ヤバイTシャツ屋さん “Tank-top Festival in JAPAN” TOUR 2019 in サンリオピューロランド サンリオピューロランド 1Fエンターテイメントホール 2019.6.9 ヤバイTシャツ屋さん
2018年は2枚のフルアルバムをリリース、そのどちらもが年間トップクラスのクオリティという凄まじい内容だった、ヤバイTシャツ屋さん。そのうちの1枚である「Tank-top Festival in JAPAN」のリリースツアーは全国各地のライブハウスを回り、その最終地点となるのがこのサンリオピューロランドでの追加公演2days。かねてからメンバーはこのサンリオピューロランドをプライベートで訪れているだけに特別なライブとなることは間違いない。
この日は会場限定のサンリオキャラクターとのコラボグッズも販売されていたが、早々に完売。そんな中でサンリオピューロランドの中はライブを見に来た人と普通に遊びに来た人とが入り混じってカオスな空気感を醸し出している。
そのメルヘン感が非常に強い会場の1階にあるホールの中がこの日のライブ会場。普段どんな使われ方をしているのかはわからないが、ホールという名称ながらキャパ的にもこのバンドがこだわり続けるライブハウスのような雰囲気である。
場内にはサンリオのBGMが流れる中、13時になるとおなじみの「はじまるよ〜」という脱力SEが流れる中でメンバーが登場すると、こやま、しばた、もりもとの3人がそれぞれこのピューロランドで販売されているサンリオのカチューシャをつけて登場し、客席からは
「可愛い〜!」
という声が上がるが、なぜかもりもとを呼ぶ声だけは野太いのが面白い。
「ヤバイTシャツ屋さん、始まるよ〜!」
とこやまが挨拶すると、メンバーの後ろにはバンドのマスコットキャラクターである巨大なタンクトップくんが映し出される。サンリオピューロランドでサンリオのキャラ以上に目立っている。
ライブは最新アルバムである「Tank-top Festival in JAPAN」の1曲目である「Tank-top Festival 2019」から、こやまのデスボイスやヘドバンなど、かつて1人のファンとしてこやまがライブに通っていたマキシマム ザ ホルモンへのリスペクトを感じさせる「KOKYAKU満足度1位」と続き、やはりツアーファイナルということで「Tank-top Festival in JAPAN」の曲が中心になるのかと思いきや、直後に初期の「ウェイウェイ大学生」を演奏したりするあたり、ヤバTはライブでの曲数が多いしライブごとにセトリをかなり大胆に変えてくるバンドとはいえ(だから普通に公式ツイッターアカウントがツアー中でもガンガンセトリをツイートしている)ツアーとはまた違う内容になることが察せられる。
前半からここがピューロランドであることを忘れさせるくらいにダイバーが続出していたのだが、「Universal Serial Bus」ではイントロの段階から次々と人が人の上を転がっていく。バンドの演奏がさらに力強くなっているからこその光景でもあるが、長いツアーに加えて全国各地の春フェスにも出演しまくってきたライブバンドっぷりはさらに磨きがかかっていると言っていいだろう。
こやまとしばたの男女混声ボーカルが気持ち良く伸びる「鬼POP激キャッチー最強ハイパーウルトラミュージック」を終えると、こやまが
「ピューロランド初めて来た人〜?」
と問いかけ、たくさんの手が上がる。こやまとしばたはピューロランドの年間パスポートを持っているくらいのサンリオファンであるがゆえに、
「みんなをここに連れてくることができて良かった」
とヤバTというバンドの存在を通じてこの会場を訪れた人がたくさんいることに喜びを感じていた様子。
すると、
「せっかくサンリオピューロランドでライブできるんだから、サンリオの曲やりたいな〜。みんな今日会場のいろんなところで聴いた曲だと思うけれど」
と言って演奏されたのは、場内にある販売機で流れているらしい「キティーちゃんのポップコーン工場の曲」。しかもステージにはキティーちゃんも登場し、しばたがメインボーカルのバンドアレンジになったことによって生まれたヘドバンパートで頭を振るキティーちゃんの姿は実に可愛らしい。一切こういうキャラクターに触れることのない人生を歩んできたので、その魅力にもこの日こうしてこの場所でライブを見なければ気づかなかったであろう。
キティーちゃんがステージを去ると、
「キティーちゃん見てたら、ネコ飼いたくなった!」
