2000年代の前半のうちの2002年から2004年くらいまでの間の音楽シーンを席巻していたのは間違いなく「青春パンク」と呼ばれたバンドたちだった。
MONGOL800の「MESSAGE」が社会現象的な大ヒットとなり、GOING STEADYの「童貞ソー・ヤング」は当時のインディーバンドの最高記録となるオリコンシングルチャート初登場3位を記録して口火を切った青春パンクブームは175Rがメジャーデビューシングルでオリコン初登場1位、ガガガSPやB-DASHがTOP10入り、ジャパハリネットがミュージックステーションに出演するなど、それはそれはとてつもない勢いだった。
しかし2003年初頭にGOING STEADYが突如として解散し、様々なバンドたちがそれまでのパンクサウンドから遠ざかっていったことによってブームはあっさりと終わりを迎える。(そのブームにトドメを刺したのがASIAN KUNG-FU GENERATIONのデビューだった)
ブームが過ぎ去ると解散、活動休止、メンバー脱退などの追いきれないくらいのニュース、活動していてもすっかり名前を聞かなくなってしまったバンドは数え切れないくらいいる。
そんな青春パンクブームの喧騒から15年以上。当時はなかった豪華なフェス的なイベントがこの2019年に開催。ブーム当時に「STREET ROCK FILE」という青春パンク系の雑誌を作りながら、自らもオナニーマシーンというバンドとして活動していたイノマー(実はオリコンの編集長も務めていた、歴とした音楽ジャーナリスト)の主宰するイベント「ティッシュタイム」が20周年を迎えたことにより、
銀杏BOYZ
ガガガSP
サンボマスター
氣志團
オナニーマシーン
という、今になってこんな共演が見れるなんて、と思う一夜に。
14:30の開演前になると、ティッシュタイムの前説でおなじみのライターのフジシュンがステージに登場し、いきなりの「童貞ー!」の唱和。さらにはAbema TVで「DTチャンネル」という番組(GOING STEADY「童貞ソー・ヤング」が主題歌)に出演している芸人たちもステージに登場し、この日のライブの模様がその番組内でオンエアされることを発表すると、さらには同番組のMCであるチュートリアル徳井からもビデオメッセージが。
そうこうしているうちに客席では観客が一斉に前に押し寄せていく。トップバッターのメンバーたちがステージに現れたのである。
14:35〜 銀杏BOYZ
そのトップバッター、銀杏BOYZ。イノマーとの関係性的にはトリ前あたりでもおかしくないのではと思っていたが、まだ観客に100%の体力が残っている状態というのは良い選択だったのかもしれない。
ステージに登場した峯田和伸は上半身裸、ドラムの岡山健二も合わせるように上半身裸。岡山のandymori時代からの相棒である藤原寛(ベース)と、山本幹宗と加藤綾太のギターコンビが揃うと、峯田がアコギを肩にかけて
「あの星の光が示すように 僕等の命がゴウゴウと燃えている」
と弾きながら歌い始める。ライブでは去年くらいから演奏されるようになってきているGOING STEADYの「星に願いを」だ。
「歩んできた道は後悔ばかり でも向かうべき道に規模が見える」
と歌詞を現在のモードに変えているのだが、最も大きな変更点は
「アイ・シー・ザ・ライト」
というフレーズが
「愛してる」
に変わっていること。そして
「輝きがやむことはない」
という部分まで峯田が歌うとバンドの爆音が加わり、客席にはダイバーが続出していきながら大合唱が起こる。峯田はこの曲では最後までアコギを弾いていたのだが、それは山本と加藤というギタリストが2人いるからこそだ。
銀杏BOYZは「星に願いを」がそうであったように、峯田がギターを弾きながらサビなり歌い出しを歌ってから演奏がはじまるというパターンが非常に多いのだが、その後に轟音にまみれながら峯田が歌い始めたのは、
「瞳を閉じれば 聞こえてくるだろう」
というまさかのGOING STEADY「東京少年」。山本も加藤もギターを抱えたままで高くジャンプする。ノイジーなサウンドを加えているとはいえ、ほとんど原曲通りのツービートのパンクアレンジ。
音楽は好きだったけれどまだロックがどういうものなのか全くわかっておらずに流行りの音楽ばっかり聴いていた高校生の頃、夜中のチャート番組を見ていたら、当時リリースされたばかりのこの曲がほんの数秒だけ流れた。
「なんだこの曲と音楽!?」
その一瞬で自分の頭と体に衝撃が走った。初めてのリアルなパンク。自分のための音楽だと思った。その後にリリースされた「さくらの唄」というアルバムが自分の人生を変えた。こういう人生になってしまった原点であり元凶とも言える曲。
でも自分はこの曲を今までライブで聴いたことがなかった。GOING STEADYは千葉の田舎の高校生がライブを見に行けるようになる前に解散してしまったし、銀杏BOYZになってもこの曲は今年になるまで音源化したり演奏したりしていなかったから。だから一生聴けることはないと思っていた。
それがこの日、聴けた。あの頃とは鳴らしているメンバーは違うけれど、もう一生ライブで聴けることはないと思っていた曲がステージの上で鳴らされていて、年相応にテンポを落としたアレンジに、とかではなくて自分が衝撃を受けたパンクのまま。もう僕らは若くないかもしれないし、社会に出たことによって心が歪んでもいないかもしれない。それでも今もこの曲はリアルに響く。僕らはここだ、って叫びたくなるのだ。
