例年は最終日は15時くらいから開演して、EARTH STAGE以外のステージは朝までライブが行われている。しかし今回は絶対に中止にすることなく開催するために朝までどころか年越しアクトもなし。前日までと全く同じタイムテーブルでの開催である。
朝礼ではロッキンオン社長の渋谷陽一が会場内にある絵馬コーナーに観客が書いた
「サザン出せ!渋谷様」
というメッセージがあることを紹介して朝から笑わせながら最終日のトップバッターへ。
10:20〜 キュウソネコカミ
サウンドチェックで曲をフルで演奏したりしながら、
ヤマサキセイヤ(ボーカル&ギター)「本編で1曲目にやる曲を予想してみてくれ!」
ヨコタシンノスケ(キーボード)「あそこ(アーティストのメッセージボード)に書いちゃったから!何書けばいいのかわからなくて、結果的に本編のネタバレ書くっていう(笑)」
と笑わせていたキュウソネコカミ。2年前にこのEARTH STAGEの年越しを務めたバンドであるが、フェスの形だけでなくバンドの状況もあの時とは違うのはカワクボタクロウ(ベース)が療養中につきライブに参加できずに4人編成での出演だからである。
時間になって場内が暗転すると、スクリーンにはキュウソネコカミというバンド名の意味が波飛沫が上がる海という映画が始まる前かのような壮大な映像にのせて紹介される。それはバンドの状況が通常とは違うピンチと言えるような状況こそチャンスであるということを観客に、なによりも自分たち自身に示すように。
そんな1曲目はメッセージボードで自発的にネタバレというか予告していた「MEGA SHAKE IT!!」を朝早い時間帯ゆえにバンド自身と観客の目を覚ますようにして演奏すると、朝イチの「ハウスミュージック」の振り付けもバンドだけでなく観客も踊りまくり、最終日の朝イチという1番眠いと言ってもいい時間を一気に目覚めさせてくれる。ある意味ラジオ体操的な曲と言っていいのかもしれない。
「去年よりも今年はたくさん会える機会があって嬉しかったぞー!」
とセイヤが感情を爆発させるようにして叫ぶと「推しのいる生活」が演奏されて「わっしょいわっしょい」するのだが、ヨコタの
「推しは推せる時に推せー!」
という言葉をコロナ禍になってより噛み締めたという人もたくさんいるはずだ。
「生きていて良かった」
と最後のフレーズの通りに感じさせてくれるのは、こうして目の前で推しが生きていることを実感できる時だからだ。
「日本で1番レキシの曲をやってるバンドやー!」
と、そもそもレキシ以外のアーティストがレキシの曲をやることがほとんどないんだけど、という中で演奏された「KMTR645」では間奏でいつものようにマスコットキャラのネズミくんが登場すると、オカザワカズマ(ギター)にドリルを渡す。
「Mr.BIGみたいにこれをピック代わりにしてギターを弾けということ!」
ということで、マジでオカザワはドリルをピック代わりにしてネズミくん型ギターでギターソロをいつも以上に金属感が強いサウンドで弾くのだが、こうしたあたりにキュウソの先人たちへのリスペクトと演奏技術の高さと器用さ、それをパフォーマンスに転化できる発想力の素晴らしさを感じられる。
そんな中でかつてのようなライブハウスの光景に戻れるようにという願いを込めて演奏された「3minutes」からはコロナ禍以降にリリースされてきた、キュウソが止まらなかった証と言える曲が演奏されていく。
「今年リリースされた曲…だっけ?」
とメンバーもうろ覚えなのはバンドがこの1年間目まぐるしい日々を過ごしてきたからであるが、その今年リリースされた「囚」ではソゴウタイスケがタクロウの思いをも込めるような強くて重いビートを鳴らす中でセイヤがセリフ部分をあたかも猿のぬいぐるみが発しているかのような芸を見せると、マネージャーのはいからさんとスタッフが白い巨大な枠を持ってステージに現れ、いつの間にか背中に「人」の文字を背負っていたセイヤが枠の中に入ることによってステージ上で「囚」という文字を完成させるというパフォーマンスを見せる。いくらでも映像が使えるライブなのにこうして自分たちの体を使ったパフォーマンスをするというあたりも実にキュウソらしい。
ヨコタのシンセのサウンドをはじめとして、よりダンスミュージック感が強いアレンジとして生まれ変わった「シャチクズ (2020ver.)」ではスクリーンにタイトルさながらにシャチが世の中という海を泳いでいくような映像が映し出されるのだが、この曲をこうしてアップデートしようと思ったのは
「当時はやろうと思っても出来なかったことが、今ならできるから」
であるとインタビューで口にしていたが、そうして出来ることが増えたというのもキュウソが前に進んできた証拠であるし、大晦日にこの曲をライブで演奏するというあたりに、社畜として頑張ってきた人へのバンドからの労いの気持ちを感じる。
すでにここまででも様々なパフォーマンスを見せてきたわけであるが、そんな中でも
「次の曲に1番ムダに金をかけた」
と言って演奏された「家」は何故かこの曲で火柱が上がりまくるという、「家」でやったら火事になるんじゃ、という演出に金を使ったのかと思いきや、曲中にタイガーマスクがステージに現れてタイガーステップをして帰っていくという、キュウソなりの2022年が寅年であることを示す演出が行われる。
「ステージでタイガーマスクにタイガーステップやらせたバンド他に絶対いないで!」
とセイヤは言っていたが、そもそもやろうとする意味すらないのだが、とも思ってしまうような演出である。
そんなキュウソなりの演出を尽くした最終日のトップバッターとしてのライブは、
「俺たちの中で1番有名な曲!」
と言って演奏された「ビビった」で一気にエモーショナルに振り切っていく。とはいえ曲中のクソワロダンスももちろんあるのだが、そうした面白い雰囲気をはるかにバンドの演奏の気迫が完全に上回っていて、それは
「音楽を、フェスを止めるな!俺たちも止まらないことを選んだから!」
と言って演奏された「The band」へと繋がっていく。ツアー中に一度は数曲だけ演奏できるくらいにはタクロウは復帰したけれど、やはりそれもまた精神的な負担が強かったのか、結果的にこの年末のフェス行脚は4人で行うことになった。この5人だったからこそどんなに世の中にバカにされようとも進み続けていくことができたキュウソにとっては1人欠けるという事態はそれが誰であっても止まるという選択肢も頭にあったはずだ。でもそれでも止まらないことを選んだから、こうして1年の最後の日にライブを見ることができている。そのライブをやっている、この曲を演奏している姿に、キュウソがロックバンドでいてくれて本当にありがとうと思える。きっとそう思っている人がたくさんいることをバンドもわかっているからこそ、こうして止めることなく進むことを選んだのだろうと思う。
そしてソゴウがイントロのビートを叩き出すと、ヨコタが
「今年は我慢してもらったり、みんなにお願いすることばっかりだった!でも最後に一つだけお願い!あんまり頑張りすぎないで!音楽から離れたっていいから!一回離れてもまた絶対会えるってわかってるから!」
と涙を浮かべるように言ってから演奏されたのはその言葉がそのまま
「8割ぐらい仕事こなしていれば 大丈夫社会でやっていけるよ
完璧な人間なんて一握り」
という曲の歌詞に重なっていく「ハッピーポンコツ」。そのヨコタの言葉は音楽を好きでいること、ライブに行くのを好きでいること、フェスに行くのが好きであることによって悩むことも落ち込むこともあった2021年の我々に向けて言っているようでもあり、タクロウに向けているようでもあった。だからこそ、また来年以降に5人でこのステージに立つキュウソに会えると思える。やっぱり、この曲のサビに入る前のブレイクでポーズを決めるタクロウの姿がないと、って思うから。
セイヤは
「俺たちが年越しやってからこのフェスが開催できてなくて、嫌な感じやった!」
と言っていた。2年前にキュウソがこのステージの年越しをした時は、その後にライブがなくなっていくことも、年末にこのフェスが開催できなくなることも、タクロウが離脱してしまうことも全く考えられもしなかった。
でもまたこうしてこのステージでキュウソのライブが見れるくらいには戻ってきた。あのこれまでに出演してきたロッキンオンのフェスの映像が全て流れるという感涙の年越しの後に感じた、今年はきっと良い年になるという感覚は外れてしまったが、今回このライブを見て感じたその感覚こそはきっと。
去り際にヨコタは
「次はBLUE ENCOUNT!」
と言ったが、それがこの日のフェスを繋いでいくという空気を作るきっかけになっていた。やっぱりキュウソは本当に優しくて強い。
リハ.おいしい怪獣
リハ.ギリ昭和
1.MEGA SHAKE IT!!
