a flood of circleはすでに今年の3月にフルアルバム「CENTER OF THE EARTH」をリリースしているし、翌月にはアニメ主題歌となったシングル「The Key」をリリースしている。
そのリリースツアーも全国をガッツリと周り、フェスにも次々に出演、さらに佐々木亮介(ボーカル&ギター)はソロでもアルバムをリリースしてツアーを行い、THE KEBABSでも活動、メンバーは映画「空の青さを知る人よ」に演奏役として出演するなど、いつ作る時間があったんだ、という中でミニアルバム「HEART」をリリースするという凄まじい活動ペース。
様々な変化を経てきたバンドであるが、メジャーデビュー期に1年に2枚もフルアルバムをリリースしていた生き急ぎ感は全く変わらない。
そんな「HEART」のリリースツアーの初日となるのがこの日の千葉LOOK。今やフラッドのツアー初日と言えばこの場所というくらいにバンドにとってはホームのライブハウスになっている。
チケットソールドアウトで満員の中、19時過ぎに場内が暗転すると、おなじみのSEが流れてメンバー4人がステージに登場。全員黒を基調としたステージ衣装なだけに、亮介はもちろん黒の革ジャン着用。
そのメンバーたちがじっくりと重い音を出し始め、赤い照明がステージを照らす中で演奏されたのは、「HEART」収録の中の新曲としては最後に収録された曲(その後にライブ音源が収録されている)になる、メンバー全員の名前が作曲にクレジットされた「Stray Dogsのテーマ」。作詞は亮介であるが、Stray Dogsとは紛れもなくフラッド自身のこと。自分は決してフラッドのことを負け犬だとは思っていないが、その波乱万丈なバンドストーリーはそう自称するのも納得ではある。
とはいえこの曲が最初に演奏されたのが意外だったのは、新曲の中では最後に収録されている曲であるという以上に、「メンバーそれぞれが曲を手がける」というコンセプトのミニアルバムである「HEART」において、全員で作曲した曲というのはある意味ではリーサルウェポンと言ってもいい存在だからだ。そんな曲をツアーの幕開けの曲で選ぶというのはやはりフラッドはこちらの予想を心地よく裏切ってくれるし、逆にそれは「この4人でのバンド」というのを最初に示すためなのかもしれない。
渡邊一丘(ドラム)が曲と曲の合間を巧く繋げるようなリズムを叩き出すと、「Dancing Zombiez」で最初の爆発を見せ、客席からは手拍子と大きなコーラスの声が上がる。近年はアウトロに亮介と青木テツ(ギター)によるギターバトル的なアウトロが追加されていたが、この日はそれはなく、そのままアウトロから「Vampire Killa」のイントロまでを一つの曲とするように演奏される。コーラスのフレーズを含めてどこか類似性を感じられるこの2曲を繋げるように演奏するというのは実によくわかる。
フラッドは9月に新宿LOFTでメジャーデビューアルバムである「BAFFALO SOUL」とセカンドアルバムである「PARADOX PARADE」の再現ライブを行っているのだが(そのライブ音源が「HEART」に入っている)、その再現ライブは今の最強のフラッドであの頃の名曲たちを鳴らすことによる、後ろを振り返るのではなくてあくまで前を向いて転がり続けるフラッドの姿を見せつけるものとなったのだが、それは今後のライブにおける選曲の広がりを感じさせるものでもあった。
ということでこの日は「PARADOX PARADE」から「Ghost」が披露される。再現ライブには行きたくても行けなかった人もいたであろうだけに、こうしてその曲を聴けるのは嬉しい人も多いはず。客席からはダイバーも出現。