焦燥感が炸裂するギターのイントロの「若者たち」では峯田が客席にダイブ。
「日本!日本!日本!」
の大合唱はこの曲は天皇即位のこの日に鳴らされるべき曲だったのかもしれないとすら思えてくる。まだ本当に若者たちだったリリース当時、平成が終わることも、時代が変わることも、GOING STEADYが解散することも全く想像出来なかった。でもこの曲を、GOING STEADYの生み出した曲たちをずっと聴き続けているだろうっていうことだけは想像できていた。
MCもなしに矢継ぎ早に曲を連発していくバンド。ただでさえ峯田だけではなく全員が激しくステージを動き回るバンドであるだけに体力は大丈夫なのだろうか、と思ったりもするが、峯田はハンドマイクを握りしめて「駆け抜けて性春」をマイクで自身の頭を殴りつけながら歌う。途中の音源ではYUKIが歌っているパートではマイクを客席に向けると、音響が良いとは言えない豊洲PITでもしっかりとわかるくらいの大合唱が響く。そしてステージに光が射すような照明の中、ドラムと歌だけで最後のサビが始まり、その後に他の楽器が加わるという今のこのメンバーだからこそのアレンジに曲は進化していく。
そして峯田が歌い始めたフレーズ。まさか、と思った。「星に願いを」や「東京少年」と同様に「さくらの唄」に収録されていた「愛しておくれ」だった。まるでJ-POPの女性歌手が歌っていてもおかしくないくらいにキャッチーなメロディ。GOING STEADYはパンクだったけれど、ひたすらにキャッチーでポップだった。その激しさと甘さや優しさを両方持っていたから、自分はGOING STEADYに、峯田和伸の作る音楽に夢中になった。この曲もまた、数え切れないくらいにCDで聴いて、カラオケで歌ったりしてきたけれど、「東京少年」同様にこうしてライブで聴くのは初めてだった。
今月、静岡のマグロックに行った時にDJダイノジがGOING STEADYの「アホンダラ行進曲」をかけていた。まさか今になってGOING STEADYの曲をみんなで大合唱できるなんて思ってなかったし、DJはそうしてもう見れないバンドの曲を聞かせてくれて、みんなで歌えると改めて思わせてくれた。
この日、そんなもう聴けないと思っていた曲がステージで鳴らされていて、GOING STEADYや峯田和伸の音楽に救われたり、人生を変えられたりした人たちみんなで汗と涙にまみれながら大合唱した。あの頃に戻ったわけではないし、戻ることはできないけれど、今が本当に幸せだと思える。近年の峯田は
「どんな手を使ってでも生きろ」
というメッセージをよくステージから観客に発しているが、そうして生きてきたからまたこうやって会えて、生きてて良かったなって思えるライブを見せてくれる。出会ってからもう17,8年くらい経っているし、その中には全くライブが見れない期間も長くあった。それでもまだ自分は峯田和伸の作った音楽に支え続けられている。
「だからこうして歌うのさ 声の限りに歌うのさ」
というフレーズを今も峯田は声の限りに歌っていた。
そして「BABY BABY」でもやはり観客全員が飛び跳ねながら大合唱。後ろの方の人まで全員がみんな笑顔で歌っている。みんながこの曲を知っている。それぞれ見に来たバンドはバラバラかもしれないけれど、この曲はそうした垣根や壁を越えて響いていた。ずっとわかっていたことだけれど、峯田和伸の音楽にはそうした力があったのだ。
峯田が再びハンドマイクを持って、もう片方の手にはタンバリンを持って歌い始めたのは「ぽあだむ」。ここまでの曲の中では唯一の銀杏BOYZになってからの曲であるが、峯田はステージを動き回りまくった結果、端から落下してしまう。その様子を見て笑う山本とメンバーたち。山本はこの「ぽあだむ」のようなサウンドなら自分は得意なんじゃないかと思って銀杏BOYZに参加するようになったと言っていたが、そうではない曲でもパンクな部分を引き出すようなギターを弾いている。演奏だけではなく精神までも銀杏BOYZのメンバーになってくれているのだ。
「もうステージ4の癌に侵されててね、舌とか内臓とかもうないんですよ、あの人は。そんな人の生き様を今日は見て帰って欲しいと思います」
普段は喋りすぎてライブの時間が押しまくるくらいに喋ることが多い峯田はこの日、唯一イノマーのことだけを喋った。峯田が今のようにドラマや映画に出たりするずっと前から、2人で話してバカ笑いしていた友達のこと。
そしてバンドメンバーがステージを去ると弾き語りで演奏されたのはできたばかりという新曲「アーメン ザーメン メリーチェイン」。
「もうあなたのことは好きじゃない 愛しているだけ」
というサビのフレーズがタイトル通りに祈りにも似た感覚を連れてくるようなミドルテンポの曲。当然これからバンドでアレンジされることによってまたガラッと変わる可能性はある(銀杏BOYZはライブでやっていたけど音源化しなかった曲もある)けれど、こうして新曲を作っているということは新しい作品が出る日はそう遠くないということだし、それを伴ったツアーがまた近いうちに見れるかもしれないということ。こんなライブ見たら、そりゃあまたすぐライブが見たくなってしまうじゃないか。
