例年8月にはこの新木場STUDIO COASTで、ど平日にも関わらず昼から始まるイベントが行われていた。昨年、コロナ禍になってからはそのイベントは開催されていないが、全く出演者は違えどそれを思い出させるようなイベントが開催される。
バンドの15周年を迎えた、a flood of circleがそれを記念してリスペクトするアーティストたちに曲をプレゼントしてもらうというコンセプトによるアルバム「GIFT ROCKS」をリリースし、
the pillows
THE BACK HORN
UNISON SQUARE GARDEN
Rei
SIX LOUNGE
という、曲を提供してくれた、フラッドと交流の深いアーティストたちが勢揃いしたのがこの日の「GIFT ROCKS LIVE」である。
会場の新木場STUDIO COASTに到着すると、14時開場、15時開演で計6組も出演するというのに、COASTならではの外の飲食ブースが皆無というのはライブそのものが次々になくなってきている今の情勢を反映しているようで、少し寂しくなってしまう。そんな中でもいつものように検温と消毒を経てCOASTの中へ入ると、全席指定の椅子が並ぶ客席。フラッドはコロナ禍でも立ち位置指定などでスタンディングでのライブを続けてきただけに、フラッドのライブを椅子席で見ることになるとは。
15:00〜 SIX LOUNGE
トップバッターはフラッドの、というよりロックンロールの正統派直系若手バンドと言えるスリーピースバンド、SIX LOUNGE。
それは登場した際の、こんな暑い日なのに黒の革ジャンというヤマグチユウモリ(ボーカル&ギター)の出で立ちからもわかることであるが、イワオリク(ベース)が黒と金が混じったような髪色になっているのは全く変わらないユウモリとは対照的な変化に感じる。
「新木場目覚めてますか!?大分からSIX LOUNGEです!」
とユウモリが挨拶すると、
「タイマー爆破寸前の 最低に愛してよ」
というフレーズがまさに爆発するかのようなシンプルだがその分激しくて力強い「ナイトタイマー」からスタートし、勢いよく「DO DO IN THE BOOM BOOM」へとなだれ込んでいくのだが、かつては長髪だったナガマツシンタロウ(ドラム)が突然の坊主を経て短髪になっていることで、長髪時代はハッキリとは見えなかった、叩いている時にこんなに表情豊かなドラマーだったのか、ということに改めて気付く。それはマイクを通さずとも歌詞を口ずさみながら演奏していることによって、その音に意思や魂を込めていることも。
「おはようございます!」
とユウモリが挨拶したのは、どんな時でもその言葉で挨拶をするフラッドへのリスペクトによるものなのか、15時はユウモリにとっては朝という時間なのかはわからないが、リクとシンタロウもタイトルフレーズをコーラスする「トゥ!トゥ!トゥ!」がさらにライブの勢いを加速させると、MCを挟むのかと思うような間を切り裂くようにシンタロウがドラムを刻み始める「Under The Cloud」ではユウモリはステージ前まで出てきて、ロックンロールでありながらもどこかブルージーなギターを弾き倒す。歓声を上げることはできないけれど、その姿に呼応してたくさんの人が腕を上げている。
「のんびり行こう、のんびり…。そんなわけねえだろ!ぶっ飛ばしていくぞ!」
というユウモリの悪戯っ子っぷりも伺える言葉から、文字通りぶっ飛ばすかのような「スピード」でさらに加速していくと、ユウモリが
「ねぇねぇそこの女のコ
ロックンロールは大好きかい?」
というフレーズを客席の女のコを見ながら歌う「トラッシュ」へ。タイトルフレーズのコーラスではシンタロウのドスの効いた、これもまたロックンロールとしか言えないこのバンドらしさを感じさせてくれるが、初っ端から本当に暑い。この日は気温も高いが、MONOEYESのライブなどで床に汗が溜まる夏のCOASTの感覚を席指定でも思い出させてくれる。
そんな中、
「いろんなライブが中止になってる中でこうやって開催してくれたフラッドには感謝しかないです」
と、ユウモリもこの夏、自分たちが出るはずだったものもいくつもあったであろう、フェスやイベントが中止になってしまったことに心を痛めていそうな様子を感じさせながら、フラッドが「GIFT ROCKS」内でカバーした「メリールー」も演奏されるのだが、この曲を聴いていると、「Honey Moon Song」などのフラッドの曲でも感じられる、ロックンロールという音楽がロマンチックなものであるということをフラッド以外のバンドであっても改めて実感させてくれる。
「ねぇ、わたし大人になりたくない…」
のフレーズを思いっきり感情を込めて歌うユウモリはどれだけデビューしてから年数が経って、このCOASTのように広い会場でワンマンができるようになってもなお、少年が本当にそう思って歌っているかのようだ。これはこれからもずっと変わらないような気がしている。
続く「いつか照らしてくれるだろう」もロマンチックでありながら、シンタロウのビートはロックンロールバンドのそれでしかない刻み方をしているのだが、同じロックンロールバンドとはいえ、ブルースの要素も強く含んだフラッドと、歌謡曲、なんならJ-POPの要素までも感じられるSIX LOUNGEはインプットもアウトプットも全く違うんだろうな、と思う。それでも「ロックンロール」というのが両者の最大の共通項であるのは間違いないし、SIX LOUNGEが今たくさんの若い人に支持されているバンドになっているというのもよくわかる。だからこそ歌詞の
「泥だらけでピースマーク」
という歌詞に合わせてピースする観客も見受けられた。
「「GIFT ROCKS」は俺にとっても本当に大事な宝物になりました」
とユウモリがは言ったが、それは自分たちの曲をリスペクトする先輩が純粋に良い曲を書くバンドとして認識してくれていて、その先輩に曲を提供できたということ、この日出演している先輩アーティストたちと同じ地平に並ぶことができたということなど、様々な意味を含んでいるように感じられたが、何よりもフラッドが歌い、演奏した「LADY LUCK」が素晴らしいものになったという自信を得ることができたからだろう。
そしてラストに演奏されたのは「僕を撃て」。リクは喜びを表すように何度も足を広げてジャンプしまくっていたが、どんな世の中やどんな状況になっても、SIX LOUNGEやフラッドの鳴らすロックンロールが止まりませんように、そんな事ばっか考えてる。
1.ナイトタイマー
2.DO DO IN THE BOOM BOOM
3.トゥ!トゥ!トゥ!
