今となっては信じられないことであるが、かつてASIAN KUNG-FU GENERATION、ストレイテナー 、ELLEGARDENらは若手時代に下北沢の小さいライブハウスで凌ぎを削っていた。
その関係性はそれぞれがブレイクを果たして日本のバンドシーンを代表する存在になっても変わらず、アジカンは横浜アリーナで開催していたNANO-MUGEN FESTIVALに毎年ストレイテナーとELLEGARDENを呼んでいた。
しかし2008年にELLEGARDENは活動休止。メンバーはそれぞれのバンドなどで活動するようになっていたが、休止から10年経った去年、突如として活動再開し、ツアーを回ったのは記憶に新しい。
それから1年。ELLEGARDENはフジロックやライジングサンといった夏フェスにも出演してこれからも活動していくということを証明してくれたわけだが、そんな中でかつて3バンドで回っていたNANA-IRO ELECTRIC TOURが突如復活。久しぶりにこの3組が一緒にライブをすることになったのである。
すでに前週には大阪公演が開催され、ストレイテナーはその翌日に日比谷野音でワンマンを行うというハードスケジュールの中、この日はツアー2箇所目の名古屋公演。
愛知国際展示場というライブをやる場所としてはなかなか聞き慣れない名前の会場は中部国際空港のすぐ近くにある、新しさを感じさせる造りの幕張メッセのような会場。アジカンのゴッチもツイートしていたが、名古屋の近くかと思いきや名古屋からはかなり遠い。
幕張メッセのような、と言ったのはファイナルの会場である横浜アリーナとは違って指定席がない、ブロック別のオールスタンディングだからというのもある。さすがに9〜11ホールほどの広さではないが、その2/3くらいの広さだろうか。
・ASIAN KUNG-FU GENERATION
このツアーは東名阪の3箇所で出演順を変えており、この日はトップバッターとしてアジカンが登場。今年もツアーやフェスなどあらゆる場所でライブを見てきているが、やはりそのどれとも違う独特の空気感というか緊張感を感じる。
18:30になると場内が暗転。それと同時に流れ始めたのは時計が動き始めたことを告げるかのような昨年リリースの最新アルバム「ホームタウン」収録の「クロックワーク」のイントロのSE。するとサポートキーボードのシモリョーを含めた5人がステージに登場。メンバーの出で立ちはいつもとは変わらないが、ゴッチは髭が少し濃くなっているような感じがする。
そのままSEのサウンドが生のバンドサウンドに切り替わる「クロックワーク」でスタート。ゴッチがワンコーラス歌い終わると自然発生的に客席から起きた大きな拍手はこの日を楽しみにしてきた人たちの思いが爆発したかのようであるし、このツアーを開催してくれたアジカンへの感謝を告げているかのよう。
ゴッチが
「こんばんは、ASIAN KUNG-FU GENERATIONです」
といつものように穏やかに挨拶すると、伊地知潔が刻む4つ打ちのビートに合わせてゴッチも喜多建介(ギター)も飛び跳ねながらギターを弾くのは「君という花」。代表曲のイントロにはやはり大きな歓声が上がり、
「らっせーらっせー!」
の大合唱も響くが、観客だけでなくメンバーたちもこうしてこのライブが出来ているのが本当に幸せそうだ。
さらに代表曲は続く。「リライト」では間奏でダブっぽいアレンジがなされた上でコール&レスポンスをする形で演奏され、「ソラニン」ではイントロのギターのフレーズが鳴るだけで大歓声。ある意味では今年のフェスに出演した時のセトリよりもフェスらしいセトリである。
するとここでゴッチが呼び込むと、この日はトリを務めるストレイテナーのホリエアツシが登場。
ホリエ「いやー、「ソラニン」良い曲だよねぇ」
ゴッチ「宮崎あおいが歌った方がいいっていう話もあるけど(笑)」
ホリエ「でも宮崎あおいちゃんは、ちゃんって言っちゃった(笑)宮崎あおいさんは歌わない女優さんなんだって。それが「ソラニン」だけは歌ったっていう」
