自分が2019年の年間ベストディスク1位に選出したフルアルバム「CENTER OF THE EARTH」を初頭にリリースし、あれだけの傑作アルバムであるだけに、1年間をそのアルバム1枚で過ごすのかと思いきや、すぐさまシングル「The Key」、さらにはミニアルバム「HEART」をリリースと、2019年のMVPはこのバンドしかいないだろうというレベルの駆け抜けっぷりというか、止まったら死んでしまうっぷりだった、a flood of circle。
その最新作である「HEART」のリリースツアーが昨年の11月からスタートしているが、終着地点となるのが渋谷CLUB QUATTROでの2days。とはいえ普通の2daysとは違うのは金曜日と日曜日という中1日置いての2daysであるということである。
この日はソールドアウトこそしていないものの、ほぼ満員と言っていいくらいの客席の中、19時を少し過ぎたところで場内が暗転してメンバーが登場。この日もメンバーは全員黒を基調とした衣装を身に纏っており、佐々木亮介(ボーカル&ギター)も黒の革ジャン着用。
その亮介はギターを持たずにハンドマイクで歌い始めたのは「HEART」収録の、このバンド自身のことを歌った、「Stray Dogsのテーマ」。すでにツアー初日の千葉LOOKでのライブを2ヶ月前に見ているので、この曲から始まるというのはわかっていたことではあるが、やはりバンド自身を「負け犬」というタイトルで表さざるを得ない状況にこのバンドがいるということは若干の悔しさをを感じてしまう。それは「CENTER OF THE EARTH」をはじめとした昨年リリースの作品やライブが全て素晴らしかったからこそ。本人たちはそうした、下から上を睨みつけているという立ち位置の方が居心地が良いのかもしれないけれど。
青木テツがギターを高く掲げ、HISAYOも躍動感あふれるステップを踏みながらベースを弾く「Dancing Zombiez」ではコーラス部分で合唱となり、それはライブならではのイントロのアレンジが追加された「Vampire Killa」でもそうなのだが、とかく勢いだけで突っ走ると思われるようなイメージを持たれがちのロックンロールバンドというスタイルであるが、フラッドはその勢いこそ確かに持ち合わせながらも、どこか勢いだけではない貫禄のようなものを感じたのはこの渋谷CLUB QUATTROに比べると格段に狭い、千葉LOOKで見たのが直近だからだろうか。
フラッドは昨年の9月にメジャー1stアルバムの「BAFFALO SOUL」と2ndアルバムの「PARADOX PARADE」の再現ライブを行っているのだが、このツアーでセトリに入っている「Ghost」(前のツアーでセトリに入っていた「プリズム」も)は間違いなくその再現ライブで演奏したからこそこうしてセトリに入るようになった曲だろう。これまで全くと言っていいくらいにライブでやってない曲なだけに。
「HEART」はメンバーそれぞれが作曲した曲が収録されているのだが、渡邊一丘が作曲のみならず作詞まで手掛けた「新しい宇宙」はやはり亮介が作る曲とは全く異なる展開を見せる曲。「Black Magic Fun Club」もそうだったが、こうした曲がバンドの引き出しをさらに広げている。
千葉では「ミッドナイト・クローラー」だった部分はこの日は亮介、テツ、HISAYOが一丘のドラムセットに向かい合うようにしてキメを連発するイントロのリズムを合わせる「美しい悪夢」に変更されているあたりはさすがにインディーズ時代にライブアルバムのリリースを連発して、VIVA LA ROCKの主催者でもあり、音楽ジャーナリストでもある鹿野淳に
「ひたすらにライブをやって生きているバンドである」
と言わしめたこのバンドだからこそのツアーの周り方である。
