前日のJAPAN JAMから埼玉に戻り、VIVA LA ROCKの3日目。結果的に埼玉→千葉→埼玉→千葉という工程になったわけだが、そうしたのはこの日、この場所でどうしても見たいバンドがいるからである。
やはり朝の出足は遅めというか、トップバッターが9時台に始まるだけに、みんな「ライブが始まるまでに着ければいい」という感じなのかもしれない。だからか開演15分前くらいまではアリーナもスタンドもガラガラと言っていいレベル。
この日は「こどもの日」だからなのか、その開演前の時間にはアリーナの通路に綱が置かれて、オープニングで綱引きをするというよくわからないイベントもあったのだが、最初は綱の周りに誰も集まらないというかなり寂しい感じになっていた。結果的には綱引きがちゃんと成立するくらいには人が集まっていたけれど、未だになんのためにこんなことをやったのかは全くわからない。
9:40〜 Hump Back [VIVA! STAGE]
そんなオープニングと、主催者である鹿野淳の前説の後に(鹿野淳が出てくるのが早過ぎたので、呼び込んでから何分か間が空くくらいだった)登場したのは、大阪のスリーピースガールズバンド、Hump Back。まだ若手というのもあってか、こうしたフェスではトップバッターを務めることが非常に多いバンドである。
林萌々子(ボーカル&ギター)がギターを鳴らしながら歌い始めた「生きて行く」でスタートすると、この時間帯とは思えないくらいのノビを見せる林の歌声にビックリし、曲を続けるにつれてステージを走り回ったりぴょんぴょん飛び跳ねたり体を大きく揺らしながらベースを弾く、髪に緑色が混ざったぴかと、相変わらず飄々としているというか、多分ど天然過ぎて逆に大物らしさを随所に感じさせる金髪ドラマー美咲のリズム隊の音に強さと説得力が増していることにさらにビックリする。
林も
「大学まで出させてもらったのにライブハウスに入り浸って、就職しないでバンドばかりやっていた。バイトをしてても居場所がなかった私が1番居心地が良かったのがライブハウスだった」
と言っていたように、ライブハウスとロックバンドであることにこだわり続けるバンドであるが、今やバンドの持つスケールはこのキャパで鳴り響くべきところまで広がっている。ありとあらゆるところでライブを重ねまくり、様々なバンドと対バンしてきた中で学んだことや得てきたものがちゃんと自分たちの力になっている。気づいたらアリーナは超満員。スタンド席もかなり埋まってきている。
一時期はこのバンドの存在を一人で守り続けてきた林のMCは自分の生き方やロックバンドであることに誇りと揺るぎない自信を持っているからこそ、押し付けがましく感じてしまう人もいるだろうし、このバンドの音楽は嫌いではなくても近寄りがたく感じてしまう人もいるだろうけれど、
「やりたいことをやるのが1番楽しい!」
と一点の曇りもない笑顔で叫んだ言葉は、やりたくないことでもやらないと生きて行くことができない社会人からしたら本当にうらやましいし、自分もそうしてやりたいことをやって生きていけたらいいのにな、と思う。
そう力強く宣言できるからこそ、「悲しみのそばに」というメロディと歌詞をしっかり聞かせる曲にもより一層説得力を感じるし、最後に演奏された「星丘公園」の歌い出しで
「歌える?」
と問いかけてマイクの前を離れて観客に歌を任せると、
「来年はこの歌声をもっと大きいものにしてみせる!」
と高らかに宣言した。それは間違いなく実現できることだし、来年にはこのバンドの存在は「注目の若手バンド」という今の立ち位置をはるかに超えたところまで行っているはず。まだすぐにではないだろうけれど、STAR STAGEに立っている姿さえ想像できるような可能性に満ち溢れている。
1.生きて行く
2.高速道路にて
3.拝啓、少年よ
4.短編小説
5.クジラ
6.悲しみのそばに
7.星丘公園
10:15〜 the telephones [STAR STAGE]
昨年のこのフェスで「電波が入った」と活動再開した、the telephones。ここは地元であるさいたまであり、バンドの拠点である北浦和から2駅しか離れていない場所である。
昨年は活動休止前の最後に行われた「Last Party」の時の映像がメンバー登場前に流れたりして復活のライブであることを煽ったりしたが、今回は「Happiness, Happiness, Happiness」のSEが流れてメンバーが登場するといういつものスタートの仕方であるが、メンバー全員が赤いサッカーシャツを着ており、さいたまならではの統一感を見せてくれる。
「埼玉県北浦和から来ました、the telephonesです!みんな、いきなり猿のように踊ろうぜー!」
といきなりの「Monkey Discooooooo」でスタートするというのはアラバキの時と同様なので、これは今年これから出演する様々なフェスにおいても定番の流れになるかもしれない。のっけからテンションMAXの状態にできるというのは短い持ち時間のフェスにおいてはより楽しくなれる。
広いステージならではの石毛の身体能力の高さを見せることができる「HABANERO」から、ノブがカウベルを叩きまくる姿がこのさいたまスーパーアリーナでも何度となく名場面を作ってきた「Baby, Baby, Baby」ではノブがステージから飛び降りたので、そのまま客席に突入するのかと思いきや、アリーナの通路でスタンバイしていた、和太鼓を搭載した山車に乗って、カウベルではなく和太鼓を叩きまくるという、この広い会場だからこそできるパフォーマンスを見せる。
その山車はノブを乗せたままアリーナ客席の上手側から下手側までほぼ一周するのだが、その山車を引いているのが主催者の鹿野淳で、ノブの様子を映そうとするカメラが鹿野淳越しにノブを映すので、キツそうな表情で山車を引く鹿野の表情が実に面白い。最後にはノブとハイタッチした鹿野は完全にバテバテだった。
この日の衣装が珍しく統一感のあるものになったことをメンバーが話すと、この赤いサッカーシャツは浦和レッズの影響らしいが、このフェスの物販で販売されているサッカーシャツが浦和レッズとコラボしているものであるため、
「先にやられたか〜。いつかは俺たちもやりたいね」
と浦和レッズとコラボする目標を語るのだが、そうして先の話ができるということは、telephonesがこれからも続いていくということである。ちなみにドラムの松本誠治はこのバンドのメンバーが所属するフットサルチームのユニフォームを着ており、背ネームには「松本誠治」と本名が刻まれているくらいの主張の強さ。
