昨年の12月から始まった、RADWIMPSのアリーナツアーは年が明けて中盤戦へ。横浜のぴあアリーナからスタートして、福岡を経てこの幕張メッセがツアー3箇所目という行程であるが、ぴあアリーナのライブも素晴らしかっただけにこうして幕張メッセでまた観れるというのが実に嬉しい。
ぴあアリーナ2日目のライブレポ。(http://rocknrollisnotdead.jp/blog-entry-973.html?sp)
会場はCDJでは使われなかった9〜11ホールであり、11ホールには物販の他にフォトブースなども設けられている中、9〜10ホールには椅子が敷き詰められているのだが、入る際にならないと座席がどこなのかわからないというのはRADWIMPSの近年のツアーのスタイルであり、チケットが出てくる時にドキドキする。ファミリー席という端のスタンド席もあるが、通常の席の座席数もかなりの数である。
開演時間の18時くらいになるとステージ脇から円陣を組んでいる声が聞こえてきて、それに反応した観客が一斉に立ち上がると、その後に場内が暗転して、ステージ背面のスクリーンに「RADWIMPS」の文字が浮かび上がり、サポートも含めた総勢6人のメンバーが登場。
ハットを被ってジャケットを着た野田洋次郎(ボーカル)がハンドマイクを持って歌い始めたのは煌びやかな照明がマスダミズキ(ギター)のシンセの音に呼応するように光る「TWILIGHT」というオープニングはぴあアリーナで見た時と同様というか、その時と全体的な流れは変わらないのでそこはぴあアリーナの時のレポを読んでいただくとして、変わった部分や目立つ部分に触れていきたいと思うのだけれど、続く洋次郎がギターを弾きながら歌う「桃源郷」はそもそもがロックバンドとしてのサウンドの曲であるが、「TWILIGHT」などの音源ではバンドサウンド感をあまり感じないような曲でもこうしてライブで聴くことによってバンド感を強く感じるというのは、武田祐介(ベース)はもちろん、マルチプレイヤーのマスダとは違ってギターに専念する(ギターのサウンド自体も2人で全く違う)TAIKING(Suchmos)、森瑞希(ドラム)、エノマサフミ(ドラム、パーカッション)という6人のバンドでのサウンドがわずか一ヶ月、4公演を経てきただけでもより強い一体感を獲得していることがよくわかるくらいに力強いからである。
ぴあアリーナの時と同様に、今この曲やるのか!とビックリしてしまう、マスダがキーボードとギターをスイッチしながら演奏するというマルチプレイヤーっぷりを発揮する「ドリーマーズハイ」では早くも銀テープがステージから客席に向かって発射され、洋次郎はステージから伸びる花道を歩きながら歌うというのはハンドマイクで歌う曲だからこそであり、花道を作れる大きな会場だからである。
洋次郎が今年初のライブであることを挨拶とともに告げると、昨年リリースの最新アルバム「FOREVER DAZE」のオープニング曲であり、スクリーンには脳を想起させる映像が映し出される「海馬」から、メンバーが観客の手拍子を煽り、マスダもTAIKINGもステージ前や横に伸びる通路まで出てきて演奏する「カタルシスト」と、もう早くもこの序盤でクライマックスを迎えた感すらある。
洋次郎がハットとジャケットを脱ぎ去るとメンバーのソロ回し的な演奏も挟まれる「DARMA GRAND PRIX」では洋次郎も途中からピアノに移動して弾くという目まぐるしいそれぞれのメンバーの演奏もあるのだが、その洋次郎が巨大な樹木の映像を背にして花道を進みながら歌う「MAKAFUKA」は自分が見たぴあアリーナの時は歌うのが少し苦しそうに感じた曲だったのだが、この日は本当によく声が出ていた。マスダのオーケストレーションのサウンドをシンセで一手に担うのも含めて、久しぶりの幕張メッセ(ワンマンとしては10周年ライブ以来)であるが、やはりRADWIMPSの鳴らす曲、サウンド、歌唱はこの規模に見合うものであるということを感じさせてくれるのだ。
その洋次郎は
「もっとぐちゃぐちゃになったりするライブが早くやりたいよなー!俺も客席で思いっきり暴れたりしたいよ。いつになったらできるんだよ、チクショー!
