THEATRE BROOKの佐藤タイジが主催する、太陽光のエネルギーで開催される野外フェス、中津川THE SOLAR BUDOKAN。
2013年から岐阜県中津川市の大きな公園で開催されているフェスであるが、昨年a flood of circleがステージのトリを務めたりという自分にとって実に魅力的なラインアップだったので千葉から長い時間をかけて足を運んだところ、今までに感じたことがないくらいに一回来ただけで「なんて素晴らしい場所、素晴らしいフェスなんだろうか」と感じただけに、今年も参加を即決して2日通し券を取ったのだが、初日に秋山黄色のワンマンが被ってしまったので今年も2日目のみの参加に。
当初、この日は天気予報が雨だった。太陽光発電のフェスなだけに雨なのはキツいな、と思いながら上着や雨具を準備して行ったのだが、中津川駅に着くと雨が降る気配がなく、駅からシャトルバスに乗って会場に着くと完全に腫れている。2012年から始まったこのフェスは全く雨が降ったことがないらしいが、雨予報で降らないだけならともかく、こんなに晴れて夏フェスらしくなるなんて、やっぱりこのフェスとこの会場は何か特別な力を持っているとしか思えない。
10:30〜 武藤昭平withウエノコウジ [REDEMPTION STAGE]
いわゆる開会宣言アクトとなるのが、武藤昭平withウエノコウジ。かねてからガンによって闘病していた武藤昭平がライブ復帰を果たしたのが去年のこのフェスのステージであるだけに、この日の始まりを告げる役割としては適任である。
武藤昭平とウエノコウジがステージの椅子に座ると、主催者である佐藤タイジも一緒にステージに登場。
「佐藤タイジにも歌ってもらおうと思って。でもタイジがギター弾くとめちゃ長くなるから歌うだけでお願いします(笑)それでは皆様、乾杯しましょう!」
とウエノコウジがthe HIATUSのライブなどでは想像もできないくらいの饒舌っぷりを見せるのはこのユニットならではであるが、乾杯の歌である「サルー 」で早くもステージ上は飲酒を開始する。
しかし「シンガポール急行」で早くも去年もこのユニットのライブに参加した佐々木亮介(a flood of circle)と藤井一彦(THE GROOVERS)を呼び込むと、ウエノコウジは亮介と藤井とともに朝4時まで駅前の魚民で飲んでいた、という衝撃の事実を打ち明ける。
「1軒目で飲んでたら追い出されて魚民に行ったんだけど、普通我々の歳で行くような店じゃないよ(笑)」
とウエノコウジのお喋りっぷりはとどまることを知らず、
「来年はTOSHI-LOWと3時間の持ち時間でトークライブで出る(笑)」
「俺たちが終わったらNothing’s Carved In Stoneが始まるんだけど、生形に「俺たちのライブが時間押してもライブ始めるんじゃないぞ」って言ってある(笑)」
と爆笑の連発。さらには「ウェイブ」を
「もうこの曲は武藤さんより亮介の方が歌ってるから、亮介にあげる(笑)」
と楽曲譲渡宣言まで飛び出す。
しかしながら亮介のみならず、武藤昭平もやはり去年よりはるかに歌えるようになっている。去年はまだ病み上がり感が凄かっただけにこの回復っぷりは本当に嬉しいし、本人の「絶対にまたステージに戻ってくる」という強い意志によるものも大きいのだろう。
そしてウエノコウジがアコースティックからエレキに持ち替えて演奏された「凡人賛歌」では前日に出演した、Dragon AshのダンサーのATSUSHIもステージに登場して華麗な舞を見せる。開会宣言アクトと言うにはあまりに豪華過ぎるコラボはこうした特別なライブが毎年多数行われてきたこのフェスを象徴しているようだったし、それは去年のこのユニットのライブも間違いなくそういうものだった。
1.サルー w/ 佐藤タイジ
2.シンガポール急行 w/ 佐々木亮介、藤井一彦
3.ウェイブ w/ 佐々木亮介、藤井一彦
4.凡人賛歌 w/ 佐々木亮介、藤井一彦、ATSUSHI
11:00〜 Nothing’s Carved In Stone [Revolution STAGE]
メインステージであるRevolution STAGEのトップバッターはNothing’s Carved In Stone。ベースのひなっちは9月の終わりになってもこのバンドやストレイテナーでフル稼動。土日で何ステージこなしているんだろうかと思ってしまうくらいに。
メンバーが登場すると、生形真一のギターがこの日の始まりを鳴らし、ひなっちと大喜多崇規(ドラム)のリズム隊もバチバチに絡み合う、10年前にこのバンドの誕生を告げた「Isolation」からスタート。村松拓(ボーカル&ギター)は
「Now is everything」
のフレーズをかつてのように叫ぶのではなく観客に委ねていた。
しかし本当にこのフェスは音が良い。太陽光発電だから音が良いと言うとちょっとオカルトっぽくなってしまうし、それ以外の発電方法を支持している人からバカにされそうであるけれど、実際に会場に来て自分の耳で聞くと本当によくわかる。各楽器の音のクリアさはこのバンドの複雑かつ激しい演奏をしっかりと聴き取ることができる。時には聞き取りにくい時もある村松のボーカルも含めて。今まで行った野外フェスでこんなに音が良い場所はほかになかったし、その音の良さがこのバンドのそもそものライブの良さをさらに押し上げる要素になっている。
9月24日に新作アルバム「By Your Side」をリリースしたばかりという状況であるだけに、その収録曲を早くも演奏するのだろうか、というのもこの日のポイントであるが、やはりそこから新曲を演奏。1曲目に収録されている「Who Is」を披露したのだが、
「Who is the hero?」
と問いかける歌詞はこのバンドを追い続けてきた人たちにとっては間違いなくこのバンドがヒーローである、という意味でも「By Your Side」というタイトルのアルバムの1曲目に実にふさわしい曲である。
村松が何度も出演しているこのフェスが本当にずっと晴れていることに驚きを見せながら、その村松の日本語歌詞がバンドの強い意志と信念となって聞こえてくる「Pride」から、「In Future」では村松がハンドマイクでステージを左右に歩き回りながら歌うのだが、その際にひなっちと密着し、ひなっちは膝立ちになることで顔が村松の股間と密着しているように見えるというなんともエロさを感じずにはいられないような展開に。これはみんなそう思っているのかが気になって仕方がない。
そんなこともありながらも、生形の刻むギターサウンドが心地良い、ダンサブルなリズムの「Out of Control」では村松による
「ダンスタイム!」
という言葉とともに間奏部分で観客は踊りまくる。決してわかりやすいというか単純なリズムではないが、それだけにこのバンドの曲で踊れるのは楽しい。
そしてラストはひなっちが本当に楽しそうな表情でベースを弾く、個人的にこのバンド屈指の名曲だと思っている「Shimmer Song」。
「誰だってそうだろう 孤独な夜を越え
夢見て傷ついて でも前を見る」
という歌詞はそれぞれいろんなことがありながらもこうしてこのフェスに集まった人たちへの強いメッセージのように響いたし、達人級の演奏の巧さを持つ4人だからというのもありながら、こうしたメロディが際立った曲を作れるというのがこのバンドが10年以上も最前線を走り続けている理由だと思う。
去年、このフェスに初めて来た時のトップバッターはヤバイTシャツ屋さんだった。その時に音も含めたこのフェスのあまりの素晴らしさに感動してしまっていきなり泣きそうになってしまったのだが、やはり今年もトップバッターのライブを見ていたら感動してしまった。また今年もこうしてこのフェスに来れてライブを観れているということに。それがこのバンドで良かったと思う。
