SEEZ RECORDS presents 「THANK YOU FOR OUR STUDIO COAST」 THE BAWDIES / go!go!vanillas 新木場STUDIO COAST 2022.1.6 go!go!vanillas, THANK YOU FOR OUR STUDIO COAST, THE BAWDIES
この2022年の1月をもって閉館する新木場STUDIO COAST。それだけに今月はファイナルシリーズとでもいうべきイベントが次々に開催されるが、その一つがこの日のTHE BAWDIESとgo!go!vanillasというSEEZ RECORDSの兄弟的なバンドによる2マンライブ。2016年10月の「Rockin’ Zombiez」以来の2マンライブである。
しかしながらこの日はまさかの都心部でも積もるくらいの雪が降るという気象状況に見舞われた。それによってこの2組の最後のCOASTでのライブも、もしかしたらその人自身の最後のCOASTでのライブも観れなくなってしまったという人もいるかもしれない。でももう延期したらCOASTでこの両バンドがライブをすることはない。そう思うと雪が本当に恨めしくなる。
・COWCITY CLUB BAND
検温と消毒を経てCOASTの中に入ると客席には椅子が敷き詰められている。そんなCOASTのステージに最初に登場したのは、オープニングアクト的な存在のCOWCITY CLUB BAND。某音楽雑誌のインタビューで
「本当に何もない。街灯すらほとんどない」
と言っていた、滋賀県愛東町出身の4人組である。
COASTへのメッセージが刻まれた、この日の限定Tシャツを着た岸川倖平(ボーカル&ギター)は前髪が目にかかるくらいの長さである故に表情をはっきりと読み取ることはできないが、長髪の世良ジーノ(ギター)、白スウェットの城弘憲(ベース)、この寒さの中でもTシャツのみというストロングスタイルの遼太郎(ドラム)というメンバーの表情は実にあどけない。その見た目が愛東町という場所が本当に何もないんだな、とわからせてくれるくらいの無垢さである。
サウンドとしても本当に牧歌的な、都会の気配や匂いが一切しないというくらいの素朴なバンドサウンド。ロックというよりは彼ら自身のプロフィールにも書いてある「フォークソング部」というイメージがピッタリだ。それはどこか、スペシャ列伝ツアーでまだデビュー直後だった頃のgo!go!vanillasの姿を思い出す。
「ただひたすらに広いって感じです」
と、初めてのCOASTのステージからの景色を素直すぎる言葉で口にしたのは、やはりこのキャパの会場でライブをするのが初めてだからであろうが、そんな場所でも
「愛してるぜCOAST!」
と曲中に言えてしまうというのはこれからそのスケールに見合うようなバンドになるんじゃないかという可能性を感じさせる。それだけに、なくなってしまう前にここに立つことができて本当に良かったなと思う。
わずか4曲、20分という時間はまさにオープニングアクトという立ち位置だったが、本当にまだ何の色にも染まっていないという印象だ。自分たちの原風景を変わらずに歌い鳴らしていくのか、これからいろんな音楽や出会いや景色を経験してそれを自分たちの音楽に昇華していくのか。今は登場時から明確なビジョンを持った若手バンドがほとんどであるために、こんなにしっかりしたライブが出来ていながらもどんな方向にも進めそうな天然記念物的なバンドはそうそういないと思う。SEEZ RECORDSについにそんな三男バンドが生まれたのだ。
・go!go!vanillas
2021年は横浜アリーナと神戸ワールド記念ホールという文字通りに記念碑的なアリーナ会場でのワンマンを経験し、2020年の武道館ワンマンに続いてコロナ禍の中でも飛躍を果たしたバンドと言える、go!go!vanillas。牧達弥(ボーカル&ギター)と長谷川”プリティ”敬祐(ベース)は仲良く地元に帰省していた年始を過ごしていたようだが、2022年初ライブがこの日となる。