亮介がギターをホワイトファルコンに変えてからの「I LOVE YOU」はかつてのライブ定番曲にしてフラッドきってのキラーチューンがライブのセトリに戻ってきたという事実を噛み締めさせるが、テツがギターで学校のチャイムの音を再現する「Rock’N’Roll New School」では間奏部分で亮介がベースを弾くHISAYOの方を指差すと、テツも自身のギターソロを決めた後にすぐにボーカルに入る亮介のことを指差す。MCも最小限であるがゆえに(というかここまで全くMCをしていない)メンバー間のコミュニケーションが取れているのかというのが少し不安になる人もいるかもしれないが、フラッドは言葉よりも音で持って4人が確かに通じ合っている。
千葉の時とは「I LOVE YOU」と曲順を入れ替えたのも、ツアーを経てきてよりハマる流れを模索した結果なのであろうということがわかる「スーパーハッピーデイ」は亮介が手掛けた曲であるが、まさか亮介がこんなにも100%前向きかつ無邪気な曲を作るようになるとは思わなかったし、フラッドがそうした曲を演奏するようになるとも思わなかった。それはこの4人が揃ったことによって生まれた空気や雰囲気によるものなのだろう。こうしてライブでこの曲を聴いている時は今日はまさに「スーパーハッピーデイ」だと思える。
この日の数少ないMCでは亮介がHISAYOにこのツアーの思い出を振るのだが、2人とも「特に何もない」という何も言えない結果に。しかしHISAYOは
「姐さんじゃなかった年齢の時から姐さんって呼ばれてたから、姐さんキャラを卒業しようかと思って(笑)」
と突然の姐さんキャラ卒業宣言。それは
「そういう曲を作りました」
という自身が手掛けた「Lemonade Talk」への振りだったわけだが、確かに南国チックなサウンドも取り入れながら、
「レモネード作ろう 2人で混ぜよう」
という甘酸っぱすぎる歌詞は確かに姐さんキャラの書くそれではない。とはいえこの後にはやはり姐さんキャラらしい展開もあるのだが。
千葉では「Honey Moon Song」だった箇所はこの日は「Wink Song」というアルバムを象徴するような名曲同士での入れ替わりとなっていたが、この曲の
「心配ないぜ 俺は確かに君を知ってるから」
というフレーズを聴くたびに、まだ大多数の人が知らなくても、自分がフラッドのカッコ良さを知ってるから心配ないぜ、という気持ちになるし、それはきっとこうしてライブに来ている人の総意であろう。
と思っていると、ここでいきなりの新曲。千葉LOOKの時にも新曲をやっていたが、その時は「ぶちのめす」というフレーズも入っていたかなり荒々しい曲であったのだが、この日は「Free Fall」というフレーズを亮介とテツがハモり、間奏では2人が瞬時にスイッチするギターソロも披露するストレートなロックンロール。こちらの曲の方がメロディを強く押し出した曲であるけれど、新作ツアーの最中にさらなる新曲を複数曲作って、最新系というか最新系のさらにその先を見せている。やっぱりこのバンドはものすごく良い意味でおかしいバンドだ。
亮介の独特のしゃがれた声もこのあたりからさらにその要素が強くなると、ギターを置いてハンドマイクを持って客席に突入しようというくらいの勢いでステージ前まで出てきて歌う「Rex Girl」へ。
2コーラス目の
「あたし決してあいつのもんじゃないわ
でもね決してあんたのものでも」
というフレーズはHISAYOがベースを弾きながら歌うのだが、その姿のカッコ良さも歌詞の内容もひっくるめるとやはり姐さんとしか呼べないな、と思ってしまう。
メンバーだけでなく観客も含めて
「High High High High」
のコーラスフレーズを大合唱することで文字通りにテンションが急上昇する「ハイテンションソング」からはクライマックスへ。
千葉LOOKではアンコールのタイミングで実に久しぶりに演奏された「花」はアンコールではない部分でも演奏されることによって、
「届け 届いてくれ」
という亮介の切実な叫びのような歌詞とリリース当時のバンドの状態も含めて、なかなかもう演奏される機会はないんじゃないかと思っていた曲が他の曲と同様にフラットに並ぶ曲になったということを実感させてくれる。