1.Isolation
2.Spirit Inspiration
3.Brotherhood
4.Who Is
5.Pride
6.In Future
7.Out of Control
8.Shimmer Song
12:00〜 go! go! vanillas [REDEMPTION STAGE]
昨年に続いての出演となる、go! go! vanillas。REDEMPTION STAGEなのも昨年と変わらないが、唯一違うのは今年はプリティ不在の3人でのライブであるということ。
「We are go!」のSEで3人がステージに登場すると、柳沢進太郎(ギター)だけでなく牧達弥(ボーカル&ギター)も鮮やかな金髪になり、ジェットセイヤはサングラスをかけているのはいつも通りであるが、髪色が青くなっているという見た目の変化もある中、いきなりのカウントがメンバーだけでなく客席からも響く「エマ」でスタートし、さらに様々なサウンドを取り入れながらもこのバンドが掲げるロックンロールの魔法にかけるような「マジック」とバンドの持つキラーチューンを連発。ジェットセイヤは早くもほとんどの時間で立ったままドラムをぶっ叩きまくっているが、プリティの演奏するベースの音が流れているだけにステージ上こそ3人であるが、4人での音でライブをしているという感覚になる。
牧によるタイトルフレーズの連呼のリズムが小気味いい「チェンジユアワールド」ではその牧が歌いながらステージを飛び降りて客席最前の柵に登って歌う。それは去年も見た記憶がある光景であるが、牧本人もそれを覚えていたのだろうか。セイヤは何本予備があるんだろうか、というくらいにドラムを叩きながらスティックを放り投げまくっている。
令和へと時代が変わっても平成生まれであるメンバーや同年代の人間のアンセムであり続ける「平成ペイン」から、柳沢によるコール&レスポンスではプリティの帰還を願ってプリティの名前をコール&レスポンスする「カウンターアクション」へと続くのだが、柳沢が
「この3人でのライブは今回が最後だから!」
と口にしたことによって客席には「え!?」という空気が流れる。曲終わりでは牧がMCで改めて
「さっき進太郎も言ったけど、今日で3人でやるライブは最後です。なんでも最後って言うとなんだか寂しい気持ちになるけどね。このフェスも今日で終わっちゃうし、夏フェスだってもう終わっちゃうしね。でも来年はこのフェスに4人で帰ってきたい。俺たちツアーもやるから。ここからだと名古屋かな。またそこで、4人で会いましょう!」
とついにプリティの復帰が決まったことを告げると当然のように客席から大歓声が。このフェスがこの編成での最後のライブとなったのは完全にたまたまそういうタイミングだったからであるが、それでも去年の武藤昭平の復活などを見ていると、このフェスがバンドにとって重要な終わりと始まりの日になるというのは決して偶然ではないような気がする。
そんな「デスからアゲイン」がまさに現実のものとして見えてきたロックンロール「No.999」から、ラストは牧が
「ドラマチックな人生を!」
と観客に言ってから演奏された「パラノーマルワンダーワールド」。「ドラマチックな人生」というのは図らずもこのバンドの歩みそのものになってしまった。でもそれは戻ってくるという喜びがあるから。おそらく最もドラマチックな瞬間になるであろうプリティの復帰の瞬間。3人でのライブを春から夏にかけて見まくってきただけに、そこに居合わせることができたら、と思う。そしてまた来年は4人でこのフェスや、様々な場所で会えるように。
リハ.バイリンガール
1.エマ
2.マジック
3.チェンジユアワールド
4.平成ペイン
5.カウンターアクション
6.No.999
7.パラノーマルワンダーワールド
12:50〜 THE BACK HORN [Revolution STAGE]
この日のメインステージであるRevolution STAGEには2000年代から今に至るまで最前線で戦い続けているギターロックバンドたち(Nothing’s Carved In Stoneも各々のキャリアを見ればそういうバンドだ)が居並ぶタイムテーブルになっているが、その中に属するTHE BACK HORNは今回がまだ2回目の出演であるが、どこかそうは思えないというかすでに常連感が出ているのはそのラインアップの並びによるものだろうか。
おなじみの荘厳なSEでメンバーたちが登場すると、菅波栄純によるこのバンドらしい和の要素を強く感じさせるギターリフが響く「声」からスタート。髪がさっぱりしてより一層年齢を感じさせない若々しさになった山田将司も早くもステージを激しく動き回り、観客を煽るようにして歌う。
栄純のリフがさらに迫力を増すのが早くも演奏された「コバルトブルー」で客席側も早くもダイバーが続出していく。この景色は年数を経ても全く変わらないどころか、うねりまくりながらも全身を使って観客を煽るような岡峰光舟のベースと、MCは相変わらず全く上手くならないがドラムの迫力はさらに増している松田晋二によるリズム隊の力も大きいと思う。
「神様だらけの」「スナック!」
というこの曲が存在しなければ一生やることはなかったであろう合唱が響く不穏なサウンドと歌詞の「コワレモノ」はこのバンドが表現してきたダークかつ人間の醜い内面を抉るような部分が今なお変わっていないことを感じさせるが、現状の最新曲である「心臓が止まるまでは」は大胆に同期のサウンドを使った、バンドにとっての新境地とも言える曲であり、その同期のサウンドがこのバンドの曲が持っているスケールの大きさをさらに広げている。
岡峰によるベースのイントロが鳴ると歓声が上がったのはこのバンド屈指の名バラード「美しい名前」。近年はフェスでもだいたいやっているし、その度に歓声が上がるのだが、ふと気付いたのは、もしかしたらこのフェスに来る人には初めてこの曲をライブで聴いたという人もたくさんいるんじゃないかということ。ライブを観れる機会がたくさんある関東にいるという忘れてしまいそうになるが、この曲はそもそもそうした「ライブが観れることは当たり前ではないということ」や「生きていることは当たり前のことではない」ということを歌っている。
松田によるこのフェスへの感謝と、10月23日にリリースされる4年ぶりのフルアルバム「カルペ・ディエム」の告知を口にしてから(4年も空いた感じは全くないけど)、そのアルバムから先行配信されている新曲「太陽の花」を披露。
そのタイトルがどうしたってまるで太陽光エネルギーで発電されているこのフェスのための曲のように感じられるが、「心臓が止まるまでは」と同様に大胆に同期のサウンドを取り入れている。もしかしたらアルバム自体がそうした着想の元に作られたものなのかもしれないが、すでにベテランと呼ばれてもいいような立ち位置の存在になっても今までやったことのないことに挑戦して、THE BACK HORNらしさは失わないままで進化していこうとしている。足踏みをすることはせずに、ひたすらこのバンドは前へ、光の方へ歩き続けている。
そしてクライマックスは「シンフォニア」から「刃」へという近年の最強の締めコンボ。将司はステージ両サイドの鉄骨の中に入り込むようにしながら歌い、「刃」のサビ前には光舟がお立ち台の上に立って大きく手を広げる。こうして集まってくれた人たちの想いを受け止めるかのように。最後には勇壮なコーラスが響き、THE BACK HORNの生き様をこの地に刻むかのようであった。
「心臓が止まるまでは」を初めてライブで聴いた時はかなりビックリした。THE BACK HORNは基本的には4人だけの音でライブをやってきたバンドだからだ。(ストリングスの音を同期で入れた曲もあったけれど)
