ロックフェスのDJなどでもおなじみのお笑いコンビ・ダイノジが全面的に協力しているフェス、マグロック。静岡県の清水市にある、サッカーチーム清水エスパルスの施設のすぐ隣、海に面した特設会場で行われるというロケーションは風とともに潮の匂いが感じられる爽やかさ。
2daysのうちの2日目となるこの日は曇り予報を跳ね除けての快晴。それによって10月とは思えない、夏フェスのような気候に。
会場は本当に海に面しているというか港であり、普通にすぐ横に船が停泊していたりするような場所。ステージはその中の広場に組まれており、客席左右にはレンガ作りの城壁があることで、野外フェスには珍しく上からライブを眺めることもできる。
開演前にはダイノジの2人が静岡テレビのアナウンサーとともに登場して前説。
大谷ノブ彦「謹慎期間終わったんですか?」
大地洋輔「闇営業してねーわ!(笑)」
というさすがの漫才のようなやり取りもあり、最後には大地の「ベストテン時代のマッチ」の持ちネタも披露されるというサービスっぷり。昔、クラブチッタ川崎で「ダイノジロックフェス」という主催フェス(銀杏BOYZなんかも出ていた)でもネタをやっていたことを思い出した。
11:00〜 サイダーガール
そんな海のすぐ脇で突き抜けるような青空という最高のロケーションでのトップバッターはサイダーガール。このフェス初出演である。
普段はメンバーが顔出しをしていないバンドなので、Yurin(ボーカル&ギター)、知(ギター)、フジムラ(ベース)の顔が見えるのはライブのみ。しかもステージ下手にある、転換中に協賛企業のCMが映し出されるスクリーンにも顔から下しか映さないという徹底っぷり。割と3人はいたって普通の顔立ちをしている(会場を歩いていても気づかないくらいに)のだが、そのミステリアスさが人気につながっている部分もあるのかもしれない。
「初恋は三遊間抜けて僕は一塁踏んだ」
という野球ファンとしてはその歌詞の描写力に思わず「素晴らしい!」と唸ってしまう「エバーグリーン」から爽やかなギターロックを鳴らしていくのだが、まさにサイダーのようなその爽やかさはこの10月とは思えない夏フェスのような暑い気候に実によく似合っているというか、まるでこのシチュエーションはこのバンドの音楽が呼んだんじゃないかと思ってしまうほど。
祭囃子のようなダンサブルなリズムに合わせてギターを置いたYurinがハンドマイクを持ってステップを踏むようにして歌う「ぜったいぜつめい」ではそのYurinの動く足元にカメラがフィーチャーしていくのが実にシュールで、黒い靴を履いているのも含めてまるでダンサーが踊っている時の足元を見ているかのよう。
フジムラがダイノジ大地のマネをして「ボヘミアン・ラプソディー」のフレディ・マーキュリーの
「エーオ!」
のコール&レスポンスをするのだが、明らかにそうしたことをするのに慣れていないのがありありとわかってしまうクオリティ。
そんなくだりもありながらもMCはほどほどに、短い時間の中に曲を目一杯詰め込んでいく。「ドラマチック」「約束」というバンドにとって代表曲と言える曲たちはタイトルを告げただけで客席から大きな歓声が上がり、その曲をひたすら詰め込むというスタイルが間違いなくプラスになっていることを伺わせるし、こうした曲たちを聴いていると青春時代を思い出すかのようでもあり、まるで自分が10代の頃に戻ったかのような感覚に陥る。それくらいにこのバンドの音楽にはそうした「青春」や「青さ」という感覚を呼び起こしてくれる。
そしてラストは再びYurinがハンドマイクを持ってコーラス部分を観客に合唱させる「メランコリー」。そうして観客のテンションを上げてその空気を一つにしていく。このバンドがこのメンツの中でトップバッターで出演した理由がよくわかるような盛り上がりっぷりだったが、そこからはこの日、というかこのフェスの参加者が持っている力も感じさせてくれるものだった。
この会場は客席が大きくわけて前二つ、後ろ二つに分かれているのだが、トップバッターにしてその前方ブロックはほとんど満員だった。三遊間抜けて、というよりもそのはるか上に見える青空に向かって左中間破るかのようだった。
1.エバーグリーン
2.クローバー
3.ぜったいぜつめい
4.ハートビート
5.ドラマチック
6.約束
7.メランコリー
12:00〜 BURNOUT SYNDROMES
サウンドチェック時からステージの両サイドには白と黒のバンド名の描かれた幕が置かれてこのバンド仕様のステージに変わっていく。文學系スリーピースギターロックバンドBURNOUT SYNDROMES、このフェス初出演である。
3人がステージに登場すると、いきなりヘッドマイクをつけてコーラスとMCをするベーシストこと石川大裕がタオルを回すことを煽る「世界を回せ」からスタートし、早くも客席では城壁の上から見ている人までがタオルを振り回し、その気候と相まって景色は完全に夏フェス。
ピアノを弾くメンバーはいないものの、タイトル通りにピアノの音がフィーチャーされ、熊谷和海(ボーカル&ギター)の音階に乗せた
「ドレミファソラシ」
