今年になってアルバム「ALL THE LIGHT」をリリースし、さらにバンドの進みたい方向にしか進んでいないことを示したGRAPEVINEが秋のホールツアーを開催。今年の9月でデビュー22周年という、周年というにはあまりに中途半端な年となったが、そんな普通のバンドなら祝うようなことのない年にこうしてホールツアーをやるというのが実にバインらしい。
GRAPEVINEはこのライブの4日前に横浜ベイホールでマカロニえんぴつとのツーマンライブを行っているのだが、そのライブが内容もセトリも実に素晴らしかっただけに、急遽この日も見に行くことに。かつてはよく見に行っていたバインのワンマンも、もしかしたらこうして見に来るのは日比谷野音のワンマン以来くらいかもしれない。
平日にもかかわらずチケットはソールドアウトの超満員、同じく平日にもかかわらず早めの18時30分を10分ほど過ぎた時間に場内が暗転すると、観客に合わせて自ら拍手をする亀井亨(ドラム)を先頭にメンバー5人(もはや5人と言っていいだろう)がステージに登場。黒いシャツとパンツで統一した田中和将(ボーカル&ギター)がアコギを手にして、他のメンバーたちと合わせるようにして「Chain」からスタートするといういきなりのじっくりとしたオープニングはこの日のライブがどういった内容のものになるのかを象徴していたのかもしれない。
GRAPEVINEは近年のフェスでは割とわかりやすい選曲のライブをやることも多いが、かつてはフェスでもそうした内容のライブをほとんどやらず、ひたすら自分たちのやりたいことをやるというスタイルを貫き通してきたバンドである。
それはワンマンという場所だとより一層明らかになるというか、安易に代表曲やヒットシングルを並べただけ、というような内容にはならないのがこのバンドである。
だからこそ2曲目という序盤中の序盤で2000年リリースのアルバム「Here」のオープニングナンバーである、GRAPEVINEの中ではかなりストレートなラブソングである「想うということ」も演奏されるのだが、なんの脈絡もなくこんなレア曲をいきなり演奏するのだからびっくりしてしまう。それはこうしたホールという場所で演奏するよりも夏の野外フェスという場所の方が似合ってるんじゃないかと思うくらいに太陽の描写が美しい「ランチェロ’58」、高野勲がキーボードからギターに持ち替えて演奏する、バイン持つのメロディの美しさを堪能できる「Glare」と、近年のフェスでのライブで初めてこのバンドのことを知ってこのライブに来た人がいたとしたら
「1曲も知っている曲がない」
と思われても仕方がないくらいのレベルでのアルバム曲の連打っぷり。
それはもともと持つバインの資質そのものであるし、バンドの演奏はこの段階でやはり盤石。「Glare」で田中が歌詞カードには載っていないサビ前などにシャウトを軽く入れたりするあたりにもこの日のライブでないと味わえないものがあるよなぁということを感じさせてくれる。
MCでは田中が
「中野サンプラザのみなさん、初めまして」
と挨拶。その言葉の通りにこの中野サンプラザでGRAPEVINEがライブをやるのは22年目にして初めてのことなのである。
「寝る人は寝る。歌いたい人は歌う。考えたい人は考える。自分の思った通りのスタイルで。我々も普段と何ら変わらないライブをしますので(笑)」
と言うようにこの飄々としたというかマイペースな感じがバインのライブの居心地の良さであるが、高野のキーボードの電子音がウワモノとして曲を引っ張る「ソープオペラ」、
「ひと夏の思い出 フェスなどいかがです
虚空へ向かって 狂おしく燃え上がれ」
というバインらしい捻くれた斜め目線炸裂の「Shame」、かと思えば最新アルバムからの素直な歌詞の「すべてのありふれた光」、田中のアコギの旋律と歌のメロディが美しい「Scarlet A」と様々な時期の様々なタイプの曲が次々に演奏されていくが、全く違うタイプの曲であっても前後の繋がりに違和感が全くないのは楽器を持ち替える転換のスムーズさによるテンポの良さもさることながら、どんなタイプの曲であってもこのメンバーで演奏して田中が歌えばそれはGRAPEVINEの音楽になるし、生まれてから長い年数が経過した曲も今のこのメンバーで演奏されることによって今のGRAPEVINEの曲になるからである。
このバンドのマイペースさをその身で体現しているかのような西川弘剛のAメロでの余裕さから、サビでは一気にメンバー全員の発する音が混ざり合ってグルーヴの塊になっていく「COME ON」ではアウトロで亀井の叩くドラムが一気に強さを激しさを増すセッション的な演奏に展開していき、金戸覚もその亀井の方を向いて足踏みをするようにしてベースを弾く。すると田中も金戸の方に移動してギターを弾き、ライブならではの曲の大化けっぷりを見せてくれる。
最初にライブが始まった時は
「どうするの?立つの?」
