SPACE SHOWER TVが毎年期待の若手アーティスト4組を選出して全国ツアーを回る名物イベント、スペシャ列伝。
今ではスタジアムやアリーナクラスになったバンドなんかもこのスペシャ列伝ツアーに出ていたことがあったりするのだが、その列伝ツアーの2014年に出演した、KANA-BOON、キュウソネコカミ、go!go!vanillas、SHISHAMOの4組が「同騒会」として6年ぶりに集結。
今や4組全てがシーンを代表するバンドとなっているという状況になっての再集結である。2014年のツアーファイナルを赤坂BLITZで見ているだけに、またこの4組が揃うのが見れるのは実に感慨深い。
・SHISHAMO
若手バンドが集まるこのツアーであるが、6年前、SHISHAMOはまだドがつくくらいの新人バンドだった。なんならツアーで全国を回るのも初めてというくらいに学びの真っ最中だった。それが今やアリーナやスタジアムでワンマンを行うくらいのバンドになってこのイベントに戻ってきた。
おなじみのSEが鳴ってメンバーが元気良く登場すると、いつものようにTシャツに短パンというキッズスタイルがいつになってもよく似合う宮崎朝子(ボーカル&ギター)が、
「東京!1階席!2階席!」
とコール&レスポンスをして観客に準備運動とばかりに声を出させると、リリースされたばかりの最新アルバム「SHISHAMO6」収録の「ひっちゃかめっちゃか」からスタートするのだが、この曲は宮崎の早口ボーカル(宮崎はインタビューで「本職の方に失礼だからラップとは言えない」と語っている)でスタートするという、アルバムを聴いていない人からしたら「え!?」と驚くであろう、バンドとしての新境地的な曲になっている。
続け様に演奏された、今やこのバンドの最大の代表曲と言えるようになった「明日も」では華やかなホーンの同期音が流れるのだが、新作のインタビューで宮崎は
「この曲がSHISHAMOらしい曲として認知されたことによって、この曲みたいな曲を求められるようになった」
「この曲でたくさんの人に知ってもらったけれど、それまで知らなかった人からは「自分たちで演奏してないんでしょ?」とか「自分たちで曲作ってないんでしょ?」って言われたりもした」
と、代表曲になるくらいに広がったからこその世間からの穿った視線についての苦悩を話していた。だからこそそのインタビューを読んだ時は、これからこの曲はあんまりやらなくなるのかもしれない、とも思っていたが、この曲を演奏している時の宮崎をはじめとしたメンバーの表情は笑顔そのものだった。それはこうしてライブを見に来てくれる人たちは自分たちがどんなバンドなのかをちゃんとわかってくれているはず、という信頼感があるのかもしれない。
MCでは宮崎が6年前は全く仲良くなれなかったKANA-BOONとようやく仲良くなれたということを話す。キュウソとバニラズとは6年の間に2マンをやったりしたが、KANA-BOONとは本当に6年ぶりだという。すると吉川美冴貴(ドラム)も
「私が数少ない連絡先を知っているミュージシャンがKANA-BOONのこいさん(小泉)なんですけど、前にバンドのことっていうかドラムのことにすごい悩んでる時にめちゃくちゃ長文のLINE送って相談したら、めちゃくちゃ長文でしっかり返してくれて。こいさんは本当に良い人なんですよ!」
と小泉の良い人っぷりエピソードを開陳すると、それに乗っかるように松岡彩(ベース)も
「古賀さんも良い人ですよ」
と言うのだが、かえって白々しく感じてしまう空気になってしまう。
そうしたMCは宮崎も「喋りすぎた」と言っていたのだが、やはり「SHISHAMO6」収録でこそあるが、シングルのカップリング曲だったために夏フェスでは新曲として演奏されていた「君の大事にしてるもの」はギターの同期を重ねながらも音数を絞っているからこそ、リズム隊の力量が試されるような曲になっている(アルバムにはそういう曲が多い)のだが、吉川の複雑なのにそう感じさせないドラムも、松岡のグルーヴの起点となっているベースも、この2人の成長があるからこそこうした曲をできるようになったんだな、と感じる。
