このZepp Tokyoに初めて立ったのを観たのはまだバンド名が[Champagne]だった時だった。基本的にツアーをやる際もライブハウスから始まって、後半はアリーナ規模へという形で活動してきたバンドであるだけに、今でもZepp Tokyoで見れる機会がたくさんあった。
そんな[Alexandros]にとっての最後のZepp Tokyoでのライブは恒例の「年末パーティー」。これはバンドが持つ年末の曲にかけたタイトルでもあるのだが、今年は最後のZepp Tokyoでの2days開催で、この日は初日。
もう何百回歩いたわからない、東京テレポート駅からのZepp Tokyoへの道。その駅前の景色もこの数年でだいぶ変わった。トヨタのショールーム、観覧車、ファーストキッチン…。この会場の周りにある全てが愛おしく感じられる。
検温と消毒を終えてZepp Tokyoの中に入ると、ステージには椅子が置かれて、楽器の後ろにはクリスマスに合わせたと言ってもいいような雰囲気の白い幕がかかっている。この日はサブタイトルに「1部・2部制」と書いてある通りに、普段のライブとは違うものになるということがステージを見るだけでわかる。
18時を少し過ぎたあたりで諸注意を含めた前説が入り、場内が暗転するといつもと全く違う厳かなSEが流れてメンバーが登場。メンバーもどこかフォーマルなようにも見える出で立ちであるし、マイクの前に置かれた椅子に座ると川上洋平(ボーカル&ギター)はアコギを、磯部寛之がウッドベースを手にするのだが、金髪の白井眞輝(ギター)は座っていてもエレキを手にしているというのはいつもと変わらないところだ。リアドのドラムセットもそのメンバーの楽器と、これから演奏するであろうサウンドに合わせたシンプルなものになっている。
すると川上が椅子に座ったままで歌い始めたのはこの時期にピッタリな「SNOW SOUND」なのだが、てっきりこの編成、この形であるだけにもっとアコースティック的なサウンドになるのかと思いきや、そこはさすが[Alexandros]。この編成でもロックさを強く感じさせるものになっている。もういろんな場所では雪が降っているとも聞くが、これから関東に雪が降るのならばこの曲のこの日のアレンジを思い出すだろうと思うくらいに、川上の澄み切ったハイトーンボイスもバンドの音も美しくZepp Tokyoの中を舞っている。
[Alexandros]はこれまでのライブでも自分たちに影響を与えてきた様々なアーティストのカバーをやってきたし、先日出演した音楽番組では懐かしのWINO「LOADED」を演奏していたのだが、この日は早くもここでジョン・レノンの「Happy Xmas (War Is Over)」という、ドロスのカバー曲にしては年代が古い曲であるが、聞くだけでとんでもない年末感と年明け感に襲われる選曲。川上のボーカルは原曲を知らない人が聴いたらドロスの新曲として聞こえるんじゃないかと思うくらいに原曲のジョン・レノンのボーカルを塗り替えるが、メンバーの「War Is Over」のコーラスを聴いていると、早くもライブがクライマックスに向かっていっているような気分にもなる。それくらいの力を持った名曲である。
で、メンバーが座っているので観客も全員椅子に座った状態なのだが、リアドによるイントロのビートが全くロックさを失わない形で鳴らされ始めた段階で、「いやいや、この曲座って聴くの!?」と誰もが思っていたんじゃないかと思われるのが「Waitress, Waitress!」であり、確かにギターによるサウンドのオシャレさは増してはいるものの、最後のサビ前などは座っているどころか跳び上がりたい感すらあった。メンバーの誰かが立ち上がっていたら、観客も一斉に立ち上がっていたんじゃないかと思うくらいに。
そんなロックさは失わないだけに、アコースティックでもないし、この形態は何と呼べばいいスタイルなんだろうかとも思いながらも、「アルペジオ」を聴くとやはりサウンドの引いた部分があることによって、そのメロディが強く引き出されている。
すると川上は挨拶がてらに口を開き、
「2021年はいろんなことがありましたね。ドラムが変わったりしましたけど、1番のニュースは間違いなく我らが川上洋平がドラマに出たことですね(笑)」