なのでアリーナでのライブと同様に新たにアイリッシュ的なサウンドのインスト曲「RUN RUN RUN」でメンバー4人が登場し、派手なセーターを着た柳沢進太郎(ギター)、髪が鮮やかな緑色に染まったプリティ、歯ブラシ型と言っていいくらいに思い切ったモヒカンヘアのジェットセイヤとそれぞれがそれぞれに目を引く中で、黒の革ジャンを着たロックンロールスタイルの牧が
「今年もよろしくー!」
と叫ぶと、まさかの「スーパーワーカー」がこの日の、そして今年のバニラズのライブの1曲目だった。これには驚いてしまったのは、最近は昨年リリースの大傑作アルバム「PANDORA」(2021年個人的年間ベストディスク3位)の曲を軸にしたセトリを組んだライブをしてきたからで、この曲が久しぶりにこうしてセトリに入る、しかもこの曲で始まるということを予想していた人はまずいないだろう。これはバニラズからファンへの大きなお年玉と言っていいかもしれない。
後のMCで牧も口にしていたが、その名の通りのパーティーチューン「ヒンキーディンキーパーティークルー」はかつてのTHE BAWDIESとのスプリット盤「Rockin’ Zombiez」の収録曲であるだけに、この日にふさわしい選曲であるのだが、セイヤは早くも立ち上がったままドラムを叩くという荒ぶりっぷりを見せる。というよりもメンバー全員が本当に楽しそうだ。
それはプリティがタイトルコールをすると、柳沢と牧のツインボーカルと言ってもいい形で歌われる「クライベイビー」での柳沢歌唱時の牧の高いジャンプを何回も繰り返す仕草からも明らかである。本当にライブがやりたくて仕方がなくて、そのライブがこうした形での兄貴と弟との共演なのだから楽しくないわけがないのである。
するとセイヤがなぜか背面の
「THANK YOU for OUR STUDIO COAST」
という幕に向かってスティックを投げまくって笑いを起こす中、牧はここでCOASTが今月で営業終了してしまうことを話し始め、自身も直近ではアコースティックツアーのファイナルがこの会場であったりという思い入れの強さを語るのだが、そんな中で急に柳沢が
「ガオー」
と吠えたのは、着ているセーターが黄色と黒の虎柄だったからであり、これは寅年初ライブならではと言えるだろう。
牧「全然気づかなかった」
プリティ「高木ブーかと思った」
牧「カミナリ様ね(笑)」
と、本当に平成生まれかと思うくらいにドリフネタに精通したツッコミも入っていたけれど。
すると牧はアコギに持ち替えて、
「みんなの1年が美しいものになりますように」
とアリーナ会場限定でCDが販売されていた(ライブ後に配信)最新曲「LIFE IS BEAUTIFUL」を披露。休みの日にはレコード店に行って世界中のありとあらゆる音源を掘るという音楽マニアなメンバーたちによってこれまでに様々なサウンドを自分たちの音楽に昇華してきたバンドが「PANDORA」を経てここからまた新たなタームに入ったことを証明するような曲であり、ラブソングでありながらも
「これからもずっとよろしくどうぞ」
というフレーズなどは観客へのメッセージとしても響く。なかなか「人生は美しい」とは言いづらくなってしまった状況の世の中ではあるが、こうしてバニラズが新曲を生み出してライブをやっているというだけで少しはそう思えるような。そんな気にしてくれる曲である。
すると牧が素早くエレキに持ち替えながら革ジャンを脱いでいる間に、プリティが曲のタイトルを人文字で表し、それを観客にも表現させる「エマ」ではイントロのカウント(声は出せないけど)から観客を飛び跳ねさせまくるのだが、全席指定で隣にも観客がいるという状況ゆえか、サビでの腕を交互に挙げるというライブで築き上げてきた観客のアクションがなかなかやりづらそうな狭さでもあったけれど。
さらには柳沢が声が出せない状況だからこそのコール&手拍子を観客に促してから強烈なロックンロールギターを鳴らしまくる「カウンターアクション」と代表曲が続くだけに、観客も狭い中でも手拍子とカウントもバッチリ決める。ただひたすらにそのサウンドとそれを鳴らすメンバーの姿がここにいるという事実を楽しくて仕方ないものにしてくれる。アリーナでのバニラズのライブもこれからも見たいけれど、やっぱりライブハウスで育ってきて、今もライブハウスで生きているバンドの生き様をその姿から感じる。
