11月から始まったa flood of circleの15周年ツアーもいよいよ終わりの時が近づいている。この日の長野LIVE HOUSE Jはツアーセミファイナルで、この日を終えると後はファイナルのZepp DiverCityワンマンを残すのみ。このツアーの千葉と水戸の2本を見て、これは1本でも多くこのツアーは見ておかないといけないと思い立ち、2年前にもフラッドのツアーで訪れたこのライブハウスJにコロナ禍を経てようやく帰還。
Jは長野駅のすぐ目の前にある商業施設の地下の居酒屋などの飲食店の並びにあるライブハウスで、駅からめちゃくちゃアクセスが良いのだが、そんな場所ですら駅から歩いて数分で服に積もるくらいに雪が降っているというのはまだ今年の冬になってから雪を見ていない関東民としては少し衝撃であり、寒さのレベルも違う。
そんな寒さに震えながら検温と消毒を経てJの中に入ると、ソールドアウトしている場内は足元に目印が描かれたスタンディング制であるためにかなり人が入っているように見える。それでもこのキャパにしてはステージが見やすいライブハウスであるし、ドリンクチケットでアルコールが飲めるというのも嬉しいところだ。
18時を過ぎるとおなじみのSEが流れて、拍手に包まれながらメンバーがステージに登場。先週はTHE KEBABSでのライブを見ている佐々木亮介(ボーカル&ギター)はこの日は赤の革ジャンであり、青木テツ(ギター)もそれに合わせたかのような赤いシャツ。HISAYO(ベース)はいつも通りの黒の衣装だが、惜しむらくは見やすいステージではあるけれど、渡邊一丘(ドラム)が亮介の真後ろであるだけにほとんど見えないところだ。
「おはようございます。a flood of circleです」
と亮介が挨拶すると、その直後にテツのギターがイントロを鳴らすのはフラッドの始まりの曲と言っていい「ブラックバード」というのはこのツアーでおなじみのスタートなのだが、そのテツのギターの音がツアー序盤の千葉や水戸よりもはるかに滑らかに感じられる。それは毎回このツアーでこの曲を演奏してきたことによって、それまではあまり演奏していなかったこの曲が体の中に染み込んでいるということだろう。
フラッドのカッコいい部分全部乗せとでもいうような、THE KEBABSでは相方という立ち位置であるUNISON SQUARE GARDENの田淵智也がプロデュースを手がけた「ミッドナイト・クローラー」でバンドのサウンドが一気に疾走するというのもこのツアーではおなじみとなっているが、ここまでに経てきたものによってか、あるいは亮介が大好きなこの長野のライブハウスへの気持ちをメンバー全員が共有しているのか、テンションが非常に高く感じるというのはHISAYOの手拍子にもそれを感じる「Dancing Zombiez」も同様で、テツは観客を煽るように、観客に自身のギタープレイを見せつけるようにギターを弾きまくると、間奏では亮介とともにステージ前まで出てきて弾く。その姿から最もわかりやすくこのライブへの衝動を感じさせるのはこのテツであろう。
それはそのまま
「歌ってくれ ロックンロールバンド 今日が最後かも知れない
聴かせてくれ ロックンロールバンド だから今日を生きていく」
というフレーズとそれを鳴らす音、さらには「泥水のメロディー」のそれからも感じられるものであるのだが、ツアー序盤ですでに「最高過ぎるな」と思わざるを得なかったバンドのグルーヴ、ライブの出来そのものが、ツアーを回ってきたことによってやはりさらに向上している。フラッドってやっぱり凄いバンドだよな、最高にカッコいいバンドだよなと思うし、テツが客席を指差したりして煽る姿やHISAYOの笑顔を見ているとより強くそう思えるのだ。
それはR&Bやヒップホップという、非バンド形態の音楽が世界中のスタンダードになりつつある中で、なぜフラッドがロックバンドを続けていて、普段関東などの長野県以外に住んでいる人たちがここまでライブを観に来ているのかという理由そのものにも繋がる。
それはあらゆる形態がある中でもロックバンドが1番カッコいいものであるということをバンドも観客も心から信じているからだ。その両者の魂のぶつかり合いがそのまま心の交歓となっている。
「15周年」「ベストセット」ということで、バンドの歴史にとって重要な曲が演奏されるツアーであるということはツアー序盤に参加した段階でわかっていたことだが、かつてリリース時に間違いなくバンドを飛躍させる曲になると思っていた「Human License」も当時よりもはるかに血肉化されたグルーヴで演奏されている。観客がその情熱的かつ強力なサウンドに合わせて飛び跳ねまくることによって、雪が降っているくらいに寒い長野でのライブとは思えないくらいに熱くなっている。なんなら汗をかくくらいに。
亮介がハンドマイクとなってステージと客席の間にある柵に足をかけたりして歌うのは「Sweet Home Battle Field」であるが、このコロナ禍じゃなかったら亮介が客席に突入して観客の上で歌う曲シリーズもこのツアー内で変化している。「I’M ALIVE」というReiがフラッドに書いてくれた最新の亮介ハンドマイク曲が演奏されることも多くなっているが、その曲とこうしたこれまでに数多く演奏されてきた曲が入れ替わるように演奏されることもまたフラッドの歴史を感じさせる要素の一つである。