「ぽあだむ」より前の6曲は全てGOING STEADY時代の曲。今年のライブでやっていた曲もあるが、ここまでGOING STEADY時代の曲を並べたのは間違いなく理由がある。それはかつてイノマーがGOING STEADYを雑誌で猛プッシュしていたから。なんならGOING STEADYを紹介して、イノマーが峯田と話をするために作ったような雑誌もあるくらいだ。そうして長い間イノマーがずっと愛し続けてきてくれた曲たちをイノマーの大事な日に演奏する。イノマーが癌になってからも一緒にイベントをやったりしている峯田なだけに、間違いなくその意識はあったはず。そしてその意識と選択は峯田の作る音楽に人生を変えられてきた人間全てを喜ばせ、涙を流させ、感動させた。そこには当時も今も、生々しい人間の感情が宿っているからである。
たまにツイッターのフォロワーさんに会ったりすると、
「1番好きなアーティストって誰ですか?」
って聞かれることがある。それなりにいろんなアーティストのライブを観に行っているから、これ!っていう存在はわかりづらいのかもしれない。
でも自分はそう聞かれた時は絶対に
「GOING STEADYを聴いてこうなったんで、銀杏BOYZです」
って答えるようにしている。それはきっとこれからも死ぬまで変わることはない。改めてそう思うことができたライブだった。
1.星に願いを
2.東京少年
3.若者たち
4.駆け抜けて性春
5.愛しておくれ
6.BABY BABY
7.ぽあだむ
8.アーメン ザーメン メリーチェイン (新曲)
15:50〜 ガガガSP
転換中にメンバー全員が登場してサウンドチェックで曲を演奏していた、ガガガSP。この日の出演者たちとはみんな深い関係性を持つバンドであるし、自身の地元の神戸で長田行進曲というイベントを開催したりもしているが、こうした大きな規模のイベントに出演するのは今ではかなり珍しいことだ。
SEが鳴ってメンバーが登場すると、ハンチング帽を被ったコザック前田が、
「2001年の8月、インディーロックマガジンに初めて僕らのCDのレビューが載ったんです。
「青春には全てが詰まっている。苦さや甘さ。それはロックにとって王道そのもの。異質なように見えてこのバンドはロックの王道である」
って書いてくれたのがイノマーさんでした。あれがあるから、僕らはこうして22年間バンドを続けていられる。そのレビューを書いてもらった曲をやります!」
と言って演奏されたのはこのバンドの代表曲にして青春パンク史に残る屈指の名曲「線香花火」。山本聡の泣きのギターフレーズがあの当時の記憶を呼び起こして感傷的にさせると同時に、
「ああ線香花火よ」
という山本と桑原康伸(ベース)のコーラスがとびきりキャッチーな合唱を生む。コザックはすでに40歳を超えているとは思えない身軽さでステージを走り回ったり飛び跳ねたり。というかコザックは見た目はそれなりに年相応になってきているが、山本と桑原と田嶋悟士(ドラム)は青春パンク全盛期、つまりはこのバンドのブレイク時でもある15年以上前から見た目が全く変わっていない。演奏技術は音源とは比べものにならないくらいに上手いのは当たり前であるが、見た目だけ見たら当時からタイムスリップしてきたかのようだ。
「今、我々はこんな3000人くらいの前でライブをやる機会がない。だからこういう時は今の我々の姿を知ってもらうために新しい曲をやったりするんですけど…今日はそういう日じゃないですよね。イノマーさん、死ぬまで生きてください!」
とこの日に自分たちがここに立っていて、どういう曲をやるべきなのかを理解しつつ、名曲のフレーズに繋げたのは「晩秋」。この時期にぴったりな選曲であるが、コザックは
「銀杏BOYZとサンボマスターの間に挟まれたから休憩時間にされるのかと思っていた(笑)」
と言っていたが全くそんなことはない。満員の観客がバンドの鳴らす音と曲にダイレクトに反応してモッシュやダイブを繰り返している。
「僕は25歳になった時に「まだまだこれからが青春だ!」って言ったんです。でも30歳になった時には「30歳を超えてからが本当の青春だ!」って言いました。35歳になった時には「これからが本当の青春だ!」って言いました。今、僕は40歳になりました。やっぱり、今が1番青春してると思います!日本最後の青春パンクバンド、ガガガSPです!」
と言ってまるで今が本当に「青春時代」であり、それはずっと続いているかのように「忘れられない日々よ」を演奏した。
かつては「オラぁいちぬけた」というアルバムを出して青春パンクというシーンから距離を取ろうとしたこともあった。でも自分たちの音楽を見つめ直した時に、自分たちが歌ってきたのは青春なんだと気づいた。ガガガSPがそう宣誓しているということは、かつて青春パンク呼ばれていた音楽に夢中になっていた人たちを肯定するということだ。
しかしガガガSPというバンドはこうして見ていると本当にブレていないバンドだなと思う。コザックの独特な、言葉数の多いメロディとパンクだからこその速いビート、サビで山本と桑原が曲タイトルやその曲を象徴するフレーズをコーラスし、観客も一緒になって歌う。そのガガガSPのスタイルはずっと変わっていないし、それは初期から完成していたものであることを実感する。
