昨年末にライブハウスから始まった長いツアーもいよいよ終着点。[ALEXANDROS]の「S leepless in Brooklyn」ツアーのファイナルはさいたまスーパーアリーナでの2days。この日は初日だが、すでにツアー中に横浜アリーナでもワンマンをやっており(http://rocknrollisnotdead.jp/blog-entry-608.html?sp)、アルバムがこのアリーナのスケールを有していることは証明しているが、この間にはドラムの庄村聡泰の腰の負傷による離脱、ベース磯部寛之の足の骨折と災難が続いたが、そのサトヤスの復帰戦となるこの日は果たして。
このツアーおなじみのかなり金がかかったであろうニューヨークはブルックリンをイメージしたステージセットがそびえる中、開演前にはこのバンドの新曲が起用されている、大谷翔平出演のアクエリアスのCMが流れ、おなじみのアナウンスを経てJay-Z「Empire State Of Mind」の音量がどんどん大きくなってくると、それが「Sleepless in Brooklyn」のリード曲である「アルペジオ」のコーラス部分のものに変化していき、ステージ背面にある3面のスクリーンと客席中央の天井から吊るされた箱型のスクリーンにブルックリンの街並みの映像が映し出され、最後に「Sleepless in Saitama」の文字が浮かぶとメンバーがステージへ。休養から復帰したサトヤスはおなじみのドレッドヘアがさらに長くなっているように感じる。
そのサトヤスと椅子に座った状態(松葉杖をついて登場した)の磯部の余白を残したリズムが浮遊感を生み出し、その上を川上の伸びやかなファルセットボイスが泳いでいくかのような「LAST MINUTE」からスタートするというのは横浜アリーナの時と変わらないが、磯部が椅子に座って弾いているからというのもあるのかもしれないが、ベースの一音一音がよりはっきりと聞こえてくるよう。それはツアーを経てきたことによってアルバムのサウンドをメンバーたちが一層自分たちのものにできているからというのもあるのかもしれない。
やはりこれだけの規模となると演出などをガッチリと決め込んでいる部分ばかりなので、流れ自体は横浜アリーナの時と変わらないのだが、その時には2曲目に演奏されていた「She’s Very」が省かれ、「LAST MINUTE」のアウトロでハンドマイクのみからギターを弾いていた川上がステージから真っ直ぐ伸びる花道を駆け出して「Starrrrrrr」のイントロを弾き始めると早くも特効が炸裂というアリーナならではの演出が。
磯部が座った状態でもイントロでボンゴを叩いた「I Don’t Believe In You」、川上が両サイドの髪をかきあげてオールバックみたいになりながら歌った「Follow Me」、白井の重いギターリフがアリーナ規模に響き渡る「Spit!」、アラームのようなイントロが流れるだけで歓声が湧き上がった「Girl A」とこのバンドのライブは本当にテンポが良い。少しでも多くの曲を演奏したいからこそという面もあるのかもしれないが。
ダークな音像の「Come Closer」が演奏されるのはワンマンならではと言える部分だが、音数を削いだからこそメロディとリズムの強さがよくわかる「Party Is Over」では川上がハンドマイクでステージや花道を動き回りながら歌い、いつのまにかマイクスタンドが花道の先のセンターステージに置かれた中で
「埼玉に雪を降らせてもいいでしょうか!」
と言って演奏された「SNOW SOUND」では川上が委ねるとサビで大合唱が起きる。
すると川上が演奏後に突然笑い出し、
「この曲を大合唱できるなんて埼玉のみなさん最高です!めちゃくちゃキー高くないですか?」
と言いながらもう一度観客に合唱させてそれに聴き入るメンバーたち。女性が多いからこのキーでも大合唱になるというのもあるかもしれないが、CMでも大量にオンエアされていたこの曲がバンドだけのものではなくて我々ファンのものにもなっているというのを証明するかのような光景だった。
