COUNTDOWN JAPAN 19/20のメインステージの年越しを務め、子年である2020年のスタートをこの上ない形で切った、キュウソネコカミは今年が10周年イヤーである。
毎年100本以上のライブを行っているバンドではあるが、10周年ということで今年は例年以上に普段廻っているライブハウス以外の場所でも見れるような機会が多々あったはずなのだか、それはコロナ禍によって叶わぬものになってしまった。
夏からは大阪のフェスには多々出演してきたが、関東でのライブは先月のBAYCAMPが久々であり、去年までは少なくとも一月に一回はライブを観れていたのが、今年は全く観れていない。それだけに久しぶりに会えた感慨もひとしおだったのであるが、「10周年にツアーをしないなんてありえない!」とばかりに、10周年イヤーの終わりに急遽ワンマンツアーを開催。ライブタイトルもそれに伴って「キュウキョネコカミ」となっている。
久しぶりとはいえ慣れ親しんだSTUDIO COASTの客席にみっしりと椅子が並んでいるのはなんだか異様な光景のように感じてしまうが、入り口前での来場者フォームへの記入、検温と消毒、さらには場内をダスキンのスタッフが消毒して回っているというのはBAYCAMPの感染対策を踏襲しているが、そのBAYCAMPの主催者であるP青木が開演時間の19時前になるとステージに現れて前説を行う。先日のリーガルリリーのワンマンの時は至って普通な、ポンコツさを感じない影アナであったのに、やはりこの日は
「楽しくても思いやりとマナーを忘れるな」
というキュウソのライブの合言葉でリバーブをかけまくっていたのはそのポンコツっぷりをいじった上で愛してくれるキュウソのライブならではだろうか。
P青木の前説を終えて少し経つと、近年のライブにおいてはおなじみのFEVER 333「Burn It」のSEが流れてメンバーが登場するのだが、まずステージ上の楽器の配置が変わり、ヨコタシンノスケのキーボードなどの鍵盤類が下手に移動し、上手にはステージ中央を向くようにソゴウのドラムセットが。それによってヤマサキセイヤがボーカルとしてど真ん中に立っているという感覚を強くしている。オカザワのギターとカワクボタクロウのベースがそれぞれソゴウとヨコタの間にいることも含めて、どこか横一列というよりは5人で半円を描いているような感じがする。
そのメンバーのうち、ヨコタは赤い棒を2本持ってステージへ。そう、この日は応援グッズとして来場者全員に「臨棒」という、まさにスポーツの応援で使うような棒が配られているのだが、コロナ禍での声が出せないライブでは拍手や手拍子を求められることが多くなったけれど、それだと手が痛くなるからこれを叩いて音を出そうという配慮である。メンバー登場時の、バレーボールの試合で得点が入った時のような棒が打ち鳴らす音を聞きながら、この棒がこの日のライブで重要な存在になるということには…薄々というかはっきりと気付いていた。キュウソが手拍子の代わりだけにわざわざこんなアイテムを用意してくるわけがないと。ちなみに登場時に歓声を上げてしまいそうになる中でもその臨棒を打ち鳴らすだけというマナーを守っていたキュウソファンの方々はやはりさすがである。
メンバーが楽器を手にして臨戦態勢になると、ヤマサキセイヤが
「2020年の貴重な一本のライブ。楽しんでいこうぜー!」
と叫んでから、その想いを爆発させるかのような「ウィーアーインディーズバンド!!」からスタートするのだが、そのセイヤの言葉に思わずハッとした。去年まで1年に何回キュウソのライブを見てきただろうか。そうして何回も見ているうちに、貴重な1本という感覚が薄れてきていたんじゃないだろうか。メンバーがステージに立って演奏を始めた姿にそんなことを思うとともに、メンバーもまたこうして我々の前に立って演奏することを貴重なものだと思っているということに、いきなり感情が溢れそうになってしまう。何よりもやはりメンバーも観客も本当に楽しそうな表情をしている。
