ど平日である水曜日の15時30分開演という、1993年生まれの人だとしても社会人として仕事を休まないと来ることができないであろう時間設定で開催された、今最もロックファンからの求心力が強いレーベルであろう、THE NINTH APOLLO主催の「1993」。
Hump Back
ハルカミライ
HERO COMPLEX
INKYMAP
さよならポエジー
というレーベル所属の同世代バンドが集結し、おそらくたくさんの人にとって最後の機会になるであろう新木場STUDIO COASTでのライブ。
検温と消毒を経て入場した客席は立ち位置が床に貼られた自由席。長丁場であるだけに移動できるのはありがたいところであるが、ドリンクメニューからアルコールが消えているというのは今の世の中の状況を考えさせられてしまう。
・さよならポエジー
スリーピースでしかない機材のセッティングによってトップバッターは限られてくるのだが、開演時間前にステージにメンバー3人が登場してきて体を伸ばしたり、向かい合って談笑している姿からトップバッターがこのバンドであるということがわかる。
そのまま暗転すると、オサキアユ(ボーカル&ギター)が
「神戸、さよならポエジーです」
とだけ挨拶して「夜に訊く」を演奏し始める。轟音のスリーピースギターロックではあるけれど、観客はじっとその演奏する姿に目を向けて耳を傾けているというのは激しくて盛り上がるようなイメージも強いであろうこのレーベルの中では稀有な、異質な存在と言えるだろう。
しかしそうしてこのメンツの中でも自分たちの鳴らす音に引きこませることができるというのは、長身ベーシストの岩城弘明と一打一打が実に強くて重いドラマーのナカシマタクヤのリズム隊の力によるものが大きいということが、音源を聴くよりもこうしてライブを見ることによってよくわかる。
さらにはオサキの描く歌詞による物語である。特に「金輪際」からはその短編小説かのような歌詞にグッと引き込まれていく。その物語が脳内でハッキリとした情景を描いていくだけに、じっくりバンドに向き合わざるを得ない。
しかしながらオサキは
「1番手、やりたかったんだよね。こういう空気になるだろうから(笑)トップバッターがハルカミライだったらみんな満足して帰っちゃうかもしれないし(笑)」
となんとも自虐的。さすがに万が一ハルカミライがトップバッターだったとしても、みんなこのバンドのライブを見るために待っていてくれていると思うけれども。
「でもそれなりの才能で俺は俺を救ってやろう」
という歌い出しからして、こんな歌詞を今まで綴り歌ったことがあるバンドがいるんだろうか?とすら思う「二束三文」は、それでもオサキ自身のみならず、今やさよならポエジーの音楽はたくさんの人を救っているからこそ、この日が最初で最後とはいえこうしてCOASTのステージに立てているのだろうけれど、このバンドには「戦場」などの情景を想起させるような歌詞も多い。それはオサキが普段から読んでいるような本、作家の影響によるものなのかもしれないが、だからこそ「応答するまで」での真っ赤な照明は銃声が鳴り響いた後の光景を想起させてしまう。それは楽しいライブというものとは真逆と言えるものでもあるのだが、それを自分たちの音楽として描ける、そもそも描こうとするようなバンドは数少ない。だからこそこのバンドの王道のギターロックバンドのようでいて異端な存在であるということがよくわかる。
まさに会場の空気を一閃するような切れ味鋭い「その一閃」を鳴らすと、オサキは
「俺も全国のライブハウスを全て救いたいって思うこともあったけど、それは俺には無理だってわかった。だから俺の手の届く範囲で救いたい。俺の地元の神戸のライブハウスもそうだけど、みんなも自分の住んでる近くにライブハウスがあって、そこに気になってるバンドが来てくれたらその時は足を運んでみてください」
と語るのだが、大言壮語ではなくあくまで視線が現実的であるというのが実にオサキらしいというか、こうした歌詞を書いている男だよな、と納得できる、言葉と音楽が合致しているバンドであるとわかる。最初で最後のCOASTということでオサキは2人にもMCを振るも、岩城は何もしゃべらず、ナカシマは
「最後まで楽しみましょう」
という挨拶程度のものなのも実にこのバンドらしいけれど。