そうした曲が象徴しているように、今のSHISHAMOというか「SHISHAMO6」は既存のSHISHAMOのイメージに囚われていないというか、新しいバンドの姿を見せるものになっている。
その萌芽はすでに前作からあったし、「ねぇ、」に入っているピアノの同期のサウンドは3人の音だけでライブをやらないといけないという固定観念からも解き放たれたものになっているが、最後に演奏されたのもそうした同期の音をふんだんに使用した最新アルバムの最後を飾る曲である「曇り夜空は雨の予報」であるというのが今のバンドのモードを示していると言えるが、宮崎の力の入った歌唱やバンドの自在な演奏からは、6年前とは全く違うバンドに進化していることを感じさせたのだった。
6年前のツアーのドキュメンタリー内において、キュウソネコカミのヨコタシンノスケ(キーボード)は、
「もしかしたらこのバンドはダークホースになるんちゃうかなと思った」
と初日のライブを見て思ったという。まだその時は「バンドとしては拙いけれど、曲には光るものがある」という原石的な存在のバンドだった。
そんなバンドは6年かけて自分たちでバンドを磨き続けてダイヤのような存在になったが、このイベントで見ると否が応でも6年前のことを思い出してしまう。当時のベーシストであり、
「バンドは20歳までって決めていたから」
と言って脱退した松本彩は今何をしているんだろうか。何をしていてもいいし、どこにいてどんな暮らしをしているかを知りたいわけではないけれど、このツアーをやるというニュースをどこかで目にしていて、あの頃が楽しかったなって思えるようであってはいて欲しいと思う。
1.ひっちゃかめっちゃか
2.明日も
3.君の大事にしてるもの
4.ねぇ、
5.曇り夜空は雨の予報
・キュウソネコカミ
転換中に体格の良いスキンヘッドのスタッフ(マネージャーねはいからさん)がステージを歩き回り、キーボードがセッティングされたことによって次のバンドが誰なのかがわかる。
COUNTDOWN JAPANでEARTH STAGEの年越しを務め、子年である2020年の幕開けを告げたバンド、キュウソネコカミである。
おなじみのラウドかつハードなSEで5人がステージに登場すると、オカザワカズマ(ギター)もカワクボタクロウ(ベース)も高く腕を上げている。
楽器を持つと空気を一閃するかのように音が重なり、
「誰にも負けられない 他のバンドの事
かなり意識してる」
と、「ウィーワーインディーズバンド!!」のこのフレーズを最初に歌うことを選んだ時点で全てがわかるというか、すぐさま「良いDJ」へ繋がっていく流れからのヤマサキセイヤ(ボーカル&ギター)の熱苦しいと思うくらいの感情を込めまくった歌い方からも、歌以外の部分では口にはしなかったが、間違いなく「他の3組に絶対に負けられない」という強い意識を感じさせる。
ここまでは6年前も演奏していた曲が続いたので、もしかしたらそういうモードか?とも思っていたのだが、
「恋の形は様々だけど、こういう恋はするなよー!」
と言って演奏された「メンヘラちゃん」はバンドのストロングポイントをさらに強化したタイプの曲であり、
「付かず離れずメンヘラ」
という仮にファンじゃない人でも一聴したら間違いなく忘れられないであろうフレーズでは大合唱が起きる。ソゴウダイスケ(ドラム)が演奏中に立ち上がって客席を見渡したりとバンドのパフォーマンスも熱いが、それに応える観客も熱いというまるでキュウソのツアーであるかのごとき幸福な相乗効果が起きている。
「ほどほどに勉強もしないといかんぞー!」
というキュウソの曲を聴きながらも日本史の勉強ができる「KMTR645」では「ペディグリー」のフレーズでヨコタシンノスケ(キーボード&ボーカル)が「ゼップダイバーシティ」と書かれた提灯を掲げて、その通りにこの会場の名前に変えて歌い、サビではもちろん振り付けも完璧に
「キュキュキュ キュキュキュっキュー」