近年ドラマーとして長足の進歩を見せている渡邊が手掛けた「HEART」の新曲は「新しい宇宙」。そのなんとも偏差値が低そうなタイトルも含めて(作曲だけでなく作詞も一丘)、やはり一丘が作る曲はかつての「Black Magic Fun Club」(この曲はそのままバンドのファンクラブの名前になった)もそうだが、亮介が作る曲とは全く違う。わかりやすく盛り上がるような箇所もない、ある意味つかみどころがない曲であるとも言えるが、それがフラッドの音楽性の幅をさらに大きく広げている。亮介は小箱だからなのかファルセットはほとんど聞き取れない状態なのは少し心配ではあったけれど。
かと思えばドカンと爆音でロックンロールを鳴らし、亮介の早口なメロ部分のボーカルなど、盟友であるUNISON SQUARE GARDENの田淵がプロデュースしたことによってフラッドの魅力全部乗せ的な曲となった「ミッドナイト・クローラー」と、今年の「CENTER OF THE EARTH」のツアーとは異なり、アルバムのリリースツアーではないからこその選曲の自由さを存分に感じさせてくれる。こうしてどんな曲が演奏されるのかをメンバーやスタッフ以外の人は誰もわからないドキドキ感を味わえるのはツアー初日ならでは。
「HEART」からの3曲目は亮介が作詞作曲の「スーパーハッピーデイ」。
「君をスーパーハッピーにしたいんだ
だってそれは俺のスーパーハッピーなのさ」
という吹っきれまくったような単純極まりないロックンロールはフラッドの現在のモードを象徴している。思えばギタリストが失踪した直後の混迷期にリリースされたのが「PARADOX PARADE」だったし、ようやく正式メンバーが4人になってのアルバムは「GOLDEN TIME」だった。(すぐ3人に戻ったけど)
そう考えると今の4人のフラッドにメンバー、特に亮介がかつてなく手応えを感じているからこそ、こうして無責任とも言えるくらいにポジティブな曲が生まれてくる。サウンドの手応えとしては「夏の砂漠」に近いものがあるだけに、日が照りつける夏の野外フェスで聴いても似合いそうだ。
全く曲間を置くことなくテツがギターを弾き始めた「Rock’N’Roll New School」ではそのテツが学校のチャイムの音をギターで鳴らし、
「やっぱり愛だろ!」
と言ってからの「I LOVE YOU」(ライブで聴くのは久しぶりだ)では亮介、テツ、HISAYO(ベース)の3人がマイクの横まで出てきて観客の前で演奏する。この曲の持つハッピーな空気は確かに現在のバンドのモードと一致しているだけに、このツアーで演奏されるのも納得だが、やはりこうして聴くとスピッツから強い影響を受けてきた亮介のメロディメーカーっぷりが際立つ。そのキャッチーさとロックンロールバンドとしてのカッコよさを両立させてきたバンドだからこそ、こうして毎回ライブに足を運んでいるのだ。
「前までは「曲作ろう」って言ったらツンとしてたのに、今回ようやく作ってくれました!」
と亮介がHISAYOに言ってから演奏されたのは、バンドにとっては初めてのHISAYOが作曲をした「Lemonade Talk」。ややレイドバックしたサウンドの曲であるが、レモネードを飲みながら話をする男女の曲であるが、クレジットなどを見るとその男女が亮介とHISAYO自身なんじゃないかと思ってしまったりもする。
「レモネード作ろう 2人で混ぜよう」
の2人が亮介とHISAYOであるかのような。ないんだろうけど。
「売り切れてる割には静かなんじゃない?」
とテツが観客の様子を見て言うが、
「千葉の人は想像以上に田舎者だから(笑)」
と千葉に縁深い亮介は庇っているのかディスっているのかよくわからないツッコミを入れるが、千葉LOOKは確かに他のバンドのライブでもこの規模にしてはめちゃくちゃ盛り上がるわけではないというのは県民性なんだろうか。前回のツアーも千葉はこんな感じだったが、水戸はもの凄く激しかっただけに。
そんなテツの言葉によってメンバーへの歓声が上がっていたのが、また再び聴き入るような空気を作り出すのは2年前にリリースされたアルバム「NEW TRIBE」収録の、フラッドの美しいメロディの結晶のような「Honey Moon Song」。渡邊のドラムがメロ部分でハイハットを刻むのが多くなっていたりと、ライブで演奏される頻度も高い曲なだけにさらに磨きがかけられている。