その言葉の後に演奏された「前線に告ぐ」では言葉を発したことによってかナカシマのドラムがさらに力強さを増す中、
「赤が青になるよう 日々は単調になっていくわ」
という歌い出しに合わせて照明が赤から青に変わりながら、
「あなたなら きっと上手く生き残れるわ」
というリフレインがやはり戦場での無事を祈るように響くと、最後は
「待っていてくれ 遅くなるけれど」
と結ぶことで曲同士が物語の前編と後編であるかのように繋がりを見せる「オールドシンク」で、ギターロックバンドとしてのサウンド、演奏のカッコ良さを最大限に発揮しながら、オサキは
「友達を大切に」
と言って去っていった。それはこの日の出演者たちが紛れもなくこのバンドにとって友達と呼べる存在であることを示すとともに、歌詞やスタイルなどから孤高であるようにも感じるこのバンドが決して孤独ではない、音楽によって仲間をリスペクトし、されているバンドであるということを示していた。その友達たちは2階のバルコニー席からライブを見守り、ライブ後は3人も友達のライブを見ていた。
1.夜に訊く
2.pupa
3.金輪際
4.ランドマークス
5.二束三文
6.応答するまで
7.その一閃
8.前線に告ぐ
9.オールドシンク
・Hump Back
すでにこのCOASTはもちろん、武道館でもワンマンを行っているだけに、もしかしたらトリかもしれないとも思っていたのだが、転換でのセッティングで憧れの存在から受け継いだドラムセットを見て、早くもHump Backがここで登場するということがわかる。
サウンドチェックで曲を演奏すると、ワンマンとは違ってステージから捌けることなくそのままライブが始まるというのはフェスなどでもやっている、持ち時間をフルに使う手法であるが、林萌々子(ボーカル&ギター)が弾き語りをするように「LILLY」のサビを歌い始めると、
「COAST、ありがとうー!」
と叫んでからバンドでの演奏に入っていく。髪がピンクっぽく染まっている林のボーカルはこの時点ですでに絶好調なのがわかる伸びやかさであるし、爆音サウンドであってもボーカルを誤魔化さないというか、その抜群の歌唱力によってバンドの演奏もより飛距離を持つようになっている。ぴか(ベース)はぴょんぴょん飛び跳ねながら演奏し、髪が伸びてきた感のある美咲のドラムは力強さも見るたびに伸びてきている。
やはり林の弾き語り的な歌唱から始まる「生きて行く」ではぴかがその部分で手を指揮者のように振り、バンドでの演奏になると林は
「少年少女、ライブハウスに来てくれてありがとうー!」
と叫ぶのだが、それは確かに若い人が多いこの日の年齢層に合わせたものではなく、メンバーよりも年上であってもこうしてライブハウスに来ている、少年少女の心を持った人にも、つまりはここにいる全員に向けられたものであり、どんな状況であってもHump Backの歌の先にいる人は変わらないということである。
「足がすくんでる」
と歌いながら足を震わせるのも地味に好きなポイントであるのだが、やはり最後には
「ねぇ先生 僕は今 STUDIO COASTで歌ってます!」
と歌詞を変えて歌うことで、この日、この場所であることを忘れることなく脳内に刻みつけることができるのだ。
どこからどう見ても、どう聴いてもロックバンドでありながらもキャッチーな「恋をしよう」から「オレンジ」では美咲のドラムの一打一打がさらに力強さを増す中で、最後のサビで林はノイジーなギターを鳴らしながら観客を煽るように歌う。その姿はシーンの最前線かつど真ん中で自分たちのスタンスを貫いて音を鳴らしているバンドの頼もしさに満ちている。
「ハルカミライのマネージャーから「ハルカミライで誰推し?」って聞かれて「…小松かな」って言ったら、小松カラーの青のタオルを貰ったんだけど、2人も同じ青のタオルを貰っていた(笑)」
と、バンド丸ごと小松推しであることが発覚し、実際にその小松カラーのタオルで汗を拭うと、自分たちが大阪からこの新木場にやって来るように、さよならポエジーが神戸からやって来るように、HERO COMPLEXが北九州からやって来るように…つまりはバンドの生き方、生き様をヒップホップ的とも言える歌唱で歌う「僕らは今日も車の中」から、
「自分たちの力でここに立てるようになってから1年で閉店してしまう。これからも私たちはバンドを続けていくけど、その続いていく中でCOASTも続いていて欲しかった」
