climbgrow EL-RODAR release party 「青天井」　Veats Shibuya　2020.2.11 climbgrow

BY: sonodaman / 2020/02/18

サーキットフェスなどでも何度かライブを見ていたが、昨年末に初出演したCOUNTDOWN JAPANでのclimbgrowのライブはそれまでに見た時とは違う、どこか突き抜けたような印象を感じさせるようなものだった。普段は小さいライブハウスを中心に活動しているだけに、1番小さいステージですら8000人レベルのキャパのこのフェスはまだ早いんじゃないか？という不安が杞憂に終わるくらいにたくさんの人がこのバンドを見に来ていて、しかも確かな期待を持ってステージを見ていた。

しかしそんな状態にもかかわらず、バンドはベーシストの田中仁太の脱退を発表。これまでの活動をまとめたベスト的なアルバム「EL-RODAR」のリリースライブ(ツアーではなくこの日だけ)となるこの日が今の4人での最後のライブとなる。

会場のVeats Shibuyaは渋谷CLUB QUATTROのあるビルの隣に新しくできたビルの地下にあるライブハウスで、オープンしたばかりということもあって場内は至るところまで実にキレイだ。
客席の造りは縦長であり、余計な柱などがないだけにQUATTROよりも広く感じるし、渋谷のライブハウスではO-EASTの次くらいの規模になるのかもしれない。そんなキャパがソールドアウトしているというのが今のバンドの状況を物語っていると言っていいだろう。

18時になると場内が暗転してメンバーが登場。やはり田中がステージに現れると一層大きな歓声が上がり、観客が一斉に前方へと押し寄せていく。みんなロックンロールに飢えた獣のようだ。近藤和嗣(ギター)は髪をピンクに染めている。

いつも通りに黒いシャツを着た杉野泰誠(ボーカル&ギター)が

「渋谷ー！」

とそのバズーカ砲のごとき野太い声で叫ぶと、「極彩色の夜へ」からスタートするのだが、早くも観客の合唱する声が聞こえる。

「互いに間違いがなかったと言えば嘘になるけどさ」

という杉野の早口なボーカル部分は田中とのバンドのこれまでの歩みをそのまま歌詞にしているかのような、曲が生まれた時とはおそらく違う意味を持つようになったが、だからこそ

「俺はこんな所で終わらせるつもりは無い」

というフレーズをこれからの宣誓のように叫ぶと、客席からは「その通りだ！」と答えるかのような大歓声が上がる。

このバンドは基本的に杉野の前にしかマイクがないし、だからこそ他のメンバーがコーラスをすることもないのだが、

「ぶっ飛ばしてやるよ！」

と叫ぶと田中がマイクへ寄って行って「THIS IS」のタイトルコールをする。
その「THIS IS」は近藤のカッティングがスカの要素も感じさせる曲なのだが、杉野がギターを抱えたままで倒れ込むように客席に突入すると、サビでは一気に爆発を見せてこの日初めてダイバーが出現し、それはバンドの代表曲の一つと言っていい「LILY」でも同じ光景を生み出す。

基本的にMCもほとんどせずに曲を連発していくだけに、ライブのテンポが実に良いというのもロックンロールバンドならではであるが、「EL-RODAR」未収録の「ハイライト」が演奏されたことによって、ライブタイトルこそリリースパーティーというものにはなっているが、このバンドのこれまでの歴史の総括的な夜になるであろうことがわかる。

このバンドに限ったことではないが、ロックンロールバンドのライブというのは基本的に派手な演出であったりとかというのを使うことはほとんどない。THE BAWDIESが武道館やアリーナですらそのスタイルを貫いたというのは、ロックンロールバンドは曲を演奏するというのが最大のエンターテインメントであるということの証明である。

climbgrowのライブもやはりそうした、何の演出や映像もないものであるのだが、ロックンロールというよりはギターロックという感触の強い「群青色の記憶」ではタイトルに合わせて照明が青く光ったり、あるいはタイトルがバンドのこれからを言い当てているかのような「太陽はまた昇り」ではオレンジ色の照明がメンバーを照らしたりと、決して派手ではないが曲のイメージを増幅しているあたり、照明スタッフも含めてチームとしてライブを作り上げているという意識が伝わってくる。

杉野がギターを置き、ハンドマイクで魂の咆哮を轟かせる「RAIN」は間違いなく前半のハイライト。次々にステージの方に流れていくダイバーとは逆方向に杉野も客席に飛び込んでいく。こんな声だったら自分もロックンロールバンドをやっていただろうなぁと思うくらいにかっこ良過ぎて体が震えてしまう。

「FENCE」「mold Hi」とヒリヒリするようなロックンロールの連発はテンポの良さも相まって休む暇すら与えないし、それはメンバーもそのはずなのだが、杉野の声はもちろん、バンドにとって演奏の起点となることが多い谷口宗夢のドラムもこの辺りからより力強さを増してきている感すらあった。この4人での最後のライブという意識せざるを得ない事実から徐々に開放されてきていたのだろうか。

どこか歌謡性を感じさせる、真っ赤な照明がメンバーを照らすのがよく似合う「SCARLET」、ロックンロールバンドには必需品と言えるし、杉野の声がより映えるブルースを含んだ「KLAXON」と続くと、杉野の声と削ぎ落としたサウンドがハードボイルドな旅の景色を脳内に浮かばせる「PAPER PLANE」からは少し空気が変わる。

