NICO Touches the Walls TOUR “MACHIGAISAGASHI ’19 -QUIZMASTER-” TOKYO DOME CITY HALL 2019.6.8 NICO Touches the Walls
春からのツアーでは通常編成とアコースティック編成での2daysでアルバム発売前のお披露目的なライブを行っていた、NICO Touches the Walls。各地の春フェスでもアルバムに収録される新曲が披露されていたが、今週ついにフルアルバムとしては3年ぶりとなる「QUIZMASTER」がリリース。この日のTOKYO DOME CITY HALLと翌日のZepp Osaka Baysideでのツアー追加公演はリリース後初のワンマンとなる。
どことなく男性の観客がかなり増えたように見える(しかも付き添いとかではなく男性同士だったり、男性単独で来ている人が多く見受けられた)客席は3階指定席まで埋まる中、18時になると場内に流れるBGMが徐々に大きくなって暗転するとメンバーがステージに登場。
「今日は来てくれて本当にありがとう」
と光村がいきなりの観客への感謝を口にしてから演奏されたのは、紫色などの妖しげな照明が光る「QUIZMASTER」収録の「2nd SOUL?」で幕を開ける。削ぎ落とされた演奏の中で古村と対馬のコーラスが乗るが、そのコーラスのレベルアップっぷりはコーラスの比重が大きいACO編成で培われたものと地続きでもあり、NICOとACOが双方向に影響し合っているのがよくわかる。
光村がファックサインを掲げたロックな「VIBRIO VULNIFICUS」からは「QUIZMASTER」リリース前のEP群からの曲を連発。とりわけ「Funny Side Up!」ではイントロで古村がタンバリンを叩いたりという一聴するとなんの曲が始まったのかわからないくらいのアレンジが施されており、よりダンサブルになっている。
「3月からツアーを回ってきまして。アルバムが出てすぐにツアーが終わるというよくわからないスケジュールになっております(笑)」
と光村が言うと、春フェスでも演奏されていた「マカロニッ?」は光村によるコーラスのコール&レスポンスが行われるが、やはり続いていくと最後にはレスポンスできないくらいの長さと難しさとなって観客は返すことができず、
「大丈夫、わかってる(笑)」
と言って原曲のコーラスをレスポンスさせて演奏に戻っていく。春フェス時点ではほぼ全ての人が初めて聞く状態だっただけに手応え的にはまだなんとも言えないところもあったが、こうしてリリース後にワンマンで聞いていると、このコール&レスポンスも含めてこれからのライブで重要な位置を担うことになりそうな予感がしている。
タイトル的には春のイメージを抱くが、サウンド的にはややどんよりとしたこの時期に最も合うようなイメージを受けた「ulala?」から、「QUIZMASTER」の中でも屈指のポップさを持つ「サラダノンオイリーガール?」へと至るのだが、おそらく最もわかりやすいであろうこの曲を敢えてリード曲にしないというあたりに今のNICOのモードや、かねてから持っている捻くれっぷりを感じさせる。言葉遊び感の強い歌詞もまたそれを助長している。
すると光村がエレキをアコギに持ち替えて演奏されたのは「ランナー」。ツアーのACO名義の時にもこの編成で演奏されていた曲ではあるが、アコギ主体になったことによって駆け抜けていくというよりも一歩一歩足を踏みしめていくというアレンジになっているし、こうしたアレンジになると光村のこの世代のバンド屈指の歌唱力の高さを改めて実感させてくれる。
その光村の歌唱力の高さはそれがあってこそ「QUIZMASTER」が作れたと言っていいくらいの域に突入していて、「別腹?」も含めて「QUIZMASTER」は実に歌うのが難しそうな曲が多い。ファルセットを多用しているのもそう感じさせる一因であるが、これは間違いなくデビュー当初に作ろうと思ってもバンドの力量的に真価を発揮できるものにはならなかっただろう。でも今ならできる。そこにはひたすらライブを重ねてバンドの技量を高めてきたメンバーの姿があった。
するといそいそとステージ上では転換が行われて、古村と坂倉が一旦掃け、アコギを持った光村とカホンの上に座った対馬の2人だけに。向かい合うようにセンターマイクの前で2人が並ぶと、光村が歌い始めたのは「エトランジェ」。その歌い始めたさまを見てすぐにマイクの位置を素早く調整する対馬の姿は実に面白かったが、ここまで既存の曲を解体→再構築を繰り返せるアイデア(以前は「手をたたけ」などもこうしたアレンジで披露されていた)はいったいどこから浮かんでくるのだろうか。しかもこうしたアレンジが施されるのはバラード的なこの曲だけではないというのがまたすごい。
古村と坂倉もステージに戻ると、古村も光村とともにアコギに持ち替えたアコースティック編成で演奏されたのはツアーのACOバージョンで演奏されていた「KAIZOKU?」。