ゴッチ「ああ、ゴッチが作った曲だからって?(笑)」
ホリエ「(笑)でもあの映画、主題歌はアジカンだけど、劇中音楽を俺が作らせてもらったんですよ。(ent名義でサントラを担当した)」
ゴッチ「あ!そうだった!でも今日メガネかけてないよね。最近俺に寄せてきてるっていう(笑)」
ホリエ「ちょっと髭も生やしていこうかなって(笑)」
ゴッチ「注意しないといけないのは、風呂上がりにメガネと髭で頭にタオルを巻くとビッグ・ダディになっちゃうっていう(笑)
AKG超えてBDになっちゃうから(笑)」
とホリエが「ソラニン」を褒めたことによってどんどん話は緩く展開していくのだが、出てきたのは一緒に歌うためであり、「ホームタウン」のDISC2の「Can’t Sleep EP」収録の「廃墟の記憶」をゴッチとホリエのツインボーカルで披露するのだが、ステージ後ろのスクリーンには曲のMVが映し出される中、ステージ左右のスクリーンに映ったメンバーの演奏中の姿の中でも、ホリエが伊地知や山田貴洋(ベース)の方を向いては本当に楽しそうに笑っている。こうして一緒にツアーを回って、同じステージに立てている喜びを噛み締めているかのように。ホリエが作曲を手がけたこの曲のポップな雰囲気もその喜びや嬉しさをさらに強く感じさせるものになっている。
ホリエが歌い終わってステージを去ると、ゴッチが
「もう一曲、大事な友達の歌を」
と言って演奏されたのはART-SCHOOL「FADE TO BLACK」のカバー。喜多のギターがART-SCHOOL特有のシューゲイザー・オルタナティブなきらめく轟音を奏でるほぼ原曲そのままのアレンジだが、フレーズを弾くというイメージが強い喜多がこうしたサウンドをかき鳴らすというのは実に貴重な姿であるし、何よりもゴッチのハイトーンなサビのボーカル。木下理樹は声が出ていなくてもライブが良いものとして成立させることができるというある種特別な素養を持ったボーカリストであるが、近年ボーカルに歳を重ねたからこその安定感と味が出てきているゴッチが歌うと、改めて木下が作る曲を歌うのが実に難しいということがわかる。
やはりあの儚さは木下が歌うからこそ表出する要素でもあるんだな、とゴッチのボーカルの力強さはART-SCHOOLというバンドの唯一無二さを示すことになったが、この3バンドにとってART-SCHOOLは欠かすことができない存在だ。こうしてカバーしたり、NANO-MUGEN FES.をライブハウスで開催していた時代から一緒にライブをしていたアジカン、日向秀和と大山純の2人がもともとはART-SCHOOLのメンバーであった、ストレイテナー。今は細美武士がART-SCHOOLの戸高賢史とともにMONOEYESで活動しているELLEGARDEN…。今、木下は体調が優れずに活動することができていない。しかしいつかまたART-SCHOOLもこの3バンドとともにライブをする日が訪れるはず。大阪でアジカンがこの曲をカバーしたことを知った木下はツイッターで
「本当に嬉しい」
とそれ以上、なんの言葉も必要がない発言をしていた。
そしてゴッチが
「このツアーがまたできるなんて全く思ってなかった…いや、心の底ではいつかまたできるはずって思いながら生活してた。だからこうやってまた3組でツアーできて本当に嬉しいし、来てくれて本当にありがとう」
とこのツアーが開催できて、ステージに立てている喜びと感謝を語ると、照明が赤と青に目まぐるしく明滅する「サイレン」ではAメロからサビへと静と動を一瞬で表現するかのように一気にバンドの演奏に力強さが増していく。それは爆音ギターサウンドによるアジカンが大文字のロックを鳴らした「Easter」においてもそうで、その演奏の力強さとゴッチの声の伸びやかさはそのままこのツアーが開催できたことへの喜びをダイレクトに伝えてくれる。