と武道館ですら思い入れがないと言っていたこのバンドがCOASTへの思いを口にしながらも、このCOASTでの最後のライブを終えるとまた新しい日が、新しいことが始まっていくということを轟音サウンドでありながらも林の歌はどこか優しくそれを感じさせる「新しい朝」と、イベントとしては45分くらいという長い持ち時間であるためにこの中盤では腕を振り上げるよりも歌をしっかり聴かせる曲を持ってくる。そうした緩急をつけることができるバンドになったということだ。
「場所がなくなっても、音楽は終わらない、友達は終わらないんだぜ。命はいつか終わる日が来るけど、命が終わっても生まれ変わってまたHump Backをやりたい」
という揺るぎなきバンドへの愛と想いを口にしてから演奏されたのは今や最大のキラーチューンと言っていい存在になった「番狂わせ」で、林のギターソロも含めて再び一気にサウンドを加速させる。
「やってもやっても足らんくらい しょうもない大人になりたいわ」
と歌う通りに、死ぬまでこのSTUDIO COASTのことを覚えていて、何かとこの場所での思い出を語ってしまうくらいに、しょうもない大人になりたいわ、と思う。
そして「ティーンエイジサンセット」では荒ぶるようにステージ上を動き回りながらギターを弾く林がマイクスタンドをグッと引き寄せるように掴んで歌うと、そのまま倒してスタッフに直してもらい、その間にはぴかのマイクスタンドで歌うという場面も。もはや考えるよりも衝動の赴くままにライブをやるというのがこのCOASTへの最後の礼儀と言っていいのだろうけれど、「短編小説」ではイントロで声を出せない観客が指で「ワン、ツー」と表現すると、
「20年のCOASTの歴史の中でのたった1年だけ。今日19年分全部込める!」
と言ってから歌うサビにはその感情が本当にこもっていたし、やはりこのバンドはライブハウスのバンドなんだなということがよくわかるくらいに、ライブハウスへの愛情をはじめとする感情が音にもこもっている。武道館はやっぱり特別だったけれど、ライブハウスは特別ではない日常の場所だから。
そんな思いをスケールの大きなメロディに乗せて林が伸びやかに声を響き渡らせる「クジラ」が
「そう 一歩一歩歩き出すのさ」
というフレーズの通りに、この会場がなくなってしまっても前に進んでいくという意思を感じさせ、我々にもそう思わせてくれると、この日は最後に「拝啓、少年よ」が演奏される。
「夢はもう見ないのかい?明日が怖いのかい?」
という歌い出しにハッとさせられるのは、きっとここでライブをやるのが夢だったという人もたくさんいるだろうからであるが、
「あぁ もう泣かないで」
というサビのフレーズでぴかのコーラスが林のボーカルに重なると、それが叶うことはなくても泣かないで強く生きていこうぜ、というように背中を押してくれるように聴こえてくる。やっぱりHump Backは全ての少年少女の味方であったし、数え切れないくらいにライブを見てきたこの会場のことを大切に思ってくれて本当にありがとうと思った。
もしなくなることがなければ、これから先も数え切れないくらいにこの会場でライブをやっていたんだろうな。それでも、これからもきっといろんな場所でHump Backのライブを見ることができるし、そうした場所がまた大切な場所になっていく。そう考えれば大丈夫だ、君が思うほどに弱くはないから。
リハ.閃光
リハ.VANS
1.LILLY
2.生きて行く
3.恋をしよう
4.オレンジ
5.僕らは今日も車の中
6.新しい朝
7.番狂わせ
8.ティーンエイジサンセット
9.短編小説
10.クジラ
11.拝啓、少年よ
・HERO COMPLEX
こちらもサウンドチェックでメンバーが出てきて曲を演奏していたのだが、最後に聴いたことのない新曲を演奏していたのが、北九州のスリーピースバンド、HERO COMPLEX。すでにハルカミライなど様々なバンドと対バンしたりしているが、個人的にしっかりライブを観るのはこの日が初めてである。
Hump Backと違って一度ステージから捌けてから、B-DASH「情熱たましい」という始まる前からテンションが上がらざるを得ないSEで再びステージに3人が登場すると、
「ヒーローやってきました」