2.推しのいる生活
3.KMTR645
4.3minutes
5.囚
6.シャチクズ (2020ver.)
7.家
8.ビビった
9.The band
10.ハッピーポンコツ
11:35〜 BLUE ENCOUNT
元々、BLUE ENCOUNTが初めてこのEARTH STAGEに立ったのは、NICO Touches the Walls(活動を続けていたら今もEARTHで見れただろうか)の古村大介が怪我をして出演出来なくなったことによるピンチヒッター出演だった。(同年は別日にGALAXY STAGEに出演した後の代打出演だった)
SEが鳴ってメンバーがステージに登場すると田邊駿一(ボーカル&ギター)も、
「3年ぶりにEARTH STAGEに帰ってきました、BLUE ENCOUNTはじめます!」
と挨拶して始まったのは、2年前はGALAXY STAGEへの出演であり、昨年はEARTH STAGEに戻ってくるはずだったのが開催中止になったからであり、そこにはこのステージに戻ってこれた喜びがひしひしと伝わってくる。
「囮囚」でスタートすると、ステージから客席の天井に向かって放たれるレーザー光線がタイトルの文字を描いているというのは先日のMERRY ROCK PARADEのトリの時と同様であるが、辻村勇太(ベース)はフェスのオフィシャルTシャツをタンクトップにしているのは自分でやっているのだろうか。そもそも冬フェスでタンクトップを着ているという人もそうそういないけれど。
ブルエンらしいエモーショナルなギターロック「ポラリス」も実にブルエンがよく似合うような有名アニメタイアップということもあって完全に代表曲の一つであり、ライブでの定番曲になっているが、そんな中でも田邊が
「あなたへ」
とタイトルコールをして演奏された「あなたへ」はこうしたミドルテンポの曲をフェスで演奏するということも含めて意外な選曲であるが、それは持ち時間が長いこのフェスだからでもあるのだろう。そんなこの曲は学生時代を回想するような歌詞も綴られているのだが、まさに今この瞬間もまた次の瞬間には思い出になっていくかのように、スクリーンには演奏するメンバーの姿がモノクロに加工されて映し出されている。それは意外だと思ったこの曲を必然だと思えるようにしてくれる演出である。
田邊がギターを置いてハンドマイクになると、その田邊のファルセット歌唱が美しく響きながらも、辻村と高村佳秀(ドラム)のダンサブルなビートで観客を踊らせる「バッドパラドックス」から、江口雄也(ギター)がテクニカルなタッピング奏法を披露し、やはり辻村が観客を声は出せないまでも腕を振り上げるように煽りまくり、曲途中から田邊がギターを弾きながら歌うようになる「VS」と曲を連発していく。この曲のコーラスなどはまさに観客が歌うべきものであるのだが、それが出来なくても観客は本当に楽しそうに踊っている。
それは何よりも「DAY × DAY」を演奏している時の、江口、辻村、高村の3人が心から楽しんでいるのがわかるくらいの笑顔を浮かべながら演奏しているからだ。特に基本的にメンバーというよりは客席を見ながら叩いているであろうことから、顔をよく見ることができる高村の笑顔は見ているこちらをもより楽しく、幸せな気持ちにしてくれる。
すると田邊は特に間を置いたりすることなく、フッと「もっと光を」を歌い始める。それは昨年開催することが出来なかったこのフェスに光を照らし出すようにという思いもあったと思われるが、やはりこの曲の持つメッセージや力は今の状況で聴くとより一層響く。田邊の声を張り上げすぎずに丁寧に伝えるように変化したボーカルも、辻村の煽りも、今バンドがこの曲を演奏することによる説得力を強く感じさせてくれる。
するとここまではほとんどMCを挟まずに曲を連発してきた田邊はここで、
「あなたが求め続けてくれれば、望み続けてくれれば音楽は止まらないから。俺たちアーティストもイベントを作る人も居場所を作って待ってるから」
と、バンドもイベントやフェスの主催者も同じ気持ちで動いていることを口にする。それが今1番伝えたいことだっただろうから、他にMCを挟まなかったのだろう。そう言ってくれるなら、もっと望もう、もっと求めようと思った。ブルエンも、ライブを作っている人たちも必ずその思いに応えてくれるだろうから。
そんな思いを口にした後に最後に演奏された「ハミングバード」で、田邊は思いっきり感情を込めて
「間違っちゃいないから
夢中で飛び込んだ世界は正解だ」
というフレーズを歌う。こういうバンドがいてくれるから、こうして飛び込んだこのフェスという世界は正解だと思える。そして演奏を終えると最後には
「俺たちは音楽を止めないから、あなたは人生を止めないでくれ!」
と叫ぶ。きっとこのメッセージに、このバンドに、この音によって人生を前に進めていける人もたくさんいるはず。3年ぶりのEARTH STAGEは、このステージこそがブルエンに相応しいステージであるということを証明するようなものだった。
メリロの時もそうだったし、
「誰が何を言っても気にするな。俺たちは恥ずべきことや後ろめたいことは何もしていない。だから傷つけられても傷つけんな」
と言ってくれたJAPAN JAMの時もそうだったし、この日もそうだ。2021年ほどブルエンのライブに救われたと思った1年はなかった。そうして救ってくれたこのバンドに少しでも返せるように、2022年はワンマンにも行きたいと思う。でもきっとそこでまたバンドから何か力を貰って…って結局貰ってばっかりになるのがわかるくらいのライブをしてくれるバンドなのもわかっているのだけれど。
リハ.Never Ending Story
リハ.HAPPY ENDING STORY
1.囮囚
2.ポラリス
3.あなたへ
4.バッドパラドックス
5.VS
6.DAY × DAY
7.もっと光を
8.ハミングバード
12:50〜 KANA-BOON
サウンドチェックでメンバーが出てきて曲を演奏していたのだが、「1.2. step to you」を演奏している時に外音が出なくなって、ほぼ最前の人しか音が聞こえないくらいの状態になった。それでも会場からは手拍子が鳴らされていた。それはここにいた人たちがみんなKANA-BOONというバンドのことを、この曲のことを覚えているという証拠だった。
結果的には中止になっただけに開催することが出来なかったけれど、昨年のラインナップにはKANA-BOONの名前はなかった。それだけに、このフェスに帰ってきたという感覚が強くある。
サポートベースのマーシーこと遠藤昌巳を含めた4人がステージに登場すると、まだ顔と体がふっくらしているように見えるし、髪もだいぶ伸びたように感じる谷口鮪(ボーカル&ギター)が、
「キュウソもブルエンも最高やったね。最後のサンボマスターまでみんなで繋いでいきましょう!俺たちも本気でやります!」
