最後にライブハウスに行ったのが3月。年間130本以上ライブを観に行くような生活をしているため、1週間以上ライブがないだけで「最近ライブ行ってないな〜」と思うようになってしまったが、4ヶ月もライブに行かなかったというのはいつ以来だろうか。もしかしたら10年以上ぶりかもしれない。
それぞれのアーティストが配信ライブなどを行うようになった中、先日はthe telephonesでも無観客配信ライブを行った石毛輝のもう一つのバンドである、Yap!!!も配信ライブを開催。しかし今回は40人限定で観客を入れての有観客配信ライブである。
そもそもライブがなければ仕事以外に外出することもないわけで、電車に乗ってライブハウスに行くという感覚すらもどこか懐かしいというか、どこかワクワクしているかのようだ。だってこのライブが発表されて、行けることが決まってからはこのライブのことだけを楽しみにしてきたんだし、そうした感覚は配信ライブでは得られない。そうしたライブを楽しみにして日々を生きてきて、ということをこうしてライブに行くようになってから何年間もずっと繰り返してきたんだから。
会場の新代田FEVERに来たのは緊急事態宣言が出されて自粛が始まる直前の3月。その時と異なるのは会場に入る前に検温をし、紙に名前や住所などを事細かに情報を記入させられる。今この情勢でライブをやるには仕方ないところだろう。カウンター前のアルコール消毒がドラムのペダルを踏むと噴出されるという仕様なのはいかにもライブハウスである。
ライブハウス内はソーシャルディスタンスを保つために床に番号が書かれた札が貼ってあり、自分の番号の場所で見るというwithコロナなスタイル。「歓声NG 拍手OK」と書かれているが、番号で管理されて他の人との距離を確保させられるというのはさながら囚人になったような気分である。
Yap!!!といえば、7月2日の新宿MARZでのライブをもってベースの汐碇真也が脱退し、石毛輝と柿内宏介(ドラム)の2人体制での再スタートとなっているわけだが、今回は2人になってからの初ライブということで、どんな編成でのライブになるのかというところも注目であるが、ステージには上手にギター、アンプ、その他サンプラーのような機材など、明らかに石毛のものであり、下手には石毛の方を向くように設置されたドラムセットが。
ベースらしいセットがないだけに、ということは?と思っていると、やはりステージに現れたのは石毛と柿内の2人だけ。石毛は白いTシャツというtelephonesに比べると実にラフな出で立ちであり、柿内はかなり髭が濃くなっているが、最初から上半身裸であるというのがその髭面をさらにワイルドに感じさせる。
ステージ背面には「Yap!!!」のカラフルなバンドロゴが映し出されており、このライブが映像も使ったものになることがこの時点で察せられるが、実際に「Shrine」でライブが始まると、スクリーンに美しい映像が広がっていき、インストという歌詞がない曲の持つイメージをより鮮明にさせていくとともに、Yap!!!というバンドの音楽の幅広い可能性を感じさせる。これからこうして映像などに寄り添った音楽を生み出していくのかもしれない、と思うような。
ベースがいないだけに同期のサウンドも増えており、普通ならばベースがいなくなって、そこを同期に変えるというのは物足りなくなってしまいがちだ。スリーピースバンドとしてのリズム隊の2人のグルーヴがダンサブルな要素になっていたYap!!!ならば尚更そう思ってしまっても仕方がない。
でも実際に2人が演奏をしているのを見ると、そんな物足りなさは微塵も感じない。それは時には飛び跳ねながらギターを弾き、同期のサウンドに加えて映像も自身で操作するという、歌、ギター、同期、映像という1人4役のドラゴンボールの野沢雅子も凌駕するような石毛の執念すら感じさせるパフォーマンスと、柿内のさらに力強さを増したドラムがあるからこそだ。
汐碇脱退時のコメントで石毛は、今のYap!!!の作っている音楽がベーシストとしての楽しさを奪ってしまっている、とインストかつエレクトロな要素を強めてきている音楽性ゆえ、という理由を隠すことなく正直に発していたが、そうした、いわばソロでDJとしてやれる感じすらする音楽であっても、石毛がバンドであることにこだわっているのは、そうしたDJ的なイメージの強いダンスミュージックを、自分なりのやり方で進化させようとしているからなんだと思う。
それは、そうしたともすればあまり体温を感じないようなイメージのダンスミュージックに、どれだけ人間の感情を込められるか。熱量を乗せることができるかというもの。だからこそバンドでなくてはいけないし、ただリズムを刻むようなドラマーではなく、音源よりも強く激しいドラムを叩ける柿内でないといけない。このメンバーでバンドをやる意味を生のライブで見るとより感じることができる。
the telephonesとして日本のバンドとしてのダンスミュージックをそれまでよりも進化させ、ディスコという発明ワードを生み出した石毛輝は、同じダンスミュージックであっても違う方法論でそれを進化させようとしている。
それが自分が今やりたいことであり、その為にこのバンドで音楽を作っている。その姿勢は純粋な音楽ラバーそのものであるし、世界中のありとあらゆる音楽を聴いている石毛は今また世界中で自分にしか作れないような音楽を作っている。