ノブが観客にダンスを促す「Don’t Stop The Move, Keep On Dancing!!!」では
「VIVA! STAGEを待ってる人も見えてるよー!」
と言いながら、さいたまポーズを取らせたまま踊らせ、さらには「翔んで埼玉」にちなんでジャンプさせるというさいたまスーパーアリーナバージョン。「Baby, Baby, Baby」でのパフォーマンスも含め、この日はノブが大活躍である。
そして「I Hate DISCOOOOOOO!!!」でディスコを叫びまくると、最後にも
「ウィーアー!?」「ディスコ!」
と特大のコール&レスポンスをさせた「Love & DISCO」では場内に飛行船が浮遊。その景色を見ていると、同じように飛行船が飛んでいた、2011年のこの会場でのワンマンライブの時や、2015年の活動休止前最後のライブとなった「Last Party」の時を思い出してしまう。
Last Partyの時は楽しかったけれど、もうこの景色を見るのはこれが最後かもしれない、と思っていた。バンドが悩んだりしてきた姿をずっと見てきたから。でも去年に続いて、今年もこの場所に立つthe telephonesの姿を見ることができている。いろんなバンドが出ているし、出て欲しいバンドも数限りないくらいにいるけれど、このさいたまスーパーアリーナで、ということに限るならば、自分はthe telephones以上にここで見たいバンドはいない。だからそれを見せてくれている鹿野淳とこのフェスにはtelephonesのファンの1人として心から感謝している。
もうかつてこのフェスでトリを務めた時のような状況にあるわけではないのはわかっているけれど、願わくば来年もこのバンドがこのステージに立つのであれば、ここに来る理由がある。
1.Monkey Discooooooo
2.HABANERO
3.Baby,Baby,Baby
4.A.B.C.DISCO
5.Dont’ Stop The Move, Keep On Dancing!!!
6.I Hate DISCOOOOOOO!!!
7.Love & DISCO
11:10〜 yonige [VIVA! STAGE]
3年連続出演のyonige。CAVE STAGEに初出演した時はクリープハイプと丸かぶりの時間にされて恨み節を言ったこともあったが、順調にステップアップを続けている。
yonigeは割とメンバー本人たちがサウンドチェックに出てきて曲を演奏することが多いのだが、この日はそれをしていなかったため、あれ?と思っていたのだが、実際にメンバーが登場すると、牛丸ありさ(ボーカル&ギター)、ごっきん(ベース)に加えてサポートドラムのホリエ、さらにもう1人、サポートギターに元LI LI LIMITの土器大洋を加えた4人編成になっている。
特に何も言わずに昨年を象徴する夏ソング「リボルバー」でスタートすると、自転車に乗って走っている時の疾走感をそのままサウンドに落とし込んだ「顔で虫が死ぬ」、ノイジーなギターの音が響く「2月の水槽」と昨年リリースの最新ミニアルバム「HOUSE」の曲が続くという完全なる新作モード。
土器が加わったのも、サビで一気にアッパーかつエモーショナルに拓けていく、これまでのyonigeのキラーチューンとは違う、日常感や生活感を感じさせる落ち着いたというか大人らしい曲を再現するためのものなのだろうかとも思うし、牛丸の落ち着いた髪色の出で立ちからも今までよりも大人らしさを感じさせるようになっている。
なので諦念をポップなサウンドとメロディに乗せた「どうでもよくなる」、決してドラマチックではなくあくまで淡々とした日常の風景を描く「また明日」と見事なまでの新作モードであるのだが、
「yonigeっていう名前でやってるのにこんな真昼間ですいませーん(笑)
次からは新規の人に向けて何曲かやります」
とごっきんが挨拶してから「センチメンタルシスター」「アボカド」というライブ定番曲にしてこのバンドの代表曲を続けたのだが、「新規の人に向けて」と完全に割り切っているあたり、自分たちの今のモードはもうこの辺りの曲のものではないのだろう。
かといってやりたく無さげな感じは一切なく、バンドの演奏はもちろん、かつては歌詞がちゃんと聴き取るのが難しいくらいにライブではボソボソと歌っていた牛丸の歌はもうこのキャパを広く感じないくらいのスケールを持っている。2日前にフレデリックやSUPER BEAVERをSTAR STAGEで見た時に、アリーナクラスともなると歌が強いバンドじゃないと立てないな、と思ったのだが、今のyonigeはそこに挑める力を持っている。
今までだったらフェスで演奏されたら「なんでこの曲!?」と思うくらいに、ワンマンのような長尺ライブでエンドロール的に演奏されてきた「トラック」も今のモードだからこそフェスで演奏されても違和感を全く感じない。まだメンバーが3人だった時代にリリースされたこの曲は「HOUSE」に収録されていてもおかしくないと感じるだけに、当初からこのモードに入る予兆はあったと言えるだろう。
そしてラストもやはり「さよならプリズナー」でも「さよならアイデンティティー」でもなく、「HOUSE」収録の「春の嵐」。
「だいたいのことは暇つぶし あの日のことも許して
一世一代のお祭りさ 君はそう言った」
というサビのフレーズのメロディへのハマり方の見事さと、春らしさを感じさせないようでいて最後にさりげなく登場するタイトルの「春の嵐」というフレーズ。嵐の時って家から出ないもんな、という風景を思い起こさせるような歌詞を書く牛丸はいずれは歌詞以外の言葉を紡ぐ形でも活動するような気がする。(ロッキンオンジャパンで映画について語る連載もスタートしたけど)
帰り際に牛丸はいつものように
「またライブハウスで会いましょう」
と言った。いわゆるライブハウスバンド的な熱血さを一切感じさせないような(そのイメージは今のモードによってさらに強くなった)このバンドも、間違いなくライブハウスで生きてきたし、今も生きている。その延長線上にこうしたフェスのステージがある。
1.リボルバー
2.顔で虫が死ぬ
3.2月の水槽
4.どうでもよくなる
5.また明日
6.センチメンタルシスター
7.アボカド
8.トラック
9.春の嵐
12:05〜 NICO Touches the Walls [STAR STAGE]
前日のJAPAN JAMに続いてのNICO Touches the Walls。このフェスに出るのは3年ぶりということだが、この日もメインステージであるSTAR STAGEに登場。