すると一転して再びギターを手にした亮介の弾き語り的な歌い出しで始まったのは、フラッドがこれまでに何度もモチーフにしてきた「月」に思いを託した、亮介のロマンチックさが炸裂したバラード「月面のプール」。
自分はフラッドはただ衝動を炸裂させるロックンロールバンドではなく、亮介のルーツにあるスピッツ譲りの美しいメロディを持つバンドであると思っている。それを最も感じさせてくれるのがこうしたバラード曲であるし、そうした曲もまたフラッドの歴史の中のベストに入るべきものであると思っている。なんならこの曲がなんらかの有名映画のテーマソングになっていてもおかしくないくらいに素晴らしい曲だと思っている。
そうして少ししんみりした空気をかき消すかのように亮介が
「マジで足元の悪い中でお集まりいただきありがとうございます(笑)」
とお約束の挨拶をすると、
「こんな天気の中でライブやってて、それを観にきてるなんて普通じゃないでしょ(笑)
つまり今日は間違いなく特別な日になるってことだから」
と集まった観客を喜ばせる言葉を口にすると、
「このJでDJイベントをやってるワダさんっていう人がいて。俺も呼んでもらってそのイベントに出たことがあるんだけど、DJイベントって最高だよね。ずっと音楽が鳴ってるんだから。
そのワダさんがいつもかっぱ寿司のサラダ軍艦巻きを差し入れしてくれて(笑)長野の人は海がないからわからないだろうけど(笑)、普通は寿司ってネギトロとかが主役なのに、完全にサラダ軍艦巻きが主役になってるっていうおかしい差し入れをしてくるっていう(笑)
でもそれってめちゃくちゃロックだなって思ってる。大多数だとか関係ねぇ。好きだから来てんだ!」
と、以前このライブハウスで見た時と同様にJへの強い愛を口にする。自分は長野県民ではないけれど、長野が地元の人からしたら自分の好きなバンドがこんなにも自分たちの地元を好きだと言ってくれるのは本当に嬉しいだろうと思うし、そうした言葉がよりここに遊びに来る、この場所を好きになるきっかけになるんじゃないかとも思う。
その
「大多数だとか関係ねぇ。好きだから来てんだ!」
という言葉をそのまま歌っているかのような
「ダーリン 君からしたらこんなのってバカみたいかい
ダーリン 笑いながらも涙はこぼれるんだよ どうしても
ダーリン 君が笑ってくれるくらいバカでいたいんだ
ダーリン 転びながらも物語は続く」
という「理由なき反抗 (The Rebel Age)」の歌詞がいつも以上に強く胸に響くし、自分もずっとこの曲のような精神を持ち続けていたいと思う。そう思えるくらいに、最後に右腕をグルグルと回すようにギターを弾く亮介の姿も含めたフラッドというバンドがあまりにもカッコいいから。
そのフラッドが歌うことで
「生まれ変わるのさ
今日ここで変わるのさ
君を連れてく 約束の地へ
さあ 行こう New Tribe」
という歌詞が我々も一緒にもっと凄いフラッドの姿を見れる場所まで連れて行ってくれるという予感に満ちた「New Tribe」では最後のサビで亮介がテツのマイクに寄って行って、一つのマイクで2人で歌う。その姿は見た目こそ微妙に違う兄弟のようである。
そんな弟のように見えるテツが手がけた「Lucky Lucky」は千葉と水戸では演奏されていなかったのでこのツアーで聴くのは初めてになるのだが、テツがメインボーカルを務めるパートでは観客の腕が上がるという光景は、この曲を作り、MVでも主演を務めたテツにとっては実に嬉しいことだろうし、フラッドの15周年において亮介以外のメンバーが作った曲がリード曲になったという意味ではエポックメイキングな、ベストという名のツアーで演奏されるにふさわしい曲だ。
テツの後にはHISAYOの重いベースが赤い照明の中で力強く響く「Blood Red Shoes」へ。すでにアルコールを摂取しているけれど、亮介の声もこの後半にきても実に伸びやかだ。
そのHISAYOのベースの後には渡邊の真っ直ぐさを曲にした「Boy」が演奏されたのだが、この曲を名曲たらしめている壮大なイントロが演奏された時点で、自分のすぐ近くにいた女性が涙を流していた。
彼女はこの曲をどんな人生の状況において聴いてきたのだろうか。決して有名と言えるようなバンドでもないし、ヒット曲というわけでもない。でもそんなバンドの曲にきっと人生の中で救われてきた瞬間が何度もあったはずだ。
「Oh Yeah Keep On Rolling Oh Yeah Keep On Rolling」
というこの曲のフレーズはバンドの生き様でもあり、それを見てきた人たちの生き様でもあるのだ。