その結晶と言えるのが昨年から始まった12ヶ月連続リリースであり、この日のライブは無事に12曲を世に送り出せたことによるレコ発的なライブである。
前述したようにインストのダンスミュージックをメインとしながらも、歌詞がスクリーンに映し出されていく「You are lonely, but not alone」は石毛のボーカルがメインと言ってもいいというか、石毛のハイトーンなボーカルは上手いボーカリストというタイプではないけれど、一瞬聞いただけで石毛のものであるとわかる記名性を持っている。それは久しぶりにこうして目の前で歌っている姿を見ると改めて実感できることであるし、そうして会うことができない時間が長かったからこそ、サビのタイトルフレーズは本当に滲みた。
ドラムの叩き出すビートに反応して体が動き、家でこんな音を出していたら確実に近所迷惑になって翌日苦情の紙が貼られるであろう音量で歌い、ギターを鳴らす。そこには生身の人間が発しているからこその温かさを確かに感じることができる。
だからこそ、この日「You are lonely, but not alone」というフレーズに体も心も震わされたのかもしれない。そのメッセージを込めた曲が、作った人の手によって自分の目の前で鳴らされている。当たり前のように感じてきて、慣れてしまっているようにもなっていたその感覚は、決して当たり前のものではなかった。この4ヶ月という期間はもしかしたら自分にとってはそうした目の前でライブを見ることの喜びのようなものを再確認するための期間だったのかもしれない。
しかしそんな期間にもYap!!!はさらに前へ前へとバンドとして進化を続けていたということがわかるのが、12ヶ月連続リリースを終えたばかりだというのにさらなる新曲を披露していたということである。
ボイスサンプルを駆使しながらも、途中からは石毛のボーカルが都会的な空気も感じるような曲にポップさを与えていく。まるで聴いている間は目の前のこと全てがスローモーションに映るかのような曲。今のYap!!!のフットワークの軽さを考えると、すぐに音源としても聴くことができるようになる気がしている。
まさに夢を見ているような心地にさせてくれるような「Dreaming」からは再び映像も駆使した12ヶ月連続リリースの曲を披露していくのだが、「Dreaming」の後に「Nightmare」というタイトルの曲を演奏するというのが実に洒落が効いているようでもあり、Yap!!!というバンドの持つ2面性がよく現れている。
「踊り続けよう、死ぬ日まで」
とタイトルを日本語にして演奏前に口にした「Dance until the day I die」はYap!!!の、そして石毛輝という人間の生き様をそのまま曲にしたかのようですらある。石毛はこの日来てくれた観客に
「来てくれた人も勇気を持って来てくれたと思う。本当にありがとう」
と言っていたが、こうしてこの世の中の状況であってもYap!!!のライブを観るためにこうしてライブハウスに来た人たちもまた、死ぬ日まで踊り続けることを覚悟してきている人たちだろう。
そんな人たちだからこそ、この曲あたりになるとソーシャルディスタンスを利用して自由に踊ったり、歓声NGであれどついついバンドへの声が漏れ出てしまうようになっていた。拍手するのはもちろん、バンドの演奏によって感情が昂ってしまえば、無意識にそれが行動として出てしまう。
2枚のアルバムをリリースした際のツアーでは観客が割と大人しくて石毛も困惑したりしていたが、人数制限なしで、普通の客席の状態で今のYap!!!がライブをやったらどうなるんだろう。きっと今までにないくらいの熱狂が生まれるはず。そういう意味でも、早く今まで通りのライブハウスの形で見れる、そのことを怖がったり後ろめたく感じたりしない世の中になって欲しいと心から思う。
そして流れるようにスムーズなライブだったためにあっという間のラストはEDMにはならないくらいに絶妙にアッパーかつメロディアスなシンセのフレーズが否が応でも踊らせる「246」。曲が終わったかと思いきやさらにもう一山迎えるような構成も、テンポをいきなり落としてからまた上げるようなアレンジも、柿内のドラムのリズムによって成り立っているところが本当に大きい。というかそのリズムにはサウンド自体はダンスミュージックであれど、まるでパンクのような衝動や肉体性が宿っている。Yap!!!の作る新しいダンスミュージックはライブでこそ完成する。そんな確信を得られて、思わず両腕を高く掲げていた。周りの人もみんな腕を上げていた。やっぱりライブを見ればちゃんと伝わる。そんなバンドのライブをライブハウスで観ることができる。そんなに幸せで、日々に希望や力を貰えることは自分の人生において他にない。
しかしながら「最後の曲」と言っていたのに2人ともステージから去ろうとしない。
「配信は今ので終わりなんだけど、ライブハウスに来てくれた人のためにもうちょっとやります」
というここからはアンコール的なものとはいえ、やっぱりこういうところは何よりも現場を大事にしてきた人ならではだよなぁと思う。
「あんまりダラダラ喋るようなバンドじゃないから(笑)」
