2019年に「Sun Dance」「Penny Rain」という「光」と「闇」のコンセプトに基づいた2枚のアルバムをリリースしたシンガー、Aimer。近年はロックフェスへの出演も多くなってきているが、そうしたフェスで見たライブが素晴らしかっただけに今回ワンマンを観に行くことに。
昨年10月に千葉の市川市文化会館から始まったこのツアーも後半。この日の大宮ソニックシティはこの会場での2daysの初日となる。
大宮ソニックシティ大ホールの中に入るとステージには紗幕がかけられており、その紗幕にはツアータイトルの文字が映し出されている中、開演時間の17時になると場内が暗転。紗幕が上がるとすでにバンドメンバーたちがスタンバイしているのだが、Aimer本人はステージ中央に伸びるスロープのような、あるいは橋のようなものの奥から歩いてステージ前に。ヒラヒラとした白い衣装は実に鮮やかだ。
アーチ状に作られた照明が薄暗闇の会場をほのかに照らし、ステージ背面には星空のように電飾が青くきらめく。「星の消えた夜に」でスタートし、Aimerはその神秘的な歌声を会場に響かせていくと、
「星の消えた夜に 何を願うの?」
というサビのフレーズになった瞬間に、それまできらめいていた星のような電飾が消え、まさに「星の消えた夜に」なるという曲のフレーズと完全に一致した演出。ステージが広いホールということもあるが、やはり曲の世界観や魅力を最大限に伝えるようなライブの作り方をしているアーティストなんだな、ということがこの時点ですぐにわかる。
この段階ではギター×2、ベース、ドラム、キーボードというバンドメンバーの全員が座って演奏していたし、観客も座ってライブを見ていた。初めてワンマンを見にきたので「ああ、amazarashiのライブみたいな楽しみ方なんだな」と思っていたし、それはフェスでのライブを見た時のイメージそのものであった。
まさにこれから長い時間の航海に出ることを宣誓するような「Sailing」を歌うと、Aimerがこのツアーのタイトルを説明。
「rouge de bleu」というのはフランス語で「赤と青」という意味であり、その色のイメージに合わせた曲を演奏するというコンセプトのツアーであることが語られたが、この日は「〜bleu de rouge〜」というサブタイトルがつけられているために、2daysのライブならではの「青から赤に変わっていく」というテーマの初日であることも合わせて語られた。
なので前半は「青」というAimerのイメージでもある夜を感じるような曲が続く。それに合わせて照明や電飾も青を基調としたものになるのだが、そうして演奏された「Blind to you」や「ポラリス」という曲はフェスでしかライブを見たことがないだけに初めてライブで聴くことができた曲であるし、その曲たちはこんな景色を描くのかということがワンマンに来たからこそわかる。
「AM02:00」から「AM03:00」〜「AM04:00」という夜中から徐々に夜明けに近づいていくというセトリの作り方によって青に少しずつ光が混ざり合っていくという流れになるのだが、それまではAimerのボーカルに聴きしれるという感じだったのが、「Stand By You」でまさに夜明けを感じさせると、立ち上がって演奏するようになったメンバーたちに合わせて、それまでは座ってじっとステージを見ていた観客たちが一斉に立ち上がる。
それはイメージからすると実に意外な光景だったのだが、さらに「青」というよりは「白」と言ってもいいくらいに眩い光を感じさせる、ダンスミュージックのエッセンスを強く取り入れた「We Two」ではAimerが観客に指で「W」と「2」の形を作ることを促すと、本人も歌いながらその形を作り、さらには腕を体の前でグルグル回すというパフォーマンスまで。バンドメンバーたちもギターを同じようにグルグル回すような素振りをするのが面白かったが、ずっと座って歌声を聴いているだけのライブではないということにここで改めて気づいた。それはこの後にさらにライブにおいて重要な要素になるということまではこの時点では思っていなかったが。
しかし「夜行列車 〜nothing to lose〜」で再び深い夜の中に入っていくと、「Torches」ではまさにAimer自身が灯台になるかのように松明を持って歌い、そのままスロープを登っていくと、そのスロープが壁のように上昇してAimerの姿を隠していく。