それは我々観客もそうであり、こうしてこの3組が揃っているのを見ることができる喜びと感謝を大らかなメロディで包み込むような「ボーイズ&ガールズ」がこの日の最後の曲。背面にはこの曲のMVが映し出されていたが、そこで見えるメンバーの表情とこの曲を演奏しているメンバーの表情はともに強い慈愛に満ち溢れていた。それはきっと15年前にこのツアーが開催されていた時と最も違う部分なのかもしれない。演奏が終わった後にシモリョーも加えた5人でステージ前で肩を組んだ姿からそんなことを思っていた。
ゴッチは何度もこのツアーが開催できたことの喜びと感謝を口にしていた。確かにELLEGARDENが活動再開したからこそこのツアーが開催できているのは紛れもない事実である。しかしこの3組がどれだけ巨大な存在になっても、アジカンはNANO-MUGEN FES.というこの3組が揃う場所を作っていた。それはELLEGARDENが休止をしてもthe HIATUSを呼び続けたこともそうだ。
今考えるとそこにどれだけの労力や苦悩があったのかは計り知れない。ある意味ではそのアジカンの活動が2000年代の日本のロックシーンを作ることになったからだ。その道のりの半ばには「このままじゃヤバいかもしれない」と思ってしまうことだって何回もあった。
でも、今のアジカンは本当に楽しそうだ。もしかしたらアジカンのその楽しそうな雰囲気がこのツアーをやる最大のキッカケになったのかもしれない。最後に1人の観客が叫んだ、
「ゴッチ、ありがとうー!」
という言葉はきっとこの日この場所にいた人たちの総意だったはずだ。
1.クロックワーク
2.君という花
3.リライト
4.ソラニン
5.廃墟の記憶 w/ ホリエアツシ
6.FADE TO BLACK
7.サイレン
8.Easter
9.ボーイズ&ガールズ
・ELLEGARDEN
この日、観客が着ているTシャツが最も多かったのがELLEGARDEN。活動再開してからは愛知ではライブをやっていなかったため、実に11年ぶりの愛知でのライブである。
去年復活し、今年はフェスなどにも出演したとはいえ、活動再開してから初めてELLEGARDENのライブを見るという人、そもそもELLEGARDENを知った時にはすでに活動休止していて、人生で初めてELLEGARDENのライブを見るという人…様々な思いが交錯するこの日のライブである。
かなりスムーズな(15分くらい?)転換の後に会場が暗転すると、ステージ背面にはおなじみのスカルロゴが「ELLEGARDEN」という文字とともに迫り上がってくる。それだけで大歓声が上がるのだが、それはメンバー4人がステージに現れるとより一層大きくなっていく。
やはりこれまでと同じように黒を基調とした服に4人が身を固め、4人が合わせるように音を鳴らし始めたのは「Fire Cracker」。早くも飛び跳ねまくる客席はまさに日がついた状態。細美武士(ボーカル&ギター)の伸びのあるサビのボーカルに生形真一(ギター)のハイトーンなコーラスが重なっていく。客席のことを見ながらベースを弾く高田雄一、笑顔でありながらバンドの土台を支える強さを放つ高橋宏貴のドラム。確かに目の前でELLEGARDENが音を鳴らしている。あの日で終わりだったんじゃなくて、2019年にもELLEGARDENがライブをしている。その事実だけで思わず目頭が熱くなってしまう。
「I feel right now」
という最後のフレーズはこの日こうしてここにきた1人1人を肯定してくれているかのようだ。
一気に観客が押し寄せ、サビではダイバーが続出したのは「Space Sonic」。サビ前では細美がギターを抱えたまま高くジャンプする。MONOEYESでも見ることができる光景でもあるが、本当に年齢を感じさせない。とっくに40歳を超えている人たちのバンドとは思えないし、その鳴らしているサウンドは今年数本しかライブをやっていないバンドとは思えないくらいの生命力と現役感に満ちている。やはりこのバンドには何か特別な力があるのだろうか。限られたロックバンドにしかかからない魔法のようなものが。
