カントーロード vol.18 a flood of circle / Large House Satisfaction 千葉LOOK 2021.8.17 a flood of circle, Large House Satisfaction, カントーロード
前日の水戸LIGHT HOUSEに続いての、a flood of circleとLarge House Satisfactionによる2マンライブ「カントーロード」。この日は千葉LOOKという自分にとってのホームと言える場所であり、この2組が対バンするのを初めて見た場所でもある。
検温と消毒、さらには個人情報の記入をしてから中に入ると、やはりドリンクがアルコール600円、ソフトドリンク400円が選べる千葉LOOKならではのドリンクシステムが問答無用でソフトドリンク400円のみになっているのがコロナ禍の悲しい現実を感じさせる。
千葉LOOKの名物店長のサイトウ店長による、事務的ではない、あらゆるアーティストに慕われるこの人ならではの前説から、最初のバンドへ。
・a flood of circle
セッティングしてあるステージを見ればすぐわかるのだが、この日は先攻がa flood of circleである。
おなじみのSEでメンバーがステージに登場すると、佐々木亮介(ボーカル&ギター)はこの日は黒い革ジャンという出で立ちで、
「おはようございます。a flood of circleです」
というおなじみの挨拶から、4人が音だけならずバンドとしての呼吸までも合わせるような「博士の異常な愛情」からスタートするというのは前日と変わらない。この曲が変わらないというのは少々意外ではあったけれど、それはそのまま近年は滅多にライブで聴くことがなかった曲がこうしてこれからもライブで聴けるということなのだろうか。いずれにせよ、最高のライブの着火剤的な曲の一つだ。きっとこの世の中の状況の中でライブをやるバンドも、それを観にくる我々も側から見れば狂っているから。正解はどっちだ。
前日は「The Beautiful Monkeys」という、音が鳴った瞬間にこの状況じゃなかったら客席の方へ突っ込んでいきたい衝動に駆られた2曲目がこの日はやはり青木テツ(ギター)によるイントロのギターと、そのイントロのブレイクで「The Beautiful Monkeys」と同様の衝動を与えてくれる「泥水のメロディー」に変化。亮介の
「生きている」
の咆哮はまさに今我々が生きていること、生きているから目の前でロックンロールバンドが音を鳴らしている姿を見れていること、それに生かされているということを強く意識させてくれる。インディーズ時代の、ごく初期と言ってもいい曲がこんなにも今この瞬間にリアリティを持って響くのは、フラッドが歌い続けてきたロックンロールが「今」を歌うものでありながらも、何年経っても色褪せない普遍性をも備えているからだ。それはサウンドこそ全く違うが、亮介が大好きなスピッツの音楽のように。
亮介がギターを下ろすと、前日にも演奏された「GIFT ROCKS」からReiが提供した「I’M ALIVE」へ。亮介は狭いLOOKのステージを歩き回りながら、
「ライブハウスの天井に」
というフレーズを
「千葉LOOKの天井に」
と変えて歌う。この曲は歌詞もReiが書いているのだが、
「黒い髪が音になびいて
ベースは走るよ ROLLING」
というフレーズは完全にHISAYOをイメージしたものであるし、実際に亮介もHISAYOの方を見ながらこのフレーズを歌っている。(なんならこの曲はメインコーラスもHISAYOだ)
そのフレーズを含めて「白いファルコン」など、この曲はReiが見たフラッドのライブのことをそのまま歌詞にしている。
「今 感じたい
今 伝えたい
今 愛したい 生きている軌跡(奇跡)
また会えますように」
という歌詞もそうであるし、そんな曲に「I’M ALIVE」というタイトルが冠されているのは、フラッドのライブがまさにそうした生の実感を感じることができるものであるということをReiがわかっているのである。そういう意味でも相思相愛なコラボと言えるし、亮介がハンドマイクで歌う最新のライブ定番曲になるのかもしれない。
