フェスもイベントもあらゆる地域のあらゆる規模のものに出演しまくり、リリースをしていないはずなのに年中もはやなんのツアーなのかわからないくらいにライブをやりまくって生きているバンド、キュウソネコカミ。
しかしながら今回のツアーは割とコンセプトがわかりやすいのは「これまでしっかり一緒にライブをやって来なかったバンドとはじめまして的な2マン」というものであるから。
すでに名古屋ではtetoと対バンし、この日の東京はマカロニえんぴつと、コンセプトからして若手バンドメインになるのかと思いきやこの後のファイナルはTHE BAWDIESという先輩バンド。そこやってなかったのか、とも思うけれど確かにそう言われると近いようでいながらも一緒にやっているイメージはない。
・マカロニえんぴつ
19時になるとおなじみのキュウソのライブプロデューサーであるAT FIELDのP青木(BAYCAMPの主催者でもある)の噛みまくりの前説から、SEが流れてメンバーが登場。
最後にステージに現れたはっとり(ボーカル&ギター)が少し照れながら客席に向かい合うと、バンドの自己紹介的な「トリコになれ」でスタートし、
「あの娘に勧めたいけどバンド名がな ダサすぎ」
という自虐を含めた歌詞はこのバンドが名前を散々いじられてきたからこそであるが、
「いや、レッド・ホット・チリペッパーズという親玉の存在を忘れるな」
という続くフレーズは思わず「そこは同じカテゴリーになるのか?」と思ってしまう。
基本的にこのバンドのライブはそこまでノリが激しくないというか、歌モノバンドとしての曲への向かい合い方をするような感じなのだが、この日はこの「トリコになれ」の時点で観客は飛び跳ねまくるといういつもとは違う盛り上がりを見せる。その音に合わせて貪欲に音楽を楽しむキュウソの観客ならではである。
9月にリリースされたミニアルバム「season」はこれまでのはっとりメインの作曲スタイルから全員が曲を手がけるという、はっとりが強く影響を受けている(はっとりの名前の由来でもある)ユニコーン的なバンドのスタイルに近づいていることを示した作品になったが、その中から田辺由明(ギター)が作曲を担当した「恋のマジカルミステリー」を披露。ギタリストの曲らしく、普段はポップなサウンドには見た目がアンバランスなように見える田辺のフライングVが唸りを上げながら鳴り響く。はっとり以外のメンバーの曲はこの日演奏されたはこの曲だけであったが、「season」を聴くとこのバンドの持つポップさ、キャッチーさ、メロディの美しさというのははっとりだけではなくメンバー全員が持ち合わせているものであるということがよくわかる。
長谷川大喜のピアノのイントロで歓声が上がった「レモンパイ」では黄色い照明がメンバーを明るく照らす。先日は横浜アリーナでもライブを行ったし、この新木場STUDIO COASTも今のバンドのツアーの規模からするとかなり大きな会場ということになるのだが、もうこの規模のステージに立つのが当たり前という感じすらする。CDJでもGALAXY STAGEに抜擢されているし、きっと来年にはこのくらいの会場でもワンマンをすると思うし、それも余裕でソールドアウトするんだろうと思う。
普段は「大事な曲」と言って演奏されることも多い「ミスター・ブルースカイ」でその切なくも美しいグッドミュージックのメロディに浸らせると、
「1曲目からあんなに飛び跳ねて盛り上がってくれるなんて思ってなかった。良い意味で空気の読めないみなさん、ありがとうございます!」
とやはりこれまでのライブとは違う客層が見てくれているということを自分たちもわかっていながらも緩急を使った自分たちのライブのスタイルを変えないことを宣言してから演奏されたのは「ブルーベリー・ナイツ」。緩急の部分で言えば「緩」のタイプであるし、さすがに激しく盛り上がれるというタイプの曲ではないが、この曲が凄く「待たれていた」という空気が漂っていた。それはキュウソのファンもみんなすでにこのバンドのトリコになっていたということなんだろう。
「三振は見逃しじゃなけりゃ まぁ、良しとしよう」
というフレーズが「見逃し三振はするな、三振するなら空振り三振してこい」という全ての少年野球の監督が言うセリフを
「泣かないで、ぼくの好きなひと」
というラブソングの常套句的なフレーズに繋げるためのフリとして使うのが実に見事な「two much pain」はブルーハーツなどが歌ってきた「too much pain」とスペルを変えることによってマカロニえんぴつ独自の曲になるし、こうした曲ははっとりの歌唱力があればこそライブで集中力を途切れさせることなく聴かせることができる。コーラスをサポートドラマーの吉田(tricot)が務めているあたりはそうした正規メンバーやサポートという枠にとらわれずに良い音楽を作るため、良いライブを見せるために最善のことをするというこのバンドの姿勢が見える。