というサビのフレーズが楽しい「PIANOTUNE」と、熊谷の描く歌詞は「文學系」と称される通りに、こうした夏らしい野外というシチュエーションからは距離がある、脳内で考えさせられるようなものであるが、それをこの規模に見合うものにしているのは曲のスケールの大きさとメンバーの演奏による拓けっぷりである。石川は絶えずステージを動き回りながらベースを弾き、その石川とともに廣瀬拓哉の力強いドラムがその土台を支えている。
もはやMCというよりも総合司会のようにライブの流れを仕切る石川がなぜか観客に旗揚げゲームをやらせたかと思うと、最初はゲームに参加していなかった熊谷も含めてセクシーポーズを取らせるというわけのわからない流れになるのだが、結果的にその旗揚げゲームは最新シングル曲「Good Morning World!」において観客の両手を拝借するという形で使われる。早くもライブにおけるキラーチューンになりそうなくらいの演奏力も含めて、このライブに向けて入念な準備をしてきたのがわかる。
それは石川のMCにおいてもそうで、
「みなさん1人1人のことをマグロのごとくに一本釣りして、地元の大阪に大漁旗を持って帰りたい」
というこのフェスに合わせたMCはもはや名人芸レベル。
しかし話だけではなく演奏も実に上手いし、ラストの「FLY HIGH!!」「ヒカリアレ」というアニメのタイアップでこのバンドの存在を世に知らしめた2曲は観客たちも「待っていた!」という空気で迎え入れていた。静岡でライブをするのは意外にも初めてだったらしいが、静岡の人たちにもこのバンドの音楽はしっかりと届いていて、来てくれるのを待っている人たちがいた。
演奏が終わると3人がステージに並んで挨拶するのだが、なんとこの日は夜にも大阪でライブがあるためにすぐに船に乗って移動しなければならないというハードスケジュール。しかしそんな状況であっても石川はライブ後に物販に立つことを明言した。その言葉に、このバンドのことを熱量高く追いかけている人たちがたくさんいるのがわかった気がした。
実は自分は2015年に「文學少女」というミニアルバムをリリースした直後に渋谷の小さいライブハウスでこのバンドのライブを見ている。その時もライブは良かったけれど、こうしてこの規模に立つことを想像できるかと言われたらそこまでではなかった。
しかし去年のロッキンで久しぶりにライブを見たら、まるで別バンドなのかと思うくらいにライブが(石川の司会っぷりも)はるかに進化していた。その姿からはその間にこのバンドがどうやって生きてきたのかが実によくわかったし、できることならタイアップアニメを見ていた人以外の人にも届いて欲しい。
年末にはなんとZepp Tokyoでワンマンを行うことを発表しているが、今のこのバンドはその規模に立つべくして立とうとしているバンドになっている。
1.世界を回せ
2.PIANOTUNE
3.Good Morning World!
4.FLY HIGH!!
5.ヒカリアレ
13:00〜 フレンズ
2年ぶりのこのフェス帰還となる、フレンズ。この日はベースの長島涼平はthe telephonesとのダブルヘッダーでの出演となる。
白い衣装を着たおかもとえみ(ボーカル)を筆頭に5人がステージに登場すると、そのおかもととバンドのムードメーカーでありスポークスマンであるひろせひろせ(ボーカル&キーボード)のボーカルが絡み合う「ビビビ」からスタートし、快晴の真昼間にもかかわらず演奏された「夜にダンス」で海辺というシチュエーションをアーバンな空気に変化させていく。いつでも短パン姿の三浦太郎が踊ったりステップを踏みながらギターを弾いているのも楽しいし、涼平と関口塁(ドラム)はその姿を見て笑っている。
9月にプチアルバム(このバンドはミニアルバムのことをそう呼んでいる)がリリースされたばかりということでその中から最新曲「take a chance」も演奏されたが、ジャンルとしてはJ-POPを標榜するこのバンドらしいポップさ、キャッチーさはあれど今までのこのバンドのどの曲とも違うタイプの曲。それは仲が良いながらもそもそもの音楽性は全く違うこの5人だからこそ生まれるものなのかもしれない。
the telephonesだと埼玉という地名がフィーチャーされがちだし、実際に本人も埼玉県北本市という場所の観光大使的なこともやっているのだが、実は静岡県浜松市出身で「鰻で育ってきた」という涼平が
「今日静岡の人って多いの?じゃあ浜松のパルパルって知ってる人いる?おー、いっぱいいる!でも埼玉でパルパルって言うとバカにされるんだぜ!(笑)」
と静岡出身ならではのトークをするのだが、静岡県民ではない人もたくさんいたためかかなりスベり気味になってしまっていた。
そんなこともありつつも終盤は「iをyou」「地球を超えても」という今年リリースの曲たちでバンドの現在進行形を見せた。これまでは「Love, ya!」という夏らしいキラーチューンを最後によくやっていたし、実際に春フェスあたりまではそういう流れだったけれど、今のこのバンドはそうした部分を更新するべく新しい曲をガンガンライブでやって育てていこうとしている。NHKホールでもワンマンをやったし、改装した渋谷公会堂でのワンマンも控えている。自ら神泉系を名乗るバンドはその卓越したポップセンスでもって着々と根城である渋谷を制圧しつつある。
ひろせはこの日、MCで