すると柳沢がメインボーカルのハードなサウンドによる「ストレンジャー」では時にはボーカル、コーラスをこなしながらも、ほぼギタリストという立ち位置の牧がステージ上でスライディングをしたり、そのまま転げ回るように弾いたりというあまりにも自由なギタリストっぷりを見せる。近年はハンドマイクで歌うというボーカリストとしてのオーラやカリスマ性を感じさせるような姿を見ることも増えたが、そのギターを弾く姿からは牧のギター小僧っぷりを感じるし、そこにこそサウンドとしてというよりも精神性としてのバニラズのロックンロールバンドたる所以を感じられる。
「クライベイビー」こそ前半で演奏されたが、セトリから「PANDORA」の曲がほとんどなくなったのは新年を迎えて新しいモードへバンドが突入したことの現れか、あるいはこの対バンだからということか、とも思っていたのだが、ここでもはやライブでもおなじみになりつつある「PANDORA」収録の「one shot kill」が演奏され、牧は曲途中でギターを置いてハンドマイクになって軽やかにステージ上を動き回り、ジャンプしまくりながら歌いまくるのだが、改めてすでにこんなにライブでキラーチューンになっている曲がシングルでもリードでもなくアルバム曲の一つであるというところからも「PANDORA」の傑作っぷりがよくわかるし、やはりバニラズに宿っているロックンロールの魔法はどんなに多様なサウンド、ジャンルを取り入れても芯に残り続けていると感じさせてくれる曲だ。セイヤはシンバルを手に持って、そのシンバルでドラムセット上のシンバルを叩くというもはやよくわからないくらいの荒ぶりっぷりを見せてくれる。
そうして雪が降っている中でもライブハウスの中は暑く熱いということを示してくれると、牧は改めてCOASTへの想いを、
「全国にたくさんライブハウスがあるけれど、同じ場所は一つだってないし、そこにいる人もそう」
と口にする。そこにはやはり全国のライブハウスを旅して生きてきたロックバンドだからこそ見えているもの、見てこれたものがあるんだろうなと感じさせたし、
「Zeppを目指すロックバンドにとってはこのCOASTは本当に特別な、大切な場所」
というのは何よりもCOASTへの敬意を感じさせた。
そんなCOASTがオープンしたのも平成。平成生まれのバニラズとしても、こうしてここにいる我々としても同じ時代を生きてきた存在。そんなライブハウスに愛を込めて演奏された「平成ペイン」は観客のサビでの振り付けも含めて、ただなくなってしまって寂しいというだけじゃなくて、その存在を忘れることなく前に進んでいかなければならないということを示してくれる。この曲はそうしたポジティブな力に満ち溢れているということをライブで見ると何度も実感する。
コロナ禍になる前は観客がみんなで合唱していたパートでは牧が歌いながら、その後ろでセイヤが指揮者のようにスティックを振る。その指揮に合わせて我々が歌える日が早く来るように。これまでずっと我々に前に進む力を与えてくれた「平成ペイン」には今はそんな希望が宿っている。
「この暗闇に目が慣れているのは僕らだ」
また暗闇が広がりつつある今この状況だからこそ、それに慣れている我々はきっとその状況でも強くいることができるはずだ。
そしてそんなライブの最後に演奏されたのは、ロックンロールの魔法を我々にかけてくれるような、イントロからして疾走感溢れる「マジック」。それはこの日の出演者3組全員が体現していて、我々全員がこの場で体感することができるもの。
「気まぐれな未来が彩る あまねくマジック
解けないまじないが 底抜けに笑いを呼ぶ
痛快な謎を探せ
騙されたままがいいんだ」
というフレーズは今だからこそ、また明るい未来が我々に待っているという希望を持たせてくれる。このロックンロールの魔法にいつまでも騙されたままで。メンバーの溌剌とした演奏する姿からは確かにオーラのような魔法が放たれていた。そのオーラはこの曲がリリースされた時よりもはるかに強くなっている。
牧はMCでかつてのツーマンツアーの時は
