本来は昨年のこの3月17日、「9mm Parabellum Bulletが結成されたと言われている日」に開催されるはずだったワンマンライブ「カオスの百年」が延期に次ぐ延期を経て、ちょうど1年後になるこの日に開催。
これまでも対バンなど様々なコンセプトを持って行われてきた「カオスの百年」であるが、今回は「裏ベスト10連発」ということで、ライブではまだやったことのない曲などのレア曲を演奏することが発表されている。これは1年間このライブを払い戻しをせずに待っていたファンへの9mmなりの感謝の形と言えるだろう。
検温、消毒、さらには9mmのライブ(年明けの昭和女子大学人見記念講堂でのTHE BACK HORNとのコラボライブ)では恒例となっている個人情報の記入を経てLINE CUBE場内へ入ると、今回の公演は「ガイドラインに則った上での100%キャパでの開催」となっていることで、全ての客席が指定席になっている。
ライブによってはキャパを減らして椅子を並べながらもあまり間隔が空いていないものもあるだけに、この形式も決して危険なものではないであろうし、今の状況での公演ガイドラインに則った上で開催されているだけに、9mmのバンドとしてのライブをやる覚悟を感じられる。
開演時間の18時30分を少し過ぎた頃に場内が暗転すると、おなじみのSEであるATARI TEENAGE RIOT「Digital Hardcore」が爆音で流れ、この日専用だと思われるバックドロップがステージ背面に迫り上がっていく。観客はみんな椅子から立ち上がって両腕を上げるのだが、仮に声を上げていたとしても絶対にわからないくらいの爆音っぷりであるし、声を上げたくなるくらいにやはりこの曲を聴くとテンションが高揚してしまう。それでも当たり前だが叫んだりしている人は誰もいなかっただろうけれど。
この日は武田将幸(HERE)をサポートギターに加えての5人編成。この1年間ずっと髪を切ってないんじゃないかと思うくらいに中村和彦(ベース)は長くなった髪をまとめて後ろで結き、逆に滝善充(ギター)は髪がさっぱりしたことでギター小僧感というか、ギターの妖精っぷりがさらに強くなっている。かみじょうちひろ(ドラム)を腕を上げながらステージに現れ、菅原卓郎(ボーカル&ギター)はこの状況下でライブに来てくれた人を最大限の敬意を持って迎え入れるかのようにステージ真ん中で両腕を広げてから深く頭を下げる。
その卓郎が
「9mm Parabellum Bulletです」
と挨拶して滝と武田がギターを掻き鳴らしたのは「太陽が欲しいだけ」。クライマックスに演奏されることも多いが、こうして最初に演奏されると最高の着火剤になるこの曲で観客は「オイ!オイ!」という声が聞こえて来そうなくらいに腕を振り上げ、手拍子をする。声は出せなくても客席の熱さが全く下がることがないのはその拳であり手拍子に観客がありったけの想いを込めているからだ。
「さあ両手を広げて すべてを受け止めろ」
というフレーズで観客が両手を広げると、卓郎もまたそれを受け止めるように両手を広げて
「渋谷ー!」
と叫ぶことができない我々の分を背負っているかのように叫ぶ。隣の席にも観客がいることで、広げた手がぶつからないように気を遣ってしまうこの感じ、本当に久しぶりだ。
ステージ背面からの照明がメンバーを真っ青に照らすことによって、海や空の中にいるというよくある青を使った演出というよりも、曲のテーマでもあるように今もロックバンドという名の青春の中に居続けているような感覚を覚える「DEEP BLUE」と続くと、やはり同じホールであっても年明けにライブを行った人見記念講堂とは全く音が違っていて、卓郎の声が自然にエフェクトがかかっているかのようですらある。去年初めてこの会場に来た時は3階席から見ていたらイントロが始まっても何の曲かわからないくらいに音が良くないと感じたこともあり、会場の音響についてはアーティストや観客それぞれで好みが分かれるところであろう。(まだ出来たばかりの会場なのに)
昨年9月というライブがまだほとんど出来なかった時期にリリースされたことによって、9mmからのこの時期を共に乗り越えるための曲という違った意味も生まれた「白夜の日々」は卓郎もこの後に何度も口にしていたように、
「いつか当たり前のような日々に流されて
すべて忘れても君に会いに行くよ」
「当たり前じゃない日々ばかりだよって
答えひとつ持って 流されずに 生きるために
君に会いに行くよ」
という歌詞の節々が今こうして我々の目の前に9mmが来てくれたということそのものを歌っているかのようだ。そうした今の状況との重なり合いがこの曲を特別な曲にしていくし、この感覚はきっと何十年経っても忘れないと思う。