と気合いを新たにしていきなり大名曲「シルエット」でスタートするのだが「みんなで繋いでいく」の「みんな」の中にKANA-BOONが入っているということも、リハの手拍子も全てが感動して泣けてきてしまう。JAPAN JAMでもライブを見ているし、復活ライブも配信で見ていたけれど、毎年ずっと見てきたこのステージにKANA-BOONがこうして立っているということが本当に嬉しいのだ。
でもただステージに立っているだけじゃなくて、活動を休止していた鮪は歌うのが実に難しい(カラオケで歌うと痛感する)この「シルエット」を全く声に衰えを感じることなく歌っているし、それは早くも演奏された「ないものねだり」でもそうなのだが、やはり間奏の手拍子のタイミングを古賀隼斗(ギター)に合わせるまでもなく完璧に覚えている人ばかりというのは、KANA-BOONというバンドとその曲たちを本当に大切にしてきた人がたくさんいるということを感じさせてくれる。
とはいえ、今までは盛大にコール&レスポンスを展開してきたこの曲も、今はそれをすることはできない。代わりに
「みんながKANA-BOONのドラムになってもらっていいですか!」
と鮪が呼びかけて小泉貴裕のドラムのビートを止めさせると、観客がドラムのリズムを手拍子で叩いて曲を繋げていく。その音の大きさとリズムの合いっぷりに
「みんなこいちゃんよりドラム上手いな〜!(そんなわけない)
これで今日からみんなもKANA-BOONのメンバーってことで!」
と鮪も満足そうに最後のサビへと突入していって、その高速四つ打ちビートに合わせて観客も踊りまくる。シーン登場時は散々そのリズムに関して叩かれまくったりもしたけれど、これほど良い曲を書いて、それに見合うリズムとして四つ打ちを選んだバンドだからこそ今もこうしてたくさんの人に待たれていたんだなということがこの規模でのライブを見るとよくわかる。
KANA-BOONには季節感を感じさせる曲も多いというのは、鮪がそうした情景を歌詞にするのが実に上手い作詞家でもあるからなのだが、この日も冬のダンスチューン「ネリネ」(だいたい12月くらいまでに咲く彼岸花の類)から、
「冬の曲を」
と言って、切なさが音となって弾けるような「スノーグローブ」という冬の曲が続く。まだこの幕張をはじめとした千葉県には雪は降っていないが、この曲が演奏されると会場の外は一面雪景色になっているんじゃないかとすら思えてくる。鮪の歌詞はそんなことを想起させるし、そんな歌詞をまだメジャーデビューしてから間もない時期に書いていたということが驚きでもある。
「いやー、本当に楽しい。こんなに楽しいことがこの世に他にあるかね?」
という鮪の言葉と、それを聞いていた古賀と小泉の笑顔までもが泣けてくるのは、やはり鮪がライブを再びそう感じられるようになったんだな、と思うからであるが、その言葉の後に演奏された「まっさら」の鮪のどこまでも伸びていくかのようなボーカルとメンバーのコーラスがその楽しさを音として表してくれている。出来ることなら早く我々もメンバー(もちろんマーシーもコーラスをしている)と一緒にこの曲のコーラス部分を歌えるようになりたいものである。
そこからさらに「フルドライブ」で加速していく姿はさすがに今まさに鮪復帰後初の全国ツアーを回っているバンドとしての最前線で戦っている疾走感を感じさせ、それが「Torch of Liberty」の社会への鋭い視点を持った歌詞の歌唱にも繋がっていくのだが、その後に鮪は自身が全てを投げ出してしまった時のことをステージ上からありのままに話す。そこにはこれから一緒に音楽を作っていくはずだった仲間の津野米咲の死など、コロナ禍になってからの様々な悲しい記憶や経験が呼び起こされたりもするのだが、1番キツかった自分自身がこうしてステージに立っているからこそ歌えることがあるということを、復帰後にリリースされた「Re:Pray」で歌うのだが、そこには悲しい別れも、それを経てまた先へ進んでいくという希望も一緒に歌詞になっている。こんなにこの曲に説得力を持たせて歌うことができるボーカリストは他にいないだろうなと思うのは歌っている鮪自身の再生のストーリーでもあるからである。
そして鮪は、
「夏も冬も、またフェスで会いましょう!」
と言って煌びやかなサウンドの「スターマーカー」を演奏し始めた。その音の煌めきは確かにKANA-BOONのこれからを照らすようであり、KANA-BOONをずっと見てきた我々に「もう大丈夫だ」と言っているかのようだったし、演奏後に鮪は
「次はKEYTALKです!」
と言ってステージから去っていった。自分自身の復帰というだけでいっぱいでも仕方がないような中でも、鮪はあくまでこのフェスを次へ、最後まで繋げようとしていた。
「音楽を止めない、フェスを止めない」
という今回のフェスのテーマも鮪は口にしていたが、それは自分たち自身ももう止まることはないという意思表示のようだった。
この日のMCでもSNSでも、鮪は本当にポジティブなメッセージを放ち続けている。個人的にはもうそこまで背負わなくてもいいし、売れるとか売れないとか全然気にすることなく、ただただ楽しく音楽をやってくれたらそれでいいとも思うのだけれど、鮪はKANA-BOONというバンドで何をすべきか、何が出来るのかということに誰よりも自覚的に向き合っているからこそ、そうしてまた重いものを自ら背負っている。でもそうして背負えるものが今もあるということがバンドの力にもなっているということもわかる。年明けにようやく見れるツアーファイナルが今から本当にただただ楽しみで仕方がない。今日よりはるかにたくさんの、KANA-BOONが生み出してきた名曲たちを聴くことができるのだから。
リハ.盛者必衰の理、お断り
リハ.1.2. step to you
1.シルエット
2.ないものねだり
3.ネリネ
4.スノーグローブ
5.まっさら
6.フルドライブ
7.Torch of Liberty
8.Re:Pray
9.スターマーカー
14:05〜 KEYTALK
あえてセトリに記載することはしないけれど、THE ORAL CIGARETTES(何故か今回は出演していない)のことが大好きな小野武正(ギター、かつてオーラル山中拓也とスペシャのドラマで共演していた)が「5150」を歌ったかと思いきや、
武正「久しぶりに「グローブ」やりましょう」
巨匠(ボーカル&ギター)「コードなんだっけ?テンポいくつだっけ?」
八木優樹(ドラム)「俺イントロしか覚えてない」
巨匠「やるの5〜6年ぶりとかですよ」
と言いながらも演奏できてしまうというあたりに、このバンドがあらゆる曲をどんな時でも演奏できるということをサウンドチェックの段階で示してくれるKEYTALK、もはや配信も含めてロッキンオンのフェスの特攻隊長的な存在である。