「正直、悔しい思いもたくさんした」
と言っていた。あの頃、すでにZeppでワンマンできるような状況だったとはいえ、THE BAWDIESは横浜アリーナや武道館、様々なフェスのメインステージに立つようなバンドだった。弟は兄の家で養ってもらっているような、そんな状態だった。
でも今はバニラズも当時のTHE BAWDIESと同じと言っていい会場でライブをやるところまで来た。それはただ単に規模や人気の話ではなくて、そういう場所でライブができる力を持ったバンドになったということだ。弟は兄と向かい合って、割り勘で酒を酌み交わせるくらいに成長した。そんな姿が本当に頼もしく思えたライブの最後にまた牧が
「今年もよろしく!」
と言うと、セイヤはいたずらっぽく
「良いお年を!」
と言ってステージから去っていったのだった。
1.スーパーワーカー
2.ヒンキーディンキーパーティークルー
3.クライベイビー
4.LIFE IS BEAUTIFUL
5.エマ
6.カウンターアクション
7.ストレンジャー
8.one shot kill
9.平成ペイン
10.マジック
・THE BAWDIES
そして一家の長男であるTHE BAWDIESが、数え切れないくらいに立ってきたであろう、思い入れも計り知れないくらいにある、COASTの最後のステージに立つ。
おなじみの「ダンス天国」のSEでスーツを着た4人が登場し、手拍子を煽りまくると、
「THE BAWDIESです!今年もよろしくお願いします!新しい1年の幕開けということで、新しい日がやって来ました!」
とROY(ボーカル&ベース)が挨拶して、いきなりロックンロールの衝動を爆発させるかのように「A NEW DAY IS COMIN’」からスタートし、ROYはそのロックンロールに選ばれたとしか言えない声でシャウトし、笑顔のJIM(ギター)は髪を振り乱したりステージを激しく動きながらギターを弾く。サビでは金髪継続中のTAXMAN(ギター&ボーカル)が我々が声を出せない分まで大きなコーラスを重ねる。MARCY(ドラム)は本当にいつも通りのMARCYでしかない。
「乗り遅れないでくださいね。遅れたらこうなりますよ!」
と言ってJIMが跳び上がるようにギターを弾き、ROYの
「飛べー!」
の合図で観客も飛び跳ねまくるのは「IT’S TOO LATE」であるが、階段の上の部分から見ていると、明らかに上手のJIM側にTHE BAWDIESファンが集中しているようにしか見えないリアクションというのは、各バンドのファンクラブ先行で割り当てられている席がどちらかに固まっているのか、なんて余計なことを考えてしまうのだが、曲の締めではROYがおなじみの超ロングシャウトを決める。しかしながら、毎回このボーカルが出せるというのは本当に驚異的だ。ROYが少しでも声が出ていないというところを全く見たことがない。ロックンロールの神から授かった声であるのはもちろん、自身の陰ながらの努力も凄まじいものがあるのだろうと思う。
曲間をMARCYの四つ打ちのリズムで繋いでいる間に観客の手拍子が起こり、てっきりそのリズム的に「BLUES GOD」かと思ったが、曲に入る寸前にそのリズムが止まって演奏されたのは、「BLUES GOD」同様に傑作アルバム「Section #11」に収録された「SKIPPIN’ STONES」であるが、間奏では新たなライブならではの手拍子をするアレンジも加わっており、この曲が今やかつての「YOU GOTTA DANCE」や「SING YOUR SONG」のような役割を担う曲になっていることを感じると同時に、毎回やっているような曲でもライブを重ねることでブラッシュアップしているということがよくわかる。最後のサビの一気にテンポが速く、そして激しくなるという音源以上の迫力も含めて、それは転がり続けて来たロックバンドだからこそである。
すると喋りたくて仕方ないとばかりにROYはまずは弟であるgo!go!vanillasの昨年の横浜アリーナワンマンを称えると、その日がTAXMANの誕生日だったということで、ライブを一緒に観に行ったらTAXMANがスタッフに