「最近、昔の曲だけをやるツアーっていうのをやっていて。そうすると10年とか15年ぶりにライブハウスに来たっていう人もいるんですよね。今日もきっとそういう人がいると思うんですけど。そういう人から「またライブハウスに来るきっかけができました」って言われると本当に22年やってて良かったって思う」
とずっと続けてきたバンドだからこそ言える言葉をコザックが言い、客席からは逆に「続けてきてくれてありがとう」という思いが溢れ返ると、
「僕の物差しでは多分君を測ることができなかったんだろう」
という歌い出しから始まる名曲「国道二号線」にはこの曲を知っている人たちの思いが曲と音に重なっていく。
そしてひたすらに熱血な、オリックスバファローズが応援に使っていることでもおなじみの「つなひき帝国」で盛り上がりはピークに達すると、
「イノマーさんも頑張ってます。みなさんも何か始めましょう。明日から、いや、明日からではなく、今日から」
と言って最後に演奏されたのは「明日からではなく」。ガガガSPの曲は基本的にはダメな男の自問自答というテーマの曲が多いし、それはコザック前田のリアルを映し出した歌詞でもあるのだが、この曲はまるで「ROOKIES」のような教師の曲。しっとりと歌い、鳴らされた曲が途中から一気に爆発力を増していった。そこには今を生きるバンドとしての生命力が満ちていた。
ガガガSPはこの日の出演者の中では最も青春パンクブームというものにバンドを左右された存在である。もちろんその後にもプライベートや体調などで様々なことがあった。人によっては今でも活動していることを知らない人もいるかもしれない。
そんな状態であっても、メンバーが誰もこのバンドを辞めなかった。様々なバンドが解散したり活動休止したりしたし、銀杏BOYZですらメンバーがいなくなった中でこのバンドはずっと変わらなかった。だからこそ今でもこのバンドからは青春を強く感じるのかもしれない。
でもなによりも嬉しかったのは、今自分がよくライブを観に行っているバンドと比べても決して負けていないライブをこのバンドが見せてくれたということ。あの頃を思い出す瞬間もたくさんあるけれど、ガガガSPは紛れもなく今を生きているバンドだったのだ。
リハ.すばらしき人生
リハ.弱男
1.線香花火
2.晩秋
3.青春時代
4.忘れられない日々
5.国道二号線
6.つなひき帝国
7.明日からではなく
17:05〜 サンボマスター
転換中に司会のフジジュンも言っていたが、サンボマスターはオナニーマシーンとのスプリットアルバム「放課後の性春」でデビューした。
「もう今日が終わったら「新しき日本語ロックの道と光」でデビューしたことにした方がいい(笑)」
とも言っていたが、全くサンボマスターの存在は当時知られておらず、当時ライブを見にきていた人は2人しかいなくて、うち1人は携帯をずっといじっていたので実質1人しかライブを見ていなかったという。今、フェスなどで何万人の人を熱狂させているのを見ると信じられないことである。
おなじみの「モンキー・マジック」のSEで3人が登場すると、やはりいつものフェスやイベントの時とは少し様子が違うように見える。それはイノマーとの関係性の深さゆえと思っていたのだが、この日1曲目に演奏されたのはなんとオナニーマシーンのカバーである「オナニーマシーンのテーマ」。今のサンボマスターが演奏するにはあまりにどストレートなパンクサウンドに乗せてメンバーが
「オナニー オナニー」
と叫びまくっている。もともとサンボマスターがどういうところから出てきた、どういうバンドだったのかということを一瞬でわからせるようなオープニングである。
さらに
「さよならするんだよ、イノマーにじゃねぇよ。イノマーに巣食ってる病気にさよならするんだよ!力貸してくれ、前ちゃん!」
と言ってステージに現れたのは先ほど自身のライブを終えたばかりのガガガSPのコザック前田。盟友を迎えて山口隆とボーカルを分け合う「さよならベイビー」はまさにイノマーに向けられた選曲だったが、続けて「夜汽車でやってきたアイツ」という初期曲の連発。
サンボマスターはフェスやイベントの持ち時間ではほとんどやる曲が変わらないバンドだ。それでも毎回見ていて飽きないというところにこのバンドの凄さがあるのだが、そうした場所では間違いなくやらない曲を続けて演奏した、それもデビュー時の曲を、というのは自分たちのことを誰よりも早く見つけて、見出して世に広めてくれたイノマーとの思い出がこの時期の曲に詰まっているからに他ならないだろう。「夜汽車でやってきたアイツ」はかつてサンボマスターと銀杏BOYZが対バンした際にアンコールで峯田和伸が歌った曲でもあるだけに、ちょっとそれもあるかな?と思ったが今回はそれはなし。
当時のこのバンドの最大の代表曲だった「そのぬくもりに用がある」はこの日は最大級の
「イノマー!イノマー!」
コールとともに、
「イノマーと、あなたのぬくもりだけに用がありました!」
と言って演奏された。いつも山口の言葉や歌の先には明確に伝えたい人の存在が見えるが、それはこの日は我々観客1人1人だけではなくイノマーという存在にも向けられていた。
なので「世界はそれを愛と呼ぶんだぜ」もこの日は「愛と平和」ではなく
「イノマー!イノマー!」
とひたすらにイノマーのことを思って歌われたのだが、山口は泣いていた女性に
「泣くんじゃないよ、43歳のおっさんがこうして歌っている姿を見てください!笑った!」
