名古屋の路上ライブで話題になり、メロコアというサウンドではないにもかかわらず、PIZZA OF DEATHと契約というエピソードからもこのバンドの凄さがわかるのだが、そんなSuspended 4thが渋谷のWWW Xで2マンライブシリーズを開催。
3days開催のうちの初日のこの日のゲストはドミコ。ライブタイトルの「Grateful Jam」も世代的にはDragon Ash「Grateful Days」か、あるいは漫画「BECK」に出てくるフェス「Grateful Sound」かというところも気になるところである。
・ドミコ
検温と消毒を経てWWW Xの客席に入ると、マスで仕切られたスタンディング形式。
19時を少し過ぎたところで場内のBGMが徐々に大きくなるとともに暗転すると、こんなにさっぱりしたというか、体育会系みたいな見た目だったっけ?と思うような長谷川啓太(ドラム)がセットに座り、さかしたひかる(ボーカル&ギター)はギターを自身で持ってステージに現れると、アンプの上に置かれたバンドロゴのネオンオブジェが照明として光る中でオクターバーとルーパーを駆使して音を重ねていき、それが徐々に「解毒して」のイントロへと変化していくというスタート。
その「解毒して」も続く「猿犬蛙馬」も昨年リリースされたアルバム「血を嫌い肉を好む」に収録されている曲であるのだが、このアルバムの曲たちによってドミコというバンドの持つサウンドがまさにさらに血肉化しているというのが鳴らしている音からひしひしと伝わってくる。
それはグレーのパーカーを着て、表情こそは飄々としているさかしたの
「センキュー!」
という不器用ではあるがこれしかないという観客への感謝の示し方にも現れているのだが、間奏がもはや間奏というよりも2人だけのセッションであるかのようにさかしたは長谷川のドラムセットに近づいて顔を見合わせるようにしてギターを弾き、長谷川のフレーズが決まると「フォー!」と声を上げる。曲の原型はあれど、こうしてその日のライブごとに演奏が変わるというのはまさにセッションであり、全ての音を2人だけで鳴らしているドミコだからこそ。そしてそれはSuspended 4thのライブに通じるものでもある。
さかしたの音の重ね方によってどんなサウンドも生み出すことができるというのは、むしろ2人だけだからこそ自由であり、制約がないとすら感じさせるのは、インタールード的な「ばける」が一気にサイケデリックなサウンドになり、心地良く体を揺らしてくれるかと思いきや、やはり後半で一気に長谷川のドラムが加速してそのまま「化けよ」へと繋がっていく。さかしたのボーカルはやはり幽玄な雰囲気を纏っているのだが、それでもやはりこれまでに聴いたこの曲よりもロックに感じるのはやはりアルバムのリリースと、それに伴うツアーで全国でその曲たちを鳴らしてきたことによって得てきたものであろう。
それはまさにこの音にしびれそうになるくらいに長谷川のドラムがより一打一打強さと凄まじさを増していく「びりびりしびれる」で極まり、このライブハウスの外が凍てつくくらいに寒いということを忘れてしまいそうになるくらいに別の世界、次元、意識へ我々を連れて行ってくれるし、演奏に熱が入り過ぎている故か、さかしたはパーカーが肩口からどんどん下がっていく。
かと思えば、まさに身体と意識が深海を漂っているというのをギターとドラムだけで体感させてくれるような「深海旅行にて」はこの日最もサイケデリックなものであったのだが、それでもやはり一気に長谷川のドラムが加速していくのは深海から一気に水面に浮上していくのを表しているかのようで、それがそのまま「問題発生です」へと繋がっていくのだが、もはやこの音が問題であるというくらいに2人の鳴らしているサウンドがとてつもない。きっとこれは音で会話ができているこの2人じゃないと絶対にできないものだ。ツーピースというのもある意味では究極系と言えるのかもしれないけれど、それはこの2人だからこそ成立している。さかしたは最初から「なんだこの人の演奏は」と驚くようなギタリストであったが、その重ねるギターの音の全てに感情が宿るようになって、より重層的な音に聴こえるようになったし、ライブを見るたびに長谷川ももはや超人ドラマーと呼べるような域に入ってきている。それくらいに凄まじい。
