昨年、「10周年記念でリリースしたベストアルバムを超えるようなオリジナルアルバムを」という思いを持って制作された「Section #11」をリリースした、THE BAWDIES。
すでに昨年12月からリリースツアーはスタートしており、ツアー2本目の渋谷CLUB QUATTROの2daysの2日目を見ているが、この日は4月まで続くツアーの中間報告的な位置。本数が多いツアーであるだけに最初とファイナルの間を見ておきたい、ということで高崎まで赴くことに。
高崎へは昨年末に高崎芸術劇場という新しくオープンしたホールにUNISON SQUARE GARDENを見に来たのだが、club FLEEZに入るのは初。ビルの地下にあり、どちらかというと横に長い会場ではあるが、客席内に段差があるため後ろの方でも見やすいような設計になっている。
千葉県民としては都内以外のライブハウスというと千葉LOOKやら柏近辺のライブハウスなどのキャパを想像してしまうのだが、渋谷あたりにあってもそれなりに大きめの規模になるであろうというくらいに予想よりも広い。壁にはLACCO TOWERやG-FREAK FACTORY、FOMAREという群馬出身のバンドのポスターが多く貼られているのが群馬のライブハウスだな、と思う。
18時を少し過ぎて場内が暗転すると、このツアーから新たになったSEが流れてキャメルカラーのスーツを着たメンバーが登場。楽器を手にしてジャーン!と音を鳴らすと、ROY(ボーカル&ベース)、TAXMAN(ギター&ボーカル)、JIM(ギター)の3人はステージ前に出てきて1段高くなっている部分に立つ。渋谷QUATTROも近年のTHE BAWDIESの都内のキャパからしたらかなり小さい規模であるが、それ以上にステージと客席がめちゃくちゃ近い。というかほとんど最前列=ステージみたいな感すらあるが、やはりこの4人がステージに出てきて音を鳴らすとそれだけでワクワクするというかテンションが一気に上がる。それは数え切れないくらいにライブを見ても全く変わらない部分である。
「Section #11」のオープニング曲である、サビでのROYとTAXMANの掛け合い的なボーカルの「DON’T SAY NO」からスタートし、すでにフェスなどでも定番曲となってきている「LET’S GO BACK」のコーラスで合唱が起きるというあたりは会場こそ高崎とはいえ、おそらくすでにこのツアーに参加している人も多いからというのもあるだろう。アルバムを聴いたり渋谷や各地のライブに行った人なら「今のTHE BAWDIESのライブは行けるなら少しでも多く行かなくては!」と思うのは無理なからぬところだ。もちろん自分もその中の1人であるのだが。
自分は2日目しか行けてないのだが、渋谷の2daysでもセトリを変えていたらしいので、果たしてどのように変わるのかと思っていたら、早くも3曲目にして「JUST BE COOL」が「A NEW DAY IS COMIN’」に変わっていたのだが、これはコーラスが合唱になる曲を続けたという面もあるのだろうか。
その「A NEW DAY IS COMIN’」の曲中にローディーがMARCYのドラムの機材を直していたのだが、客席が揺れ過ぎたが故にマイクスタンドが落ちてしまったらしい。それをMARCYが観客に伝えようとするとすぐにROYが口を挟もうとするのだが、観客はMARCYが話すのを見たいらしく、
「こんなボーカルいる!?(笑)」
とむくれたROYはツアーの金沢でライブの翌日の朝にMARCYとスタッフと一緒にタクシーで駅まで向かった時のエピソードを語る。
「タクシーのトランクに荷物を入れようとしたら、運転手の荷物がめちゃくちゃいっぱい入ってるんですよ。もう、ここに住んでるなって思うくらいに(笑)
その段階でヤバいな、と思ってたんだけど、駅前で赤信号で止まってたら急にタクシーが赤信号なのに進み始めて。えっ!?って思ってたらやっぱり前の車にぶつかって、運転手が
「あちゃ〜」
って言って(笑)絶対常習犯っていう(笑)
そしたらそれまで全然喋らなかったMARCYが
「っていうかぶつかってなくね?」(めちゃ気取った感じの言い方で)
って言って(笑)何を今更全然できてないフォローしてるんだっていう(笑)」
とMARCYをいじりまくったのだが、さすがにMARCYはそんな言い方はしていないらしく、JIMもなかなか次の曲に入りづらそうになっているのにROYの悪ノリは止まることがないため、JIMはギターを下ろして
「もう今日帰ろうかな(笑)」
と言い出す始末。しかしそれが微笑ましさしか感じさせないのは学生時代からずっと一緒にいるこの4人ならではだからだろうし、普段もこんな感じで楽しく過ごしているから毎回長いツアーも楽しめているのだと思う。