のフレーズで大合唱。オカザワはギターソロで紹介されると目が赤く発光するネズミ君ギターに持ち替えたりと、めちゃくちゃテンポが良い上に全てにおいて情報量が多い。
するとセイヤがなにかと客席の最前列あたりのことを見ている。そして「行くぞ」と合図をするように
「住みやすい〜」
とリリースされたばかりの最新ミニアルバム収録の「Welcome to 西宮」を歌い始めると、そのまま客席にダイブ。真ん中、上手、下手とサビになるたびに計3回もダイブするのだが、オカザワはこの曲では「KMTR645」の途中で切り替えたネズミ君ギターを弾いている。
セイヤはMCで
「こんな「住みやすい 俺の街 便利だし 綺麗だし」って歌ってる街の歌なんかないですよ!」
と言っていたが、他にそんな歌がないからこそ、キュウソが歌う意味がある。誰でも知っている単語を使って、誰も歌ったことがないことを歌う。それはこんな言葉も歌詞として使うことができる新しい発明である。何よりもその言葉が乗るメロディのキャッチーさ。それこそこのバンドが
「俺たちが1番すぐ消えるって言われていた(笑)」
と言われながらも消えるどころか、年々一歩ずつでも確実に階段を登れているバンドであることの証明である。
「僕らは「楽しくても思いやりとマナーを忘れずに」っていうもう宗教みたいな感じのライブをやってます!」
とどこか説明くさいMCをしていたのは、時間に限りがあるから急いでいたのかもしれないし、もしかしたらセイヤなりに感極まっていたところもあったのかもしれないが、「ビビった」、そして今のキュウソネコカミがどんなバンドなのかと聞かれた時に真っ先に挙げる曲になるであろう、最後に演奏された「冷めない夢」は、
「どこかこの4組のことを歌っているようなところもある。これからも4組とも上に登っていけたら」
と言って演奏されていた。
「俺たちは冷めない夢を追いかけ続けるだけ」
という、普段はあまりコーラスをしないカワクボも含めたメンバー全員で歌うこのフレーズは、4組とも冷めない夢を追いかけ続けるのをやめなかったからこそ、こうしてZeppというあの頃よりも広い会場でまた一緒にライブをすることができているということを言い当てているような、この日のテーマソングのように鳴っていた。
あれだけバンドを代表する大名曲だと思っていた「The band」や、これまでのライブにおける定番曲の「ハッピーポンコツ」や「DQNなりたい〜」を演奏しなくても成り立つくらい、今のキュウソは
「ヒット曲はないけれど、俺たちの心のベストテン」(byヨコタ)
に入る曲を次々に生み出している。6年前、メンバーたちは自分たちがそんな曲を作り出せるということを想像していたのだろうか。
キュウソは6年前と唯一、バンドの形が変わっていないバンドである。KANA-BOONですらもバンドの形が変わったということを考えると、それがどれだけ凄いことなのかということがよくわかる。
でも、形は変わっていなくても、バンドの在り方は間違いなく変わった。6年前はまだ「楽しい」「面白い」という印象が最初に出てくるようなライブをしていたバンドだった。(当時新曲として演奏されていた「KMDT25」の盆踊りサークルのウケっぷりが象徴していたように)
でも今はそれ以上に「熱い」という印象を真っ先に受けるようなバンドになっている。それは6年間の様々な悔しい思いをしたことが曲になり、ライブでの音となり、ファンもその姿をずっと見てきたからだ。
もしかしたらこの日だって本当は自分たちがトリをやりたかったという思いもあったかもしれないけれど、キュウソの熱いライブが次の2組に間違いなく良い影響と刺激を与えていた、総じてこの日をより素晴らしい日にしていたのは事実である。
キュウソは変わらないままで変わった。あの頃よりもはるかにたくましく、強いバンドになった。自分たちの、バンドの夢をちゃんと口にできるバンドになった。その過程を見続けてこれたのは本当に幸せなことだった。そしてそれはこれからも続く。
1.ウィーワーインディーズバンド!!