そうしてマカロニえんぴつが「グッドミュージック」を自認するのも納得な曲が続いた後はこのバンドが「ロックバンド」を自称するにふさわしい曲が続く。「洗濯機と君とラヂオ」ではバンドの演奏するテンポが原曲よりもさらに速くなっており、このバンドが持つ衝動的なロックバンドとしての面を見せてくれる。
そんな中でいきなり絶対このバンドの曲のものではない獰猛なと言っていいようなイントロはまさかのキュウソネコカミの「ビビった」のもの。イントロからすぐにサビに行くあたりは時間の関係もあったのだろうが、キュウソの曲であるということはわかるけれども、編成が同じでもキュウソまんまの演奏ではない。シンセとキーボードの違いやメンバーの鳴らす音の違いがそのまま曲の違いにつながっていて実に面白い。曲終わりには
「急遽ネコカミでした!」
とバンドに合わせたセリフも実に巧みである。
GRAPEVINEとの対バンでも「光について」をカバーしていたが、この日のカバーも対バン相手への愛とリスペクトとバンドの器用さがあるからこそできること。はじめましての対バンではあるが、すでに両者の心は通じ合っているかのように見える。
そうしてキュウソとの対バンだからこそ見れる場面を作った後に、長谷川の心躍るようなキーボードのフレーズの上にはっとりがノイジーなギターサウンドをまぶせ、歯切れの良いサビのタイトルフレーズの「STAY with ME」と、結果的にはここ1年くらいにリリースされてきた曲を中心にした、今のマカロニえんぴつの姿を見せるものとなったが、それがバンドの魅力を最大限に伝えるものになっているのは近年リリースしてきた曲のクオリティの高さによるものだろう。
そして「ハートロッカー」では長谷川がエアベースをしながらリアルなベースを弾く高野賢也と向かい合ったりと終盤に来て再び観客を飛び跳ねさせるような緩急の「急」の部分を強く打ち出していくと、
「希望だけを歌うバンドもたくさんいる。それはそれで素晴らしいことなんですけど、僕らは希望だけでなく絶望も歌うバンドでありたい」
とバンドとしての姿勢を改めて示し、まさにその姿勢を曲にした「ヤングアダルト」の
「夜を越えるための唄が死なないように
手首からもう涙が流れないように」
というフレーズは絶望も希望と等しく歌うという姿勢のこのバンドだからこそ。だからこそこのバンドはどんな人にも同じように響く。暴れたい人にも、しっかり歌を聴きたい人にも。
1.トリコになれ
2.恋のマジカルミステリー
3.レモンパイ
4.ミスター・ブルースカイ
5.ブルーベリー・ナイツ
6.two much pain
7.洗濯機と君とラヂオ
8.ビビった
9.STAY with ME
10.ハートロッカー
11.ヤングアダルト
・キュウソネコカミ
そしてメインのキュウソ。観客が待ち構える中で登場すると、今一度自分たちがどんなバンドであるかを示すような「ウィーワーインディーズバンド!!」でスタートし、
「これが本物の「ビビった」や!」
と、マカロニえんぴつがカバーしてくれた「ビビった」の本家バージョンへと繋がっていくのだが、もうこの段階でこの日のライブが素晴らしいものになるだろうなというのがすぐにわかるくらいに、バンドの発する熱さと観客のキュウソへの愛と「待ってました!」という期待が完璧に混じり合って合わさっている。この日の観客はみんなキュウソが好きで仕方がなくて、そんな中でもマカロニえんぴつの音楽も受け入れて楽しみにしていたというのが客席の様子からすぐにわかる。
「わっしょい!わっしょい!」
の大合唱が響く「推しのいる生活」から、ライブで聴くのは実に久しぶりな気がする、
「俺はここを温泉にしたいんじゃー!」
という「OS」まで、マカロニえんぴつとは対照的にひたすら緩急の「急」の部分の曲を連発していく。それは本人たちもわかっているようで、
ヤマサキセイヤ(ボーカル&ギター)「マカロニえんぴつ、あいつらは行くで〜!俺たちみたいな勢いだけで押し切るバンドとは違う…」
ヨコタシンノスケ(ボーカル&キーボード)「客観的にバンドを見れてるな(笑)」
というやり取りがあったことからも窺えるが、マカロニえんぴつの音楽の素晴らしさを讃えながらも、自分たちは違うスタイルのバンドであるということを主張しながら、ここで早くも「DQNなりたい、40代で死にたい」へ。セイヤは