おなじみの「物販」のSEでメンバーが元気よく登場するというのは変わらないKEYTALKの姿であるが、1曲目に2021年リリースのアルバム「ACTION!」の中から首藤義勝(ベース&ボーカル)メインボーカルの「大脱走」から始まるというのはなかなか意外なオープニングである。フェスでは割と定番曲が多く演奏されるというスタイルも今年の春からのフェスで変わりつつあることを感じさせてきたが、新作アルバムが出たことによってその幅はさらに広くなってきている。
観客が振り付けを踊りまくる「MONSTER DANCE」がこの序盤で演奏されたというのもセトリの組み方の変化を感じさせるのだが、メリロでは来るべき春の到来を予感させるように最後に演奏された「桜花爛漫」も早くもここで演奏され、この後にどんな曲が演奏されるのか全く想像がつかない。巨匠も義勝も実に良く声が出ている。
「EARTH STAGEで、アス!」
という八木のスベッてもおかしくないような挨拶がウケて拍手を貰ったことによって、この日の観客の温かさを武正と巨匠が感じていたのだが、それはこのバンドのライブを楽しみにしていた人がたくさんいるということである。
義勝が自身に近づいてくるカメラに向かって目線を合わせたり指を差したりしながら歌うのが楽しそうでもあり、あざとさも感じさせる「パラレル」から、その義勝がイントロでスラップベースを炸裂させて観客を踊らせまくる「MATSURI BAYASHI」と続いていくと、
「音楽を止めない、フェスを止めない」
という今回のこのフェスのテーマを、コロナ禍になる前にリリースしたアルバム「DON’T STOP THE MUSIC」に繋がるフレーズを持つ「BUBBLE-GUM MAGIC」に込める。音楽が止まらないことで、この曲で踊り続けることができる。コロナ禍になってからは慎重にライブ再開までのタイミングを見極めてきたバンドであるが、春からフェスに出演してきたことによってもう完全にその意思は固まったと言えるだろう。
「ACTION!」の1曲目に収録されている曲でもあり、メリロの時は1曲目に演奏されていたお祭りソング「宴はヨイヨイ恋しぐれ」がこの日はここで演奏されるのだが、
義勝「この恋 叶うのでしょうか?」
巨匠「いやーわかりません」
という曲中のコミカルなやり取りもKEYTALKのキャラクターだからこそ成立するものであるのだが、武正が
「僕たちは2013年にMOON STAGEに出演してからずっと出させてもらっている」
(この日、前に出演したBLUE ENCOUNTもキュウソも同年にMOON STAGEに出演している)
とこのフェスの小さいステージから始まってこのEARTH STAGEまで辿り着いたことを感じさせる歴史を口にすると、
「フェスと一緒に大きくなってきた僕らの中でも大事な2曲を」
と巨匠が言って切ないメロディを歌い始めたのはこうしたフェスで演奏されるのが実に久しぶりに感じられる「バイバイアイミスユー」。2015年に夏のロッキンのLAKE STAGEの昼の時間に出演した時に演奏され、まだ四つ打ちバンドというレッテルを貼られがちだった時期にこの美しいメロディでそんな声を黙らせた曲であるのだが、曲中にスクリーンには2015年に行われた日本武道館ワンマンでこの曲が演奏されて、観客がメンバーに内緒でスマホライトを光らせてメンバーが驚いた瞬間が映し出されたのだが、まだメンバーも今よりも若く見えるけれど、ここでこんな演出をするなんて反則だろうと思うくらいに感動してしまっていた。そうしたまだ若手時代のあらゆるライブがこの場に繋がっているのだから。
こちらもまだ若手時代からフェスでも演奏されていた「fiction escape」は義勝が本当に楽しそうに歌い始めると、サビでは観客も完璧なタイミングで手を叩く。若手時代から演奏してきたこの曲たちが、この規模のステージで鳴らされるべきスケールを持っていたということを証明するかのようだった。
そしてこの日はバンドから重大発表があることがすでに告知されていたが、ここでバンドは年明けから全国50本のツアーを行うことを発表する。あまりに本数が多すぎてスクリーンに映し出されたツアー日程は全然ハッキリとは見えないレベルだったのだが、2021年までは延期と中止を繰り返しながら慎重な動きをしてきたバンドがようやく派手に動こうとしている。何よりも
「いろんなところで皆さんに会えたらと思います!旅行も兼ねて来てください!」
と巨匠が言えるような世の中の状況になっているというのは、こうしてフェスが開催されていることも含めて少しでも前に進めているということを感じさせてくれる。
そうして様々なタイプの曲を演奏してきただけに、果たして最後には何の曲を?と思っていたら、最後に演奏されたのは手拍子に導かれて始まった「Summer Venus」で、間奏のEDMサウンドに合わせて飛び跳ねて踊りまくるのも含めて、それは今や誰よりも夏アンセムを持つこのバンドが、来年の夏にはこの曲を含めたその曲たちを、ひたちなかで演奏できるようにという願いを込めているかのようだった。やっぱりKEYTALKには夏が1番良く似合うから。
演奏後には巨匠が
「次はゲスの極み乙女。です!」
と紹介した。ブルエンとキュウソだけでなく、KANA-BOONも1314のこのフェスにGALAXY STAGEで初出演を果たし、ゲスの極み乙女。もその年の年明け後のCOSMO STAGEの大トリで初出演を果たした。同世代として同じタイミングでフェスに出始めて、同じように小さいステージからEARTH STAGEまで到達することができた。そんなバンドたちによる、フェスでしか感じられない良い流れが確かにこの日には漂っていた。
リハ.DROP2
リハ.太陽系リフレイン
リハ.グローブ
1.大脱走
2.MONSTER DANCE
3.桜花爛漫
4.パラレル
5.MATSURI BAYASHI
6.BUBBLE-GUM MAGIC
7.宴はヨイヨイ恋しぐれ
8.バイバイアイミスユー
9.fiction escape
10.Summer Venus
15:20〜 ゲスの極み乙女。
そんなこのフェスの1314の年明け後のCOSMO STAGEの大トリとして初出演を果たして大旋風を巻き起こした、ゲスの極み乙女。。良くも悪くもテレビなどのメディアで話題になったのが早かっただけに、ここまでのバンドの中では最も早くメインステージに辿り着いた存在でもある。
DADARAYのメンバーでもあるえつこと、ささみおというおなじみの2人のコーラスメンバーとともに4人がステージに登場すると、「crying march」からそのメンバーの高い演奏力を遺憾なく発揮する。川谷絵音(ボーカル&ギター)の切なさと儚さをたっぷり孕んだ歌声がそのメロディを強調している中、「パラレルスペック」ではイントロからゴリゴリのベースを鳴らしていた休日課長に川谷がソロを依頼すると、何かとキャラクターが目立ちがちな課長がその演奏技術で最大限に目立ち、それはちゃんMARIの流麗なピアノソロ、今や女優としても活躍するほな・いこかの迫力抜群のドラムソロと続き、それぞれのキャラクターが際立ちまくるこのバンドが超人演奏家たちの集まりのバンドであることを改めて感じさせてくれる。