と元も子もないことをこやまが言って「ネコ飼いたい」へ。タイトルフレーズ部分では大合唱が起こる中、最後のサビ前ではこやまが自身で
「しつこ過ぎるな(笑)」
というくらいに引っ張りまくる。それによって最後のサビでは待ってましたとばかりにダイバーが続出したが、「ネコ飼いたい」というタイトルの曲をピューロランドのライブで演奏していて、ダイバーが続出しているというのは冷静になって考えてみると実にシュールなことである。
しばたが手がけたことにより素朴さを感じさせる「L・O・V・E タオル」ではフェスでのライブと同様にタオルがぐるぐると振り回されるが、さすがこの日はヤバTのワンマン、いつにも増してヤバTのタオルが多く舞っていた。というかコラボタオルも含めてほとんどがヤバTのタオルになっていた。
そのしばたがイントロでそろりそろりの動きをしてからバキバキのダンスビートを刻む「DANCE ON TANSU」ではステージ背面に映るタンクトップくんもサングラスを着用してダンス仕様に。ハイトーンなボーカルを聴かせるしばたは満面の笑みを見せているが、今回のツアー中にはその笑顔が見れなくなってしまいそうな出来事もあった。それでもこの日こうして笑顔で歌っている姿には安心させられるし、彼女がリスペクトする道重さゆみの姿からそうした安心感をもらってきたように、我々もずっとそうでありたいと思う。
ネットゲームの課金のことをテーマにした歌詞なのにサウンドはラウドロックというギャップが面白い「リセットマラソン」を演奏すると、こやまが
「僕がピューロランドでイチオシのアトラクションはキティーハウスですね。平日とかに運が良ければ5分くらい待つだけでキティーちゃんに会えるんですけど、普段はふーんってしてるキティーちゃんが500円課金してバラの花をあげるとめちゃくちゃ喜ぶんですよ。女の顔になる」
と年間パスポートを持ってるからこそのピューロランドネタを開陳するが、当たり前のように
「課金って言うな!(笑)」「女の顔とか言うな!(笑)」
としばたから鋭いツッコミを受ける。
そんな中で「Tank-top of the World」で再びパンクに突っ走ると、ステージ上にはキティーちゃんの相方のダニエルくんが登場。こやまになにやら耳打ちすると、
「ダニエルくんがキティーちゃんに伝えたいことがあるんやって!」
と言い、キティーちゃんを再びステージに呼び込む。そしてダニエルくんの思いを代弁するべく演奏されたのは「ハッピーウエディング前ソング」。普段は最後に演奏されることが多くなっているこの曲の
「キッス!キッス!」「入籍!入籍!」
という大合唱をこの中盤で聴くというのもツアーというかこのライブならではで新鮮だが、手を繋ぐキティーちゃんとダニエルくんの横で
「きっと2年以内に別れるけど…」
という歌詞を歌えてしまうヤバTはやはりシュールというか一筋縄ではいかない。結果的には「やったー!」的な空気になってはいたけれど。
さりげなく、しかし大胆にも感じるようにタイアップ相手である「ロッテ」のことを歌詞に入れるあたりにこやまの作家力の高さをうかがわせる「とりあえず噛む」はプロ野球の千葉ロッテマリーンズのファンにもおなじみの曲であり、ヤバTの音楽がスポーツシーンにも溶け込むものであることを示していたが、春フェスではサウンドチェックで部分的に演奏していたこの曲を丸々聴けるというのはやはりワンマンならではだなと思いつつ、
「せっかくのピューロランドワンマンなので、自主制作CDに入っている曲をやります!」
と言って演奏されたのは完全にレア曲になっている「反吐でる」。こやまの心情吐露的な歌詞とシンプルなギターロックサウンドは今となっては懐かしさすら感じるが、さらに「Don’t Stop SNS」を続け、大ブレイクした今でもツイッターでエゴサーチをしたりする精神はこの曲を作った時から全くブレていないと実感させる。
この日、こやまの地元の先輩である岡崎体育がさいたまスーパーアリーナでワンマンを行うことに賛辞の言葉を送りながら、
「このライブ終わってからでもスーパーアリーナのライブ間に合うから(笑)」
と自身たちもまたライブ後に同士の勇姿を見届けるつもりなんじゃないか、というライブの日程が被っていても、というか被っているからこその絆を感じさせると、「メロコアバンドのアルバムの3曲目くらいによく収録されている感じの曲」で観客を全員座らせてから一斉にジャンプさせるというメロコアバンドのライブにありがちなパフォーマンスを見せる…と思いきや客席が詰まりすぎて全員が座ることはできず、中腰からジャンプさせるという方式に落ち着く。