「ヤンキー怖い」
のコール&レスポンスで客席に突入すると、この新木場STUDIO COASTで何度となく繰り広げられてきた、客席のど真ん中頭上にあるミラーボールの真下でミラーボールのみを照らす証明が輝く中で
「ヤンキー怖い」
コールを行ってからステージに戻っていく。セイヤは細美武士やTOSHI-LOWの影響からなのか体を鍛えているので、観客の上に立つ姿の安定感が見るたびに増している。
今回のツアーはこれまでに対バンしたことがない相手との2マンということで、相手の名前がわからないという意味ではこのツアーにうってつけな(セイヤたちもマカロニえんぴつのメンバーのフルネームはまだ覚えていないらしい)「What’s my name?」というかなりのレア曲を披露し、ヨコタは曲中でショルダーキーボードを弾くという視覚面でも大きな変化を見せる。近年の曲ではショルダーキーボードを弾く曲もあったが、過去曲でもそうした場面が見れるとは。
セイヤも後輩と話しているとやりがちという「馬乗りマウンティング」から、ヨコタのけたたましいシンセがキュウソらしさを担保する「メンヘラちゃん」、さらにはこれまたレア曲である不倫をテーマにした「要するに飽きた」へ。セイヤは
「マカロニえんぴつみたいなキュンとするようなラブソングは俺たちには作れない」
と言っていたが、確かにキュウソにはマカロニえんぴつみたいな恋愛ソングや、例えばback numberみたいなキュンとするような恋愛ソングは作れないだろう。でもこの「要するに飽きた」や「メンヘラちゃん」のようなラブソングを書こうと思ったとしても絶対に普通の視点では扱わないというか、思いつくこともないであろうラブソングを作れるのはキュウソだけだ。それは恥ずべきことでは全くない。むしろ誇るべきことだ。
初の対バンであったにもかかわらず、キュウソはマカロニえんぴつのことを大変気に入っていたようで、
セイヤ「リハ終わりでバンドメンバーだけで写真を撮るんだけど、まだマカロニえんぴつとの距離を測りかねていたらViola(カメラマン)が「もっと仲良さそうにしてください」って言ってきて、はっとりが
「じゃあセイヤさん、もっと仲良くしますか!」
って肩組んできた(笑)何それ!キュンってなるやん!(笑)」
とはっとりだけでなく、
セイヤ「ベースの高野君が「俺の今日のタオルこれ!」ってこのツアーのタオルを見せたらギターの田辺君が「僕も同じです!」ってタオルを見せあってて…」
とマカロニえんぴつのメンバーの関係性を伺わせるほんわかエピソードを話すと、セイヤとヨコタの2人も同じタオル(なんら特徴のない茶色のもの)を掲げるも、ソゴウタイスケ(ドラム)は
「俺は今日は違うやつやつやね〜ん」
と2人とは違う黒いタオルを掲げる。デザインよりも機能性を重視するというあたりが実にキュウソのメンバーらしいチョイスではあるが。
そうしてマカロニえんぴつを褒め称えた後に演奏された「KMTR645」では間奏でオカザワカズマがネズミくんギターに持ち替えて弾きまくり(目の部分が発光するというギミックもあり)、未だに消えぬキュウソのバンドとしての貪欲さというか攻めっぷり、噛みつきっぷりを見せる「5RATS」と本当に緩急の「急」の部分しか知らないバンドであるかのような激しさ。当然こうしたキュウソらしさを求めていた観客の熱量もさらに上がっていくのだが、そんな中で演奏されたのは
「ライブハウスはもう最高だね ライブハウスはSo最高だね」
というフレーズが今こうしてライブハウスでキュウソのライブを見れていることの幸せを噛みしめさせてくれる大マジなキュウソの一面を示してくれる「The band」から、最近はフェスなどでも演奏している、「The band」に連なる大マジなキュウソサイドの新曲「覚めない夢」を最後に演奏し、キュウソはロックバンドとしてこれからもキュウソならではの道を突き進んでいく。そんなことを感じさせたのだった。
アンコールでは今回のツアーグッズを身につけた5人が登場すると、
「今年は関東ではここからもほど近い幕張のCOUNTDOWN JAPANでEARTH STAGEの年越しをやらせてもらえることになりました。でも未だに俺たちがそこを担うことが信じられない」
と、タイムテーブルが発表されたCOUNTDOWN JAPANについて語り出す。基本的にフェスの1つのライブのことをワンマンのMCで話すことはそうそうない。それくらいにくるり、吉井和哉、Superfly、Dragon Ash、忌野清志郎、RADWIMPS、10-FEET、サンボマスターなどの錚々たるメンツが務めてきたEARTH STAGEの年越しを任されたことが嬉しかったのだろうが、セイヤは