と自分で言うんかいと誰もが心の中でツッコミを入れると、その川上が出演したドラマの主題歌であり、ドロス自身が提供した家入レオ「空と青」のカバーを演奏するのだが、そもそもバンドですでにデモまで作っていたくらいに完成していたらしく、提供したものとは歌詞も少し違うというドロスバージョンでの演奏…かと思いきや、ワンコーラスだけの歌唱であり、ROSEの美しいピアノのメロディから始まると、いつの間にかステージ下手にいたヴァイオリンという編成に川上のボーカルが載るという、川上のソロ的なバージョンに。白井はずっとギターを持ったままで座っていたが、磯部はいったんステージから捌けていた。それにしても、テレビから流れてきた家入レオ歌唱バージョンを初めて聴いた時も思ったことだが、こうして川上が歌うのが1番似合っていると言っても良さそうなくらいにドロス節の、川上洋平節のメロディでしかない。音源でもセルフカバーしてくれないだろうか。
その「空と青」でいつの間にか登場していたヴァイオリンはこれまでにもZOZOマリンスタジアムやかつての武道館などの記念碑的なドロスのライブに参加してきては美しいハーモニーを奏でてきた、ストリングス隊の村田一族の村田泰子。その周りにも村田一族が集まってカルテット編成になると磯部もステージに戻ってきて、ドロス屈指の名曲のメロディの美しさがストリングスによってさらに極まる、実に久しぶりの「Underconstruction」へ。この曲がこうして新たな形で聴けるというだけでもこうしてこの日このライブに来た価値があったんじゃないかと思えるくらいだ。
さらにそのストリングスカルテットを加えた編成で演奏されることによって、より壮大に、かつドラマチックになった「Oblivion」、原曲のデジタルサウンドがストリングスによる美しいメロディへと変換される「明日、また」と、この2日間だけやるにはあまりにも素晴らしすぎるので、これは映像化はもちろんこのバージョンで音源化もして欲しいとすら思う。
それこそドロスは小林武史と組んだこともあるだけにストリングスの使い方、取り入れ方も自分たちなりに学んでいると思うけれど、ともするとストリングスが入ることによってよくあるJ-POPバラード的なものになってしまいそうなものなのに全くそうはならないのは、やはりこの編成であってもドロスのロックバンドさが軸にあって、それこそが主役であるからである。それにしたってこんなにもストリングスのサウンドと相性が良いバンド、曲たちだとは思わなかった。かつて村田一族と一緒にやった「NEW WALL」などは実にわかりやすい選曲であるが、そうではない曲ばかりがこうして新しく生まれ変わっている。
そんな村田一族とはすでに長い付き合いということで、厳かな面も知っているという川上は
「村田一族の獰猛な、猛獣みたいな部分を皆さんにも見てもらいたい」
と言ってこの編成で演奏するのがあまりにも意外な「Beast」を白井がギターをほとんど弾かずにストリングスのサウンドがそこを担うという形になるのだが、座ったまま
「Say Hi」
というサビに入る直前のコーラスフレーズだけ歌う白井の姿はどこかシュールであるし、何よりも川上はいよいよ我慢出来なくなったのか、立ち上がって磯部の横に行って肩を組んだりしながら歌うというハンドマイクでの歌唱に。それによってストリングスも含めたステージ全体のサウンドと演奏する姿が文字通りに獰猛なものになっているし、実にドロスのライブらしくなってきている。
そんな形での第一部のライブももう終わりが近づいているのだが、そうしたことを告げても観客が「え〜」という声を出すことができないためにリアクションがわからないという現状ならではのやりにくさを口にしつつ、
磯部「でもここで拍手したら早く終わって嬉しいみたいになるもんね。SNSでリアクションを示すのが「いいね」しかないみたいに」
という磯部の絶妙な例えすらも煽らないと拍手が起きない。
そうした1部の締めはイントロのコーラスパートをストリングスが担うという、「月光」と言えるような形に進化した「ムーンソング」から、さらに最後にはイントロの象徴的なギターフレーズを白井のギターだけでなくストリングスも演奏するというど迫力アレンジと化した一大アンセム「ワタリドリ」まで演奏するのだが、2サビで明らかに川上が歌詞を間違えて磯部のコーラスと合わずに2人が顔を見合わせて笑い合うという微笑ましさもありつつ、単なるアコースティックや座ったまま見るような厳かさだけではなく、ロックバンドのライブとしての熱量や獰猛さが強く感じられる第一部だった。なんらかの特別な時にはまたこういう形のライブを観たいというか、なんなら定期的にやって欲しいくらいの素晴らしさはさすが[Alexandros]と言わざるを得ない。
