3月にニューシングル「Good Job!!」をリリースし、今年は春から精力的にフェスやイベントにも出演しているWANIMA。そんな中で行われるワンマンライブ「1CHANCE NIGHT」の会場はまさかのライブハウス。豊洲PITはライブハウスとしては国内最大キャパの会場であるが、それでも昨年ワンマンを行なったメットライフドームの1/10の規模ということを考えると、平日とはいえとんでもない選択をしたな…と思えてくる。
客席も広い豊洲PITは敷地内も広く、そこで入場を待つ人やすでに入場している人を見ると、WANIMAのTシャツを着ている人が非常に多いことに改めて驚く。普通ならなんらかのフェスTシャツや他のバンドのTシャツを着ている人がいてもおかしくないのに、そういう人が全くいない。
みんなWANIMAのTシャツを着ることによってライブへのスイッチが入るところがあるのだろうし、かつては開場の何時間も前から並んでいても全種類すぐに売り切れて買えないという状況が続いていただけに、WANIMAのTシャツを着ている自分というのが誇らしく思える部分もあるのかもしれない。
開演前の場内にはもんた&ブラザーズ「ダンシング・オールナイト」などの昭和のヒット曲が流れる中、開演前の諸注意のアナウンスが流れ始めるだけで大歓声が沸き起こるのだが、そのアナウンスも最初はありきたりな事務的な女性のものかと思いきや、最後に
「WANIMAの1CHANCE NIGHT、まもなく開催しまーす」
とWANIMAだからこそのアナウンスになることによって場内の期待はさらに高まる。みんなこの日を本当に楽しみにしていたのがよくわかる。
アナウンスに続いて最近のライブではおなじみの「バニラの求人」の曲を
「WANIMAのライブが見たい〜」
などの歌詞に変え歌したSEが流れ始めると、その段階で観客が飛び跳ねまくるという凄まじい盛り上がり。WANIMAのメンバーはまだ登場していないし、WANIMAの曲が流れているわけではないのにである。
そのSEが終わる瞬間にステージにかかっていた暗幕が落ちるとすでにメンバーがスタンバイしており、これまではSEとして使われていた「JUICE UP!!のテーマ」をバンドで演奏するという驚きのスタート。KENTAは最初はハンドマイクを持って動き回りながら歌っていたがすぐにベースを持ち、忙しないボーカルパートが多いゆえにKO-SHINとFUJIもそれぞれ歌うフレーズが多いのだが、観客のいきなりの大合唱の凄まじさ。WANIMAのライブは全曲においてMONGOL800「小さな恋のうた」やOasis「Don’t Look Back In Anger」が演奏されているかのような大合唱が巻き起こるのがおなじみであるが、広いとはいえ密閉されたライブハウスで合唱が反響すると改めてその声の大きさに驚いてしまう。そもそも観客が全曲完全に歌詞を覚えているというのがとんでもないことなのだが。
「やっぱり、日本で1番、豊洲が好きー!WANIMA、1CHANCE NIGHT豊洲初日、開催しまーす!」
とKENTAがおなじみの挨拶をすると、「豊洲の面影〜」とこの日ならではの歌詞に変えて歌った「夏の面影」、華やかなコーラスとサウンドのパンクナンバー「OLE!!」と、
「WANIMAもみんなも飛ばし過ぎー!」
というくらいの序盤からの飛ばしっぷり。
「東京都在住熊本県出身、タニマでーす!」
とKENTAがおなじみのふざけた感じで自己紹介すると、1stシングル「Think That…」収録の「HOPE」、初の全国流通盤「Can Not Behaved!!」収録の「昨日の歌」と初期のシンプルかつストレートなパンクナンバーを連発するのだが、演奏の強さと重さ、説得力は当時とはもう段違いである。しかも大ヒットシングル曲ではなくこうしたアルバム曲やカップリング曲ですら巻き起こる大合唱。その観客の声が重なっていくことでその日だけにしかないような空間を作っているということをバンドも観客もわかっているかのよう。
WANIMAのもう一つの持ち味であるエロさを紫色などの照明が混じることによって引き立てるダンスナンバー「オドルヨル」でライブの流れがここから変わっていくことを示すと、ここで早くもFUJIがサングラスをかけて長渕剛のモノマネを披露。
「今日はみんなにどうしても聴いてもらいたい曲があります。今年1番咲いてくれた曲です」
と言って長渕剛のモノマネで、あいみょんの「マリーゴールド」を歌うというのはMETROCKの時と同様であるが、やはりその歌唱力とクオリティは格段に向上しているし、何よりも
「あいみょんと昔付き合っていた」