このステージ上での並びになったことによって、メンバーそれぞれのパーソナルカラーのような照明が各々に当てられるという演出が実に映えるようになった「5RATS」と序盤から飛ばしまくっている中で、「MEGA SHAKE IT!」では曲中のハウスミュージックの部分でメンバーも観客も臨棒を持って振り付けを踊る。その完璧に揃った棒の動きとフォーメーションはまるで甲子園常連の強豪野球部の応援スタンドかのようだ。どちらも熱狂的な応援という点では共通していると言えるが、臨棒が赤いだけに観客全員が広島カープの応援をしているようにも見えてきてしまう。
こうしてお互いが目の前にいるということへの慈しみを感じてしまう「推しのいる生活」では
「わっしょい わっしょい」
のフレーズでも臨棒が上下に動くので、まるで広島カープの得点シーンのようですらあるのだが、演奏中にヨコタとタクロウがステージ上で交差して思わず笑い合うという場面も。これもまたライブで、目の前で動いている姿を自分の目で見ることができるからこそわかることだ。
「食べ物でも免疫力を上げろー!」
と言って演奏されたのは、キュウソの食べ物ソングの中でもレア度の高さでは最高クラスの「華麗なる飯」。タイトル通りにカレーメシをテーマにした曲であるが、完全にインスタント食品であるだけに免疫力向上に効果があるのかは謎である。とはいえ
「新しい事は蓋を開けてみて注ぐんだ
知らない世界とびこめる時に飛び込め
希薄になった関係 シャバい世の中に射し込む一筋の光」
という歌詞はこの今の状況だからこそ響くものになっているような気もしないでもないし、ライブ後に1人カレーを食べて帰ったことは言うまでもない。
しかしメンバーは今回導入した臨棒の打ち鳴らす音が思ったよりも小さく、さざめきくらいのものになってしまっていることが気になっているらしく、ヨコタの拍手仕切り(「笑っていいとも!」でタモリがやっていたやつ)から、その臨棒が映える曲を連発するゾーンへと突入していく。
CMでは新バージョンが公開されたが、今回は従来のバージョンの「家」では大方の予想通りに三三七拍子のリズムに合わせて臨棒を叩くのだが、
「本気で臨棒叩くバージョン」
ではメンバー全員も楽器ではなく臨棒を持ち、速くなるフレーズでもリズムに合わせて叩きまくるというこうした状況ならではのバージョンに。
「明日とか明後日に筋肉痛になる」
とセイヤが言っていた時は、さすがにこのライブの時にバシバシ叩いただけでそこまでの状態になったらよほど普段腕力を使ってないだろうと思ったが、ライブが終わった後には微かにその予兆と言えるような腕の重さを感じていた。メンバーはこれを毎公演(場所によっては1日2公演)やっているだけに、ある意味ではバンドの筋力とともにメンバーそれぞれの筋力を鍛えるツアーになっているのかもしれない。
コロナ禍になってから行われた配信ライブではワンマンでもフェスでも演奏され、レア曲という立ち位置から変わりつつある、レッチリの要素が感じられるサウンドの「ビーフ or チキン」ではセイヤが歌いながら臨棒をヌンチャクのように操る。その姿を見ていると、臨棒をこの会場内で最も使いこなしているのは間違いなくセイヤであると思える。
そして
「スマホはもはや俺の臓器」
のリズムに合わせて臨棒を鳴らしまくるというもはやメンバーがドSにすら見えるくらいに観客の腕力を酷使させる「ファントムバイブレーション」と、ライブでは定番中の定番と言える曲であるが、楽しみ方はこれまでとは全く違う。こうした状況になって、モッシュや大声で一緒に歌うことが出来なくなってしまったことを制限としてマイナスに捉えるのではなくて、それを新しい楽しみ方ができる可能性としてポジティブに捉えてそれを実践していく。それはもちろんキュウソのアイデアや発想力があるからこそであり、誰でもできることではないが、今キュウソがライブハウスでツアーを回る意味をこの臨棒を使ったパフォーマンスは確かに感じさせてくれる。他のライブの会場では絶対に使ってはいけないというお達しが出ていたけれど。
するとここでせっかくのこういう状況だからということで、観客を座席に座らせる。これまでもキュウソはホールなどの席のある会場で果敢にライブをやっては自分たちの新しい可能性を見つけてきたバンドであるが、まさかこんなに普通に座ってライブを鑑賞することになるとは。
しかも演奏された「冬幻狂」はヨコタがキーボードではなくてピアノを弾くことによって、より曲の持つ切なさが増したアレンジに。「winter ver.」と言っていたが、逆に原曲はタイトルとは裏腹にwinter ver.ではないんかい、と思ってしまうけれど、