メンバーがステージから去っても村田一族カルテットはそのままステージに残っていたので、どういうことだろうと思っていたらそのカルテットが「かえりみち」のストリングスバージョンをSEとして演奏する。それはステージ上の転換中に観客を退屈させないようにというものだろうけれど、それを[Alexandros]の曲でやってくれるというのが実に嬉しいなと思っていたら、その「かえりみち」はステージ上が通常のドロスのライブのものに変わっていくとまさかの「Burger Queen」へと変わっていき、観客の手拍子がより第二部への期待を高まらせる。
こうした演奏をしてくれる、[Alexandros]というバンドの存在とその音楽を愛してくれている村田一族ももうバンドの一員と言ってもいいかもしれないと思うような幸福さを感じさせてくれる転換時間だった。
その「Burger Queen」がストリングスのものではなくて通常のライブのSEとして流れると、1部で着ていたジャケットを脱いでTシャツだけという川上をはじめとしたメンバーがステージに登場してそのまま「Burger Queen」の演奏を始めるのだが、そのサウンドは明らかに爆音のロックサウンドを思いっきり鳴らせるという、初めてバンドを組んで音を合わせた少年たちであるかのような嬉しさを感じさせるものになっている。ステージ背面には今回のグッズのデザインにも起用されている「Dros」の文字のフラッグが張られており、もちろん観客も全員立ち上がっている。
そのまま「city」へと繋がると、バンド側も観客側も「ああ、やっぱりこれだ!」という感覚に満たされていくのがよくわかる。ストリングスを入れるアレンジも座っての演奏も良いけれど、[Alexandros]のライブはやっぱりこれなんだということがその音や鳴らしているメンバーの姿から強く感じられる。なんならバンド側もさっきまで座って演奏していて疼いたものを爆発させるかのように、1部を経てのこの2部だからこそより爆音で激しいパフォーマンスになっている感すらある。
川上がギターを手にしながら何度も
「Are you ready rocknroll?」
と観客に問いかけ、観客から拍手が起こると、その言葉に合わせるかのように演奏されたのは実に久しぶりの「Rocknrolla!」。リアド加入後に演奏されるのは初めてなんじゃないかと思うけれど、かつて何度となく聴いてきたこの曲と何ら違和感を感じることはない。サトヤスのドラムに合わせすぎることもないだろうけれど、リアドがドロスのドラマーになってくれているというのが実によくわかるし、川上はギターを持ったままジャンプしたりと、やはり感情を全解放するような爆裂しまくりのパフォーマンスで音を鳴らしている。
デジタルなサウンドがイントロとして流れる「Girl A」でもやはり川上はイントロでギターを抱えて大きくジャンプするのだが、1部を経ての2部となるとこんなにもバンドが爆裂するというのは新たな発見である。それこそ前回のアリーナツアーでも序盤はスタイリッシュに始まり、徐々に熱量を上げていくという流れで、川上は序盤はメガネをかけたりもしていたが、今回は冒頭からTシャツというのがそれを象徴している。[Alexandros]のロックバンドとしての獰猛さをすでに極限にまで曝け出しているというのは間奏で白井がステージ前に出てきてギターを弾いたり、アウトロで磯部も頭を振りまくるバトル的な演奏をバンドが繰り広げている姿からもわかる。2部はもう完全にペース配分というものを考えていないのがよくわかる。
するとここで川上がギターを置き、前回のアリーナツアーでも参加してくれていた、ROSEのバンドメイトであるMULLON(THE LED SNAIL)がステージに登場するのだが、メンバーが全員Tシャツ姿であるところにジャケットを着て登場してきたことによって、
磯部「フォーマルな格好で来てねって言われたパーティーに来たら周りがみんなTシャツになってるみたいな(笑)」