しかしTHE BACK HORNらしさを自分たちで狭めることなく、自分たちの生み出した曲を最も適したアレンジで届けるために新たな挑戦をしていく。そしてそれがファンをガッカリさせるどころか、さらにワクワクさせてくれる。20年を超えてもこれからがなおも楽しみなバンドだ。
1.声
2.コバルトブルー
3.コワレモノ
4.心臓が止まるまでは
5.美しい名前
6.太陽の花
7.シンフォニア
8.刃
13:50〜 a flood of circle [REDEMPTION STAGE]
昨年はREALIZE STAGEのトリを務めた、a flood of circle。すでに佐々木亮介はこの日のトップバッターである武藤昭平withウエノコウジのライブにゲスト出演しているどころか、前日の東北ライブハウス大作戦ステージにも出演しており、もはやこのフェスの主催者と言っていいレベルの稼働っぷりで、この日はさらに夜にSHIKABANEとしても出演する中で今年はフラッド本隊は昼の時間に出演。
亮介が黒の革ジャンであるのを先頭に、リハではサングラスをかけていた青木テツ(ギター)と渡邊一丘(ドラム)も黒シャツ、HISAYO(ベース)も黒ドレスという黒で統一された衣装でメンバーが登場すると、このフェスでの定番曲である「Summertime Blues II」でスタート。
「忌野清志郎より婆ちゃんに教わったんだ
「核などいらねー」彼女の心はそれきり変わっちゃいない 1945年夏」
という歌詞がこのフェスでこの曲を毎回演奏する意味を示しているし、誰に何をどう言われようとも自身の意志を貫き通すというところに亮介らしさを強く感じる。佐藤タイジも亮介のこういうところが好きでこのフェスに毎年呼んでくれているんじゃないかと思う。
テツのギターが熱狂を生み出す「The Beautiful Monkeys」、アウトロではテツに続いて亮介も
「ギター、俺!」
と言ってギターソロを弾いたりという「Dancing Zombiez」とフェスでもおなじみの曲が続くと、亮介が客席には突入しないもののハンドマイクで自由に動き回りながら歌い、コーラス部分ではテツとともに一本のマイクで歌う「Black Eye Blues」というフェスでは最近はやっていなかった曲ができるのは持ち時間が多少長めなこのフェスだからだろうか。
亮介がテツに曲フリを振ったのはその曲「Lucky Lucky」がテツが手がけた新曲だからであるが、まだリリースされていない曲とは思えない盛り上がりっぷりはテツがボーカルを務めるパートがあるからというだけではなく、この曲のパンクと言っていいくらいのサウンドの即効性の高さと、何よりもこのバンドがこのフェス、この場所で積み上げてきたものがあるからだろう。
「中津川のみなさん、テンションが…低いんじゃないですか!」
と亮介が煽ると、一丘とHISAYOがコーラスを務めながら、テツが振り切ったハイテンションっぷりで叫びまくる「ハイテンションソング」へ。もう完全にここでのバンドの演奏は極まっている感じすらする。
というのも先月の新宿LOFTでの「BUFFALO SOUL」と「PARADOX PARADE」の再現ライブの時は亮介は喉の調子があまり良くないというか、明らかに声が出ていなかった。それが朝4時まで飲んでいたとは思えないくらいにこの日は声が出ていた。やはり亮介の声というのはそれだけで我々の景色を塗り替えてくれるものであるだけに、その調子によってライブの印象というのはかなり変わってくる。そういう意味でもこの日は文句のつけようがないレベルだった。
「ただいま、中津川。このフェスに来るといつだって俺たちはまだまだイケるって思えるんだよ」
と短いながらもこのフェスがバンドにとってどこよりも特別な場所であることを亮介は語る。周りに無理だって言われながらも続けてきた佐藤タイジの姿や、このフェスの歴史をその目で見てきたからであろう。
だからこそこの日は大合唱が起きた、
「俺たちとあんたらの明日に捧げる!」
と言って演奏された「シーガル」では終わらなかった。ここが世界の中心であるということを歌った「Center Of The Earth」を最後に演奏した。
「まともじゃなくても 大好きだよ」
という歌詞はこのフェスに携わる、決してまともじゃない人たちに向けて歌われているかのようだったし、この曲が演奏されている時は本当にここが世界の中心なんじゃないかと思える。今年屈指の名盤アルバムである「CENTER OF THE EARTH」のタイトル曲がこんなにも似合う場所はもしかしたらツアー中にもなかったかもしれない。今、フラッドが最も輝ける、求められているフェスは間違いなくここだ。だから亮介は地元でもなんでもないこの場所に、
「ただいま」
って言うようになったのだ。
去年、フラッドがトリをやるからというのが1番大きな決め手となって、自分はこのフェスに来た。そうしたらフラッドのライブ以外にも本当に全てが素晴らしくて、「こんなに良いフェスが日本にあったのか」と思った。フラッドが自分をここに連れてきてくれて、自分の人生において大事な場所を作ってくれた。
そして何よりもフラッドのライブが素晴らしくて、それだけでも来て良かったと思えた。今のフラッドに大事な部分や長い時間を任せてくれるフェスはそんなに多くはない。でもこのフェスはそういうフェスだ。今年もここで見るフラッドは本当に最高だった。来年はどんなライブを見せてくれるんだろうか。一つだけわかるのは今年がそうだったように、来年もこのバンドがベストを更新するということ。泣けるほど笑える日々をくれてありがとう。
リハ.ベストライド
1.Summertime Blues II
2.The Beautiful Monkeys
3.Dancing Zombiez
4.Black Eye Blues
5.Lucky Lucky
6.ハイテンションソング
7.シーガル
8.Center Of The Earth
14:40〜 ストレイテナー [Revolution STAGE]
今年も昨年に続いてのRevolution STAGEへの出演で、今年はホリエアツシ(ボーカル&ギター)が前日にACIDMAN・大木伸夫、THE BACK HORN・山田将司とのROCKIN’ QUARTET 中津川SPECIALとしても出演しており、このフェスにおいても存在の大きさは増しているストレイテナー。
おなじみのSEでメンバーがステージに登場すると、衣装はNothing’s Carved In Stoneの時とは変わっているが、その客席に向ける笑顔は全く変わらないひなっち(ベース)、結んだ長い髪をなびかせながらその場でぐるっと回るようにしてギターを弾く大山純、鮮やかな金髪であるが髪型自体はさっぱりとしていて若く見えるナカヤマシンペイ(ドラム)、そしてギターを持ったホリエがセッション的な演奏を始めると、そのまま「DONKEY BOOGIE DODO」のイントロにつながり、ゆるやかに観客も体を揺らしながら、
「僕らは歌い踊ろう 中津川ソーラーで!」
と歌詞を変えてホリエが歌って大きな歓声を浴びる。
「DONKEY〜」は今年の夏フェスで久々にセトリに復活してきた曲であるが、今年は各地のフェスで懐かしい曲をセトリに入れており、それは続く「Tornade Surfer」(「Dear Deadman」収録)もそんな1曲。竜巻が起こるような天候では全くないが、おそらくはたくさんの参加者たちがいろんな場所からここへ集まった「旅人」であろうだけに、実にこの場所によく似合う選曲だ。