するとメンバーたちによるセッション的な演奏が始まり、特に三井律郎(THE YOUTH、LOST IN TIME、中村一義など。ここで会えるとは思っていなかった)のギターソロは情熱的に弾きまくるという形のものになったが、その演奏が「青」から「赤」にテーマが変わっていくことを知らせる。
なので演奏が終わると、壁のようになっていたスロープが赤く発光し、照明や電飾も一気に松明の炎のように燃えるような赤に変化していく。Aimer自身は黒い衣装に着替えているのだが、「STAND-ALONE」からの「赤」の流れは神秘的というよりも実に肉体的なライブを見せてくれる。サウンドもAimerのロックサイドに振り切れていくのだが、ステージ上で火柱が上がる「Black Bird」「I beg you」という曲ではAimerの力を込めた歌い方が人間の持つドロドロした感情を呼び起こしていく。前半とはまるっきり違うライブと言ってもいいが、どちらもAimerの声で歌うからこそAimerのライブとして成立している。なんというか、いろんな表情を見せてくれるのだけれども、Aimerの声でしか成り立たないような曲でありライブであるというか。
それはただ「歌が上手い」という素人のカラオケ歌合戦的な番組で聴けるようなものではなく、聴いていて心の奥底を揺さぶられるというか。アコースティックを基調とした曲では包み込むような包容力を、こうしたロックサウンドでは心をかき乱すようにダイレクトに体だけではなく心の中まで入ってくる声。
それは魔力のような、技術やデータでは絶対に作り出すことのできないものをAimerの声は持っているということであるし、こんなにも歌うために生まれてきたんじゃないかと思うような人が本当に歌うことを選んでくれて、そしてその歌声だからこそ魅力を感じさせるような曲を作ってくれるようなソングライターたちに出会ってくれて感謝したくなるのだ。
そんなライブはAimerが
「みんなもライブを作っていくメンバーです」
と言って手拍子を促すと、アコースティックを基調としたサウンドに観客の手拍子がリズムを作っていく。「コイワズライ」のような曲ではフェスでも手拍子が起きていたが、こうしてAimer本人の言葉によってそれが起きるのは実に意外というか、あまりそういうことをしないタイプのアーティストだと思っていた。
なので
「行けるか大宮ー!」
と煽る様には本当に驚いた。しかしそれはAimer自身のライブにおける感情の発露によるものだろう。自分が感じたように、なんのイメージやバイアスに縛られることなく思いを口にし、歌だけではない自身の持てるものでライブを作っていく。
だからライブは徐々にそうした「みんなで作っていく」というフェスでは感じられなかったような流れになっていく。最初の方に座って「鑑賞する」という形だったのが幻だったかのように、オルタナティブR&BをAimerならではのポップソングに昇華した「3min」の心地良いサウンドでは観客も音に合わせて体を揺らし、跳ねるようなリズムとギターリフが印象的な「Hz(ヘルツ)」ではAimerもステージを左右に動いて飛び跳ねながら歌い、EDMと言っていいようなアッパーなダンスミュージックの「ONE」では観客に歌うことすら呼びかけるのだが、そのAimer本人が歌詞を飛ばしてしまい、歌いながら両手を合わせたり、頭を下げたりする姿は実に可愛らしいと思わせるし、何よりもAimerの人間らしさを感じることができる。こんなに笑う人だなんて思っていなかったし、こうしてワンマンを見ると神秘的な歌姫ではなくて自身の思いを歌だけでないパフォーマンス全てに込めるシンガーというようにイメージが変わっていく。
そして「ONE」のサウンドに合わせて飛び跳ねる観客とメンバーの姿を見ていて、「楽しい」と思った。それはAimerのライブから感じることができるなんてこうしてワンマンに来るまでは全く思っていなかった感情だ。だからこそ、Aimerも最後のMCで
「楽しかったですか?」
「またAimerのライブに来たいですか?」
と観客に問いかけていたのだが、そのMCにおいて
「デビューしてから8年。その間に私のことを見つけてくれて、時間を使ってライブに来てくれて本当にありがとうございます。
私の夢はずっと歌い続けていくこと。私の歌と音楽がみなさんの生きていく力に少しでもなるのであれば、声が出なくなるまで歌いたいと思っています。生きてさえいれば、また必ず会えます」
とこうして自身が歌う理由について口にした。
「生きてさえいれば、また必ず会えます」