そうしてジャムるようにして、というライブの在り方もサスフォーと通じるものがあるのだが、さかしたのギターが重なりながらも軽快さを増していくと、最後に演奏されたのはやはり「ペーパーロールスター」で、ここに来てもやはり長谷川の手数も強さも音源とは比べ物にならないくらいに増している。その演奏に反応するようにたくさんの観客が体を揺らし、サビでは腕を上げていた。というかそうならざるを得ないような音を2人が鳴らしていた。
呼んでくれたサスフォーへの感謝はさかしたは言葉でも一言くらいは口にしていたが、それを何よりも音で、演奏で示していた。それが礼儀であると言わんばかりであったし、こんなライブ見せられたら影響されないわけがないというか、こんなライブをやってみたくなってしまうのも仕方がないというか。
1.解毒して
2.猿犬蛙馬
3.ばける
4.化けよ
5.びりびりしびれる
6.深海旅行にて
7.問題発生です
8.ペーパーロールスター
メンバーが機材をセッティングしてサウンドチェックまですると、そのままワシヤマカズキ(ボーカル&ギター)が
「じゃあ始めまーす」
と言って、そのまま演奏を始め、まずはじっくりと確かめるようにメンバーそれぞれが音を鳴らして、それが重なっていく「Sky」。しかしそれでもステージ中央で緑がかった長い髪を靡かせるむぅことHiromu Fukudaのベースは最初からバキバキにうねりまくっている。ワシヤマの歌も控えめであるだけに、そのベースが一層目立っている。
すると一気に挑発的な歌詞とともにバンドの演奏と4人のグルーヴが熱を増していく「97.9hz」へ。司令塔としてメンバーそれぞれをサングラス越しに眺めながら、時折ワシヤマがアドリブを入れたりするとニヤリと笑って歯を出すデニスのドラムも正確さは機械のようでありながらも、その強弱の付け方とアドリブに対応する手数の増やし方は人間のリズムの極地と言えるくらいのレベルだ。そしてこうしたロックな曲をサスフォーとしてのロックたらしめているのが、新世代のギターの鬼こと澤田誠也である。この日もメガネにスーツでバシッと決めている姿が音をさらにカッコよく感じさせてくれる。
やはりというか、普段からガンガン曲間でジャムるわ、曲中でもセッションし始めるわという近年のロックバンドの中では実に珍しい即興性の高いというか、その日でしかない演奏を見せるバンドとしてこの日も曲間で自然とセッション的なというか、もはやなんらかのインスト曲を演奏しているんじゃないかというくらいの演奏が始まると、そのまま「BIG HEAD」へとつながり、ミュートしてるかのようにバンド全体が音を小さくするような箇所があるかと思いきや、間奏でもむぅがスラップベースをバキバキにかましまくるのだが、そんな中でワシヤマはギターを床に置いてエフェクターを操作して音を変化させ、構築し、自身は最後にはハンドマイクで歌う。
「まさかギター置くとは思わなかったわ(笑)」
と演奏後に振り返っていたが、それこそがこのバンドの「流れが全く決まっていない、その日のテンションやグルーヴで変わる」というライブであることをそのまま示している。音の導くようにやったらギターを置いていたということなのだろう。
するとワシヤマは続けて
「ドミコに愛を込めて」
と言うと、澤田がギターを刻み始めたのはなんとドミコ「猿犬蛙馬」のサスフォーバージョンカバー。ギターが2本というのはもちろんであるが、ドミコにはいない(さかしたはギターでベースらしい音を鳴らしたりするけど)ベースのむぅのバキバキのスラップベースが完全にこの曲をこのバンドのものとして生まれ変わらせ、間奏では長谷川のようにデニスがドラムソロを披露してからベースへパスすると、ワシヤマは「まだまだ足りん」とばかりにむぅにステージ前に出て行くことを促してさらなるベースソロが展開される。もうこれをこのまま音源化してはいかがでしょうか?とPIZZA OF DEATHに直談判しに行きたいレベルで、この日だけのものにするにはあまりにもったいない、サスフォーからのドミコリスペクトだ。
そのままデニスが繋ぐドラムが徐々にリズミカルになり、その上に乗るむぅの疾走するようなベースでイントロに気づいた観客たちが一斉に腕を上げると、ワシヤマと澤田のギタリスト2人もステージ前に出てきてギターをハモらせるのは「ストラトキャスター・シーサイド」で、ただでさえドミコの爆裂カバーで昂った感情をさらに昂らせてくれる。ワシヤマのボーカルも曲が進むにつれてより強く感情を宿したものになっていくのがよくわかる。
それは
「ドミコに完全に影響された。初めてちゃんとライブ見たけど、もっとキッチリ構築したライブやるバンドかと思ったら、あんなにアドリブ入れまくってくるバンドだとは」