「このフェスは俺たちがただいま!って言える場所。そういうフェスだから来年以降も続いていきますように!」
と言っていた。今年の開催前から来年やれるかどうかはわからないとダイノジも盛んに言っていたが、この場所が大事な場所になっているバンドもたくさんいる。それはこの後に出てくるバンドたちもその思いを受け継ぐようにそのことを口にするようになるのだった。
リハ.塩と砂糖
リハ.Timing 〜タイミング〜
1.ビビビ
2.夜にダンス
3.take a chance
4.iをyou
5.地球を超えても
14:00〜 teto
こちらはこのフェス初出演のteto。今年も様々なフェスに出演してきたが、この日が今年の野外フェス納め。今月待望のニューアルバムのリリースが控えているというタイミングである。
サウンドチェックでメンバーが全員登場していたのでその時からわかっていたが、SWEET LOVE SHOWERの時までは金髪だった小池貞利(ボーカル&ギター)の髪が黒に戻っている。逆に山崎陸(ギター)はキャップを被ってはいるが普通の坊主っぽい黒髪。
「tetoです!」
と小池が挨拶するやいなや、ノイジーなギターの音が会場にこだまする中で小池はいきなりステージを飛び降りて客席に突入して「高層ビルと人工衛星」のサビのフレーズを歌い始める。一応このフェスはダイブが禁止されているフェス(足元がコンクリートなので危険という理由もあり)なのだが、この男にはそれは通じないようだ。すぐさまステージに戻ったかと思ったらまたすぐに飛び降りて客席に突入したりと実に忙しいパフォーマンス。
その小池は普段からマイクスタンドを自ら持ち運んで歌う位置を変えたりするのだが、この日も「拝啓」でそうして上手の山崎の方にマイクスタンドごと持っていって歌うかと思ったら、マイクスタンドからマイクが落ちるというアクシデントが。当然ローディーがマイクをスタンドに付け直すまでは歌が聞こえなくなるわけだが、そうした部分に至るまで本当に人間らしさしかないバンドだな、と思う。そうして毎回ライブが変わるのはその日によって感情が違うから。感情が変わるのは機械じゃなくて人間だから。そうした姿に毎回見ていて感動してしまう。
そして小池は最後の
「拝啓 今まで出会えた人達へ
刹那的な生き方、眩しさなど求めていないから
浅くていいから息をし続けてくれないか」
というフレーズ部分で
「長生きしてください!」
と簡潔に叫ぶ。自身が書いた歌詞をまとめるとそういうことになるのだが、それは即効性の高さが求められるライブならではだ。
小池がギターを掻き鳴らしながら言葉数の多い歌詞を歌う「Pain Pain Pain」ではハイトーンのコーラスも務める佐藤健一郎(ベース)と福田裕介(ドラム)によるリズム隊がさらに曲にスピード感をもたらしていき、小池は再び客席に突入していく。今年の夏の最後にこの場所で衝動を全て燃やし尽くすかのように。
「10月23日に15曲入りのニューアルバムを出すんですけど、その中でラジオとかでかかったり、youtubeで観れるのはいわゆるリード曲っていう2〜3曲で。だから15曲入りのアルバムを作ってもその2〜3曲以外の曲はなかったことみたいになっちゃって、だからどれだけインターネットが普及してもCDを手にしないとわからないことがあるし、それ以外の12曲とかもリード曲と同じくらいに心血注いで作ってるわけです」
と小池がアルバムの告知とともに現代においてはかなりのボリュームである15曲入りのアルバム「超現実至上主義宣言」のCDに込めた思いを打ち明け、アコギを手にすると
「夏フェスどこにも行けなくて今日だけっていう人もいっぱいいるでしょう!
この静岡県が47都道府県の中で1番の光るまちでありますように!」
と言って「光るまち」を演奏。小池の弾き語りから始まり、途中から轟音のバンドサウンドが加わり、その上を
「光るまちに行こう 光るまちに行こう」
というフレーズが乗るカタルシスは間違いなくこの瞬間に静岡が光るまちになって輝いていた。
どうやら小池はセトリを勘違いしていたらしく、「光るまち」を終えてステージから去ろうとしたのだが、さすがにそれは短すぎるだろうと思っていたらアルバムに収録される新曲である「コーンポタージュ」をメンバーに呼び止められるようにしてから演奏した。その歌詞を噛み締めながら、こんなにも暑いこのフェスが終わったらあっという間に冬が来るんだろうな、と感じていた。8月の終わりのラブシャの時に最後に演奏したのは「9月になること」だったから。最後の曲が変わるとその日のライブの印象はガラッと変わる。
2018年の自分の年間ベストディスクはtetoのフルアルバム「手」だった。それからわずか1年でのフルアルバムのリリース。この日演奏した「コーンポタージュ」「光るまち」を始め、先行リリースされた「夜想曲」「時代」、ライブですでに演奏されている「ねぇねぇデイジー」…その1曲1曲のクオリティを考えれば2年連続でこのバンドのアルバムが年間1位になる可能性は充分ある。何よりこのバンドのアルバムにはライブの熱量がしっかり封じ込まれている。「光るまち」のバンドバージョンがどうやって音源に落とし込まれているのか本当に楽しみだ。
リハ.暖かい都会から
リハ.忘れた
1.高層ビルと人工衛星
2.拝啓