というホールならではの探るような感じ(座って聴いている人もいたけれど)もあった観客もこの曲の終了後には大拍手でバンドに応える。この「COME ON」がこんなにもライブのハイライトを担うような曲になるなんてリリースされた時は全く想像していなかった。
とはいえ、ベテランバンドになるにつれて普通はかつてのヒットシングルを中心としたセトリを組んでいくようになりがちであるし、GRAPEVINEはそういう意味ではもう完全にベテランバンドである。近年のフェスではわかりやすい代表曲をメインに据えることも増えてきたし、そういういわゆるベテランのライブに移行してもいい位置に来ているのだが、決してそういうことをしない。
ワンマンでわかりやすい曲だけをやるのではなく(そういうライブも見てみたいけど)、ワンマンに来てくれるようなファンの前だからこそ、自分たちの1番深い部分を見せる。それが自分たちを最もわかってもらえることだから。
ということをファンも長い年月の中で理解してきているから、そうした深い部分を見せるような内容のライブを歓迎しているし、そこにこそバインの真髄を見出すことができる。フェスでやるにはかなり渋い「レアリスム婦人」や最新作収録の「Asteroids」という選曲はその最たるものと言っていいだろう。
不穏さを感じさせるAメロから徐々に迫力を増すサウンドとともに照明が明滅する「豚の皿」はそんなバインの中にあってずっとライブで演奏されて育ってきた曲である。サビでの一気に視界が開けていくようなカタルシスはこの曲ならではの感覚であるし、田中のボーカルもバンドのグルーヴも年月を経るごとに極まってきている、と感じる。ロックバンドにとって加齢は老化ではなく進化であると証明するかのように。田中は曲のラストでは
「中野サンプラザが気になりだす!」
とかなりの早口で歌っていたが、最後はお決まりのように
「サンプラザ中野が気になりだす!」
と変化していた。
そうした照明も含めた光と影、静と動のコントラストを1曲の中で描いた次に演奏されたのが、歌う田中にのみうっすらとしたピンスポットが当たり、薄暗いバーというよりはまるで海底の中でバンドが演奏しているかのような「SEA」。基本的にバインはライブで特別な演出であったり映像であったりを全く使わないバンドであるが、そうしたライブを繰り返してきたからこそこの曲のように演奏と照明のみで1日のハイライトを描くことができる。
「吐いてしまいそう 殺してしまいそう
笑ってるの? 笑えばいいよ」
というかなり衝撃的なフレーズさえあるその「SEA」の後に演奏されたのが「楽園で遅い朝食」というのがまた全く油断できないというかこちらの予想を軽々と超えていってしまうのだが、田中は10月1日に六本木EX THEATERで行われる追加公演から消費税が10%に増税されることを、
「2%上がったぶんは演奏でお返ししますので(笑)ではあと6万とんで30曲!」
と話しながら、高野のピアノのイントロが美しいメロディに繋がっていく「真昼の子供たち」からは終盤戦へ。
先日の横浜ベイホールでのライブで演奏されてビックリしてしまった「BLUE BACK」はここでも演奏されたのだが、ライブハウスだからこそのロックバンドの衝動性を感じさせたベイホールの時とは異なり、よりじっくりとバンドの演奏を堪能するという感じで、バンドの演奏もどこかホール仕様にこの曲を見せるように変化させていた印象。亀井のドラムの手数は当時より間違いなく増えているし、田中のファルセットを多分に含んだボーカルは後半になっても安定感を欠くことは全くない。
この日、田中は
「Fall(秋)にHallツアー」
とかなり親父ギャグめいたことを口にしていたのだが、その秋らしさを最も感じさせたのは「指先」。MVが秋に撮影されたものであるということもあるが、そのサウンドや少しの切なさを含んだ歌詞もどの季節が最も似合うかと言われたら間違いなく秋。つまりこの時期であり、これは今回のツアーの時期に合わせて選んだ曲であると思われる。
そして最新作からの「God only knows」はセッションから作られたというだけあって、ライブで聴くとより一層「どんな展開をしてるんだ」と思ってしまうくらいにいきなりガラッと展開が変わったりするのだが、演奏するメンバーたちの楽しそうな表情を見ていると、レコーディングでもこうして楽しみながらセッションして曲を作り上げていってるんだろうな、ということがよくわかるし、バインはフェスなどのライブでメンバーが時間前に出てきてサウンドチェックを行う際も曲を演奏することはほとんどない。まさに「サウンドチェック」という言葉の通りにメンバーそれぞれが音を出して、それがセッションのように発展していくのだが、その光景も思い起こさせる。