細美がサビ前で両手をぐいぐいと引き寄せる。それはこっちに来い、という感じではなく、もっと声を聞かせてくれ、といったように。なので「高架線」では巨大なシンガロングが。去年自分が見たZOZOマリンスタジアムでのライブは動員数はこの日の何倍でもあったけれど、野外であったが故に観客の声が反響しなかったから近くにいる人の声くらいしか聞こえなかった。でもこの日はここにいる全員の声が聞こえる。みんなでELLEGARDENのライブを見ていて、一緒に歌うことができている。その特別さを噛みしめることができる。
「アジカンの潔とか山ちゃんとかさ、本当に優しいの。朝会うと「おはよう」って穏やかに言ってくれてさ。俺の周りにはそういう人があんまりいないから。TOSHI-LOWとかしか(笑)
でもアジカンは主催バンドなのに今日はオープニングアクトを務めてくれて、一番最初に来てリハもやってくれて。
俺たち、今日やることはハッキリしてます。アジカンが渡してくれたバトンを一回も落とすことなくストレイテナーに渡すことです。今日はよろしくお願いします」
と細美が挨拶。その言葉の端々からアジカンとテナーという親友と言える存在を心から信頼していることがよくわかる。
そこからはもう大合唱の連発。休止期間中に細美がこの曲への想いを文に綴ることもあった「Supernova」、コーラス部分に加えて特大の
「Pepperoni Quattro!」
の大合唱が響いた「Pizza Man」。ああ、この曲は自分が休止前に最後にこのバンドのライブを見たロッキンの大トリの時に1曲目にやってたんだよな、あの時は細美が金髪で…と思い入れが強いバンドだからこそこうしたかつてライブで見た時の記憶が強く蘇ってくる。あれからもう10年以上経っているというのが信じられないくらいに。
そして生形によるギターのイントロで大歓声が上がった「風の日」では細美が
「もっといけんだろ、愛知ー!」
とさらなる大合唱を呼び込み、
「行ってこい、生形!」
と間奏でギターソロを弾く生形の背中を強く押す。
細美武士の言葉には何か普通の人とは違う力がある。他の人が言ったとしても説得力がないような言葉も細美が口にすると途端に説得力が増すように。この日も
「いろんな考え方の人がいると思う。「細美さんの歌を聴きに来たんです!」っていう人とか。でも今日くらいはさ、10年ぶりに会ったあいつと一緒に歌いたいっていう人の気持ちをわかってやってくんねぇか」
と細美は自身が合唱を求める理由を語った。自分は合唱を決して否定的に捉えてはいない。例えばOasisの「Don’t Look Back In Anger」であったり、MONGOL800の「小さな恋のうた」であったり、あるいはWANIMAのライブであったり…人の声が重なるからこそ生まれる感情や感動がそこにはあると思っているから。もちろんそれぞれが曲やアーティストに抱える思いは違う。その違う思いが曲によって一つに重なる。それは人間の声じゃないと生まれないものである。間違いなくELLEGARDENの曲にもたくさんの人がいろんな想いを持っていて、それを自身の声に乗せている。だから聴いていて感動してしまうし、
「風の日には飛ぼうとしてみる」
というフレーズを飛び跳ねながら歌っていると、本当にどこまでも飛べそうな気がしてくる。
しかしながら去年ZOZOマリンスタジアムのワンマンを見た時とどこかが違う。演奏はむしろより現役のバンド感が増している。アジカンの渡してくれたバトンをストレイテナーに渡すために滾っているのもわかる。でもどこかフラットでありながら燃えているように感じたのだ。
思えば、去年のワンマンは見ることができて本当に嬉しかったのだが、
「もしかしたら本当にこれで最後なのかもしれない」
とも思っていた。バンドもあの日はその後のことをまだ考えていなかった。そんな緊張感があの日にはあった。