3.Pain Pain Pain
4.光るまち
5.コーンポタージュ
16:00〜 the telephones
この日は涼平が先にフレンズで出演した、the telephones。活動休止していたこともあるが、このフェス初出演。活動再開した今年は春から様々なフェスに出まくっていたが、その終着点がこのフェスになる。
サウンドチェックにメンバーが出てきた時からそうだったのだが、「Happiness, Happiness, Happiness」のSEが流れておなじみのアフロカツラを被った4人がステージに登場すると、全員衣装が公式物販で販売されている、清水エスパルスとのコラボシャツを着ている。これまでに地元である浦和レッズとのコラボグッズを作ってきたバンドなだけに「これはいいのだろうか?」と誰もが思っていたはずだが、普段はそれぞれのキャラクターに合わせた衣装なだけに、全員が同じ服を着ているライブというのはかなりレアである。
「みんな、猿のように踊ろうぜー!」
と石毛輝(ボーカル&ギター)が叫ぶと、いきなりの「Monkey Discooooooo」、さらには「I Hate DISCOOOOOOO!!!」とロックかつパンクなディスコシリーズを2連発。持ち時間が短いだけに、こうした代表曲というか定番曲が並ぶライブになるのは想定内だが、客席の盛り上がりが凄まじい。前方ブロックは完全に満員だし、きっと全員が全員the telephonesの存在や曲を知っているわけではないだろうけれど、激しいモッシュに加えて大きなサークルも発生して、みんな楽しくぶつかり合っている。
アラバキの時も復活したこのバンドに対する「ずっと待っていた」という感覚を感じたけれど、あれはtelephonesのフェスの規模感からするとかなり小さいステージだったからこそというのもある。でもそれの何倍でもあるこの規模でこんなに盛り上がっているというのは、「待っていた」という感覚よりも「目の前で鳴っている音とメンバーの姿にダイレクトに反応している」という感じだ。メジャーデビュー10周年、こうしてフェスに出るようになってからも10年経ったが、初めて訪れたこの場所はこの時点で間違いなくバンドにとってホームと呼べる場所になっている。ファンとしては完全にホームとは言えなくなったように感じたフェスのライブもあっただけに、この光景は本当に嬉しかったし、telephonesの音楽は今でもこうしてたくさんの人を巻き込んで楽しませることができる。それを確信できた瞬間だった。それはこのフェスの観客が持つパワーによるもの。
「electric girl」ではこのバンドの持つ「ダンス」の部分を担う涼平が自身のベースでグルーヴを生み出したかと思いきや、先程のフレンズの時のMCを
石毛「パパスだっけ?」
涼平「パルパル!」
石毛「ドラクエが好き過ぎるから間違えた(笑)(ドラクエVの主人公の父親の名前がパパス)」
と案の定いじられると、石毛による
「ウィーアー!」「ディスコ!」
のコール&レスポンスも凄まじいテンションで響く。
telephonesはそうした観客のエネルギーを自分たちの力に変えることができるバンドであるが、その力を演奏ではない方向に発揮したのがノブ。「urban disco」でステージから飛び降りて客席の間の通路を走り回ると、そのまま客席後方から城壁の上にまで登るという、このフェス史上こんなことをした人がいるんだろうかという驚愕のパフォーマンスを見せる。
なので「urban disco」の演奏中はひたすら客席を走っていたノブがステージに戻ってくると、最後は「Love & DISCO」。おなじみの曲のようでありながら、実は初めて出演したフェスではやらない時もある。それでもこのフェスでやった理由はダイノジがDJとしてこの曲を愛してきてくれたからだろう。実際、石毛が呼び込むとダイノジの2人とダンサーたちが登場して、この日このフェスでしか見れない幸せな光景を生み出した。好きな人たちがこうして一緒にステージに立っている姿を見ることができる。今まで数え切れないくらいに感動をもらってきたこの曲にまた今まで味わったことのない感動をもらった。
石毛はこの日MCで、
「また来年以降もずっとこのフェスが続いて欲しい。また来年も出たい」
と言った。それは一見当たり前のことを言っているように見えるが、telephonesはメジャーデビュー10周年イヤーだからこそ今年こうして活動しているが、来年以降のことをまだ何も発表していない。
だから8月にTHE BAWDIESと対バンした時にROYに
「来年どうするのか?」
と尋問されていたが、それすらも
「12月のZepp Tokyoのワンマンに来てくれたらわかる」
とはぐらかしていた。
でもこの日の石毛の言葉からは今年限定ではなく、来年以降も確かにtelephonesが続いていくことを感じさせた。そう口にしたくなってしまうくらいに、この日のこのフェスはtelephonesにとってまた帰ってくるべき場所になっていたし、彼らのことを追いかけてきた身としても、また来年ここでtelephonesのライブが見たいと心から思った。
リハ.A.B.C.DISCO
1.Monkey Discooooooo
2.I Hate DISCOOOOOOO!!!