スクリーンに次々と歌詞が映し出された「Kaiju」からは川上いわく暴れるモードであるが、最新作の曲ではない「Kaiju」の後にギターリフ主体の「MILK」が並ぶと、このモードに入るきっかけは「Kaiju」にあったんじゃないかと思える。センターステージで歌う川上が「Kaiju」を歌い終わると倒れこみ、「MILK」で蘇生するという流れも含めて。
「暴れるだけがロックじゃねぇぞ。自分が自分でいることがロックなんだよ!好きに楽しめ!」
と川上が自身のロック観を叫ぶと、確かに決して暴れるようなタイプではない「KABUTO」「Mosquito Bite」というリフ主体の、「Sleepless in Brooklyn」の核になっている曲たちを演奏。磯部が動けないので「Mosquito Bite」の川上、白井、磯部が並んで演奏する場面こそ見れなかったが、川上のロック観を聞くと果たして自分はロックであれているのだろうかと考えを巡らせざるを得ないし、媚びたりすることが一切ない、俺たちが1番カッコいいんだからその俺たちの音楽を聴いて俺たちの演奏してる姿を見とけというこのバンドが初期から貫いているスタイルもそのロック観に基づいたものであるのがわかる。実際にこのバンドはわかりやすく人に「頑張れ」とか絶対に言わないタイプだが、その姿勢からいつも本当に大きな力をもらうことができる。
白井がフライングVを弾きながら花道を駆け出していく「Kick & Spin」は川上以上にその白井が存在感を強く放つ曲。とはいえ川上も自由にステージを駆け回りながら歌い、煽ることによって観客の大合唱をさらに引き出していく。
その川上が一人でセンターステージまで移動すると、
「次の曲ではみんなを独り占めしちゃっていいですか!」
と言ってアコギを弾きながら歌い始めたのは「Your So Sweet & I Love You」。一人で、と言いながらギターを持って花道を歩いてきた白井を先頭にメンバーが順番に加わっていく様は
「曲の原型を聞いて欲しい」
と川上が言っていた通りにこのバンドの曲はこうしてアレンジされて出来上がっていくのかな、と思える。
そしてこの曲を演奏する前に川上は
「知らない人もいるかもしれないけど、[Champagne]時代の曲で…」
と改名前のことを振り返っていたのだが、その時にスクリーンには[Champagne]時代のツアータオルを掲げていた女性が映し出されていた。その姿を逃さずに捉えてすぐさまスクリーンに映し出したスタッフたちの反射神経は本当に素晴らしいし、何よりも映し出された女性に観客が拍手を送っていたのが素晴らしかった。[ALEXANDROS]のライブは老若男女(マジで50代くらいの人も普通にいる)が揃っているが、みんなしっかりと節度を持っている人たちのように見える。決してバンドはそうしたマナーとかに対して口にしたりしないにもかかわらず。そこはメンバーの持つ人間性の良さというか温かさのようなものがファンにしっかり伝わっているからだろうし、こうした場面を見るといつも素晴らしいライブを見せてくれるバンドはもちろん、そのバンドの音楽を愛する人たちのことももっと好きになる。何気ない一幕だったけれど、この日のライブを特別なものにしてくれた瞬間であった。
そのままメンバーが全員揃ったセンターステージにて演奏されたハイパーな飛翔感溢れる「明日、また」からは終盤戦へ。
このバンドが今年見舞われた、今も乗り越えようとしている出来事があるからこそそうした状況を自分たちで打破していこうとしているように響いた「NEW WALL」から、磯部だけではなく白井もパーカッションを打ち鳴らしまくるのがパーティー感を倍増させる「Fish Tacos Party」と一切手を緩めることはないというか曲を重ねるごとにグルーヴは間違いなく増している。
そしてROSEのピアノのサウンドが「ピアノの音って本当にキレイだよな」と改めて実感させてくれたイントロから映像が始まったのは「Your Song」。横浜アリーナの時と同様にCDウォークマンで「Sleepless in Brooklyn」を聴いていた少女が大人になってスマホで音楽を聴くようになる。すっかり手にとってもらえなくなった擬人化した「Sleepless in Brooklyn」はそれでも女性が就活が上手くいかずに絶望している姿を見てそっと寄り添うようにこの曲を鳴らす。そして女性は久しぶりに思い出のCDを手に取り、カーテンを開けてまた日常に立ち向かっていくというストーリー。