とはいえ冒頭の2曲はサウンド的にはやや渋めと言っていいもので、それを一気にロックに振り切るのは「From Noon Till Dawn」と、ホリエが「エモい曲」と紹介した「タイムリープ」。しかし過去曲たちを聴いても思うところであるが、ホリエは年齢を重ねるごとに歌が上手くなっている。高音のキレイさは若い頃は間違いなく出せなかったもの。もちろんその分衝動というか、若さゆえの勢いみたいなものはなくなってきているが、このボーカル力の大幅な向上っぷりはこれからさらにいろんなタイプの曲をストレイテナーでやる上で必要不可欠なものになるはずだ。そうしたものがこのフェス特有の音の良さで実によくわかる。
昼過ぎと言っていいようなこの時間帯、会場はこの日1番と言っていいような日光が照りつける暑さになっており、ホリエも
「夏フェスやんけ(笑)」
とおそらく涼しくなると思ってかジャケットを着用しているのがかなり暑そうな様子。
そんな中でひなっちのゴリゴリのベースとデジタルサウンドの融合がストレイテナーにしかできないロックとなる「DAY TO DAY」から、
「ストレイテナー、今年もたくさん夏フェスに出ましたけど、今日が今年最後です。北海道のライジングサンは台風で中止になっちゃったけれど、中津川とライジングサンは太陽のフェスだと思っているんで、ライジングサンでやるはずだった太陽の曲をやります」
と言って演奏されたのは「クラッシュ」。え?太陽の曲って他にも色々ある感じがするけどこれなの?というような空気も客席からは醸し出されるが、久しぶりにこの曲を聴けたのは嬉しかったところである。
それこそある意味では嵐が吹き荒れたあと、それこそ台風一過のごとき太陽の存在を想像することができる「Melodic Storm」で大合唱を巻き起こすと、今年野外で聴けるのは最後になる「シーグラス」の、
「今年最後の海へ向かう 夕焼けが白いシャツを染める」
というサビのフレーズが海ではなくてどちらかといえば山と言えるような場所であるけれども、否が応でも夏の終わりを実感させるエモーションを放出していくと、
「また俺たち必ず中津川に来るから。来月にはアジカンとELLEGARDENとのツアーで名古屋にも来ます。そこでは我々がトリを務めます。是非応援しに来てください!」
と東海地区での再会を約束したが、行きたくてもその3マンツアーはチケットが全く当たらないという人が続出していて応援したくてもいけないのが現実である。
そんな中で最後に演奏されたのは「スパイラル」。
「自分の場所など ないと思ってた
夢みたい でも夢じゃないんだね」
というフレーズがストレイテナーにとってのこの場所をはじめとした色んな場所のステージのことのように響くと、演奏を終えた4人はいつものようにステージ前に並んで肩を組んでから頭を下げた。
かつてはライブごとにガラッとセトリを変えていたこのバンドも近年は軸となる曲を固めるようになってきている。それでもこうして「この曲をやるとは!」と思うような曲をフェスで聴けるのは嬉しいことだし、まだ3人時代だった曲でもあるのに今のバンドのものとして鳴っている。アジカンやエルレに比べたらストレイテナーは変化しながら続いてきたバンドだ。(最初は2人だったわけだし)
なかなか続いているバンドでもこのバンドみたいに良い方向にのみ変化しながら全く止まることなく続いているというバンドはいないし、アジカンやエルレに比べたらシーンを変えたというくらいに派手な存在ではないけれど、またその3バンドで集まれるのはこのバンドがそうして自分たちなりのフォームで走り続けてきたからだ。
1.DONKEY BOOGIE DODO
2.Tornade Surfer
3.From Noon Till Dawn
4.タイムリープ
5.DAY TO DAY
6.クラッシュ
7.Melodic Storm
8.シーグラス
9.スパイラル
15:40〜 THE BAWDIES [REDEMPTION STAGE]
それこそTHE BACK HORNやストレイテナーという20年を超えたバンドたちがこの日のRevolution STAGEには居並んでいるが、その下の世代のバンドたちが並ぶREDEMPTION STAGE。go! go! vanillas、a flood of circleという完全に主催者側が狙っていたというか考えてタイムテーブルを組んだであろうロックンロールなこのステージの流れで出てくるのがTHE BAWDIES。2年ぶりの出演である。
「試食タイム」と言うにはあまりに本菜過ぎる「LEMONADE」「NO WAY」をサウンドチェックでがっつり演奏して、
「試食ばっかりしてたらスーパーで嫌われますからね!」
と実に上手いことを言って本編への期待を煽っていくROY(ボーカル&ベース)であるが、今月中旬の千葉LOOKでのSIX LOUNGEとの対バンのタイミングで新調した、淡いブラウンのスーツに身を包んだ4人が「ダンス天国」のSEで登場すると、なんといきなりの「KEEP ON ROCKIN’」からスタートするという先制攻撃っぷり。なのでおなじみの小さいところから徐々に大きくしていくというコール&レスポンスも行われるのだが、観客のレスポンスが振り切れていないから一回止めてやり直す…といういつも最後に演奏する時にやる流れは簡略化されている。
ROYの不調しらずの超ロングシャウトが響く「IT’S TOO LATE」から、最新の配信曲「LET’S GO BACK」はすでに合唱が起きるライブアンセムとして定着してきている。とはいえフィジカルCDが出るまでは聞かないという人もいると思われるので、この曲のポテンシャルはアルバムリリース後にさらに発揮されるような予感がする。
しかしながらまだまだ暑いこの時間帯。メンバーは当然フルにスーツを着こなしているので、ROYはたまらず
「あー!暑い!やっぱり長袖は無理だ!」
とギブアップ宣言しながらもロックンロールバンドとしてスーツを着続けている。9月半ばならばもう時期的に大丈夫であろうというスーツの新調だったと思われるが、まさかこの時期の野外がこんなに暑いとは思っていなかったのだろう。
そんな暑さを少し和らげるように演奏されたのは「HAPPY RAYS」から「KEEP YOU HAPPY」というHAPPYソングの2連発。こうしたフェスというピースフルな場所で「KEEP YOU HAPPY」を聴けるというのは実に幸せなことだし、このフェスの持つ空気はほかのフェスよりもそういう空気に満ちている。
そして再三触れている野外フェスでは屈指の音の良さはこのバンドのライブにも大きなプラス要素になっている。去年、The Birthdayをこのフェスで見た時に、シンプルなロックンロールのサウンドだからこそ一つ一つの音がしっかりと力強く鳴っていて、ライブを見ていて感動してしまったのだが、THE BAWDIESも紛れもなくそうである。この音の良さはもしかしたらロックンロールバンドたちにとってもともと持つライブだからこその本領発揮感をさらに引き出してくれるものなのかもしれない。
「初めて我々のことを見る方々がびっくりするといけないので、我々は「HOT DOG」という曲の準備に入ります」
と言って始まったこの日の「HOT DOG劇場」は久しぶりのスターウォーズ。
ROY=ルーク
TAXMAN=ダース・ベイダー
JIM=ヨーダ
MARCY=C3PO
という配役で、タオルをマント代わりにして声真似を見せるJIMよりも、セリフ棒読みのMARCYによって大爆笑が起こるが、ROYはMARCYが投げたコッペパンを落としてしまってやり直すという珍しい事態に。
JIMがはしゃぎまくりながらギターを弾く「HOT DOG」から、11月にリリースされる最新アルバム収録の新曲「BLUES GOD」と続けると、そのアルバムをROYは
「今までで1番良い自信がある」
と言った。だからこそこうしてライブでアルバムに入る新曲を演奏しているんだろうし、新曲お披露目ツアーまで行ったのだろう。しかし
「ツアーもやります。岐阜はちょっとないんで、名古屋にきてもらって…」
と正直さを隠せないROYであった。