という妄想を炸裂させるくらいにFUJIはあいみょんのことが大好きなのである。
「サブマリン」からは「オドルヨル」から連なるエロモードが続くが、そんな中で最新シングルに収録された「渚の泡沫」はこれまでのアッパーかつ直接的なエロソングとは少し異なる、爽やかさすら感じさせるエロソング。それはWANIMAの持つ引き出しの多さを物語っているが、パンクバンドは引き出しが多くなるほどパンクから遠ざかっていく可能性が高くなるという、演奏自体は難しいことはしていなくてもバンドの進み方としては実に難しい形態である。
だがWANIMAはそんな引き出しの多さを見せてもパンクであるギリギリのラインは絶対に超えない。それはよく言われる「この3人がやればどんな曲でもWANIMAになる」的なことを証明しているとも言えるし、WANIMAがやればどんな曲でもパンクになるとも言える。
そんなエロソングの流れから一転するように演奏されたのは3人の故郷である熊本県の景色を描いた「りんどう」。去年からライブでやっているだけにリリースが待たれていた曲であるし、「Good Job!!」リリース時のロッキンオンジャパンのインタビューでも「りんどうは入れないの?」と言われていたが、KENTAはこの日その理由を
「この曲は今はこうしてライブの現場に来てくれる人の前で鳴らしていたい」
と素直に語った。未だに見た目やイメージだけでWANIMAのことを誤解した見方をしている人もたくさんいるだけに、どうやって世の中に出すのかを迷っている部分もあるのだろう。この曲は自然災害に見舞われた地元のことを歌った、
「祈りの歌」
であるから。
続く最新シングル収録の「ANSWER」も含めてここは聴かせるモードと言ってもいい中盤の流れであるが、激しいパンクな曲だけではなくこうした曲の存在がWANIMAの持つ天性のメロディの素晴らしさを改めて確認させてくれる。曲作りの際は遅いテンポで作ってから速くしたりというアレンジを加えていくという作り方をしているだけに、こうしたタイプの曲こそがWANIMAの本質なのかもしれないとすら思うし、そのメロディの力はこれからも失われることは決してないのだろうなとも思う。
そしてこのあたりの曲を聴いていて思ったのだが、前半からダイバーは発生していたし、KENTAも
「最前列の人は頭がたんこぶだらけになっているんじゃないか」
と言っていたが、見ていると観客は「とりあえず暴れたいしダイブしたいからしまくる!」というようになんでもかんでもダイブしていくというノリでは決してない。衝動が昂ぶった時に上がっていくという飛び方をしていたように見えたし、だからこそこうした聴かせる曲の時の客席は非常に集中力高く演奏するメンバーの姿を見つめていたように見えた。みんな楽しみたいとは思っているが、それはWANIMAの楽曲があってこそというのを心得ているように思う。
「WANIMA〜 豊洲〜」
という久しぶりに聞くKENTAの声の張り上げ方から始まった「雨上がり」からは再びパンクにギアを入れ替えていく。
「あなたの心が晴れますように…
明日は晴れ頑張れますように…」
という締めの歌詞は
「みんなも日々生きていて辛いことばかりだと思うけど、WANIMAがいるから頑張れるって思って欲しい」
というKENTAの、バンドのメッセージや音楽を鳴らす理由と今でも同じ意味を持って鳴り響いている。
ステージ背面にある「WANIMA」というバンドロゴを囲む電飾が曲タイトルの通りに鮮やかに輝く「花火」、ここからがラストスパートとばかりに点灯する「シグナル」と続いたかと思うと、
「あと2曲です!WANIMAがずっとやり続けてる曲をやるけん、この曲をやると「おじいちゃん来てたよ」って言われたりするんやけど、なんやそれ怖い怖い怖い!霊が見えとるやないか!(笑)」
と、悲しい記憶の歌であるにもかかわらず笑わせることを言ったり、歌い出しの「拝啓」の「は」を音程を取るために発声したりして笑わせてから演奏されたのはKENTAの祖父への思いを歌った「1106」。
WANIMAのライブを見ているとついつい涙が出てしまうことがあるのだが、それはこの曲などで最もそうなってしまう。それはKENTAの個人的な歌であるこの曲をまるで我々一人一人がその経験をしたかのような景色や情景を脳内に思い浮かばせるような表現力をバンドが持っているからだし、逆に最後に演奏された「For You」は聴いている我々の手を取ったり、背中をそっと押すようなタイプの曲だが、WANIMAは我々が普段の生活の中で直面するキツイことや辛いことをすべて見通しているかのようにすら感じる。だから歌詞の視点は全く真逆であっても、どちらの曲も我々とバンドは同じことを思い、同じ景色を頭の中に描いている。そう感じさせる説得力をWANIMAが持っているからこそ聴いていて、そしてみんなで歌っていて思わず涙が出てきてしまうのだ。