「この千葉LOOKと水戸LIGHT HOUSEの店長から「カントーロードやるから出てくれ。対バンは誰がいい?」って言われて、ラージがいいって言ってこの2マンになった」
と、今回のこの2マンはフラッド側からの指名だったということが亮介の口から明かされる。それは亮介も今のこの体制でのラージとガッツリ2マンをやりたいという思いもあったということだろう。
すると前日はSIX LOUNGEが提供した「LADY LUCK」が演奏された場面で、この日はthe pillowsが提供した「夕暮れのフランツ 凋まない風船」を披露。文学的な歌詞とシンプルなエイトビートという、かつてフラッドがカバーした「Blues Drive Monster」以上に実にピロウズらしい曲だな、というのが「GIFT ROCKS」を聴いた時の感想であり、なんならピロウズの曲をフラッドが演奏して亮介が歌っている、という感すらあったのだが、こうしてライブで演奏されることによって、前日のSIX LOUNGEと同様に完全にフラッドの曲にしか聴こえないものになっているというのはもはや恐ろしさすら感じる。
そうなると「GIFT ROCKS」の曲たちはこれまでのアルバム以上にライブでフラッドが鳴らすことによって真価を発揮するのかもしれないし、まだライブで演奏されていないユニゾン田淵による「まだ世界は君のもの」、THE BACK HORNによる「星屑のレコード」も音源のイメージをライブが塗り替えるんだろうな、とその曲がおそらく披露されるであろう、月末の新木場STUDIO COASTでの「GIFT ROCKS」のリリースライブが楽しみになる。それと同時に、フラッドを何回も見てきたあのCOASTでフラッドのライブを見るのは今回が最後なんじゃないかと切なくなってもしまうけれど。
そして前日も演奏された「Blood & Bones」がさらなる生の証明としてバンドの演奏も観客の心境をも燃え上がらせてくれる。亮介は来るたびに千葉LOOKのことを「最高」と言ってくれるだけに、そうしたこの場所への想いがそのまま音になって現れているような。それは自分たちが今鳴らしている音だけがここで鳴っているロックンロールバンドだからであり、音楽は、ライブは技術で全てが決まるものではないということを示してくれる。フラッドは演奏も上手いバンドだけど、それを上回るものがあるから、こんなにも毎回ライブに足を運んでしまうのだ。
「昨日、ラージが先にライブやって終わって楽屋で自分たちのライブ映像を見ていて。反省会なんてやるタマじゃないだろうと思ってたら、自分たちのライブのどこが今日1番面白かったかっていうことを確認していた(笑)やっぱり最高だなって(笑)」
というラージへの最新の愛ある亮介のMCから、前日は演奏されなかった「Beast Mode」と、この日は前日にも増して完全にロックンロールモードで突っ走る。やはりこの曲はコーラスを我々ライブに来た観客が歌ったものを録音したという経緯があるからか、声を出して歌うことができないのが実に辛くなるのだが、間奏部分で亮介とテツが揃って前に出てきてギターを弾く姿のカッコよさがネガティブな気持ちを吹き飛ばしてくれる。
そして、
「俺たちとあんたたちの明日に捧げる!」
と言って演奏されたのはイントロで観客が千葉LOOKの低い天井に頭をぶつけてしまうんじゃないかと思うくらいに飛び上がる「シーガル」であるが、テツがイントロからこの日のライブの手応えを確信するように右腕を高く挙げると、
「夢から覚めて 外へ出たんだ」
から始まるCメロで亮介の歌と渡邊一丘のリズムが明らかにズレる。亮介も「あれ?」というような顔を浮かべてもいたが、そのズレを「こうなるならこうしてやる!」とひたすら激しくドラムを連打することによって力技で一丘がねじ伏せてみせる。ある意味では普段とは違う形だけれども普段よりもカッコいい「シーガル」だったかもしれないというくらいに自分たちの鳴らす音の漲りによってマイナスになってしまいそうなものをプラスに変えて見せた。本当に凄いバンドだと数え切れないくらいにライブを見てきてもまた改めてそう思う。