高野のシンセがホーンのサウンドも担う「Alright」では間奏で田中が手拍子をするとそれが一斉に客席に広がっていくのだが、昔は田中が、バインがこうして手拍子を促すようにする姿さえ想像できなかった。だからこそ見ていて少し面白くも感じてしまうのだが、それすらも楽しい。決して曲のイメージからはそうした感情を想起させるようなバンドではないかもしれないが、こうしてライブを見ているとやっぱり「楽しいな」と思える。それは田中をはじめとしたメンバーの人間性が醸し出しているものかもしれないけれど。
そしてラストは田中がアコギを弾きながらしっとりと歌い上げる最新作からの「Era」。今回のツアーは最新作のツアーというわけではないけれど、結果的には最新作から最も多くの曲が披露された。それはバインがかつてのヒット曲ばかりをライブでやるバンドではなく、常に現在進行形のバンドであり続けていることを証明するかのようだった。
アンコールで再びメンバーたちがステージに現れると、
「バンドはこうして中野サンプラザとかでやって、次は武道館でライブをしたりする。我々はやらないですけど(笑)
サンキュー中野、来れてよかったぜー。また建て替えしたら来るぜー」
と田中は自身のスタンスを口にしていたが、バインはやろうと思えば武道館だってアリーナだってやれるタイミングは何回もあったはず。それでも決してやらなかったがゆえに渋谷公会堂や日比谷野音でワンマンをやった時はファンはみんな驚いたし、だからこの中野サンプラザも含めて本当に特別なものになる。いつかは武道館でバインのライブを見たい気持ちも間違いなくあるけれど。
そうして始まったアンコールは至極の名曲「スロウ」が象徴するように、アンコールの空気は本編とはかなり違うものだった。続く「Arma」も含めて、バインの濃い部分ではないものを前面に押し出していた。それは
「22年間ありがとうー!」
と言ったように、こうしてライブに来てくれるファンたちへの感謝とサービスによるものだったのかもしれない。きっと本人たちは絶対にそうは言わないだろうけれど、田中のマイクを通さない
「ありがとう」
という口の動きと、GRAPEVINEのタオルを掲げた観客を見つけて微笑んだ顔は確かにその思いを感じさせてくれたのだ。
てっきりこれで終わりかと思いきや、
「もう1曲やらせてくれ!」
と言って最後に演奏されたのはデビューミニアルバムの1曲目でありタイトル曲である「覚醒」。中堅の位置くらいのバンドであってもデビュー曲をライブで演奏するバンドはそうそういない。歴を重ねるほどに初期の曲を聴いたりサウンドを奏でるのは恥ずかしいものにもなるから。でもGRAPEVINEは22年目を迎えてもこうしてデビュー曲をライブで演奏しているし、それがとても22年前にリリースされた曲とは思えない。そのくらい前の曲を今の曲として響かせることができる力をGRAPEVINEは持っている。いつもと全く変わらないようでいて、やっぱりどこか特別な初の中野サンプラザワンマンだった。
先日対バンをしたマカロニえんぴつをはじめ、GRAPEVINEから影響を受けていることを公言するバンドは結構多い。Base Ball Bearも最新作の歌詞に名前を引用している。
しかしこうしてワンマンを見ていると、自分たちのやりたいことをやるというスタイルを最も受け継いでいるのは、やはりデビュー時からGRAPEVINEの名前を引き合いに出されることが多かったNICO Touches the Wallsであると思う。もちろん今お互いがやっていることは全く違うけれど、サウンドというよりも精神の部分でバインとNICOは今でも通じ合っていると思う。自分がNICOに出会ったのもバインが出演したイベントにまだド新人だったNICOも出演していたから。それだけにまたいつかこの2組の共演が見れたら、と思う。
アンコールでバンドが演奏している時に、自分は感動してしまっていた。それはその演奏や曲に感動したこともあるが、近年はフェスではアウェー感を感じることも多い、決してわかりやすいとは言えないこのバンドのライブをこれだけたくさんの人たちが今も見に来ていて、そうしたバインのスタイルを心から理解して歓迎しているから。きっとここにいた人たちはみんな人生の様々な場面でGRAPEVINEの曲が流れていて、このバンドとともに年齢を重ねてきたのだろう。そんな人たちの姿に感動してしまったのだ。その姿を見ていたら、自分もずっとこうしてこのバンドのライブを見ていたいと思った。ねぇ、僕の目を醒ましてくれ。
1.Chain
2.想うということ
3.ランチェロ’58
4.Glare
5.ソープオペラ
6.Shame
7.すべてのありふれた光
8.Scarlet A
9.COME ON
10.レアリスム婦人
11.Asteroids
12.豚の皿
13.SEA
14.楽園で遅い朝食
15.真昼の子供たち
16.BLUE BACK
17.指先
18.God only knows
19.Alright
20.Era
encore
21.スロウ
22.Arma
23.覚醒
文 ソノダマン