そして「SING YOUR SONG」で再び振り切ったコール&レスポンスを展開すると、最後に演奏されたのは打ち上げ花火のように飛び跳ねまくる「JUST BE COOL」。演奏後にはTAXMANがお祭り法被を着たがこの日はわっしょいはなし。それでも確かにこの中津川の地にロックンロールを刻みつけたのだった。
主催者である佐藤タイジはソウルやブルースの影響が強いミュージシャンであり、そういう面ではROYとは趣向が合う存在と言っていいだろう。で、それだけでなく今回のTHE BAWDIESのライブはロックンロールというサウンドがこのフェスの持つ音の良さと相性が抜群であるということも証明した。それだけに来年以降もずっとこの場所で見たいと思える。
リハ.LEMONADE
リハ.NO WAY
1.KEEP ON ROCKIN’
2.IT’S TOO LATE
3.LET’S GO BACK
4.HAPPY RAYS
5.KEEP YOU HAPPY
6.HOT DOG
7.BLUES GOD
8.SING YOUR SONG
9.JUST BE COOL
16:40〜 真心ブラザーズ [RESPECT STAGE]
このフェスはやはり地方のフェスらしく、なかなか普段の関東圏のフェスでは見ないような飲食店もブースにたくさん並んでいる。名古屋名物料理や岐阜の恵那地方の唐揚げなど、そうしたものは見るだけで楽しいが、中津川の地酒5種飲み比べみたいなのもやっていて、見事に正解した自分は一升瓶をプレゼントされたことによって朝から日本酒を飲みまくっていた。
そうして酒ばっかり飲んでいたので、ライブを見まくっていたら空腹に耐えかね、このタイミングでフェス飯を食べていたらその間に真心ブラザーズのライブが始まっていた。
笑顔のベーシスト岡部晴彦、あらゆるアーティストのサポートを務めるドラマー玉田豊夢とYO-KING(ボーカル&ギター)、桜井秀俊(ギター)という4人編成であるが、着いたらいきなりうつみようこがコーラスを務める「サティスファクション」を演奏中。ここまで見てきたのが爆音のロックバンドたちばかりなので真心ブラザーズのフォークを中心とした(このユニットはテレビの「勝ち抜きフォーク合戦」という企画からデビューしている)ポップなサウンドは良い意味で渋みとユルさを感じさせてくれる。後者に関しては2人の人間性によるものかもしれないけれど。
「空にまいあがれ」という名曲に続いて、桜井がメインボーカルの独特の斜め目線なラブソング「今しかない後がない」、さらには
「ハナゲが出ているよなんて 言えないよ 可愛い君に」
という超絶的にシュールな歌詞の「恋する二人の浮き沈み」と、これをフェスでやるのか?と思ってしまうような楽曲を演奏していくのだが、間違いなく真心ブラザーズでないと世に生まれようがない曲であるということを考えるとむしろフェスでこそ真っ当な名曲サイドの曲ではない自分たちらしさを見せるためにやるべき曲なのかもしれない。
メンバー紹介をしてからの「どか〜ん」は今なお高校野球の応援でも使われているだけに抜群のリアクションを観客も見せていたが、それ以上に歓声が凄かったのが再びうつみようこをコーラスに招いての「サマーヌード」。夏の終わりに聴くこの曲はどうしてもしんみりしてしまうし、うつみようこのソウルフルなコーラスもそれを煽ってくる。そんな中で明らかにいつもより音数を多くするアドリブを岡部が見せるとメンバー全員が「やるね〜!」という感じで笑顔で向かい合うあたりも長年共にライブを行ってきたからこそのグルーヴを感じさせる。
そして終盤はロック度が高い曲を続けるのだが、タイトル通りにスピード感溢れる「スピード」もじっくりとしたフォーク的なアレンジに。それがこのフェスの持つ空気に実によく似合っていたのだが、YO-KINGはちょくちょく演奏中に腕時計を見ていたにもかかわらず時間が押してしまっていたので曲の終わりを待たずに移動することに。もしかしたら最後まで見てからでも間に合ったのかもしれないけれど。
1.サティスファクション w/ うつみようこ
2.空にまいあがれ
3.今しかない後がない
4.恋する二人の浮き沈み
5.FLYING BABY
6.どか〜ん
7.サマーヌード w/ うつみようこ
8.明日はどっちだ!
9.スピード
17:30〜 9mm Parabellum Bullet [REDEMPTION STAGE]
周りのバンドたちがよく出演しているフェスなだけに勘違いしてしまいそうになるが、このフェスには初出演となる9mm。翌週には2マンライブを行うTHE BAWDIESから同じステージのバトンを渡されるという順番も本当に心憎いくらいに運営サイドは理解している。
おなじみの「Digital Hardcore」のSEで登場すると、この日もHEREの武田将幸をサポートギターに迎えた5人編成で、恒例のセッション的なイントロが加わった「Discommunication」からスタートし、間奏の滝善充のギターソロに合わせて菅原卓郎(ボーカル&ギター)とまただいぶ髪が伸びてきた中村和彦(ベース)と武田が軽やかにステップを踏む「ハートに火をつけて」、かみじょうちひろのドラムの連打とトリプルギターの轟音っぷりに観客が一斉に前に押し寄せていく「新しい光」とキラーチューンを畳み掛けていく。
というかこの日自分が見た中でこのREDEMPTION STAGEでは1番観客が多かったというか、もう隣のRevolution STAGEの客席まで人がいるというくらいの大盛況っぷりで、しかもみんなが9mmを待っていたのがわかるくらいの熱い盛り上がりっぷり。初出演ということもあってか、ずっと見てみたかった9mmがこうしてここにライブをしに来てくれている!という空気がひしひしと伝わってくる。
9月9日にアルバム「DEEP BLUE」をリリースしたばかりであるが、その告知を卓郎がするとそのリード曲的な「Beautiful Dreamer」を披露。もう紛れも無いストレートな9mmのサウンドはこれが9mmというバンドなんだ、という意志と覚悟を突きつけてくるようであるが、アルバムタイトル通りにこなれた感じは一切ない。音の隅々まで瑞々しさで満ちている。卓郎のボーカルの色気は年数を経るごとに増してきているけれど。
そんな9mmらしいサウンドでありながらもこれまで9mmが歌詞にしてこなかった言葉で紡がれた「名もなきヒーロー」の
「生き延びて会いましょう」
というフレーズがこのフェスにまた9mmが来てくれるという感覚を持たせてくれる。もちろん9mmを普段から追いかけていてこのフェスにも見にきたという人もいるだろうけれど、このフェスに来ているほとんどの人たちは来週はさすがに会えないということをわかっている。(来週は新宿でライブがある)
それでも生きてさえいればきっとまた会える。それはこの日先に出演したTHE BACK HORNやストレイテナーも示してきたことであるが、この曲を演奏している姿からは9mmがずっとこの場所に来続けているかのような感覚になった。
というか9月9日の昭和女子大学でのライブでの件があったため、自分は卓郎が9mmのライブで歌っている姿を見るだけで泣きそうになってしまうという状態になってしまっていたのだが、それにしてもこの日の9mmはどこか神がかった力を発揮していたように思える。
もう日が沈んできた時間帯になってきたが、この日の日中に太陽が我々を照らし続けていたのは9mmがこの曲をセトリに入れていたからという部分もあるんじゃないか、と思ってしまうような景色を何度も見せてきてくれた「太陽が欲しいだけ」から、いつものように歌詞を変えることをせずに歌った「Black Market Blues」と続くと、ギター3人と和彦がイントロで一斉にジャンプを決める「The Revolutionary」の
「世界を変えるのさ 俺たちの思い通りに」