4.Under The Cloud
5.スピード
6.トラッシュ
7.メリールー
8.いつか照らしてくれるだろう
9.僕を撃て
16:05〜 Rei
今回の出演者、「GIFT ROCKS」提供者の中では唯一のバンドではないアーティストであり、フラッドと最も音楽性が近い存在であると言える、Rei。こうしてライブを見るのは実に久しぶりである。
ステージには下手側からぐるりと円を描くようにドラムの山口美代子(komaki♂脱退直後のtricotなど数え切れないくらいにサポート活動をしている)、ベースの中西道彦(Yasei Collective)、キーボードのTAIHEI(Suchmos)、そして上手端にRei(ボーカル&ギター)という形で機材が並んでおり、なかなかソロのシンガーソングライターとしては珍しい形である。
黒いフリルのスカートという出で立ちのReiはホワイトファルコンを抱えているというあたりに佐々木亮介とのシンパシーを感じる中、自己紹介的でありながらも
「来週こそは休みたいけど
NEVER-ENDING JOURNEY
逃げ出したくなっても アイス食って
そうさ 夢を夢で終わらせてたまるか
YOU-YOU-YOU-YOU-夢を叶える Someday」
という締めのフレーズが消えることのない野望と彼女なりのユーモアを感じさせてくれる「My Name is Rei」でスタートするのだが、久しぶりにこうして目の前で歌唱・演奏しているのを見ると、そのあまりに滑らかな英語と日本語を行き来するボーカルのリズムと、これだけ豪華なメンバーたちと自身の一本だけで渡り合ながらも間違いなくこれが主役だと思わせるようなブルージーかつロックなギターに驚かされる。
デビュー時に新人アーティストたちが集まったイベントで初めてライブを見た時は弾き語りであったが、あまりにも凄すぎかつ衝撃的過ぎて終演後に物販でCD買ってサインしてもらったことを思い出す。変わらないように見えて、あの頃よりもやはり大人らしくなっているとも思う。
手持ちマイクを持つとエコーがかかったような声でナレーターのように語りかける姿がミュージカルがこれから始まるかのような「ORIGINALS」の、まるで海外の凄腕ギタリスト兼シンガーソングライターのライブを見ているかのような英語歌詞のスムーズさ。でもまるっきり海外のアーティストというわけではないのは、実際に比較できるような名前が全く浮かんでこないから。つまりはタイトル、歌詞通りにReiという存在がオリジナルだということを、その楽曲とパフォーマンスにおいて証明している。
中西がシンセベースになることによって、ブルース色が強い中にもどこかデジタルなダンスロックの要素が浮かび上がる「COCOA」はどこか今の世の中を批評するような歌詞と、
「目の目の目の前にいるのに」
というフレーズ部分で自身の手で目を塞ぐようにしながらもリズミカルに歌うのが面白く、そのままどこかフラッドの「シーガル」にも繋がるようなテーマの、でもサウンドは全く異なる「New Days」と続くと、
「フラッドと前に一緒にやったのはフラッドの年越しライブ以来で。亮介君とはいつ会ったのかわからないぐらいに前から知ってるんですけど、ブルースとかロックとか同じ音楽が好きな友達っていう感じ」
と、なぜか「亮介君」という呼び方が新鮮に感じられるのはなかなか亮介を君付けで呼ぶ人が他にいないからだろうが、音源ではSOIL & “PIMP” SESSIONSの華やかなホーンの音も入っている「Lonely Dance Club」では再びミュージカルであるかのような構築された展開を見せてくれるのだが、それはブルースとともにジャズの要素をも感じさせるからだろう。
しかしながら間奏部分でReiがフライングVに持ち替えてサングラスをかけると、そのままステージ中央の台の上に立って、アメリカのハードロックバンドのギタリストかのようにギターを弾き倒しまくる。最初からこの位置にいないというのがこの流れをより引き立てているし、ただ歌とギターが抜群に上手いだけではなく、こうしたセルフプロデュース能力もより高くなっていることがわかる。
そのままの出で立ちとフライングVで、「GIFT ROCKS」でフラッドがカバーした「BLACK BANANA」のロックンロールの血が流れているかのようなスピード感溢れる、実に聴いていて気持ちの良い語感のボーカルを聴かせてくれると、今度は間奏で中西の腕を引っ張ってステージ中央に立たせてベースソロを弾かせ、その真横でバトルするかのように自身もギターを弾きまくる。このメンバーたちに引っ張ってもらうのではなく、完全にこのメンバーたちを掌握している。そりゃあこれだけとんでもなく上手かったらこのギターがバンドを引っ張る最大の牽引力になる。ミュージカルの主演は完全にReiのギターと歌である。
そしてラストの「What Do You Want?」でも中西のソロを挟み、さらには山口とTAIHEIのソロへと続いていくのだが、それぞれが自分の居場所を持っている3人が、それでも本当に楽しそうに演奏している。Reiのバンドに参加しているからこそ、こうしてこのメンバーたちと音を合わせることができる、それが生きている実感に繋がっているということがわかる。それをまとめあげるようなReiのギターソロの高速ブルースとハードロックを融合させたかのような凄まじさ。
曲が終わるとそのまますぐにステージから去っていく(サングラスは外していたけど)というのも実にカッコいいが、去り際にTAIHEIが中西の肩をポンポンと叩いていた。おそらくはReiのバンドに参加する前から関わりがあったであろう2人がこうして同じバンドをやれていることの喜びと面白さをその姿から感じていた。
1.My Name is Rei
2.ORIGINALS
3.COCOA
4.New Days
5.Lonely Dance Club
6.BLACK BANANA
7.What Do You Want?
