毎年恒例となっている、The Mirrazの節分ワンマン。去年までは北浦和KYARAが開催地となってきたが、先月でKYARAが閉店したことにより、今年は渋谷のClub Malcomにて開催。
渋谷QUATTROの手前、ディスクユニオンやめいどりーみん(メイドカフェ)のあるビルの地下にあるClub Malcomはキャパ130という小さな会場であり、さすがにこの規模になるとチケットはソールドアウト。ミイラズのライブでここまでギチギチの満員なのはいつ以来だろうか。近年は千葉LOOKでも余裕があるくらいだけれど、かつてはZeppクラスでもソールドアウトしていたバンドなだけに。
なのでかなりの密度の中、18時を過ぎるとこの節分ライブではおなじみの節分の童謡「まめまき」が流れるとメンバーが登場。このライブの前に見たのがハロウィンのるろうに剣心のコスプレをしたライブだったからか、どことなくフォーマルな出で立ちに感じる。
SEがあまりに短すぎて音のチェックがSE中に終わらなくて畠山承平(ボーカル&ギター)も苦笑すると、その畠山のボーカルから始まり、ライブのオープニングにもこれ以上ないくらいにうってつけの曲である「レディース&ジェントルメン」からスタート。ミイラズの代名詞とでも言うような、ギターリフを中心にしたロックである。ケイゾーの階段を急いで登ったり降りたりするかのようなベースラインもこの曲のカッコよさを引き立てている。(曲を作った時はケイゾーはメンバーではなかったけれど)
「check it out! check it out! check it out! check it out!」「ふぁっきゅー」と序盤は2ndアルバム、3rdアルバムという今のバンドのキャリアからすると初期の曲と言ってもいいような代表曲が続くのだが、バンドの演奏のキレが実に鋭い。ライブでは毎回やっている曲ということもあるだろうけれど、この4人でのサウンドやグルーヴがさらに固まってきているというか。
さらにはこの渋谷Malcomは内装が海外のクラブのような雰囲気になっているのだが、ステージ背面もそうした海外によくあるようなレンガ作りの壁を模したようなものになっており、ライブにおいて派手な演出はなく、照明が色を変えるくらいというミイラズのライブのシンプルさによく似合う。それはメンバーそれぞれのすらっとした出で立ちによるものもあるかもしれないが。
どちらかというと近年の曲であると言っていいが、こうして初期曲に続いて演奏されても全く違和感がない(歌詞の視点は確実に進化したものになっているけれど)「バタフライエフェクトを語るくらいの善悪と頑なに選択を探すマエストロのとある一日」を演奏すると畠山が軽く挨拶。やはり密度によるものか、かなり暑そうである。佐藤真彦はいつもとおりに涼しい顔をして鋭いギターリフを刻みまくっているが。
昨年までにバンドは「OUI! OUI! OUI!」「NECESSARY EVIL」という1stアルバムと2ndアルバムの曲を演奏するという自分たちの原点を確認するかのようなライブもやっていたが、序盤のその2枚のアルバム収録曲の連発はそうした企画的なライブを経たからこそのものだろう。
真彦のコーラスの力がより向上しているのを感じさせる「アナーキーサヴァイヴァー」、サポートドラマーのまのたかしのスネアの連打によるイントロが観客を昂らせる「ラストダンスとファンデーション」というあたりは数年前まではこうしてまたライブで聴けるようになる日が来るなんて全く想像していなかった。それだけに3rdアルバムにして自分がミイラズのディスコグラフィーの中で最も名盤だと思っている「TOP OF THE FACK’N WORLD」以降のアルバムも再現的なライブで演奏してくれる日が来るのを期待してしまう。
「Money」を「豆」のように発音することによって節分ライブでは定番曲となった「Get Money」から、
「こないだ不倫してるやつらから
常識ないねと言われたんだ
それからやつらは燃えあがった」
というフレーズがタイミング的に昨今の芸能界のニュースへの皮肉のようにも聞こえてくるのは意識したものなのだろうかとも思えてしまう「気持ち悪りぃ」で畠山はそれまでにかけていたサングラスを外す。たびたび変わる髪は鮮やかな金髪である。
しかしながらその「気持ち悪りぃ」の
「間違いだらけのこの世界で
間違い探しを楽しもうか」
