THE SUN ALSO RISES vol.116 -avengers in sci-fi / キツネツキ- F.A.D YOKOHAMA 2022.1.10 avengers in sci-fi, THE SUN ALSO RISES, キツネツキ
横浜中華街のライブハウスF.A.Dで開催されている対バンシリーズ「THE SUN ALSO RISES」。時には絶対これチケット取れないだろうというような対バンもあれば、バンドのボーカリスト同士の弾き語りというものもあったりするのだが、116回目という凄まじい回数となった今回はavengers in sci-fiとキツネツキという2組。
キツネツキは9mm Parabellum Bulletの菅原卓郎と滝善充のユニットであり、そんな組み合わせなので、かつて9mmとアベンズが渋谷AXで2マンライブをやったことを思い出したりする。2010年開催なので、もう12年くらい前の話であるが。
実は初めてな(Bayhallに行く際に前を通ったりしたことはある)F.A.Dの中に入ると、客席は足元に立ち位置マークが印されたスタンディング制。壁やトイレ内にも過去から現在に至るまでの様々なポスターなどが貼ってあるというのは千葉LOOKを彷彿とさせるところもある。
・キツネツキ
先攻は前述の通りに9mmの卓郎と滝の2人によるユニット、キツネツキ。しかし普段の9mmとはまるっきり違うユニットであるというのは、卓郎がボーカル&ギターなのは変わらないが、滝はドラムであるということ。元々は滝はドラマーでもあり、ロックバンドの最小編成として活動しながら、様々な取り憑かれメンバーを迎えてライブを行っているのがキツネツキなのである。
なので卓郎がギターを、滝がドラムのスティックを持ってステージに現れると、2人が向かい合うような形で音を鳴らし始めるインストの「キツネツキのテーマ」からスタートし、滝のドラムが爆音かつ爆裂的に響く「odoro odoro」、イントロのコーラスに合わせて観客が腕を左右に振る「てんぐです」、言葉遊び的な卓郎の歌詞による「ふたりはサイコ」で卓郎のボーカルがそのシンプル極まりない、どういうギターを弾いていてどういうドラムを叩いているかが全てわかるサウンドの上に乗る。まだ年が明けてからは9mmがライブを行っていないので今年初ライブとなるだけに、こうして音を鳴らしているのが実に楽しそうだ。
なので卓郎のMCも
「明けましておめでとうございます」
から始まるのだが、ある意味ではゲリラ的というか突発的というか、いつどんな活動やライブをするのか全く予想がつかない神出鬼没なキツネツキはやはり今年もどんな活動をしていくのか全く決めていないらしいが、9mmについては
「今年は9のつく日に何かしらやっていこうと思っています」
と発表しながらも、すでに1月はこの前日が9日であり、特に何もなかったことに自らツッコミを入れていた。
キツネツキには童謡のカバー曲があるのだが、この日も滝のドラムがツービートの、こんなに激しいサウンドでこの曲が演奏されるなんて原曲を歌っていたであろう幼少の頃に誰が想像していただろうかと思う「ちいさい秋みつけた」から、ある意味ではキツネツキとしてのテーマ曲と言っていいかもしれない「小ぎつね」、元気の良いというか威勢の良いロックサウンドによる「証城寺の狸囃子」とここではカバー曲を連発していく。全く曲を知らずに初めてライブを観た人でも絶対に知っている曲があって、それをこうしたロックアレンジで演奏しているというのは誰もが楽しめるものであるはずだ。
この日、滝は寅年ということに合わせてか、虎柄のTシャツを着ていたのだが、それは実は4年くらい前に横浜駅近くのサンキューマートで買ったものであることが明かされるのだが、それを寅年になった時にちゃんと着ているという滝の物持ちの良さには驚かされるが、演奏が始まった時はマイクが邪魔そうに感じたその滝のドラムも卓郎のギターも「かぞえうた」のイントロからさらにラウドかつロックなものになっていくと、一転して漂うように音に浸らせてくれるインスト曲「It and moment」から、滝のドラマーとしての手数と強さの凄まじさを感じさせてくれる「ケダモノダモノ」へと突っ走っていく。この曲の演奏はもはやツーピースという音の隙間を全く感じさせないカッコよさだと思う。
そしてここでこの日の取り憑かれメンバーとしてステージに招かれたのは、もちろんavengers in sci-fiの木幡太郎(ボーカル&ギター&シンセ)と稲見喜彦(ベース&ボーカル&シンセ)なのだが、最初からステージの両端に明らかにこの2人のものとしか思えないアンプとマイクスタンドがセッティングされていたし、まぁそうなるだろうとは思っていたのだが、卓郎が
「キツネツキは夏の曲が多いからこの時期に合う曲が全然なくて、次にやる曲も夏の曲なんだけど、それはまた夏に会えるようにっていう思いを込めている」