そうした「パラレルスペック」のような踊れる曲もある一方で、川谷絵音節とも言えるような切なさが炸裂している「はしゃぎすぎた街の中で僕は一人遠回りした」はJAPAN JAMでも演奏されていただけに、こうしたフェスでこれからも演奏されていく曲になっていくと思われるのだが、ここまでに出てきたバンドたちとは同世代でありながらもライブの雰囲気は全く違う。川谷がキーボードを弾きながら歌う「ロマンスがありあまる」も含めて、そのあまりに高すぎる演奏力にひたすら圧倒されてしまう。それだけにバンドと一緒に楽しむというような瞬間はほとんどないと言っていい。
なので「ラスカ」から、その続編と言えるような「マルカ」ではR&Bやヒップホップという、なんでもできるメンバーだからこそ、アンテナがあらゆる方向に向いている川谷のバンドだからこそできる要素が詰め込まれており、演奏技術の高さだけならず、どんな音楽性をも乗りこなすことができるメンバーの器用さも感じさせる。
それはバンド最大のキラーチューンであり、ハンドマイクを持った川谷がステージ前まで出てきて自身が腕を上下に振って観客を煽って始まる「キラーボール」の演奏真っ只中に課長に
「今何を考えて弾いてた?」
と問いかけると
「愛。永遠の愛」
と答える課長の反射神経もそうであるし、間奏で
「2021年をピアノで示してみて」
と言われて悲しげなメロディを奏でてから徐々に開放されていくように明るい方へ展開していくというちゃんMARIの天才的なピアノもそうなのだが、2022年がどんな年になるかを思いっきり明るいピアノのメロディで表現した後に曲の演奏に戻ろうとすると思いっきりミスってやり直し、そのちゃんMARIの後ろで普段は敢えて無表情で歌っているコーラスの2人がめちゃくちゃ笑顔になっているのを見ると、このバンドの持つ人間らしさを強く感じさせる。演奏が上手すぎると機械的にすら感じることバンドもいるけれども、このバンドがどんなに演奏が上手くても人間らしさを感じられるのはこうした部分によるものだろう。
そんな演奏を見せた後に川谷は
「これからも良い曲、良い音楽をひたすら作り続けていこうと思っています」
と自身の思いを口にする。それはSNSでも発信したことでありながらも、そこでは何故か若干炎上気味になったのだけれど、川谷なりのこの状況の進み方はそれであるし、ミュージシャンである以上はそれでしかないと思う。そうして作った良い曲や良い音楽がそれを聴いた人に影響を与えていく。ミュージシャンとしてそれ以上のことはないんじゃないかと思うから。
そうして最後に演奏されたのは川谷の綴る歌詞が次々に放たれていく「アオミ」。どこまでいってもこうした切ない歌詞が出てきてしまうというのは、このバンド以外のアウトプットでもそうなってしまうという川谷の持つ業のようなものであるが、その川谷はボーカルパートを歌い終わると真っ先にステージから去っていく。そうして次々にそれぞれの演奏を終えたメンバーがステージからいなくなると、最後にステージに残ったちゃんMARIが締めのピアノを弾き、演奏が終わるとステージ中央まで出てきてバンドを代表して客席に頭を下げてからステージを去っていった。それはこのバンドが「川谷絵音のバンド」ではなくて、この4人だからこそのバンドであることを示していた。同時に誰かにどんなことがあっても、あくまで音楽で結びついている信頼関係を持っているバンドであるとも。
1.crying march
2.パラレルスペック
3.はしゃぎすぎた街の中で僕は一人遠回りした
4.ロマンスがありあまる
5.ラスカ
6.マルカ
7.キラーボール
8.アオミ
16:35〜 ずっと真夜中でいいのに。
本来ならば昨年のこのフェスでの年越し後のEARTH STAGE、つまりはEARTH STAGEの大トリとしてこのフェスに集まった人を驚愕させていたであろう、ずっと真夜中でいいのに。。
2年前のGALAXY STAGEでの初出演時も年明け後の時間帯の出演だったが、今回は初めての真夜中ではない時間の出演となる。
時間前からステージにはバンドメンバーがすでにスタンバイしており、Open Reel Ensembleのメンバーである吉田悠と吉田匡がオープンリールを、和田永がテレビドラムを叩いて
「もういくつ寝るとお正月」
という「お正月」のフレーズを演奏すると、ACAね(ボーカル)もステージに登場し、二家本亮介のファンキーなベースによる「お勉強しといてよ」でライブがスタートし、ACAねはその透明感の強いボーカルを響かせるのだが、やはりスクリーンにACAねの顔が映ることはなく、照明も薄暗いために顔は全く見えない。とはいえ、2年前に出演した際にはステージに紗幕を張ってそこに映像を投影していただけに、それがなくなってダイレクトにステージが見えるようになったこの日は、カッティングを刻む佐々木”コジロー”貴之(ギター)らメンバー全員がずとまよ仕様の特攻服を着てスカーフを口のあたりに巻いているという「やきやきヤンキーツアー」から連なる出で立ちになっている。それに合わせて金髪リーゼントという髪型になった河村吉宏(ドラム)はやたらとカメラが近くにいるだけに最もはっきり顔が映し出されている。
ACAねが徐にテレビドラムに近づいていって叩いたり音を歪ませたりするなど、さすが様々な日用品などを楽器に改造してきた和田永なだけに、このテレビドラムもエフェクターなどをつけてその都度音を変化させていることがわかるのだが、そうしてイントロの音を作り出してから曲に入ったのは淡々としたメロからサビで一気に爆発力を発揮する「マイノリティ脈絡」と、早くもライブにおけるキラーチューンが前半で放たれていく。
それは精力的に新曲を生み出し続けてライブのセトリも更新されているということの証明でもあるのだが、
「新曲」
とだけ言って演奏された「猫リセット」はスクリーンにタイトル通りに猫が主人公のアクションゲームのような画面が次々に映し出されていく。この曲もそうであるが、近年の曲はライブで聴くとよりファンキーさが際立つ曲が多いだけに、二家本と河村という強力なリズム隊がいることは本当に大きいと思う。
そのファンキーさを引き継ぐように演奏された「MILABO」では村山☆潤のピアノのサウンドも美しく響きながらステージ上に配置されたミラーボールがタイトル通りに輝きを放つのだが、ACAねは2サビを最後のサビと勘違いして間奏に入っていく部分でさらに歌おうとして
「あっ…」
と自分の間違いに気付くのだが、メンバーは全く気にすることなくそのまま演奏しているし、ACAねもそれに触れるようなことを全くしないというのはMCもないどころかメンバーの姿も完全には見えないずとまよならではのはぐらかし方である。
