そもそもが野田洋次郎がリリースライブをやることを想定していなかったという、様々なアーティストとのコラボ曲を収録した、昨年リリースされたアルバム「ANTI ANTI GENERATION」のツアーであり、それは全国各地のアリーナクラスの会場や、バンドにとって初のスタジアムワンマンとなった、6月のZOZOマリンスタジアムでのワンマンによって幕を閉じたかと思われた。
しかしながらバンドは突如として追加公演を発表。しかも横浜アリーナでの3daysという規模で。この横浜アリーナは洋次郎、桑原彰、武田祐介、山口智史の4人が初めて出会った、RADWIMPSの始まりの場所であり、2007年8月の初のアリーナワンマンをはじめとして、これまでに何度となくone man liveを行なってきた、RADWIMPSにとっての聖地と言ってもいい場所である。
自分はZOZOマリンスタジアムでの2daysの2日目を見ているのだが、それがまさにスタジアムでワンマンをやるべきバンドのスケールを有していただけに、それよりも規模が小さい(ここで狭いと言えるのもとんでもない話である)この場所で果たしてどんなライブを見せてくれるのか。前日の3days初日はONE OK ROCKのTakaがゲスト出演して話題になったが、2日目となるこの日は。
とはいえこれだけの規模のツアーともなると、追加公演とはいえ全体の流れは大きくは変えることはできないので、ZOZOマリンスタジアムの2日目のライブレポも参考にしていただきたい。
(http://rocknrollisnotdead.jp/blog-entry-646.html?sp)
19時過ぎに場内が暗転すると、ステージには水が降り注ぐような美しい光のカーテンが出現し、客席が一斉に驚きの声をあげる。そのカーテンの向こうにはピアノを弾く野田洋次郎の姿が。そのまま歌い始めたのは「ANTI ANTI GENERATION」の実質的なオープニング曲である「tazuna」。自分が行ったZOZOマリンスタジアムの2日目ではやっていなかった曲なので少しばかり驚くが、ウッドベースを弾く武田とギターとシンセを代わる代わる弾く桑原の音が重なる中、
「あぁ 僕らはどこから こんなとこに来たのかな」
という冒頭のフレーズがこうして同じ場所に集まったメンバーと観客の心を掬い上げていく。
桑原によるEDMと言ってもいいようなシンセのサウンドが響く「NEVER EVER ENDER」では洋次郎が飛び跳ねながら歌い、イントロのシンセを弾いてギターにスイッチした桑原は勢いよくステージサイドに伸びた花道に駆け出していく。その姿は前回この横浜アリーナで見た「Human Bloom Tour」での「光」の演奏時を彷彿とさせるが、初めてここでワンマンライブをやってから12年。バンドは形が変わったし、桑原は体型が大きく変わった。それでもこうしてギターを手にした子供みたいな姿を見せてくれる。それは12年前から全く変わっていない。そんな些細なことですら泣き出しそうになるのはやはりこの場所にこれまでにこのバンドが刻んできたものをしっかり覚えているから。
ZOZOマリンスタジアムの時はアリーナスタンディングで見ていたために感じられなかったが、スタンド席で見ていると洋次郎がギターを弾きながら歌う「ギミギミック」で横浜アリーナの構造的に客席が揺れまくっているのが本当によくわかる。揺れに弱い人だったら酔ってしまいそうなくらいであるが、序盤だからとか昔のアルバムの曲だからという要素を一切感じさせない盛り上がりっぷりである。洋次郎はイヤモニを気にしていたのか、この辺りで少し歌いづらそうな部分も少しあったが。
洋次郎がこの追加公演の3daysの開催に触れ、
「平日のど真ん中なのは申し訳ない(笑)」
と観客に謝罪すると、早くもゲストがステージに。SOIL & “PIMP” SESSIONSのタブゾンビを中心としたホーン隊「TIE TOUNGE ZOMBIEZ」であるが、洋次郎がステージを歩き回りながら歌う「カタルシスト」を華やかに、観客によるコーラスとともに「アイアンバイブル」をさらにポップに彩っていく。
そもそもは「TIE TOUNGE ZOMBIEZ」という名の通りに、「ANTI ANTI GENERATION」収録の「TIE TOUNGE」という曲に参加していたからこその共演であるが、音源では鍵盤が担っていたこの曲たちのフレーズも最初からこうしてホーンが入ることを想定していたかのようなハマりっぷり。