「本物の9mm Parabellum Bulletです。本物のみんなだよね?」
という卓郎の最初のMCからもそれは現れていたが、ここからかねてから告知されていたレア曲10連発を繰り出すことを発表。
「どれだけの人が振り落とされるか…」
と言うくらいなので否応なしに期待は高まってしまう。
モバイル会員企画ではこの10曲を全部当てた人はプレゼントが貰えるという予想クイズ的なものも行われていたが、最初に演奏されたのが滝と武田による激しいタッピングの爆音インスト曲「Burning Blood」という、一応最新リリースシングル収録曲ということで、「え?これもアリなの?」と一杯食わされたような感じになるが、たしかに「ライブでやったことがない」という意味においては間違いなく当てはまっている。インスト曲だと卓郎もどこか普段よりも生き生きとギターを弾いているような感じもする。
爆音から一転してかみじょうのストレートなエイトビートのリズムに滝のギターが絡んでいくのはメジャー1stアルバム「Termination」収録の「Heart-Shaped Gear」。これもまた「え?この曲この企画に入ってくる曲なの?」と思ってしまうのは「Termination」ツアーをはじめとして、割と自分がこの曲をライブで何回か聴いているからであるが、
「僕の中には一つも足りない部品はないのに」
という相手の気持ちを理解することができない感情の欠落っぷりを「ハート型した歯車」という機械に例える卓郎の文学性の強い歌詞は実に秀逸であり、何回か聴いてはいても好きな曲であることに変わらないだけに実に嬉しいところだ。
おそらくこの企画とモバイル会員の予想において多くの人が頭に浮かんだ曲が、かつて武道館で「CD収録順が奇数の曲と偶数の曲で分けて、奇数の日と偶数の日で2days」という企画ライブ(あれもコンセプト自体はこの日のライブに似ている)で来場者に配布されたのが初出であった2曲「EQ」と「オマツリサワギニ」であり、やはりその2曲は並ぶ形で演奏される。
当時はその揺れ動きまくってバランスが取れていない様を歌った歌詞も含めて掴みどころがない曲だと感じていた(初披露された武道館の時のリアクションもそんな感じだった)、演奏する際に卓郎がニヤリと笑っていた「EQ」はしかし今になった聴くと、
「生きるべきか いや生きるべきさ
ただあるがまま」
という曲最後のフレーズがこの状況、この世界で生きていくということを肯定しているように感じられるし、地獄で鳴っている祭囃子はこんな感じなんじゃないかと思う「オマツリサワギニ」のおどろおどろしさも9mmがあの時期にバンドとしてさらなる広がりを求めていたり、実験的なことをしようとしていたということがわかる。とはいえこの2曲を聴くとその2014年の武道館2daysの2日目が豪雪でライブ後に電車が動かなくなって帰れなくなったということを真っ先に思い出す。そうした思い出もこうしてその曲を演奏してくれるから良きものとして受け入れることができるのだ。
そうしてレア曲として予想がつきやすい曲もあるが、アルバム単位でと言うならば最もレア曲が含まれていると思うのは2011年リリースの「Movement」だ。
リリースツアーではバンド最大規模の横浜アリーナワンマンも行ったが、その前のアルバム「Revolutionary」で一定の完成形を見た9mmとしての王道を敢えて避けたような「Movement」はリリース当時からファンの間でもかなり意見が割れていたし、リリースツアー以降は収録アルバム曲はほとんど演奏されていない。実際に卓郎も横浜アリーナのステージで
「みんなまだ「Movement」を捉えきれてないと思うし、アルバムの中でも1番そういうわからないであろう曲」
と言って「Face to Faceless」を演奏していたのだが、その曲を今こうして演奏すると、決して轟音ではないというあたりはやはりいわゆる9mmの王道という曲ではないけれど、こうした音を構築していくような曲は9mmの演奏力の高さがあるからこそできた曲であるということがよくわかる。
「10連発するとみんなが目眩を起こすかもしれないから(笑)」
という卓郎によるインターバルの後に演奏された「銀世界」もまた「Movement」収録曲であるが、逆にこの曲は今になって聴くとポップな曲という意味で9mmの王道というわけではない曲だが、ジャケットのアートワークからしてどこか混ざり合わないものを表現していたように感じた「Movement」にもこうしたポップな要素が含まれているということに気がつく。とはいえ間奏では9mmらしい轟音になるパートもあるけれども、この日はステージ奥の両端に置かれたミラーボールが真っ白な照明の光を反射する様がまさに