そんな中でギアチェンジするように河村のドラムとACAねの声をメインにしたレイドバックしたサウンドの「君がいて水になる」ではACAねが扇風機を改造して琴の音を出せるようにした、ガジェット的に見ていてワクワクしてしまう楽器を鳴らしまくる。
そしてずとまよがシーンに登場したことを高らかに宣言した「秒針を噛む」ではコロナ禍前はコール&レスポンスをしていた最後のサビ前はコール&手拍子になっていて、そこでは物販で売られているしゃもじを2本持って鳴らすとより音が響くのがわかる。この日はしゃもじを使う曲は全く演奏されていないが、今の世の中の状況におけるずとまよのライブはそれがより必需品になっているということを感じる。
しかしながらそれを遥かに上回るようなインパクトを残すのはやはりACAねのその人間とは思えないような凄まじい歌唱力である。もはや歌の妖精というくらいに常人離れしたその歌唱力はこの「秒針を噛む」の最後に思いっきり張り上げる姿から震えるくらいに感じられるのだが、それだけが凄まじいのではなくて、バンドの演奏も完全にそのACAねの声に見合う強靭さを、自分たちもずっと真夜中でいいのに。の一員であるという意識を持った上で鳴らしている。
もう無理矢理この4日間の出演者にその凄まじさを当てはめるとするならば、「Coccoのボーカルで演奏がNUMBER GIRLの現代版」と言えるだろうか。それくらいに歌唱も演奏も異次元のレベルである。EARTH STAGEだけになったことで、化け物クラスのアクトばかり見ていることになる4日間の中でも最大レベルの凄まじさを音として放っている。
すると普段は辿々しいMCをしているACAねはそうした感じは一切感じさせることなく、
「今年最後の日にこうやって目の前にみんながいてくれて救われました」
とハッキリと口にする。それは今のACAねはあくまでも目の前にいてくれる人のために歌を歌っているからだ。それは昨年からいち早くライブを再開してきたという自身のスタンスにも現れているが、聴いてくれる人、見てくれる人がいるからこそ、その感情を歌に込めることができる。むしろ、そうした存在がいないとその感情の行き場がないというくらいに。
それが現れているのは最新の配信曲である「あいつら全員同窓会」で、キャッチーなメロディとファンキーな演奏によって観客は踊りまくると、最後に演奏されたのはこのフェスの2年ぶりの開催を祝うようにクラッカーを鳴らすようにして演奏された「脳裏上のクラッカー」で、ACAねが再び扇風琴をグワングワン響かせるのを筆頭に、Open Reel Ensembleのメンバーも含めた1人ずつのソロも展開されるのだが、そんなメンバーたちの鳴らす音の印象を、ACAねの最後の叫び声はあっさり塗り替えてしまう。なんでこんな声が出せるのだろう。なんでその声を聴くだけでこんなにも体が震えて涙が出てくるのだろう。それは絶対に科学や理論では解明することができない。
「目に見えるものが全てって思いたいのに」
本当にそう思う。でも目で見ることができないずとまよの音楽が、ライブがあまりにも凄まじすぎて。
リリースを重ねてきたことによって持ち曲が増えた。それによってライブではできない曲も増えてきた。しかしながら自分は「正義」という、初見の人を確実に音でぶっ飛ばせる曲を何故やらないんだろうか、とも思ってもしまうけれど、2年前はステージに張っていた紗幕をなくしたのは、今このフェスに出ても自分の顔や姿をスマホで撮影しようとしたりする人がいないだろうという観客への、フェスへの信頼があるからこそだ。そのACAねの我々への信頼には何としても応えなければいけないと思う。それは絶対にずとまよのライブでしか感じることができない、体感することができないものを与えてくれるからだ。長いことこうしてライブやフェスに行き続けているけれど、こんなに凄い人は今までに出会ったことがないというくらいのレベルだ。2021年の最後にずとまよのライブが見れて本当に良かった。
1.お勉強しといてよ
2.マイノリティ脈絡
3.猫リセット
4.MILABO
5.君がいて水になる
6.秒針を噛む
7.あいつら全員同窓会
8.脳裏上のクラッカー
17:50〜 04 Limited Sazabys
今年はこの幕張メッセ(使用しているホールは違うけれど)でYON EXPOを2daysで開催し、パンクバンドとしてこうしたアリーナ規模でも自分たちなりのライブをするという意思をコロナ禍の中でも感じさせた、フォーリミ。もちろんこのライブが2021年最後のライブとなる。
おなじみのアッパーなSEで4人が登場し、KOUHEI(ドラム)、HIROKAZ(ギター)、RYU-TA(ギター)が台の上に立って手を叩いて煽ると、GEN(ボーカル&ベース)はハーゲンダッツのバーガンディ色のパーカーを着てステージに現れ、
「自分自身に、生まれ変われ!」
と言った瞬間にKOUHEIの激しいビートが鳴らされ、HIROKAZのリフが乗っていく「Squall」からスタートする。ライブの最後などのクライマックスを担うことも多い曲であるが、この曲に込められたメッセージは1年の最後の日という自分自身が生まれ変わるきっかけと言えるタイミングで最初に演奏されるのが実にピッタリに感じる。
さらにあの象徴的なギターのイントロとともにGENは腕を振り上げると、RYU-TAが
「かかってこいよー!」
と煽る「monolith」でGENは
「きっと間違えられないな
2021年最後のEARTH STAGEは」
と歌詞を変え、それが今このライブが今年いろんな場所で何回も見てきたフォーリミの今年最後のライブであるということを改めて感じさせてくれる。
レーザー光線がステージから客席に向かって飛び交う「fiction」から「Alien」という流れはライブハウスでしかやらないというパンク・メロコアバンドとは違う、アリーナにも挑んでいく、そこで自分たちの音楽をたくさんの人に聴いてもらうという道を選んだフォーリミだからこそできるパンクバンドなりの演出である。サウンドもハードであったりダンサブルであったりと、見ている観客の体を熱くさせてくれる。
するとそのまま次の曲の演奏に入り、スクリーンには映像も映し出されたかと思いきや、GENがKOUHEIに
「お前ミスったろ!」
と突っ込むので、そうしたメンバー同士が揉めているかのような茶番を演じてから演奏される「Garapagos」かとおそらくファンの誰もが思ったであろう中でもう一度演奏をやり直して始まったのはまさかの「swim」。これはバンド側もしてやったりというか、ファンの予想を心地良く裏切れたんじゃないだろうか。
GENはこの曲の
「もがいて沈んでまた息継ぎ」
というフレーズ部分で歌詞を変えることを最近はしなくなったけれど、だからこそ
「信じろ 未来を」
というその直後のフレーズをより一層伸びやかに歌えている。ワンマンを見ても思うことであるが、GENは本当にボーカルとして我々の見えないところで努力し続けているのだと思う。この日のMCで