前日は野外のJAPAN JAMということで光村はサングラスをかけていたが、この日は室内なのでサングラスなしで登場し、前日同様に「天地ガエシ」からスタートし…という流れは同じで、というか結論から言うとセトリは全部同じだった。
ビバラとJAPAN JAMに両方出演していてセトリを変えていないという存在は自分が見た限りでは他にいなかったので、まさかNICOだけがそうなるとは、という感じだったのだが、じゃあセトリが変わらなかったからライブの内容が変わらなかったのかというと決してそんなことはない。
例えば前日に「ローハイド」の間奏で見せた、メンバーのソロ回し的な演奏はこの日はなく代わりに光村がアコギを弾く新曲「18?」ではやや長めの演奏をしていたように感じた。そうして選曲ではなく演奏の内容でライブに変化を持たせられるのは常にライブで自分たちの曲にアレンジを施し、同じ曲なのに見たライブによって全くどんな曲なのか変わるというライブをしてきたこのバンドならではである。
なのでこれまでに数え切れないくらいに見てきた「Funny side up!!」もサポートがいないのでギター、ベース、ドラムのみの4人編成で演奏されると全く違う聞こえ方をするし、何度もライブで見てきた曲であるにもかかわらずすごく新鮮に聴こえる。
そしてラストの「THE BUNGY」を演奏すると、ステージから去ろうとする前にスクリーンには「Congraturation!」の文字が。NICOは今年で結成15周年であり、それを祝してMUSICA編集長の有泉智子がケーキを持って登場。ケーキを持って観客と写真撮影したのはもちろん、古村が自身のカメラで写真を撮りまくり、最後は光村がケーキにかぶりついた。髪や口の周りに生クリームがつきまくってしまっていたけれど、その無邪気さが昔から何にも変わっていないように見えた。そして3年ぶりの出演とはいえ、過去にこのバンドの単行本を発行したこともあるMUSICAのこのバンドへの愛情を感じさせた。
春も夏も冬も毎回NICOを呼んでくれてメインステージに出してくれるロッキンオンのフェスとは違って、このフェスではNICOは決しておなじみの存在ではない。けれどこれだけのメンツの中で今でもかつてと同じようにメインステージを任せてくれるのは、このフェスの主催者がこのバンドはこのステージに立つべき存在だと思っているからだろうし、このバンドはちゃんとその期待に応えるライブを見せてくれる。
そしてそんなライブを見ていたら、いつかこのアリーナでワンマンを見たいと思った。過去に3回行っている日本武道館ワンマンですら今埋まるかどうかはわからないし、果てしなく遠いように思えるけれど、前にこのフェスで見た時はそうは思わなかった。3年経って、NICOはこのアリーナでワンマンをやるのを見てみたいと思えるくらいのスケールを獲得したのだ。そうやって今でもまだまだ進化しているから、ここにワンマンで立つのは決して不可能な絵空事なんかじゃなくて、真っさらな夢そのものだと思える。
リハ.手をたたけ
1.天地ガエシ
2.VIBRIO VULNIFICUS
3.マカロニッ?
4.ローハイド
5.18?
6.Funny side up!!
7.THE BUNGY
13:00〜 大森靖子 [VIVA! STAGE]
このフェスの初日の前に行われた、アイドルをメインにしたフェス「ビバラポップ!」のオーガナイザーである、大森靖子。(今年はCAVE STAGEを使って限定的に開催された)
同じく「ビバラポップ!」のオーガナイザーであるピエール中野(凛として時雨)がドラマーを務めるバンド編成で登場。
「ZOC実験室」でスタートすると、客席前方では早くもサイリウムが振られるという、ロックバンドがメインであるこのフェスにおいては驚きの光景が。それは同時にこの人のことを目当てで来たファンがたくさんいるということでもあるが、ギターが3人いるバンド編成だからか、以前までよりも大森靖子はハンドマイクを持って、しかもダンスの激しいアイドルグループのごとくに体を揺らしまくりながら歌う。
前半は近年リリースの曲を連発すると、この日出演する神聖かまってちゃんのの子が手がけた「非国民的ヒーロー」では大きな歓声が上がっただけにこの曲の人気の高さと、同時にの子のメロディメーカーとしての資質の高さを改めて感じさせるのだが、初期からの代表曲「ミッドナイト清純異性交遊」で前半の鬼気迫るような歌い方から可愛さを感じさせる歌声に変化していくと、独特の振り付けをサポートメンバーとともに行いながら歌う「絶対彼女」へ。
サビをコール&レスポンス的に合唱させると、間奏ではなぜかライザップのCM音楽をサポートメンバーたちが演奏し、それに合わせてポーズを取る大森靖子。前半から「なんか太ったように見えるな」と思っていたのだが、このパフォーマンスを見るとその自覚はあるようだ。それすらもパフォーマンスにするくらいに楽しんでいるように見えたし、
「自分が1番可愛いと思うポーズで!」
と観客にもライザップで減量に成功したように感じられるポーズを取らせると、「マジックミラー」のポップなサウンドが広い客席に響き渡り、最後は大森靖子がサムライにおける刀(しかも巨大なやつ)のようにギターを肩に背負うようにして歌った「死神」。その姿はまさに鎌を持った死神のようでもあり、ハートの形のステッキを持った女神のようでもあった。つまりはやっぱり神々しさで満ち溢れていた。
1.ZOC実験室
2.draw(A)drow
3.VOID
4.非国民的ヒーロー
5.ミッドナイト清純異性交遊
6.絶対彼女
7.マジックミラー
8.死神
13:55〜 SHISHAMO [STAR STAGE]
当初の予定ではCAVE STAGEでマカロニえんぴつを見る時間だったのだが、そちらが入場規制で全く入れそうになかったのでSTAR STAGEに戻ってSHISHAMOを見ることに。このフェスではこのキャパのステージに立つのもすっかりおなじみになった。
いつもと全く変わらないというか、緑色のパーカーとショーパンという出で立ちが体育の授業の女子高生のようにすら見えるのがより一層素朴さを感じさせる宮崎朝子をはじめとした3人が登場すると、このバンドらしいギターロック「恋する」でスタートし、ライブ定番曲としてこうしたフェスでもおなじみのタオルを観客が回す「タオル」ではスクリーンに演奏するメンバーの姿とともにおなじみの専用アニメーションも映し出され、このバンドがこのフェスから愛されている存在であることを改めて感じる。
「今日、友達と来た人?1人で来た人?…(ため息をつくようにして)恋人と来た人?
