今年15周年のアニバーサリーイヤーを迎えるバンドは多い。UNISON SQUARE GARDENは15周年に大阪で大規模なワンマンライブを行い、9mm Parabellum BulletはそのUNISON SQUARE GARDENも含めた同世代バンドたちと2マンライブを行い、THE BAWDIESは15周年記念に3回目の日本武道館ワンマンを行った。
そうしてロックシーンの最前線で戦い続けるバンドたちとは少し異なる状況で15周年を迎えたのが、赤いスーツに身を包んだ名古屋の5人組ロックンロールバンド、ビレッジマンズストアである。
少し状況が違うというのはビレッジマンズストアは前述のバンドとは違い、長い雌伏の時代を過ごし、15周年を迎えた今からシーンの最前線に躍り出ようという立ち位置のバンドだからである。
バンドにとって東京では最大規模のワンマンとなるこの東京キネマ倶楽部でのツアーファイナルはまさかの即完。これにはビックリしてしまったが、客席のビレッジマンズストアのライブグッズの着用率の高さにもビックリする。みんなこのツアーはもちろん、これまでの様々なツアーやライブに足を運んできて、ビレッジを愛し続けてきたというのがよくわかる。
開演時間の18時を少し過ぎたあたりで会場が暗転すると、おなじみの「マイ・シャローナ」のSEで赤スーツを着用したメンバーたちがステージに現れる。キャバレーとしての歴史も持つこの東京キネマ倶楽部にはステージ下手に階段があり、だいたいここでライブをやるバンドはせっかくだからとそこから登場したりするのだが、派手なことが好きそうな(見た目が派手だからというのもあるけれど)このバンドがそこを使わずに普通に登場してきたのは少し意外であった。
先に揃ったメンバーたちが音を出す中、最後に白い羽を首にかけた水野ギイ(ボーカル)がステージに現れると「WENDY」からスタート。そのメンバーの音が揃った時のあまりのカッコよさに思わず感動して泣き出しそうになってしまうくらいなのだが、怒髪天の増子直純を引き合いに出されることもあった水野のロックンロールバンドのボーカルになるために持って生まれたようなダミ声は序盤から力強さを全開にしてキネマ倶楽部中に広がっていく。
ロックの名言である「DON’T TRUST OVER THIRTY」ではなく、すでにキャリアを重ねているこのバンドだからこその「Don’t Trust U20」と息をつく間もないくらいのロックンロールの絨毯爆撃っぷり。童顔ギタリストの岩原洋平はコーラスをしながらも時折ステージ前や中央に移動してギターを弾きまくるが、曲によって荒金祐太朗とリードギターをスイッチしていく。このギタリストチームは髪型も似ているし、昨年加入した最年少メンバーの荒金も完全に赤スーツが似合うくらいにこのバンドに溶け込み、ずっと昔からこのバンドのギタリストとして生きてきたかのようですらある。
髭がトレードマークのダンディなベーシスト・Jackがスラップ奏法でロックンロールでありながらも多彩なリズムで暴れさせながらも時には踊らせたりもする中、「黙らせないで」からは15周年を記念してライブ会場限定でリリースされてきた新曲たちを演奏していく。
タイトルからしてカッコ良すぎる「墜落、若しくはラッキーストライク」、このツアーのタイトルにもなっている「御礼参り」はストレートなロックンロールであるが、それはバンドとしての焦点が絞れているということであるし、アニバーサリーイヤーにこうした曲をリリースするということはこのバンドはこれからもこうしてロックンロールに生きていくという意志の証明でもある。
15周年ということで規模の拡大だけでなく、今年は様々な趣向を凝らしたライブを開催してきたバンドであるが、中でも楽曲人気投票ライブは自分たちの生み出してきた曲たちに改めて向き合う機会となったようで、「ビューティフルドリーマー」はその人気投票の結果が反映されたことによって演奏されたとのこと。
ロックンロールバンドは基本的にライブのテンポが良いバンドが多いのだが、それはこのバンドも例に漏れず。曲と曲の間をスムーズにつなぐようなアレンジがなされ、前半はほとんどMCもなく突っ走っていく。それはテンポだけでなく客席の熱量もグングンと上げていく効果があり、すっかり寒さを感じるようになった季節であるがそんな季節感を忘れさせるように暑く熱い。スーツ着用のメンバーはもっと暑いと思われるが。
「前にピストルディスコっていうイベントでキネマ倶楽部でライブをやったことがあるんだが、スタッフとかいろんな人からビレッジはキネマ倶楽部が絶対似合うからって言われてきた」
という水野のMCのとおりにやはりこのバンドはこの会場の雰囲気が実によく似合う。
かつてはa flood of circleも何度もこの場所でライブを行っており、ロックンロールバンドに似合う会場であるというのはわかっていたが、このバンドの場合はロックンロールバンドであるということだけではなく、楽曲の中に漂う歌謡性のようなものがより一層そう思わせてくれる。