[ALEXANDROS]は曲についての話はすれど、メンバーが音楽の聴き方などについて口にすることは全くない。それは聴き手のスタイルを限定したくないというのもあるだろうし、俺たちの曲とライブを見て決めろというスタンスでもあるだろうが、この映像からはこのバンドがCDというものに込めているもの、自分たちもこの映像の少女のように大切なCDからいろんなものを貰ってきたことがよくわかるし、そこは口に出さずとも伝えたいことがあったんじゃないかと思う。
その「Your Song」においても
「聴かせてよ 埼玉の歌を」
と歌詞を変えて合唱を呼び起こしていたが、
「亜麻色に染まったさいたまスーパーアリーナは!」
とこちらも歌詞を変えた「Adventure」では川上がカメラ目線で歌ってからそのカメラを客席に向けさせてコーラス部分を大合唱する客席を映させるというおなじみのパフォーマンスもあったのだが、そのカメラが捉えた川上の背中越しの満員の客席の景色が本当に美しくて、自分がこの景色の中の一部になれているということに誇りを感じるくらいだった。
そしてラストはオープニングでもコーラス部分が流れていた、アルバムのリード曲「アルペジオ」。音源ではなくて生演奏でのコーラス部分の大合唱はこの曲で始まってこの曲で終わるというこのライブの本編が、この曲に向かって進んでいたかのようであった。去り際に松葉杖をつきながら帰る磯部が松葉杖をカメラに向けるというこの状況だからこそできるパフォーマンスはこの会場にいた誰もを笑顔にしていた。
アンコールでは照明が落ちて暗い客席でスマホライトが光る中に「Burger Queen」のイントロが鳴ってメンバーがステージに登場すると、そのまま「Burger Queen」の生演奏に切り替わる。本編だけでも2時間くらいやっていたが、この曲を聴くとまたここからライブが新たに始まるかのようですらある。
川上のコーラスに続いて観客の大合唱が響いた「Dracula La」はやはりこうしてライブで聴くとより一層の力を発揮する曲だと思っているのでこうして聴けるのはやはりすごく嬉しいところなのだが、曲終わりで
「リハで洋平とまーくんが動けない俺の前をガンガン走り回っていたから今日はストレスが凄く溜まると思っていたけど、全然そんなことなかった。めちゃくちゃ気持ちいいです!」
という磯部は完治するのにまだかなり時間がかかるみたいだが、リハビリなどを乗り越える力をもらえるのはこの景色が見れるからだとも語る。それはこの景色の一部になっている身としては本当に嬉しいことだ。
一方で完治してステージに戻ってきたサトヤスは川上にマイクを渡されると、最初はふざけたような語り口で話し始めるもすぐに真剣になり、
「復帰が決まった時のコメントで出したように、音で全てを返していく所存です。あと数曲ですが、演奏する姿から何かを感じ取っていただけたらと思います」
という実に律儀なサトヤスらしいコメントを残す。
川上はかつてライブハウスで観客をステージに上げてコピーを演奏させたりした時に、
「バンドはドラマーが良ければどうにかなる」
と言っていた。このバンドに加入する際に悩んでいたサトヤスを川上が口説き落としたというのは有名なエピソードであるが、それはそのままサトヤスへの信頼そのものだし、自分もサトヤスが加入してからこのバンドの真価に気づくことができたし、ずっと見てきたからサトヤスがどれくらい凄いドラマーかはよくわかっているつもりだ。だからこそ他のメンバーもどこか安心しているかのような雰囲気を感じた。
そのサトヤスが復帰したタイミングでフル披露しようとしていたというアクエリアスの新曲はこのバンドの最大の武器であるメロディの美しさが最大限に発揮された、新たな武器になることが間違いない曲であるが、初めて聴いた間奏部分はキメ連発のバンドの呼吸があっていないと成立しないようなものになっていて、そこにサトヤスが戻ってくるまではフルで演奏しなかった理由を感じた。