「きらめく銀世界」
と言うような美しい景色を描き出していた。
続くのが「Lady Rainy」という、雪から雨になるというこの時期を表した流れになっているように思う選曲なのだが、この曲を聴くとやはり日比谷野音での滝の負傷を思い出してしまう。なのでその切ないイントロのギターを聴くだけでやめて欲しいくらいの感覚になったりするのだが(あの時の滝の痛々しい姿はトラウマと言えるくらいにまだ脳内に残っている)、この日滝は見事に自らの腕とギターでそんな経験を乗り越えてみせた。そんな瞬間を見ることができたからこそ、この曲をこれからは笑顔で聴けるようになるだろう。
雨はまた雪へと変わるというクリスマスの名曲の歌詞のように「Lady Rainy」から再び雪の曲である「Snow Plants」へ。どこかで演奏されたことがあるらしいが、「Answer and Answer」のカップリングという立ち位置上もあり、ほぼ全く演奏されたことがないくらいの曲である。「銀世界」と同じように「雪」をテーマにしながらも、
「痛みだけ積もらせて どこに消えたの
ひらひらと はらはらと 雪の花びらよ」
という歌詞のとおりに「銀世界」の美しさとは真逆と言っていいくらいの別れの切なさが歌われている。
さらにはこのレア曲演奏というテーマが発表された時から「この曲が演奏される時が来た!」とファンを歓喜させていたのは「サクリファイス」収録のカップリング曲であり、まだ1度もライブで演奏されたことがない曲として逆に名高い曲になっていた「午後の鳥籠」。それがついにライブ初披露された。
徐々に高まって熱さを増していくバンドアンサンブルも、神聖さすら感じさせるメンバーを照らす照明も、初めてライブで演奏される曲とは思えないくらいの完成度であるというのはもしかしたら入念にリハをしていたのかもしれないが、今回は「ついに聴けた!」という昂らざるを得ない感情が全ての観客にあったであろうだけに、もうちょっと冷静な状態で聴けるように今後も定期的にライブで演奏してもらいたいものである。
そんなレア曲10連発のトリを飾るのは「Faust」。確かに収録アルバム「VAMPIRE」にはライブで良く演奏される曲や人気曲も多数あるが、その「VAMPIRE」の中でもトップクラスに地味と言っていい曲である。
それは作曲が滝と卓郎、作詞が卓郎とかみじょうと共作で作られたからこそ様々な3人の持ち味が混ざり合ったことによって9mmの王道(=作曲滝、作詞卓郎)というわけにはならなかったのかもしれないが、サビでの滝のギターをブンブン振り回しながらの轟音での演奏っぷりは「VAMPIRE」というアルバムの統一感にはしっかりハマっていると言える。
そうしてレア曲10連発を終えると、客席からは「誰も振り落とされてないぞ」と言わんばかりの大きな拍手が起き、卓郎も
「この1年の中で9mmを好きになってくれた人は何のこっちゃっていうセトリ」
とは言っていたが、拍手の大きさからは確かな手応えを感じていたように思うし、やって良かったと思ってくれていたんじゃないだろうか。だからこそ卓郎は
「やっぱりライブがある日っていいよね」
と言った。こうしてレア曲を演奏することも、そのリアクションを確かめることもライブがないとできない。
「マスクをしてる表情を見るのも慣れただろうから、みんなの鼻から上が笑っているのがわかる」
というのも、実際に目の前にいて、顔を見ることができるから確かめることができることだ。
そして終盤は卓郎が
「みんなが健康でいてくれますように」
と言った言葉を曲で示すかのように、
「明るい未来じゃなくたって
投げ出すわけにはいかないだろ
また明日 生きのびて会いましょう」
と、この状況の世界を我々が生き延びてライブで再会できることを願うような「名もなきヒーロー」は今聴いていると力強さを感じさせるのに何故だか涙が出そうになってしまう。それは我々にとってのヒーローである9mmがこの曲で再会を約束してくれるからだ。6月からのツアーのことを話すのも、またそこで再会することができるからである。
するとリズムに合わせて観客が手拍子をする「marvelous」からはさらに爆裂っぷりが増していく。