3.electric girl
4.urban disco
5.Love & DISCO w/ DJダイノジ
17:00〜 ポルカドットスティングレイ
ここからはかつてもこのフェスに出演したことのあるバンドたちが次々に登場する。ついさっきまでの炎天下はどこへやら、いきなり雲に覆われてきて暗くなってきた空の下に登場したのはポルカドットスティングレイ。ライブを見るのは1年半前にVIVA LA ROCKで初めてライブを見た時以来である。
SEが流れる中でメンバーが登場すると、このバンドの首謀者である才女・雫(ボーカル&ギター)が音に合わせて手で顔を覆うようにしてマイクスタンドの前に立って、「ヒミツ」からスタート。続く「ICHIDAIJI」も含めてカッティングギターを軸にしたギターロック曲を連発していく。
4つ打ちのリズムながら狂乱のダンスチューンというよりは浸るように体を揺らすような「BLUE」に続いては翌週にリリースが迫った新作ミニアルバム「ハイパークラクション」から「オトシマエ」を披露。観客に
「新曲聴きたいか?」
と煽ってから演奏するあたりにこの新作への自信が窺えるが、ライブを見ていて前に見た時よりも「ちょっと変わったな」と思った。
もともとデビュー時から演奏力は高かったバンドであるが、演奏力が高いがゆえか、前に見た時はライブがあまりにキッチリとし過ぎていて、人間らしさを感じることが出来なかった。それはこの日先に出演したtetoとは真逆と言っていいようなライブであって、自分はどうしてもそこにライブを見ることの意味やカッコよさを見出すことができず、曲が良いだけにすごくもやっとしてしまったのだが、この日は雫がいたる場面で叫んだりするように歌っていたし、何よりもウエムラユウキ(ベース)とミツヤスカズマ(ドラム)のリズム隊が「テレキャスター・ストライプ」で顔を見合わせながら音源とは異なるアレンジを加えたりしていた。
そうした姿がかつてとはかなり違う印象を与える。前に見た時は申し訳ないことに40分の持ち時間があったにもかかわらずメンバーの演奏している姿を全く覚えていない。でもこの日の演奏するメンバーの姿は覚えている。それは見たのがつい数日前だからという理由ではなくて、その演奏する姿から人間らしさを感じるようになったから。
それなりに雫のMCの尺は長かったし、ライブではおなじみのセイイエスマンも登場したが、ライブの軸はそこではなくてあくまで楽曲だった。フェスだからというのもあるが、エンターテイメント要素よりも音楽が自分がライブに望む1番大事なもの。音楽が最高のエンターテイメントだと思っているから。いろんなアイデアを持っているこのバンドにとってもそうであって欲しいし、
「静岡は前のツアーで1番キャパが狭いライブハウスだった」
と言っていたライブの経験がこのバンドのイメージを変えたのは間違いないだろうし、あの時にこういうライブを見ていたら自分のこのバンドに対する見方はだいぶ違っていたと思う。前に見た時はなんでみんなが盛り上がっているのかが全く分からなかったが、この日は少しわかった。リズムに合わせて自分の体が無意識のうちに確かに動いていたからである。
正直、フラットな目線で見るには自分にはこのバンドはちょっと色々あってしまった。だから見るのがちょっと怖かった。また前と同じようなことを思ってしまったらそれをどうやって言葉にすればいいのか。見て感じたことをそのまま自分で言葉にする、無理矢理持ち上げたり、思ってもいないことを書かない。それが自分がこうして音楽について書くに当たって自分の中に設けたルールだ。
なのでなかなか他の参加したフェスに出演していても、被っているバンドを見ずにこのバンドを見るという選択ができなかったし、このフェスに来なかったらずっともうライブを見ないままだったかもしれない。でもこのフェスにこのバンドが出演して、ステージが一つしかないからこそこうしてまたライブを見て、前よりもはるかに良い印象を持つことができた。そのキッカケをくれたこのフェスやダイノジには本当に感謝しかない。
やはりこのバンドの思想やスタイルに自分は100%理解や共感をすることはできない。このバンドにはこのバンドの信じるロックというものがあって、自分には自分の信じてきたロックというものがある。そこにははっきりとした違いがあるから。
でもどんなに考えることが違っていても、音楽とライブの良さというのは絶対に変わらないと思っている。いつかこのバンドのライブを見て脳内に衝撃を受けるくらいにカッコいいと思たら…って思っている。
リハ.パンドラボックス
1.ヒミツ
2.ICHIDAIJI
3.BLUE
4.オトシマエ
5.テレキャスター・ストライプ
6.DENKOUSEKKA
7.エレクトリック・パブリック
18:05〜 クリープハイプ
青空と青い海が見えていた昼間からかなり時間が経ち、完全に暗闇と黒い海。それはステージからはどんな風に見えるのだろうか。かなり風も強くなってきたが雨は降っていない。そんなタイミングで登場するのはクリープハイプである。
サウンドチェックでもメンバーが曲を演奏して観客を喜ばせていたが、SEもなしに4人がステージに現れると、尾崎世界観がギターを鳴らしながら歌い始めた「栞」からスタート。春フェスでは最後に演奏されていたが、夏になってからはこうして最初に演奏されるようになった。どちらにしても今のクリープハイプには間違いなく欠かすことのできない曲だ。尾崎は曲中に