17:10〜 UNISON SQUARE GARDEN
この日の2日前に「CIDER ROAD」のリバイバルツアーを終えたばかりの、UNISON SQUARE GARDEN。強行スケジュール過ぎるのは相変わらずであるが、だからこそフラッドと最も付き合いが長いバンドとしてこのライブに出演している意味もわかる。近年は田淵智也(ベース)が佐々木亮介とTHE KEBABSでも活動しているだけに、どこか対バンという感じがしないところもあるけれど。
おなじみのイズミカワソラの「絵の具」のSEが流れると、割と早い段階でその音を制すように斎藤宏介(ボーカル&ギター)がギターを弾きながら歌い始めたのは「GIFT ROCKS」内でフラッドがカバーしている「WINDOW開ける」の本家バージョンというフラッドへの愛を初っ端から示す形に。サビでは真っ暗な中でステージ背後からの明かりのみがメンバーを照らし出すという実に神々しい姿。完全に「イベントへの出演の一つ」ではなく、フラッドの15周年にありったけの想いを込めるというのが、決して定番曲ではないこの曲を1曲目に持ってきたということからもわかる。
すると田淵がイントロからステージ下手側を動き回る「世界はファンシー」という昨年リリースの曲を演奏することによって、「CIDER ROAD」のリバイバルモードが終わって、今のユニゾンに舞い戻ってきたということがわかるのだが、あまりにもボーカルもギターもリズムも目まぐるし過ぎるこの曲の展開をライブで聴くのがかなり久しぶりだったので、こんなに凄かったっけ!?と笑ってしまうくらいだが、こうしたユニゾンの詰め込みまくる要素が、田淵がプロデュースしたフラッドの「ミッドナイト・クローラー」に繋がっているところもあるのだろう。観客のノリもやはりここまでとは全く違うというのは純粋な動員力だけならダントツのこのバンドだからこそである。
「Fancy is lonely.」
という締めのフレーズから繋がるのは「ロンリー」がタイトルにつかない「Phantom Joke」でユニゾンのキレのあるギターロックバンドっぷりを感じさせてくれる。
「あっついな…。やっぱりライブハウス最高です!」
と、やっぱり演者側も暑いのか、と思うとともに、ホールでのライブが多かっただけに久しぶりのライブハウスの空気や温度を感じているのであろう斎藤のMCから、この季節にピッタリな、でも今年の夏に
「君が目に映す景色の中 いついつでも踊っていたい
けど今のままじゃ儚いや 花火の音と消えてしまう
君の声を聞いて始まる この季節を好きでいたい」
というフレーズを聴くと、この日以降のフェスなどの夏らしさを感じられる日がなくなってしまったことで切なさも感じてしまう「夏影テールライト」へ。ちなみにこの曲の最後の歌詞は
「幻に消えたなら ジョークってことにしといて。」
とアルバムの中では「Phantom Joke」へと繋がるものなのだが、この日のライブの流れはそれと真逆なものになっているというのが実にユニゾンらしいし、この後に開催される「Patrick Vegee」のツアーのセトリや流れにも期待が高まる。
その「夏影テールライト」のラスサビあたりですでに鈴木貴雄(ドラム)はヘッドフォンをスタッフの方に装着してもらっていたのだが、そのままキーボードの同期の音が流れ、それに合わせて田淵もステップを踏むようにしながら演奏するのがこんな陰鬱としがちな世の中や音楽業界の状況の中でも楽しい気持ちにさせてくれる「君の瞳に恋してない」へ。斎藤は若干歌詞が飛びがち、田淵はサビでコーラスするのに間に合うかどうかギリギリのところまでマイクから離れて動き回りながらベースを弾く、鈴木は立ち上がって観客を見渡すようにしてドラムを叩くというメンバーそれぞれの姿も本当に「ロックバンドは楽しい」という、かつてユニゾンが掲げていたコピーそのものの瞬間が今であるということを示してくれる。
さらに唯一「CIDER ROAD」リバイバルツアーで演奏されていた「シャンデリア・ワルツ」も演奏され、「君の瞳に恋してない」からの流れはワンマンのクライマックスのクライマックス、というような連打となったのだが、ツアーでは斎藤が思いっきり強調するようにして歌っていた
「譲れないものもある」
のフレーズはこの日は通常営業モードに戻ったからか、普通に歌われていたのだが、それがかえって飛び跳ねまくりながらベースを弾く田淵と同様に観客も何も考えずに飛び跳ねまくるという光景を生み出していた。
すると斎藤は
「a flood of circle、15周年続けてくれてありがとう」
と言った。普通はこういう時は「おめでとう」だし、実際に他の出演者はそう言っていた。それでも「ありがとう」と言ったのは、それこそ15年前からの付き合いであり、まだお互いに何者でもなかった、まだ誰も自分たちのことを知らなかった時から刺激し合い、高め合ってきたバンド同士であり、自分たちがこうしてバンドをずっと変わらない形で続けて来れたのは、変わりながらも止まることは全くしなかったフラッドがいてくれたからなんじゃないかとも思う。