一丘の鳴らす軽快なリズムに合わせて客席からは手拍子も起こる中、
「忘れないでくれ。どんな時代だって、世界は君のもの!」
と言ってこの日も最後に演奏されたのは「世界は君のもの」。最後のサビ前にはHISAYOも右腕を高く挙げ、そのうねりと跳ねを両立させたリズムで観客は飛び跳ねまくる。ネガティブなことばかりあるけれど、こうしてフラッドがライブをやってくれて、この曲を聴けているうちはまだ大丈夫だって思える。きっとバンド側もどんな状況になってもライブを止めるつもりはないだろうから、そこだけは失われないように、我々も失くしてしまわないように。
1.博士の異常な愛情
2.泥水のメロディー
3.I’M ALIVE
4.夕暮れのフランツ 凋まない風船
5.Blood & Bones
6.Beast Mode
7.シーガル
8.世界は君のもの
・Large House Satisfaction
この日は後攻、この2日間の「カントーロード」を締め括るべく登場した、Large House Satisfaction。前日とメンバーの出で立ちが全く変わらないという潔さである。
「Large House Satisfactionです。始めましょうか」
と小林要司(ボーカル&ギター)が一言挨拶すると、この日は漆黒のダンスナンバー「トワイライト」からスタートと、こちらはセトリ、順番はガラッと変わるようだ。とはいえ要司の美しい獣の咆哮のようなボーカル、SHOZOの細かく刻む手数ながらも思いっきりぶっ叩くドラムと、メロディアスな曲でありながらもこの日ものっけから完全に爆音のロックンロールである。
「髪の毛にゴミついてるけど」
「靴下穴空いてるけど」
というラージなりのシュールな歌詞で吠えまくる「偉そうにすんな」と続くと、亮介から前日のライブ後に映像チェックしていることを明かされた要司が、
「リハの時から気付いてましたが、やっぱり千葉LOOK最高ですね。
フラッドの亮介が「ラージと一緒にやるとどんな音を出しても小さく聞こえちゃう」って言ってたけど…お前たちも音でけーから(笑)」
と彼なりのフラッド、そして爆音でロックンロールを鳴らすというバンドへの最大限の賛辞を口にすると、前日には演奏されなかった「タテガミ」を演奏していたあたりも含めて、この日はややメロディアスな曲を中心にしたライブになるのかなとも思っていたけれど、この日もスーパーサポートドラマーSHOZOが立ち上がってバスドラを踏み、思いっきりドラムをぶっ叩きまくる「Traffic」で要司が2コーラス目のコーラスを歌わずに観客に預けると、当然ながら歌声は聞こえてこないのだが、
「千葉LOOKの魂の歌声、確かに感じました!」
と言って、次の瞬間には立ち上がっていたSHOZOが思いっきり振り下ろす、ドラムに倒れ込むようにして爆音のキメが打たれて間奏へと突入していくのだが、その瞬間の震えるようなカッコよさたるや。この3人でのラージが間違いなく過去最高のカッコよさを更新していることがわかる瞬間だ。間奏で賢司がベースのネックを要司の脇に挟もうとしているのも含めて。
要司「昨日、水戸でもフラッドと2マンやって。良いホテルに泊まらせてもらって。全部点けても間接照明かってくらいに暗い部屋で(笑)」
賢司「(めちゃ似てる千葉LOOKサイトウ店長のモノマネで)
「あー、もしもし?フラッドが対バンやるって言ってて、出て欲しいんだって!日程この日なんでよろしく!」
まだ出るって言ってないのに(笑)」
と小林兄弟のライブでの獰猛さとは真逆の朗らかな人間性を感じさせるMCには
要司「フラッドは本当に強くてカッコいいバンドだなと。正義の味方みたいな。俺たちはそうはなれないから、悪役でいいんで。悪役は物販もありません(笑)」