「やっと出れた!」
とこのフェスへの思いを口にするが、初出演ではなく過去に出演したことがあって、ずっとまた出たいと思っていたからこそこうして出れるのが嬉しいとのこと。
ライブならではのイントロのアレンジがより一層楽しく飛び跳ねさせてくれる華やかなホーンのサウンドが入った「イト」ではサビ終わりで尾崎が音源よりもはるかに長く音を伸ばすように歌う。かつて
「尾崎の喉は壊れてしまったのか?」
と言われるくらいに声が出ていない時期があったのは幻だったかのように今は物凄く声が出ているし、やはりそれによってライブそのものも格段にクオリティと安定感が向上している。
「ラブホテル」では最後のサビ前のブレイクで尾崎が
「もう10月だから完全に秋だけど、今日までは夏だな」
ということで安心して全てを「夏のせい」にしていく。そうできるのも今年はきっとこの日が最後だろう。
長谷川カオナシ(ベース)がメインボーカルを務める「火まつり」では
「静岡県の名物であるおでんにも火というものは欠かせないものですが、世の中には必要のない火もあります。インターネットの炎上の歌を」
とその独特な色気を醸し出すボーカルだけではなく前口上すらもキレイに決めてみせ、尾崎は前述のとおりにこのフェスにこうしてまた出たかったことや来年以降もこのフェスに出たいからこのフェスが続いて欲しいということを口にすると、
「真面目な話をした後ですがピンサロ嬢の曲を」
と言って「イノチミジカシコイセヨオトメ」を演奏するのだが、アウトロで尾崎は歌詞にないようなフレーズを叫ぶようにして歌う。それもまた声が出るからこそできることでもあるし、この日のライブによる感情の高ぶりがそうさせたとも言える。ともあれ尾崎は今歌うのが実に楽しそうである。
そのままアウトロとイントロを繋げるようにして演奏された「手と手」へという流れはメジャー1stフルアルバムの「死ぬまで一生愛されてると思ってたよ」の流れであり、その前のインディーズ期の「When I was young, I’d listen to the radio」に収録されていたバージョンの「イノチミジカシコイセヨオトメ」では完成を見なかったもの。「イノチミジカシコイセヨオトメ」は夏フェスでも演奏されていたが、この流れを聞くのはかなり久々だ。
いわゆる代表曲的なところはしっかりやりながらも、こうしてフェスの持ち時間でも毎回やる曲を変えてくる。ライブ自体の好調さも含めてより一層ライブの1本1本を逃したくなくなってくる。
小川幸慈のギターリフが冴え渡る「社会の窓と同じ構成」で尾崎のボーカルはさらに切れ味を増すと、カオナシのベースのイントロで始まった「HE IS MINE」では今年の野外最後の
「セックスしよう!」
の大合唱。でもやはり観客の声よりも尾崎のボーカルの方がはるかに声が大きかったし、迫力があった。最後の曲、と言わずに演奏されただけにメンバーが楽器を置くと、「え?終わり?」という空気になってしまっていたが、それはこのバンドのライブをもっと見たかったと誰しもが思っていたということである。
去り際に尾崎はマイクスタンドの前で立ち止まり、
「良いお客さんだな〜」
とボソッと言ってからステージを去っていった。尾崎は決してお世辞を言ったり媚びたりするようなタイプではないし、そういうことができる器用さがあったらこのバンドを取り巻いた様々な騒動はきっとなかったはずだ。だからこそ間違いなく本心からの言葉。それはかつて出演した際にも思ったことだからこそ、こうして戻ってきたかったフェスだったのだろう。
リハ.愛の標識
リハ.左耳
1.栞
2.イト
3.ラブホテル
4.火まつり
5.イノチミジカシコイセヨオトメ
6.手と手
7.社会の窓と同じ構成
8.HE IS MINE
19:15〜 キュウソネコカミ
サウンドチェックでメンバーが出てきて曲を演奏しようとするも、そこにヤマサキセイヤ(ボーカル&ギター)の姿はない。ヨコタシンノスケ(キーボード&ボーカル)が、
「セイヤいないのにやっていいの?まぁ仕方ないか」
と言って「TOSHI-LOWさん」の演奏を始めると、白い全身タイツを着て赤い板を背負い、自らがマグロの寿司になったセイヤが客席に突入していき、まるで回転寿司のように観客の上を転がっていく。
「最近こんなことしてるフェス、マグロックだけやぞ!」
とセイヤは言っていたが、5年連続出演で2回目のトリ、自ら「ミスター・マグロック」を自認するようなフェスだからこそそうしたパフォーマンスもできるのだろう。
本番ではさすがにセイヤも普通の服に着替えて登場し、「ビビった」からスタートするとひたすらに曲を連発。1度見たら忘れられないこの曲のMVのロケ地が静岡であるという「推しのいる生活」、
「令和ー!」
と新しい時代バージョンとなった「ギリ昭和」、「ペディグリー」のフレーズ部分で寿司職人が「マグロの握り」を持って登場し、ヨコタがそれを食べるというこのフェスならではのパフォーマンスの「KMTR645」では間奏でオカザワがネズミくんギターに持ち替えてソロを弾くのだが、ネズミくんの目が赤く発光するということに気づくのも夜にライブができるからこそである。