というフレーズを始め、個人的な怒りを発露としていながらも、ミイラズの歌詞は人生の真理そのものであるし、その説得力とキレ味はデビューから10年経った今となっても全く色褪せていない。それはミイラズが過激なことや毒を度々歌ってきたように見えて、実は普遍的なことをずっと歌ってきたことの証明でもある。
10曲を曲間ほとんどなし、MC一切なしにに突っ走ると、「パンドラの箱、ツンデレっすね」「つーか、っつーか。」とEDMサウンドを取り入れた曲が続く。リリース時は賛否両論のうち否の方が明らかに強かったこの曲たちも今やワンマンでは中盤にさらなる爆発力をもたらす重要な曲になっているし、この日聴いた感触は同期のEDMサウンドを入れながらも、よりバンド感が強くなっているというものだった。
そこはやはりこの辺りのサウンドの曲をリリースした後にドラムレスの編成になったものの、まのというドラマーの存在によってサウンドをリビルドできたことが大きいし、そのバンド感あってこその客席の爆発力なのである。ケイゾーも「凄いな」と思っているのがわかるような表情で客席を見ながら演奏している。
そんな中で演奏されたのは、昨年突如としてリリースされたアルバム「Saturation.Now」収録の「ダガー」。リリースこそしたがリリースに伴うツアーはやっていないし、12曲の収録曲のうちにライブで演奏されたことがあるのもこの曲くらいだ。それはもしかしたらバンドサイドが、ファンが求めているのは新曲よりも過去の名曲たちであると思ってしまっているのかもしれないし、実際に過去曲の盛り上がりを見るとそうなのかもしれないと思うこともあった。
しかしこの「ダガー」が演奏された時、それまでの曲と同様かそれ以上に客席は盛り上がっていた。いや、盛り上がることが全てではないけれど、性急なギターロックという、パンクロックなどと同じくらいにフィジカルに直接的に訴えかける楽曲のスタイルのバンドであるだけに、客席のリアクションは何よりもわかりやすく曲の支持を示すものだ。
だからこそ、この日の客席の盛り上がりっぷりはミイラズのファンが過去曲だけでなく新たな曲を待ちわびているということが実によくわかるものだった。「Saturation.Now」が漫画にインスパイアされた楽曲によるアルバムという新しいミイラズの作り方によるものでありながらも、ミイラズのものでしかないというアルバムであるということも含めて、ツアーとまではいかなくても新作のリリースライブもやって欲しいと思うし、それはそのままミイラズが前に、先に進み続けているバンドであることの証明だ。きっとバンドにとっても何よりも強いモチベーションになっていると思う。
「僕はスーパーマン」からはさらにバンドの演奏のグルーヴと勢いも客席の盛り上がりも加速度的に増していく。
メジャーに進出したタイミングでリリースされ、「ポップになった」「セルアウトした」と当時散々言われていた「観覧車に乗る君が夜景に照らされてるうちは」のロマンチックさも「ラストナンバー」の「ふざけんなってんだ」の大合唱も今となってはライブに欠かせないもの。そこに挟まれる「マジかーそうきたか、やっぱそうきますよね、はいはい、ですよね知ってます。」のダークなEDMサウンドも含めて。
そして初期は毎回ライブの最後に演奏されていた「イフタム!ヤー!シムシム!」では真彦のイントロのギターフレーズが流れるだけで悲鳴のような歓声が上がる。それくらいにバンドにとっても、ずっとミイラズのことを見てきた人たちにとっても大事な曲。畠山が
「いつだってスタート」
というフレーズを声を張り上げて歌う姿に、何度「ミイラズだっていつだってここからがまた新しいスタートだ」と思ったことだろうか。誰かに背中を押してもらうのではなく、自分自身で扉を開けて前に進むという曲だからこそ、聴いていて自分自身もまた「いつだってスタート」だという気持ちにさせられる。そこにはミイラズの、畠山の人間らしさが溢れている。
そして結果的に一切息をつく暇もないくらいに突っ走った本編のラストは「ソシタラ 〜人気名前ランキング2009、愛という名前は64位です〜」。どことなくラテンなどの要素を感じさせるドラムパターンのこの曲をこうしてライブで聴くと、収録アルバムの「We Are The Fuck’n World」のリリースライブとして今はなき渋谷AXでワンマンをやった時のことを思い出す。