そして昨年リリースのアルバム「2020」収録の「Beast Mode」が完全にライブのクライマックスを担う曲になっていることに昨年から今にかけてのフラッドの絶好調さが窺えるのだが、やはり初めてライブで新曲としてこの曲を演奏した時にコーラスパートを観客の合唱の録音にしたということを思い出してしまう。つまりは我々はあの時はこの曲を一緒に歌うことができていた。それがすごく昔のことのような気持ちにもなる。
それはかつては観客の大合唱を巻き起こしていた「シーガル」もそうであるが、やはり合唱がないことは寂しいけれど、フラッドというバンドのカッコ良さ、曲のカッコ良さは全く変わることはないし、こうしてライブで聴いていると胸が震えるような感覚になる。心が燃え上がりながらも感動しているのだ。その感覚が誰しもにやってくる明日へと立ち向かっていく力になる。現実逃避ではなく、そうした日々を生きるためのロックンロールをフラッドは鳴らしている。
そんな「シーガル」で終わるのではなく、最後に演奏されたのは亮介がその場で腿上げをするようにギターを弾き、間奏ではテツとHISAYOを誘うようにマイクの前に出てきて3人が並んで演奏した「ベストライド」なのであるが、コロナ禍になる前はやはり観客が大合唱していたリズムだけになるサビ部分で亮介はマイクから離れた。亮介は決して「心で歌って!」ということを口にするタイプのボーカリストではないが、この瞬間は確かに観客にボーカルを預けていた。それくらいに客席の熱気が伝わっていたのだろうし、このフレーズをみんなで歌える日が確実に近づいているような、そんな感覚を覚えた。コロナ禍の中であってもやはりフラッドは記録を塗り替えていたのだ。
アンコールで再びメンバーが登場すると、
「来週、Zepp DiverCityでツアーファイナルがあるんだけど、やっぱりお台場とか新木場ってライブやれるのは嬉しいんだけど、誰かが金儲けするために作った埋め立て地で。長野Jも金は欲しいだろうけど、そんなに考えてないっていうか。俺も金はもちろん欲しいけど、適度なくらいでいい。そういうことを感じられるから長野Jが大好き」
とやはりこの会場への愛を語ると、
「そういう金儲けを考えないでやるってギフトみたいなもんじゃん?」
と繋いでみせ、この日はSIX LOUNGEからのギフトである「LADY LUCK」を演奏。このアンコールで「GIFT ROCKS」の曲を演奏するというのもこのツアーでの定番だろうか。千葉ではユニゾン田淵、水戸ではピロウズだったが、ファイナルでは果たして誰からのギフトを演奏するのだろうか。
翌週はツアーファイナルであるとともに、早くも放たれるニューアルバム「伝説の夜を君と」の発売週でもある。亮介は
「このツアーではその曲はやらない」
と言っていたが、
「やっぱり新曲やっちゃおうか!」
と言うと、メンバー全員が少し慌てながらも笑顔になっていたあたりは本当に急遽決めたのかもしれないし、それもまた長野Jという亮介が大好きな場所への愛情表現だったのかもしれない。
そうして演奏された「北極星の夜」はすでに公開されているMVも大好評の、フラッドの美しいメロディとロックンロールバンドのカッコ良さの最新の融合体と言える曲だ。この日、こうしてこの曲をライブでいち早く聴けた観客はみんな、フラッドを好きでいて、こうしてこのライブに来れて本当に良かったと思っていたはずだ。それくらいにイントロが流れた瞬間に景色が変わる曲である。せめて今までより少しでも多くの人に届いて欲しいと思う。
そして最後に演奏された「GO」がやはり止まらずに転がり続けるロックンロールバンドとしての意思を示す。
「アンタのせいで
かわったよ 止まってなんかいられねえ
目を開けて見る夢をアンタが見せたんだ
どうしてくれんだよ」
というフレーズはバンドからの視点でもあるけれど、ファンからバンドへの視点でもある。フラッドがこうして止まらずに走り続けることで、我々は夢を見ることができているからだ。その夢をいつか現実のものにするために。まずはツアーファイナル、Zepp DiverCityのワンマンへ。間違いなくこの日も
「俺たちのベストはいつも今なんだよ」
を更新するものになっていたが、ファイナルはそれをさらに更新してくれる。そんな予感しかない。
バンド側からしたら観客がどこから来ているかなんてわからないし、地方のライブハウスにはその地方に住んでいる人に来て欲しいと思っていることだろう。それでも、すでにこのツアーを2本見ていても、本当に長野まで来て良かったなと思える。そんな存在はそうそういない。自分にとってのその最たるバンドが、a flood of circleである。
1.ブラックバード
2.ミッドナイト・クローラー
3.Dancing Zombiez
4.ロックンロールバンド
5.泥水のメロディー
6.Human License
7.Sweet Home Battle Field
8.月面のプール
9.I LOVE YOU
10.理由なき反抗 (The Rebel Age)
11.New Tribe
12.Lucky Lucky
13.Blood Red Shoes
14.Boy
15.Beast Mode
16.シーガル
17.ベストライド
encore
18.LADY LUCK
19.北極星の夜
20.GO
文 ソノダマン