と澤田が言っていたように、ドミコのライブを見たことによるものであることも大きいと思われるのだが、このコロナ禍になってからサスフォーのライブを見るのは2回目(昨年のSATANIC CARNIVALに出演した時に久しぶりに見た。スペシャ列伝ツアー東京はキャンセルしたので)なのだが、こんなライブを見せられて、曲が終わった後に歓声をあげたくなるのを我慢しなければならないというのがこんなにも苦行だとは、と思うくらいにあまりの見事さに声が出そうになってしまう。というかそれを完全に押さえ込んで拍手のみで応えているこの日の観客は本当に素晴らしい我慢強さを持っていると思う。
「ちょっと休憩するわ」
と言うと、ワシヤマが情景が浮かぶような歌詞を歌い上げるような、落ち着いたサウンドと演奏でここまでとのコントラストを描く「think」が演奏されるのだが、最終的には休憩と言ったワシヤマがめちゃくちゃブルージーなギターをアウトロで弾きまくっており、誰よりも体力を消耗しているようにすら感じる。なんならこれくらいのギターを弾くのはワシヤマにとっては休憩レベルなのかもしれないが、そう思うと本当に恐ろしいメンバーによる恐ろしいバンドだと思う。
そんな休憩と言えないような休憩を経るといよいよ「INVERSION」からクライマックスへと向かっていくのだが、ワシヤマは曲中にボーカルのメロディ部分を変えるようにして歌うと、澤田が笑いながら「あいつやりやがったよ」とばかりにワシヤマの方を指差す。バンドにとってはライブ定番曲であってもこうしてアドリブを入れてくるというあたりに本当に1回たりとも同じライブはないということを示してくれるのだが、コロナ禍になる前は観客の合唱が響いていたラストサビ前でも観客は当然声は出せない。ワシヤマも「心で歌え」的なことを要求することはない。それは「この状況なりに自分で楽しめる方法で自由に楽しめ」と言っているかのようであるが、そんな瞬間を経ての
「Don’t let me bend my fire」
というサビのフレーズを1オクターブ高く歌うワシヤマのボーカルとバンドの音が重なる瞬間は、まさにこうしたライブという空間の、バンドという存在の炎を絶やすことがないようにというかのように燃えていた。喉が少しキツそうなワシヤマは最後はファルセットも駆使して歌っていたけれど、それもまたアレンジの一つだろうか?とすら思えてくるし、この曲を聴くとMVのように夜が明けて朝を迎えたかのような、新しく前に足を踏み出して行くような力を得ることができる。決して速い曲でも激しい曲でもない、練り上げて練り上げて最後に爆発するという、ライブでこそ真価を発揮する曲。澤田が最後に右腕をいつも高く掲げるのは間違いなく勝利を確信してのものであるし、やはりこの日もサスフォーはこの曲で、自分たちの音だけで完全に全てを掻っ攫ってしまった。
しかしそれでもまだライブは終わりではなく、デニスが疾走するようなビートを叩き出したのは昨年リリースされた「ブレイクアウト・ジャンキーブルースメン」で、ついに「INVERSION」の後を担う曲が生まれたと喝采を送りたくなるほどの爆裂ロックチューン。それはもちろんメンバーそれぞれの演奏が爆発してぶつかり合っていくという、3割30本30盗塁できるくらいのポテンシャルと技術とオーラを持っている1人1人がよくぞこうして4人も集まったなと思わざるを得ないし、最後にドラムを叩きまくりながらイカしたラジオDJかのようなセリフを放つデニスの姿を見ていると、単独でも化け物みたいなメンバーがこうしてバンドで、こうしたロックをやってくれていることに心から感謝と拍手を送りたくなる。
前までは主に主催ライブでは割と何も決めてないのに結構曲間で喋り、それによって演奏との落差が凄すぎて少しグダるように感じていたところもあったのだが、この日は本編ではそれは全くなしだったのだが、アンコールで早めにワシヤマが登場すると、
「ドミコの2人を呼んで一緒にやりたいんだけど…」
と言いながらも、マジで全く何をやるか決めていないことがわかるくらいに、一転してまずはこのライブ終了後の0時に配信される新曲「HEY DUDE」を演奏しようとするのだが、澤田が全然ステージに戻って来ず、ようやく出てきたと思ったらスーツのジャケットを脱ぎ、パンツが革パンに変わっている。これは翌日のゲストのclimbgrowが(本来はWOMCADOLEの予定だったがキャンセルとなり急遽代打を受けた)革ジャンに革パンというロックンロールバンドであることのフリだろうか。