「この曲で俺と同じように動くとエクササイズできます!」
とセイヤが言うとセイヤに合わせて客席も激しく頭を振る「KENKO不KENKO」、そしてセイヤが客席に突入すると
「シンノスケ、神秘的な曲を頼む!」
と言って「天空の城ラピュタ」の曲を全員で大合唱しながらセイヤが観客に支えられて立ち上がる「DQNなりたい、40代で死にたい」と凄まじい曲の連発っぷりとそれに合わせた盛り上がりっぷり。ミスター・マグロックは伊達じゃないし、それはこれまでの4年間で積み重ねてきたものがあるからである。
なのでセイヤも髪をわしゃわしゃとかき乱して変な髪型になったことによって観客の笑いを誘いながらも、
「これですよ、俺たちが夢見ていたものは」
と感慨深く語る。フェスの大きなステージのトリになって、客席にはたくさんのキュウソを待っている人がいてみんなが楽しそうな顔をしている。フェスでは悔しい経験もたくさんしてきたキュウソがこうして自分たちがバンドを始めた時に夢見ていた景色を見ることができているというだけで実に感動的だ。
そしてその気持ちをそのまま曲にしたかのようであるのが新曲「醒めない夢」。これはバンドが夢見た景色ではあるけれど、紛れも無い現実。バンドが自分たちの力で積み重ねてきたものによって現実にしたのである。だからこれからも醒めない。キュウソのマジサイドの最新バージョンにして最高峰。すでにライブでは他の新曲も演奏しているけれど、キュウソは確実にリリースを重ねる度に自分たちのこれまでを更新している。
「マグロック、ありがとうー!また来年も絶対ここに来たい!」
とヨコタがこのフェスへの思いを叫ぶと、ソゴウのドラムのイントロとヨコタのキーボードのフレーズが観客を飛び跳ねさせる「ハッピーポンコツ」へ。カワクボタクロウはサビ前のわずかな瞬間にお立ち台に立ってポーズを取ったりするのだが、やっぱりこの曲の持つハッピーなエネルギーはこうしてこの場所に来たことをどんな言葉よりも肯定してくれる。
そしてラストは「The band」へ。
「ロックバンドでありたいだけ」
ただひたすらその思いを貫きながら自分たちだけのスタイルを持ってバンドを続けてきたキュウソにとっての今年の夏の最後の曲。
自分にとってもそれは今年の夏の最後に見たバンドのライブであり、最後に聴いた曲。今年の夏もいろんな場所に行ってはたくさんのアーティストのライブを見てきた。その最後がキュウソで、このフェスで本当に良かったと思えるライブだった。願わくば、来年も同じことをこの場所で思っていられるように。
リハ.TOSHI-LOWさん
リハ.メンヘラちゃん
1.ビビった
2.推しのいる生活
3.ギリ昭和
4.KMTR645
5.KENKO不KENKO
6.DQNなりたい、40代で死にたい
7.醒めない夢
8.ハッピーポンコツ
9.The band
20:10〜 DJダイノジ
クロージングアクト的にこのフェスの最後のアクトを担うのは、前説から何から八面六臂の活躍をこの日も見せてきたダイノジによるDJ。まだまだたくさんの人が客席に残って最後の一騒ぎを待っている。
2人が登場して、エアギター世界チャンピオンの大地洋輔がおなじみの虎柄のセーターにサングラスという出で立ちに変身すると、
「志村くんが亡くなった直後のCOUNTDOWN JAPANで俺たちは仕事がなくて、飲食ブースでずっとうどん(フェスでおなじみのダイノジのごまだしうどん)を売っていた。そしたらお客さんたちが
「フジファブリックをDJでかけてください」
って言ってくれて。あ、DJってそういうことができるんだなってDJの可能性を感じた」
という大谷ノブ彦の回想から、フジファブリック「虹」でパーティーはスタートし、おなじみのダンサーたちもステージに登場。まるでエクササイズのように激しいダンスを繰り広げていく。
「虹」はその志村が亡くなった直後のCDJで「ライブ映像を流す」という形でフジファブリックが出演した時の最後の曲だったし、志村がいた頃もメンバーのソロ回しを入れた長尺バージョンでよく最後に演奏されていた。きっとダイノジはそれを覚えていたからこそ、「銀河」とかでもなくこの曲にしたんだと思う。
ダイノジは志村が亡くなった後の夏フェスの時期にはよく「若者のすべて」をDJでかけていたが、当時は「若者のすべて」はそこまでフジファブリックの代表曲という位置の曲ではなかった。でもそうしてDJでかけてきたことによってたくさんの人が知って、じわじわと曲の良さが広まっていった。そして「若者のすべて」は今やフジファブリックの代表曲になった。そこにはダイノジの貢献が非常に強いと自分は思っている。
「ファントムバイブレーション」「良いDJ」というキュウソネコカミの曲ではライブを終えたばかりのキュウソのメンバーたちがステージに出てきてダンサーに合わせて踊りまくるというなかなかにレアな光景に。特にセイヤとソゴウは曲に合わせて2人で向かい合って手を叩きあうという実に微笑ましい光景を見せてくれる。キュウソのメンバーの仲の良さと、自分たちの曲を愛してくれるダイノジや観客への感謝と愛がいつものライブとは違う形で伝わってくる。
さらにはヤバイTシャツ屋さん「あつまれ!パーティーピーポー」やKEYTALK「MONSTER DANCE」、TOTALFAT「PARTY PARTY」というフェスではおなじみのダンスアンセムでダンサーの動きに合わせて踊らせまくり、動きまくり。