と風太(ボーカル&ギター)が挨拶して「Feel so good」から始まり、色味も含めてライオンのような髪型になっているしんぺー(ベース&ボーカル)とのツインボーカルがキャッチーなパンクサウンドをより際立たせていく。というのはヤバTやLONGMANなどにも通じる部分だと言えるだろう。
やす(ドラム)のバスドラの4つ打ちからの「SILVER」と、スタイル的にはどストレートなパンク。それはSEからも顕著であるが、かつて「青春パンク」と言われていたものに近い、曲も歌詞も熱くてストレートというもの。風太は
「応援歌を歌いに来た」
と言うだけに、そこに自覚的なところも間違いなくあるだろうと思う。
そうしたパンクバンドとしてのスタイルは「シグナル」から客席では拳を振り上げるという形となって現れるのだが、もはや完全にCOAST一面と言っていいくらいにたくさんの人が拳を上げている。彼らもこうした機会であるだけにCOASTへの思いを口にしていたが、なくならなければこれから何回でもここでワンマンができるようになっていたんじゃないかとすら思う。
「Feel Life Goes On」からはやすが着ていたジャケットを早くも脱いでTVシャツのみというスタイルになるのだが、改めてライブという場で見ているとこのやすのドラムが実にしっかりしていることに驚く。いわゆる青春パンク期には演奏力や技術なんてどうでもいいという開き直り的なバンドもたくさんいて、そこが良い曲を作っていても一つの舐められる理由になっていたのだが、今の時代にこうした音楽をやる上で自分たちに何が必要なのかということをこのバンドは良く理解して、それをちゃんと実践できている。
それは風太としんぺーのボーカルについてもそうであり、歌唱力のみならず声量もこのキャパにしっかり届くようなスケールを持っている。だからこそ「さらば」のような切なさを持った曲がより説得力を持って響くのだが、風太の声にはそのまま人間性が出ているというか、そこから優しさを確かに感じることができる。だから聴いている人への応援歌というのは彼の優しい人格によるものから生まれているということもよくわかる。
何よりもここまでの出演バンドの中で最もモッシュ、ダイブをしたくなるようなサウンド、合唱したくなるようなキャッチー極まりないメロディというスタイルであるのに、観客はみんなその場を動かずに拳を振り上げるのみ。それでも伝わってくるライブの熱さとバンドのカッコよさは、コロナ禍になってそうした楽しみ方が出来なくなった今の状況でのパンクバンドの存在意義そのものであるし、こうしたバンドを好きなキッズたちはどんなにルールを守っていても何かと言われることも多いし、実際にライブハウスの外とかの自分が見えない場所のことはわからないけれど、この最も衝動を駆り立てられるライブという場でそれを我慢しているという意識の高さは普段その存在を舐めているような人にこそ見せてやりたいと思う。
そんな観客の姿を見てか、風太も
「みんなのおかげで今年もたくさんライブができそうです!」
と、これからもこうした形態であってもライブをやっていくことを口にすると、
「うるせぇ、俺はもう頑張ってんだよっていう人もいるかもしれない。でも俺はみんなに頑張れって歌いたい」
と言ってまさに「あなた」に向けて頑張れと歌で言っているかのような「199」から、パンクバンドだからこそのショートチューンの「風」、その言葉の極地と言えるような、激しいパンクサウンドであるのに側で寄り添ってくれているような優しさを感じさせる「そばにいればいい」と締めにかかり、まさにこのバンドが新たなパンクシーンのヒーローになる予感をひしひしと感じさせるのだが、それでも最後にさらに「光」で観客たちの腕が一斉に上がる。それは間違いなく、叫ぶ声が届いているからだ。
聴く人によっては青春パンクの焼き直し、さらに上の人からしたらAIR JAM、さらにはバンドブーム…そうしたパンク流行の音楽そのままだと思う人もいるかもしれない。何も進化していないと。
確かにそれはそうかもしれない。でも本当にそうならば今のキッズたちがこんなに熱狂することも、自分のような青春パンクの狂騒を経験した人間にこんなに響くことはないだろう。あの頃のバンドと同じならば、あの頃のバンドを聴いていればいいのだから。
