配信でのシングルリリースを続けながら、今年は春のVIVA LA ROCK、さらには夏のROCK IN JAPAN FES.という大型フェスへの出演を果たした、秋山黄色。
まだフィジカルCDとしては1月のデビューミニアルバム「Hello my shoes」の1枚のみ、配信曲も3曲のみという持ち曲の少なさだけに、7月の主催ライブもFINLANDSとの2マンであり、この日が記念すべき初ワンマン。
すでにそのFINLANDSとの対バンの終演後の手売りでこの日のチケットはかなりの枚数が売れ、抽選では落選者が多発するというもはやこのO-Crestのキャパでは到底収まりきらない状況になってきているが、この会場は2月に「Hello my shoes」のリリースライブを行った思い入れの強い場所。それだけに初のワンマンはこの会場でなければならなかったのだろう。あの日よりもはるかに進化したことを自分自身でしっかり確認するために。
19時を少し過ぎた頃には完全に客席は超満員。このくらいのキャパの若手アーティストのライブだとメンバーと同年代の若い人が多くなりがちであり、確かにそういう人も多いのだが思った以上に幅広い客層の方々がおり、秋山黄色の音楽がいろんな方向に届いていることを実感する。
そんな中でSEが流れると、ギターの井手上誠(amazarashi、黒木渚など)、ベースのShnkuti(No gimmic classics)という両サイドの2人は7月の2マンとロッキンの時とは変わらないが、ドラムがBenthamの鈴木敬ではなくて片山タカズミに変わっていたのはスケジュールの都合なんだろうか。
その3人のメンバーとともに登場した秋山黄色は鮮やかな金髪なのは変わらないが、かつてないほどに髪がさっぱりとしており、これまでは長い前髪で前が見えねぇ、という某アーティストの負け犬な曲の歌詞を引用したくなるくらいに目が視認できない長さだったので、こんなにもしっかりと目が見える姿というのは新鮮に感じる。
そんなメンバーたちがそれぞれ楽器を手にすると、全員がドラムセットに向かい合うような形でイントロのキメを打つ「猿上がりシティーポップ」からスタート。秋山黄色の持ち曲の中でも最大のキラーチューンと言ってもいい曲であるが、この4人編成になって以降はオープニングを務めることが増えてきている。
秋山黄色は最初のサビ前で
「行くぞ!」
と言って観客の期待を一身に受け止めながら煽り、さらには曲中に
「楽しんでいこうぜ!」
とも。本人のテンションの高さ、この日を待ちわびていたことがそうした言葉の端々から感じられるが、やはりライブになると秋山黄色は叫ぶようにして歌ったりという、まるで動物のような(人間も動物と考えるならば当たり前のことだが)衝動を炸裂させていくのだが、その衝動や熱さは1曲目から客席に伝播していく。
というのも1月にこの場所でライブを見た時などはまだこんなに満員ではなかったし、人が少ないとついつい普通は盛り上がるのを遠慮してしまうのが人間であるし、まだデビューしたばかりのアーティストだとどうやってライブを楽しむのがこのアーティストのライブにおける正解なのかもわからない。なのでオルタナティブなギターロックや、曲によってはパンクの要素を強く感じるような性急な曲がある秋山黄色のライブでもこれまではステージ上のメンバーたちは実に激しいライブを展開しているのだけれども、客席は割と大人しく見ている、という形だったのだが、それはこの日でついにひっくり返った。
初っ端から腕は上がるし飛び跳ねるしで、ステージ上の熱量と客席の熱量がイコールで結ばれたかのよう。もちろん盛り上がれば良いライブかというとそういうわけではないけれど、きっと秋山黄色が望んでいたであろう景色がようやく見えるようになってきたのだろう。それは秋山黄色がこれまでに見てきたり聴いてきたアーティストたちがそうした景色を描いてきたからである。
5弦ベースを操るShnkutiならではの重い低音がバンドのサウンドを支える「やさぐれカイドー」といきなりキラーチューンを続けると、そのShnkutiは早くもステージ前まで出てきて指弾きでその5弦ベースを弾き、井手上はコーラスも務めるという、もはやサポートメンバーという位置を超えた貢献度を見せるのだが、スリーピース時代から秋山黄色のライブはこのメンバーだからこそ、というバンド感を強く感じさせてくれていたし、本人もよく
「みんなバンドやろうぜ!」