でもこの日はそうした空気が希薄というか、ステージ上からは皆無であり、それはメンバーが一言ずつ発する際に、軽い挨拶的な高田と高橋に続き、
生形「これからもELLEGARDENをよろしくお願いします」
細美「再結成マジックなんていうのはすぐになくなる。だからこれからは毎回過去の自分たちを超えるライブをやっていく」
という言葉はELLEGARDENがこれからも続いていくバンドであるということを何よりも説得力を持って示していた。その「続くかどうかわからないバンド」と「これからも続いていくバンド」の違い。それがあの日とこの日で1番大きく違っていたし、その意識がステージから感じられたのだ。
だからこそ「Red Hot」の楽しさもひとしおだった。だってこれからもこの曲をこうしてこれからもライブで聴くことが何回だってできるんだから。自分の目の前でライブを見ていた、自分よりもずっと年上の夫婦であろう2人組が最後の高速化するサビで2人で緩く体をぶつけ合っていた。この人たちは人生のどんな時間にELLEGARDENの曲が流れていたんだろうか。もし2人でこうしてライブに来るのが10年以上ぶりだったとしたら…そんなことを考えていた。
それでもやっぱり休止を経たバンドは休止前の曲の歌詞もかつてとは変わって聴こえてくる。例えば高田が頭を激しく揺らしながらベースを弾き、高橋のシンバルやスネアを叩く強さがさらに増す「ジターバグ」の
「いつだって君の声がこの暗闇を切り裂いてくれてる」
というフレーズはELLEGARDENをずっと聴いてきた人がELLEGARDENの存在に対して思っていることそのものであり、それは
「いつかそんな言葉が僕のものになりますように そうなりますように」
という言葉の通りに今まさに自分のものとして目の前で鳴っている。こうしてライブを見るまで、それこそ初めてELLEGARDENのライブを見る人にとっては
「一切の情熱がかき消されそうな時」
だって何度となくあっただろう。でもこうしてELLEGARDENのライブを本当に自分の目で見れていて、これからもまたきっと見ることができる。そう思えば
「数え切れないほど無くして また拾い集めりゃいいさ」
と思いながら生きていけるんじゃないだろうか。
そしてタイトル通りに獰猛かつ重厚な「Salamander」へ。こうして聴いていると、現状最後にリリースされたアルバムである「ELEVEN FIRE CRACKERS」に収録された曲が多く演奏されていることがわかる。バンドとして1番混迷の時期に居たアルバムであるが、それすらも今のバンドはきっとフラットに向き合うことができているというか、ようやく今になってあのアルバムとしっかり向き合えているのかもしれないし、もう13年も前にリリースされたアルバムとは思えないくらいに今でもその曲たちは全く輝きを失っていない。
そして歌い出しから大合唱が巻き起こったのはやはり「Make A Wish」。歌いながら泣いている人、歌いながら人の上に肩車される人。それが一気にツービート化するブレイク部分で一気にぐちゃぐちゃにまみれていく。みんな、何を祈りながら歌っていたんだろうか。やっぱり、またELLEGARDENのライブをこうして見れますように、ということだろうか。
そんなライブもあっという間に最後の曲へ。細美武士が
「ゴッチー!」
と叫ぶと自身のライブを終えてTシャツ姿に着替えたアジカンのゴッチが登場して、細美武士と一緒に歌ったのは「虹」。
「積み重ねた 思い出とか
音を立てて崩れたって
僕らはまた 今日を記憶に変えていける
間違いとか すれ違いが
僕らを切り離したって
僕らはまた 今日を記憶に変えていける」
という、バラバラになってしまったバンドや人間たちがまた同じ場所に集まることを予期していたかのような歌詞を、ずっと心の奥底でこのツアーをやりたいと思っていて、ずっとこの3バンドの絆をつなぎとめてきたゴッチが歌っている。こんな光景が見れるなんて全く想像していなかったし、どこかこの曲はこのツアーのテーマ曲のようにすら響いていた。「NANA-IRO ELECTRIC」って、要するに「虹」のことだから。