その「アイアンバイブル」ではハンドマイクの洋次郎を始めとして、桑原と武田も演奏しながら客席アリーナの前ブロックと中央ブロックの間に設置された花道を歩き回り、曲終わりにちょうどブロックとブロックのちょうど真ん中に集まる形に。
その位置で3人が腰を下ろすと、ステージがせり上がってきてよく見える形で演奏されたのは英語歌詞の「I I U」。座って演奏する3人の絞った音数が曲の持つ優しい部分を引き出しているが、桑原と武田がステージに戻る間に洋次郎は観客に
「みんな夏休み?」
と問いかけ、
「もう今日を含めて2日やったらツアーが終わってしまう。ずっとツアーやってって?そしたら一生新譜出ないけどいいの?(笑)
でも俺は2〜3日休んでもすぐに曲を作りたくなるから、ミュージシャンが天職なんだと思う。桑原は早く休んでハワイに行きたいって言ってたけど(笑)」
と、桑原ネタで笑いを取りながらも自身の絶えることのない創作意欲を口にして洋次郎はそのままの位置でピアノを弾きながら「そっけない」を演奏。
RADWIMPSは決してリリースペースが速いバンドというわけではないが、それはインタビューでよく語られている通りに洋次郎が作った曲を吟味して、メンバー達で練り上げまくっているからこそ時間がかかってしまうところもあるのだろう。それはメンバー達が一切妥協をしない人たちであるいうことでもある。
その後に洋次郎もステージに戻るのだが、鍵盤でイントロ部分の音を出すとハンドマイクになる「洗脳」では歓声が巻き起こるのだが、スクリーンでは歌う洋次郎の姿に不穏な炎のようなエフェクトがかけられていき、最後には完全に洗脳された人になりきったかのようなエフェクトがかけられる。洋次郎は俳優として活動したこともあるが、こうして曲に入り込める能力というのはそうした活動から培った部分もあると同時に、その能力があるのを洋次郎を俳優として起用した人たちはみんな見抜いていたのだろう。
そのまま「ANTI ANTI GENERATION」でも核になるというか、洋次郎が「シングルにしようと思ったけど、俺以外に誰もそう思ってなかった(笑)」という「PAPARAZZI 〜✳︎この物語はフィクションです〜」と、それまでは曲間では「洋次郎ー!」などのメンバーを呼ぶ声が客席から響いていたが、そうした声すら出せなくなるくらいの威圧感というかオーラのようなものを、花道を歩きながら歌い、後ろをついてくるカメラマンに時折「撮るな」と言わんばかりに手で画面を隠したりするというまるでパパラッチに自身が狙われたかのようなアクションを見せる。この曲に関しては本当に洋次郎以外に目がいかないくらいの迫力であった。
桑原による刄田綴色と森瑞希の2人のサポートドラマーの紹介からの「おしゃかしゃま」では間奏でそのドラマーも含めたおなじみのセッションが展開されるのだが、洋次郎によるフェイントのバリエーションが多彩になっており、そこはさすがにツアーを重ねたからこそだな、と思うと同時にドラマー2人のソロでの叩き方がマリンスタジアムの時とは全く違うものになっており、その日のライブでしか見れないものを見れているという感覚にしてくれる。
三度登場したTIE TOUNGE ZOMBIEZのメンバーが花道を歩き回りながら演奏する「TIE TOUNGE」ではラッパーのMiyachiも登場して完全版に。トランペットソロで天井に向かって長く吹くタブゾンビの肺活量に喝采が上がる。こうしてタブゾンビがRADWIMPSの音楽に参加するようになったのはSOIL & “PIMP” SESSIONSの「ユメマカセ」で洋次郎がボーカルとして参加したからであろうけれど、それが縁でこうした曲が生まれて、ライブでは過去の曲もホーンで彩ってくれるようになる。一回きりのコラボではなくて音楽仲間としてずっと続いていく関係。それはタブゾンビだけならず、「ANTI ANTI GENERATION」に参加した他のミュージシャンもそうなっていくのだろう。
すると洋次郎がメンバー3人よりも高いところにあるドラムセットに至る部分の階段に腰掛けて、普段弾くイメージがほとんどないタイプのエレキギターを手にすると、
「毎年3月11日に曲を発表していて。震災が起きた次の年からだからもう8年目」
と言って弾き語りのようにシンプルなサウンドで演奏されたのは今年の3月11日に発表された「夜の淵」。
「何のために生まれたのか わからない僕たちだけど
涙を流すためじゃないことだけは たしかさ」