というフレーズはこのフェスが持っているメッセージへの9mmからの最大限の肯定であるかのように響いた。このバンドはかつて脱原発を訴えるイベント「NO NUKES」にも何度か出演している。
そしてラストは滝がギターをぶん回しながら叫びまくるという絶好調っぷりを見せると、和彦もまたベースを叩くようにして弾く「Punishment」であまりに圧倒的な余韻を残しながら、いつものように卓郎は丁寧に観客に頭を下げてステージから去っていった。
正直、9mmのライブ自体は年間何回も見ている。だから普通にフェスで見ても泣きそうになるくらいに感動することはないというか、やはりワンマンとかに比べたら印象は薄くなってしまいがちなのだが、この日はまるっきり違った。何か特別な力がバンドに宿っていたかのようだった。それはもしかしたら前日に出演したぴあフェスでもそうだったのかもしれない。しかし間違いなくこのフェス、この場所だからという要素が見ていてあったし、来年からもここで9mmのライブが観れるという大きな期待を抱かざるを得ないくらいに優勝したと言いたくなるライブだった。
そしてメジャーで10年活動してきた9mmもこのフェスには初出演。それを迎える超満員の観客。まだまだ日本にも行ったことのない場所や出たことがないフェスがあって、そこにいる人たちは来てくれるのを待っている。まだまだやれることも、バンドの力になるような景色もたくさんある。「DEEP BLUE」というアルバムはその新たな始まりを告げるような作品になりそうな予感がしている。
1.Discommunication
2.ハートに火をつけて
3.新しい光
4.Beautiful Dreamer
5.名もなきヒーロー
6.太陽が欲しいだけ
7.Black Market Blues
8.The Revolutionary
9.Punishment
18:25〜 サンボマスター [Revolution STAGE]
もうすっかり夜である。完全に夏フェスのごとき暑さであったこの日であるが、陽の短さはやはり夏の終わりであることを実感させるし、だいぶ涼しくなってきている。
しかしながらそんな涼しさを熱さで塗り替えてしまうバンド、サンボマスターがこの時間に出演。もちろんメインステージのRevolution STAGEはこんなにこのフェスに来ている人がいたのか、と思うくらいの人で溢れている。
おなじみの「モンキーマジック」のSEで登場した段階から煽りまくっている山口隆(ボーカル&ギター)が
「中津川やれんのか!後ろの方まで1人もサボるんじゃねぇぞ!」
と煽りまくりながら踊らせまくる「青春狂騒曲」でスタートするのだが、いつもテンションが高いサンボマスターではあるのだがこの日はより一層テンションが高く感じる。その理由は、
「今日絶対この曲をやらなきゃいけない理由があんだ。中津川フォークジャンボリーが行われていて、はっぴいえんどや岡林信康が歌ってきたこの場所だからやりたい曲があんだ。中津川の歌声よおこれ!」
と山口が言ったように、およそ50年前に日本のフォークのフェス的なものが行われていたのがこの中津川であり(会場はこの公園ではないけど)、そんなこの街の歴史へのリスペクトがあったから。そういう歴史を知っているあたりがさすがあらゆる時代、あらゆる世界の音楽マニアであり続けている山口ならではだなぁと思うし、ここがこのフェスが始まるはるか前から音楽の街であったということがわかって嬉しい。この曲がライブで聴けるのも。
そのまま「世界を変えさせておくれよ」でアッパーに突っ走ったかと思うと、「ラブソング」でバンドが愛するものへの思いを歌い上げる。そこにはこうしてライブを見ている我々のことはもちろん、山口の故郷である福島への思いもあるはずだ。最後のサビ前のブレイクの時間が短いのはフェスならではである。
「お前たちのことをロックンロールって呼ばせてくれ、中津川。ここにいるお前たちがロックンロールじゃなかったら誰がロックンロールなんだよ。俺はロックンロールが死んでねぇ、お前たちが死んでねぇっていうことを歌いに来たのよ」
と山口がここにいる全ての人を肯定するように演奏された「ロックンロール イズ ノットデッド」からはこれまでに様々な場所でサンボマスターが生んだ伝説を作り上げてきた曲たちが続く。
大合唱を巻き起こした「できっこないをやらなくちゃ」、ラブ&ピースというこの曲が持つメッセージがこのフェスが持つ空気に完璧にマッチしている「世界はそれを愛と呼ぶんだぜ」。なかなかライブをしに来れるような場所ではないし、歴史を知っている場所だからこその力がその演奏には宿っている。
そして時間がないと言いながらも山口は、
「お前ら、自分をクソだって決めつけねぇか。言っておくけどお前らがクソだったことなんて生まれてから一回だってないんだからな!なんもわからないのに言いやがってって思ってるやつもいるだろうけど、俺はお前らのことを詳しくしらねぇよ。でもお前らはここでロックンロールをやった。そんなお前らがクソなはずがねぇ!俺たちは今日、お前らがクソじゃないっていうことを証明しに来たんだよ!」
とまくしたてる。客席からはすすり泣くような声が聞こえる。しかし山口は
「泣くんじゃねぇ!笑え!」
と叫んで「輝きだして走ってく」を演奏する。
サンボマスターを好きな人の中には自分に自信がなかったり、人生が上手くいかなかったり、日々辛いことばかりある人もたくさんいると思う。ワンマンに行くとそう感じるし、山口の言葉やバンドの音から力をもらって生きてきた人が多いから。
でもこの日、自分は後ろの方で見ていたのだが、様々なスタッフTシャツを着た人たちも泣いていた。このフェスを作っている人や、飲食ブースの人や、ワークショップの人、中津川が地元であろう人。そういう人たちも我々と同じように人生においていろんなことが日々あって、それを乗り越えてこのフェスを作って、この日を迎えている。山口の言葉は観客だけでなく、この日ここにいた全ての人たちに向けられていて、それは確かに届いていた。
山口の言葉は文字にすると熱量は伝わらないし、ただ薄っぺらく感じてしまうかもしれない。でもこの日こうしてこの場所まで来て本当に良かったと思わせてくれるものだった。15年くらい前に出会って、今まで何度自分自身を肯定してもらったか数え切れないサンボマスターの音楽とライブに自分は今でも救われているし、感動している。その感覚だけは死ぬまで失いたくないって思う。
1.青春狂騒曲
2.歌声よおこれ
3.世界を変えさせておくれよ
4.ラブソング
5.ロックンロール イズ ノットデッド
6.できっこないをやらなくちゃ
7.世界はそれを愛と呼ぶんだぜ
8.輝きだして走ってく
19:10〜 SHIKABANE [RESILIENCE STAGE]
この日出演した、a flood of circleの佐々木亮介、9mm Parabellum Bulletの菅原卓郎、THE BACK HORNの山田将司、Nothing’s Carved In Stoneの村松拓というボーカル陣による夢のユニット、SHIKABANE。
去年に日比谷野音でワンマンをやったりもしているが、今年のこのフェスでそれ以来の復活を遂げる。ほかのフェスでは見ることができないという意味ではこの日の目玉と言えるような出演者である。
時間になると4人がステージに現れるのだが、すでに全員が缶ビールを持っているというのが普段のバンドのライブとは全く違うということを感じさせるが、衣装が全員白であり(佐々木亮介も白の革ジャン)、全員ギターを持たずにビールを飲んでいると早くも
亮介「誰もギター持たないですけど、ゴスペラーズみたいに歌うんですか?(笑)」
卓郎「色もみんな白だしね(笑)」