…手を挙げるのかよ。1人で来た人もいるんだから気を使えよ…(笑)」
という宮崎のおなじみのドSらしい観客いじりも健在なのだが、中盤に演奏されたこのバンドの代表曲たちからは、このバンドがこうしたアリーナクラスでライブをやれることが当たり前であるかのような歌唱力、演奏力、表現力を持っていることを実感させる。
サウンドはまるで違うとはいえ、SiMと同じくロッキンオンのフェスには出ないバンドであるだけに、このフェスかSWEET LOVE SHOWERくらいでしか首都圏のフェスに出るのを見ることがないので、ワンマンをアリーナやスタジアムクラスでやれるようになっているスケールを感じれる機会はそこまで多くないが、このフェスのSTAR STAGEに立つ姿を見ればそれがよくわかる。
「君と夏フェス」「明日も」という曲でこのバンドの持っている、そしてこのバンドがここまで来れた最大の理由であるメロディの良さをしっかり感じさせると、
「次で最後の1曲です!」
と言って起こった「えー!」の声をさらに大きくしようと耳に手を当てて「もっと?」と仕草でアピールする宮崎。去年は最後の曲だと宣言しないでライブを終えていたし、そもそも昔はこうした「えー!」という声に対して、
「あ、そういうのいらないです」
とあしらっていた。(そうしたキャラを演じるためにやってた部分もあるとは思うけど)
そうした部分に全く見た目が変わらないままでも大人になったのかな、とも思うし、最後に演奏された「OH!」で合唱を促す姿からはやはりこのバンドがいろんな意味で大きくなったことを感じさせた。
このフェス開催初年度の数ヶ月前に、Zepp Tokyoにて出演バンドの何組かが出ていたキックオフイベント的なものに行ったことがある。そのイベントにまだベースが松岡じゃなかった頃、インディーズでミニアルバムを1枚出しただけのど新人だった時代のこのバンドも出ていた。
その時は明らかに抜擢感が強すぎるというか、確かに「お菓子作り」とか曲はすごいいいけれどフェスに呼ぶのはまだ早くない?と思っていたのだが、今のこのバンドの状況を見ていると鹿野淳の目は正しかったんだな、と思うし、その期待に応えるようにメンバーたちは成長してきたんだとも思う。
1.恋する
2.タオル
3.ねぇ、
4.僕に彼女ができたんだ
5.君と夏フェス
6.明日も
7.OH!
14:50〜 ハルカミライ [VIVA! STAGE]
やはりYON FESの時と同様に、ボーカルの橋本学以外の3人がサウンドチェックを始めて、ボーカルなしの曲を演奏するとその状態ですらダイバーが続出するという状況を生み出している、ハルカミライ。VIVA! STAGEへの出演となると抜擢という感じが強いが、昨年のZepp Tokyoワンマンを即完させていることを考えれば納得の位置である。
橋本が歌い上げるショートチューン「君にしか」でスタートすると、のっけからダイブの嵐。橋本自身もステージから降りて客席に突入したり、客席の柵の前で歌ったりするのだが、「ファイト!」を終えると、
「今日はこどもの日だから、こどもみたいにみんな遊びまくるんだろうけど、今日をこどもの日じゃなくて、ハルカミライの日にしようぜー!」
と言って大歓声を浴びるのだが、その際にマイクのコードと須藤俊のベースのコードが絡まってしまっており、
「このまま始めたら俺もそっちに行かないといけないんだけど」
ということで当然のように須藤もステージを降りて客席に突入し、さらにはなぜかギターの関大地までもマイクスタンドごと客席に突入。そのまま観客の上でギターを弾きながらコーラスをするという、ダイブが禁止されていないこのフェスの特性を最大限に、でも計算としてではなく衝動のままに利用している。
アリーナでライブをするのは初めてということで、橋本はその広さに驚いていたのだが、せっかくのアリーナということで、
「こんなに広いならあれできそうじゃない?全然興味ないけど一応やってみよう」
ということでスタンド席に座ってる人たちにあれことウェーブを起こさせるのだが、
「暗くてあんまりよく見えねぇし、あんまり乗ってくれねぇからいいや」
と不発気味に感じていた様子。割とスタンド席はウェーブが起こっていたような気もするけど。
「春のテーマ」や、
「さくら さくら さくら」
というサビのフレーズで橋本の勢いだけではない歌心を感じさせる「それいけステアーズ」と春フェスであるこの時期にピッタリな曲が続くと、
「平成最後とか令和最初じゃなくて、1番の思い出が欲しいんだ!」
と橋本が叫ぶ。
ハルカミライは決して新しい音楽をやっているわけではないというか、最も近しいところで言うと15年以上前に流行した青春パンク的な音楽である。でも音楽は新しければいいというものではない。どれだけ聞き手の心に響くかだ。
この橋本の言葉からの、2回目の「ファイト!」を含むショートなパンクチューンたちからは決して新しさは感じないけれど、鳴らしている歌や音からは熱量が溢れ出ていた。それが見ている人の心を何よりも動かすものだと彼らは信じているのである。
「眠れない夜に私 ブルーハーツを聴くのさ」
というフレーズが出てくるラストに演奏された「アストロビスタ」。
青春パンクブーム時、ブルーハーツから影響を受けたであろう、ブルーハーツっぽいバンドはたくさんいた。このバンドも歌詞からわかるようにブルーハーツから多大な影響を受けているだろう。でもなぜだかブルーハーツっぽくはない。ハルカミライらしさしか感じない。それは音楽性よりもメンバーの人間性によるものだろうし、この曲を演奏する前に
「やべぇ、まだ10分くらい時間ある(笑)」
と言っていたのも走り抜けるしかないこのバンドらしさを示している。
1.君にしか
2.カントリーロード
3.ファイト!