でもそうでない、今この時代、今このバンドじゃなければいけない理由が明確にある。それは決して新しいサウンドを鳴らしているわけではないハルカミライも、Hump Backもそうだ。そこに本当に大事なのは、どんな人がどんな思いでその音を鳴らしているのかがはっきり見える、感じられるということ。そこに優しさや、他の人を思いやる心を持っていて、聴いていたら自分もそうなれると思えるということ。
ある意味ではそうしたバンドが集まっているTHE NINTH APOLLOを象徴しているバンドと言っていいのかもしれない。
リハ.STORY
リハ.Tomorrow
リハ.新曲
1.Feel so good
2.SILVER
3.シグナル
4.Picture
5.Feel Life Goes On
6.For all
7.さらば
8.想
9.巡る
10.199
11.風
12.そばにいればいい
13.光
・ハルカミライ
残るは2組。順当に規模感などを考えればSTUDIO COASTでのこのイベントの最後をハルカミライが飾るというのが最もわかりやすいし、予想通りだけれども、場内BGMで新世界リチウムの「喝さい」が流れたことによって、あれ?もしかして?と思っていると、サウンドチェックに橋本学(ボーカル)以外の3人が登場したことによって、その予感は現実となる。
その橋本は昨年末のライブで怪我をしたことによって、バンドは直近のツアーを橋本の療養という理由で延期しているだけに須藤俊(ベース)はサウンドチェックではメインボーカルとして歌いながらも、
「今日、学来てる?学のことを見たっていう人いる?」
と、あたかも橋本がまだ療養中であるかのような口ぶりであるが、橋本はさよならポエジーの時からライブをバルコニー席で見ていたので、来ているのは間違いないところである。
真っ赤な髪色のその橋本がステージに現れると、
「よっしゃ行くぞー!」
と叫んで「君にしか」でスタートするという、完全なるいつものハルカミライのライブが始まるのだが、最後のサビの直前に橋本が、
「STUDIO COAST!」
と叫ぶと次の瞬間には4人が揃って
「さよならだぜ!」
と歌う。それはいつものライブのようでいて最後のCOASTでのライブであるこの日でしかないものであるからこそ、紛れもなくCOASTへの思いを持ってこの橋本の復帰ライブに挑んでいることがわかるし、それはバンドの目の前にいる君にしか聴こえない。
延期にしたのも年明け以降のわずかな期間であるのだが、それでもバンドにしたら空いてしまったという感覚があるのだろう。「カントリーロード」ではギターソロでアンプの上に立った関大地(ギター)と橋本がハイタッチをし、須藤はステージ上でスライディングをかます。そんな姿の全てが楽しそうであり、やはりこのバンドはライブをやっているからこそ生きている感覚を得ることができるのだろうなと思うし、その姿がそのまま我々の生きている実感に繋がっているのである。
そんな4人のことを歌った「QUATTRO YOUTH」ではHump Backの3人から推されている存在であることが明らかになった小松謙太(ドラム)が早くも上半身裸になると、須藤も曲中に普通にベースをステージ上に置いてジャケットを脱ぎ去る。その間は当然ベースの音が鳴っていないのだが、そう感じないというか、須藤がステージに立っているだけで鳴っていなくてもちゃんとライブが成立しているというか。そんなオーラをこのバンドは纏っている。
「ただ僕は正体を確実を知りたいんだ」
と歌い始めると、小松のドラムが一気に激しさを増す「PEAK’D YELLOW」からサウンドチェックでも演奏していた、関と須藤だけならず、負傷明けの橋本もステージ上で暴れ回る「ファイト!!」「俺達が呼んでいる」とひたすらパンクに突っ走る様は久しぶりのライブという感覚も、橋本の負傷の影響も全く感じさせることはない。というか、ステージに立つ者として弱みやそうした姿を見せるようなことはしないバンドだ。
「今日は俺の復活祭でしょ?(笑)」
と、そうした意識もあることを窺わせると、その復活祭のステージであるこの場所がそのまま、
「ここが世界の真ん中!」
と言って歌い始めた「春のテーマ」では橋本が曲中に
「俺、ずっとあそこから(バルコニー)ライブ見てたんだよ。そしたら高校生がいたんだ。制服着てライブ観に来てて。めちゃくちゃ良い10代の時間の使い方してるなぁ!」