とフラッドを評するものもあったのだが、それは亮介と一丘が20歳の頃からフラッドと一緒にライブをやっていて、今のようなバンドになる過程も見てきて、その中で何度もイベントや対バンに呼んでもらってきたバンドだからこそ言えることだ。表裏一体というのは言い過ぎかもしれないが、これからもこのロックンロールヒーローと悪役の対バンが何回も見れますように。
最近のライブでは毎回演奏されている新曲で再び獰猛さよりもこのバンドの持つメロディアスな部分を垣間見せると、そのメロディアスさとロックンロールバンドの獰猛さが同居した「20000V放電」での要司の
「何もかも 消えちまえ」
という魂の咆哮が今この状況ゆえにグサリと心に刺さる。本当に、コロナもそれゆえに生じる様々な人間同士の諍いやそれによる精神の痛みも疲労も、何もかも消えちまって、誰もがこういうロックンロールを何にも難しいことを考えることなく楽しむことができればいいのに。
再びSHOZOが立ち上がって、要司も「阿波踊り」と認める祭囃子のビートを叩き出す「ラリンジャー」で激しさも熱さもさらなる沸点を迎える。阿波踊りを踊るにもあまりに激しすぎ、速すぎ、爆音過ぎるビート。それを担うSHOZOの姿を見ていると、こんなにとんでもない技術とパワーを持った、一目で超人ドラマーだとわかる男が、なぜそんなに有名なわけでもないラージで叩いてくれているんだろうか、と思うけれど、こうして2日間ライブを見ていて、きっと小林兄弟とウマが合うからこそ一緒にいてくれるんだろうなと思う。このバンドでライブをしている、ドラムを叩いているのが実に楽しくて、自分に合ってるということをわかっているような。SHOZOがこうして叩いていることで、ラージが本当にカッコいいバンドだと少しでも多くの人に思ってもらいたいと思う。
そしてラストは賢司の地を這いずるようなベースの上を要司の咆哮が暴れ回る「ドッグファイト」で自分たちの生き様=ロックンロールをやって、ライブをやって生きていくということを見せつけ、一瞬ブレイクしてからは耳がこれでおかしくなってももうしょうがないな、と思ってしまうくらいの爆音をぶち撒け、曲が終わった瞬間にステージを去って行ったが、3人の表情は清々しさに満ちていた。ちゃんと、自分たちがやりたいことを、やりたいようにできているというような。
この日もアンコールはなし。それはこの状況下ゆえに20時で完全閉店するという形で営業している千葉LOOKだからこそ。フラッドもラージも千葉LOOKもロックンロールそのもののような存在だ。そんな人たちが今の状況でライブをやっていくために、決められたルールを守り続けている。サイトウ店長は開演時間が早くなったことを謝っていたが、その姿勢を心からカッコいいと思うし、それも含めてやっぱりロックンロールは最高にカッコいいと思うのだ。
感染しないことを考えたら家から全く出ない生活をした方がいいだろう。でもそうもいかない。仕事をするには外に出なくてはいけない職がたくさんあるし、それができないなら職を変えろという声はその職業への冒涜でしかない。
ロックバンドもまた外に出て、ライブをしないと生活していけない職種だ。ましてやフラッドもラージも何年もライブをやらなかったり、配信ライブで生活していけるような立ち位置のバンドでもない。
そんなバンドがこうしてライブをやるという選択をしたことを、心から肯定してやりたい。それを最も示せるのはこうして実際にライブを観に行くという選択をすることだと思っている。
千葉LOOKのキャパですら中止にしろと言ってくるような人がいるかはわからないが、そう言う人に救われることは一生なくても、フラッドやラージがライブをやることによって救われている人は間違いなくいる。それは自分や、この2日間のカントーロードに参加した人がそういう人たちだからだ。それにMCなどでは絶対に口にしないけれど、自分たちがライブをすることによって生活していくことができる人たちが周りにいることもわかっているはず。そんなバンドを肯定できるのであれば、これからも健康でい続けて、ライブに行き続けようと思う。このバンドの音楽とライブは、
「君の歌がくれるのは希望
明日を生きるための魔法」
だからだ。
文 ソノダマン