4.俺達が呼んでいる
5.春のテーマ
6.世界を終わらせて
7.それいけステアーズ
8.Tough to be a high
9.エース
10.ファイト!
11.アストロビスタ
15:40〜 UNISON SQUARE GARDEN [STAR STAGE]
昨年はこのステージのトリを務めた、UNISON SQUARE GARDEN。今やそれも当たり前の動員力を誇るバンドになっているが、今回は中盤の時間帯に登場。前日のJAPAN JAMに続いて2日連続のライブである。
おなじみのイズミカワソラ「絵の具」で3人がステージに登場すると、曲を演奏するより先にセッション的な演奏をしてから、最新作収録の獰猛なサウンドの「MIDNIGHT JUNGLE」からスタートするのだが、これでアラバキの「流れ星を撃ち落せ」、前日のJAPAN JAMとGWの春フェス3本全てで1曲目を変えていることになる。どういう基準や理由で1曲目を決めているのかはわからないが、こうしてスタートが変わると「この後にどんな曲が演奏されるんだろうか」と全く予想がつかなくなる。
とはいえさすがにまるっきり入れ替えるということまではせず、このGWシーズンでは「10% roll, 10% romance」と「フィクションフリーククライシス」は3公演全てで演奏されたのだが、逆にこのシーズンにやらないとやる機会なくない?とすら思える「春が来て僕ら」はこのシーズン1度も演奏されず。あまり季節感を意識しないバンドではあるが、これは「春が来て僕ら」はフェスなどで演奏されるような定番曲にはならないということか。
しかしながらライブの安定感はもちろんのことながら、「invisible sansation」のようなヒットシングルだけでなく「誰かが忘れているかもしれない僕らに大事な001のこと」のような決して有名ではないような曲ですらたくさんの人たちが演奏されるのを喜ぶような曲になっている。RADWIMPSが「RADWIMPS 4 〜おかずのごはん」を出した頃のような、どんな曲であっても観客に待たれているという完全無双モードにこのバンドは突入している。
そんな中で春フェスシーズンに演奏されるのが初めての「ガリレオのショーケース」では鈴木がコートを頭から被り、視界がほとんど見えない状態でドラムを叩くという、ワンマンではおなじみではあるがフェスでやるのはかなり珍しいだけに、この曲が演奏されたことに喜びながらも「どうなってるんだ!?」という驚きを持ってステージを見ている観客のリアクションが実に面白い。田淵もこの曲でベースを置いて走り回るなど、最もステージを動き回ってその存在感を強くアピールしていた。
ローディーからコートを剥ぎ取られるようにして視界が復活した鈴木が後ろからヘッドホンを装着させられると、大多数の人が「シュガーソングとビターステップ」を演奏するだろうと思いきや、斎藤が
「ラスト!」
と言って演奏したのは「君の瞳に恋してない」。つまり、最近はほぼ100%と言っていいくらいに演奏されていたことで、ファンを心地よく裏切ってきたというか、望まれることよりも自分たちがやりたいことをやってきたこのバンドも大ヒットシングルをちゃんと毎回演奏するという「物分かりが良くなったのかな」と思うように感じていたが、ユニゾンの軸は今でも全く変わっていない、全くブレていなかった。
ユニゾンのライブは基本的にひたすら、良い曲を良い演奏で聞かせるというものであり、選曲以外の部分でライブの違いを見せるようなことは少ない。(ワンマンではその土地にちなんだMCが聴けることもあるが)
しかしその毎回演奏される曲をガラッと変えるというこのバンドの姿勢はユニゾンのライブを見ないと忘れてしまうかもしれない、僕らに大事なドキドキ感を思い出させてくれる。
1.MIDNIGHT JUNGLE
2.10% roll, 10% romance
3.誰かが忘れているかもしれない僕らに大事な001のこと
4.フィクションフリーククライシス
5.invisible sensation
6.天国と地獄
7.ガリレオのショーケース
8.君の瞳に恋してない
16:35〜 Nothing’s Carved In Stone [VIVA! STAGE]
このフェスは音楽雑誌「MUSICA」が主催していると言ってもいいようなフェスであり、MUSICAでフィーチャーされているアーティストたちが集うフェスであるとも言えるのだが(この日出演しているSHISHAMOも最新号の表紙を飾っている)、時には全くMUSICAに載らないようなバンドが出演することもある。
それこそサンボマスターやかつてのMONOEYES(細美武士は後にthe HIATUSでインタビューが載ったが)がそうだったが、開催初年度にこのフェスに出演しているこのNothing’s Carved In Stoneもそうしたバンドの一つである。
よって久しぶりの出演なのだが、メンバー4人がステージに登場し、生形真一(ギター)、ひなっちこと日向秀和(ベース)、大喜多崇規(ドラム)、村松拓(ボーカル&ギター)の発する音がバチバチにぶつかり合いながらも調和していき、それがキャッチーなメロディすらも内包する「Spirit Inspiration」からスタートすると、どこか硬派なロックバンドの持つ「カッコいいな…」としか感じさせないような空気が会場を満たしていく。
しかし最近はすっかり陽気なおっさんキャラになりつつある村松は
「2号店じゃなくてゴメンね〜。一応本店なんで(笑)」
と、この時間帯にGARDEN STAGEでライブを行っている、マキシマム ザ ホルモン フランチャイズ2号店のことを引き合いに出して笑わせる。