とどうしてもこらえきれなくなってしまう我々のことを泣き顔ではなく笑顔に変えながら、
「ガガガSPとは初めて一緒にやった時に、このバンドとはずっと一緒にやっていくんだろうなって思って。
氣志團はあれだけガーって行ってる時に俺は本当に尊敬して見ていた。
銀杏BOYZはもう…俺はどんだけあのバンドが好きなんだよって話なんだけど(笑)」
と、イノマーだけではなく、同じ時代を生き抜いて戦ってきたバンドたちにもしっかり言葉を送っていた。
サンボマスターの音楽やライブはいつも我々の背中を強く押して、前に進む力をくれるが、この日の「できっこないを やらなくちゃ」も間違いなくそうであるようでいて、それはそのままイノマーへのメッセージとなっていた。普通ならばライブなんか到底できるような状態ではないにもかかわらずライブをすることを選んだ。それは「できっこない」と言われるようなもの。スプリットアルバムを出した頃から見たらサンボマスターは変わったかもしれない。でも変わったからこそできることや言えることが確かにある。
そして山口は
「イノマーさんはどこにも居場所がなかった俺たち3人に居場所を作ってくれた。だから今度は俺たちがイノマーさんに居場所を作ってやりてぇ。だから俺たちは今日ここに来たんだ。イノマーさんだけじゃねぇ、あんたもあんたもあんたもあんたもそうだ。
どうせ山口、お前はイノマーさんのことも俺のこともわからないだろう、って?わかんねぇよ!お前が普段何をしていて何に悩んでるのかなんて俺にはわかんねぇ!でもなんで俺がそれでもここに来たかっていうと、俺にはあんたらが輝いて見えるからです!」
とイノマーへの思いを炸裂させて最後に「輝きだして走ってく」を演奏した。
近藤洋一(ベース)の笑顔で手拍子を促す姿も、金髪度合いが増した木内泰史(ドラム)の叫び声も、全ては感謝に満ちていた。それはもちろんイノマーとここにいる全ての人々に対して。
普段とはセトリからして違う内容のライブ。同じセトリだったとしてもそう思うのは間違いないけれど、いつものエネルギーやいつもの感動とはまた違う、やはりサンボマスターにしかできない、本当に素晴らしいライブだった。
サンボマスターはこの日の出演者の中で最も「イノマーがいたからシーンに現れることができたバンド」である。後にバラエティ番組でもネタにされることになるビジュアル含め、普通の人なら当時のサンボマスターを見て「このバンドを売り出そう!」とは誰も思わなかっただろう。
イノマーはそんなサンボマスターの音楽の素晴らしさを誰よりも早く見抜き、少しでも多くの人にそれを伝えるためにあらゆる手を尽くしてきた。フジテレビの深夜の音楽番組でライブを流したり、スプリットアルバムでメジャーデビューしたのも当時それなりに知名度や人気があったオナマシと一緒に収録することで聴いてもらえる機会を増やそうとしていたはずだ。そしてそのイノマーの狙いや努力とサンボマスターの活動が身を結び、誰もが存在を知るバンドへの階段を駆け上がって行った。
今でこそサンボマスターは日本のロックシーンのメインストリームにいるバンドであるが、もしイノマーがいなかったらそうはならなかったかもしれないし、我々が当たり前のようにサンボマスターの曲を聴いてライブに行ったりすることもできなかったかもしれない。それをサンボマスターのメンバーたちは自分たちでも理解しているからこそ、この日のライブはいつもとは違うものになった。そのサンボマスターを世に送り出した功績だけでもイノマーには本当に感謝しかない。こんな凄いバンドを我々に教えてくれてありがとう。
1.オナニーマシーンのテーマ
2.さよならベイビー w/ コザック前田 (ガガガSP)
3.夜汽車でやってきたアイツ
4.そのぬくもりに用がある
5.世界はそれを愛と呼ぶんだぜ
6.できっこないを やらなくちゃ
7.輝きだして走ってく
18:20〜 氣志團
一見するとこのラインアップの中では異質な存在というか、まぁ氣志團は氣志團万博以外のどんなフェスやイベントに出ても異質な存在になってしまうのだが、他の出演者が青春パンク的な匂いが色濃いバンドであるだけにより一層そう感じる。
しかし氣志團は紛れもなくその青春パンクブームの狂騒のタイミングで世に出てきたバンドであり、そうしたバンドたちとライブハウスで凌ぎを削ってきたバンドでもある。ましてや綾小路翔はプロの音楽ライターよりもパンクの歴史に詳しいパンクマニアである。
そんな氣志團は実はこの日の出演者の中では最もティッシュタイムに出演したのが早く、2000年という「One Night Carnival」でブレイクする前から出演している。その時はDJなどでもおなじみのダイノジがBOOWYのコピバンをやるにあたってバックバンドを務めたのが氣志團であり、その時の持ち時間を10分だけ氣志團がもらい、その10分で完全にその場を持っていったという。
そんな氣志團がこの日、この出演者の中でどんなライブを見せるのか。いざ時間になってメンバーがステージに現れると、綾小路翔もギターを持っており、東京スカパラダイスオーケストラのトリビュートアルバムに参加した「砂の丘 〜Shadow on the Hill〜」でスタートするというあまりにも意外な展開であるが、氣志團万博ではスカパラのライブに綾小路翔が参加する形で演奏されていたので、こうして氣志團として演奏されるのを見るとこのバンドが実に演奏力の高い、しっかりしたロックバンドであるということを実感させてくれる。