そんな入りづらい空気も「SHE’S MY ROCK’N’ROLL」の硬派なロックンロールが始まれば空気は一変する。さらに渋谷では「NO WAY」だった5曲目はこの日はJIMのエフェクティブなギターサウンドがベスト盤において初収録されながらも新しさを感じさせた「FEELIN’ FREE」に変わり、JIMは汗を飛び散らせながらギターを最前列の観客の手の届く位置まで出してガンガン弾きまくる。
そんな激しい曲が続いた流れの後だけに「Section #11」の中ではどちらかというと聴かせるタイプの曲になる「I’M YOUR HOME」も少し落ち着きながらもロックンロールさを確かに感じさせるものになっていたし、それはROYとは対極と言っていいタイプのTAXMANボーカル曲だからこその爽やかな「EASY GIRL」も同様。
1コーラスごとにガラッと曲が入れ替わるメドレーは曲は不動であるが、やはりこうして曲をたくさん聴けるのは嬉しいし、何よりその最初からこうした繋ぎで演奏されるのを想定していたかのようなライブならではのアレンジはTHE BAWDIESがライブバンドとして生きてきて、今なおそうして生きているということを何よりも雄弁に語っている。
「Section #11」の中では最も「ライブでどうやるんだろう?」と思っていたのは、音源ではホーンやソウルフルな女性コーラスが入っていた「GET UP AND RIDE」。しかしそれをセッション的なイントロを追加することでこの4人のみのサウンドに慣れさせてから演奏するというライブならではの形で演奏したのだが、この「GET UP AND RIDE」はTHE BAWDIESのソウルミュージックの部分を、続く「HIGHER」はハードなロックンロールの部分を極限まで突き詰めたような曲だと思っている。
そうして中途半端なことをせずに一方向に振り切れた曲のみが入っているということが「Section #11」を自他共に認める最高傑作たらしめている要素の一つであると思っているし、リリースから日が経ってツアーを重ねてきたことでよりそのアルバムの曲はバンドの血肉になっているし、我々ファンもより聴き込む時間があったからこそ完全に「Section #11」の曲がすでに体の中に染み込んでいる。
しかしMCになるとやはりまたROYによる容赦のないMARCYいじりが。以前に土佐にツアーで訪れた際、打ち上げの店が退店時にバナナをくれる店であり、もらったのはいいもののお腹いっぱいでその日は食べれないために翌朝に集合してからROYはそのバナナを食べたのだが、MARCYは冷蔵庫に入れてなかったためにバナナが腐ってしまったと思い込んで食べなかったという。
「やっぱり刺身とバナナは冷蔵庫に入れなきゃダメだよね〜」
というMARCYのセリフをやはりちょっとバカにするような感じで言うROYはもはやMARCYと一緒にいる時は常にスマホのメモ帳を開いているという。
そんなMARCYいじりもひと段落すると、「SING YOUR SONG」で飛び跳ねさせながら大合唱を巻き起こす。この曲の最後のサビ前で観客のタイトルフレーズの合唱の音だけが流れた後にサビに入る流れはいつ見てもライブだからこそのカタルシスを感じさせて体が震えるし、さらにテンションがもう1段階上に上がるような感じがする。
同期のストリングスサウンドも取り入れた「HAPPY RAYS」はROYの言葉通りに会場の照明が光が降り注ぐように輝き、それはタイトルに合わせたように青い照明がステージを照らしたTAXMANボーカル曲「RAINY DAY」も同様。渋谷の時は「SO LONG SO LONG」だったが、過去のTAXMANボーカル曲もどうやら日替わりのようだ。他の会場ではどんな曲が演奏されたのか実に気になるところである。
そんな中、「THE BEAT」では曲途中でROYのベースが出なくなるというハプニングが。ローディーが復旧作業をする中、TAXMANもこのまま曲を続けるのか?というような表情でROYのことを見ながらコーラスをするのだが、ROYはそのままベースの音が出ないながらも演奏しながら歌うのはやめない。それはこうした場面を何度も経験してきたロックンロールバンドだからなんだろうな、とも思っていたのだが、曲中に復旧してそのまま「YOU GOTTA DANCE」で再び飛び跳ねさせまくると、
ROY「この前はTAXMANのギターが出なくなったんですよ。その時はギター置いて踊ってた(笑)コーラスしてくれよ!って(笑)」
TAXMAN「ギターないのにコーラスだけやるのもなんか恥ずかしいじゃん(笑)」
JIM「でも今ROY君さ、せっかくなんだから音が出るようになるまでベース置いて前に出てきてハンドマイクで歌えばよかったじゃん!あんまりアドリブきかないんだね(笑)」