「もう獣」
というフレーズを
「モウケモノ」
と表記することによって場面ごとに「もう獣」と「儲け物」のダブルミーニングになるという光村の作家性の高さはCDがリリースされて歌詞カードを見ながら聞くことによってわかるもの。歌詞カードに記載されたクイズも含めて(ツイッターで行われたクイズ大会もそうだが全然わからないので自分の頭の悪さがイヤになったりするけれど)、「CDを手に取ること」の価値を今のNICOは示してくれている。本人たちはそこに言及することはほとんどないけれど、実際に手に取った人はそこに込められた思いを確かに感じることができる。
「QUIZMASTER」の最後を締めくくる美しいメロディの「bless you?」においては
「幻想だって戦争だって 面倒だって言いたいよ」
という歌詞に思わずハッとさせられるが、それを聞いて思い出すのは昨年末のCOUNTDOWN JAPANのライブでの光村の
「平成という時代に日本は1度も戦争をしなかった!これは本当に誇れること」
という言葉。「KAIZOKU?」で触れたCDに込めた思いと同様に、NICOは決して声高に社会や政治に対してステージ上などで意見を発するようなタイプのバンドではない。それは言いたいことや自分たちの思っていることを全て音楽の中に込めているからだ。だからファンは何度も曲を聴いて、歌詞の隅々にまで自分の思いを巡らせる。そうしてNICOの曲には聴いている人の数だけの解釈が生まれていく。
光村が観客に
「アルバムは聴いてくれましたか?どうでしたか?」
と問いかけると、大きく、そして長い拍手が鳴り響く。それはそのまま「QUIZMASTER」の評価に繋がるのだが、光村が
「もういいって!(笑)」
的なリアクションを取るまで鳴り止まなかった拍手という名の賛辞を見て、
「こんなの見たら泣きそうになっちゃう。頑張って作ってきて本当に良かった」
と直後にマイクから顔を逸らすようにして素直な思いを打ち明け、さらに
「アルバムで自分たちの聴きたい音楽を作れたなって思って。ロックバンドとしてこれからの時代をどう生きていくかっていうのを日々考えている。「QUIZMASTER」がその一つの姿勢や答えになってほしいと思っているから、たくさん聴いて、いろんなことを感じて欲しい。きっとそれぞれ違うことを感じたりすると思うけど、それに正解なんてないから」
と「QUIZMASTER」というアルバムをどういう思いで作ったのかを語る。
それは「自分たちの聴きたい音楽を作れた」という言葉の通りに自分たちの音楽的な欲求や衝動を第一に、そこに素直に音楽に向き合うということ。ベテランの位置になってくると自分たちに求められるものや自分たちのイメージのど真ん中のものを作りがちになってしまうが、NICOは全くそういうことをしない。その姿勢がライブでの既存曲の大胆なアレンジにも現れているから、曲もライブもこちらの予想を鮮やかに裏切ることによって逆にそれが「これぞNICOだよな」というバンドのスタイルになっている。
その言葉の後に演奏された「TOKYO Dreamer」もまた、原曲の忙しない東京の人々の生活を描いたようなリズムからぐっと落ち着いたような、過ぎ去っていくものをしっかりと目に写していくかのようなものに変化。それを「TOKYO」という名のつく、東京ドームという東京の象徴のような建物が隣にあるこの会場で聞けているというのもまた特別なことだと思える。
「QUIZMASTER」の中でもタイトル通りにダークな雰囲気を持ちながら最もダンサブルな曲である「MIDNIGHT BLACK HALL?」もそうだが、ファンの求めることよりも自分たちのやりたいことを追求した「QUIZMASTER」においてもNICOのメロディの良さというのはやっぱり変わらないし、それはきっとこれから先にどんな曲を作っても変わることはない。それが揺らぐことは決してないからどんな曲であってもNICOのものだな、と思えるし、新作を聴いていてどこか安心するところでもある。
そしてイントロのギターが演奏されずに光村の歌から始まるというアレンジで披露された「天地ガエシ」からはクライマックスへ向かうのだが、先程の「TOKYO Dreamer」も含めてこの曲も「QUIZMASTER」の曲たちと同じ流れで演奏されても違和感がないようなアレンジになっている。それは重心を下げて音数を削ぎ落としたものになっているということだが、そんな中にあっての「Broken Youth」はアレンジらしいアレンジをせずに原曲通りに演奏されていた。