そして再びセンターステージに向かうと、サトヤスが復帰する前からBIGMAMAのリアドを迎えて演奏されていた新曲「Pray」を演奏。ミドルテンポのこの曲は先に演奏された新曲とも全く違うタイプの曲だが、「祈り」というタイトルと歌詞からどこか神聖な空気を感じさせる。
川上がメンバーを一言ずつ紹介すると1人ずつメインステージに戻っていき、そこで最後に演奏されたのは白井のイントロのギターリフが煌めく「ワタリドリ」。川上はやはり花道を歩きながらセンターステージに立って歌うのだが、さいたまスーパーアリーナのスタンド席は地震が起きてるのかと思うくらいに揺れていたし、そんな盛り上がりを見せるバンド最大の代表曲と言えるこの曲を聴きたい人もたくさんいるはずで、媚びたりはしないけれど期待には応えるというこのバンドの姿勢がこの曲からはたしかに感じられるし、演奏後に客席に背を向けてマイクを持ちながらピースする川上の姿は映画のエンディングシーンのような美しさだった。
その川上がピックを投げ入れまくり、珍しく最後までステージに残っていた白井が満面の笑みでカメラ目線で感謝を告げてステージから去ると、おなじみの「ライブ後の楽屋でのメンバーの会話を映した」風の映像が始まる。サトヤスが九州ツアーの手配をしてくれているという親戚の兄ちゃん(お兄ちゃんだと実兄になるので「お」はつけないらしい)と電話で会話するという内容なのだが、その映像は本来ならライブ後に楽屋に挨拶しにくると言っていた兄ちゃんが来れなくなったというところで終わり、「Burger Queen」が流れるとスクリーンにはアメコミアレンジされたメンバーの映像とともにスタッフロールが流れ、最後の一文は
「[ALEXANDROS]は明日帰ってくる」
という翌日のライブが気になり過ぎるもの。全ての映像が終わったあとも
「See you tomorrow」
という文字が10分間だけ撮影可能になった場内に映し出されていた。こんなに翌日も行かなきゃいけなくなるようなライブと演出を見せてくる2daysはそうそうない。
現状、サトヤスの復帰と磯部の負傷という状況を考えると、ツアーでどう鍛え上げられてきたのかというよりもどの程度このメンバーのものにまで戻れているのかという上積みというより維持を求めてしまう。
でも[ALEXANDROS]にそんな心配は無用であるし、1ヶ月以上ステージから離れていたサトヤスが他のメンバーから置いていかれたり、磯部がいつもよりも劣ったパフォーマンスになるなんてこれっぽっちも思っていなかったし、それはやはりそのとおりだった。
リアドがサポートで参加していたライブでさえ、[ALEXANDROS]の凄さを改めて感じさせるものだったし、そうしてこれまでに何度となくこのバンドのとんでもなさを味わってきた。去年のELLEGARDENのスタジアムワンマンの翌日に同じ場所でワンマンをやるというハードルすらもこのバンドは軽々と超えていた。
で、やっぱりこの日も心配は全くしていなかったけれど、改めて[ALEXANDROS]というバンドの凄まじさを実感するようなものになっていた。ということは、磯部が完全復活したりしたらまたきっと「やっぱり[ALEXANDROS]はとんでもないバンドだ」って思わせてくれるはず。それが本当に気持ち良いから、このバンドに着いて行くのはやめられない。
1.LAST MINUTE
2.Starrrrrrr
3.I Don’t Believe In You
4.Follow Me
5.Spit!
6.Girl A
7.Come Closer
8.Party Is Over
9.SNOW SOUND
10.Kaiju
11.MILK
12.KABUTO
13.Mosquito Bite
14.Kick & Spin
15.Your So Sweet & I Love You
16.明日、また
17.NEW WALL
18.Fish Tacos Party
19.Your Song
20.Adventure
21.アルペジオ
encore
22.Burger Queen
23.Dracula La
24.新曲
25.Pray
26.ワタリドリ
文 ソノダマン