といつもはいじる側のROYが珍しく3人から集中砲火を浴びる結果に。これはこれでこの日しか見れない特別な場面を見れたと思うとわざわざ高崎まで来て良かったな、とより一層思える。
そしてこの日の「HOT DOG劇場」は「E.T」バージョン。ROYとTAXMANが少年役で、E.T役を担うのはこれまでにも抜群のモノマネセンスを見せてきたJIM。E.Tの目の部分の被り物をつけてモノマネをするとやはり上手い。MARCYはUFOを持ったりという黒子的な役割であったが、あの自転車に乗って飛ぶ名シーンまでも見事に再現される。「HOT DOG」に繋がるまではかなり強引であったが、この劇場までも日替わりとなると、ツアーで一体何パターン用意しているのだろうか。ライブそのもののクオリティと連動するようにこの劇場のクオリティも向上しているし、それが「HOT DOG」をさらに熱々な状態で食べさせてくれる。
ROYは改めてこのツアーのファイナルが4月に新木場で行われること、まだ半分以上残っているだけにこの後もおかわり自由=いくらでも来ていいということを告げる。
基本的に自分はツアーはまずその土地に住んでいる人たちが行けるべきと思っているし、近くの人がチケットが取れなくて東京の人がチケットを取れているというのも悪いことではないけれどちょっと違和感を感じてしまう性質なのだが(過去にはそうしてどこの地方でも毎回最前列にいる人に苦言を呈したバンドもいた)、THE BAWDIESはずっとこうして「何回でも来ていい」というスタイルを貫いている。
それはたくさんの人に来てほしいということももちろんあるだろうけれど、こうして自分たちのことを、ロックンロールのことを愛してくれている人たちのことをTHE BAWDIESは心から信頼している。だからこそそうした懐の広さを感じさせてくれるのだろうし、今よりもはるかに広い会場を回っていた時ですら、THE BAWDIESのライブで客席が荒れたりしたという話を聞いたことがない。もしかしたら知らないだけでそういうこともあったかもしれないけれど、聴いている人のことを笑顔にするロックンロールバンドであるということはずっと変わらないし、それはメンバーの人間性によるものが実に大きい。こうして我々のことをいつも笑顔にしてくれるような人たちに余計な心配や迷惑をかけることなんてとてもできないと思う。
そんなことを考えたりもしているうちにライブは終盤へ。TAXMANとJIMのギターリフの絡みによって観客を踊らせる「BLUES GOD」もまたすでにライブの定番曲。タイトルこそブルースであるが、やはりロックンロールなのである。
そして「IT’S TOO LATE」でROYがいつもより滋味深い声での超ロングシャウトを披露すると、最後に演奏されたのはロックンロールなギターのイントロからポップなメロディになり、最後にはパンクかと思うくらいに一気にテンポが速くなる「SKIPPIN’ STONES」。
9mm Parabellum Bulletの男性限定2マンに出演した際に初めて聴いた時は「実にキャッチーな曲」というイメージだったが、聴けば聴くほど、ライブで見れば見るほど新しい魅力に気づくような曲。それはこうしてツアーで演奏されて育ってきているということでもあるし、もしかしたらこのツアーの後もこうしてライブの最後を担う曲になるかもしれない、というかすでにその位置になってきているな、ということを感じていた。
アンコールでは暗闇の中でROYが1人だけ先に登場すると、ピアノを弾き始めるとともに歌い始めたのは「STARS」。音源ではバンドアレンジで収録されているが、こうしてROYの弾き語りという形で聴けるのはライブならではだ。
てっきりこれはツアーに来た人だけが見れるものかと思っていたが、昨年末のCOUNTDOWN JAPANでは1曲目にこれをやって観客を驚かせていただけに、デビュー11年目の新しいTHE BAWDIESの姿を見せるという意味ではもしかしたらこれからもツアーだけではなくいろんな場所で見れるのかもしれない。
「何回やっても慣れない。鍵盤なんて触ったこともなかったから、ツアーが始まる前の2ヶ月で猛特訓した」
と言っていたが、渋谷の時よりもだいぶ慣れた感じはしているし、こうして鍵盤を弾けるようになったということはこれからの曲作りに少なからず生きてくるところは間違いなくあるはずだ。
3人もステージに合流すると、MARCYがなぜかマネージャーに腹を正拳突きされて「何しやがんだ!」と叫んだことをJIMが明かす。真意はさっぱりわからないが、マネージャーも何かしらライブを見て昂っていたところがあったんだろうか。
するとROYが改めて「Section #11」について語る。普段は15曲くらい作った中から12曲に絞るというアルバムの作り方をしていたのが、今回はベストアルバムを超えるような、代表曲をやらないといけないフェスのセトリを丸々入れ替えられるようなアルバムを作るために、40曲くらい作った中から12曲に絞り込んだと。