でも俺たちは音楽を止めないから、あなたもあなたの人生を止めないでください」
と、現状の音楽業界、ライブ業界がなかなか元の形に戻らないことへの怒りやジレンマのようなものも感じさせる。RADWIMPSには観客に歌ってもらうことで成立してきた、曲でバンドと観客がコミュニケーションを取るようなライブを作ってきただけにより強くそう思うところがあるのだろう。
ブルース色の強い「うたかた歌」は音源でコラボしている菅田将暉の登場はなく、洋次郎単独バージョンというのもぴあアリーナの時と変わらないのだが、先日雪が降って、まだ幕張メッセも近隣の道が凍っていたりする真冬とは思えないくらいに場内が一気により一層熱くなる「DADA」で洋次郎が駄々っ子っぷりをその迫力あふれるボーカルで示すと、「おしゃかしゃま」では間奏でドラマー2人のバトルを皮切りにおなじみのセッションへと展開していき、その後には武田、TAIKING、マスダの3人が花道に出て行ってその中央でそれぞれがソロを披露する。
精神的にもサウンド的にもバンドを支える武田のうねりまくるベースから、ブルース色の強い泣きのTAIKINGギター、さらにはギターロック色の強い、髪型などは当時からだいぶ変わっても、そのギターストロークからねごとのメンバーとしてギターを弾いていた頃のことを思い出させてくれるマスダのギターと、ひとしきりソロが終わると演奏しながらステージに戻り、洋次郎のギターも含めてさらにバンドとしての一体感がここで増したような印象だ。
するとこの日演奏された曲の中では最も古い曲となる「セツナレンサ」のラウドなサウンドがこの広い幕張メッセを制圧し、一転して不穏なトラック的なサウンドの「匿名希望」では洋次郎が花道を進んでいくと花道の先でステージが上昇し、まるで顔が見えないから何を言われても聞こえませんというかのように真上から降り注ぐレーザーの光に包まれて姿が見えなくなる。ある意味ではこの曲の歌詞こそが今最も洋次郎が歌いたいこと、世の中に放ちたいことなのかもしれない。それくらいに今回のツアーに参加できていない桑原彰の件も含めて週刊誌などに標的にされてる感もあるだけに。
武田は年始は奥さんの実家に挨拶に行っていたらしいのだが、その際に奥さんのご両親がずっとRADWIMPSのライブ映像を流していて、ツアーがあるから気持ちを途切れさせるなというメッセージだと思って正月から落ち着けなかったというなんとも生真面目な武田らしいエピソードを語り、それとともにドラマー2人を紹介する。ジャニーズのグループにいてもおかしくないようなエノの今年の目標は
「程よくお酒を嗜む」
というくらいにやんちゃな飲み方をしがちらしいというのは最年少の若さがなせることだろうか。
その武田はシンセベースとなるのは「NEVER EVER ENDER」で、やはりTAIKINGが煽る姿に合わせて観客も手拍子をし、エノも笑顔でパーカッションを打ち鳴らすと、
「ロックバンドなんてもんを やっていてよかった
間違ってなんかいない
そんなふうに今はただ思えるよ」
という「トアルハルノヒ」の歌い出しに追加された歌唱で客席から大きな拍手が上がる。それはロックバンドなんてもんを好きでいて良かったと思わずにはいられないくらいに、どんなにバンドサウンドではないような幅広いサウンドを取り入れたとしても、今目の前で演奏しているRADWIMPSはロックバンドでしかないからである。この曲の演奏はまさにそれを証明するかのようだった。
するとここで洋次郎が
「ここは千葉だけど、俺が育った東京のすぐそばで。東京ってなかなか俺が歌うのはこそばゆい感じもするんだけど、でも俺もいつかは東京からいなくなるし、東京も物凄いスピードで変わっていく。だから今の俺から見た東京を歌っておくべきだと思った」
と、曲が生まれた背景を説明してからゲストとしてiriを紹介してステージに迎え入れて抱きしめてから2人で歌う。タイトルフレーズでは武田とマスダもコーラスするがiriのボーカルはどこか儚さも感じさせるこの曲が描く東京にピッタリな声質だと思うし、この曲はぴあアリーナの2日目には演奏されなかった曲なので、こうしてコラボバージョンで聴くことができるのは実に嬉しいし、洋次郎が
