2日前に続いてのa flood of circleの渋谷CLUB QUATTROワンマン。昨年リリースのミニアルバム「HEART」のツアーファイナルである。
この日はチケットがソールドアウトしているために開演前から満員であるし、特に前方ブロックの密度が濃い。11月から始まったこのツアーも見るのは3回目。
18時ちょうどに登場してきたメンバーの姿に変化はない。そのまま「HEART」収録の「Stray Dogsのテーマ」でスタートするというのも変わらないが、やはりメンバーも観客もファイナルだからこその気合いの入りっぷりなのか、「Dancing Zombiez」でのステージ上の躍動感も客席の熱狂も明らかに2日前のここでのライブを上回っている。
「おはようございます。a flood of circleです」
と佐々木亮介(ボーカル&ギター)が挨拶すると、公式ツイッターなどで「初日と2日目で全然違うライブになります」とアナウンスされていた通り、初日は「Vampire Killa」だった部分がHISAYOのぶっといベースのイントロによる「Blood Red Shoes」に変化。系統としては入れ替えるのも納得な曲であるが、盛り上がりっぷりが段違いだったのは「Blood Red Shoes」がこれまでのフラッドのライブで作ってきた歴史によるものなのだろうか。
さらに2日前のみならず、ツアー初日も「Ghost」を演奏していた4曲目は同じ収録アルバムである、イントロでキメを連発する「博士の異常な愛情」に変化。こうして今となってはバンド初期の曲を自由にセトリに入れることができるようになったのは、昨年の新宿LOFTでの「BUFFALO SOUL」と「PARADOX PARADE」の再現ライブを経たからだろう。そうした、この4人で重ねてきたライブや過ごしてきた日々が全てこの日のライブに繋がって、それが音として我々に届いている。
亮介の
「ロックンロール!」
というシャウトの後に演奏された、ドラマーである渡邊一丘が手掛けたからこその展開の多さを見せる「新しい宇宙」から、初日の千葉LOOKでは演奏していたが2日前は演奏されていなかった「ミッドナイト・クローラー」へ。
バンドにとっての盟友と言っていい存在であり、亮介とともにTHE KEBABSのメンバーでもあるUNISON SQUARE GARDENの田淵智也がプロデュースした曲であるが、イントロの歓声の大きさからして、この曲でフラッドのことを知ってくれた人もたくさんいるのかもしれない、と思ったし、たまたまかもしれないが自分がライブを見ていた周りは20歳くらい、もしかしたら10代かもしれないというくらいに若く見える観客がかなりいた。そうした人たちにとって田淵が関わることによってフラッドと出会ってくれたのならば、この曲が持つ意味はフラッドの魅力全部乗せ的なカッコ良さ以上に大きい。
さらに久しぶりに「I LOVE YOU」を演奏していた7曲目はそれで固定されているのかと思いきや、この日は「理由なき反抗 (The Rebel Age)」に変化。この曲の象徴と言ってもいいような、
「ざけんじゃねぇ」
というフレーズでは大合唱が起こるとともに、青木テツも両手の指を思いっきり立てる。もうこの曲のこの瞬間だけでこの日のライブが2日前や千葉LOOKのライブを更新することは確信できたのだが、そう思わせてくれるようなバンドの状態の良さ、演奏の漲りっぷりはそのままダイレクトに客席に伝わっていく。すなわち、2日前よりもはるかに客席も激しかった。2日前は全くいなかったダイバーもガンガン発生していく。メンバーたちは特に気に留めることはないが、やはりその表情は2日前よりもはるかに楽しそうに見える。
そんな楽しい空気をさらに幸せなものへと突き進めていく、亮介が手掛けたスーパーポジティブソング「スーパーハッピーデイ」は、
「君をスーパーハッピーにしたいんだ
だってそれは 俺のスーパーハッピーなのさ」
と歌うように、こうして何よりもカッコいいと思えるようなフラッドのライブを見れることこそが我々にとってのスーパーハッピーであると実感させてくれる。
この日もこのタイミングが最初のMCになったのだが、亮介によるHISAYOいじりからの、HISAYOが手掛けた「Lemonade Talk」はここまでが落ち着いて聴けるような曲が全くないだけに良いアクセントになっている。HISAYOのきらめきの結晶のような曲であるらしいが。
しかし亮介はそうして「HEART」でメンバー全員が作曲をしたにもかかわらず、それは次の作品に反映されるかどうかはわからないという。自分は2日前のレポで「次以降のフラッドのアルバムにとって大きな武器になる」と書いたが、どうやらそうした意識のもとに作ったのではなく、偶発的な部分が強そうである。
それはそのまま、
「音楽シーンがどうとかなんかマジでどうでもいい」