2011年の東日本大震災直後というライブをやるかどうか実に難しいタイミング。しかしバンドは「全員が家の電気を全部切って集まってくれたらライブで電気を使ったとしても節電になるんじゃないか」という意思を持ってライブを行った。それに賛同した2000人近くの観客が集まり、チケットは即完。アルバムはオリコンTOP10に入る売り上げを記録し、ミイラズが最も階段を駆け上がっていた時期。
あの頃は本当に楽しかった。でも「あの頃は良かった」という思い出だけを食べて生きていくわけじゃない。もう一回、あの頃の駆け上がるような感覚をミイラズで味わいたい。バンドが続けることを選び続けている限り、それを絶対に諦めたくないのである。
アンコールでは畠山が物販のTシャツにパーカーのフードを被って登場すると、この節分ライブ恒例の行事である豆撒きタイム。あらかじめ入り口で配られた豆を袋のまま(中身をばら撒くと会場が汚れて出禁になるため)ステージに投げるというルールも完全に浸透しているのはここにいる観客が毎年このライブに来ているからだろうけれど、その豆撒きの鬼役になったのは例年のメンバー全員ではなく、まの。ハロウィンライブでもメンバーとともにコスプレをし、この日もここまでやってくれる。もはやサポートという冠をつけるのが無粋に感じてしまうくらいにまののミイラズへの貢献度は計り知れない。
般若面かのような金色のやたら本格的かつ強そうな鬼のお面をつけたまのに観客が「鬼は外」と豆の袋を投げると、「福は内」で畠山がサイン入りの豆袋を客席に投げる。節分という行事のタイミングをいかしたファンサービスである。
豆撒きが終わると、ここで本日最初のMC。本編でMCをしなかったのは畠山の着ていた服が湿気で体にまとわりついて気持ち悪かったため、喋るよりも早く着替えたいという心境だったからであるが、その湿気を発している要因であるソールドアウトした客席について、
畠山「売り切れてからわざわざ「チケットないんですか」ってメールしてくるやつが結構いて。メールすればなんとかなるって思ってる(笑)」
ケイゾー「馴れ合いですね(笑)」
と容赦なく言っていたが、それなら早くチケットを買って欲しいということだろう。その繰り返しによってもっと大きい会場でまたできるようになるかもしれない。
さらに畠山が木村拓哉が主演のドラマで「ショウヘイ!」と登場人物を呼ぶ場面があってビックリした、という話や、最近「推しが武道館に行ったら死ぬ」というアニメにハマっており、アイドルのライブみたいに自分たちのライブでも「スーパーフレア」のBメロでコールをして欲しいという無茶苦茶な要求をしたりする中、4月25日には今年も恒例のPYRAMID de 427が開催されることを発表。
毎回メンバーが出演する映画のパロディ的な映像が流れるのも427の楽しみであるが、今年は畠山が「スターウォーズ」をやりたいと言う一方で、ケイゾーと真彦は「おっさんずラブ」をやりたいらしく、折衷案としてその二つをミックスしたものはどうか、という話にもなったが、果たして完成形はどんなものになるのだろうか。
そうして本編で喋らなかった分を取り戻すかのように喋りたいことをひとしきり喋ると、「コールをして欲しい」と言っていた「スーパーフレア」からアンコールの演奏をスタートするのだが、まのがわかりやすいブレイクをサビ前に入れたりしたものの、当たり前のようにコールは起きない。そもそも何を言えばいいのか誰もわからないのである。それに気を取られ過ぎたのか、畠山は歌詞を珍しく間違えていた。ミイラズの歌詞の文字量からすると全く間違えないというのは自分自身で書いた歌詞とはいえ凄いことであるのだが。
そして
「ああ みんな同じ様に
ああ 悲しみ泣いている
ああ 変わりはしないのだろう
ああ 変わりはしないのだから」
というフレーズがやはり自分は自分でしかなく、自分自身のことをわかるのは自分自身でしかないという真理で貫く「僕らは」から、「プロタゴニストの一日は」とライブにおけるキラーチューンにして、ミイラズの代表曲を連発すると、最後に演奏されたのはミイラズ最大の代表曲である「CANのジャケットのモンスターみたいのが現れて世界壊しちゃえばいい」。畠山はこの曲でも歌詞を間違えていたけれど、この曲のケイゾーのイントロのベースが鳴ると観客はさらにどっと前に押し寄せた。それによって北風が強く吹いていたこの冬の東京であっても、開演前にドリンクチケットでビールを飲むのではなくてペットボトルの水を貰えばよかったと思うくらいに本当に暑かった。ミイラズのライブでそう思うのは少し久しぶりな感じがした。