今年、ELLEGARDENは自身メインのライブはやっていない。全てフェスやイベントや対バンなど、誘われて出演してきたライブのみ。で、これからもきっとELLEGARDENはそういう場所に出て行くだろう。まだまだ、10年以上前にもらったものや受けた恩を返しに行けていない場所や人がたくさんいるから。
まだやっぱり今の時点ではこのバンドのライブを見るということは「特別なこと」なのかもしれない。でも近い将来にこのバンドのライブを見たい人みんなが見れるようになるのが当たり前になりますように。この日のライブはそうなるであろう予感を確かに感じさせてくれるものだった。楽しさや嬉しさだけじゃない、これから先に繋がっていく、ELLEGARDENと我々の物語がこれからも続いていく何かを。
1.Fire Cracker
2.Space Sonic
3.高架線
4.Supernova
5.Pizza Man
6.風の日
7.Red Hot
8.ジターバグ
9.Salamander
10.Make A Wish
11.虹 w/ Gotch
・ストレイテナー
そしてこの日のトリはストレイテナー。中津川 THE SOLAR BUDOKANに出演した時にホリエアツシ(ボーカル&ギター&キーボード)が
「名古屋は俺たちがトリなんで、応援しに来てください!」
と言っていたが、いやそもそも見たくてもチケット取れないんですけど、と突っ込まざるを得なかったけれど、日比谷野音ワンマンを経てこうしてこのツアーのトリとしてのライブも見れることに。
日比谷野音の時と同じようにリリースされたばかりの最新ミニアルバム「Blank Map」の1曲目に収録されている「STNR Rock and Roll」のSEでメンバーが登場。きっとこの曲はそのために作られたのだろうし、高揚感を煽るコーラスフレーズはライブの期待を高まらせるのに実に最適である。
「まだ体力残ってる?アジカンとELLEGARDENで昇天してない?(笑)賢者モードになってない?(笑)」
とホリエは演奏するよりも先にそう言って笑わせていたが、その2組から受け取ったバトンを持っているだけに言葉とは裏腹に燃えないわけがない、というのがいきなりの「Melodic Storm」の演奏からハッキリと伝わってくる。ホリエはいつも以上に飛び跳ねながら、頭を振りながらギターを弾いており、続く「冬の太陽」も日比谷野音の時はまるでミラーボールが太陽であるかのように美しい景色を描いていたが、この日はそうした演出がなかったからかもしれないが、曲の持つ激しさを強く押し出したイメージで、この前聴いたばかりの曲なのに「この曲こんなに激しかったっけ!?」と思ってしまうほど。
それはホリエがキーボードを弾きながら歌う「Braver」もそうであり、ステージを広く動きながらギターを弾く大山純も、体を大きく揺さぶりながらゴリゴリのベースを弾く日向秀和も、手数は少ないながらも一打一打が強烈に思いナカヤマシンペイのドラムも、勢いでいこうとしているギリギリのところでいつもの丁寧さも失われていないといった感じ。やはりメンバー全員がこの3バンドのライブで自分たちがトリを務めるということに対して期するものがあるのだろう。
このツアーが開催されたのが15年ぶりということへの感慨を口にしながら、ホリエは続けて
「俺、15年前は絶対にこんなこと言わなかったんだけど…今はアジカンやELLEGARDENや関わってくれている人、そしてこうして見に来てくれるみんなに幸せになって欲しいって心から思ってます」