「来年が子年だからっていう意見も多いけど、それだけで任されるようなステージじゃないと思ってる。みんなが連れてきてくれたんやで」
と語った。かつて「ロキノン系にはなれそうもない」とロッキンのフェスに出るはるか前に歌っていたバンドは様々な悔しい思いを乗り越えてロッキンのフェスのメインステージに立つようになり、ついにはそのフェスの象徴と言えるような位置を任されるようなバンドになった。
自分はずっとキュウソを面白いだけではない凄いバンドだと思い続けていたし、だからこそキュウソのスピードに置いていかれないようにずっと着いてきたというイメージだった。だからこそこうして言葉にしてくれるのが本当に嬉しいし、年越しの瞬間(つまり子年になる瞬間)を任されたライブが本当に楽しみになる。もうあと1ヶ月ちょっとでその日が来るとともに、2019年は終わってしまう。
そんな涙が溢れそうなのにもかかわらず割と客席は笑顔という状況をさらに笑顔にさせるのが、ヨコタの
「これが中国4千年のリフや!」
というキーボードのイントロから始まる
「CDJでは絶対にできない曲」
という「お願いシェンロン」。CDJでできない訳はセイヤが筋斗雲に乗って客席に突入するからなのだが、対バンライブではおなじみのこの曲でのかめはめ波対決の相手はマカロニえんぴつのはっとり。客席に突入したことのないはっとりを実に過保護なくらいに優しく、怪我とかはもちろん危険な思いをしないように客席のほぼ最前エリアでかめはめ波対決をしてはっとりがステージを去ると、最後に演奏されたのはソゴウのドラムから始まる「ハッピーポンコツ」。サビ前の一瞬のブレイクでカワクボタクロウ(ベース)が投げキスをしたり目の上でピースサインを取ったりする中、ヨコタは
「みんながマカロニえんぴつを最高って思ってくれるって俺は信じてたよ!」
と言った。ジャンルや戦い方が違うということを理解しながらも、対バン相手に至上の愛とリスペクトを最後の最後まで伝える。ここにこそヨコタの、キュウソとしての人柄が現れていたし、それはそのまま「ハッピーポンコツ」という曲のメッセージに繋がっていた。
演奏が終わると、「NICE TO MEET CHUUUU !!!」というタイトルのツアーだからこそか、「What’s your name?」の音源がまるでテーマソングであるかのように流れる中、セイヤとヨコタが音に合わせて奇妙なダンスを踊ると、オカザワ→ソゴウ→カワクボの順でそのダンスに参加していき、最後には全員が踊りまくるという奇妙な形になりながらも、メンバーは観客への感謝を示してステージを去って行った。
キュウソはそもそもライブでのし上がってきたバンドであるが、そのライブの力はライブをやりまくってきたからこそここにきてさらに凄みを増してきている。この日のライブは何度となく見てきた新木場STUDIO COASTのキュウソのライブにおいてもそれを最も強く感じさせたし、今年CDを1枚もリリースしなかったということが来年の10周年イヤーに凄まじい作品をリリースするんじゃないかという期待を募らせる。
そしてキュウソの対バンは試練のTAIMAN TOURもそうであるが、対バン相手の持ち時間が実に長い。それによってフェスなどの短い時間でもなければ、オープニングアクトでもなく、あくまでライブハウスでの対バンだからこその魅力を強く感じさせるようなものになっている。
キュウソのメンバーたちは本当に音楽が大好きだからこそ、自分たちの好きな音楽を、自分たちのことが好きな人に伝えようとしている。そうして自分たちのことが好きな人たちにもっと音楽を好きになって欲しいと思っている。音楽に選ばれたのかはわからないけれど、確かに音楽を選んだメンバーたちによる音楽への愛情表現。それはいつだって最高に楽しいし、もっとライブに行きたくなる。
そしてついに任されたEARTH STAGEでのカウントダウンでこのバンドはどんな年越しを見せてくれるのだろうか。笑いも感動もある、最高の2019年の終わりと2020年の始まりになるはずだ。
1.ウィーワーインディーズバンド!!
2.ビビった
3.推しのいる生活
4.OS
5.DQNなりたい、40代で死にたい
6.What’s your name?
7.馬乗りマウンティング
8.メンヘラちゃん
9.要するに飽きた
10.KMTR645
11.5RATS
12.The band
13.覚めない夢
encore
14.お願いシェンロン w/ はっとり
15.ハッピーポンコツ
文 ソノダマン