「ずっと聴き続けていたくなる曲。東京という存在が頭に思い浮かんだ時に聴いてくれたらと思います」
と言う通りに、ライブで聴くとそのクールなR&B的なサウンドに心地良く浸っていたくなる。
iriがステージから去ると続け様に洋次郎は「SHIWAKUCHA」を歌い始めるのだが、ゲストを紹介せずに歌い始めたので、今回はこの曲は洋次郎が1人で歌うバージョンか?と思っていたらラップパートで洋次郎がAwichを紹介すると、花道の先端にはすでにAwichが立っており、そこで自身の存在と生き様をアピールするかのようなラップを放つ。洋次郎が
「最も尊敬するフィメールシンガーであり、ラッパー」
と言うのも納得なくらいの歌唱とラップはRADWIMPSのライブであっても忘れられないインパクトを残すくらいにカッコいい。やはり曲中には洋次郎がハグをしてステージに迎え入れていたが、そこには今まではそこまで多くはなかったゲストが参加した意味と、そのゲストへの最大限のリスペクトを感じさせた。
そんなゲスト勢の参加が終わるや否や、メンバー全員が両手を高く上げて頭の上で手拍子をし始め、会場にはそのリズムに合わせた同期の手拍子の音も流れる。もちろんそれは「いいんですか?」であり、やはりステージ左右に移動して弾くギタリスト2名の姿も含めて、ステージにいる全員のこの曲、RADWIMPSの音楽への愛が感じられたし、花道に進んだ先でかつてのライブでの観客の合唱の音源が流れ、おそらく客席にいた誰もがそのフレーズを心の中で歌っているのを感じたであろう洋次郎は、最後のサビ前で
「愛してるよ!」
と言った。それはライブの形が変わってしまっても決して変わることはない、本当に幸せな瞬間だった。
そして洋次郎は
「今年最初のライブをあなたとできて本当に良かった」
という、「ああ、今日来れて本当に良かったな」と思わざるを得ない言葉を口にすると、
「政治家が言ったから、偉い人が言ったから正しいっていうことはない。自分で考えてたどり着いた自分の信念や気持ちを曲げないように。俺はこれからもそうやって生きていこうと思っています」
というブレることのない自身の生き様を語り、それがピアノを弾きながら歌う「鋼の羽根」の持つメッセージに重なっていく。カロリーメイトのCM曲としてオンエアされ、アルバムリリースに先駆けて配信もされた曲だが、こうしてアルバムを通した中で何度も聴いたり、何よりもライブで聴くとよりこの曲の魅力に気付く。それはスクリーンに映し出された映像のように、今まさに部活などの自分がやりたいことがコロナで思うようにすることができない学生の人たちにはより強く響いているのではないかと思う。
そのアルバムなどで何回も聴いていると魅力に気付くというのはアルバムの最後に収録され、今回のツアーのラストも担っている「SUMMER DAZE 2021」もそうだ。無数のミラーボールが輝きを放つ中で響くエレクトロサウンド。この歌詞のないコーラスを歌えるようになる日まで、2021年の夏のあらゆる悔しさや悲しさは忘れることはできないだろうとも思うけれど、それは洋次郎が
「今日はありがとうございました」
と言ってまだトラックのサウンドが鳴っている中でメンバーとともにステージを去っても、ずっとこのままこの煌めきの中で踊り続けていたいと思うものだった。
アンコールではまずは出てきたメンバー全員がステージ前に並んで観客を背に写真撮影をすると、洋次郎は1人花道の先のセンターステージへと歩いていき、そこに置かれたピアノに座り、武田がウッドベースの温かいリズムでアコースティック的な感触も強い「そっけない」を演奏する。このアンコールはどうやらその公演、日ごとに曲が変わるというのはぴあアリーナ2日目とは違う曲が演奏されたことによってわかる。
洋次郎がメインステージに戻り、そちらのピアノに座るも、手がベタつくということで
「なんか、ウェットティッシュ的なものを…」