と笑わせてくれる。いわくこれは「このフェスの打ち上げみたいなもの」ということで実にリラックスした緩い空気なのだが、リラックスし過ぎているのか、この日バンドの出番が早めの時間だった将司と村松は明らかに登場してすぐに酔っ払っているのがわかる。
なので持ち時間のうち、MCというか酔っ払ったおっさんたちの雑談みたいな時間の比率が高いのだが、そんな中で最初に歌い始めたのはいきなりの唯一のオリジナル曲である「SHIKABANEのテーマ」。それぞれが他のメンバーのことを紹介していくという歌詞(かなり即興性が高い)の曲で、1ヴァースずつマイクリレーをしていき、サビを全員でハモりながら歌う。
弾き語りの連帯バージョンだと誰か1人が歌って他のメンバーは休憩、というパターンも多いし、確か日比谷野音の時も1人で歌う曲もあったはず。
しかしこの日はそれぞれの持ち曲を、オリジナル曲と同様に全員がマイクリレーをするように歌うという、1人1人の各メンバーの持ち曲への理解度が深まっているのを感じる内容に。持ち時間がワンマンほど長くはないからこそできることなのかもしれないが。
なので最初はNothing’s Carved In Stoneの「Shimmer Song」を村松を皮切りに1ヴァースごとにボーカルが交代していく形で歌うのだが、かねてからよく弾き語りでカバー曲をやるのを見ている佐々木亮介が「どんな曲でも亮介が歌うと亮介の曲になる」という唯一無二の声の持ち主であることはわかっていたが、この4人は全員がそういうボーカリストたちであるということが改めてよくわかる。
なので卓郎が歌うと9mmの「Shimmer Song」になるし、将司が歌うとTHE BACK HORNの「Shimmer Song」になる。だからすでにこの日バンドのライブで聴いていてもまるっきり受けるイメージは違うし、弾き語りというメロディを主体にした形であるだけにこの曲の名曲っぷりをこのボーカリストたちの声で余すことなく味わうことができる。
続いては
「この3人全員と思い出がある曲」
と亮介が言って、フラッドの「Honey Moon Song」へ。フラッド屈指のロマンチックな名曲を弾き語りで聴くだけでも感動してしまうのに、そんな曲をこんなにすごいバンドのボーカリストたちが曲をちゃんと覚えて歌っている。その事実だけでもフラッドファンとして涙が出るくらいに嬉しいのだが、卓郎がギターではなくハーモニカでメロディを吹くというのがまたそこに拍車をかける。
「涙溢れるまで笑わせてやる」
と全員で歌ったからには、また必ずこの4人でのライブをやって欲しい。
そんなちょっと湿っぽく感じてしまうような流れは、安全地帯のカバー「夏の終わりのハーモニー」での、
村松「俺と将司さんが陽水(井上陽水はこの曲にライブで参加して玉置浩二と一緒に歌っている)だから、卓郎と亮介が玉置ね」
佐々木「なんでそんな濃い人たちを2人ずつにするんですか(笑)」
卓郎「我々レベルだと2人いないと1人にも敵わないっていうことでしょう」
村松「でもなんで井上陽水さんは陽水で、玉置浩二さんは玉置って呼ぶんだろうね?」
将司「タマキンって言いそうになるよね(笑)」
卓郎・亮介「こら!(笑)」
と名曲の空気をベテランが率先して崩していくというトークで再び緩いものになっていくのだが、本人たちも言っていた通りに年下組の卓郎と亮介の方が将司と村松よりもしっかりしている。この若手2人のツッコミがなかったらトークの終わりが全然見えない。
将司「なんかこうしてカバー曲歌ってるとスナックみたいだよね」
亮介「俺と将司さんで北海道でスナック探しに歩き回ったことありましたよね」
将司「入った店がスナックっていうより場末のキャバクラっていう感じだったけど(笑)
俺はその日は美容師っていう設定で通そうと思ってた(爆笑)
でも亮介が「バンドやってて〜」みたいに言っちゃって(笑)」
亮介「将司さんが美容師で俺がアシスタントっていう無理がある設定だったから(笑)」
と笑わせまくった後には美容師であると偽ろうとした男、将司のバンドTHE BACK HORNの「コバルトブルー」を歌うのだが、酔っ払い過ぎているのか年長組の2人はギターを弾かず、
「この2人は実はギターが上手い!」
と称える後輩2人にギターを任せる。ボーカルだけになった年長組2人のうち、村松はなぜか曲中にいたる部分で
「っしゃー!」
と意味のわからない気合いを入れたりしながら、歌い終わると将司と抱き合うという感動的な光景のようでいて完全に酔っ払いのおっさんのテンションである。
そして9mmの「Black Market Blues」ではギターを弾きながらも卓郎と亮介がリフ部分を口ずさむのだが、階段を駆け上がらないとたどり着けないこのステージにはピッタリの曲であるし、
「仲間入りさせてやるぜ」
というフレーズの通りに先輩や後輩という垣根を超えて4人は仲間になった。暴れることもできないし踊ることもできない「Black Market Blues」はどこまでも暖かくて優しかった。
歌い終わるとなぜかまだ時間がかなりあるのにギターを降ろす4人。客席がざわつきだすと、
村松「今はなんの時間なんだ?って思ってるだろ?乾杯の時間だよ!」
とこのタイミングでいきなり乾杯することに。当たり前だけどステージ上の4人は今さら乾杯する必要もないくらいにビールを飲んで酔っ払っている。
そしてそれぞれがそれぞれの最新作の宣伝なんかをしたりしながら、最後の曲へ。卓郎は初めて訪れたこのフェスの楽屋に主催者である佐藤タイジの手書きのメッセージが置いてあったことに感動していたが、毎年このフェスに来ている亮介は、
「最初に来た時、メンバー全員の名前を書いてくれてたんですよ。亮介、渡邊くん、HISAYOちゃん、って。でもその時はすでにギターが変わってたのに、最初のギタリストの岡庭くんって書いてあって(笑)
きっと真面目だからウィキペディアで調べて書いたんだろうなって(笑)」
と最後まで笑わせながら、その佐藤タイジのバンドであるシアターブルックの「もう一度世界を変えるのさ」を、酔っ払っているとは思えない見事なハーモニーで歌い切る。
太陽光発電で野外フェスを開催するというのは佐藤タイジにとっては世界を変えることの第一歩と言っていいものだったはず。だからこそこの曲はこのフェスのテーマソングと言っていい曲であるが、その佐藤タイジの意識はこうして後輩たちに確実に受け継がれていっている。そこにこそ、このフェスにこのSHIKABANEという形で4人が出演した意味があった。
基本的にこのフェスはアンコールはほとんどない。ましてやこのステージはSHIKABANEで終わるが、他のステージはこの後に最後の出演者が出てくる。だからアンコールをやるわけはないのだが、観客たちはみんなアンコールを求める拍手を粘り強くしていた。
するとなんと4人が再びステージへ。さすがにやれる曲はないということで、ここまで残ってくれた観客たちを背景に写真を撮った。4人全員が全力で駆け抜けた2019年の夏の最後の思い出。夏の夜の夢というのはこういう日のことを言うんだろうな、とも思うけれど来年以降もこのフェスでまたこの4人でのライブが見たい。どこよりもこのフェスが似合うから。
1.SHIKABANEのテーマ
2.Shimmer Song
3.Honey Moon Song
4.夏の終わりのハーモニー
5.コバルトブルー
6.Black Market Blues
7.もう一度世界を変えるのさ
20:20〜 ACIDMAN [Revolution STAGE]
いよいよこのフェスも最後のアクトを迎える。ほとんどの人にとっては今年の夏に最後に野外で見るアーティストのライブになる。
今年のメインステージの大トリはACIDMAN。昨年は初日のこのステージのトリを務めており、このフェスには欠かせない存在のバンドである。