という歌詞は震災はもちろん、それ以外の悲しい出来事があった人たちすべての背中をそっと押すかのようだし、こうしてRADWIMPSのライブに来ている人たちは自分の人生が涙を流すためのものじゃないということをきっともうちゃんとわかっているはずだ。
武田が
「実家がこの会場から自転車で行けるところにあります。この横浜アリーナには貸しスタジオみたいなところがあって、そこに高校生の時によく入ってた。メンバーとも何度も入ったことがあるんだけど、昨日のライブを当時そこで働いていた人が見に来てくれていて。あの頃、みんなで「いつか横浜アリーナでライブやりたいよねぇ」って話してたけど、こうして今ライブができてるなんて本当に夢みたいです。みんなのおかげ、どうもありがとう!」
とバンドにとって特別な場所であるこの横浜アリーナへの思いを口にすると、観客が武田に拍手を送るのと同じように洋次郎も武田に拍手を送っていた。メンバーがこの場所に抱える思いはみんな今も全く変わっていないし、それを言葉にしてくれた武田への感謝もあるのだろう。そのメンバーの関係性もずっと変わっていないように見える。なんなら洋次郎と武田は見た目もほとんど変わっていないようにすら感じる。まるであの日がほんのちょっとだけ前のことのように感じるくらいに。
すると洋次郎が
「ONE OK ROCKのTakaが参加してくれた曲をやります!昨日はTakaが来てくれたけど、今日は来てません!」
と言い、前日に続いてのTakaの登場を期待していた観客からは「えー!」というガッカリした声が上がる。それに対して洋次郎は
「じゃあこの曲やるのやめるか?」
とドSに煽ってTakaのパートを自身が歌いながらもサビでは観客に大合唱させるという機転を利かせる。きっとこの日この曲をここで聴いていた人たちはTakaが出なかったから残念、とはもう全く思っていないであろう。
そしてライブはこれまでに何度となくクライマックスを描き出してきた、RADWIMPSが誇る最強のライブアンセムたちへ。
「君と羊と青」では演奏が終わったメンバーに観客が「もう1回!もう1回!」とコールすると、洋次郎と武田が顔を見合わせて、「時間がないからな〜」みたいなジェスチャーをしながらもしっかりアウトロを演奏してくれ、そのやり取りは洋次郎がギターを置くまでの間にもう1回続く。その度にバンドの演奏するテンポはさらに速くなるし、桑原と武田の飛び跳ねる姿は実に楽しそうだ。
また、序盤では少し歌いづらそうなところが見えた洋次郎も曲を重ねるごとに声が伸びを増し(「そっけない」の前にオケの音を上げてもらったりという微調整をしていた結果だろうか)、この曲の
「酸っぱいけど 悪くはないよと そう言った」
のフレーズで音源をはるかに上回る伸びを見せて大歓声を浴びるくらいに絶好調に。2日連続のライブの終盤にこの状態にもってこれるのは体力もそうだが精神力による部分が大きいんじゃないかと思う。もっと歌いたい!という歌うことを楽しんでいるかのような。いや、それもまたRADWIMPSにとっての聖地であるこの場所が引き出したものなのだろうか。
そして手拍子が起こる中、ギターを置いた洋次郎がハンドマイクで歌いながら花道を歩き回り、最後のサビ前には観客に向けて
「愛してるよー!」
と叫んだ「いいんですか?」から、最後はRADWIMPSが劇伴をすべて手がけた、新海誠監督の最新作映画「天気の子」の主題歌である「愛にできることはまだあるかい」。
オープニング同様に流れる水のような光のカーテンがステージを覆う中で演奏されたが、ZOZOマリンスタジアムでのライブの時はまだリリースもされていないし、映画も公開されていない「新曲」だった。その時ですら「なんて素晴らしい曲なんだろうか」と思ったのだが、実際にリリースされて、「天気の子」の映画を見てからこうしてライブで聴くと、主人公の帆高が愛ゆえにとった行動の数々が脳裏に浮かんでくるし、
「愛にできることはまだあるかい 僕にできることはまだあるかい」
というフレーズを聞いていると、RADWIMPSというバンドと、そのバンドを好きな我々ができることについて考えさせられる。
「RADWIMPS4 〜おかずのごはん〜」をリリースしたあたりから、RADWIMPSは日本のロックシーンの中でも巨大な存在になった。それこそ「毎度アリーナツアーやってんだ」というくらいのモンスターバンドになった。だからある意味ではこれ以上はないと思っていた。