と言っていた。それはやはり本人もバンドへの憧れというものがあるのだろうし、だからこそ名義こそ1人であってもバンドという形態にこだわっているのだろう。そうした意識がライブでのメンバーの演奏を見ていると強く感じることができる。
「今日は本当に来てくれてありがとうございます!今年5曲入りのミニアルバム出して、配信で3曲出したから、まだ8曲しかないっていう、普通ならワンマンやらないですよ(笑)
だからみんなの知らない曲がガンガン出てきます(笑)」
と新曲を多数披露するであろうことを発表してワンマンという初めての機会への期待をさらに高まらせる(基本的に秋山黄色は今現在の残金ならぬ持ち曲の少なさゆえにライブでは音源化されていない曲をよくやるのだが)と、
「薄暗い部屋 今日も一人」
という孤独な心象風景を綴った「クラッカー・シャドー」を演奏するのだが、そんな曲ですらも観客はリズムに合わせて飛び跳ねまくるという盛り上がりっぷりを見せる。それもまたバンドの演奏あってこそであるというのがよくわかるくらいに片山の手数の多さと乾いたスネアの鳴りの強さは素晴らしいし、ギターを弾いていない時と弾いている時の情緒の落差が凄まじい井手上は完全にこのメンバーのバンマスと言ってもいい人物だし、とんでもなく面白い生き物であるのが見ていてよくわかる。
秋山黄色の発言通りにここからはまだ音源化されていない新曲も多数披露されるのだが、まずはライブでは何度か演奏されている、タイトル通りに過ぎ去っていく日常の何気ない風景を大事にしないといけないと思わされるストレートなギターロック「日々よ」を演奏するのだが、そこからは秋山黄色の持つアッパーではない側面の曲が続く。
思いっきり巻き舌で曲タイトルを紹介した「Drown in Twinkle」、ライブで聴くのは久しぶりな気がする「ドロシー」はともに「Hello my shoes」の収録曲であるが、この2曲をこうしてライブで聴いているとなぜ自分がこの日にチケットを持っていたフェスに参加するのを諦めてまで秋山黄色のワンマンに来ることを選んだのかというのがよくわかる。
それはやはり曲の良さである。まだ「Hello my shoes」を聴いた時はライブの力がどれほどのものなのかは全く分からなかった。実際にアルバムを聴いてからこうしてライブを見に行かないといけないと思ったのだが、そう思った最大の理由はアルバムに収録されている曲のクオリティが本当に高かったからであり、この2曲はそのメロディの素晴らしさとそこに絡む歌詞の「この音にはこの言葉しかない!」というハマりっぷりを最も感じさせてくれる。
「夢は叶えるものじゃなくて見るものだと思うんですよ。って言ったらONE OK ROCKに怒られそうだけど(笑)
俺は幼稚園の時は寿司屋になりたかったりしたんだけど、高校生の時に夢を全て諦めた。いや、諦めたんじゃなくて夢から覚めたのかもしれない。高校でも色々問題を起こしたり、進路で看護学校に行くって言ってまた問題を起こしたりしたけれど、そういう一つ一つが今の俺につながってるっていうことを考えたら無駄ではなかったなって」
と自身の夢へのスタンスであり生きるスタンスを口にしてから演奏されたのは最新シングルの「夕暮れに映して」。
「どんなに転んでいた思い出だって 俺なんだぜ」
という歌詞はMCで口にしていたこれまでの人生での経験全てが今の秋山黄色というアーティストに繋がっており、だからこそこうした音楽ができるということを感じさせてくれるが、7月のライブでは井手上がアコギを弾いていたのが、秋山黄色も井手上もエレキに変化している。それによってアコースティックな感触だったのが秋山黄色らしいオルタナティブなギターロックというイメージにも変化していたのはライブで演奏してきたことによる経験によるものだろう。
すると曲終わりでメンバーたちがステージから掃けていき、秋山黄色1人に。なんだなんだ?と思っているとアコギに持ち替えて弾き語りで「サツキの悩み」を演奏。このO-Crest主催のフェスである「MURO FES」に今年出演した際も弾き語りでの出演だったが、弾き語りという形態だと秋山黄色の原点というか、普段はこうして楽曲の礎を作っているんだろうなということがよくわかる。秋山黄色の歌声が本当に魅力的なものであるということも。