そこからはダンサーの3人も登場し、「Let’s Dance」「俺たちには土曜日しかない」と、綾小路翔と早乙女光も含めた振り付けも見事なパフォーマンスを見せたので、この日はバンドの音楽的な部分をしっかり見せるという勝負の仕方なんだろうか?(氣志團万博の時もそうだったが)
と思っていると、ここで早くも「One Night Carnival」へ。最後のサビ前には当然のように観客による合唱が起こり、綾小路翔も
「俺たちはいつだって!この夜に!ライブハウスに!ティッシュタイムに!」
と告げた後で
「恋しているのさ〜」
とサビを歌い、やはり誰しもが知る曲を持っているバンドは本当に強いな、と思っていると
「今、俺たち音楽で一つじゃね!?」
と綾小路翔は確かな手応えを口にするのだが、早乙女光が何やら綾小路翔にしかわからない言語でまくし立てると、
「みんながこの曲を古いと思っているし、サンボマスターの「世界はそれを愛と呼ぶんだぜ」に比べたら全然声が出ていなかったし、隣を見ながらなんとなく歌詞を察していた」
という自虐ネタで笑いを取りつつ、ヒット曲ができないことを嘆きながら、去年の氣志團万博でもやっていたDA PUMP「U.S.A.」とのマッシュアップバージョン「O.N.C. 〜One Night Carnival 2019〜」でメンバー全員が見事なダンスを見せ、さらには「One Night Carnival 2020」というさらなる最新バージョンはなんと星野源「恋」とのマッシュアップバージョンで、
「伝説を超えていけ〜」
という曲に合わせた歌詞のアレンジは実に見事だし、このバージョンはメンバーの生演奏で披露されるという演奏技術の高さもさすがである。
そんな綾小路翔のイノマーとの出会いは、まだイノマーがオリコンの編集長だった時代に綾小路翔がイノマー宛に「俺の連載を載せろ」と全く無名であるにもかかわらず原稿を送りつけて、しかもそれを本当に載せてくれたことから始まったという。そんな普通なら絶対にしないようなことをしてくれたイノマーを「頭おかしい」と弄りつつ、当時の連載陣であった電撃ネットワークやマキタスポーツ、ポカスカジャンはみなそれぞれの場所でブレイクしており、イノマーの彗眼っぷりを改めて伺わせる。
綾小路翔は自分たちがその時にそういう枠に属するアーティストであることを自覚したらしいが、フォロワーらしい存在が全く現れないことを嘆きつつ、
「ゴールデンボンバーにさえ、「俺たちの影響受けてる?」って聞いたら「あんまり通ってないんですよね〜。Gacktさんとかは聴いてたんですけど」って言われた(爆笑)」
「イノマーさんも俺たちも峯田くんもみんな全裸にまつわる事件がありますからね。もう僕らはNHKには出れません(笑)
でも台湾で全裸になって警察沙汰になった峯田くんがNHKの連ドラに出てるのは納得いかない(笑)言っても俺は全裸になってないから!周りがボディースーツ着てただけだから!(笑)」
と爆笑に次ぐ爆笑を巻き起こしていく。
そうしたエンターテイナーっぷりを見せながらも、「今日から俺たちは!!」ではQUEENを彷彿とさせる、音数を絞ったスケールの大きなロックサウンドを鳴らしながら、スクリーンには氣志團のこれまでの軌跡が映像として流れる。自虐が一つの芸になりつつあるが、確かに氣志團はあの時時代の真ん中にいた。しかもその頃はテレビに全く出ずに。それはプロデューサーであるABEDON(ユニコーン)の経験によるものも大きかったが、あの頃周りにいて、今はもうやめてしまったパンクバンドたちからしたら氣志團は紛れもなくヒーローだったはずだ。
そして最後は「鉄のハート」。普段のライブでもおなじみの曲でもあるが、この日のこの曲は今の状態であってもステージに立とうとするイノマーの精神力を称えているかのように鳴らされていた。だからか、「多摩の大巨人」こと西園寺瞳は演奏を終えた後にサングラス越しでもわかるくらいの笑顔だった。そこにはイノマーに対するバンドからの確かな愛情と感謝を感じさせた。
綾小路翔はかつてインタビューで、
「僕らはバンドブーム期に、メジャーデビューしたもののすぐに消えていったバンドたちをたくさん見てきたんです。だからどうやっていくかっていうことをずっと考えてきた。もちろん本物だったらそういうことを考えなくても曲だけでやっていけると思うんですけど、僕らはそもそも「本物じゃない」っていうところからスタートしているんで」
と言っていた。確かに「世界はそれを愛と呼ぶんだぜ」や「線香花火」や「銀河鉄道の夜」みたいな曲は作れないバンドかもしれない。でもフォロワーがいないということは誰も真似できないことをやっているということ。何度となく「バンドじゃなくてもいいのかも」と思う瞬間があった氣志團は、あの頃と変わらずにずっとバンドであり続けている。
1.砂の丘 〜Shadow on the Hill〜
2.Let’s Dance
3.俺達には土曜日しかない
4.One Night Carnival
5.O.N.C. 〜One Night Carnival 2019〜
6.One Night Carnival 2020
7.今日から俺たちは!!