という亮介の言葉の通り。流行りを求めるんならロックンロールバンドをやっていないだろうし、戦略を考えて活動するんならこんなに矢継ぎ早にリリースしたりツアーをしたりはしない。ただ自分たちの直感とやりたいことだけを頼りに転がっていく。自分もそうだし、きっとこうしてライブを見にきている人たちはフラッドのそうした部分こそを心の底から信用して信頼している。そこが全く変わらないから、どれだけバンドの形が変わってもずっとフラッドについてきたのである。
そんな我々の思いを「名曲」という形でバンドが受け止めるかのような、フラッドのロマンチックサイドの最高峰的な曲である「Honey Moon Song」は2日前の「Wink Song」と入れ替わる(千葉LOOKではこちらが演奏されていた)ように演奏されたが、「月に吠える」や「月面のプール」など、亮介にとってのロマンチックさの象徴が「月」であることの理由をいつか聞いてみたいし、やっぱりこれからも、
「涙こぼれるほど 笑わせてやる」
というフレーズ通りに、こうして目の前で曲を演奏することによって、涙がこぼれるほど笑わせて欲しいのである。
この日はしっかりと「Free Fall」「新曲」と亮介が告げてから演奏されただけに、2日前までの「新曲…だよな?」という微妙な空気にならなかったのは間違いなく2日前なども含めて、すでにこの曲をツアー中に聴いている人がたくさん来ているからということもあるだろうけれど、さらにツアー中は「Rex Girl」を演奏していた箇所が亮介がタンバリンを叩きながら歌う「ミッドナイト・サンシャイン」に変化。亮介はそのタンバリンを曲の途中で演奏しているHISAYOの首にかけて、アルカラ・稲村状態に。その亮介は客席に突入こそしないものの、もっと来いと言わんばかりに客席最前列の柵に足をかけて観客に1番近い場所で歌う。それはこのキャパの会場ならではの熱さの伝染でもある。
そしてそんな会場の熱狂を、メンバーも観客も一緒になったコーラスの大合唱でさらに焼き尽くすくらいの熱気で包む「ハイテンションソング」から、2日前は「花」が演奏されていた15曲目は千葉LOOKの時の「Boy」に戻る。2日前もアンコールで演奏されていたが、この日の「Boy」は全く違っていた。
今や世界においては全く主流ではなくなったロックバンドという形態になぜ自分がこんなにもこだわっているのか。それはその場、その瞬間に自分たちで音を鳴らすことによって、自分たちの思いを音に乗せることができるからだ。もちろん名義としてはバンドではなくてもバンド編成でライブをするアーティストもいるけれど、やはり全員が正式メンバーであるのとボーカリスト以外はサポートメンバーであるのではそれぞれの曲への意識は違うと思っている。
そしてそんなロックバンドの中でなぜ自分はこんなにもこのa flood of circleというバンドを追い続けているのか。それはそのロックバンドだからこその鳴らす音に自分たちの思いや意識を込めるということを最高レベルの純度でやっているバンドだからだ。この「Boy」における
「Oh Yeah Keep On Rolling」
というコーラスフレーズはそのまま、どんなことがあっても転がり続けることをやめなかった、このバンドの意志そのものだ。それをメンバー4人全員が同じ熱量で共有していて、その思いを今この瞬間に鳴らす音に込めることができる。そのあまりのカッコよさに感動して泣きそうになっていた。その感覚は2日前や千葉LOOKの時には得られなかったもの。やはりフラッドはツアー最終日にそれまでの自分たちを更新してみせたのである。
そしてメンバー同士が向かいあってイントロを鳴らす、このツアーで再びセトリに復活した「プシケ」へ。間奏ではおなじみのメンバー紹介とともにメンバーの音が重なっていくのだが、なんと「ボーカル・佐々木亮介」を発する前にバンドが次のフレーズに行ってしまうという、これまでにライブで何回聴いてきたかわからないこの曲で見る初めての光景。でもそれがマイナスだったんじゃなくて、この日しか見れないものとして逆に良いものが見れたという気分。亮介もHISAYOも顔を見合わせてめちゃくちゃ笑っていた。本人たちもそのこの日しかないミスを楽しんでいるかのような。それがさらにこのライブを特別かつハッピーなものにしていた。
そんなこともありながら、
「俺たちとあんたたちの明日に捧げる!」
というおなじみの口上からの「シーガル」で明日への確かな活力を与えると、ラストはツアータイトルになっている「Lucky Lucky」。
この日は亮介がテツのボーカルパートでそちらに寄って行って、サビを1本のマイクで2人で歌うというパフォーマンス。テツも2日前よりもはるかに楽しそうな表情で歌い、ギターを弾いていた。その姿を見て、テツが作ったこの曲はこれからもフラッドのライブにおいてこうして大事な場面で演奏されていく存在になるんじゃないかと思った。
アンコールでは2日前と同じように新曲のコーラス部分のレコーディングが行われるのだが、その曲は「Beast Mode」というタイトルで4月から始まる対バンツアーの会場限定シングルとしてリリースされることが明かされる。ちなみに本編でやっていた新曲は今のところリリースの予定はないという。