と、自身のライブ中だけでなく、友達のライブを見ている最中でも客席のことをよく見ていることを感じさせてくれるのだが、もし自分が高校生の頃にこのバンドと出会っていたら、間違いなくそうして学校が終わった後に制服でライブを観にくるようになっていたと思う。こうしたライブから足が遠のいてしまうような状況の中でも、その高校生がこうしてハルカミライのライブを観に来ているということを自分のことのように嬉しく思う。というか、その光景や、この言葉を聞けただけで、もうそれは自分のことでもあるというか。
橋本の歌の上手さ、声量の大きさを改めて思い知らされる「Mayday」の歌唱から、昨年から新たにライブレパートリーに加わった、早くコーラス部分をメンバーと一緒に歌いたくなる「光インザファミリー」はそのファミリーがこの日の出演者やライブを作っている人、さらにはここに集まってくれた人たちであるかのように響く。だからこそこの曲からはタイトルにある通りに光を感じることができるのだ。その光が希望になるというのはこんな状況でも変わることはない。
橋本がサビをアカペラで歌ってから始まると、バンドの演奏が加わってのリズミカルなサビでは観客がメンバーとともに飛び跳ねまくる「世界を終わらせて」の
「来世もその次も巡り会えないのなら
お願い続きを投げ出して神様
願い事は簡単に叶わない事知ってるから
あんたはほっといてくれ2人のこと」
というフレーズでの橋本の歌唱する姿から溢れ出るオーラたるや。上半身裸になっているからこそ、背中にはまだ傷があることもわかってしまうのだが、それすらも隠さずに見せる、その上でその影響を感じさせないくらいに喜びに満ち溢れたライブを見せてくれる橋本が、このバンドのことが本当に好きだと思う。
そしてこれまでのライブでも何度となくクライマックスを担ってきた「僕らは街を光らせた」で3人の演奏もさらなる凄みを持った轟音となると、橋本は曲中に
「俺のルーツ、J-POP、パンク。それよりも母ちゃんに言われた「優しくなれ!」」
と言う。その言葉を愚直なくらいに音楽で、ステージで示してくれている。きっと母親からたくさんの愛情と厳しさをもらって育ってきたんだろうなと思うし、母親のその言葉が橋本からたくさんの人に優しさを分け与えている。ハルカミライの何が好きかって、彼らの大好きなバンドが歌っていたように、優しいから好きなんだ。
橋本がタイトルコールをした段階で拍手が起こって観客がたくさんの腕を掲げた「パレード」がまるでこの日のエンドロールとともに流れるテーマのように響く。
「聴こえる愛のパレード 胸の鼓動とこだまする」
というフレーズの通りに、このイベントは音楽とロックバンドの愛に溢れたパレードそのものだったから。
そして最後に橋本が歌い始めたのはやはり「アストロビスタ」で、
「4人で強い方がバンドはカッコいい。ここにいる全員で強くなれるのがライブだ!」
と言い放った。その瞬間にブワッと溢れてしまうものがあった。それはその言葉を最も感じてきた場所の一つがこのCOASTだったから。ロックバンドだけのものじゃないのはわかってる。なんなら夜中はクラブとしても営業してきた場所だ。それでも、やはり自分にとってCOASTはロックバンドのための場所であり、ロックバンドを愛する人たちのための場所だった。こういう場所があるから、強くなれた。強く生きてくることができた。最後にこの場所で見たライブにハルカミライが出てくれていて本当に良かった。もしかしたら橋本は無理を押して出演したのかもしれないけれど、このハルカミライのライブを見れたことで、なくなってしまう寂しさよりも前に進む力を貰うことができた。本当にありがとね。
さよならポエジーのオサキが口にしていたように、今またライブをやるのが難しい状況になりつつある。メンバーが感染してライブが中止や延期になるというニュースもまた目にするようになってきた。まだまだこの先もそうやって心が抉られていくような出来事がたくさん降りかかってくるのかもしれない。
それでも、こうしてハルカミライがいてくれれば、ステージに立って音を鳴らしてくれていれば乗り越えられるって思うことができる。きっとこれから先も何度だってそう思いながら、このバンドと一緒に生きていくんだと思う。というか、そうやって生きていきたい。
リハ.ファイト!!