そのアレンジの抜き差しのバランス感覚もまたさすがだなと思うところなのだが、アレンジをしていないからといって昔のままということでは全くないのは、リリース当時はこの曲を歌いきれていなかった光村が今は余裕や貫禄を感じさせるくらいにこの曲を自分のものにできているからである。例えば「Diver」も原曲通りに演奏されたらリリース当時とは全く違うイメージを与えてくれると思うけれど、この曲をライブで聴くとやっぱりNICOは本当にカッコいいロックバンドだと思えるし、最後のサビでマイクから光村が離れると大合唱が起こるという部分にはバンドと観客との確かな信頼関係を感じることができる。
そして光村が再びアコギに持ち替えて演奏されたのは光村が体を張ったMVもファンの間では話題になった、春フェス時には「1番自信がある曲」と言って演奏されていた「18?」。古村と対馬の
「どうして夢を見るの?」
というサビのフレーズのコーラスの美しさに惚れ惚れとしながら本編は幕を閉じた。
アンコールでは4人がライブTシャツに着替えて登場したが、アコギの光村以外は楽器を持たずに光村の横に並び、
「生歌と生演奏のみで」
と言ってマイクスタンドよりも客席側に立ってマイクを通さずに歌い始めたのは「3分ルール?」。遠くにいてもしっかり聴き取れる光村の生歌の声量の素晴らしさもさることながら、やはり3人の「3分後」のリフレインのコーラスも素晴らしい。3分どころか1分半くらいで終わる曲であるが。
そして近年のアンコールではおなじみのこの日のハイライトを観客が選ぶスタイル。この日光村に指名された男性が選んだのは意外にも「KAIZOKU?」。エレキスタイルの曲を選ばれると思っていた光村と古村は慌ててエレキからアコギに持ち替えたが、本編とは異なったのは観客にコーラスの練習をさせてから演奏されたことによって、コーラスが大合唱になったこと。こうして観客の歌声を聴くと女性メインだなと思ってしまうけれど。
普段ならこれで終了なのだが、この日は追加公演だからということで再び光村と古村がエレキに持ち替える。
「もう梅雨ですけど、外は雨降ってた?」
と観客に問いかけたので、てっきり「ニワカ雨ニモ負ケズ」だと思っていたのだが(「またロックに騒ごうぜ!」とも言っていたので)、演奏されたのはまさかの「HUMANIA」のラストを飾っていた「demon (is there?)」。
「QUIZMASTER」の収録曲同様にタイトルに「?」がついているからだろうか?とも思ったけれど、
「夢抱いて 不安抱いて 最期を迎えるまで
ただ歩く今日を 向かう明日を
愛したくて僕らは生きるだろう」
という歌詞はNICOと我々がこれから歩んでいくこれまでと変わらない人生を示唆しているようでもあった。
光村も観客も確かな手応えを感じていた通りに、「QUIZMASTER」はまだリリースされて数日しか経っていない現在でも名盤とハッキリわかるくらいのアルバムである。そもそもNICOのアルバムには名盤しかないのだが、今までのアルバムとは少しその理由が違うように感じる。
もちろんメンバーの好きなものをメンバーの気の向くままに、というスタイルこそ全く変わらないが、光村が言っていたように「QUIZMASTER」にはロックバンドが主流ではなくなってしまった世界において(日本にいると実感しにくいことであるが、世界中の音楽を聴く音楽マニアであるメンバーたちはそれを間違いなく感じているはず)ロックバンドがやるべきこととは?という部分に向き合っている部分が今までよりはるかに強い。
だがやはりNICOはそれを強く発言したりすることはしない。聴いて感じてくれ、背中を見て考えてくれ、とその音楽や演奏で全てを語るかのように。対バンライブも時にはやっているとはいえ、NICOには直系らしい後輩も、常にべったりくっついているような関係のバンドも見当たらない。でも確実に意識は「これからの日本のロックバンド」という方向に向かってきているし、それはアジカンが「ホームタウン」というアルバムで示したものと同じものである。
ではそのNICOが「QUIZMASTER」で見せたロックバンドがやるべきこととは何か。それはきっと今までこのバンドのことを追ってきた人たちならもうわかっているだろうし、そうでなくても「QUIZMASTER」を聴いてライブを見ればわかることだと思う。
きっと今年もROCK IN JAPAN FES.などの夏フェスのメインステージにこのバンドは立つだろうけれど、そこで「QUIZMASTER」の曲が鳴らされる景色を想像すると、去年までよりもさらに楽しみになってしまう。
1.2nd SOUL?
2.VIBRIO VULNIFICUS
3.FRITTER
4.Funny Side Up!
5.マカロニッ?
6.ulala?
7.サラダノンオイリーガール?
8.ランナー
9.別腹?
10.エトランジェ
11.KAIZOKU?
12.bless you?
13.TOKYO Dreamer
14.MIDNIGHT BLACK HOLE?
15.天地ガエシ
16.Broken Youth
17.18?
encore
18.3分ルール?
19.KAIZOKU?
20.demon (is there?)
文 ソノダマン