アウトロを鳴らしたらそのままメンバーがドラムセットに向き合うようにして音を合わせ始めたのはライブのために存在しているかのような「プシケ」。観客によるリズムに合わせた手拍子も揃う中で亮介によるメンバー紹介は、この4人になってからはこのツアーで演奏されるのが実に久々にもかかわらず、まるでずっと長い年月この4人で演奏されてきた曲であるかのよう。
そして
「俺たちとあんたらの、明日に捧げる!」
と亮介が言ってからの「シーガル」でテツが鬼神のような表情でギターを弾き、時には両腕で高く掲げたりしながら、最後に演奏されたのはそのテツが手掛けた、このツアーのタイトルにもなっている「Lucky Lucky」。テツのボーカルパートもありながら、
「ラッキーラッキー生きてるラッキー」
という完全なるポジティブさは亮介の「スーパーハッピーデイ」にも通じるところがある。そのメンバーそれぞれの意識が統一されているからこそ、それぞれが曲を作ってもとっ散らかったような印象は全くない。それは佐々木亮介というどんな曲(カバー曲も含めて)を歌ってもロックンロールになるボーカリストがいるからこそであるが、この「HEART」で培ったメンバー全員が作曲をできるというバンドの武器はこれからどうやって磨かれていくのだろうか、と思っていた。
アンコールではテツがツアーTシャツに着替えて登場すると亮介が、
「レコーディングをしようと思っているんだけど、コーラスをたくさん重ねたいところがあって。俺1人で何回もコーラス重ねるのもキツいから、みんなの声を借りていい?」
と言うと「バンドの演奏に合わせて練習」→「一丘のカウントによって声だけ録音」という形で観客のコーラス録音を行う。
「売れてもみんなには一銭も払わないから(笑)」
と亮介はおどけていたが、THE KEBABSがライブをそのまま録音してアルバムとしてリリースすることも含めて、やはりフラッドというか亮介の考えることは常軌を逸している。新作のツアーなのに未発表の新曲のコーラスのレコーディングをするなんて前代未聞である。そしてそれは今年も早いうちにまたフルアルバムが出るんじゃないかという予感にも変換される。
その新曲こそ演奏はされなかったが、アンコールでは千葉の時の「花」の位置と入れ替わる形で、
「迷ってるやつ、悩んでるやつはこの呪文を唱えて。
Oh Yeah Keep On Rolling」
とギターを弾きながら朗々と今もバンドが全速力で転がり続ける姿勢を示したフレーズを口ずさんでからの「Boy」を演奏し、千葉の時はアンコールが1曲だったのでこれで終わりかと思いきや、追加されたのは軽快なダンスビートを叩く一丘の笑顔が実に印象的だった「Center Of The Earth」。去年のアルバムリリースツアーでこれからもフラッドにとって大事な曲になる(この手のタイプの曲が実に久しぶりなだけに)と思っていた曲は、やはりアルバムのリリースツアーを終えてもこれからもフラッドの数多持つ名曲の中でも一際輝いていくんだろうな、と思った。
きっとこの日クアトロにいた人はほとんどが日曜日のファイナルにも足を運ぶだろう。バンド側も「全然違う2日間になります」とコメントしているが、それはきっとみんなわかっている。わかっていても、仮に変わらなくても、絶対足を運んでしまう。いや、運ぶんじゃないな。もう足がハマって抜けられないんだ。a flood of circleという名のロックンロールの沼から。
1.Stray Dogsのテーマ
2.Dancing Zombiez
3.Vampire Killa
4.Ghost
5.新しい宇宙
6.美しい悪夢
7.I LOVE YOU
8.Rock’N’Roll New School
9.スーパーハッピーデイ
10.Lemonade Talk
11.Wink Song
12.新曲
13.Rex Girl
14.ハイテンションソング
15.花
16.プシケ
17.シーガル
18.Lucky Lucky
encore
19.Boy
20.Center Of The Earth
文 ソノダマン