リハ.ウルトラマリン
リハ.Tough to be a Hugh
リハ.ラブソング
リハ.フュージョン
1.君にしか
2.カントリーロード
3.QUATTRO YOUTH
4.PEAK’D YELLOW
5.ファイト!!
6.俺達が呼んでいる
7.春のテーマ
8.Mayday
9.光インザファミリー
10.世界を終わらせて
11.僕らは街を光らせた
12.パレード
13.アストロビスタ
・INKYMAP
このメンツの中でトリを任されたのが八王子のINKYMAPである。出演順をどうやって決めたのかはわからないが、この新木場STUDIO COASTで最後にライブをやるTHE NINTH APOLLOのバンドに選ばれたということである。
サウンドチェックで曲を連発してからの本編は
「八王子のINKYMAPです!」
とKazuma(ボーカル&ギター)が挨拶をして「Shine」でスタートすると、そのKazumaの歌も、ライブ中に計何回跳んだのかわからないくらいに楽器を抱えてジャンプしまくるJun(ギター)、Ryosuke(ベース)、思いっきりスティックを振り下ろすようにドラムをぶっ叩くTetsuoと、気合いが漲っているのがよくわかるというか、ここで燃えなきゃバンドマンとしていつ燃えるんだ、というくらいに燃え上がりまくっている。
「Silver Train」などを聴いていると顕著だが、このバンドはこのレーベルの中では珍しい、海外のロックバンドのサウンドの影響を強く感じるというか、むしろエモ、メロコア、パワーポップという海外のサウンドを吸収して自分たちの音楽として鳴らしてきた先輩バンドたちの姿を思い出す。それはそうしたバンドたちをこのCOASTで何度となく見てきたからであるのだが、Kazumaも
「憧れだったCOAST」
と言っていたことからも、ELLEGARDENの影響がかなり強いと思う。それはELLEGARDENのこの会場でのライブ映像作品を見てきたんだろうなと思うし、自分自身もそれを見てきたから。
そうしたバンドの方向性としては「ひたすらメロディを研ぎ澄ますか」「他ジャンルのサウンドと融合させるか」の2択であるということはELLEGARDEN以降のバンドたちが問われてきたことでもあるのだが、このバンドは間違いなく前者。ひたすらキャッチーに、それでいてロックに。だからこそ「Time Loop Stories」「Mantis」という曲のギターフレーズも歌メロも本当にキラキラしているし、それがCOASTのステージに本当によく似合う。
「橋本学の復活祭後夜祭へようこそ!