しかしやはり未知数とはいえ、「マキシマム ザ ホルモン」という名前が持つ力は強いということを思い知らされたのは、この時間のアリーナはガラガラで、逆にGARDEN STAGEは入場規制がかかっていたということ。出演発表時はまだメンバーも、何をするのかも決まっていなかった2号店がそこまでの状況を生み出すというのはやはりホルモン恐るべしである。
このバンドはかつてのロッキンでもBUMP OF CHICKENの真裏の時間帯でかなり厳しい集客でのライブを強いられたことがあるのだが、どんな時でもこのバンドが見せるライブは変わらない。この豪華メンバーを擁するバンドだからこそできるロックを演奏するということ。
その想いは結成時から全く変わっていないということを示すのが、バンドが自主レーベル「Silver Sun Records」を立ち上げてから発表された最新曲「Beginning」。「銀の月」など独立した決意を感じさせるフレーズの数々はこのバンドの歴史と、これからも変わらずに走り続けていくという姿勢を感じさせる。
そしてこのバンドの中で最もライブ定番曲と言える「Out Of Control」から、ラストは村松の日本語歌詞のボーカルがより一層メロディアスに響く「Shimmer Song」。ELLEGARDENもABSTRACT MASHも再び動き出した。でもこのバンドでしか作れない音楽が確かにあるし、それを自らの活動で証明してきた。それはまだまだ続く。
初年度に出演した際に、村松は
「このフェス最高だなぁ!このフェスはロックバンドしか出てないんだぜ!ロックフェスにアイドルいらねぇだろう!」
と言って物議を醸した。でもそれは今でも変わらずにこのフェスと鹿野淳が抱いているロック感そのものである。ひなっちは前日にももクロのライブにサポートメンバーとして出演するなど、もしかしたらメンバー間でその意識は多少違っているのかもしれないが、そのフェスが持つこだわりはフェスの姿勢として大事にするべきだと思うし、どんなフェスにもアイドルが出るようになったらそれこそ全てのフェスがロッキンやサマソニみたいになってしまう。
村松はそこまで考えて発言したわけではないと思うし、それ以来このフェスに出演していなかったというのはちょっと心配させた部分もあったが、ライブを観るとそんなことで心配することは全くないのだなと思わせてくれる。
1.Spirit Inspiration
2.Honor is Gone
3.村雨の中で
4.Milestone
5.Beginning
6.Out Of Control
7.Shimmer Song
17:25〜 神聖かまってちゃん [CAVE STAGE]
かつて出演した際はVIVA! STAGEだった、神聖かまってちゃん。それからまた数年が経ち、今年はCAVE STAGEへ登場。
狭いステージとはいえ、完全に満員御礼状態なことに驚いていると、「23才の夏休み」からスタートし、ダイバーすらも出現するという盛り上がりに。やはりこの時期の曲を聴いている人が1番多いというのもあるだろうけれど、もうすっかり中堅クラスの存在になってきているだけに、初期のようなライブのグダグダさは全く感じない。そういうスタイルのライブになってからすでに何年も経っているが、喋り始めると止まらなかったり、メンバー同士がケンカを始めたりして見ているのがきつかった頃からしたら完全に別バンドと言っていいレベルである。
さらに「ぺんてる」と初期の頃の曲が続くのだが、自分とこのバンドのメンバーは同じ市内出身の同い年であり、実に近いところで生きてきた。(隣の中学校だったりする)
なのでこの「ぺんてる」と呼ばれていた店のこともよく知っているし、こうしてこの曲を聴いていると子供の頃にぺんてるでドラゴンボールやガンダムのカードダスを回していた記憶を思い出して涙が出てきてしまう。それくらいにこのバンドのメンバーたちが見てきた景色とは共有しているものが近い。の子が歌うようにぺんてると呼ばれていた店はかなり昔にもうなくなってしまったし、あの辺りの景色もだいぶ変わっているだろう。でもこの曲を聴けば今でも当時のことを思い出すことができる。
この日、マキシマム ザ ホルモン 2号店のメンバーとして出演した、オメでたい頭でなによりのボーカル・赤飯とコラボした「肉魔法」など、バンドが過去の曲だけではなく今も前に進んでいることを示す(赤飯とのライブでのコラボはなし)のだが、昔のこのバンドのライブからは想像できないくらいにライブのテンポが良い。かつてはワンマンでも大半の時間をグダグダなトークに費やしたりしていたが、今はそんなことはない。自分たちの音楽をしっかり見てくれている人たちに伝えようとしている。
そして演奏された「ロックンロールは鳴り止まないっ」は大合唱に加えてダイバーが続出しまくり、の子もその光景に驚き、
「お前らやべーな!俺ですらダイブしてないのに!これ来年は神聖かまってちゃん、STAR STAGEいけるだろ!UVERworldよりも神聖かまってちゃんをSTAR STAGEにするべきだろ!UVERworld大好きだけど!」
とテンションがブチ上がった状態で最後に演奏された「フロントメモリー」ではの子がヴォコーダーを通して歌うのだが、その声すらもかき消されそうなくらいの大合唱。の子もダイブはしないまでも上半身裸になり、
「来年はSTAR STAGE!いや、VIVA! STAGEかな(笑)」
と目標を若干下方修正しながらさらに喋ろうとするの子をちばぎんが背負うようにしてステージを去って行った。