と言うと、絶対に持ってないであろう武田が真っ先に自身のセットの上を探し始めた。結局はスタッフが持って来たのだが、その関係性こそがRADWIMPSの変わらなさを表しているし、こうして今は正式メンバーとしては2人しかステージに立てない状態であるけれど、武田がいてくれさえすればこれからもRADWIMPSは RADWIMPSであり続けられる。一瞬の出来事の中ではあるけれども、確かにそれを感じることができた瞬間だった。
そして手を拭いた洋次郎は
「また必ず会いましょう。生きて必ず会いましょう」
と観客へ再会を違うと、ピアノを弾きながら「スパークル」を歌い始める。スクリーンにはこの曲がクライマックスで使われ、RADWIMPSをさらなるメインストリームまで押し上げた「君の名は。」のシーンを想起せざるを得ない、星や流星が輝く映像が映し出される。
紛れもない同世代だから、世代間の違いによる思考のブレやズレみたいなものもない身としても、洋次郎の発言の全てに100%同調、同意できているわけでもないし、流石にそこまで盲目な信者じみた目線でアーティストを見ることができるような年齢でもない。現にこの日も若干「それは言って大丈夫なのか?」と思うところもあった。それは洋次郎がスポーツなどを見ていて音楽だけが我慢させられているという思いを抱いていることもわかるけれども、最終的には観客次第のことでもある。
ホームランを打った時やゴールを決めた時に不意に出てしまう声は、ライブで言うなら「この曲やるの!?」という予想だにしない曲が演奏された時には出てしまっても仕方がないけれども、曲が終わった後に「フゥー!」みたいな声を出すのは意識的に出そうとしないと出ないものだと思う。先月までとはまた状況も大きく変わっているだけにそれによって不安になったりする人だって少なからずいるわけで、そこは観客側が履き違えてはならないとも思う。
でもこの「スパークル」を聴いていると、いろいろマスコミや週刊誌などに言われまくったりしているし、これからもそうされることがたくさんあるんだろうなとも思うけれども、こんなに美しく素晴らしい音楽を作る人が音楽を作り続けていられるようであって欲しいと心から思っていた。それだけはどんな世の中の状況になろうとも絶対に変わらないことであるし、それによって救われている人の方が圧倒的に多いはずだから。
そんな「スパークル」を終えると、洋次郎がTAIKINGとマスダ、武田に何やら耳打ちし、スタッフに自身のギターを持ってきてもらい、
「さっき裏で急遽決めたから、ミスったらゴメンって感じでやります!(笑)」
と言ってギターリフを弾き始めたのは「君と羊と青」で、武田は何回もベースを抱えて高くジャンプしまくる。この日は若干歌詞を飛ばす部分も多かったように感じた洋次郎も、急遽の割にはミスることなく歌えていたのはやはりこの曲が体の中や頭の中に染み付いているくらいに演奏してきたのだろうし、それはほとんどこの曲を演奏したことがないはずのギタリスト2人の器用さとRADWIMPSへの愛を感じさせるものでもあった。もちろん、この日最大級に飛び跳ねまくり、腕を上げる観客たちの姿も。
その観客たちに向かって花道まで全員で出て行って手を繋いで一礼すると、洋次郎は
「また会いましょう。それまで生きろよ!」
とやはり再会を約束してからステージを去って行った。まだツアー中盤だし、幕張メッセ2daysの初日なのにも関わらず、もうツアーファイナルであるかのような感さえあった。これを経ての2日目は果たしてどんなものになるのだろうか。すでにこれで2公演見ていても楽しみは尽きないどころか、より楽しみが増している。
1.TWILIGHT
2.桃源郷
3.ドリーマーズ・ハイ
4.海馬
5.カタルシスト
6.DARMA GRAND PRIX
7.MAKAFUKA
8.うたかた歌
9.DADA
10.おしゃかしゃま
11.セツナレンサ
12.匿名希望
13.NEVER EVER ENDER
14.トアルハルノヒ
15.Tokyo feat.iri
16.SHIWAKUCHA feat.Awich
17.いいんですか?
18.鋼の羽根
19.SUMMER DAZE 2021
encore
20.そっけない
21.スパークル
22.君と羊と青
文 ソノダマン