でも「君の名は。」によって、それまで以上にたくさんの人がRADWIMPSを聴くようになった。「まだRADWIMPSに出会ってなかった人がこんなにたくさんいたのか」と思ってしまうくらいに、もうRADWIMPSは日本において完全に知られた存在になっていたと思っていたのだ。
でもそうして新たにRADWIMPSに出会った人たちが、RADWIMPSの音楽を生きるための力にしたり、自分の人生に重ねたりしている。それは10年以上前にRADWIMPSと出会った頃の我々と同じように。きっとまた「天気の子」を見てRADWIMPSと新たに出会う人もたくさんいるんだろうな、とZOZOマリンスタジアムでこの曲を聴いた時に思った。
そうしてまたたくさんの人の人生を支える存在にRADWIMPSというバンドがなっていく。RADWIMPSにできることはまだある。そして我々はそのRADWIMPSというバンドにこうして会いに行ったり、曲を聴いたりする。それがきっとバンドの新しい力になる。つまり、我々ができることもまだある。
それができるのも、RADWIMPSがずっと人を信じ続け、我々がRADWIMPSを信じ続けてきたからだ。
「君がくれた勇気だから 君のために使いたいんだ
君と分け合った愛だから 君とじゃなきゃ意味がないんだ」
というフレーズも、形が変わってもバンドをやめなかったバンドの勇気とそんなバンドを見続けてきた観客の勇気をもらいあい、愛を分け合ってきた関係だからこそ響く。
つまり、この曲は映画の主題歌であると同時に、RADWIMPSと我々の関係の曲でもあるのだ。もう単なる「良い曲」を超えた、一生の中で大事にしていくべき曲。出会ってから14年も経った、もうベテランと言えるような、でもこの世でほとんど同じ年月を生きてきたバンドがそう思える曲を作ってくれている。こんなに生きる力をもらえることはそうそうない。
場内が真っ暗になって終わった本編の余韻に浸りながらも観客が「もしも」を大合唱して迎えたアンコールでは武田と桑原がTシャツに着替えた中で、スペシャルゲストとしてステージに招かれたのは、洋次郎がオーディションで見出して「天気の子」の劇中歌でボーカルを務めた、三浦透子。
先日RADWIMPSとともにミュージックステーションには出演したが、まだほぼこうした人前で歌ったりという経験がない中でいきなり横浜アリーナに立つというのもメンタルが弱い人からしたら罰ゲームのようなものだし、実際に本人も最初は物凄く緊張しているのがありありと伝わってきた。それは劇中歌の「グランドエスケープ」の歌い始めでもまだ解けていないようだったが、その名前の通りの声の透明感は洋次郎が聴き惚れたのもよくわかる。
実際、洋次郎は演奏中はほとんどピアノの演奏に徹していたのだが、彼女の歌う姿をよく見ていたのは心配な部分も少しはあったのだと思う。いきなりこんな大事な場面で歌うことになっているのだから。しかし三浦透子は曲を歌っていくごとに緊張から解放されていくというか、曲の中に入っていっているような感じで、壮大なサウンドに展開していく曲の後半では音に合わせて飛び跳ねていた。この経験はこれから彼女にどう作用していくのだろうか。これだけ鮮烈なデビューを果たすと今後が尻すぼみにならないか心配でもあるのだが、どうか洋次郎のように素晴らしい曲を書く人とたくさん巡り合って欲しいと思う。その洋次郎は歌い終わった三浦透子を抱きしめた。よくやった!というかのように。
しかし野田洋次郎という男は本当にすごいミュージシャンだな、と洋次郎以外の人が洋次郎の曲を歌うたびに思う。洋次郎が歌っていなくてもそこに洋次郎の存在を感じるからだ。この三浦透子しかり、Aimerの「蝶々結び」しかり、さユりの「フラレガイガール」しかり。洋次郎でしかないような曲だけれど、でもその人が歌うべき必然のようなものが曲を聴いていると確かに存在していることがわかる。いつか、あいみょんとの「泣き出しそうだよ」もライブで聴いてみたい。
三浦透子がステージにいるうちにいったんMiyachiとTIE TOUNGE ZOMBIEZというゲスト陣が全員ステージに現れてこのタイミングで写真撮影をすると、洋次郎が
「このツアー、毎回やってる曲だけど毎回その日でしかない「正解」になる」