8.鉄のハート
19:30〜 オナニーマシーン
そしていよいよこの日のトリにして、これだけのメンツを集めたイノマーによるバンド、オナニーマシーン。果たしてイノマーはこのステージに立ってライブを完遂できるのか。すでにフジジュンは
「オナマシは豊洲PITを一発出禁になる覚悟でやります!」
と普通に考えたら方向性のおかしい、でもオナマシでしかない気合いをバンドが持っていることを口にしていた。
ステージにまずは赤いツナギを来て鉢巻きを巻いたオノチン(ギター&ボーカル)とガンガン(ドラム)が登場すると、この日も会場に到着してからコンビニでビールを買いに行ったきり30分くらい戻ってこずに本番ギリギリだったというかつてと全く変わらないぶっ飛びっぷりを明かすMCはほとんど何を言っているのか不明。
そんな中でイノマーは果たして?と思っていると、なんとスタッフに押される車椅子に乗って登場。その時点では「これは本当に大丈夫なんだろうか…」という空気が会場に満ちて明らかにざわつき始める。
イノマーが車椅子から降りると杖をついて立ち上がり、ヨボヨボとした足取りながらなんとかベースを抱えて立ち上がると、イノマーはThe ピーズのTシャツを着ていた。イノマーの大学の先輩であり、尊敬するミュージシャンであるThe ピーズのはるは今イノマーと同じように病と闘っている。そんな先輩にこうしてステージに立てている自分の姿を見せるように。
前に峯田和伸と渋谷ラママでイベントをやった時はまだ癌再発前で、もう喋れなくはなっていたけれど、それでも他はまだそこまで影響がないように見えた。しかしこの日見たイノマーはその時とは比べ物にならないくらいに痩せ細ってしまっていたし、右目に眼帯をするくらいに顔も変わっていた。
何よりも喋ろうとしてもはっきりとは伝わらない。そんな状態で果たして歌えるのだろうか?と思っていると、「チンチンマンマン」の演奏を始めると、スクリーンに歌詞が出ているというのもあるが、なんとか歌えている。全てをはっきりと発音できているわけではない。でもちゃんとこの曲の歌詞を歌っているというのはわかる。映し出された歌詞はそれはまぁメディアでは絶対オンエアできないひどいものではあるけれども。
曲間もやはり長い。イノマーは水を飲んだり座ったりしながら、やはり体力のギリギリの状態でこのステージに臨んでいるのがわかる。それでも
「このイベントの前にオナマシの曲の人気投票をやったの。そしたら1位が「あの子がチンポを食べてる」(笑)どうしようもないよね(笑)」
と語るイノマー。「恋のABC」では合唱を巻き起こしながら、オノチンは額で卵を割って食べたりという意味不明なパフォーマンスを繰り広げていく。
この日サンボマスターがカバーしていた「オナニーマシーンのテーマ」ではイノマーとオノチンが途中でステージからいなくなり、ガンガンのドラムソロ(あれだけ長くドラムを叩き続けられるのは本当にすごい)の様相を呈してくるのだが、しばらくするとパンツ一丁になったオノチンが客席のドアから乱入し、このイベントならではのティッシュを客席にばら撒きまくる。そうこうしているうちにイノマーもパンツ一丁でステージに現れると、こちらはステージからティッシュをばら撒きまくる。そしてオノチンとイノマーは楽器を構えてキメを打とうとするのだが、イノマーはスタッフに肩を借りないと少しだけ高いドラムセットにすら登れない状態であった。それでもステージに立っている。この日の出演者たちがみんな言っていたように、そこには1人の人間の生き様が現れていた。それは最後にお約束の全裸になってステージを去っていったオノチンも含めて。
当初のタイムテーブルではオナニーマシーンの持ち時間は30分の予定だった。イノマーの状態を考えるとそこが限界だと思っていたのだろう。しかしイノマーはアンコールを受けて再びステージに現れた。すると仲間たちをステージに呼び込む。イノマーと肩を組む峯田和伸や綾小路翔。その姿はかつてのツーショットとは変わり果ててしまっている。しかしそこに流れている感情は全く変わっていない。それどころか強くなっているのかもしれない。
ステージに出演者たちが勢揃いすると、峯田和伸が
「僕、オナニーが好きなんです!」
と言って「I LOVE オナニー」を全員で歌う。その姿を自らのスマホのカメラに収めるガガガSPの山本、なぜか袖から走ってきてそのまま客席にダイブしていった、元銀杏BOYZのドラマー・村井守。(彼がこの日ここにいたのが本当に嬉しかった)
