。
結果的には楽器スタッフの篠原氏のリクエスト「おかしのはなし」、無作為に選出された観客からの「まばゆい part 2」「ガソリン」の3曲に決まるのだが、新井も田淵も「おかしのはなし」を完全に忘れており、ステージ上でかつてのライブ音源を聴いて思い出すという実にシュールな姿を見ることに。その時間中は観客も椅子に座っていたのだが、亮介いわくそれこそがこのライブタイトルが「椅子」であることの所以だという。
そうして曲を思い出した新井が気合いを入れるように叫びながらギターを持つと、それまでの緩さを一閃するかのように、鈴木のドラムのイントロからギターリフを鳴らす「おかしのはなし」へ。
かつてグリコのライブイベントに出た時に勝手にグリコのテーマソングという形で作ったら、グリコの人にあまりいいリアクションをされなかったらしいが、ポッキーを思わせるAメロの歌詞や、
「グリコのおまけ」「江崎」
などあまりにどストレート過ぎる癒着っぷりから、音源化はかなり絶望的なレア曲になっていくと思われる。それだけに新井だけでなく田淵も思い出せなかったのがよくわかるというか。
するとリクエストされていない「THE KEBABSは忙しい」も演奏されるというサービス精神を発揮するのだが、こうしたライブではおなじみの曲は思い出さなくてもすぐに演奏できるくらいに体に馴染んでいるということだろう。
リクエスト第二弾はかつて新井がやっていたバンド、Serial TV dramaの代表曲「まばゆい」の続編的な曲である「まばゆい part 2」で、選曲者も新井のタッピングなどを存分に堪能するためにこの曲を選んだんじゃないかと思うのだが、その新井がこの曲の音源を聴かないと思い出せないというあたりが、カッコいいだけではなくてメンバーの愉快な人間性をそのままステージ上でも発揮するTHE KEBABSとしての魅力になっている。思い出した新井のギターは本当に抜群のキレ味とスピードを誇っている。
その新井はTHE KEBABS始動後のインタビューでSerial TV dramaが上手くいかなかった理由を「自分のせい」と認めながら、「バンドに挫折した人間」とも語っていた。実際に解散後はPUFFYなどのサポートメンバーとして見る機会が増えていた新井がまたこうしてバンドのメンバーとしてステージに立って、こんなに楽しそうに演奏している。その姿を見ていると、一度は挫折したかもしれないけれど、やっぱり新井はバンドのメンバーとしてギターを弾いているのが1番輝いていると思う。それもまたTHE KEBABSというバンドがいてくれて、本当に良かったと思うところである。
そしてリクエスト第三弾の「ガソリン」は
「普段からやってる曲だから思い出さなくてもいい!」
という理由で新井に喜ばれ、亮介も
「ギター弾かなくていい!」
と喜んでいた曲であり、亮介は実際にステージを動き回りながら、サビでは右腕を高く掲げて歌う。
こんなレポを読んでいただいている人はすでにご存知かと思われるが、自分は佐々木亮介というボーカリスト、ミュージシャンが大好きな人間である。マジで心の底から亮介は日本が誇るべき素晴らしいロックンロールボーカリストだと思っているのだが、これだけ凄いメンバーたち(なんならこのバンドの亮介以外の3人とはフラッドよりも前に出会っていて、そのライブを見ている)とのバンドでも亮介はど真ん中に立ってそのロックンロールボーカリストとして、この声でしかないとばかりに堂々と響かせ、このバンドの名曲たちを田淵とともに生み出すソングライターでもあり、そしてこんな凄いメンバーたちのバンドにおけるフロントマンとして絶大なオーラを放っている。その亮介の持ちうる能力がこのTHE KEBABSの活動を通じて少しでも多くの人に伝わって欲しいと思っているし、それがa flood of circleという最高にカッコいいロックンロールバンドに少しでも還元されて欲しいとも思っている。