と、MCをほとんど挟まないライブのスタイルもバンドの音楽性を踏まえてのものであることがわかるが、だからこそあまりMC慣れをしていないためか、柿内とライブのMCという場でのコミュニケーションは出来ているんだから出来てないんだかという感じ。演奏中のオーラみたいなものとは全く違う空気である。
こんな時間がまさにタイトル通りに永遠に、ずっと続けばいいのにと思うくらいに楽しくなる「Forever and ever」で石毛のボーカルも柿内のドラムもさらに熱く、激しくなる。
そしてラストに演奏されたのは「My name is…」。実にポップな、石毛輝というミュージシャンのメロディメーカーっぷりが実によくわかる、12ヶ月連続リリースの中で自分が最も好きな曲。でもライブになるとやっぱりそこにパンクさのようなものが宿る。石毛が柿内の名前をコールするとより激しく力強く手数も増えるドラム。サビでの
「Life is short
No regrets
But life is long
I wanna live with you
Live with you」
はまさに後悔しないようにこうしてライブに来ることを選び、そんな想いを掬ってくれるようなバンドと一緒にいたいという我々ファンの思いそのものである。作っていた時にそうした曲になることを想定していたのだろうか。それはわからないけれど、こうして会場に来てくれた人たちだけのために、ライブの最後の曲として演奏するということは、我々が歌詞から感じているメッセージを、メンバーやバンドに関わる人みんなが同じように感じているんじゃないかと思う。
最後に見てくれた人だけじゃなくて、バーカウンターにいるスタッフたちの方を向いて会場の新代田FEVERにも感謝を告げていたのが本当に石毛輝という男の人間性を示していた。
2日の新宿MARZでのライブは、3人での最後のライブを見せたいという意味での出演でもあったと思う。では今回なぜYap!!!はこうしてライブハウスからの配信を、有観客という形で開催したのか。
それはライブハウスへの感謝や支援という意味合いが強いのは間違いないが、なぜそうしてライブハウスのことを救おうとするのか。それは石毛がかつてライブハウスで働いていて、そこからバンドを始めたという、バンドをやる前からライブハウスで生きてきた人生の人間だからである。
今収入がなかったり、経営の危機を迎えていたり、悲しくもなくなってしまったライブハウスで生きている人たちのことを石毛はきっと誰よりもよくわかっている。そこで生きている人の中には、かつての石毛自身のように、学校や社会に馴染むことはできなくても、ライブハウスという場所でなら笑えたり、楽しいと思える人がいるということも。
つまり、ライブハウスを救うということはかつての石毛少年のような人間の居場所を守るためのことでもある。もちろんいろんな価値観や考えがある。でもやっぱりかつての自分みたいなやつに少しでも笑える場所や生きる希望を与えたい。使命感と言うほどではないかもしれないけれど、the telephonesが配信ライブをやったのも、こうしてYap!!!がライブをやるのも、根底にはそうした想いがあるのだと思っているし、そう思えるような石毛の発言を自分は何度となく目にしてきて、耳にしてきた。
だからこうしてライブハウスに実際に行って、その想いを感じることができて、最後は本当に泣きそうだった。石毛のバンドで泣いたのは1回だけ。かつてthe telephonesが活動休止を発表した、TOKYO DOME CITY HALLでのライブの時以来。それ以外は本当に楽しくて、泣くことなんてなかったから。
でもあの時とは泣きそうになった理由は全く真逆だ。こうしてライブハウスでまた会えたことが嬉しくて、ライブがない日々に慣れてしまいそうになっていても、やっぱり自分はカッコいいバンドの音を生で浴びると感動することができる。その感覚がこれからもどんなことがあっても失われることはない。それがわかったのが本当に嬉しかったのだ。やっぱり、どんな世の中でもライブに行くのはやめられないし、ライブをやろうというバンドやアーティストを支持して応援していきたい。その決断に救われている人が絶対にいるから。
the telephonesと出会ってから、石毛輝という音楽家には本当に貰いすぎというくらいにたくさんのものを貰ってきた。それはほぼ全部が形のないものだけれど、自分の中には確かに残っている。でもこの日貰ったものはこれまでで一番大きくて大事なものかもしれない。自分がいたいと思える、そのために日々を頑張ろうと思える場所に、また自分を連れてきてくれたのだから。久しぶりにライブハウスに戻れた日、それがYap!!!のライブで心から良かったと思ってるし、踊り続けて死ぬ日が来ても、この日のことは一生忘れない。
1.Shrine
2.Free up
3.Love From
4.Lovender
5.You are lonely, but not alone
6.新曲
7.Dreaming
8.Kudos
9.Nightmare
10.Dance until the day I die
11.246
encore
12.Forever and ever
13.My name is…
文 ソノダマン