そうしてようやく演奏された新曲「HEY DUDE」はいきなりデニスのスティックが折れるというくらいの、このバンドだから演奏できる複雑なアンサンブルの曲なのだが、この日の場内BGMを「2021年に良く聴いた曲」でセレクトしたデニスは
「暗い曲ばっかりになっちゃったけど、サスフォーでやるのはロックな曲ばかりっていうのがまたいいかなって」
と言っていたが、そうした最新の世界中の音楽をインプットしながらも、あくまでアウトプットとしてはこの4人で、このバンドでやるからこそのロックというのがこのバンドの信頼できるところでもある。ワシヤマは
「サスフォーの曲は1回聴いただけじゃよくわからんから、帰って配信が始まったら何回も復習するように(笑)」
と言うくらいに、どうやってもそういうものになってしまうということも自覚しているみたいであるが。
そんな新曲を演奏してから、ようやくドミコを呼び込むのだが、さかしたのアンプも登場してからセッティングしたりという完全なる行き当たりばったり感で、長谷川はデニスのドラムセットに座るのだが、
「足が届かない(笑)」
というのはデニスがいかに足が長いかということを示してもいる。一方でギタリストチームはさかしたのエフェクターの山を見て、
ワシヤマ「プリズムあるじゃないですか!使ってる人いなかったら使おうと思ってるのに!」
澤田「Third Man Recordsのもある!(ジャック・ホワイトの主宰レーベル)
これ狙ってたやつですよ!」
と目を輝かせ、全然演奏が始まらない(笑)
最終的にはワシヤマが長谷川の横でシンバルとフロアタムを叩き、デニスがギターボーカルという形態で6人でのジャムセッションに。ドミコの2人にトラックを作ってもらい、そこにサスフォーのメンバーが重ねていくというスタイルはサスフォー側の「どんなの来てもできまっせ」という自信を感じさせるものでもあるのだが、「Grateful Jam」というライブタイトルだけを歌うというデニスのボーカルはなんならこの6人の中で1番上手いんじゃないかというくらいのレベルだし、実際にシンガーとしても活動しているデニスだからこその味もちゃんとあるというのがつくづく恐ろしい男である。
長谷川のドラム、むぅのベースというリズム隊のソロも経るとワシヤマとデニスが楽器を交換して元の形態に戻り、デニスはシンバルとフロアタムのみでのソロも叩くと、ワシヤマ、さかした、澤田の3人によるギターバトル、さらにはワシヤマの指示によってさかしたもワシヤマとともに「Grateful Jam」のフレーズを歌う。それが徐々に高まりを見せていくと観客の拍手を浴びながら長谷川のドラムを全員で向いてキメを打つ。まさに「Grateful Jam」としか言えないような演奏であり、この2組が近い志とスタンスを持ったバンドであるということをジャムする姿と音から感じることができた一夜だった。サスフォーによるドミコのカバーは音源化して欲しいと思ったが、まるでずっと一緒にやってきたかのようなこのジャムは、この日ここにいた人の記憶の中でだけ永遠のものにしたいと思うかのような。
まだPIZZA OF DEATHと契約する前ではあったが、サスフォーのライブを初めて見た時に「これはすぐにとんでもないところまで行くバンドだな」と思った。でも今のところそうはならなかったのは、そのここぞというタイミングでコロナ禍になって思い通りにライブが出来なくなってしまったからという要素が大きい。とにかくライブを見れば全てわかる、どれだけ凄いかわかるというバンドだから。
そうしたバンドこそちゃんと階段を駆け上がってほしいし、コロナ禍になる前によくワシヤマが言っていた
「シーンを変えたい」
という言葉が現実になるように今でもずっと信じている。こんなにもカッコいいバンドによって変わった後のシーンは、カッコいいバンドの音ばかりが流れて、そんなバンドのライブが見れるようなシーンになっているだろうから。この3日間、その初日は改めてその始まりの日だ。
1.Sky
2.97.9hz
3.BIG HEAD
4.猿犬蛙馬
5.ストラトキャスター・シーサイド
6.think
7.INVERSION
8.ブレイクアウト・ジャンキーブルースメン
encore
9.HEY DUDE
10.Grateful Jam w/ ドミコ
文 ソノダマン