かつてフェスやイベントなどではキラーチューンとしてクライマックスを担ってきた「夢の中ではない」をこの中盤に持ってきたあたりに今のこのバンドのモードと手札の揃いっぷりを実感せざるを得ないが、この辺りで白い羽を首から外していた水野は客席最前列の柵に足をかけるようにして歌う。
「ファズギターを喰らえ」
というフレーズとともに岩原の強烈なファズギターが唸りを上げる「トラップ」、
「キネマ倶楽部に最強の武器を持ってきた!」
という「スパナ」と一体どこまで上がっていくのだろうかというくらいに熱量は右肩上がり、それは緊張感から解き放たれてバンドがこのキネマ倶楽部の空気を完全に掌握してきたからこそであるが、水野がアコギを抱える姿が実に新鮮な「すれちがいのワンダー」では水野はマイクスタンドの前ではなく客席の目の前まで出るとマイクを通さずに歌い始める。それでも充分聴こえていたのだが、その歌声がさらに大きくなったのは水野に合わせて観客が合唱していたから。その一語一句間違えずに巻き起こる大合唱っぷりにファンのこのバンドへの愛情の深さを感じて思わず感動してしまったし、アコギを使うとサウンドとしては聴かせるような方向に行きがちであるが、決してそういうわけにはならないのは黒手袋を着用するドラマー坂野充による細かくリズムを刻むドラムによるもの。やはりこのバンドの曲はアコギの音が加わってもロックンロールたりうるのはリズム隊の力によるものが実に大きいのがよくわかる。
今年リリースのライブ会場限定シングルの最後の1曲、ギターメーカーへの愛、それはつまりロックンロールバンドへの愛でもある「Love Me Fender」は新曲群の中で最もライブで練り上げられてきた印象を受けた。これからこの曲はライブにおけるキラーチューンになっていくはず。
そう思えるくらいにこのバンドはロックンロールバンドとしてのカッコ良さはもちろん、そもそも音楽、曲としてのメロディの良さを持ち合わせているバンドであり、それを感じさせてくれるのは「最後の住人」「帰れないふたり」というポップさを強く感じさせる曲。しかしそんな曲でもバンドが演奏して水野が歌えばそれはロックンロールになってしまう。つまりこのバンドの手にかかればどんなタイプの曲でさえもロックンロールにしてしまえるということだ。だからロックンロールバンドの中でもこのバンドの曲やサウンドや雰囲気は実に濃い。その濃いスープがロックンロールであるだけに、その中にどんな食材を入れてもそれはロックンロールになるのである。
すると水野は
「バンド名からして俺には東京に対するコンプレックスみたいなものがあるんだけど…。今回のツアーで真っ先に売り切れたのが東京だった。昔は好きじゃなかった東京が好きになれた。俺みたいなやつもいると思うけど、東京は思ってるよりも優しいぞ」
と東京への愛憎入り混じる思いを口にする。だが水野が東京を肯定できるようになったのは、バンドがこの東京で積み重ねてきたものや歴史があるからだ。今やホームと呼べるようになったライブハウス池袋Admでの様々なライブを含め、15年という長い年月と経験はこのバンドに大事な場所を作ってきた。
その経験や年月を感じさせる、「正しい夜明け」の暗い心情吐露から始まって一気に突き抜けていくバンドのグルーヴは凄まじい音の説得力を持っていたし、「サーチライト」での
「終わりを見せてね 行き先に迷う世界の
果てでいつも待っていて」
というサビのフレーズを水野、メンバー、観客全員で大合唱する様はこの日のライブの前日に「ロックバンドが終わること」というこれまでの人生の中で何回向き合ってきたかわからないような問題と再び向き合わざるを得なくなるような出来事があっただけに本当に強く響いた。この光景もいつかは終わる日が来るかもしれないけれど、今はまだずっと続いていくような気分にさせてくれたのだ。
そして「変身」からは全速力で突っ走ってきてなおもペースとテンポを上げるようにメンバー全員のコーラスがさらに声量を増し、岩原はギターソロで水野の立ち位置までジャンプしてからギターを弾きまくり、「逃げてくあの娘にゃ聴こえない」ではライブでおなじみのギター2人が観客に支えられながら客席後ろの方まで運ばれていく中でギターを弾くというこのバンドのならではのパフォーマンスへ。バンドと観客が見たい景色が同じだからこそ、なんの危な気もなくこうしたパフォーマンスに熱狂することができる。いつか大きなフェスの野外ステージでこれが見れたらな、とも思う。
そして最後に
「喉が引きちぎれても歌う。俺がお前らをいつだって14才に戻してやる!」
と水野が言ってから演奏された「PINK」ではその水野が客席に突入していく。このバンドはそのMCなりの繋ぎの上手さも含めて水野のカリスマ性がこうしてたくさんの人をライブに呼び寄せる要素になっている。けれどその水野だけの力のバンドではなくて、あくまでこの5人だからこそのビレッジマンズストアなのである。ワンマンはそれを他のどのライブよりも思い知らせてくれた。