2.良いDJ
3.メンヘラちゃん
4.KMTR645
5.Welcome to 西宮
6.ビビった
7.冷めない夢
・go!go!vanillas
キュウソの熱気が客席にも、ステージにも残っているのを転換を経ても確かに感じる。汗の匂いが鼻に入ってくるからだ。そんなステージに登場するのは、go! go! vanillas。今やZeppクラスのワンマンを余裕でソールドアウトさせることができる、しっかりと他の3組の横に並べるバンドとなってこのツアーに帰ってきた。
メンバー全員がステージに走って登場すると、そこにはもちろんプリティ(ベース)もいる。交通事故に遭って入院していたが去年無事にライブにも復帰。そういえば復帰してからこうしてライブを見るのは初めてだが、やはり収まりがいいというかなんというか、バニラズこの4人のバンドなんだよな、というのがメンバーが並んでいる姿だけでわかる。
牧達弥(ボーカル&ギター)は最初はギターを持たずにハンドマイクを握りしめると、昨年リリースの最新アルバム「THE WORLD」収録の「チェンジザワールド」からスタートするのだが、牧はいつにも増していきなりステージを左右に動き回るというか走り回るというか、めちゃくちゃパワフルだ。それはマイクを口に加えたり、スティックを2本ずつ持ってシンバルを叩きまくるというジェットセイヤ(ドラム)の荒ぶりまくるパフォーマンスからも感じることであるが、直前のキュウソの「他のバンドには絶対負けない」という空気がこのバンドにも火をつけている。
柳沢進太郎(ギター)によるコール&レスポンスも「列伝」というワードをふんだんに入れながら、もはや叫んでいるかのようで、そのまま「カウンターアクション」へ突入していく。牧と柳沢のスマートな出で立ちからして、バニラズは時にはクールに見えるようなライブを行う時もある(セイヤはいつも熱いけれど)バンドだが、この日はそんな印象は全く感じさせないほどに熱い。それがこのバンドの本来持っているロックンロールさを強く感じさせるものになっている。
だからこそ選曲もそうしたロックンロールさを感じさせるもの、熱い曲が中心になっているのだが、近年はこうしたフェスやイベントという短い持ち時間のライブではまずセトリに入ってこない「ホラーショー」を演奏したのはこのスペシャ列伝というイベントのライブだからこそだろう。
6年前のファイナルの直前にシングルとしてリリースしたこの曲であるが、
「ライフイズまさにホラーショー」
と歌っていた当時、まさかその通りのバンドライフを歩むことになるとは誰が予想していただろうか。それでも、そうした苦難を自分たちと周りの仲間の力で乗り越えてきたからこそこの日のステージに立っているのである。
もはや柳沢もプリティもコーラスというかシャウトに近いような声をあげるくらいに熱量に満ち溢れた「エマ」を演奏すると、
「6年前は俺たちのことを知ってる人なんて全然いなかった。みんな一応拍手はしてくれる、みたいな。でも今日出てきてみんなが腕をあげたりしてくれるのを見て、俺たちがやってきたことは間違いなかったって思えた」
と牧が話す。確かに、SHISHAMO同様にバニラズも当時はまだ全然無名だったし、自分の認識も「THE BAWDIESの後輩バンド」というくらいのものだった。
でもそれからバニラズは音楽マニアらしい、自分たちが普段から聴いている様々な音楽を自分たちの音楽に取り込んで昇華することによって、ロックンロールバンドというだけでも、ギターロックバンドというだけでもない、go!go!vanillasという自分たちでしかないバンドになった。あの頃はまだそんなバンドになるなんて全く想像できなかった。
そしてその6年前はまだ平成という年号が終わることすら全く想像できなかった。でも今は令和に年号が変わり、平成生まれのバニラズも決して若手と言えるような立ち位置ではなくなってきた。でも確かに自分たちが平成という時代を生きてきたということを示すような(それはそのままここにいる人たちも平成という時代を生きてきたことの証明でもある)「平成ペイン」の大合唱を巻き起こすと、牧は次に出てくるトリのKANA-BOONについて、