「ライブ終わった後の面会でもしサプライズでケーキとか出てくるんだったら申し訳ないですけど、この後予定があってライブ終わったらすぐに帰らないといけないので…」
と言うも当然ケーキはなく、牧がライブ中にMCをするたびに
「今日誕生日のTAXMANがライブを見に来てくれています!」
と言うんじゃないかとドキドキしていたということを観客の前でバラす。当然ながら牧は一言もライブ中にそんなことには触れていないのだが、TAXMANいわく0.1%でも可能性があるんなら先に断っておかないと、という配慮によるものらしい。物凄い自意識過剰にも思えてしまうけれど。
そんなTAXMANいじりで笑いを誘ったのにも関わらず、ROYがその話の後に紹介したのはMARCYというとんでもないキラーパス。しかしながらMARCYはTAXMANいじりによる効果か、いたって冷静にこの愛するCOASTへの感謝を口にする。それを見たTAXMANはROYに
「お前もああいうこと言えよ」
というささやかな反撃。
すると派手なイントロのギターサウンドがまたここから改めてライブが始まることを予告するかのような「NO WAY」で再び観客を飛び跳ねさせると、ここで先ほどいじられまくったTAXMANがメインボーカルを務めるのはこの日はTAXMANをいじまくったROYのベースのイントロによって始まる「EASY GIRL」。ROYと対照的な声質を持つだけに爽やかな曲も多いTAXMANボーカル曲であるが、この曲は別れを歌いながらもTAXMANの迸るロックンロール魂を感じさせる。一歩下がってリズムに徹するROYは自分が目立たないことを若干不服に思っているような表情にも見えてしまうけれど、そのメンバーのバランス感覚もまたTHE BAWDIESならではのものである。
そんな熱くなる一方のここでROYが
「夏の曲をやります…。わかってます、今日は大雪です(笑)」
と季節外れであることを自覚しながらも、
「ただ単に夏の曲っていうんじゃなくて、夏が終わって、次の新しい季節が来るっていう始まりを歌った曲でもある」
という2021年リリースの最新アルバム「BLAST OFF!」の最後に収録されている「END OF THE SUMMER」でまるでゴスペルグループかのようにROYのボーカルに3人のコーラスが重なっていく。昨年の日比谷野音ワンマンでも会場に見合った素晴らしい余韻を残してくれた曲であるが、この日この会場で演奏されたこの曲はこのCOASTでのTHE BAWDIESのライブという光景を永遠に刻み込んで封じ込めるかのようですらあった。そうして毎ライブごとに全く違った印象を与えてくれるのは3人のコーラス力の圧倒的な進化によるものだと言えるだろう。それはきっとこれから先のTHE BAWDIESにとって新しい大きな武器になっていくはずだ。
そんな新たな名曲の余韻に浸っていると、明らかにメンバーが楽器を下ろして何やらゴソゴソしている…と思ったら、会場に流れ始めたのは「燃え上がれ〜」のフレーズでおなじみの「翔べ!ガンダム」を明らかにMARCYが歌っている脱力ソング。
その曲をきっかけに始まったのは、
TAXMAN=フナヤマムロ(アムロ)
ROY=パンダム(ガンダム)
JIM=シャア専用ジム(ジム)
MARCY=マシャアヒコ(シャア)
という配役の劇場。パンダムとシャア専用JIMの取っ組み合いなど、劇場の中でも屈指の運動量(とROYが殴られることによるガンダムの名言などを交えた意外な完成度)を誇るこの「パンダム」であるだけに、劇場が終わってから楽器を持って演奏を始めるまでにやたらと時間がかかるのだが、
「HOT DOG、行きまーす!」
とタイトルコールがアムロ仕様なのはこの劇場ならではであるし、熱演のおかげもあってか、初めて見たであろう人にもかなりウケていたと思うし、「HOT DOG」の曲も演奏もカッコいいのに面白い人たちでもあるということを感じさせる意味でも今やこの劇場はライブには欠かせないものになっていると言っていいだろう。
そんな「HOT DOG」でさらに熱くなったかと思いきや、確実にセトリを自身で決めているであろうROYは