イントロで卓郎がマラカスを振って観客を踊らせまくり、曲始まりのカウントも観客が叫べないだけに卓郎が叫ぶ声がよく聞こえる「talking machine」では滝がフェイントを入れるかのような演奏を間奏に挟む。卓郎と武田は滝の方を見てそれに合わせたりと、ライブならではのアレンジを見せてくれるあたり、バンドとして9mmが今何度目かの絶頂期を迎えていることがよくわかる。それは滝の状態が良くなってきているということとも同義だ。
そしてラストは爆裂ショートチューン「Lovecall from the world」。和彦は自らアンプに寄っていって音量を上げるようであり、滝はやはりギターをブンブン振り回していた。そんな姿と爆音が、サウンドに合わせて飛び跳ねる我々を爽快な気分で満たしてくれる。9mmの愛が我々を呼んだから、こうしてここに来たんだ。
アンコールでは最初に卓郎がステージに現れると、100%のキャパでライブをやらせてくれたLINE CUBEへの感謝を告げるも、もう時間があんまりない(おそらく音出しは20時までだったのだろう)ということで、4人が揃うと急いで演奏へ。
そう、アンコールは4人だけだった。4人だけで演奏された「Discommunication」はやはりテンポがかなり速くなっていたのは時間がないからというのもあっただろうけれど、4人だけのサウンドであることによってより疾走感が増し、それがさらなるテンポの速さに繋がっているようであった。
そしてラストに演奏されたのは「Punishment」。この日のレア曲というのはなかなか普段のように爆裂しっぱなしというわけにはいかない。そうしたタイプではない曲も多いからだ。だからこそこのアンコールではその分までも爆裂するかのように、卓郎、滝、和彦がステージ前に出てきて演奏する。特にこれまでは武田や為川裕也というサポートギターやゲストギタリストたちと集ってギターを弾くというのが一種の見せ場にもなっていたが、それは滝の腕の負担軽減という意味合いもあったはず。でもこの日はこの曲の高速カッティングも滝が1人で演奏することができていたし、その滝が1番というくらいに爆裂していた。サポートギタリストたちには心の底から感謝してもし足りないくらいに感謝しているが、それでも3人が前に出てきた時のフォーメーションの決まりっぷりと美しさは、やはりこの4人でいることこそが9mmなんだと思わざるを得なかった。
和彦がもうベースを肩にかけていないくらいの感じになりながらも卓郎のボーカルを聴きながら、この日のライブが「再現不可能」ではありませんように、と思っていた。
フェスやイベントでこの日演奏したレア曲をやったとしたら、客席が凍りつくのが容易に想像できる。でもそんな曲たちが演奏されるのを心から待っている人たちがいて、バンドは少しでもたくさんの人に見てもらえるようにガイドラインを守りながらもキャパ100%でライブをやることにした。そこにはバンドとファンの揺るぎない信頼関係があった。
バンドは100%のキャパでやっても俺たちのファンなら絶対に大丈夫だと信頼してくれていたということであるし、そんな信頼しているファンがチケットを持って待っていてくれたから、その人たちが喜んでくれるであろう内容のライブを考えて実現してくれた。
演奏が終わって卓郎と和彦が丁寧に観客に向き合う仕草(卓郎が最後にバンザイをした時に観客も声を出せずにバンザイするから無音になっていたのは面白かった)もそんな信頼する観客への感謝を示していたし、メンバーが去った後に行儀良く規制退場を待ちながら、終演アナウンスの後に起こった大きな拍手は、そうして信頼してくれたバンドへの我々からの「ありがとう」と口に出して言えないからこその、精一杯の感謝の表明だった。
鳴らしている音は激しいけれど、人間として9mmのメンバーは本当に優しい。ファンがバンドを写す鏡なのだとしたら、頭を振ったりとノリは激しいけれど、人間として優しい。それこそが9mmが長い歴史の中で積み上げてきたものであり、今こんな状況でライブをやる上でより大事になっているものだと思う。またみんなで、生き延びて会いましょう。
1.太陽が欲しいだけ
2.DEEP BLUE
3.白夜の日々
4.Burning Blood
5.Heart-Shaped Gear
6.EQ
7.オマツリサワギニ
8.Face to Faceless
9.銀世界
10.Lady Rainy
11.Snow Plants
12.午後の鳥籠
13.Faust
14.名もなきヒーロー
15.marvelous
16.talking machine
17.Lovecall from the world
encore
18.Discommunication
19.Punishment
文 ソノダマン