テレビに出演した話題を呼んだのももう昔の話。自らMUSICAのインタビューで「オワコン」と言っていたこともあった。しかしそれでもかまってちゃんは終わらなかった。バンド以外で生きていこうと思えばそれができるような状態にいる、みさ子をはじめとしてメンバーも誰もこのバンドを辞めなかった。そうやって続けてきたからこそ説得力が増すことが間違いなくある。今でもロックンロールは鳴り止んでいない。それを自らの姿で証明しているこのバンドはいつも過去最高に頼もしい。
リハ.知恵ちゃんの聖書
1.23才の夏休み
2.ぺんてる
3.ねこラジ
4.肉魔法
5.ロックンロールは鳴り止まないっ
6.フロントメモリー
18:35〜 teto [CAVE STAGE]
この日のCAVE STAGEのトリはteto。同じ時間に被っているアーティストも強豪揃いだが、さすがにCAVE STAGEはライブが始まる前から満員である。
メンバーが登場して、激しい小池の動きとサウンドによる「高層ビルと人工衛星」からスタートすると、帽子を被ってギターを弾いている、もじゃ頭ひげざぶろうこと山崎がどことなくおとなしめだな、と思っていたのだが、途中で帽子を投げ捨てるとさらに頭に手をかける。なんともじゃもじゃ頭はカツラであり、遠目ではスキンヘッドのようにすら見える金髪の坊主頭に変貌。たしかにこの見た目でいきなり登場したら、山崎は脱退して新しいギタリストが入ったのか、と思ってしまうくらいにいきなり姿を見てもわからなかっただろう。
最新シングル「正義ごっこ」収録の、tetoのイメージである言葉数の多い性急なギターロックど真ん中の「夜想曲」も披露されると、令和という新しい時代を迎えたことを受けて「新しい風」を演奏したりするのだが、かまってちゃんとは対照的に、小池は客席に突入しまくり。当然観客もダイブしまくるのだが、そうなるとステージが低くて見にくいCAVE STAGEらしく、ステージが全く見えなくなる。
シングルを出したばかりだというのにさらなる新曲「コーンポタージュ」も披露されたのだが、「自動販売機」などのフレーズはこの曲が描く景色や情景を想起させる。昨年決定打的なフルアルバム「手」をリリースしたばかりだが、このペースで新曲が出来てくると早いうちにまたアルバムが出るのかもしれない。
再びどしゃめしゃなサウンドに転じながらも佐藤健一郎(ベース)の高音コーラスがメロディを支える「拝啓」では最後の
「拝啓 今まで出会えた人達へ
刹那的な生き方、眩しさなど求めていないから
浅くていいから息をし続けてくれないか」
のフレーズを思いっきり感情を込めて
「本当に、生きていて下さい」
とライブだからこその歌詞に変えて歌った。
それは小池が自身の歌を伝えたいという思いによるアレンジであるが、
「歌って1番伝わるのって、その人の家に行って上がらせてもらって、お茶でも出してもらいながら「じゃあ歌いますか」って言ってその人の目の前で歌うのが1番伝わると思うんですよ」
と自身のスタンスを口にすると、それを示すかのようにスタッフに肩車された状態で客席内に突入し、「光るまち」をマイクを通さずに歌い始める。すると観客も小池とともに大合唱。シングル曲でもなければMVがある曲ですらない。カップリングに弾き語りバージョンが入っている曲。そんな曲の大合唱は、小池の歌を伝えたいという思いが確かに届いたことを示していたし、曲の途中からバンド編成になるアレンジはいつも以上に感動的だった。
アンコールで再びメンバーが登場すると、
「VIVA LA ROCK、出れて本当に嬉しいです。俺がこのバンドを始めようと思ったのはこのフェスを客として見に来た時に憧れのバンドのライブを見たからなんだけど、去年その人とこのフェスで一緒になって。俺は向こうが俺たちのことを知ってくれるような存在になるまでは話しかけないようにしようと思っていたんだけど、その人が俺たちのことを知ってくれていて。
「teto、聴いてますよ。バズリズムに出たのも見ました」
って言ってくれて。今日はその人はいないけれど、あの時にその人が好きだって言ってくれた曲をやります」
と言って「あのトワイライト」を演奏したのだが、小池が口にした「あの人」はこれまでにインタビューなどでも話している、銀杏BOYZの峯田和伸のことだろう。
銀杏BOYZはこのフェスで峯田1人になってから弾き語りという形で実に久しぶりにフェスに出たことがある。あの時、今はなきWING STAGEという野外のステージに溢れかえる人たち。その中に自分と小池は確かにいて、同じようにライブを見ていた。そこから始まったこのバンドに自分が大きな可能性を感じたり、楽曲を聴いたりライブを見たりして心を動かされたのは当然のことだったのかもしれないし、かつての小池のように、いつかこの場所でこのライブを見た人が何年後かにこのステージに立っているのかもしれない、と思った。
リハ.朝焼け
リハ.Pain Pain Pain
1.高層ビルと人工衛星
2.夜想曲
3.暖かい都会から
4.新しい風
5.コーンポタージュ
6.拝啓
7.光るまち
encore
8.あのトワイライト
19:30〜 クリープハイプ [STAR STAGE]
この日のトリはクリープハイプ。このフェスにおいては常連と言える存在だし、アルバム「泣きたくなるほど嬉しい日々に」リリース時にはMUSICAで表紙を飾り、それ以外の雑誌でインタビューを受けないという姿勢を取ったりしていたが、意外にもフェスでトリを務めるのは初めてである。
SEもなしにメンバー4人が出てくると、長谷川カオナシがキーボードを弾く「5%」で始まるというしっとりした出だし。これには演奏後に尾崎世界観が、
「ドSなんで、いつもはすぐにヤッちゃうんだけど、今日は優しくしたい気持ちだから」