という「まなつのなみだ」を、アベンズの2人が加わったことによって通常のフォーピースバンドの編成で演奏するのだが、そこは参加しているのが「ロックの宇宙船」と評されるアベンズの2人であるだけに、ボーカルも楽器の音もエフェクトをかけたりというこの日、この編成だからこそのものになっており、この曲が持つ幻想的な雰囲気がより増幅された形になっている。いつか、こうやって今までに取り憑かれたメンバーたちを集めたフェス的なものもキツネツキの主催でやって欲しいと思うくらいに参加したメンバーによってガラッと曲もサウンドも変わるし、そこにはまだまだあらゆるロックバンドの可能性が眠っていると思う。
そんなライブの最後はやはりアベンズの2人が参加した状態で演奏されたインストショートチューンの「C.C.Odoshi」で、その連発されるキメに合わせて観客も腕を上げる姿が、もはや9mmのライブに滝が参加できないリハビリバンドとしてではなく、このキツネツキとしての音楽とライブを求めている人がたくさんいるということを示していた。もちろん自分もその1人であり、昨年もまだライブが全然できない時期にHEREが主催したライブハウスでのフェスに出演した時にも観に行っただけに、これからも9mmはもちろんとして、定期的にキツネツキでのライブも観続けていたいと思う。
卓郎はこの日、雪が降った日の思い出として
「スタジオに入る日だったんだけど、転びそうになりながらやっとの思いで機材をスタジオに運んだら、そのスタジオの違う階でthe telephonesがレコーディングしていた」
という話をしていた。どれだけtelephonesのことが好きなんだ、とも思うけれど、去年は9mmとtelephonesとの2マンが久しぶりに見れた。それならば次はキツネツキとtelephonesでも2マンを、と思ってしまうし、そうすれば相思相愛な両者の絡みをこれからもたくさん見れる。
1.キツネツキのテーマ
2.odoro odoro
3.てんぐです
4.ふたりはサイコ
5.ちいさい秋みつけた
6.小ぎつね
7.証城寺の狸囃子
7.かぞえうた
8.It and moment
9.ケダモノダモノ
10.まなつのなみだ w/木幡太郎、稲見喜彦
11.C.C.Odoshi w/木幡太郎、稲見喜彦
・avengers in sci-fi
最後にライブを観たのはいつだろうかと思って振り返ってみたら、2018年6月にGetting BetterのイベントでThe Mirrazとともに下北沢251に出た時以来だった。なのでおよそ3年半ぶりにライブを見ることになる、avengers in sci-fi。その間には(in sync)という打ち込みメインのスタイルからは長谷川正法(ドラム)が脱退するという実に紛らわしいニュースもあったりしたのだが、この日は通常のavengers in sci-fiとしての出演ということで、ずっと変わることのないスリーピース編成である。
すでにキツネツキのライブにも参加していた木幡と稲見の前に夥しい量のシンセやエフェクターなどの機材が並べられるのを見るのも実に久しぶりであるが、3人がステージに登場すると、速く激しいダンスロックというかつてのサウンドとはだいぶ異なる、BPMを落とした重いリズムのグルーヴによるダンスミュージック「20XX」からスタートするのだが、木幡と稲見のボーカルの歌い分けやエフェクト、シンセなどのありとあらゆる武器や手法を駆使して自分たちのバンドとしての人力ダンスミュージックを生み出すというアベンズの軸は変わらないし、長谷川のドラムの一打一打も実に重く強い。さすがはその凄まじいドラムスタイルも含めて「先生」と称された男である。
稲見がスラップベース、木幡がギターでスクラッチしたりというライブならではの人力によるサウンドを鳴らしまくってから曲に入っていった「Tokyo Techtonics」から、木幡が曲に関係あるのかどうかわからないくらいのサンプルボイスを発しまくり、変わらぬこのバンドのメッセージを曲にしたダンスチューン「I Was Born Dance With You」と、やはりサウンドとしては今のスタンスになってからの曲が続くが、MCがあるようなないようなみたいな感じなのは昔から変わらないところである。
そんな中で木幡と稲見はギターとベースを下ろしてシンセを操作してサウンドを作り出し、その音の上でギターとベースを弾かずにボーカルとシンセなどのみなるというDJ的な形で演奏されたのは2年前にリリースされた「Nowhere」であり、木幡が独特なステップで踊りながらハンドマイクを投げてキャッチしたりしつつ、この曲には(in sync.)の形態に連なるものも感じられるが、
「ずっと遊んでいよう
一生遊んでいよう
シラフになってしまうと
泣いてしまいそうな気がするんだ」
というサビのフレーズはコロナ禍になる前に生まれたものであるけれども、このバンドがパーティーを止めない、音楽を止めないという意思をすでに歌っていたということがわかる。それはそのまま、どんな状況になってもバンドをやめるつもりもないということも。
再び2人が楽器を手にしながら、ボーカルにエフェクトをかけまくった形で歌い鳴らす「sci-fi music all night」もまたバンド初期から同じメッセージを歌ってきたということを示しているのだが、重いグルーヴにノイジーなサウンドを融合させた、グランジなダンスミュージックと言ってもいいような「Dune」の表現しているディストピア的な荒廃した世界はまさに今の地球そのものなんじゃないかと思えてくる。