それぞれが本当に楽しそうに歌い、踊り、ティッシュを客席にばら撒きまくっていた。その中心にはイノマーがいた。最後には再び「オナニーマシーンのテーマ」で大合唱を巻き起こして終了したが、やはり全裸になったオノチンはこうしてオナニーマシーンとして(オノチンは自身のバンドもやっている)ギターを弾けることが本当に楽しそうで、
「イノマー、俺より5歳年下なんだ。だからまだまだ長生きしてもらわないと困る!みんな本当にありがとう!また会おう!今日は天王即位の日だから恩赦されます!(笑)」
と最後に言った。こんなに「最低」と言われまくってきたバンドで20年間も一緒に活動してきたからこそのイノマーへの想いが確かにそこにはあったし、またこのイベントでこのバンドの
ライブが観れるような予感が確かにあった。
なぜイノマーは舌も内臓も摘出され、かつてとは変わり果てた姿になってもこうしてステージに立ったのか。それはどんなにバカにされたり、汚いとか最低とか言われようと、自分たちがやってきたことで救われたり、力をもらったりしてきた人たちがいることをわかっているからだ。
かつて「童貞のカリスマ」と呼ばれ、そうしたどうしようもない男たちの想いを全て受け止めてきたイノマー。ティッシュタイムはそんな男が作り出した祭りだった。自分たちみたいなどうしようもない奴を、かつての自分たちを認めるためにステージに立つ。終わらなかったんじゃなくて終われなかった。だからこそ、まだまだこれからも終われない。こうして何千人もその生き様を見に来てくれる人がいるから。
NHKなどのドラマで役者としても活動する峯田和伸も、今や日本有数のフェスの主催バンドである氣志團も、あらゆる日本のフェスのメインステージに立ち続けているサンボマスターも、今の状況でイノマーとつるんだり、こんなアホみたいなイベントに出演することによるメリットはほとんどない。
でもそこには損得勘定を超えたものが確かにあった。それぞれのバンドにとって、今でもイノマーが大事な人であるということ。それはそのままイノマーという男の人間性を現していたし、彼らが本当に優しい人間たちであることを示していた。
1.チンチンマンマン
2.あの子がチンポを食べてる
3.恋のABC
4.オナニーマシーンのテーマ
encore
5.I LOVE オナニー 〜 オナニーマシーンのテーマ w/ 峯田和伸、サンボマスター、ガガガSP、氣志團
2年前、SATANIC CARNIVALで復活したジャパハリネットのライブを見た時に、
「いつか青春パンクバンドたちを集めたこういうフェスが見たい。それを主催できるとしたらイノマーくらいだろうけれど」
と自分は思った。ある意味ではこのイベントはそうしたフェスそのものであった。
まだ青春パンクブームの当時はフェスはいわゆる4大フェスくらいしかなかったから、個々にライブハウスで対バンしたりはしていても、こんなメンバーが集まることはなかったし、ガガガSPが「オラぁいちぬけた」と青春パンクという括りから抜け出そうとしたり、アジカンがデビュー時に
「「遙か彼方」で声をめちゃ張って歌ってたら、青春パンクのバンドみたいに見られて「これはヤバい!」って思った」
と語っていたりと、みんな当時は青春パンクというところに当て嵌められることへの危機感を口にしていた。音楽性の未熟さを指摘されることも多かったし、その「青春パンク」というネーミング自体がすぐに過ぎ去るものとして認識されていたから。
そんな音楽であっても、高校生の時の自分はこの日出演したバンドや転換中にBGMで流れていた「青春パンク」と呼ばれていた音楽に救われていた。もしあの頃に青春パンクが流行らなかったら、自分はこうしてここまで音楽が好きになることはなかったかもしれない。こうしてライブに行くようなことも。そうしたらいったいどんな人生になっていたんだろうか。
もしかしたら時代の徒花だったかもしれないし、今の若いには響かないかもしれない。それでも自分は今聴いてもやっぱり素晴らしい音楽だと思うし、一生聴き続けられる音楽だと思っている。コザック前田が言っていたように、青春は終わらなかった。これからもずっと続いていく。あの頃に戻った1日ではなくて、バンドも我々も今を生きていることを感じさせた1日だった。
文 ソノダマン