そのコーラスのレコーディングも2日前に来ていた人ばかり来ているからか、最初から大きなコーラスが響く。
「みんなには印税払わないから!(笑)」
と亮介は言っていたが、そんなもの貰えなくて全然構わない。ただこの曲が素晴らしいものになって、フラッドの存在がもっとたくさんの人に広まってくれたらそれだけでいい。ただそれだけに会場限定シングルというファンだけしか手に取れないものになるのは少しもったいない気もするが、それもまたこうしてライブでコーラスをレコーディングしたからこそ、ライブに来る人のためのシングルということなんだろうか。
そして2日前の「Boy」と曲順を入れ替える形での「花」。それは2日前や千葉LOOKで聴いた時以上に、
「届け 届いてくれ」
というサビのフレーズがリアルに響いた。確かにこの日のチケットがソールドアウトしたのは嬉しいけれど、そもそもフラッドはもっと大きな会場、それこそZeppクラスでライブをやっても即完するべきバンドだと思っているし、それはこの日のここまでのライブを見てより強く思ったことであるから。
自分はもうあんまり自分の好きなバンドのことを聞いて欲しいとか、ライブを見て欲しいとか、そうした存在を広めたいとはあんまり思わないようになった。自分は自分の好きな音楽を聴くから、みんなそれぞれ好きな音楽を聴けば良いと思っているし、自分にも明確に好きじゃない音楽があるということ、でもそういう音楽を好きな人がたくさんいるということが10代の頃とかよりもわかるようになったから。
でも、仮に好きではない音楽だとしても、ライブのカッコよさというのは絶対に伝わるものだと思っている。そういう意味では最も届け、届いてくれと思っている存在はやはりフラッドだ。このくらいのキャパで落ち着いていいなんて全く思えない。少しでも多くの人に聴いてもらいたい、ライブを見てもらいたいと思う。それはライブを見てくれたら絶対に「カッコいい」と思ってもらえる自信があるから。なんなら、自分のTwitterのフォロワーさんが全員来てくれたら横浜アリーナでもソールドアウトするのに、っていう邪な考えが頭を過ぎるくらいに。
そして2日前は「Center Of The Earth」が演奏された最後の曲は、この日、このツアーの最後に演奏されたのは「ベストライド」だった。亮介がマイクスタンドを向けると観客の大合唱が響く中、最高を間違いなくまた更新したフラッドのツアーファイナルの最後は確かにこの曲しかないよな、と思っていた。
「花」と「ベストライド」はリリースされた時期がかなり近い。その2曲がこうして演奏されると、フラッドが10周年を迎えてこの曲たちを聴いた時に、フラッドはまだまだ行ける。これからきっと最高を更新してくれると思った当時のことを思い出す。
状況的にはそこまで変わっていないかもしれない。でも毎回1つのツアーを何本も見るくらいにフラッドのことを見てきて、ツアーごとに進化してきたし、ツアーの中でも初日とファイナルでは全く違うと言っていいくらいの進化をフラッドは繰り返してきた。そうしてこの今の4人で間違いなく過去最高と言える状態を更新してきた。だからこそ、
「俺たちのベストはいつも今なんだよ」
という「ベストライド」のフレーズを、今までで1番大きな会場で聴きたい。バンドはそれを絶対に諦めていないし、こんなライブを見せられたら我々も諦めるわけにはいかない。
演奏が終わるとテツは
「またどこかで会おうぜ〜」
と、2日前とは比べ物にならないくらいの満足した表情を浮かべながら言ってステージを去ると、一丘は最後に
「ボーカル、佐々木亮介!」
と言ってステージを去った。それは「プシケ」で紹介することができなかった相棒への最大級の愛に満ち溢れていた。きっと今年も止まったら死ぬくらいの感じで活動していくんだろうな。
フラッドのライブに行くと、高校の時の同級生に毎回会う。いつも会場でたまたま会うくらいの感じなのだが、高校生の時は我々は当時ブームだった青春パンクばかり聴いていた。
「大人になったらもっと落ち着いた音楽を聴くようになるかと思ってたけど、全然そうならなかったな」
という話を前にした。今でも我々は落ち着いたような音楽よりも、ライブハウスで汗が飛び散るようなロックバンドばかり聴いている。そりゃあそうだ。だってa flood of circleというロックンロールバンドのカッコよさを知ってしまっているのだから。
1.Stray Dogsのテーマ
2.Dancing Zombiez
3.Blood Red Shoes
4.博士の異常な愛情
5.新しい宇宙
6.ミッドナイト・クローラー
7.理由なき反抗 (The Rebel Age)
8.Rock’N’Roll New School
9.スーパーハッピーデイ
10.Lemonade Talk
11.Honey Moon Song
12.新曲
13.ミッドナイト・サンシャイン
14.ハイテンションソング
15.Boy
16.プシケ
17.シーガル
18.Lucky Lucky
encore
19.花
20.ベストライド
文 ソノダマン