といじられるのだが、MULLONが出てきたということはこの中盤で早くもあの曲か…というこちらの予想を心地よく裏切るように、川上がハンドマイクでMULLONがサポートギターという編成で「Kill Me If You Can」が演奏される。
時には特にドラムなどのリズムにライブアレンジが施されることも多かったこの曲も、この編成で演奏されるということもあってか実にストレートなアレンジで演奏されていたし、この日の凄まじく獰猛なバンドのサウンドとパフォーマンスが「殺れるもんなら殺ってみろ」というこの曲のメッセージをさらに強力に感じさせるものになっている。MULLONのギターも全く違和感を感じさせないのは、彼自身もドロスの音楽とバンドの存在に全身全霊をかけて向き合ってくれたということだろう。
白井がギターをフライングVに取り替えたので、これは曲間にすぐにイントロの同期の音が流れて「Kick & Spin」が始まるのかと思いきや、その音が流れずに川上がそのトラブルすらも楽しむかのように英語でまくしたてまくり、磯部も英語で川上と会話しながら再び気合いを入れるようにすると無事にイントロが流れ、今度は白井が「アーッ!」と叫びながらジャンプして「Kick & Spin」が演奏され、
「笑われたなら笑い返せばいい」
というフレーズがそんなトラブルをバンドの音とパフォーマンスのみで倍返しにするかのように響く。間奏ではフライングVを弾きまくる白井の元に、いつのまにかともにフライングVに持ち替えた磯部とMULLONも集まって、ハードロックバンドのスタジアムライブかと思うくらいのサウンドで爆音を鳴らしまくる。川上がその横で頭を振りまくっているのもそのサウンドの凄まじさを証明していると言っていいだろう。
そんなひたすらに獰猛なロックサウンドの曲が続いてきた中で最も意外だったと思ったのは「Kaiju」であるが、川上がラップのようにまくしたてまくるボーカルはまさにタイトルの怪獣がこのバンドそのものであるかのようにバンドサウンドの獰猛さをより強く引き上げるものになっている。
すでに汗が目にできる川上は飛び跳ねまくりながら歌うのだが、コーラスフレーズではメンバーだけでなく客席にも「心で歌ってくれ!」とばかりにマイクを向ける。それはそうしても声を出すことはしないはずだという自分たちのファンへの絶対的な信頼あってこそであるし、ステージ上でやることは今までと変わらないということの意思表示でもあるだろう。
するとライトを当てられたMULLONがブルージーなギターを弾き始め、そこに白井のギターか重なってハーモニーを形成していくと、それがMULLONが加わるきっかけになったであろう「閃光」のイントロへと繋がり、リアドの激しいドラムの連打からバンドサウンドとなっていく。
やはりこの曲が今年リリースされたのは本当に大きかった。それはバンドの状況的にもそうだし、こうしたライブにおける新しいアンセムを手に入れることができたというのもそうであるが、この我々の意識や精神をキツい状況であっても引っ張り上げてくれる、一筋であっても光の方へ向かう力をくれる。そんなファンにとっても本当に大きな曲だ。メンバーはその「閃光」の観客に歌ってもらうために作ったとすら言えるコーラスパートを歌ってもらうことができないことを申し訳なく思っていたようだったが、それはバンドには1%たりとも責任はないし、そのいつかこの曲をライブで歌うというのが我々にとっての目標であり希望になる。来年には我々はこの曲を思いっきり歌うことができているだろうか。
その「閃光」を終えてMULLONがステージから捌けてメンバーが喋ろうとすると客席から起きた拍手がどんどん大きく、そして長くなっていく。それはこんなに素晴らしいライブを見せてくれているバンドへの我々が唯一できる意思表示だったのだが、その拍手をもらったメンバーも嬉しそうな、少し照れ臭そうな表情をしていたということはその我々の気持ちは間違いなく伝わっていたはずだ。
すると川上は1部で今年を振り返ったことについてまた触れながら、
「さっきのは冗談だけど、ドラムが変わって不安にさせたりもしたと思う。でもそれは音で、こうしてライブをやって返していくしかない」
と言った。ああ、もう前回のアリーナツアーでも充分返せているのに。でもその言葉があるからこそバンドはまだまだ先を目指せるのだし、その後に川上がギターを弾きながら演奏された「Starrrrrrr」の