すると秋山黄色がアコギをかなりスパニッシュというか情熱的にかき鳴らし、そのリフをループさせてさらにそこに違うフレーズを重ねるというギタリストとしての秋山黄色を強く見せると、そのギターの演奏に片山が加わり、さらにその後にShunktiが加わり、そして最後に井手上が加わり…と一つの楽器が増えるごとにガラッとサウンドが変わっていく激しいセッションを展開していく。これもまたこのメンバーによるバンドだからこそということを感じさせてくれるが、そのまま新曲に突入していく。
その新曲はセッションの最初のアコギのリフを活かした情熱的なサウンドのものであり、赤い照明がそれを引き立てるのだが途中からはガラッと展開していき、真逆と言ってもいいような青い照明がメンバーを照らすとサウンドもそのイメージが似合うような色になるという全く油断できない曲。そこからは何かに合わせたりすることなく、自分の直感の赴くままに曲を作る秋山黄色のアーティストとしての本能を感じることができる。
さらに新曲は続く。秋山黄色が「はぐれメタル」というようなタイトルを口にしたように聞こえたこの新曲は秋山黄色らしいギターロックサウンドであるが、Cメロで
「歩く死人」
というワードが出てくるあたりは「クラッカー・シャドー」から連なる内省的な部分を感じさせるし、どんなに自分のいる位置が変わってもいわゆる陽キャラ的なものにはなれない秋山黄色の業を感じずにはいられない。
そうして新曲が続いたのを、
「みんなが知らない曲のオンパレードだ!」
と言っていた秋山黄色はしかしまだ世に出ていない曲をこうして自分のためだけに集まってくれたワンマンの観客の前で披露できるのが実に楽しいと感じさせるような言い方であった。
「流れの中で言ってしまうと軽く聞こえてしまうかもしれないけれど、本当に思ってます。来てくれてありがとうって」
と観客への感謝を改めて口にすると、
「O-Crestにもいつも本当にお世話になってます。MURO FESに俺みたいなのを出してくれたり。ここのブッキング担当の秋山さん…って俺も秋山だから紛らわしいんだけど、俺のベースが壊れた時にその人がベースを貸してくれて。今でも借りたままなんだけど、俺のベース最近直ったんですよ(笑)でもまだ返したくない(笑)」
と改めてこの会場への思いも語る。なぜここで初のワンマンをやろうと思ったのかというのがそこからはしっかりと伝わってきた。そして、
「何もいらないっていうつもりでいるのが大事なことなんじゃないかと思っている。レベル1のモンスターの可愛い顔みたいな感じで」
とサビの
「何もいらない 何もいらない 君がいないのなら」
というフレーズを引用するかのように演奏されたのはパンクな秋山黄色さが炸裂する「スライムライフ」。2月にこの会場で初めてライブを見た際はこの曲を1曲目に演奏していた。その時にそのパンクさに衝撃を受けただけにこの曲はライブでは毎回演奏するような大事な曲なんじゃないかと思っていたが、その後に同系統の曲がリリースされていくとともに、もしかしたらこの曲はだんだん新しい曲たちに役割を譲っていくのかもしれないとすら思っていた。
でもこの日の秋山黄色の言葉を聞くと、やはりこの曲は自身の中でも大切な曲なんだろうし、いつかリリースされるであろう新作(アルバム)の中で大事な位置を担う曲になるはず。初めて聴いた時は客席が棒立ちだったこの曲でみんなが楽しそうに飛び跳ねながら腕を上げている姿が改めてそう思わせてくれたのだ。
その後に演奏された新曲もかなり激しめの曲であり、これは明確にライブというものが作る時に頭の中に浮かんでいたのだと思う。自分が初めて「Hello my shoes」を聴いた時は1曲目の「やさぐれカイドー」のイメージ的にNUMBER GIRLの影響が強いと思っていたし、秋山黄色は現在ネクライトーキーのギタリストである朝日廉の使徒であるというくらいにリスペクトを表明しているが、それだけではない様々なアーティスト、それこそパンクバンドたちからも強い影響を受けているんじゃないかと思える。
そんなパンクな流れをさらに加速させるのは配信リリースされた「クソフラペチーノ」。千葉県民としてはこの曲のMVにどことなく既視感を覚えてしまうのだが、
「ナイフ ナイフ ライフ回復」
というフレーズのスカっぽいリズムや井手上のサビでのギターを抱えての大ジャンプも含めて今や完全にライブのキラーチューンになっているし、
「スタバに行ったって コーヒー飲んだって
お洒落なこととかできないんだ 僕だしな」
というおそらく今までに秋山黄色以外の誰も歌ったことがないであろう歌詞に最大限の共感を感じてしまう。それよりもコンビニで安酒を買ってしまうような人種だから。