それは続く「Citizen Song」もそうであるが、そうした世界を描いた楽曲やその曲に込められたメッセージは今聴いてこそリアリティを感じるものになっているんじゃないだろうかと思う。
「ずっと長い夢を見ていたかのようだ」
という木幡の言葉はこうして観客の参加する形などは変わってしまってもライブが行われるようになったから出てきた木幡なりのものなのかと思いきや、
「もじゃもじゃ頭たちと一緒にライブをする夢を見ていた(笑)」
と、どうやらキツネツキのライブに参加したことをそう言い表していたようである。ちなみに滝は客席に顔を出すようにしてずっとアベンズのライブを見ていた。
そうして演奏されたのはここまでの重いグルーヴとは正反対と言ってもいい浮遊感を感じさせる、初期からのバンドの代表曲であるスペースロック「NAYUTANIZED」であるが、やはりこうしたずっとライブで演奏されてきた曲を聴いていると、かつて見てきた頃のことを思い出してしまう。毎年のようにCOUNTDOWN JAPANのMOON STAGEやASTRO ARENAに出演しては入場規制がかかるくらいの人気を誇り、「ASTRO ARENAはアベンズのためのステージ」なんて言われていたことすらあった。ワンマンでもリキッドルームから新木場STUDIO COASTまで行ったり、そこでモッシュやダイブの渦に飲み込まれたり。その頃の熱狂は忘れることはない。
そんなことを思い返していたら、最後に演奏されたのは「Homosapiens Experience (Save Our Rock Episode.1)」だった。かつての高速ダンスロック期のアベンズの象徴とも言える曲であるのだが、この曲の
「Save Our Rock」
というエフェクトをかけたボーカルのフレーズこそが今響くべき、響かせるべきものだ。
それは世界的にR&Bやヒップホップが主流になっていてロックバンドは時代遅れで…という意味でのものではなく、このコロナ禍において最大の生存報告であるライブという機会や生きる場所=ライブハウスをいくつも失ってきたロックバンドとして、このF.A.Dを含めて今も残っている、ロックバンドがロックバンドでいられる場所を守っていくということ。
この曲がリード曲となったアルバム「SCIENCE ROCK」は2008年のリリース当時から、タイトルからしてもわかるようにSF的な歌詞で「未来」を歌っていた。14年も経って、その未来は「今」になった。ロックの宇宙船は時代のずっと先を行っていた。そういう意味でも、アベンズの音楽は今こそ多くの人に聞かれるべきもの、今の時代でこそ響くものと言えるのかもしれない。
「ACCESS ALL AREA」
「ACCESS ALL UNIVERSE」
というフレーズも、ロックがあればどこへだって行けるという、コロナ禍になって忘れかけていたことを思い出させてくれる。それは物理的にも、意識的にもロックがあればどんなところだって、宇宙だって旅することができるということ。
「今の立ち位置から動けない状態で昔の、モッシュが起きまくっていた曲が演奏されたら我慢できなくなるかもしれないな」
ともライブ前半で思っていたのだが、実際にこうしてその曲が演奏されても動かなかったのは我慢していたのではなく、感動して泣きそうになっていたから。それは昔のライブのことを思い出したりというセンチメントとしてだけではなく、何よりもアベンズが「今の自分のための音楽」として聞こえていたからだ。
そしてすぐさまステージにメンバーが戻ってくると、近年の楽曲としてはダンスというよりは歌モノというイメージが強い、だからこそエンドロールとしてピッタリな曲で、バンドにとっての2022年の初ライブを終えると、木幡は
「今年もよろしく!」
と言ってステージを去って行った。
今またコロナが拡大しつつある。またライブが中止になってしまったりする可能性だってあるし、実際にメンバーやスタッフが感染して出演を取りやめたりするというニュースを見る機会も増えてきてしまった。
キツネツキは言っても9mmのメンバーだからという安心感があるが、アベンズくらいの規模のバンドがライブがまた全く出来なくなってしまったらどうなってしまうんだろうかとも思っていた。メンバーはそうしたことを口にするようなタイプではないけれど、きっとキャパ制限がある今だって厳しい現実と戦っているはず。
それでも今年もこれからライブをやって生きていくという意思を言葉と、自分たちのダンスミュージックのサウンド、そこに込めた歌詞で示してくれている。久しぶりに観たアベンズのライブはこれからもずっと観ていたいと思うくらいに、「Save Our Rock」と思って生きている、今の自分のようなやつのためのものだった。
1.20XX
2.Tokyo Techtonics
3.I Was Born Dance With You
4.Nowhere
5.sci-fi music all night
6.Dune
7.Citizen Song
8.NAYUTANIZED
9.Homosapiens Experience (Save Our Rock Episode.1)
encore
10.Indigo
文 ソノダマン