そっちの方はINKYMAPのことを知らなそうだな?(笑)」
と端の方の観客に問いかけながらも、
「今日から覚えさせてやる!」
とそうした逆境的な状況すらも力に変えるようにして「Reminder」を鳴らしたりと、曲に入る前の前フリも含めて、本当にこのライブのために並々ならぬ準備をして臨んでいることがよくわかるし、それがバンドの存在証明として鳴り響く「I’m Here!」の説得力にも繋がっている。
COASTの象徴とも言えるような巨大なミラーボールが輝く「白銀の夜に」と、英語歌詞の曲もありながらも、まさに今の時期にピッタリな日本語歌詞の曲もあるというあたりにもこれから広く聴かれていく可能性を感じさせるのだが、Kazumaが
「俺、今日出てる奴らみんな大好きなんだよね!だからまた仲間の曲を作りました!」
と言って演奏された新曲は、サウンドこそこのバンドのものでしかないのだけれど、ハルカミライやHERO COMPLEXのような、熱い優しさを確かに感じることができる。それを持っている、そんな仲間たちの持っている力を自分たちのものにして解き放つことができる。それこそがこのバンドがトリを務めるに至った理由なんじゃないかと思えてくるし、このイベントがこの日で終わったとしても、ずっとこの5組は友達としてこれからも対バンしたりして切磋琢磨していくんだろうなと思う。
Kazumaはそんな最後のCOASTの景色、ここに集まってくれた人たちの姿を一生忘れることなく目に、脳内に焼き付けるかのように観客に両腕を上げさせる。それが「Saying」「カクメイノヒ」というクライマックスを担う曲たちがこのステージに見合うものだということを示してくれる。
しかしながら本当に駆け抜けるという表現がピッタリなくらいに駆け抜けているライブだ。我々ですらそう思うんだから、メンバーの体感時間は本当にあっという間だったんじゃないだろうか。
そうして本当にあっという間に迎えた最後に演奏されたのは、友達と言える出演者に、我々観客に、そしてこのCOASTにおやすみとお別れを伝えるための「Goodnight And Goodbye」。初めて聴いた時に、これはこのバンドのキラーチューンになっていくだろうなと思ったこの曲が、こんなにも大事な局面、たくさんの人にとってCOASTで見る最後のライブのクライマックスとして演奏されている。この曲だったからこそ、COASTに自分自身もお別れを言えたような、声が出せない分、INKYMAPがその思いを伝えてくれているような。忘れられない曲、忘れられない瞬間になってしまった。これからも新木場という場所の名前を聞くたびにこの曲を、この光景を思い出すことになるのかもしれないとすら思った。
しかしそんな大団円的な空気でもまだ終わらず、アンコールにメンバーが登場すると、他の出演者や主催者が登場するということも一切なく、自分たちだけで「Take The Lead」を演奏した。それはこの日の、新木場STUDIO COASTで行われた、現状最後の「1993」を締め括るのは俺たちINKYMAPである。そんな確固たる意思が貫かれていたように感じた。そこには、これまでにこのステージに立ってきた、様々な先輩バンドの姿が重なって見えた。それくらいに自分がこの場所でたくさんの激しいバンドたちのライブを見てきたことを思い出していた。
リハ.Saturation
リハ.Boys Will Be Boys
リハ.Mantis
1.Shine
2.Flying Feather
3.Silver Train
4.Time Loop Stories
5.Mantis
6.Reminder
7.Rainy Day
8.I’m Here!
9.白銀の夜に
10.新曲
11.Saying
12.カクメイノヒ
13.Goodnight And Goodbye
encore
14.Take The Lead
どのバンドも決して難しいことをやっているバンドではない。何なら学生がすぐにコピーバンドをやったりすることすらできる音楽だとも言える。でも他の誰が演奏してもこんなに説得力を感じることも、感動することもない。「1993」に出ているバンドはみんなそういうバンドだ。
それはそのバンドがその人であることで成り立っているものだから。だからどんなに演奏や歌唱が上手い人が代わりに入ったとしても、全く違うものになってしまうだろうし、こんなにもロックバンドのカッコよさを感じられることもないだろう。
それはつまり、音を鳴らす、歌っている、音楽を作る。その全てが人間のやることであり、それを聴くのも見るのも人間だということ。当たり前のことであっても、それを感じられない音楽もたくさんある中で、「1993」は臭すぎるくらいに人間臭さしかないようなイベントだった。それが自分にとって何百回訪れて、何百組のライブを見てきたかわからないくらいに通ったSTUDIO COASTの最後で本当に良かったと思っている。自分が大事にしているものが、なによりもそうした音楽であり、バンドであるということを、この場所に刻みつけて終わることができたから。
20年間の営業期間の15年間で見てきた最初のライブのことだって、今でも忘れずに覚えている。これから先だって生きている限りは忘れることは決してない。たくさんの出会いとたくさんの思い出を本当にありがとう。そう思えるくらいにここに来れて幸せだったよ。
文 ソノダマン