つまりは我々がフラッドがこうして続いてきたことによって「ありがとう」と言いたい気持ちを、ユニゾンの3人も同じように持っているということだ。今やアリーナや幕張メッセでも当たり前のようにワンマンをやり、あらゆるフェスのメインステージに立つようになったバンドが、間違いなくフラッドの存在に救われている。両者をインディーズ時代からずっと見てきたファンとしてこんなに嬉しいことはないし、だからこそ最後に演奏したのも、フラッドがカバーした「フルカラープログラム」だった。
それはフラッドとユニゾンが「完全無欠のロックンロール」バンドであることを示すものでもあるのだが、最後のサビ前のそのフレーズを斎藤が歌う際に田淵はベースを止め、鈴木も立ち上がって観客を煽るような動きもしながら、ドラムのリズムを抑えた。そのフレーズが他のどんな音とも被ることなく響くように。それは紛れもなく3人からのフラッドへの溢れ出る愛の形だった。
フラッドもユニゾンもこの状況でも自分たち主催のライブを延期することも中止することもなく続けている。思想ややり方の全てが同じというわけではないだろうけれど、やはりそこもこの2組は共通している。きっとどちらも相手がツアーをやる、ライブをやるということに刺激し合いながらこうしてライブを続けているのだろう。そんな完全無欠のロックンロールバンドたちのライブが見れているというだけで、こんな世の中でも生きていく希望を抱くことができる。ちょっとでも前に進んでいるように思える。きっとこれから先も何回でもこうやって一緒にライブをやる姿を見れるはずだ。
1.WINDOW開ける
2.世界はファンシー
3.Phantom Joke
4.夏影テールライト
5.君の瞳に恋してない
6.シャンデリア・ワルツ
7.フルカラープログラム
18:15〜 THE BACK HORN
転換の段階から先に松田晋二(ドラム)と岡峰光舟(ベース)が自分たちで演奏して文字通りサウンドチェックをしている(光舟はすでにネック部分が光る、暗闇でも映えるベースを使っていた)と、その後にメガネにマスク姿の菅波栄純(ギター)もステージに出てきてサウンドチェックをするのだが、その際に客席に向かって笑顔で頭を下げて登場するというあたりに、今やテレビなどでもその数々の変態エピソードが話題になっている存在である栄純が、純粋で優しい、未だに福島の訛りが取れない純朴な少年のままであることを感じさせてくれる。
そんなTHE BACK HORNはフラッドの先輩でもありながら、山田将司(ボーカル)は佐々木亮介とSHIKABANEでも一緒に活動しているし、2人で12時間くらいぶっ通しで夜から昼まで飲んだことがあるというエピソードを持つ存在でもある。
おなじみの神聖なSEで4人がステージに登場すると、松田のドラムの連打によって始まる壮大なロックシンフォニー「グローリア」が会場の空気を一変させる。
「気合いだけでひっくり返せるわけじゃねえ
テコの原理 角度とタイミング
痛快な瞬間 何もかも全部 ここから始まるんだ
この世に生まれてきたのなら 打ち鳴らせ その鼓動
あきらめなんかに用はねえ 叫び出せ その鼓動
気休めだってなんだって 君の気持ちが晴れるなら
空模様なんて関係ねえ そう思うんだ」
という歌詞は今この状況の中でもこうして少しでも前向きなことをして生きていこうということに、長い活動歴の中で生きることと死ぬことにあらゆる角度やそれぞれのメンバーの歌詞からフォーカスを当ててきたことによって説得力を与えるものである。それとともに将司の両腕をグッと上に挙げるような仕草からは、やはり愛すべき後輩のフラッドの15周年を全力で祝おうというようにも感じられる。
栄純が刻むギターのイントロで将司が気合いを入れるように声を上げた「シンフォニア」はライブおなじみの曲であるが、やはりこうした他のバンド主催のイベント、ましてや世代も違うだけにアウェー感もなくはない中でも将司が率先して腕を振ることによって、観客も声は出せなくても腕を振り上げたりと、登場時とはまた違った形で空気を変える。自分たちのライブに一瞬で塗り替えられる曲であり、それはこの曲が毎回ライブで演奏されることによってそうした曲に育ったということだ。
なかなかマイクスタンドからマイクを外すことができないという、MCが全く上手くならないことをいつもTOSHI-LOWにいじられる松田が、そんなところすらも上手くならないとは、という少し微笑ましくなるような、フラッドの15周年を祝う挨拶的なMCから、同期の音が流れる「心臓が止まるまでは」でバンドのダークな面、人間のドロドロした部分を歌ってきたサイドを見せると、こうしたフェスやイベントなどの持ち時間が少ないライブでも1曲は必ず挟まれるバラード曲はこの日は「空、星、海の夜」。近年は「美しい名前」をやるパターンが多い気もするけれど、この曲を演奏したということにも必ず何らかの意味があったはずだ。亮介が思い入れがあったりするのを知っていたのか、あるいは海が近いこの場所で、この日は本当に綺麗な月が出ていたからか。あるいは、
「強く望むなら歌が導くだろう」
という締めのフレーズをフラッドのこれからの道に捧げたということだろうか。