「遅刻したり時間を守れなかったり、なんで他の人が普通にできることができないんだろうって思う時もある」
と言っていたが、でも普通の人では絶対にできないことをGENはできている。
「今年は1ステージだけの開催ですけど、僕らがこうして残れているのが本当に嬉しいしありがたい。それはここにいる皆さんのおかげです」
というGENの言葉には「いやいや、この規模でワンマン2daysやってるバンドなんだから絶対残るでしょう」と思ってしまうのだが、そんな喜びが「message」の短い演奏時間には溢れている。
近年はなかなかライブで定番になるようなキラーチューンが生まれないというか、敢えてリリースしたばかりの曲をこうしたフェスくらいの持ち時間では演奏していないようにも感じていたのだが、この2021年にはバンドにとっても会心のリリースと言えるであろうシングルをリリースしたことで、当然その収録曲である「fade」もここで披露される。その会心っぷりはフォーリミらしさに自分たちが改めて向き合うことと同義だと思われるが、どんどんキーが高くなり切迫していくようなこの曲も完璧に歌い切っているGENのボーカルは本当に素晴らしいと思う。
するとそのGENのベースがイントロを鳴らし、緑色の照明がバンドを照らすのは「Grasshopper」。かつて日本武道館で初ワンマンを行った時に武道館のスクリーンに映し出された
「明日の自分はどうだ?」
のフレーズは歌っていることはそのままであるが、スクリーンには
「来年の自分はどうだ?」
と映し出されている。メンバーは
「今日大晦日感全然ないよね。今年はこのフェスも年越しないし」
とMCで言っていて、それは確かに我々も感じていたことであるのだが、この演出を見たら明日はもう来年になっているということを改めて突きつけられた気がした。それはフォーリミがこの曲を演奏する姿に背筋を正されるような感覚にもなった。
ここでGENは先ほど記した、自分が他の人にできることができないということを口にした後に、それでも
「終わりよければすべてよしっていう僕の大好きな言葉がある。ここで出会えた皆さんにこの曲を送ります!」
と言ってサウンドもGENのボーカルも、ずっとこの音の中に浸っていたいと思うくらいに心地良い「hello」が演奏される。YON FESなどで聴いた時もそうだったが、この曲は広い会場でその隅々まで響かせるように演奏されるのが本当によく似合う曲だと思う。だからこそ、またYON FESなどいろんなそういう会場で演奏されるのを聴きたくなる。2021年は行くことが出来なかったそうした会場に2022年は戻ることができたら。
そんなGENの、バンドの音楽を届けたいという気持ちが最新シングルとして形になった「Just」もまたフォーリミのキャッチーなメロディサイドのスタンダードを更新するように鳴らされると、
「来年はYON FESもやるんで、また色んなところで会いましょう!皆さんとの再会を祈って、この曲を最後に演奏します!」
と言って演奏された「Terminal」は最低にも近いようなことも音楽シーン、ライブシーンにはたくさんあった2021年から、2022年は
「最高な世界になったら
きっと愛せるんじゃないか
何処にある ここにある
最後は 君といたいから」
という願いを思いっきり声と音に込めているかのようだったのだが、曲が終わるとGENは
「まだ1分くらい残ってるな。忘れんなよ!」
と言って「Remember」を追加する。KOUHEIがサビ前のドラムロール時に自身を映すカメラをじっと見つめながら叩くというのもこの曲のおなじみであるが、この日のライブも、2021年に見てきたフォーリミのいろんなライブも忘れることはない。その姿から確かにロックバンドの光を感じてきたからだ。
これまで毎年このフェスにはGALAXY STAGE、COSMO STAGE、MOON STAGE、ASTRO ARENAというステージにパンク、メロコアバンドたちが立ってきた。
このフェスのパンクの火を絶やさずに毎年出演してきたdustboxもGOOD4NOTHINGもTOTALFATも、普段の自分たちのライブとは違うルールがあるこのフェスに自分たちなりに折り合いをつけて出演してきたlocofrankも、それらのバンドの思いを継ぐように近年は毎年出演しているSHANKもDizzy Sunfistも今年は出演出来なかった。つまり、今年このフェスからパンク・メロコアの火が消えなかったのはフォーリミがいてくれたからだ。
「来年の自分はどうだ?」
2022年はYON FESにも行きたいし、中止になってしまった2021のこのフェスでやるはずだった、フォーリミのEARTH STAGEでの年越しが見たい。こうしてこのフェスのパンクの象徴になった、フォーリミの年越しを。
リハ.soup
リハ.escape
リハ.days
1.Squall
2.monolith
3.fiction
4.Alien
5.swim
6.message
7.fade
8.Grasshopper
9.hello
10.Just
11.Terminal
12.Remember
19:05〜 サンボマスター
3年前の1819でEARTH STAGEのカウントダウンを務めたサンボマスターが特殊な形での開催となった今回のCDJの大トリ。この直前には山口隆(ボーカル&ギター)が網膜剥離の手術を受けたことによって、山口の顔がデカデカとプリントされた、何とも攻めたデザインの復活Tシャツが販売されているという面でも、いろんな理由でめでたい大トリのライブである。
普段はゴダイゴ「モンキーマジック」のSEで観客を煽りまくりながら登場するのがおなじみになっているのだが、この日はどこか静謐な、トラック的とも言えるようなサウンドが会場に流れる中でメンバーがステージに登場する。
そのメンバーがそのままSEを引き継ぐように演奏を始めたのは山口がラップのように言葉を紡いでいき、その中に
「put your hands up」「どんでん返し」
などの観客に力を与えるようなフレーズが入っており、新曲とは思えないくらいに観客の腕が上がる。意外なスタートでもありながらも、サンボマスターが新しい一年に向かって自分たちを更新していこうという意思が感じられる。なかなかバンドにはこうした曲が他にないだけに。
「伝説のライブをやりましょうねー!」
と曲終わりで山口が叫ぶと、すぐさま「世界をかえさせておくれよ」でいつものサンボマスターのライブの熱量に満ちていくのだが、山口は
「フェスの大トリでは盛り上がらない協会の方々ですか?恥ずかしがってんじゃねぇぞー!」
と、声は出せなくても腕を上げてバンドの熱さに応える観客をさらに煽りまくる。その姿にこの日出演した様々なバンドのTシャツを着た観客が全員熱狂的なリアクションを取っているというのも本当に凄い。これまでにサンボマスターが様々なフェスで伝説を起こしてきた結果である。