「冬の中 迷ってる 頭の中で終わらせる
冬の中 生きていく 哲学的になりながら
春から僕は変わるから
春になればきっと動く」
という歌詞に込められているのは、今のエンタメ冬の時代にも必ず春はやってくるという希望や強い意志であるかのように感じられる。近年は弾き語りもやっているとはいえ、セイヤは持ち替えたアコギをほとんど弾いていなかったが。
さらには座って聴くためのバラードとして演奏されたのはボーナストラック的な立ち位置の曲である「怪獣のバラード」。タイトルからしてもコミカルさを含んだ、キュウソならではのバラード曲であるが、盛り上げてナンボ的なイメージを持たれがちなバンドであるキュウソがこうしたバラードを作ることができ、かつそれがキュウソにしか作ることができない歌詞の曲であるということはもっと知られてもいいんじゃないかと思う。つまりはやはりキュウソは歌詞とメロディが良いバンドであるというのが軸にあり続けているバンドなのだ。
イントロが鳴った瞬間に観客を立ち上がらせたのはまさかの「伝統芸能」であるが、曲中には何故か今の時代にCHEMISTRY「PIECES OF A DREAM」をメンバーの生演奏でセイヤとヨコタが歌うというのど自慢にしてはあまりに豪華な演奏が展開される。
ピアノを弾きながら川畑パートを歌うヨコタは歌い方が完全に川畑になり切っていたが、サビを歌い切ったセイヤに対して鐘を一つだけカーンと鳴らして歌を強制終了させる。それに動きだけで怒りやふてくされ感を出してみせるセイヤのパフォーマンスにはマスク越しでも思わず笑ってしまうのだが、そもそも若い人はこの曲を全く知らないんじゃないかとも心配になってしまうくらいに、臆病な僕たちは目を閉じて離れた。
その「PIECES OF A DREAM」で珍しく裏声を使ったセイヤによる、裏声を出せない人が裏声を出すにはどうするのかというボイトレ講座的なMCから、セイヤは子供の頃にはこの曲を人が演奏しているとは全く思っておらず(CHEMISTRYの2人の頭上から音が流れていると思っていたらしい)、そんな曲を演奏できるメンバーたちを自バンド自賛していた。確かにネタのように見えながらも、キュウソというバンドの地の演奏力の高さと、どんなタイプの曲でも演奏できるという器用さを感じさせるような時間だった。それはこれからのバンドにどんな選択肢を増やしてくれるのだろうか。
このMC部分でヨコタが
「めっちゃ時間押してる」
というくらいに喋っては笑わせてくれたのだが、それはこうしてバンドとして5人で観客の前でステージに立っていることが楽しくて仕方がない、だから少しでもステージに立っていたくて長くなってしまうというところもあるのだろう。
しかしライブはもう終盤戦へ向かっていく。今年配信された「ポカリ伝説」は「都市伝説」をテーマにしたことによって、パッと聴いただけだと割と意味不明と言ってもいいような歌詞が「信じるか信じないかは自分で体験して自分の目で見て決めろ」というキュウソからのメッセージとして響く。
さらにはメンバーが事前に煽ったりすることなく、タイトルフレーズ部分で観客がリズムに合わせて臨棒を打ち鳴らすというほどに曲の楽しみ方の意思統一がなされている「ビビった」からはさらにライブバンドとしてのキュウソのカッコ良さを強く感じさせてくれる。いろんなことを考えてはそれを実行して我々を楽しませてくれるバンドであるが、やはり根底や原動力としてあるのは今も
「なめんじゃねぇ!」
という悔しさや反骨心。舐められてきた経験や体験は消えることはない。だからこれからもキュウソが活動する限り、どんなに広いステージに立ったり、バカ売れしたりしてもそうした気持ちを感じることができるライブをやってくれるはずだ。
そしてバンドの一切のブレや揺れのないストレートな想いを乗せた「越えていけ」はまさにこのコロナ禍をバンドと観客がともに乗り越えていくためのテーマソングとして、キュウソというバンドの持っている熱さを知らしめるかのようであったリリース時とはまた違う意味を持って響き、
「こうあるべきだとか こうじゃなきゃいけないとか
誰の人生だ お前の人生だ」