亮介「今回の「HEART」が5曲入りで「CENTER OF THE EARTH」が12曲入り。その後に出したシングルが…何曲入りだかもうわからないけど(4曲収録だが1曲は表題曲のアニメサイズバージョン)、20曲くらい今年新曲を出して。でも、また新曲作りました!」
と言って演奏されたのはなんとまさかの新曲。リリースツアーでリリースされた作品に含まれていない新曲を演奏するというのはこれまでにも何度もやってきたことではあるのだが、やっぱり「また新曲!?」と驚いてしまう。
その新曲は「ぶちのめす」という穏やかではない歌詞も含んだ、どストレートなロックンロールナンバー。
「地球に帰ろう」
というサビの歌詞からは「CENTER OF THE EARTH」から地続きな部分を感じることができるが、完全に全員が初聴きにもかかわらず客席からたくさんの腕が上がっているくらいに即効性が高いし、こうして新作のツアーでその先に控える未発表の新曲を演奏するというのは「BAFFALO SOUL」ツアーの時にすでに後に「PARADOX PARADE」に収録されることになる「Ghost」を演奏していたことを思い出す。
そんなフラッドらしさを改めて感じさせる中で演奏された「Rex Girl」では亮介が2コーラス目の
「あたし決してあいつのもんじゃないわ」
から始まる女性目線のフレーズをこのバンドの「Rex Girl」ことHISAYOに任せると、自身はギターを下ろして観客に支えられながら歌う。ツアーでは毎回このパフォーマンスがある曲(「Black Eye Blues」など)が1曲は演奏されてきたが、今回のツアーはこの曲ということだろうか。
「初日なのに、テンションが低いんじゃないですか!」
と亮介が言って演奏されたのは「CENTER OF THE EARTH」のリード曲「ハイテンションソング」。もはやコーラスをメンバーがやらなくてもいいレベルの合唱が響く中、テツの鋭く光る眼光は我々観客のテンションをさらにハイにしてくれる。
そして亮介はこの千葉LOOKのサイトウ店長とともに東北を旅したこと(千葉LOOK主催の歌声喫茶という弾き語りライブ。千葉出身の蒼山幸子(ex.ねごと)と村松拓(Nothing’s Carved In Stone)とともに回った)を語ると、ギターを鳴らしながらブルースを歌うように
「千葉のみんなが元気なのかどうかを本当に心配してる。でもいつも来るとこっちが元気をもらう。それは東北に行ってもそう」
と、今年になってから台風などの自然災害に見舞われてきた千葉県についての思いを口にする。それは被災地とは呼べない場所に住んでいる身としても千葉県民としては本当に嬉しかった。毎回ツアーのたびにこうして千葉に来てくれるバンドマンの言葉だからそこに嘘がないことはわかっているから。だから亮介は
「千葉LOOK、ただいま」
と言った。新宿で育ち、今でもLOFTがホームと言えるこのバンドが「ただいま」と言える場所がこの千葉にある。なんもないような県かもしれないけれど、千葉で生きてきて本当に良かったと思えた。
そんな思いを口にした後に演奏されたのは実に久しぶりの「Boy」。ロックンロールというよりはギターロックと言っていいくらいの疾走感と焦燥感に溢れた曲。それでも
「Oh Yeah Keep On Rolling」
とロックンロールバンドとして転がり続ける意志をあくまで音楽の中で見せてくれる。ある女性の観客の方がこの曲でダイブしたのは実によくわかるし、美しい光景だった。
そして亮介、テツ、HISAYOは渡邊のドラムセットの方を向く。それは実に久しぶりにこの曲を演奏する合図。ギターリフとリズムに合わせて観客が手を叩く「プシケ」である。当然、亮介は間奏部分で
「2019年11月14日、「Lucky Lucky」ツアー千葉LOOKへお集まりの親愛なる皆様に、俺の大事なメンバー紹介します!」
と言って渡邊から順番にメンバーを紹介して、紹介されたメンバーの音が重なっていく。そして最後に亮介が自身を紹介した後に放つ、