そして「喜志駅周辺何もない」の間奏部分で
「ピューロランドのスタッフ良い感じ」
「ピューロランドのスタッフ接しやすい」
など、おなじみの媚売りすぎのコール&レスポンスを展開すると、
「今日は6月9日、ロックの日。ロックの日にサンリオピューロランドでライブをやるのがヤバイTシャツ屋さんのロックです!」
とこやまがこの日に込めた思いを叫ぶと、「Wi-Fi!」のコールが響く「無線LANばり便利」からはさらに加速し、その加速っぷりは「ヤバみ」のあまりにも速くなったテンポにも現れていた。
さらには3人がそれぞれ推しのサンリオキャラクターを紹介すると、クロミちゃん(こやま)、シナモンロール(しばた)、ター坊(もりもと)がステージに登場して賑やかさを増し、
「この日のためにあるような曲!」
と言って「かわE」を演奏。曲に合わせて踊りまくるキャラクターたちの姿はまさにかわE超えてかわFであり、こやまとしばたがサンリオを愛する理由が少しわかったような気がした。
そしてラストはキティーちゃんとダニエルくんも呼び込んでキャラクター勢揃いの中で演奏された「あつまれ!パーティーピーポー」。サンリオピューロランドでサンリオのキャラクターに囲まれて演奏する姿は確かにヤバTにとって一つの夢が叶った瞬間であった。だから全然そういう曲じゃないのに、楽しそうに演奏しているメンバーの姿を見ていたら感動してしまった。
演奏を終えるとそのキャラクターたちも交えての写真撮影。愛するクロミちゃんといちゃつくこやまの姿には客席から茶化すというか煽るような声も聞こえたが、その後にこやまはクロミちゃんからサイン的なものをもらったそうで、本当に嬉しかったんだなぁと微笑ましくなった。これまではライブの中に悔しさや反発心を感じさせる瞬間も何度もあったし、それがこのバンドをこの位置まで連れてきた原動力であることは間違いないが、この日は本当に嬉しさだけでライブをやっていたし、それはこのバンドが様々な声に曝されたりしながらも自分たちの信念を貫いた結果としてのものだった。
ヤバTには「好き」しかない。ライブハウスも、パンクロックも、このサンリオも。それは10-FEETやマキシマム ザ ホルモンへの愛情を隠すことなく表す楽曲がヤバTをタンクトップ(=パンクロック)の呪縛から逃れられぬ運命にしているし、サンリオが好きという気持ちが根底にあるからこそタンクトップくんのようなキャラクターが生まれたのかもしれない。その「好き」が溢れてるからここに来る前よりも自分がサンリオを好きになった気がする。
そしてこやまは最後に
「多摩センターにこんな良いライブハウスがあったんやな!」
と言っていたが、テーマパークとは思えないくらいにモッシュとダイブの嵐、汗にまみれた会場はまさしくライブハウスそのものだったが、ここをライブハウスにできるバンドは他のライブハウスバンドにもいるかもしれない。でもこのサンリオピューロランドでライブをやる意味をしっかり持ちながらここをライブハウスにできるバンドは間違いなくヤバTだけだ。武道館でもアリーナでもなく、サンリオピューロランド。バンドにとっても顧客(ヤバTファンの総称)にとってもこの日のライブが忘れられないものになったからこそ、こやまが言った通りにまたこの場所でヤバTがライブをする姿を見たいし、自分はヤバTを日本のパンクバンドの革命家にして最新進化系として最大限に評価してきたつもりだけど、そこまで思わせてくれるような存在のバンドであるヤバTと同じ時代に生きていて、リアルタイムでこうしてライブを見れていることはとんでもなく幸せなことなのかもしれない。
1.Tank-top Festival 2019
2.KOKYAKU満足度1位
3.ウェイウェイ大学生
4.Universal Serial Bus
5.鬼POP激キャッチー最強ハイパーウルトラミュージック
6.キティーちゃんのポップコーン工場の曲
7.ネコ飼いたい
8.L・O・V・E タオル
9.DANCE ON TANSU
10.リセットマラソン
11.Tank-top of the World
12.ハッピーウエディング前ソング
13.とりあえず噛む
14.反吐でる
15.Don’t Stop SNS
16.メロコアバンドのアルバムの3曲目くらいによく収録されている感じの曲
17.喜志駅周辺何もない
18.無線LANばり便利
19.ヤバみ
20.かわE
21.あつまれ!パーティーピーポー
文 ソノダマン