「あいつらも飯田がいなくなったり、いろんなことがあった。俺たちもKANA-BOONの姿を見て悔しいと思うこともたくさんあった」
と語った。6年前はそんなことは口にしていなかった。同じステージに立っていても、まだバニラズはKANA-BOONと並列になれるようなバンドではなかったから。でも今はそんなKANA-BOONの名前を口にできる、その姿を見て悔しいという感情や、メンバーが居なくなってしまった悲しさを持つことができる。本当の意味で同じステージに立てるようになったのだ。もしかしたら、この4組の中でバンドとしても、人間的にも1番成長したのはこのバンドなのかもしれない。
だからこそ「No.999」の
「デスからアゲイン」
というフレーズは少し前まではプリティの復活を願うように鳴らされていたが、この日はどこかKANA-BOONへのエールであるかのようにも感じた。
それでも柳沢のボーカル部分で牧はステージにスライディングするかのように転げ回りながらギターを弾き、最後に牧と柳沢とプリティが揃ってジャンプすると、セイヤはスティックだけならずシンバルすらも放り投げまくっていた。ロックバンドとしての抑えきれない衝動が溢れ出ていた30分だった。
前述の通り、6年前はバニラズがこんなに大きな存在になることも、良いバンドになることも想像していなかった。このイベントには抜擢という空気が強かったから。
そこからバンドはそうした期待に応えるように進化していき、不幸な出来事すらもドラマチックなストーリーとしてバンドのものとして、自分たちが作ってきた曲に新たな意味を持たせられるようになった。なんでこのバンドがそんな目に遭わなきゃいけないんだろうか、って思ったこともあったけれど、今ではそれはこのバンドがそうしたことも乗り越えられる強さを持っているバンドだったからっていうように思える。
1.チェンジユアワールド
2.カウンターアクション
3.ホラーショー
4.エマ
5.平成ペイン
6.No.999
・KANA-BOON
そしていよいよこの同騒会もあっという間に最後の時間に。6年前もトリを務めたKANA-BOONである。
暗転するとSEもなしにメンバーが登場し、照明がつくといきなり「まっさら」の演奏が始まるという短い持ち時間をフルに使おうという姿勢。そもそも昨年はこの「まっさら」はライブの最後に演奏されていた曲であり、その曲を最初に演奏しているというのは紛れもなくバンドが新しいモードに突入したことの証明と、この日のライブがいつもとは少し違うことの証明でもある。
バンドは飯田の失踪以降はシナリオアートのヤマシタタカヒサやPELICAN FANCLUBのカミヤマリョウタツをサポートに迎えてライブを行ってきたが、今年からは新たに地元が同じ堺である夜行性のドビュッシーズというバンドのマーシーをサポートベーシストに迎えている。
もともとがスリーピースバンドであるが故に派手かつベースとしての主張が強いヤマシタに比べるとオーソドックスなベースプレイであるが、そもそもKANA-BOONの曲の基本がそうしたものであるだけにスタイルとしてはバンドに合っていると言えるだろう。すでにこうして何曲も演奏できるようになっているあたり、相当な練習をしてきたのだろうというのは容易にわかるけれど。
早くも「フルドライブ」でまさにフルドライブなスピード感を与えると、「ないものねだり」ではバニラズ同様にスペシャ列伝という単語でのコール&レスポンスを展開。谷口鮪(ボーカル&ギター)の曲紹介では「ゆらゆら」「チャーハン」ともはやタイトルが変わってきている感じすらするけれど。
ツアー中の打ち上げで牧達弥、ヤマサキセイヤ、宮崎朝子が同じテーブルで話していたため、一つ空いた席に座るのは当然自分だろうと思っていたのに、なぜかあたかもフロントマンであるかのような顔をして古賀隼斗(ギター)が座っていた、という鮪のMCで笑いを取るというこのバンドの朗らかな空気は3人になっても変わることはないし、SHISHAMOからは