アンコールでは今年取り組んだ様々な企画ライブのいち、男性限定ライブだけが売り切れなかったことについてリベンジをしようとするのだが、
「完全に女性の方々が冷めている(笑)」
という理由で、来年は「男性限定」「女性限定」のライブを1日2公演行うことを宣言。ちなみにこのバンドの男性ファンはガタイが大きい人が多いらしく(この日も「なんで?」と思うくらいそういう人がいた。ロックンロールバンドのライブでは珍しい光景である)、
「ソールドアウトしてないのにソールドアウトした女性限定よりも密度が濃かった(笑)」
とのこと。
さらに春に東名阪のショートツアーを開催することも発表され、2020年はさらなる飛躍の年になることを予感させながら「ロマンティックに火をつけて」で再びステージも客席も着火させると、「MIZU-BUKKAKE-LONE」では岩原と荒金が下手の階段を登って踊り場に立ち、手摺りに足をかけたりしながら交互にギターソロを弾く。「ビレッジにはキネマ倶楽部が似合う」という言葉はこのシーンでもって完璧に証明されたことになった。演奏が終わって最後にステージを去る坂野が何度も笑顔と真顔を切り替えながら歩いていたのが実に面白かったし、彼なりのこの日のライブへの手応えを感じさせたのだった。
しかしそれでもまだ客電は点かずにアンコールを待つ観客たち。それに応えてダブルアンコールへ。荒金はジャケットを脱いで黒シャツという出で立ちになる中、水野は
「人は流れていく。ライブハウスにずっと来れるやつなんてそうそういない。出ていきたいなら出て行けばいい。でも忘れるな。お前のことを思って曲を作っているバンドがいる。お前のことを思って歌を歌う、音を鳴らすメンバーがいる。お前がいなくなっても。それだけは覚えていてくれ。
今日だけは俺たちは最高にカッコいい。それはお前が見つけてくれたからだ」
と言った。いつか自分もライブという場から離れる時が来るのだろうか。いや、今は全くそんなことは想像できない。こういうバンドがまだ日本にいるからだ。こんなライブを見た日においても「眠れぬ夜は自分のせい」なんだろうか。それはこのバンドのせいでもあるはずだ。それくらいにこの日の夜は長かった。
荒金がライブに参加するようになった頃の(まだサポートとして参加していた時)このバンドのライブを見た時、それ以前とは「あ、変わったな」と思った。それはバンドとして形が変わっただけに当たり前のことでもあるのだが、それ以上にバンドとしての意識が変わったように見えた。長年ともにしてきたメンバーがいなくなり、きっとその時にバンド自体を続けるかどうかというところまでメンバー全員が向き合ったはず。水野の体調面も含めて、それまでは順風満帆とは言えないような状態だったから。
だから「変わった」というのはメンバー全員が「このバンドで生きていく」という意識を強く持って一つ一つのライブに臨むようになったのを鳴らす音から感じたことだ。
でもこの日のライブはさらにそこから変わっていた。それは「このバンドでもっと凄い景色を見に行く」という方にバンドの意識が変わったことを感じさせた。来年にはついに恵比寿リキッドルームでのワンマンも決定した。もう今までの「こういう音楽やバンドを好きな人しか知らない」という立ち位置はきっと終わる。ロックンロールで我々の日常だけでなく、我々が目にする周りの景色すらも塗り替えていくような、そんな予感がしている。
「サーチライト」のところでも書いたように、前日のショックによってライブが始まるまで全然音楽を聴けなかった。聴こうという気分になれなかった。でもロックバンドによって沈んだ空気を引っ張り上げてくれたのもまたロックバンドだった。
そんな個人の都合や状況はバンド側には関係がない。ただ自分たちのやりたいようにロックを、ライブをやるのが最もカッコいいことだから。でもその姿やアンプから、マイクから発せられているその場で鳴っている、意志のこもった音に自分は勝手に救われている。だからロックバンドを追いかけるのはこれからもやめられそうにない。離れる時もまだ想像できない。
1.WENDY
2.Don’t Trust U20
3.ビレッジマンズ
4.黙らせないで
5.墜落、若しくはラッキーストライク
6.御礼参り
7.ビューティフルドリーマー
8.夢の中ではない
9.トラップ
10.スパナ
11.すれちがいのワンダー
12.Love Me Fender
13.最後の住人
14.帰れないふたり
15.正しい夜明け
16.サーチライト
17.変身
18.逃げてくあの娘にゃ聴こえない
19.PINK
encore
20.ロマンティックに火をつけて
21.MIZU-BUKKAKE-LONE
encore2
22.眠れぬ夜は自分のせい
文 ソノダマン