そして最後に演奏されたのはやはりライブタイトルになっている「とうこうのはて」。秋山黄色はすべての力を振り絞るようにして思いっきりギターを鳴らしながら歌い、観客にも歌わせるのだが、途中で秋山黄色はギターを降ろしてマイクをスタンドから外し、それを持ってステージを動き回りながらサビで客席にマイクを向けた。いくら秋山黄色のライブが衝動的なものとはいえ、こんな姿は初めて見た。それは自分がギターを弾かなくても大丈夫だ、というメンバーへの信頼と、思いっきりこの曲を歌ってくれる観客への信頼によるもの。
とはいえ
「有限の青春から…」
とCメロを歌い始めると、
「ちょっと待って」
と言ってこのタイミングで水を飲み始める秋山黄色。いわくフリーターだから体力がないということだが、それをこのタイミングでやるというのはある意味凄いし、それにしっかりついていくメンバーたちも凄い。何よりもこの曲はこれから秋山黄色がもっと広い会場、もっとたくさんの人の前でライブをするようになった時にさらなる力を発揮する曲になるはず。現時点では過去最高の「とうこうのはて」だった。秋山黄色を見に来たっていう人がこれだけたくさんいるのはこの日が初めてだったのだから。
秋山黄色は基本的にアンコールをやらない。「夕暮れに映して」リリース時のMUSICAちにのインタビューでも言っていたが、本編で使い果たしてしまうだけにアンコールをやれる体力がないと。だから過去最長のライブとなったこの日もアンコールはやらないと思っていた。
しかし暗転したままの会場は何かこれまでとは違う空気を感じさせると、再びステージにメンバーが登場。2月のこの会場のライブでは秋山黄色だけが登場して挨拶だけして終わる、というものだったが、この日はメンバー全員で登場。ということは…と思っているとやはり、
「今日はアンコールやります!」
という秋山黄色の力強い言葉が。
「何が聴きたい?」
と一応は観客に問いかけてはいたが、間違いなくやる曲は決まっていたようで、
「じゃあ、今までにないくらいの「猿上がりシティーポップ」を!」
と言ってこの日2回目の「猿上がりシティーポップ」を演奏すべく、再びメンバーがドラムセットに向かい合うようにしてキメを打つのだが、
「あ、そうだ。今日みんなチケット取るの大変だったでしょ?だから追加公演やります!2月28日渋谷WWW、キャパ倍にしました!」
と曲中にいきなり発表してから「猿上がりシティーポップ」を演奏。
個人的にはもうQUATTROあたりを抑えてもいいと思っているのだが、そこは一歩ずつ階段を上がっていこうとしているのだろうか。それにしても今のところ東京での主催ライブはすべて渋谷だ。それはやはりこの曲で歌われる、
「look for city pop」
の「city」の部分は秋山黄色にとってはずっと渋谷のイメージなのだろう。いつかはO-EASTや、代々木体育館という渋谷の街の大きなステージへ。そこに立っている姿がハッキリと脳裏に浮かぶ。
「もう一度どこかで会えたらいいなって」
また2月にこの渋谷で。そしてその前に出るであろういろんなイベントで。一生一緒なんて思えるようになりたい存在なんだ。
このO-Crestではこれまでにブレイク前のタイミングで様々なバンドたちがワンマンを行っている。その時にはこの日の秋山黄色のようにだいたいこのキャパでは収まらないような存在になっていることが多いし、後に武道館やアリーナにまで進出しているそのアーティストたちがここで刻んだライブはどうしても「革命前夜」感を感じざるを得ない。
この日の秋山黄色のライブも紛れもなくそういうものだった。それに加えて、ライブを見ている時に「何もいらない 君がいないのなら」と思うくらいにその発する音に体だけでなく心を震わされていた。
「とうこうのはて」にはこんな景色や未来が待っていた。ここに至るまでのすべての日々や経験にはやはり意味があったのだ。秋山黄色も、我々も。
だから、忘れられない 忘れられない 忘れられないんだよ。きっと何年も後にたくさんの人が羨ましがるであろうこの日のライブのことを。
1.猿上がりシティーポップ
2.やさぐれカイドー
3.クラッカー・シャドー
4.日々よ
5.Drown in Twinkle
6.ドロシー
7.夕暮れに映して
8.サツキの悩み (弾き語り)
9.新曲
10.新曲
11.スライムライフ
12.新曲
13.クソフラペチーノ
14.とうこうのはて
encore
15.猿上がりシティーポップ
文 ソノダマン