と言った。そこにはトリとしての責任のようなものもあったのかもしれないが、本当に当時のホリエはそういうことを言うようなタイプではなかったし、そもそもMCをすることもほとんどなかった。だからきっと15年前のこのツアーとは空気感も全く違うだろうとも思うけれど、それはホリエやテナーだけではなくきっとアジカンやELLEGARDENもそうだ。みんないろんな経験をして、いろんなものを得たり失ったりしながらこうやって朗らかなおじさんになってきたし、そうした姿は歳を重ねるということが決してマイナスだったりネガティブに感じるものではないということを教えてくれるかのようだ。
ホリエと大山のギターと共にシンペイの叩き出すドラムが力強さを増したのは「REMINDER」。日比谷野音のワンマンの時にすらやっていなかった曲であるが、
「そこから何かが変わっていくだろう
壊れた形や消え失せた色
そこにある何かが伝えていくだろう
優しさや悲しみや遠い記憶を」
というこの曲のフレーズはこのツアーで再びこの3バンドが集結したからこそというように響くし、またここから何かが変わっていくような、そしてそれはこうして遠い記憶を呼び起こすようなことになる予感を感じさせる。
ホリエがキーボードを弾きながら歌う冬のバラード「灯り」はこの3バンドの曲の中ではかなり異質というか、ここまで「歌」に焦点を当てた曲が演奏できるのはきっとストレイテナーだけだし、この対バンであってもそれを見せ、この対バンだからこそそうしたストレイテナーらしさが強く感じられるのだ。
そして最新作「Blank Map」収録の「スパイラル」ではそうしたストレイテナーというバンドやメンバーの変化と今の姿が如実に現れたMVが両サイドのスクリーンに映し出される。アジカンの「ボーイズ&ガールズ」もそうであるが、やはりそのツアー中のメンバーの姿を捉えた映像からは4人が今最もこのバンドとして活動していることを楽しんでいることが伝わってくる。
自分は先日のこのバンドの日比谷野音ライブのレポの締めを
「すぐにまた君の歌を聞かせてくれ」
というこの曲の最後のフレーズの引用にしたのだが、「いつかまた」を「すぐにまた」にしたのはこの日のライブでまたこの曲が聴けるように、という願いも込めたものだった。そしてそれはこうして叶った。そうした小さな出来事の積み重ねが、人生の中で1曲を大切な存在にしていく。きっとこの曲もこれから自分にとってそういう曲になっていくんだと思う。
さらに「Blank Map」から、ストレイテナー解散後の世界を描いたMVも話題を呼んだ、バンドを始めた頃、それはまだ3バンド全てが若手バンドとして小さいライブハウスで凌ぎを削っていた頃だった時代の回想のような歌詞の「吉祥寺」へ。15年ぶりのツアーであっても当時の曲ばかりを演奏するのではなくてバンドの今の姿をしっかり見せていく。結果的にはトリであるテナーが1番そうした攻めたセットリストで臨んだことになったわけだが、それは変わり続けながらも全く止まることのなかったストレイテナーというバンドの意志を見せつけるかのようだった。
そして最後に演奏されたのは「シーグラス」。もはや夏ではないけれど、この会場は空港がある埋め立て地、つまりは海だった。
「今年最後の海へ向かう」
というこの曲のサビのフレーズはきっとこの日この会場にいた多くの人にとって「まさに!」なものになったはずだし、アジカンとELLEGARDENのバトンを受け取った後に演奏されたこの曲は、今まで何度となくハイライトを描き出してきた中でも最大級のエモーションを放出していた。
そしてアンコールではそれぞれがこの日の会場でも販売されていた「ROCKSTEADY」Tシャツに着替えて登場すると、
「アジカンもELLEGARDENもずっと友達なんだけど…でもこうやって対バンになるとみんな「絶対負けねぇ」ってバチバチになれるんだよね。だから友達でもありライバルでもあるっていう。そういうバンドと今でも一緒にできて本当に幸せです」
とホリエはアジカンとELLEGARDENを評した。確かに当時から(当時のテナーはもしかしたらELLEGARDENに近い音楽性だと思われていたかもしれないが)、この3バンドは同じ下北沢周辺のシーンから出てきたギターロックバンドであったけれど、それぞれのやっていた音楽や目指していたものはバラバラだった。ただひたすらに「良い音楽を作っているバンド」「良いライブをやっているバンド」として切磋琢磨してきた。それは今でも決して変わっていない。