と言って、スクリーンに歌詞が映し出されて終始大合唱となったのは「正解」。そもそもが合唱のために作られた曲であるが、人によっては合唱よりも洋次郎が歌う声を聞きたいという人も少なからずいると思う。でもこの曲を合唱するというNHKの「18祭」の映像を見ていて感動してしまうのもそうだし、MONGOL800「小さな恋のうた」やRADWIMPSがかつてロッキンでカバーしたOasis「Don’t Look Back In Anger」も含め、合唱することでしかできない感動がある。今回のツアーの「正解」を合唱させるという選択や、アルバムに「18祭 ver.」を収録したことも、RADWIMPSがそうした人の声の力を信じているということである。曲が終わると洋次郎はもちろん、メンバー全員が拍手をした。それは歌っていた我々観客に向けてのものだった。この日、この場所でしかない「正解」を歌ってくれた人たちに向けての。
そして洋次郎が
「明日6時起きの人?7時起きの人?」
と今日も明日も平日であるという現実を突きつけられるような問いを投げかけると「明日休みの人」が1番多いという結果になり、
「日本終わるんか(笑)あ、みんな学生だから夏休みなのか!学生多いな〜」
と改めて自身のファン層を再確認するが、客席には学生であろう人もたくさんいたけれど、メンバーや自分よりもずっと年上的な人もたくさんいた。それは「Human Bloom Tour」から感じていたことであるが、今のRADWIMPSの音楽が世代を選ばずにたくさんの人に届いていて、今でも若い人が新しくライブに足を運んでいる。BUMP OF CHICKENもそうであるが、そういうバンドは実はあんまりいない。この規模に立ち続けることができる理由の一つはそこにあると思う。
そしてラストはおなじみ、横浜のDADAっ子っぷりを見せつける「DADA」。洋次郎がマイクを客席に向けると、観客は最後の力を振り絞るかのような大合唱。スタンド席がこの日最も揺れるのを感じながら、明日のことなんか考えずに、この揺れがもっとずっと続いてくれたらいいのに、と思っていた。
演奏が終わると花道に出てきた5人が観客から横断幕を受け取る。それを広げてから肩にかける武田。そうしてRADWIMPSはいつも観客の思いを受け取って、それを自分たちのエネルギーにしながらも自分たちのやりたいことだけをひたすらにやってきた。洋次郎はこの日、
「またライブに来てくれる人?」
と問いかけて挙がったたくさんの手に、
「嘘だね!そんなに来ないでしょ!」
と言っていた。少なくとも自分が挙げた腕に嘘は全くない。14年くらい、ずっとこうやってRADWIMPSのライブを見てきた。スランプに陥っている時も、バンドの形が変わった時も。そしてこれからもそうし続けたいと思っている。やっぱり、RADWIMPSと我々にできることはまだある。
バンドにとって特別な場所はそのバンドごとに変わる。武道館や野音だったり、フェスのステージだったり。でもRADWIMPSにとっては間違いなくここだ。それをこの場所で見るライブはいつも実感させてくれる。
前日、洋次郎が
「初めて横浜アリーナでワンマンやった時に観に来てた人?」
と問いかけた時、手を挙げたのは4人くらいしかいなかったらしい。無理もない、あれはもう12年も前、RADWIMPSも自分もまだ学生だった。あの時、あのライブを見ていた人たちは今何をしているんだろうか。映像化は今後もされないだろうけれど、今も鮮明に覚えている、RADWIMPSにとって横浜アリーナが特別な場所になった瞬間。名前も何も知らないけれど、アンコール終わりでステージに向かって
「ありがとうー!」
と泣きながら叫んでいた人は今はもうライブに来ていないかもしれない。それでも、日常や生活でRADWIMPSの音楽が流れていて欲しい。今回でここでライブをするのは18回目。それだけ立ってきた場所だからこそ、そうした思いが巡る。12年前のあの日も8月の終わりだった。セプテンバー、まだじゃん。
1.tazuna
2.NEVER EVER ENDER
3.ギミギミック
4.カタルシスト w/ TIE TOUNGE ZOMBIEZ
5.万歳千唱
6.アイアンバイブル w/ TIE TOUNGE ZOMBIEZ
7.I I U
8.そっけない
9.洗脳
10.PAPARAZZI 〜✳︎この物語はフィクションです〜
11.おしゃかしゃま
12.DARMA GRAND PRIX
13.TIE TOUNGE w/ TIE TOUNGE ZOMBIEZ, Miyachi
14.夜の淵
15.IKIJIBIKI
16.君と羊と青
17.いいんですか?
18.愛にできることはまだあるかい
encore
19.グランドエスケープ w/ 三浦透子
20.正解
21.DADA
文 ソノダマン