将司もまたフラッドの15周年を祝うコメントもしていたが、きっと将司には長く話そうと思えばいくらでも亮介やフラッドとのエピソードがあるはず。そうしなかったのは、あくまで音楽でそれを伝えることを選んだということ。それが「GIFT ROCKS」内でフラッドがカバーしていた、バンド最大の代表曲である「コバルトブルー」に繋がっていくのだが、基本的には毎回ライブで演奏されるこの曲を、バンドはこれまでに何回演奏してきたのだろうか。きっとそれはもう数えることはできないくらいの回数になっているのだろうけれど、イントロの段階で光舟が人差し指を高く掲げたり、間奏ではステージ前の台の上に乗ってソロを弾いたり、そして最後のサビ前では両腕を高く掲げたり…。数え切れないくらいに演奏してきた、自分自身数え切れないくらいにライブで演奏されるのを見てきたこの曲を演奏するのがいつも以上に楽しそうに見えたのは、フラッドがカバーしたことによってこの曲の凄さに自分たちも改めて気付いたからなんじゃないかと思う。そんな曲を自分たちが生み出して、こうして演奏することができている幸せを噛み締めているような。「GIFT ROCKS」はフラッドへのご褒美でもありながら、参加したアーティストへのご褒美でもあったんじゃないだろうか。
そんな「コバルトブルー」からの「刃」はライブでは定番の流れではあるが、バクホンはライブやフェスではある程度この日のように演奏する曲が決まっているバンドだ。それはこうしたフェスやイベントに出ると、まだまだ自分たちのことを知らなかったり、初めて見るという人もたくさんいるということがわかっていて、だからこそTHE BACK HORNというバンドの最もど真ん中の、芯の部分をそういう場所で見てもらおうという意識によるものだろう。そこにはこのバンドなりの、
「死んでも譲れないものがある」
という意志がその音に、演奏する姿に、本当ならば観客も一緒に歌えるはずの勇壮なコーラス部分に宿っている。
しかしそれでもまだ終わらず、最後に演奏されたのは「太陽の花」。同期の音も流れる中、サビでは栄純が合いの手的なタイミングで手を叩くのが熱狂の中の微笑みを与えてくれるのだが、このバンドが切り開いてきた「和」のロックというスタイルはフラッドにも間違いなく強い影響を与えているはずだ。直接的なフォロワーというバンドはなかなかいなくても、例えばボカロPのじんが「THE BACK HORNに人生を救われた」と言っているように、このバンドの背中を追ってきたミュージシャンはたくさんいるはずだ。
1.グローリア
2.シンフォニア
3.心臓が止まるまでは
4.空、星、海の夜
5.コバルトブルー
6.刃
7.太陽の花
19:20〜 the pillows
これまでにもフラッド主催の「A FLOOD OF CIRCUS」にも出演しているし、フラッドはピロウズトリビュートアルバムにも参加しているという、間違いなくフラッドに多大な影響を与えてきたバンドである。それはピロウズの曲のリプライズバージョンを作ったユニゾンの田淵も然り。
サポートベースの有江嘉典(VOLA & THE ORIENTAL MACHINE)も含めた4人がステージに現れると、山中さわお(ボーカル&ギター)がギターを刻みながら
「聴こえてくるのはキミの声」
と「この世の果てまで」を歌い始める。
「行こう
昨日までのキミを
苦しめたもの全て
この世の果てまで
投げ捨てに行こう」
というフレーズを聴いていると、この世の果てがここなんじゃないかとすら思えてくるし、山中の年齢を全く感じさせない瑞々しい声が最後の
「行こう」
のリフレインを、このバンドがまだまだ先へ進もうとしているように感じさせてくれる。
ピロウズはこれまでに22枚アルバムをリリースしているだけに、持ち曲も膨大になっているし、アルバム毎にもサウンドは異なっていたりするので、どういう曲を演奏するのかによってそのライブのイメージはだいぶ変わってくるのだが、この日はピロウズのトリビュートアルバムでフラッドがカバーした「Blues Drive Monster」も演奏してくれるし(これはサーカスに出演した時も演奏してくれていたので、間違いなくフラッドへの愛あるお返しとして山中をはじめとしたメンバーも選んでいるのだろう)、そのまま「No Surrender」というロックンロールなピロウズを感じさせてくれるものになっているのだが、
「No Surrender
Baby うつむくなよ
立ち止まった足元に
絶望しかない日々を
いつかは潜り抜けて
元通り笑ってよ
未来にだけ吹く風を感じながら」
というフレーズはこの絶望だらけの状況をバンド側もなんとかして潜り抜けて未来に向かおうとしているかのような、10年以上前にリリースした曲とは思えないくらいに「今」を感じさせてくれる。
やはり1人だけお爺さんのように見えるくらいに真っ白な髪色の佐藤シンイチロウ(ドラム)のシンプルに刻むリズムと真鍋吉明(ギター)のノイジーに塗りつぶすのではなく、美しい旋律を奏でるギターが至極のメロディを最大限に引き出す「Funny Bunny」もまた
「キミの夢が叶うのは
誰かのおかげじゃないぜ
風の強い日を選んで