おなじみの「最後の国」のSEで手拍子が鳴る中で3人がステージに登場すると、佐藤雅俊(ベース)もその手拍子を煽る中で大木伸夫(ボーカル&ギター)がギターをかき鳴らして始まったのは「新世界」。大木のシャウトが夜の中津川の空気を切り裂きながら、
「忘れないよ 僕ら ここで息をしていた
肺に刺さるまで 深く息をした
今日、世界は生まれ変わる」
という歌詞の通りにこの場所の澄んだ空気を思いっきり吸い込みながら、この曲もまたシアターブルックの「もう一度世界を変えるのさ」と同様に新しい世界を作ろうとするこのフェスのテーマソングと言ってもいい曲だ。
大木の英語歌詞ならではの語感の良さが3つの音がぶつかり合うようなバンドサウンドの上をリズミカルに飛んでいく「ストロマトライト」、一転して日本語ならではの歌詞が脳内に情景を描かせる「波、白く」と前半はかなりアッパーというかアグレッシブな曲を連発していく。そこにはもちろん自然に敬意を払ってきたこのバンドのこの場所でのライブならではのエモーションを湛えているが、ただ大きい音を勢い任せに出すのではなくて演奏する上での丁寧さも忘れていないイメージだ。
その丁寧さは大木が挨拶してから、メンバーの上にあるミラーボールが輝き出すポップな「FREE STAR」、このバンドならではのジャジーな雰囲気を感じさせる「ユートピア」、そして夜の野外で聴くのが最高に似合う「ALMA」という中盤の曲たちで一層感じることができるし、「ALMA」を演奏している姿を見ていると、トリにこんなに相応しく、かつこんなにもこのフェスはこの人たちのためにあるんだろうかと思えるバンドがいるだろうかと思ってしまうくらいのハマりっぷり。その演奏する姿や音はこのフェスやこの場所への祈りを捧げているかのようだ。
「昨日まで降水確率80%、人によっては90%と言う人もいた。それで雨が降らないっていうのならまだしも、こんなに晴れるってとんでもないことですよ。太陽の力で行われているフェスだっていうこともあるし、目に見えない力とかっていうのは確かにあるとこのフェスに来ると思います」
と大木がこのフェスの持つ不思議な力について口にすると、「ある証明」では佐藤のキャップが吹き飛んでライブもフェスもクライマックスへ向かっていく。
この夜のこの景色を忘れられない記憶や思い出にしていく「MEMORIES」、アンコールを今日はやらないと宣言したのでこれが時間的にも最後の曲かと思いながらのソリッドなギターロック「飛光」ではかつては歌い切れない時も多々あった大木も今この年齢になって完璧にこの曲を歌いこなしている。しかもこの曲を歌うときに不可欠な衝動的な要素をなくすことなく。ACIDMANのライブが良くなかったことは一度だってないけれど、やはりそれは今でもずっと進化し続けている。
これで終わりかなと思っていたらアンコールの代わりに演奏されたのは「Your Song」。これまでもずっとACIDMANのライブの最後の最後を飾ってきた曲であり、さいたまスーパーアリーナで行われた主催フェスの時にも最後に演奏され、スクリーンにはその日に参加した観客たちの本当に楽しそうな顔が映し出されていた曲。そんな曲をこのフェスの最後の曲として聴けて本当に幸せだったし、ACIDMANがトリで本当に良かったと思えるライブだった。
演奏が終わると大木は
「中津川駅行きの最終シャトルバスは21:45となっております。混雑する場合がございますのでお時間には余裕を持ってください」
とまるで主催者かのような周知事項を話した。それは近年のフェスではアウェー感を感じることも多々あるけれどこうしてメインステージのトリを務められるくらいにこのフェスがバンドにとってホームな場所であることを示していた。
1.新世界
2.ストロマトライト
3.波、白く
4.FREE STAR
5.ユートピア
6.ALMA
7.ある証明
8.MEMORIES
9.飛光
10.Your Song
去年初めてこのフェスに来た時、会場に入った瞬間から他のフェスとは少し空気が違うことを感じていた。去年のオープニングDJだったダイノジの大谷ノブ彦は
「こんな幸せな景色ほかにないよ!1番戦争とかと遠い場所だ!」
と言っていた。本当にその通りにピースフルな空気の場所であるし、それは今年またこの場所に来れてますますそう思うようになっている。
そう思う理由はなんなんだろうか。このフェスはステージがいくつもあるけれど、いわゆる「来年はもっと大きなステージへ!いつかはメインステージへ!」ということを口にするアーティストが全くいない。
もちろんロッキンとかのそうしたフェスを自分は大好きだし、そうした思いがパフォーマンスを何倍にも引き出したり、バンドを続けるモチベーションになったりする。
でもここにはそういう空気がない。だからSHIKABANEであったりROCKIN’ QUARTETであったり、各アーティストの中津川スペシャルバージョンという特別なライブがたくさん組まれている自由さがあるし、いきなりゲストがたくさん出てきたりする。それもまたこの場所、このフェスが持つ空気によって生まれるものだ。
それに加えて毎年感じるのはやはり音の良さ。太陽光発電によって音がクリアになるというのがどういうことかというのは公式サイトにも解説されているので見てみていただきたいが、このフェスはライブが音の良さで変わるということを本当に実感させてくれる。好きなバンドのライブが普段の野外フェスの何倍も良いライブに感じられる。
いろんな考え方があるし、原発推進派の人や太陽光発電に反対派の人もいる。でもそういうのを抜きにしてでも音楽が好きならば自分の耳でこのフェスの音を感じて確かめて欲しい。それは絶対にここに実際に来てみないとわからない。
そしてこのフェスには幼い子供を連れて家族で来ている人もたくさんいるし、高校生くらいのグループで来ている人もいる。どんなフェスにもそういう世代の人はいるけれど、関東圏のフェスとは違ってなかなか遠い場所からここまでは来ることができないことを考えるとこの辺りに住んでいる人たちなんだろう。
そういう人の中には子供がヤバイTシャツ屋さんのTシャツを着て、父親がサンボマスターのTシャツを着て一緒にライブを見ていたり、高校生くらいのグループがこのフェスのオフィシャルTシャツや打首獄門同好会のTシャツを着て楽しそうに踊っていたり…自分たちが暮らしている街に好きなバンドたちが来てくれることを心から楽しんでいるように見えた。
自分たちの地元にこんなに良いフェスがある。そしてそこに学生時代やもっと幼い頃から行くことができる。そんな彼らを羨ましく思うとともに、彼らが「ライブって楽しいな」って思ってくれて、後に名古屋のライブハウスに行くようになったり、他の地方のフェスに行くようになったり…このフェスの景色からはそんな素晴らしくて明るい未来を感じることができる。
「もし自分の人生において時間を巻き戻すことができたら何がしたいか?」ということをたまに聞かれたり、話したりすることがある。別にあの頃に戻りたいとか思わないくらいに自分は今の人生を謳歌しているつもりだけれど、もしもそうして時間を巻き戻すことができるならば…今最もしてみたいことは、このフェスが始まった年からこのフェスに参加してみたい。このフェスがどんな歴史を辿ってこんなに素晴らしいフェスになったのか、そこでどんな素晴らしいライブが生まれてきたのか。それを見てみたい。日本中のいろんなフェスに行ってきたけれど、そこまで思えるフェスはそうそうない。来年こそは2日間とも参加することができたら。いや、迷いなく2日通し券を取って、またここに来れるために1年間生きていようと思う。
そして全く何の影響力もないけれど、もし来年はこのフェスに行ってみようとこのレポやらツイートやらを見て思ってくれた人がいるならそんなに嬉しいことはないし、音楽が好きな人には一度は訪れて欲しいと思っている。
文 ソノダマン