「a flood of circle!」
という叫びの瞬間の圧倒的なカタルシス。このバンドをカッコいいと思う理由の全てがこの曲のこの瞬間に詰まっている。
そのまま突入していった、
「俺たちとあんたらの明日に捧げます!」
とおなじみの口上を言った後に演奏された「シーガル」で亮介は2コーラス目のサビを歌わずにマイクから離れた。それは声が出ないからじゃなくて、観客の声を聞くためだった。
「明日がやってくる それを知ってるからまたこの手を伸ばす」
というフレーズは10年以上前からずっと、明日への活力と希望であり続けている。それはどんなにバンドの形やメンバーが変わっても変わらない。これからもきっとそのはずだ。
そして最後に演奏されたのは
亮介「2回続けるの京都っぽいよね」
とテツがつけたタイトルをもじり、
「行こうぜ行こうぜ!」「ラスト!ラスト!」
と同じ単語を2回繰り返すのを連発してからの「Lucky Lucky」。テツが手がけ、MVすらもテツが主演を務めた曲であるが、そのテツは自身のボーカル部分でギターを置いてハンドマイクで客席により一層近づいて歌っていた。そのテツのパフォーマンスの自由さはきっとこれからフラッドの新しい武器になっていくだろうさは、この超絶ポジティブなモードは亮介が作った「スーパーハッピーデイ」と同じだ。つまり、今のフラッドはメンバーそれぞれが最強の状態にあり、そのメンバーが揃うことによって最強のバンドになっている。この曲の演奏中にステージの端で回っていたミラーボールの輝きはバンドの未来を照らしているかのようだった。
アンコールでメンバーが再び登場すると、亮介は「Country Roads」を口ずさむ。かつて、「カントリーロードツアー」をこの千葉LOOKでも行っており、その時の対バンは今年いっぱいで活動休止を発表した、グッドモーニングアメリカだった。きっとグドモに対する感謝や惜別の思いも亮介やメンバーにはあったはずだ。グドモは主催フェスにフラッドのことを呼んでくれていたバンドだったから。
そんな中で演奏されたのはまさかの「花」。10周年を迎えた時に作った集大成的な曲であるとは言え、インタビューでこの曲が出来た当時の逡巡を亮介は口にしていただけに、こうしてライブで聴けることはもうないかもしれないと思っていた。それでも、
「届け 届いてくれ」
という切実な願いのサビは今でも世界や世間に対してフラッドの音楽が届いて欲しいと願う我々の心境そのもの。この曲がリリースされた時、きっと今までよりはるかに届くと思っていたが、そうはならなかった。でも今でもずっと、フラッドのロックンロールはもっと広い場所や遠い場所まで届くって信じている。
去り際に渡邊は
「ツアー行ってきまーす」
と言った。ツアー初日ならではの言葉である。「CENTER OF THE EARTH」のツアー初日をこの千葉LOOKで見た時、
「これは今のフラッドを少しでも多く見ておかないといけない!」
と思い、ファイナルの東京まで待ちきれずに長野、水戸までついて行った。こうして今回のツアーの初日を見ていたら、やっぱりもっと見たくなってしまう。きっとツアーを巡ればもっといろんな曲も聴けるんだろうと思う。
そんな、このツアーの初日をバンドの思い入れが強い千葉LOOKで見れて、ラッキーラッキーなスーパーハッピーデイだった。次はどこで見れるのだろうか。
1.Stray Dogsのテーマ
2.Dancing Zombiez
3.Vampire Killa
4.Ghost
5.新しい宇宙
6.ミッドナイト・クローラー
7.スーパーハッピーデイ
8.Rock’N’Roll New School
9.I LOVE YOU
10.Lemonade Talk
11.Honey Moon Song
12.新曲
13.Rex Girl
14.ハイテンションソング
15.Boy
16.プシケ
17.シーガル
18.Lucky Lucky
encore
19.花
文 ソノダマン