走ってきた」
という今やCMなどでも流れるようになったフレーズが、ひたすらにロックンロールバンドとして走り続けてきたフラッドへ向けたメッセージのようにも、それを見続けてきた我々へのメッセージでもあるかのようだ。本当ならば我々も一緒に歌えたらどんなに良かったかとも思うけれども、自分の前の列にいた女性はこの曲の演奏中にずっと泣いていた。彼女は人生におけるどんな状況、どんなタイミングでこの曲に背中を押されてきたのだろうか。それくらいにたくさんの人の人生の音楽になっている曲なんだなと思う。最後に山中が
「僕らはそれが出来る」
とライブだからこそのフレーズに変えて歌うのも、微かだけれども確実な希望を感じることができる。
その山中は、
「フラッド15周年。俺たち32年ずっとバンドをやってる。フラッドもそうだし、フラッドのことが世界一大好きな君たちにもこれからもっと楽しいことがたくさん待ってるよ」
と、フラッドと、我々フラッドファンに向けた言葉を送った。
それは32年もの長きに渡って続いているバンドだからこその説得力もあるけれど、ピロウズが長い年月、なかなか評価されず、それでも続いてきた結果として今のポジションにいるという、ピロウズだからこその説得力も間違いなくある。それこそピロウズが15周年だった17年前はまだ今ほどたくさんの人に知られたり、大きな会場でライブをやっているようなバンドじゃなかった。だからこそ、フラッドも15周年を超えたこの先に武道館やアリーナに立てる未来が待っていて、我々もその景色を見れる、みんなで喜びを分かち合える、そんな瞬間が来るんじゃないか、とすら思える。今もずっとフラッドがそこまで行けるということを全く諦めていないが、山中のこの言葉はそこにさらに強い自信を与えてくれる。
そんな32年目のバンドが鳴らす、初期のロックンロール「ぼくは かけら」は確かに今聴くと歌詞からはどこか幼さのようなものも感じるけれど、リリースから30年も経過した、なんならその頃に生まれていない観客もたくさんいるであろう現在において、ピロウズの代表曲的な名曲たちと並んで演奏されても全く違和感がない。山中のボーカルやバンドのアレンジも含めて、進化しながらも変わらなかったバンドであるということ、初期の頃から変わらぬ普遍性を持っていたことを感じさせてくれる。
「雲が邪魔したって
怯まないぜ吹き飛ばしてみせる
熱くて吐き出した愛も
いつかきっと飲み干せるさ
verses of angel」
という歌詞がフラッドにも通じる我が道を突き進むというスタンスを感じさせる「バビロン天使の詩」で山中がギターを銃のように客席に向けたりすると、メンバー4人が向かい合ってキメを連発する「GIFT ROCKS」内でフラッドがカバーした「About A Rock’n’ Roll Band」で締めにかかる…と思いきや、山中が歌詞を間違えてやり直すというまさかのハプニングが。汗をタオルで拭った顔が赤くなっていただけに、よっぽど恥ずかしかったのだろう。
仕切り直しとばかりにその「About A Rock’n’ Roll Band」をもう一度最初から演奏したが、この曲も「Blues Drive Monster」も、フラッドがカバーした曲を2曲とも演奏してくれて、山中と真鍋はこの日のイベントのTシャツを着てくれている。フラッドのことをめちゃくちゃ可愛がってくれているというのが本当にわかるし、そのフラッドのファンである我々のことを「間違ってないよ」と、こんなに凄いバンドが肯定してくれる。
この日の選曲も、その姿勢も、やはりthe pillowsはロックンロールバンドだった。
1.この世の果てまで
2.Blues Drive Monster
3. No Surrender
4.Funny Bunny
5.ぼくは かけら
6.バビロン天使の詩
7.About A Rock’n’ Roll Band
20:10〜 a flood of circle
そしていよいよこの日のトリにして主催のa flood of circleが15周年の記念ライブを自らの手で締めるべく登場。果たしてこの5組から受け取った溢れんばかりの愛をどういう形で返すのだろうか。
おなじみのSEで4人がステージに登場すると、佐々木亮介(ボーカル&ギター)はおなじみの黒い革ジャンで、青木テツ(ギター)は赤いシャツを着ているという出で立ちの中、開演を告げるバンドによるキメからスタートしたのは「Beast Mode」。Large House Satisfactionとの対バン「カントーロード」で「博士の異常な愛情」で始まっていたのは何だったのかと思ってしまうスタートであるが、「A FLOOD OF CIRCUS」の時もそうだったけれど、対バンの素晴らしいライブを見てきたことによってか、テツが序盤から本当に良い意味で荒ぶっている。積極的にステージ前まで出てきてギターを弾くというのもそうであるし、もはや叫んでいるかのようなコーラスもそうである。それはもしかしたら一緒にコーラスを歌うことができない我々観客の分まで、という意識もあったのかもしれないが、その気迫がきっと加入後のフラッドの最大の推進力であったはずだし、これからもそうであるはずだ。