リクエスト曲を全て演奏してもその亮介がまだまだ今年最後のTHE KEBABSのライブを終わらせたくないとばかりに、もっと行けると「ジャキジャキハート」が演奏されると再びたくさんの観客の腕が上がり、下手側で田淵と新井が並んで演奏していると亮介は2人と肩を組む仕草を見せて曲中に拍手も起こる。
この第二部はそもそもは大阪と名古屋がチケットが売れなかったために2時間ライブをやるために取り入れたものだったらしいのだが、もともとソールドアウト公演だったこのファイナルにおいては完全に違う意味を帯びてきている。それは楽しくてしょうがないからもっともっとやりたいということだ。それはバンド側も、客席側も。
だからこそさらに最後にイントロが鳴った瞬間に「これぞTHE KEBABS!」と思う「THE KEBABSのテーマ」までも演奏されるのだが、
「たばこ吸うのはドラムだけ」
のフレーズではそのドラムの鈴木がスネアを連打するなど、ライブで毎回演奏して練り上げられてきたことによって、アレンジはさらに激しくなっているのだが、田淵がやはり新井のいる上手側に寄ると、亮介もそちらへ寄って、ギターソロを弾く新井の股の下に寝転がるという笑わざるを得ない自由すぎるパフォーマンス。そんないかしたやつらは本当にロックバンドであることを味わいまくっていた。
田淵が笑顔で無地のタオルを掲げたりしてからステージを去って行ったりするのも実に面白かったが、亮介がフラッドだけならずこのTHE KEBABSでも
「まだまだやりたいことがたくさんある」
と言っていた通りに、やりたい音楽やアイデアがまだまだたくさんあるんだろうし、それがより一層THE KEBABSの放つ「楽しい」という空気に繋がっている。
その「楽しい」を何も考えずに享受するのは実は難しかったりする。フラッドがリリースをしたりすれば「この時代にフラッドがロックンロールバンドであり続ける意味」だとか「こんなに素晴らしいバンドなんだからもっと評価されて欲しい」とか考えてしまうし、それは独自の活動方針を貫いているユニゾンがリリースやツアーを行うたびに「今のシーンにおいてユニゾンのこの活動にはこういう意味と意思があって…」と考えてしまうのもそうである。
でもそんなメンバーが集まっているにもかかわらず、THE KEBABSはそんなことを全く考えさせない。なんなら大阪や名古屋がチケットが売れなかったことすら笑い話として受け取ることができる(最終的にはそれなりに入っていたらしいが)のだが、その何も考えずにただひたすら「楽しい」と感じさせてくれるというのは実に難しい。(歴が長くなればなるほど)
その難しいことをいたって自然体でやりながらも、音楽として素晴らしい曲を、カッコいいロックバンドとして生み出して鳴らしている。フラッドもユニゾンもどちらのファンにも「THE KEBABSよりこっちやって」と言われないくらいにそれぞれの活動ペースが一切落ちることなくこうしてTHE KEBABSも活動している。そうしてTHE KEBABS自体が活動を続けたことによって、音楽そのものもライブも進化していることを証明しただけに、すでに決まっているツアーも含めて来年以降もTHE KEBABSの音楽とライブで楽しいと感じられる日は続いていくどころか、さらに増える可能性すら感じている。そう感じられたのが、めちゃくちゃ嬉しい。歌詞とか出てきちゃうくらいに。
1.食事
2.枕を変えたら眠れない
3.ロバート・デ・ニーロ
4.オーロラソース
5.ピアノのある部屋で
6.テストソング
7.やさしくされたい
8.チェンソーだ!
9.ジャンケンはグー
10.ホラー映画を見よう
11.サマバケ
12.うれしいきもち
13.ラビュラ
14.急に来る
15.恐竜あらわる
16.てんとう虫の夏
17.お願いヘルプミー
18.猿でもできる
19.夢がいっぱい
第二部
20.おかしのはなし
21.THE KEBABSは忙しい
22.まばゆい part 2
23.ガソリン
24.ジャキジャキハート
25.THE KEBABSのテーマ
文 ソノダマン