やはり「Section #11」が本人たちも、ずっとこのバンドのことを見てきたファンたちも認めるくらいの最高傑作になったのはそもそものアルバムの成り立ちがこれまでとは全く違っているからであるし、すでにアルバムリリース前からフェスやイベントのセトリもこのアルバムの曲を中心としたものに変化していた。リリース後ではなく、リリース前から。それくらいにこのアルバムに自信があるのだ。だからこそ、こうして毎回ワンマンに来るような濃いファンだけでなく、THE BAWDIESのことを知らないような人たちにも聴いてもらいたいアルバムだと思っている。
その「Section #11」の収録曲は「STARS」で全て演奏した(ツアー中もアルバム収録曲は全部やるということだろう)ということで、演奏されるのは過去曲になるのだが、ここで演奏されたのはまさかの「I BEG YOU」。ROY、TAXMAN、JIMの3人がセンターに集まってそれぞれのネックを合わせるようにして演奏するという、THE BAWDIESの物語の始まりと言っていいこの曲が演奏されるのは日本武道館でのワンマンなり、ツアーならばファイナルなりと、少し特別な日になっていくと思っていた。それくらいにバンドにとってもファンにとっても大事な曲だから。
しかしそんな曲をツアー中盤のこの日に演奏した。それはもちろん驚くべきことであるし、実際に3人がセンターに集まってイントロが鳴らされた時はビックリしたのだが、それは逆に言うとこの後のこのツアーにおいてはどんな曲でも演奏される可能性があるということだ。それに気付いてしまうとさらにおかわりしたくなってしまう。もうファイナル以外は遠征するしかない場所ばかりだが、このツアーはそうしたくなるくらいのツアーになっている。今後の春までのファンの生活スケジュールを狂わせてしまうぐらいの。
そして最後にお祭りの終わりを告げる打ち上げ花火的に演奏されたのは「JUST BE COOL」。THE BAWDIESはあまりその土地にちなんだMCをしたりとかしないようだが(言っても関東だからかもしれないけれど)、最後のサビ前のブレイクで咽せるくらいのロングシャウトを披露した後にROYは
「行くぞ高崎ー!」
と叫んでからサビに突入した。それはこの高崎という地でTHE BAWDIESのワンマンを確かに見れたということを忘れさせないようにするには充分すぎる瞬間だった。
ライブ後の大将ことTAXMANによる「わっしょい」はこの日はメンバーが観客を背にして撮影をしながらバージョンという珍しいもの。MARCYの腹を殴ったマネージャーが撮影係として登場すると当然メンバーからそのことをいじられるのだが、インスタに載せる際にストーリーにして載せるということを大将が全く把握できてない中であっても、「わっしょい」の大合唱が場内に響いた。メンバーは去り際にピックをばら撒きまくっていたが、JIMが口に含んでから飛ばしたり、TAXMANが後ろ向きに投げたりするのが面白かった。
すでにツアーの公演を見ていると、流れは同じなだけに2公演目以降はサッと書くというライブレポになりがちである。同じツアーの中でなかなかそこまで変わるようなことはないから。
でもTHE BAWDIESのこのツアーは内容が変わるのもそうだが、見ていると書きたくなるようなことが次々に溢れ出してくる。それはつまり何公演見ても飽きることは絶対にないということだ。
そして終わった後に高崎から千葉まで帰るという億劫さも、翌日が仕事であるというやるせなさも、THE BAWDIESのライブが終わると全てがポジティブな方向に傾いていく。THE BAWDIESのライブは日常とは切り離されたパーティーであるけれど、終わった後には確かに日常を生きていく力になる。だからこうしてワンマンに来るのがやめられないのである。
1.DON’T SAY NO
2.LET’S GET BACK
3.A NEW DAY IS COMIN’
4.SHE’S MY ROCK’N’ROLL
5.FEELIN’ FREE
6.I’M YOUR HOME
7.EASY GIRL
8.メドレー
KICKS! 〜 LEMONADE 〜 KEEP YOU HAPPY
9.GET UP AND RIDE
10.HIGHER
11.SING YOUR SONG
12.HAPPY RAYS
13.RAINY DAY
14.THE BEAT
15.YOU GOTTA DANCE
16.HOT DOG
17.BLUES GOD
18.IT’S TOO LATE
19.SKIPPIN’ STONES
encore
20.STARS
21.I BEG YOU
22.JUST BE COOL
文 ソノダマン