「GIFT ROCKS」のライブであるだけに、間違いなくその収録曲、つまりはこの日の出演者の提供曲が演奏される機会になると誰もが思っていただろうけれど、早速亮介がギターを下ろしてハンドマイクで歌い始めたのはReiが提供した「I’M ALIVE」であるが、すでに「カントーロード」で2回演奏されているだけに、この亮介がハンドマイクで歌う曲の新しい定番になるような予感もしているが、
「黒い髪が音になびいて
ベースは走るよ ROLLING」
というHISAYOをイメージして書かれたとしか思えないフレーズではこの曲でコーラスを務めるHISAYOの方に近づいて歌い、
「白いファルコン かき乱して
魂はOVERDRIVING」
というフレーズでは「黒いレスポール」とこの曲でのテツの姿に変えて歌う。
「ライヴハウスの天井に
響く歓声 最高潮」
の「ライブハウス」を「STUDIO COAST」に変えて歌ったことも含めて、こうした「今この瞬間」を歌える曲であるということもこの曲がこれからもライブで演奏されていく要素の一つだと思えるし、フラッドの音楽やライブを
「君の歌がくれるのは 希望
明日を生きるため の魔法」
という歌詞にできるあたり、Reiもまた我々と同じ想いをフラッドに対して抱いているのだろう。
亮介がギターではなくタンバリンを手にして歌うのはこうした対バンが単なる祝祭の場ではなく、ちょっとでも油断したら他の出演者に持っていかれてしまう戦場であるという気合いを入れ直すような「Sweet Home Battle Field」であるが、この日は曲中にはタンバリンをテツの首元にかけ(割と早い段階でテツは袖に放り投げていたけれど)、亮介はハンドマイクを握って歌っていたが、コロナ禍じゃなければ客席の中に入ってきて支えられながら歌っていたんだろうなぁとかつてのこの曲での光景を懐かしく思う。そもそもコロナ禍じゃなかったら間違いなく客席に椅子もないだろう。
こちらも「カントーロード」の水戸LIGHT HOUSEですでに演奏されていたのは、SIX LOUNGEが提供した「LADY LUCK」であるが、音源で聴いた時から「SIX LOUNGEの新曲じゃん」と思うくらいにメロディにSIX LOUNGE節があるこの曲(それはやはりロックンロールバンドでありながらもブルースよりポップさを感じる)も、やはりフラッドがライブで演奏すると完全にフラッドの曲になる。それが本当に面白いし、フラッドによるカバーが「GIFT ROCKS」でのものもそれ以前のものもフラッドでしかないくらいにどれもハマっていたということを実感させてくれる。
そんな「GIFT ROCKS」の中でも最もフラッドらしくないというか、フラッドではまず形にならない曲なのがTHE BACK HORNによる「星屑のレコード」。
ジャズっぽさも含めた歌謡曲からの影響が強いからこそそう思うのかもしれないが、これはSIX LOUNGE以上に「THE BACK HORNの新曲」としてアルバムに入っていておかしくない曲だ。松田による歌詞も亮介とは違ったロマンチックさを感じさせるが、きっと「星屑」というテーマは「月」などを多くテーマにしてきたフラッドに合わせた部分も間違いなくあるのだろう。アレンジ、演奏も含めてバクホンのメンバーが「フラッドにこういう曲をやってもらったら面白そうじゃない?」と話し合っているバクホンのメンバーの姿が目に浮かぶようだ。それこそ「コバルトブルー」のような爆裂ロックンロールを提供しようと思えばそうできたはずなのに、敢えてこの曲にしたことも含めて。
その亮介の「月」をテーマにした曲は最近は「Honey Moon Song」がよくライブで演奏されてきたが、この日演奏されたのは亮介が
「十字路で出会った悪魔が」
と、マイクスタンドから離れてアカペラで歌い、それでもしっかりと客席まで届いていただけに、マイクを通して歌い、バンドが演奏することによってバラードなのに爆音で聴こえてくる久々の「月面のプール」。今この曲をやったのは出演者の誰かしらからのリクエスト的なものもあったのだろうか?とも思うけれど、フラッドの持つ激しいロックンロールだけではない、メロディの美しさという部分(それはこの日の出演者としてはピロウズから引き継いだものとも言える)を最大限に感じさせる名曲である。
そして亮介がこの日の出演者や観客に感謝を示してから、渡邊一丘が軽快なリズムを叩き出したのは、最後の曲あるいはアンコールあたりでやるものだと思っていた「世界は君のもの」。それは「カントーロード」で最後に演奏されていたからであるが、間奏では亮介に紹介されたテツが前に出てきてギターソロを決め、観客も飛び跳ねながらリズムに合わせて手を叩くのが最高に楽しい。どんな状況であっても、やはりこの曲がライブで演奏されている時だけは、世界はここにいる我々のものだっていつだって思わせてくれる。
すると亮介が
「まだ!」