とトリだからこそのスタートであることを語ると、
「今日は日曜日ですが、ツイッターの「日曜日だし邦ロック好きと繋がりたい」っていうタグが嫌いです。平日も繫れよ(笑)でもせっかくの日曜日なんで、邦ロック好きのみなさん、繋がりませんか」
と「鬼」からはカオナシがメインボーカルの「火まつり」も挟んで、
「神セトリとかたまに言うけど、シングル曲を並べただけなのはペラペラの紙セトリです」
と尾崎らしい皮肉も含んで「ラブホテル」から「イト」につながり、さらにはイントロが追加された「憂、燦々」とライブアレンジも施していたが、そう言うからこそクリープハイプはセトリを最大限に吟味してこのステージに挑んでいたはずだ。
そうした雄弁さやライブへの想いは自分たちにトリを任せてくれたからこその感謝の気持ちによるものであろうが、それは言葉だけではなくメンバーの演奏そのものを楽しむ姿や、歌詞がない部分でも声を出すくらいに気合いに満ち溢れた尾崎のボーカルからも感じることができる。
そして「HE IS MINE」でこどもの日らしからぬ
「セックスしよう!」
の大合唱を巻き起こすと、尾崎の言葉数の多いボーカルがさらにテンポ速く畳み掛けてくる「社会の窓」、さらには「社会の窓と同じ構成」を連発するというコンボも見せてくれる。これは1時間という持ち時間あればこそできる選曲だろう。
「ツイッターとかでライブレポみたいなの上がってるけど、あんなの見る必要ないですから。そんなの見ても絶対伝わらないし、簡単なあらすじなんかにまとめられてたまるか」
と最後に演奏された「栞」の歌詞を引用して尾崎は語っていた。このフェスの公式サイトもクイックレポ的なものをアップしているし、自分もライブ後にレポ的なものをツイートしている。尾崎が自分のツイートなんかを見ているなんて恐れ多いことは全く思っていないから全然気にしていないけれど、自分自身、ライブは実際にこの目で見た人にしか絶対伝わらないと思っている。映像作品はもちろん、客席からスマホで撮った動画や写真なんかでは絶対に伝わらない。それは140文字のツイートでも同じ。
でも伝わらないってわかっているからこそ、こうしていつもチケットを買ってライブ会場に足を運んで、何も通すことなく自分の目でライブを見に来ている。言い方に皮肉的なものが含まれてしまうのは性格というか性質的に仕方がないとはいえ、尾崎が言いたかったのはそういうことなんじゃないかと思っている。
ライブ後には鹿野淳が現メンバーになって10周年を祝うケーキを持って登場。かつては尾崎の声の出なさに不安を持たれたり、ライブに波があったりしたクリープハイプは、こうした大きなフェスのメインステージでトリを務めて当然の存在になっていたし、ケーキをもらった後のメンバーの表情からは自分たちにそこを託してくれたこのフェスへの感謝と愛を感じさせた。
1.5%
2.鬼
3.おばけでいいからはやくきて
4.火まつり
5.ラブホテル
6.イト
7.憂、燦々
8.二十九、三十
9.HE IS MINE
10.社会の窓
11.社会の窓と同じ構成
12.栞
翌日はJAPAN JAMに行ったので、今年このフェスに参加したのはこの日が最後。前年までの動線の悪さによって見たいライブが満足に見れないという不満はSTAR STAGEとVIVA! STAGEを同じエリアにしたことによって解消されたし、アリーナとスタンドを自由に行き来できるようになったことも含めて、快適にライブを見まくれるようになった。
個人的にはやはり「日ごとに系統を固める」というのはフェスの意志を感じさせるものとは思えないし、例えば今年なら2日目のラインアップを自分は1万円払って見に行こうとは思わない。でもこうしてスタンド席に座って休憩しながら、移動することなくライブが見れるようになったことによって、今までならスルーしていたアーティストのライブも見れるようになった。
ツイッターを見ていてもそうして「今までは移動がめんどくさくて見に行かなかったアーティストを座って見ていたら凄く良かったのが新しい発見だった」と言っていた人も結構いた。それを同じジャンル同士のアーティストではなくて、全く異なるジャンルのアーティスト同士でできるのがこうした大きなフェスのできることの一つだと思っている。そうなれば、自分だって好きなバンドの合間に普段ならわざわざ見に行ったりしないバンドのライブを見ることができるし、それでライブが凄く良かったらそうしたバンドのワンマンに行くきっかけになるかもしれない。そこが変われば、鹿野淳が
「アーティストを系統ごとに固めてから通し券が売れなくなった」
と言っていた状況を変えることができるかもしれない。
かつて開催初年度にサカナクションの山口一郎はトリとしてのライブのアンコールで、
「鹿野さん、頑張ったね」
とこのフェスを主催した鹿野淳のことを称えていたり、昨年BRAHMANのTOSHI-LOWは
「昔、鹿野がロッキンオンジャパンの編集長だった時に揉めてから、鹿野のことを全然信用してなかった。でも来てみたら、良いフェスじゃねぇか」
と言っていたが、自分はそれらの言葉の後に素直に拍手することができなかった。それくらいに不便だったり、ライブを見るためにストレスを感じたり、帰りに100%楽しかったという気持ちでこのフェスを終えたことがなかったから。
でも今年は本当に楽しかったし、ストレスをほぼ感じなかった。来年以降、参加者が増えた時にこの快適性を維持できるかわからないし、スタンディングエリアの入場規制など、まだまだ完璧ではないけれど、素直にこのフェスに感謝をすることができる。願わくば、来年は他のライブと日程が被らずに、迷うことなくチケットを取れるようになりますように。
文 ソノダマン