「6年前はKANA-BOONと仲良くなれなかった」
と言われていたが、鮪側はそれを必死に弁明。確かにSHISHAMOはキュウソのヨコタと写真を撮る際はメンバーが一切笑わないで写っていたりと、ある意味ではネタ的に他のバンドのメンバーと接することもあるバンドであるが。
そんな中で演奏されたのはリリースされたばかりの最新曲「スターマーカー」。すでにアニメのタイアップとしてもおなじみであるこの曲は、率直に言ってしまうと従来のKANA-BOONのギターロックという枠からかなり外れた、フジファブリックの金澤ダイスケのキーボードが入っていることも含めて完全にポップな曲である。
でもそれは急激に変わったのではなく、「アスター」「ネリネ」という挑戦的な2枚のミニアルバムで培ってきたものが大輪の花として形になった、新しいKANA-BOONの代表曲と言っていいような曲であるし、どこかクリープハイプが「イト」をリリースした時のような突き抜けたというか吹っ切れたような感じを受ける。きっとメンバーも強い手応えがあるだろうと思うし、同期を使っていながらも力強さを感じる小泉貴裕のドラムからはどっしりとしたバンドの土台としての頼もしさを感じる。
そして「シルエット」の
「覚えてないことも たくさんあっただろう」
というサビのフレーズが6年間のこのバンドの様々な出来事を脳裏にフラッシュバックさせる。あの時は完全にKANA-BOONだけがはるかに先にいるような状況で、ヨコタも
「始まる前はKANA-BOONと他3組のツアーになっちゃうんじゃないかと思っていた」
とドキュメンタリーで素直かつ冷静に口にするくらいに当時は飛び抜けていた。でもずっと何段も階段を飛ばして駆け上がっていったんじゃなくて、6年のうちの何年間かは試行錯誤の連続だった。あの頃ですら、4つ打ちというだけでやたらとディスられることも多かった。
そして何よりも、
「本当はあいつも一緒にこの日を迎えられることができたらよかったんだけど」
と鮪が言ったように、飯田がいなくなった。6年前はKANA-BOONの形が変わるなんて1ミリも想像していなかった。あの4人の醸し出す空気や雰囲気こそがKANA-BOONであり、そこには技術とかを超えた、誰かが替わりになることなんてできないものがあった。
実際に4人が憧れてきたバンドも、ずっと同じメンバーで今に至るまで続いている。その姿を見てきたからこそ、自分たちもそうしたバンドになろうとしてきたはずだ。
でもKANA-BOONはそうはなれなかった。なれなかったけど、そこで終わったり止まったりするのではなくて、
「あいつと作ってきた曲もあるから」
と、そうした出来事や思いも全て抱えて、こうしてしっかりとファンの前で全てを話して前に進んでいる。そして、
「最後、盛り上がるような曲じゃないけど」
と言って演奏されたのは実に久しぶりの「眠れぬ森の君のため」だった。それは紛れもなく6年前の自分たちに、そして飯田に向けて演奏されていた。それが伝わっていたからこそ、客席では涙を流している人がたくさんいた。鮪の歌声もどこか涙声になっているような震えを含んでいるような感じがした。KANA-BOONにとって6年前のあのツアーが、この4組でいれることが特別なものであるということを何よりも感じさせてくれるような選曲と演奏だった。もしかしたらまだ聴いたりすることはできないかもしれないけれど、飯田もこの日にバンドがこの曲を演奏したということを、どこかで知ってくれていたら、と思う。きっとこれからもメンバーはもちろん、ファンも他の3組も忘れはしないから。
5周年ツアーで47都道府県を回った際、公演数が多かったというのもあるが、動員的に厳しさを感じることも多々あった。でも今年予定されているホールツアーはライブハウス以上のキャパであるにもかかわらず、チケットが取れないという状況になってきている。