そして大地が世界チャンピオンとしてエアギターを弾きまくるGOING STEADY「アホンダラ行進曲」へ。まさかこの曲をこうしてこんなにたくさんの人と一緒に聴けて、その人たちと一緒に歌えるなんて全く思っていなかった。大谷は前にDJで
「どんな曲だって俺が再生ボタン一つで蘇らせてやる!」
と言っていた。今の銀杏BOYZでもアレンジとタイトルを変えたバージョンでライブで演奏されているが、こうしてライブ会場でこの曲を聴くと、アサイタケオのギターも、安孫子真哉の叫びながらうねりまくるベースも、村井守のドタドタしたドラムも全てが蘇ってくる。
「死にかけたままの情熱がこんなもんかと僕に問いかける」
というフレーズは来年開催ができるかどうかわからない状況であるこのフェスに情熱を焚きつけるかのようであり、最後には
「失いかけてた希望の光が それでも来いと僕を呼んでいる」
というフレーズが響く。それはそのままこのフェスが来年もきっと開催されるという希望の光となって響く。
そして
「きっと2人なら全部うまくいくってさ」
というフレーズがダイノジが2人でいるのならきっとこのフェスはこれからもうまくいくというメッセージとして響いてくるのは考えすぎだろうか、と思ってしまうクリープハイプ「オレンジ」はかつて大地がステージに衣装にオレンジ色のツナギを着ていたことからもなかなか偶然とは思えない中、今年最後にこの会場に鳴った曲はthe pillowsの「Funny Bunny」のELLEGARDENバージョンだった。今、CMで流れていることでも話題になったこの曲の
「君の夢が叶うのは誰かのおかげじゃないぜ
風の強い日を選んで走ってきた」
というサビのフレーズでの大合唱。最後に大谷は
「あなたの好きを肯定しに来ました、DJダイノジでした!」
と言った。それはダイノジがDJをやる時のメッセージであるが、本当に自分の音楽が好きという気持ちを肯定してくれる、今まで見てきたダイノジのDJの中でも最高のものだった。それはやはり朝からずっとダイノジがこのフェスのために尽力してきた姿を見てきたからというのと無関係ではないと思う。
ステージから去る時に深く、そして長い時間頭を下げていた大地の姿がそれを一層強く感じさせた。DJが終わり、このフェスが終わった瞬間、寂しい気持ちもあったが、客席にいた人はみんな清々しいくらいの笑顔だった。
この日、自分は合間の時間に会場内を歩いていたダイノジの2人に声をかけて握手をしてもらった。ダイノジは普段から自分のツイッターによく「いいね」をくれるし、このフェスに行くかどうかを迷っていた時に、
「来てくれたら嬉しいな」
というコメントをくれた。なので「いつもライブレポを見ていただいてありがとうございます」と伝えたら、すぐに自分だということに気付いてくれて、ものすごく褒めてくれた。
自分はダイノジの漫才やコントを中学生くらいの頃からずっと見ていた。当時、NHKでやっていた「爆笑!オンエアバトル」というネタ番組でダイノジは無類の強さを誇っており、今もテレビに出まくっている、アンタッチャブルやアンジャッシュ、陣内智則、ますだおかだなどの実力派の芸人たちとしのぎを削っていた。だからダイノジはどんなにDJやお笑いライブで目の前で見ることができる機会があっても、ずっと自分にとってはテレビの中の芸能人という決して交わることがないであろう場所にいる人たちだった。
そんな人たちが自分のやっていることを見てくれていて、本当に評価して認めてくれている。ずっとこういうことをやっていて、そしてこのフェスに来て本当に良かったと心から思った。
テレビでダイノジの「不良と小西」のネタとかを見て爆笑していた頃の自分に、
「好きなことをずっと追いかけていれば、いつかこうやって見てるダイノジの2人がお前のことを知ってくれて、認めてくれるよ」
って声をかけたら何て思うだろうか。いや、「そんなわけないだろ」って言うに決まってるだろうな。ミュージシャンにもお笑い芸人にもなろうと思ったことがない、ましてやSNSなどもない時代にテレビに出てる人と会話したり、知り合ったりできるなんて一切現実味のない話だったから。でも、あの当時にそれを信じられたらきっと人生を生きていく上で何よりも強い力になっていただろうし、自分なんぞに
「今度一杯奢るよ」
って言ってくれたことが、来年以降もこのフェスに来る大きな理由になり、来年まで絶対に生き抜くという力になっている。
かつてお笑いで自分の人生を豊かにしてくれたダイノジは、今は音楽というお互いに好きなものでもって自分の人生を豊かにし続けてくれている。
レポ中でも書いた通りに、このフェスは来年以降も続くかどうかはわからない。でもこの日、フレンズ、the telephones、クリープハイプ、キュウソネコカミというバンドたちは「来年もこのフェスに出たい」と言っていた。
彼らはみんな、日本中のあらゆるフェスに出演してきて、その景色を見てきたバンドたちだ。そんなバンドたちが「来年も」と口にするのはこのフェス、この場所に他のフェスにはない魅力があるから。自分自身、今年初めてここに来てそれを感じたからこそ、また来年ここで1年の夏の終わりを感じられますように。
文 ソノダマン