先月の千葉LOOKからスタートした、a flood of circleの「CENTER OF THE EARTH」リリースツアーのワンマン編。
その前の対バン編なども含めて常にライブをやりまくっているバンドとはいえ、その初日の千葉LOOKでのワンマンが凄まじく良かっただけに、「これは今回のツアーは1本でも多く見ておかなくては!」という思いに駆られ、ツアーももう終盤であるこの日の長野、さらに翌日の水戸にも参加することに。
この日の会場の長野LIVE HOUSE Jは長野駅から徒歩3分くらいの近い場所にある、チェーン居酒屋やファミレスなどが入っている商業施設の地下1階にあり、向かいが赤から、隣が温野菜というおよそライブハウスがあるとは思えないくらいの、キャパ200〜300人くらいの小さい縦に長い客席のライブハウスである。
密度こそそこまででもないが、客席は前から後ろまで埋まってる中、18時になると場内が暗転してSEが流れてメンバーが登場。佐々木亮介(ボーカル&ギター)は千葉の時と同様に黒の革ジャン姿で、先日誕生日を迎えたばかりの金髪の青木テツ(ギター)は1ヶ月経っただけでだいぶ髪が伸びたように見える。
基本的にライブの流れ自体は千葉LOOKの時と変わらないので、ツアー初日ならではの新鮮な視点という面ではそちらのライブレポも参考にしていただきたい。
なので「CENTER OF THE EARTH」の1曲目であり、実質的にセルフタイトルと言ってもいい「Flood」でスタートすると、ダイバーも出現した「The Beautiful Monkeys」という序盤からのぶっ飛ばしっぷりもこのツアーではおなじみのものになっていると思われるが、亮介の声こそ少し疲れを感じさせるところはあるけれど、テツのギターとHISAYOのベース、渡邊一丘のドラムはツアーを経たことによってさらに力強さを増しているし、「Vampire Killa」などの「CENTER OF THE EARTH」のロックンロールな曲たちがより一層自分たちのものとして消化されてきており、それがHISAYOのゴリッゴリなベースのイントロによる「Blood Red Shoes」という過去曲のロックンロールさすらもより一層増しているという相乗効果を与えているし、今回のツアーのセトリがアッパーなロックンロール曲ばかりなのは「CENTER OF THE EARTH」がそうした性質のアルバムだからであるということがよくわかる。
しかしながらツアー中でも全く同じセトリや内容にならないというのがテツが正式メンバーになって以降のフラッド、この日は千葉LOOKの時は「Back Street Runners」だった箇所がともに疾走感溢れるロックンロールナンバーである「Drive All Night」という「CENTER OF THE EARTH」の曲同士での入れ替えが行われていた。確かに千葉LOOKのライブを見た時に「「CENTER OF THE EARTH」のツアーなのに収録曲全部やらないのか…」と思っていたが、それはこうして収録曲同士を入れ替えるというセトリを組んでいるからであったことがわかる。
亮介がハンドマイクスタイルで客席に突入せんばかりにステージ前に出て歌う「Rodeo Drive」という、むしろこの辺りが入れ替わるとばかり思っていた過去曲は変わらず、イントロからメンバーが向かいあって変拍子のキメを連発する「美しい悪夢」と続くと、千葉では「Youth」だった箇所がこの日は軽快なロックンロールナンバー「ベイビーそれじゃまた」にまたしても「CENTER OF THE EARTH」の収録曲同士で入れ替わり。
「いいね いいね はどうでもいいね」
というSNSに対してであろうフレーズはいいねがつきやすいような音楽ではなく、自分たちの信じるものをひたすらに追求していくというこのバンドのスタイルを軽やかに宣誓しているかのよう。
「このLIVE HOUSE Jはメジャーデビューする前からずっとライブやってる場所だからこうして毎回来れて嬉しい。俺たち、今日はサラダ軍艦をみんなで食べてきたから完全に長野モードになってます!海がない県ならではの名物っていう感じだけど(笑)」
という亮介の長野いじり(毎回恒例らしい)にはそれも亮介なりの愛情表現であるということがわかっているからこその笑いが起こり、そんなアットホームな空気は「CENTER OF THE EARTH」収録曲の中で唯一のバラード曲である「スノードームの夜」の演奏中は一変する。
長野はかつて冬季オリンピックが行われた都市でもあるし、千葉よりもはるかに雪が降るイメージが強い。(実際に千葉は毎年雪が降るわけではない)だからこそ、この日長野で聴いた「スノードームの夜」は千葉とはまた違う、この街が雪に包まれて真っ白になった景色が頭に浮かぶように聞こえた。きっとこの日この場所にいた長野に住んでいる人たちは今年の冬に雪が降ったらこの日のこの曲が演奏されている時間のことを思い出すんじゃないかと思う。
千葉で演奏された時に観客に最も衝撃を与えた2ndアルバム「PARADOX PARADE」収録の「プリズム」は入れ替わることなくこの日も演奏されたが、まさかリリースツアー以降でこの曲を毎回聴くことができる日が来るとは、という千葉の時とはまた違う驚き。さすがに定番曲にはならないだろうけれど、こうしてツアーセトリにこの曲が入ってくるということはこれから先のツアーでも名盤と名高い「PARADOX PARADE」の収録曲が聴ける可能性が大いにあるということだ。
それはテツが加入する前はサポートギターがかなりの頻度で入れ替わっていたのがようやく4人全員が正式メンバーのバンドになれたということが大きいのだが、亮介も
「テツが入るまでは前史。紀元前みたいな感じ(笑)」
と評していたことからも、メンバー自身が今のフラッドにかつてないくらいの手応えを感じていることがわかる。