と言って続けて演奏されたのは、ユニゾン田淵による提供曲「まだ世界は君のもの」。リズムも含めて「世界は君のもの」の続編としか言えない曲であるが、他の「GIFT ROCKS」の曲たちと違うのは、他の曲は仮にフラッドに提供されなくても本人たちの新曲として使えるであろう曲であるが、この曲はユニゾンでは絶対に使えない。フラッドの曲に対する田淵なりのアンサーの曲であるから。そこに今やあらゆるアーティストに曲を提供している田淵のフラッドに対するとてつもない愛情を感じる。
間奏では今度はテツだけでなく亮介も一緒に前まで出てきてギターを弾く中、
「今が最高なら 過去に間違いは無い
それは偽りなくロックンロールだったな」
という歌詞は田淵が亮介になり切って書いているようであり、
「ロックンロールだよな、そうだろ?」
というフレーズは田淵からの亮介への問いかけであるかのよう。こんな素晴らしい作曲家、作詞家がフラッドでしか絶対有り得ないような曲を作ってくれているというのが本当に嬉しいし、アウトロで亮介が「世界は君のもの」のフレーズを歌っているのを見ていたら、この曲を歌っている時もまた、世界はここにいる我々のものだと思わせてくれる。それはつまり、無敵な気分にさせてくれるロックンロールということだ。
そして最後に演奏された「GIFT ROCKS」の曲はthe pillows提供による「夕暮れのフランツ 凋まない風船」。この曲もまたすでに「カントーロード」の千葉LOOKで演奏され、ピロウズの新曲なんじゃないかというくらいにピロウズらしい曲であるが、
「まだ知らないストーリー 待ち構えてる
10年後もその先も 生きてる限り
ジタバタしてテリトリー 見極めたり
いやそうじゃない
果敢に欲望に手を伸ばしたり」
というフレーズはこの日の山中のMCに通じるものを感じさせる。つまりは山中はまだまだフラッドの可能性を信じてくれているということだろう。
亮介が
「SIX LOUNGEは生意気だぞ(笑)」
など、この日の出演者へのコメントを一言ずつ口にすると、
「時間は誰しも平等なくらいに不平等だ。じゃあどうする?行くしかないだろ!」
と言って最後に「シーガル」を演奏したのだが、この曲はTHE BACK HORNにおける「コバルトブルー」というくらいに数え切れないくらいに毎回ライブで演奏されてきた曲であるし、自分は今月ライブでこの曲を聞くのはもう3回目だ。
でも今月聴いた2回と全く違う様に聴こえてきたのは、亮介の言葉通りにその鳴らしている音や姿からバンドのその先へ向かう意思を感じるとともに、この日演奏された中で最も演奏されてきた曲だからこそ、15年のうちの12〜13年間という長い年月、このバンドと一緒に生きてきた、いつだってフラッドがライブをやって、この曲を演奏してきたからこそ、明日に向かって手を伸ばすようにして我々は生き続けてこれたのだ、ということが頭に浮かんできて、ついつい涙が出てしまった。
世の中には音楽やライブがなくても生きていけるどころか、むしろそうしたものの存在を「いらないもの」と認識している人がたくさんいるということが視覚化されてしまっているここ最近だ。
でも間違いなく、フラッドがこうして転がり続けていることが一つの生きる理由になっている。そうした、音楽がいらない、フラッドやロックンロールのことを全く知らない人よりも自分ははるかに幸せで、強く生きていられる力を得ることができている。笑顔になったり、涙を流したり、人間の持つ感情が自分にたくさんあると感じることができる。それが自分にとって証明された、15周年の「GIFT ROCKS LIVE」だった。何でこんなにも、というくらいに色々ありすぎるくらいにありすぎた15年だったけど、おめでとう、そして続けてくれて本当にありがとう。これからもどうかよろしく。
演奏が終わると亮介は出てくれたアーティストたちと観客たち、そして今年でなくなってしまうSTUDIO COASTへ感謝を告げた。4月にもここでワンマンをやっているし、10周年のツアーファイナルなどこれまでに何回もここでライブをしてきたが、初めてCOASTでフラッドを見たのはまだギターが曽根巧で、ベースが石井康崇だった頃に、ローディーの峰さんが自分が関わっているバンドを呼んで開催したフェスの時だった。
そのライブでは1番ペーペーだったために、楽屋が割り振られておらず、廊下に椅子が置いてあっただけだったと言っていたが、あれから10年以上経って、フラッドは間違いなくCOASTにふさわしいバンドになっている。だからこそここがなくなってしまうのが本当に悲しいけれど、この会場のさらに先の場所にフラッドが立てる日も本当に楽しみにしている。そこでまたここに負けないくらいの思い出や思い入れをたくさん作ることができたなら。
そんな、出演者からのフラッドへ、フラッドから出演者へ、フラッドから会場と観客へ。あらゆる方向における愛しかなかった1日だったし、それこそが今の音楽シーンの置かれている状況を打破する最大の原動力になるって信じている。
1.Beast Mode
2.I’M ALIVE
3.Sweet Home Battle Field
4.LADY LUCK
5.星屑のレコード
6.月面のプール
7.世界は君のもの
8.まだ世界は君のもの
9.夕暮れのフランツ 凋まない風船
10.シーガル
文 ソノダマン