「「END OF THE SUMMER」の後に「パンダム」やってっておかしいでしょ!」
と自身にツッコミを入れながら、この会場で360°ライブなどを行ったことを回想し、
「ワンマンも何回もやったし、いろんなバンドに呼んでもらって出た。場所はなくなっても記憶に残っているものは消えないから」
とここまでの面白いお兄さん的なイメージの奥にあるバンドマンとしての真理を口にする。それが綺麗事でもなんでもなく間違いなく真実であるというのは、実際に自分がここで見てきたTHE BAWDIESの数々のライブを忘れることなく覚えていて、きっとそれはこれから先も忘れるようなことはないからである。
そんなこの会場で行ってきたライブの日々に少しだけでも戻るかのような「LET’S GO BACK」ではやはり我々が歌えない分、メンバーの大きな声でのキャッチーなコーラスが響き、それは「BLAST OFF!」のリード曲である「T.Y.I.A.」にも繋がっていく。この1回聴いただけで絶対覚えざるを得ないようなコーラスのキャッチーさとロックンロールバンドとしての荒々しいカッコよさを兼ね備えたという点でTHE BAWDIESがシーンに残した功績は計り知れないものがあるのだが、ROYが
「心の中で大きな声で歌ってください!」
と言っていたこの曲を早くTHE BAWDIESを愛する人たちみんなで歌いたい。まだそれをしたことがない曲であるから。ROYの言葉からはバンドがそれを心から望んでいるということもよくわかる。
そしてラストはやはりTAXMANのギターリフが鳴り響くと観客が飛び跳ねまくり、サビでは腕が左右に揺れる「JUST BE COOL」。最後のサビ前でROYがお馴染みの超ロングシャウトをかますと、サビに入る前には
「今年もよろしく〜!」
と叫ぶ。それがより高く我々を飛び跳ねさせてくれる。このロックンロールがあれば我々はどこまででも高く飛べそうな気がする。その無敵さこそがロックンロールの魔法。初めてライブを見た10年以上前に「今こんなバンドがいるのか」と衝撃を受けてから、それはずっと変わっていない。やはりTHE BAWDIESのライブはどんな世の中であっても最高に楽しいのだ。
アンコールはやはりスタッフが忙しなく動いているのがわかるというのは、明らかにステージ上の機材がめちゃくちゃ増えているからだ。それはTHE BAWDIESのセットに加えてgo!go!vanillas、さらにはCOWCITY CLUB BANDと3バンド全てのセットがステージに並べられたからであり、最初にステージに戻ってきたTHE BAWDIESは、まずは COWCITY CLUB BANDを呼び込むのだが、明らかにROYがメンバーの名前をまだちゃんと覚えていないというのが丸わかりなカンペガン見の紹介に。
そうしてCOWCITY CLUB BANDが登場すると、ROYはMARCYに呼び込みを譲り、MARCYの呼び込みでバニラズの4人もステージに登場するのだが、セイヤがいきなり
「ROYさん、COASTの看板に使われてるアルファベットが今オークションに出されてるの知ってます?進太郎が狙ってるんですよ」
といきなりROYに話しかけて、「今の会話なんだったの?」という空気が客席だけならずステージにも溢れる中で各バンドのドラマー3人が順番に音を鳴らすと、最後に叩いたMARCYのビートから全員演奏の「KEEP ON ROCKIN’」へと突入していく。
ボーカル3人は全員ハンドマイクであるが、ギター4人、ベース2人、ドラム3人という超大所帯編成であるが故に、あまりにも視線が忙しいというか、誰を見ればいいのかというくらいの状態なのだが、途中からセイヤはドラムセットから離れてステージ前に出てきてタンバリンを叩きながら踊りまくっていたので、嫌でも目に入ってしまうというか、目立つというか。
そのメンバーの一人一人によるソロ回しも行われ、かつての「Rockin’ Zombiez」のツアーでは頑なにソロを拒んでいたプリティも見事なベースソロを見せる中、COWCITY CLUB BANDの4人も先輩たちに臆することなくソロを展開し、その継承されているロックンロールの魂を見せつけると、