というフレーズはこの状況下でライブを観に行くという選択をすることによって、出かけるべきじゃないとかいろいろなことを言われてしまいがちな我々のためのものであるかのようだ。それでも、こうしてキュウソを観に行くことを選んだのは、それが自分の人生にとってそれが最も重要なことだからだ。
そんな熱い流れを締める曲はやはり「The band」。セイヤは間奏部分で
「命も大切だけど、やっぱりライブも大切だよなー!」
と叫ぶ。そのセイヤの姿を見てから演奏をボーカル部分に切り替えるメンバーたちも同じことを思っているはず。ずっと5人でこうやってライブをやって生きてきたのだから。
曲最後の合唱フレーズではヨコタも
「いつかまたみんなで一緒に歌える日が来るように!」
と言うと、メンバー全員が振り絞るような表情で歌う。声が出せない、一緒に歌えない寂しさはあるけれど、その分メンバーがこんなに大きな声で歌うのを聴くことができている。それは歌ったりできないのがキュウソのライブの魅力を損なうことにはならないことの証明のようであった。
アンコールでは拍手仕切りを無理矢理オカザワに振ると、締めで大きくジャンプするという見事な手法で臨棒の叩く音を盛大にもらうのだが、それによってその後に無理矢理振られたセイヤのイメージが薄くなってしまう感じに。そこはこの濃いメンバーの中で1人だけ後輩として生きてきたオカザワの対応力の高さを示すことでもある。
そうしてやはり我々を笑顔にしてくれた後に演奏された「ハッピーポンコツ」が笑いと泣きを両方与えてくれるように鳴らされると、サビ前のブレイクではタクロウが台の上に乗って、これからも俺たちに任せろと言わんばかりに腕に力コブを作ったり、いつもと変わらぬように楽しんでいるように目元でピースサインをしたり。
「最高な この感じ 全人類に広まれば ハッピーで ポンコツで
ハッピーポンコツトゥザワールド」
という歌詞が、何のためらいもいさかいもなく、心からそう思えるような世界になればいいのに。ステージと客席の景色はそう思わずにはいられないくらいに美しいものだった。
演奏が終わると終演SEとして、ある意味ではこの2020年だからこそ生まれた「3minutes」が流れる中でメンバーは曲に合わせて歌ったりと、今回のツアーは長くても90分くらいという枠が決められているが、そうでなければもっともっとライブをやっていたかっただろうな、と思ったし、我々ももっともっとライブを見たいと思っていた。
こうして今までのような楽しみ方ができないライブしかできない世の中になってしまったことによって、みんなで歌ったり盛り上がったりするような、それこそキュウソのようなバンドはキツくなると言われているのを何回か目にした。指定席で声も出せないキュウソのライブは物足りないんじゃないかと。
でもこうしてワンマンを観ると、物足りないかどうか、楽しいかどうかはライブのスタイルによるのではなく、バンドのライブの地力によって決まるものだと改めて思った。もちろんキュウソにはその地力が間違いなくある。だからこんなにたくさんの人がこうして見に来てくれているし、終わった後に心から「楽しかった」「来て良かった」と思うことができるのだ。
そうして「来て良かった」と思えるということ。今はライブが再開され始めた夏よりもはるかに世の中の状況は悪くなってきている。それでもこうしてライブハウスに行くというのは、やはり「来て良かった」と思えるライブをしてくれるバンドがいるからであるし、そのライブから何よりも強い明日からの日常への力と、生きていくという決意を自分に与えてくれる。そうすることで、ライブハウスで生きてきたバンドの存在や、それに関わる人たちの存在を証明したいのだ。
「ライブハウスはもう最高だね ライブハウスはSo最高だね」
っていう歌詞を胸を張ってバンドが歌えているように。それに100%で同意ができるように。
1.ウィーアーインディーズバンド!!
2.5RATS
3.MEGA SHAKE IT!
4.推しのいる生活
5.華麗なる飯
6.家
7.家 (臨棒ver.)
8.ビーフ or チキン
9.ファントムバイブレーション
10.冬幻狂 (winter ver.)
11.怪獣のバラード
12.伝統芸能 〜 PIECES OF A DREAM
13.ポカリ伝説
14.ビビった
15.越えていけ
16.The band
encore
17.ハッピーポンコツ
文 ソノダマン