「彷徨って途方に暮れたって
また明日には新しい方角へ」
というフレーズと重なって、それがそのままこのバンドの強さとして鳴らされているからこそ、その姿を見ていて涙が出てきてしまう。
その「Starrrrrrr」のアウトロで打つキメの音階が少しずつ上がっていってイントロに繋がるという形で演奏されたのは「風になって」。この流れで演奏されたからこそ、数は少なくなった中でもフェスやイベント、さらにはこうしたワンマンでもクライマックスとして演奏を重ねてきたからこそ、ちゃんとそこに見合う曲としての力を手に入れているのがよくわかる。去年はほとんどライブが出来なかったから鳴らされる頻度もそうは多くはなかった曲だけれど、今年こうして演奏されてきたことによって間違いなく大きく化けた曲だからこそ、
「あと少しで自分に戻れそうなんだ」
「現在会ったら胸張れるかな」
というフレーズが強くなったバンドのものとして響くのだ。
すると川上が再びギターを置いて、
「久しぶりにやる曲をやります。何故か最近やる機会がなくてやってなかった」
と言って歌い始めたのは、確かにアリーナツアーでは演奏していなかった「Adventure」。メンバーがコーラスパートを観客の代わりに大きな声で全員で歌う中、川上は上手から下手までを軽やかに踊るようにして練り歩き、
「亜麻色に染まった東京は」
と歌詞を変えて歌う。
「アリトアラユル問題も
タビカサナルそんな困難も
いつだって僕達は
頭の中身を歌ってんだ」
という歌詞通りにバンドにとっても我々にとっても問題も困難もたくさんあった2021年だったが、そんな1年をもこのバンドは
「大胆な作戦で
言葉にならないマスタープランで
いつだって僕達は
君を連れて行くんだ」
という通りに止まることなくこうして年末に最後のZepp Tokyoまで連れてきてくれた。もう、本当に貰いすぎというくらいに貰っている。こうしてこの日この場所でこのライブが見れたことが本当に幸せなことだったから。
アンコールではすでに川上本人が出演しているCMで流れている曲を、
「まだ全部完成してないんですけど、そんな新曲をアンコールの1曲目でやっちゃいます!」
という「日々、織々」を演奏するのだが、「え!?こういうアレンジになるの!?」というくらいに洗練されたというような、これまでの曲で言うなら「あまりにも素敵な夜だから」や「Aoyama」を彷彿とさせるサウンドになっていて驚いてしまった。まだ完成していないだけにこれからまだ変わる可能性もあるけれども、CMを見て「あの曲聞いてみようかな」と思った人がこのアレンジを聴いたら「全然違う曲だった」ってなる可能性すら孕んでいるくらいに。
そんな新曲のアレンジに驚いていると、ステージには再び村田一族カルテットとMULLONが再びステージに登場し、川上は
「この曲は3rdアルバムに入ってるのかな?当時はまだ4人で共同生活をしていて。当時、年末になると1日に3本とか4本とかサーキットイベントとかフェスに出たりして。それが全部終わるとみんなでコンビニのおでん買ってきて「お疲れ!」って言って食べるみたいな。そんな頃を思い出しますね」
と、まだ若手バンドだった時代のことを回想するのだが、磯部はセブンイレブンのおでんが美味しくて好きというプチ情報をファンに与えてくれる。
そうして総勢10人というこの日のオールスターで演奏されたのはもちろんこのライブのテーマと言えるような曲である「12/26以降の年末ソング」。川上はアコギ、白井はスライドバーを装着してギターをスライドさせ、MULLONは通常のエレキと、ギタリスト3人は役割をそれぞれに持ちながら、ストリングも加わったサウンドといつの間にかライブロゴに変わってステージ背面に出現していたスクリーンには東京の街で働く人の姿やその姿を模したフィギュアなどの映像がより年の瀬感を感じさせる。
「あと少しで今年も終わるけど
ああ何か 忘れてないか」
というフレーズを聴いては、今年見たこのバンドのライブも忘れていないと思いながら、
「愛想笑いで頑張った自分を
少し褒めてあげよう」
と歌われるくらいに、自分は褒められるような1年を送れただろうか。こんな状況の世の中になっても、生き方を変えなかったっていうことくらいは褒めていいのかもしれないし、バンドもそれを褒めてくれるかはわからないけれど、肯定はしてくれるような。何よりもこのライブでこの曲を聴けたことがやっぱり最高に嬉しかった。普段はまず聴けない曲だから。