アンコールではなぜかこのタイミングでオレンジのニット帽を被ったKENTAがドラム、KO-SHINがベース、FUJIがギターという布陣でスタンバイしたために「!?」という空気が会場を包むもやっぱりそれで曲を演奏するわけではなかった。なので3人が誕生日の人(子供だった)、目立つ人、目立つ人の隣にいる人などの人を指名してのリクエストコーナーへ。
しかし明らかに「TRACE」「HOME」と聞き取れたリクエストに対して演奏されたのは「THANX」と「ANCHOR」だったためにリクエストではなくあらかじめやる曲は決まっていて、このコーナーはメンバーとファンが直接触れ合ったり話したりする時間だったと言えるだろう。
「「TRACE」や「HOME」をリクエストしてくれたのにゴメンな。でも7月にニューシングル「Summer Trip」をリリースしたらまたリリースツアーをやりたいと思って、ワーナーミュージックの人やPIZZA OF DEATHの人とも話してるし、今年はフェスにもいっぱい出るからまた見に来てね」
とKENTAは今後、リクエストされた曲を演奏する可能性を示唆していたが、デビュー時からのファンにとって嬉しいのはかつて「雨上がり」演奏前に必ず口にしていたレーベルでありマネジメントである「PIZZA OF DEATH」の名前が出たことだろう。KENTAは
「今でもPIZZAと一緒にやっている」
と言っていたし、もはや国民的バンドと言ってもいい立ち位置になっても自分たちのかつての憧れであり、自分たちを見出してくれたPIZZA OF DEATHへの感謝を決して忘れてはいない。
最後に演奏された「BIG UP」はリクエストとバンドが予定していた曲が奇跡的に噛み合ったというか、もしかしたらリクエストした人も「最後にやる曲といえば」的な意味で空気を読んだのかもしれないが、音源よりもはるかにテンポが速くなり、間奏でのゴリゴリの演奏からここで再び長渕剛が降臨し、本人よりもノリノリなんじゃないかというくらいのテンションで「乾杯」を熱唱。FUJIが歌い上げた
「君に幸せあれ〜」
のフレーズは最後に歌われるに実に相応しいものだった。
演奏が終わると「切手のないおくりもの」が終演BGMとして流れる中、メンバーはステージを動き回りながらピックやコースターなどを次々に客席に投げ入れると、記念撮影をしてからKO-SHINによる1本締めでこの日の1CHANCE NIGHTは幕を閉じたのだが、終わった後に近くにいた人たちが
「あんまりやらない曲いっぱいやってくれたね〜」
と言っていた。確かにフェスでは演奏していた「ともに」も「Hey Lady」も演奏されなかった。でも物足りない感じは全くしなかった。有名ではないけれどWANIMAには良い曲がたくさんある。それはこの日集まった全曲大合唱できるファンたちはきっとわかっていることでもあるけれど、そうした普段なかなか日の目を浴びない曲たちに光をあてるという意味では確かに「1CHANCE NIGHT」であった。
WANIMAのライブは本当に年齢層が幅広い。若い人はもちろん、親子や家族で来ている人もたくさんいる。フェスではそれもわかるし、去年のメットライフドームも指定席があったからかもしれないと思っていたが、ライブハウスでもそれは決して変わらないし、バンド側も子供用のイヤーマフを物販で販売したり、会場によってはエリアを分けたりとそうした人たちがライブに来やすい環境を作ってくれている。
何よりKENTAはこの日、
「俺たちより先輩の人たち!長生きしてください!」
という言葉を放った。30代、40代、50代、60代…その年齢になってもこうしてパンクバンドのライブに来ている人たちがいるということ。その景色を見ると自分ももっと歳を取ってもこうしてここに来ていたいと思えるし、KENTAの言う通りに長生きしないとな、と思う。
高校生の頃の自分を変えてくれたパンクがまだまだ凄い景色を見せてくれる。WANIMAのライブを見るといつもそう思う。それを見尽くすまでは絶対死ねないよなって。
1.JUICE UP!!のテーマ
2.夏の面影
3.OLE!!
4.HOPE
5.昨日の歌
6.オドルヨル
7.サブマリン
8.渚の泡沫
9.いいから
10.りんどう
11.ANSWER
12.雨あがり
13.花火
14.シグナル
15.1106
16.For You
encore
17.THANX
18.ANCHOR
19.BIG UP
文 ソノダマン