もしかしたら、飯田がいなくなったことによってKANA-BOONが大切なバンドであるということに改めて気づいた人もたくさんいるのかもしれない。だとしたらチケットが取れないということをネガティブに捉えることはない。
いずれまた日本武道館や幕張メッセというようなかつて立った大きな会場にこのバンドが立つ姿を見れるようになるだろうし、その時には前よりもはるかに良いライブを見せてくれるはず。今のバンドの姿を見ていると、心からそう思える。
アンコールでは呼び込まずとも4バンドの全メンバーがステージに登場。バニラズの柳沢は鮪に変わってギターを持ち、ヨコタも自身のキーボードの前に。ボーカル4人がそれぞれマイクを持つと、
鮪「何やりましょうか?」
セイヤ「6年前はレミオロメンの「3月9日」のカバーをみんなでやったから、今回もそうする?(笑)」
牧「いやいや!今回、この日のために曲を作ったんですよ!この4人でLINEグループ作って。朝子ちゃんは最後まで入るの嫌がってたけど(笑)」
宮崎「嫌がってないです!(笑)」
牧「俺と鮪で曲とメロディ作って、それに朝子ちゃんに歌詞つけてもらって」
鮪「あれ?セイヤさんは何したんですか?」
セイヤ「俺は最後のフレーズをつけて、シンノスケにキーボードのフレーズ入れてって無茶振りした(笑)」
と、この4人で作ったこの日限りの新曲を披露することになるのだが、6年前はアンコールの仕切りを主にヨコタがやっていた。まだ牧や宮崎はこんなに喋れるような状況ではなかったから。でも今は牧が率先してみんなを引っ張ろうとしている。その姿に成長を感じるとともに、彼にとってこのツアーが本当に大事なものなんだな、と思えた。
そして演奏されたのは、
「列伝永遠に」
というフレーズのインパクトが抜群の曲。時にはいろんなメンバーが1本のマイクの前で歌ったり、ジェットセイヤはシンバルをひたすらに叩いていたり。そんな曲は、
「生まれ変わってもまたいつかこの4組で対バンしようぜ」
というフレーズで締められる。この部分こそ、宮崎ではなくてセイヤが書いたものなんだろうというのがよくわかる。生まれ変わる前にまた、何年か後に。全員で並んで手を繋ぐ際に鮪と宮崎が隣同士になったのを冷やかしたりしながらも、帰りたくない空気が全員から漂っていて、BGMで流れていたTHE TIMERS「デイ・ドリーム・ビリーバー」を合唱したりした。この曲、30周年を迎えたスペシャが開局して1番最初に放送した曲だ。つまり、このスペシャ列伝も元を辿ればこの曲から始まっている。またこの4組のツアーを組んでくれた、スペシャにも感謝を。
1.まっさら
2.フルドライブ
3.ないものねだり
4.スターマーカー
5.シルエット
6.眠れぬ森の君のため
encore
7.列伝永遠に (作曲:牧&鮪、作詞:宮崎) w/ キュウソネコカミ、go! go! vanillas、SHISHAMO
かれこれスペシャ列伝ツアーはもう13年も開催されているが、こうしてもう一度同じバンドでツアーを回るということはほとんどない。以前、2016年のツアーを回った4組(フレデリック、My Hair is Bad、夜の本気ダンス、雨のパレード)が新木場でライブを行ったが、まだ3年くらいのスパンだった。
なぜならば、何年か経つと参加バンドの中で止まったり、終わることを選ぶバンドも出てくる。実際に2014年より前の列伝ツアーはすでにどの年も1組は解散ないしは活動休止になっていて、もう揃うことはできない。或いは、4組の規模に差が生まれすぎて同じ会場で集まるのが難しくなるという年もある。
そう考えると、今でも4組が続いていて、しかもこのZeppクラスでワンマンをやっているというこの2014年のツアーはもはや奇跡と言っていい。そんな年は他にないのだから。そしてこの共演はきっといつかまた見れる。この日のライブを見て改めてそう思ったし、2014年に赤坂BLITZに足を運んでいて本当に良かったと思えた。同じ30分という持ち時間だからこそ、あの頃とは全く違う今のバンドの力を実感することができるのだから。だからこそ、生まれ変わる前にまた。
文 ソノダマン