しかしながら毎回ライブで来ている人たちはこれで終わりではないのはわかっている。なのでさらなるアンコールを求めると、それに応えて再びメンバーが登場。畠山と真彦の性急な、Arctic Monkeysそのままなギターリフが鳴らされると客席の頭上にあるミラーボールが輝いて始まったのは「ミラーボールが回りだしたら」。ミイラズの本当に原点的な曲も、やはり全く色褪せていない。10年前も、今聴いても本当にカッコいいな、と思える。そんな曲を、今のミイラズは過去最高にカッコいい形でライブの場で演奏している。だからどれだけたくさんの人が離れていったとしても離れられない。これからもミイラズとしてこの4人が活動し続けてくれる限りは。
最後にメンバーに歓声を飛ばす観客のうち、最後に男性が
「ケイゾー、愛してるよ!」
と叫んだ。ケイゾーはその声に応えて気恥ずかしそうに頭を下げていたが、それはミイラズをずっと支え続けてきてくれたのを見てきたファン全員の総意だ。ケイゾーも真彦も、きっとミイラズじゃなくても生きていける場所があったにもかかわらずミイラズで生きることを選んでくれて、今はもうミイラズとして生きるしかないような人になったのだから。
ミイラズのライブレポでは毎回書いてる気がするけれど、でもやっぱり書きたくなるのはかつてよりもはるかにライブが良くなっていて、それは回数を重ねるごとにそう思うからこそ、やっぱり今回も書きたくなるのはミイラズをもっと大きい会場で見たいということだ。
この会場もミイラズに似合っている内装をしているけれど、やっぱり見ているとこのバンドが立つべき場所はここじゃないんだよな、と思えてきてしまう。それは過去に何十倍も広い会場でワンマンをやり、何百倍も広いフェスのステージを満員にしてきたのを見ているから。
ミイラズはそこまで行った。行くべきポテンシャルと音楽を確かに持っていたバンドだから。それは今でも変わっていないどころか、あの頃よりも今の方がそこに立つべきバンドになっているとすら思える。もう偽悪的なバンドじゃない、聴いてくれる、見に来てくれる人たちにしっかり感謝を伝えられるバンドになったから。427の会場先行チケットも売り切れたらしく、ちょっとずつまたそこへ届きそうな気がしている。
そもそも節分という行事自体が大人になるにつれて重要度は薄れていく。特に豆撒きをすることもないし、わざわざ恵方巻を買って食べることもしない。なんとなく2月あたりだったな、くらいの感じ。
でもミイラズがこうして毎年節分ライブをやってくれるおかげで、大人になった今でも節分を楽しみにすることができている。とはいえ本当は節分も豆撒きもオマケみたいなものだ。427やハロウィンと同じように、近年はワンマンがそこまで多くないミイラズに会える日が毎年確実にあるのならなんだっていいんだ。
僕らはずっとそうやってきたんだ。存在してない神様に感謝したい。
1.レディース&ジェントルメン
2.check it out! check it out! check it out! check it out!
3.ふぁっきゅー
4.バタフライエフェクトを語るくらいの善悪と頑なに選択を探すマエストロのとある一日
5.WAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!!!!!!!!!
6.なんだっていい //////////
7.アナーキーサヴァイヴァー
8.ラストダンスとファンデーション
9.Get Money
10.気持ち悪りぃ
11.パンドラの箱、ツンデレっすね
12.つーか、っつーか。
13.ダガー
14.僕はスーパーマン
15.観覧車に乗る君が夜景に照らされてるうちは
16.マジかーそうきたか、やっぱそうきますよね、はいはい、ですよね知ってます。
17.ラストナンバー
18.イフタム!ヤー!シムシム!
19.ソシタラ 〜人気名前ランキング2009、愛という名前は64位です〜
encore
20.スーパーフレア
21.僕らは
22.プロタゴニストの一日は
23.CANのジャケットのモンスターみたいのが現れて世界壊しちゃえばいい
encore2
24.ミラーボールが回りだしたら
文 ソノダマン