するとプライベートでも長野によく蕎麦を食べにくるという「長野好き」を自認する渡邊が長野の行ったことのある場所を次々に挙げるのだが、黒部ダムなど長野じゃない場所ばかりを口に出してしまい、メンバーから総ツッコミを食らう。しかし亮介からするとこのツアーの中で1番面白いMCだったという。
そんな笑える場面もありつつ、アルバムリリース直後に早くもリリースされたニューシングル「The Key」の
「Hello, hello new world」
というフレーズがフラッドの新章開幕を高らかに宣言し、ついに春じゃなくても演奏されるようになった「春の嵐」では間奏で亮介、テツ、HISAYOの3人が並んでステージ前まで出てきて演奏。HISAYOは楽しそうに転がるダイバーの姿を見て自身も楽しそうに笑っている。
「光の歌」からはクライマックスへ向かうのだが、ツアータイトルにもなっている「ハイテンションソング」ではコーラスをメンバーのみならず観客も腕を上げて完璧に合わせて大合唱するのだが、新作アルバムの曲をライブに来ている人が全員ちゃんと聴き込んできていて、その曲が演奏されるのを心から楽しみにしている。デビューして10年も経つバンドともなると初期の曲ばかりを求められてしまうこともあるけれど、フラッドは決してそうはならない。「CENTER OF THE EARTH」が「これ今までのフラッドの最高傑作じゃない?」と思うくらいに素晴らしい内容のアルバムであるように、フラッドは常にそれまでを更新し続けているバンドだから。(セルフタイトルの前作がリリースされた時も「今までで1番良くない?」と思っていた)だからいつもファンは新曲や新作が出来ることや、その曲たちをライブで聴けるのが本当に嬉しいのである。
アウトロで亮介とテツが激しくギターソロを弾き合う「Dancing Zombiez」は渡邊のドラムの手数もさらに増した進化バージョンとして鳴らされ、
「俺たちとあんたらの明日に捧げます!」
と言って演奏された「シーガル」はこの日もサビで大合唱を巻き起こす。しかもその大合唱は口ずさむくらいのものではなく、みんながみんな亮介と同じように声を張り上げて歌っている。だから決して大人数とは言えない小さなライブハウスでも本当に迫力を持って響く。
そしてラストはアルバムタイトル曲である、4つ打ちの軽快な「Center Of The Earth」。
「サンキューベイビー 最後まで笑ってくれ
まともじゃなくても 大好きだよ」
というサビのフレーズは長野のロックンローラーたちに向けて歌われていたし、この曲ができたのは本当に大きい。ツアーは来週で終わるけれど、それ以降の夏フェスでもきっとこの曲はその場所に集まったロックンローラーたちのために鳴らされるし、そこでフラッドを見た人たちにとってはその日1日頭の中でずっと鳴り止まない曲になるはず。だって、この曲が鳴らされている間は地球の中心は紛れもなくこの場所なのだから。
アンコールで渡邊とテツがツアーTシャツに着替えて登場すると、亮介がギターを弾きながら歌い始めたのは「The Key」のカップリングに収録されている東京事変のカバー「群青日和」。亮介の声で歌うとどんな曲でもロックンロールになるというのはこれまでに何度も書いてきたことであるが、もうこの曲に関しては原曲どんな感じだっけ?とすら思ってしまう域に達している。
そして
「生き延びてまた会おうぜ。長野、本当に楽しかった。だって、世界は君のものだから!」
と言って最後に演奏されたのは「世界は君のもの」。本編最後に演奏された「Center Of The Earth」と同様に4つ打ちの軽快なロックンロール。「地球の中心」と「世界は君のもの」。それはある意味では同じことをフラッドが言い続けていることの証明でもあり、だからこそ今回のツアーの最後の曲が今までにライブの最後を担ってきたどの曲でもなくこの曲であるというのは当たり前のことだと言える。
テツはギターを弾かない部分では泳ぐように音に自らの体を委ね、ギターを弾く際は頭をブンブン振りながら演奏していたが、テツが加入するはるか昔から存在するこの曲が、テツが加入して、「CENTER OF THE EARTH」というアルバムができたことによって進化してさらなる真価を発揮している。演奏するメンバーは心から楽しそうな表情だったし、やはりそういう姿を見るとこちらも本当に楽しくなる。だからこそ亮介が
「羽を揺すって…」
と歌った後にマイクスタンドから離れる仕草を見せると、観客全員が
「飛ぶだけ!!!」
と全力で返す。前にいた、きっとだいぶ昔からフラッドのことを見てきたんだろうな、という女性2人組が「この曲が聴けるなんて…!」といった感じで顔を見合わせながら、最後は飛び跳ねまくっていた。その様子はこうして地方にツアーを観に来ないと見ることができないものだろうし、こうしていろんな土地にフラッドのことが好きな人たちがいるという事実が心から嬉しくなった。
千葉LOOKのライブが終わった後の、「これはこのツアーは行ける限り行かなくては!」と思った感覚はやっぱり間違いではなかった。来週のファイナルの赤坂BLITZももちろん行くけれど、まだまだフラッドのライブが見たいと思える。そんなライブをフラッドは見せてくれる。だからこそ、ベイビーそれじゃまた、明日は水戸で。2日連続で今の最強のフラッドのワンマンが観れるってなんて幸せなことだろうか。
1.Flood
2.The Beautiful Monkeys
3.Vampire Killa
4.Blood Red Shoes
5.Drive All Night
6.Rodeo Drive
7.美しい悪夢
8.ベイビーそれじゃまた
9.スノードームの夜
10.プリズム
11.The Key
12.春の嵐
13.光の歌
14.ハイテンションソング
15.Dancing Zombiez
16.シーガル
17.Center Of The Earth
encore
18.群青日和
19.世界は君のもの
文 ソノダマン