さらに「世界はそれを愛と呼ぶんだぜ」で観客が声が出せない代わりに髪がまた伸びてきたように感じる近藤洋一(ベース)といつもと全く変わらない出で立ちの木内泰史(ドラム)が「愛と平和」のフレーズを叫びまくる。観客は声は出せなくてもサンボマスターのライブ、この曲だからこそのピースサインを掲げて応える。声を出すことはできなくても、このフレーズの意味合いがより大きく響くようになってきた世の中であることを感じる。つまり、この曲が今こそ鳴らされるべき曲であると。
すると同期のサウンドも使った「孤独とランデブー」で山口がリズムに合わせてまた「オイ!オイ!」と煽りまくって観客も踊りまくるのだが、先日のワンマンではMCが長くなるという療養の影響もあったと言われている山口は持ち時間がワンマンほど長くないフェスだからか、その影響を全く感じさせない。ただひたすらに熱いサンボマスターのライブそのものである。
そんな熱さから一転するように山口がギターを鳴らしながら歌い始めたのは「ラブソング」で、山口の歌のみが響くAメロで木内は自身の手にライトを装着して腕を振る。その光を見た観客たちがスマホライトを振る。
「神様って人が君を連れ去って 二度とは逢えないと僕に言う
どこに行くんだよ 僕は何もできなかったよ
美しすぎた人よ」
というフレーズが2021年の様々な人との別れや喪失を喚起させるが、そのほとんどがこの状況下ゆえに別れの言葉を交わすことや最後に会ったりすることもできないものだった。
しかしこのスマホライトが、ここにいる我々は確かに今生きているという生命の光として輝く。そして山口はそうした2021年に経験した自身の別れを噛み締めるように最後のサビを歌う前に間を置く。今は観客が声を上げることはできない状況だけれど、声を出せたとしても誰もこの瞬間には声を発することなんて出来なかっただろう。それは我々もその瞬間に確かに経験した別れを噛み締めていたからである。
そんな経験をしても前に進まないといけない、まだまだ人生は続いていくということをポジティブなものとして感じさせてくれる「輝きだして走ってく」での観客の手拍子がさらにバンドに疾走感を与えていく。それによって今やサンボマスターのライブでの最大のアンセムと言える存在となった「できっこないを やらなくちゃ」で観客が飛び跳ねまくる。ああ、またみんなで
「アイワナビーア君の全て!」
のフレーズを叫びたい。そうすることで得られる力が確かにあるものを我々はこれまでに見てきたサンボマスターのライブで知っているから。それを再び走り出したサンボマスターとともに取り戻しにいきたいんだ。
そしてここでかねてから予告されていた、年越しができない今年でもカウントダウンが「できっこないを やらなくちゃ」のアウトロから始まる。何度も曲のリフを繰り返しながらカウントダウンをすると、0になった瞬間に特効が炸裂し、
「ロックンロールの新年を迎えました!」
とステージ上にも門松などが用意されて、まだ12月31日の20時前だというのに元日を迎えた感しかなくなると、ここで近藤が各地の新年の様子を中継しに行くということでいったんステージを捌けて、中継を繋げると近藤は新年の衣装を選んでおり、そこで選んだ獅子舞の衣装でステージに戻ってくる。
そんなライブのクライマックスとして演奏されたのは、ここにいるあなた1人1人が花束であるということを示すような「花束」で、
「あなたは花束 さびしさにさよなら 大丈夫なんだから」
というバンドからのメッセージが我々1人1人に送られていく。そんな中で間奏では再び近藤が各地に中継に行くのだが、近藤が餅つきをしている餅を捏ねているのはMAN WITH A MISSIONのカミカゼ・ボーイであり、さらには書き初めにもカミカゼは登場し、山口に
「なんでこの2人こんなに仲が良いんだ!」
と突っ込まれながらも、カミカゼは「楽」(異様に習字が上手い)、近藤が「音」を書いて、2人が書いた文字が合わさって「音楽」となり、その書き初めを持って近藤とスタッフがその書き初めを持ってくると、山口は
「中止、延期など様々なことを乗り越えてきたあなたたちと音楽関係者の皆様たちが花束です!」
と1年間、いや、これまで音楽シーン、ライブシーンをどんな形であっても支え続けてきてくれた1人1人が花束であるということとともに
「今年お前が最低だったことなんて一瞬たりともないんだからな!」
「辛いことがあったらまたサンボマスターのライブを見に来てな」
という言葉を送った。これまでだってそうやってサンボマスターのライブに行き続けて乗り越えられてきたことが確かにあった。だからサンボマスターがライブをやり続けてくれる限りはライブに行き続けたいと思う。紛れもなくこのライブはロックンロールの新たな夜明けそのものと言えるものだった。
2日目に出演したサンボマスターの盟友のマキシマム ザ ホルモンのダイスケはんはロッキンオン社長の渋谷陽一のことを「義理のおじいちゃん」という年齢的に辻褄が合わない例えで評していたが、かつてロッキンの前説で渋谷陽一は山口隆のことを「顔が似てない息子のような存在」と評していた。ロッキンオンはそれくらいにサンボマスターのことを信頼し続けてくれている。だからこそ、これからもロッキンオンのフェスが開催され続けてほしい。そうすればそこでサンボマスターのライブが見れるから。
1.新曲
2.世界をかえさせておくれよ
3.世界はそれを愛と呼ぶんだぜ
4.孤独とランデブー
5.ラブソング
6.輝きだして走ってく
7.できっこないを やらなくちゃ
カウントダウン
8.花束 w/ カミカゼ・ボーイ (映像)
3日目のトリを務めたsumikaの片岡健太が言っていたように、はるか昔に初めてロッキンに行った時に感じた「ずっとここに来続けていたい」という感覚。それはこのCDJに初めて来た時も変わらずにずっと持っていた感覚だ。
2021年はいろんなフェスが中止になって、そんなニュースを見るたびに悲しいような、やりきれないような気持ちになった。でもそう思うことで、自分には感情がちゃんとあるということ、そのフェスが、その場所が本当に大事なものだからこそ、そう思えるのだということも感じることができた。だから自分がライブを見たいというのが1番なのは変わらないけれど、少しでもそこに携わる人たちに今までライブを開催してきてくれた分だけ、返せるものがあるなら返したいとも思った。
2021年にそうして大事だと思えた場所に2022年こそはまた行けるように。まだ2019年までのような形で開催することはできないかもしれないけれど、開催してくれる、そこでライブを見れるというだけで本当にありがたいということを改めて思い知った今回のCDJだった。2022年の年末には今回は出演することが出来なかったアーティストたちにもこの幕張で会えるように。この文を何人くらいの人が読んでいただいているのかはわからないが、読んでいただいている人が同じ気持ちだったならばそんなに嬉しいことはない。
文 ソノダマン