そうした年末感はこの曲で出し切ると、村田一族とMULLONはステージを去り、ROSEも去ろうとするのを川上が止めて、UKPラジオにROSEが出演していることを紹介しながら、
「ラブソングをやります!」
と言って、やはりイントロのコーラスはメンバーが観客の代わりに思いっきり歌う、とびっきりロックなラブソング「Dracula La」を演奏するのだが、磯部は観客が歌えないのをわかっていても、これまでと同じように、いや、心の声を拾うように、そして自分が観客に1番近い位置で歌えるようにマイクスタンドをステージ最前に置いてコーラスを歌う。やっぱりこのバンドのライブがしっとりと終わっていくのは似合わない。こうでなくちゃな、と思っていたら、さらに最後にアリーナツアーで新曲として演奏された「Rock The World」が演奏される。
新曲にもかかわらずスクリーンには歌詞が映し出されていたということは、この曲はすでに完成形と言っていいのだろうけれど、「閃光」がただでさえ新たなバンドのアンセムになった後に出るこの曲もまた完全にバンドの新しいアンセムになることが確定しているような、ロックで悲しい世界を塗り替えようとする意思を持った曲だ。
ロッキンオンジャパンのインタビューで、夏のロッキンが中止を発表した日、前編集長にしてドロスのインタビュー担当の小柳大輔が落ち込んでいた時に川上からこの曲が送られてきて救われたという。ドロスは、川上はそうして人の気持ちがわかるバンドであり人間だ。だし、コロナ禍の中でバンドが作ったのは「Bedroom Joule」のような作品もあるけれど、この曲でもあった。他のアーティストがコロナ禍で制作した音楽は内省的なものも多いけれど、ドロスがこの曲を作ったということがドロスがどんなバンドであるかというのを象徴している。世界が悲しくなるほどなるほどに、きっとこの曲はより強く響くようになる。逃避するための音楽じゃなくて、戦い続けていくためのロック。それが今1番必要な音楽だと心から思っている。
演奏が終わってメンバーがステージから去ると、スクリーンにはこの曲が2月に「日々、織々」との両A面シングルとしてリリースされることが発表された。きっとその時にはこのバンドはまたさらに1段階上のステージに行く。最後に1番記憶に強く残ったのは、Zepp Tokyoで最後に聴いた曲となった新曲だった。
川上は2007年にこのZepp Tokyoで磯部と一緒にPrimal Scream(後にバンドは「Accelerator」をカバーし、フェスで同じ日に出演した時に本家からこの曲を捧げられた)のライブを見て、初めてモッシュやダイブの洗礼を受けたという。だからこそ最後には
「ありがとう、Zepp Tokyo!」
と、思い入れのあるこの場所への別れの言葉も口にして、白井もグッドバイ的なポーズを取っていた。
自分自身、まだ自分にとってのロックというものを全くわかっていなかった20年前に初めて来たライブハウスがここだった。それから何百回来て、何百組のライブを見てきただろうか。場所がなくなってしまってもその記憶は渋谷AXや赤坂BLITZのようにずっと自分の脳内に残り続けていく。そんな大好きだった場所の最後の記憶が大好きな[Alexandros]のライブで本当に良かった。この日のことを忘れようとしても、Zepp Tokyoで最後に見たライブとして絶対に忘れることはできないから。
1部
1.SNOW SOUND
2.Happy Xmas (War Is Over)
3.Waitress, Waitress!
4.アルペジオ
5.空と青
6.Underconstruction
7.Oblivion
8.明日、また
9.Beast
10.ムーンソング
11.ワタリドリ
SE.かえりみち
SE.Burger Queen
2部
1.Burger Queen
2.city
3.Rocknrolla!
4.Girl A
5.Kill Me If You Can
6.Kick & Spin
7.Kaiju
8.閃光
9.Starrrrrrr
10.風になって
11.Adventure
encore
12.日々、織々
13.12/26以降の年末ソング
14.Dracula La
15.Rock The World
文 ソノダマン