と口にしたのは、今までの人生の中でもう会えなくなってしまった人がいるからだろう。でも我々はこうして今生きている。生きていれば、またこうしてAimerのライブに来ることができる。
だからこそ最後に演奏された「RE: I AM」の
「「側にいて」と抱きしめても もう2度と聞こえない君の歌声は
降り注いだ雨のサイレン 僕の代わりに今この空が泣き続ける」
というフレーズは会えなくなってしまった人たちへ思いを馳せるようにして歌っているようだった。
最後にAimerはバンドメンバーを1人ずつ丁寧に紹介。紹介されたメンバーが今回のツアーの物販で販売されている、赤と青のタオルを掲げてポーズを取るのが実に面白かった。
アンコールでは再びステージに紗幕がかけられる中で、バンマスにしてキーボードの野間康介の機材がステージ前方に出され、Aimerの座る椅子がステージ中央に置かれるというミニマムな編成に。AimerはツアーTシャツという姿に着替えて登場すると、3月にリリースするニューシングルに収録される「marie」を披露。
個人的には同タイトルの某バンドの曲を思い出してしまうところもあるが、ややダークサイドの曲と言えるだろうか。当然ながらこのボーカルとキーボードだけという形とは違うアレンジになるだろうからまだ何とも言えないところでもあるのだが。
するとツアー恒例だという会場の地域の美味しいものを聞くというコーナーでは「十万石饅頭」と「彩果の宝石」というお菓子の名前が上がったのだが、
「何もないよ!」
と言う人もいるというあたりに埼玉県民の人間性が現れている気がする。
さらには遠くの地域から来た人にも手を挙げてもらうのだが、台湾や上海から来たという海外組もおり、Aimerがその人たち同士を無理矢理友達にしようとしていたのが面白かった。
そんな和やかなやり取りがありつつも、ボーカルとキーボードのみという形で演奏されることによって歌詞がハッキリ聞き取れるだけに切なさが倍増する「カタオモイ」から、最後は紗幕に雨が降るアニメーションが投影された「April Showers」もまたこの編成で演奏されることによってメロディとAimerのボーカルが前面に押し出された形になっていた。
JAPAN JAMの時はアコギとパーカッションとAimerというトリオ編成だったし、きっとAimerはいろんな形態でライブをすることができる。でもそれはやはりAimerのボーカルというそれだけでも成立するような唯一無二のものがあってこそだ。こうして長い時間の中でバンド編成とキーボードのみという形でのライブを続け様に見ると本当にそう思う。
最後に客席のあらゆる方向に向かって手を振ったり声をかけたりする姿は歌っている時の姿とはまた違うお茶目なものであったけれど。
「Sun Dance」「Penny Rain」というアルバムをコンセプトによって分けたのもそうだし、その前に出たベストアルバムも「白」「黒」というコンセプトに分けて選曲されていた。そして今回のツアーの「赤」「青」。Aimerの楽曲には様々な色のイメージが含まれているし、だからこそこうして対比的なコンセプトでCDやライブを作ることができる。そうすると、次はどんなライブになるんだろうか?とさらに楽しみになる。
存在を知った時は「アニソンの曲を歌っている人」。ちゃんと聴くようになった時は「Galileo Galileiの曲(「バナナフィッシュの浜辺と黒い虹」)を歌っている人」、真価にようやく気づいた時は「RADWIMPSの野田洋次郎らロックバンドのボーカリストたちに愛される歌姫」。フェスで初めて見た時は「魔法みたいな声を持つ神秘的な雰囲気の歌姫」。
そしてこの日のライブを見終えた後は「声だけじゃなくて自身の持てる全てを使って音楽と感情を表現するシンガー」。幻でも魔法使いでもなく、ちょっと変わった部分も含めて、ただひたすらに人間らしい人だった。やはりワンマンにこそ、大事なことがあるんだよ。
1.星の消えた夜に
2.Sailing
3.Blind to you
4.ポラリス
5.AM02:00
6.AM03:00
7.AM04:00
8.Stand By You
9.We Two
10.夜行列車 ~nothing to lose~
11.Torches
12.STAND-ALONE
13.Black Bird
14.I beg you
15.Daisy
16.コイワズライ
17.3min
18.Hz(ヘルツ)
19.ONE
20.RE: I AM
encore
21.marie
22.カタオモイ
23.April Showers
文 ソノダマン