「次は皆さんです!」
というROYの言葉から、ボーカル3人によるコール&手拍子が行われるのだが、牧が自身のコールの後に写真撮影を許可したことによって、手拍子が欲しいROYは少し拗ね気味になるのだが、それでも最後には大手拍子レスポンスが返ってきたことによってラスサビへ突入していき、SEEZ RECORDSによるロックンロール新年会は大団円を迎えたのであった。
しかしながらやはりこうして演奏するだけでは終わらないのがTHE BAWDIESのライブのアンコールであり、若大将ことTAXMANが法被を着ると、ライブ後恒例のわっしょいをCOWCITY CLUB BANDにも継承しようとするのだが、COWCITY CLUB BANDはTHE BAWDIESのわっしょいを全く知らないためにTAXMANから岸川にわっしょいが伝授されるのだが、今ひとつ決まりきらないわっしょいになったことに柳沢が異議を申し立て、全員での集合写真をわっしょいの掛け声で撮影することでバッチリ締まる。
ちなみにカメラマンはTHE BAWDIESの撮影でおなじみの橋本塁だったのだが、彼の主催するSOUND SHOOTERもこのCOASTで何回も開催されてきただけに、ここがなくなる前にまた開催して欲しかったなと思う。
そうして撮影が終わると、ステージ前に並んだメンバーたちは手を繋いで観客に一礼するのだが、TAXMANとJIMがたまたま隣同士になって手を繋いだことにより、
JIM「同じバンドのメンバーで手を繋ぐの気持ち悪い!(笑)」
という理由でJIMが端っこに移動してから一礼する。こんなにたくさんのメンバーが同時にステージに立てるのもこのCOASTの広いステージだからこそ。あまりにも楽しすぎて、気付いたら涙が流れていた。
それはCOASTがなくなってしまうという寂しさももちろんあるけれど、またコロナが感染拡大してきているという不安になってしまいそうな状況の中でも、ロックンロールバンドのライブはそんな不安な気持ちを吹き飛ばしてくれる力があるくらいに楽しいということをこのバンドたちが改めて示してくれたから。それこそが我々の足をこれからも前に進ませてくれる。音楽が不要不急なんかじゃなくて、生きるための力そのものであると感じさせてくれる。それをこれから先も何回だって感じたいと思うような、SEEZ RECORDSのロックンロール新年会だった。
ROYが言っていたように、360°客席ライブもここで開催したし、昨年は1stアルバムと2ndアルバムの曲を演奏するライブもここで行った。
そのさらに前には、バンドにとって最大の影響源であり父と言える存在のTHE SONICSを招いて2マンを行なったのもここだった。
あの時のメンバーの本当に嬉しそうな表情も、見た目は完全におじいちゃんなのに燃え盛るようなロックンロールを鳴らしているTHE SONICSの現役感しかないライブの衝撃も決して忘れることはない。それを見たのがこのCOASTだということも。
バンド自身が1番わかっていることだろうけれど、THE BAWDIESにとってこのCOASTは間違いなく特別な場所だった。でもその場所がなくなっても、これからバンドはまた新しい特別な場所を作っていく。我々にとってもそういう場所がこれからも増えていく。それこそがロックンロールバンドが転がり続けていくということ。
2022年の初ライブにして、もうこれで何かが終わったとすら思うくらいに濃厚な、世の中の新年会というもの全てがこんなにも楽しいものであればいいのに、という大雪が逆に美しくも感じた、新木場STUDIO COASTでの新年会だった。
1.A NEW DAY IS COMIN’
2.IT’S TOO LATE
3.SKIPPIN’ STONES
4.NO WAY
5.EASY GIRL
6.END OF THE SUMMER
7.HOT DOG
8.LET’S GO BACK
9.T.Y.I.A.
10.JUST BE COOL
encore
11.KEEP ON ROCKIN’ w/ go!go!vanillas, COWCITY CLUB BAND
文 ソノダマン