そんな友達でもありライバルでもあるアジカンのゴッチを招くと、ホリエとゴッチのツインボーカルという形で演奏されたのは「KILLER TUNE」。ゴッチは独特のステップで踊りまくっていたが、アジカンが2009年にNANO-MUGEN FES.を開催した時に、アーティスト主催フェスとしては異例の「主催じゃないバンドがトリをやる」ということに選ばれたのがストレイテナーで、その時もゴッチを加えて(その時はなんやかんやでアジカンメンバー総登場だった)演奏されたのがこの曲だった。
やはりこうして共演する姿を見ていると、そうしたかつての共演した姿を思い出させるし、ストレイテナーはアジカンやELLEGARDENと違ってスタジアムクラスでワンマンをやったりフェスを主催してシーンを引っ張ったりするようなバンドではない。そういうバンドではないけれど、仲間たちの繋いできたバトンを自分たちの力に変えることができるバンドであるというのを10年前も、そして今も感じさせてくれる。
そんな大団円的な空気を醸し出しながらも、まだ終わらない。
「もう1曲、ELLEGARDEN・細美武士!」
と言ってゴッチに続いて細美武士をステージに呼び込むと、
ホリエ「ELLEGARDENの細美武士って呼べるのっていいよねぇ…。泣いてる?(笑)」
細美「いや、全然泣いてない(笑)」
と、ホリエもやはりELLEGARDENが戻ってきたことの嬉しさを感じさせながら最後に演奏されたのは、
「15年前によくやっていた曲!」
であり、今もバンドがメッセージとして背負い続けている「ROCKSTEADY」。細美は下手に、ゴッチは大山とともに上手にそれぞれ伸びた通路に駆け出していって端のブロックの観客の近くまで行って歌う。歌いわけも完璧、歌詞も2人とも見なくても歌える。昔からずっと聴いてきた曲だから。でもやっぱり昔とは違うなと思ったのはゴッチが大山と絡むように動いて笑いを巻き起こしていたこと。そんな、バチバチでありながらもお互いに支えになったり、活動する姿で刺激や勇気を与え合ってきた存在。
最後に観客に向き合うストレイテナーのメンバーとゴッチ、細美の姿を見ていたら、主催のアジカンでもなければ最も多くの人が見たかったであろいELLEGARDENでもなく、ストレイテナーがこの日のトリをやって、その日に見に来ることができて本当に幸せだと思えた。メンバーが去った後のステージを照らしていたのはやはり虹色の照明だった。この虹だけは、簡単に見落とすわけにはいかなかった。
1.Melodic Storm
2.冬の太陽
3.Braver
4.REMINDER
5.灯り
6.スパイラル
7.吉祥寺
8.シーグラス
encore
9.KILLER TUNE w/ Gotch
10.ROCKSTEADY w/ Gotch, 細美武士
この日、ゴッチはアジカンとしてのMCで、
「もしかしたら久しぶりにライブを見に来たっていう人もたくさんいるかもしれない。でも俺たちは10年後でもずっとこうして音楽を鳴らし続けていくから。何かひと段落したらまたいつでも見に来て」
と言っていた。それは止まらずに続いてきたバンドだからこそ、これからも続いていくという説得力を持っているし、それはそのままこの3バンドとも止まらずに続いていくこと、そうすればまたこのツアーが開催されることまでを同時に示していた。
そしてそれはこのツアーがただ単に昔を懐かしむものではなくて、止まっていたELLEGARDENが動き出したからこそできたツアーであるが、アジカンがずっとつなぎとめてきて、ストレイテナーが変わりながら止まらずに動いてきたからこそできたツアーでもあり、3バンドとも、そして我々も今を生きているのだ、ということをこの鮮やかな虹は照らし出していた。
文 ソノダマン