「何も無いのに　何かを探している」

というサビのフレーズが想起させるのは思春期特有の感覚。でもきっとこれからその感覚は変わってくる。年齢を重ねるごとに、何もないという感覚は失われていくし、探すことをしなくても色んなことが降りかかってくるからである。
きっとこのバンドもこれからいろんなものを失くしながら、それ以上に大切なものを獲得していくはず。それはもしかしたらもうすでにバンドが持っていることに気づいているものもあるかもしれないけれど、この曲を鳴らしている間はその「何もない」という感覚を思い出すことができる。それはメンバーより年上の自分でも聴いていてそう思える。

谷口がカウントすると近藤のイントロに合わせて杉野もギターを被せるのだが、2回もやり直すという形になって笑いが起きたのはこの日のライブの雰囲気を象徴していたと思うが、基本的には「俺」と「お前」のロックンロールであるclimbgrowにおいて、「僕」と「君」に人称が変わる「過ぎてしまった」は激しいロックンロールバンドとは違った一面を見せてくれる。
歌詞の内容もどこか私小説的であるし、何よりも杉野の歌い方に甘みを感じる。ただ荒々しくがなり散らすのではなくてそうした表現ができるシンガーであるということはこれから先のバンドにとってきっと大事な武器の一つになっていくはず。

そうした歌い方ができるからこそ歌詞の一つ一つが鮮明に聞き取ることができるし、

「知らない街　あなたは泣いていた」

というフレーズが別れの描写を感じさせる「街へ」はこの日は間違いなく田中に向けて鳴らされていた。それはただ別れを告げるのではなくて、これからの人生の健闘を祈るように、思いをしっかりと込めて鳴らされることによって。

こうした部分はワンマンに来てこうしたミドル〜バラードというようなタイプの曲を聴かないとわからないようなこのバンドの魅力である。実際に自分自身もCDで聴く以上にこうした曲におけるこのバンドの魅力に気づくことができたのはよりこれからこのバンドを好きになれる余白がまだあったのだと思わせられた。

しかし杉野は

「こいつが辞めるっていう実感が全くない」

と言っていた。でもライブ中にきっといつも以上に田中のことを見ながら歌っていたように見えたし、ライブが後半になるにつれて、もう演奏した曲はこの4人で演奏することはないという大きな事実に気付いてしまったんだろう。何というか、そういう部分は見た目に反して彼らが若者であるということを感じさせる。

そして次々と杉野による咆哮のごとき言葉が飛びかかってくる「POODLE」からは終盤戦へ突入し、再び、というかこの日最も激しくて濃いロックンロールゾーンへと突入していく。

タイトルからしてこれぞロックンロールな社会へ世間を断罪していく「くだらない」、聞き手の脳内に直接ロックンロールを流し込むかのような「ブラッドインブラッドアウト」。

このバンドに限らずだが、ロックンロールバンドは得てしてライブでこそ本領を発揮するバンドである。でもロックンロールをやれば誰でもカッコ良くなるというわけでもない。
ロックンロールを歌える声があるボーカリストがいるのが前提として、他の選択肢がたくさんある中で、今この時代にロックンロールを鳴らすというのは、ロックンロールが他のどんな音楽よりもカッコいいと思っていてロックンロールを選んでいる。その想いがそのままステージで音として鳴っている。それがロックンロールバンドがライブでこそ本領を発揮できる理由であり、climbgrowも間違いなくそうしたバンドだ。そしてその想いが強くなるとともに音の強度も見るたびに増している。それは自分たちが鳴らしているロックンロールへの確信が強くなってきているからだ。

そしてここで杉野は田中への、メンバーへの思いを語る。ずっと仲良くやってきたわけではないが、いい加減な自分をメンバーたちが支えてくれてきたこと、杉野自身もこのメンバーだから許せることがたくさんあったこと。小学校からの友人でもある田中のことは

「稀代の女ったらし（笑）」

と紹介していたが、そうして最後の日が笑い合えるものになっているのが4人の関係性をよく表している。田中は自身が女たらしであることを否定していたが、滋賀の地元のパチンコ屋に行くと杉野と田中は普通に遭遇するらしい。

そんな4人最後のライブもいよいよ終わりの時を迎える。自分たちが革命を起こしにきたことを改めて宣言するような(自分が初めてライブを見た、新宿の小さいライブハウスでもそう言っていた)「革命を待つ」から、

「くだらない話でもしようぜ　笑えればいい　それだけでいいと思った」

というフレーズがどうしたって田中への惜別のメッセージでありながらこの日のライブの雰囲気を示すものになっていた「未来は俺たちの手の中」で起こった大合唱はこの4人じゃなくなっても、ロックンロールの未来はこのバンドが握っているという確信を感じさせた。

そしてラストはロックンロールのカッコよさを爆発させるような「ラスガノ」。しかし曲中で田中がベースを抱えたまま客席にダイブすると、その姿を見た杉野は笑ってしまってフレーズを飛ばしてしまう。そして谷口と顔を見合わせて笑っている。普段から職人的にギターを刻む近藤もこの時は顔が緩んでいた。

サーキットライブやイベントなど、ほかにたくさんのバンドが出ている場所で見てきたclimbgrowは「全員ぶっ飛ばす」というオラついた、狂犬のような雰囲気のバンドだった。だからこそそうしたライブはただひたすらに「カッコいい」と思うものだったのだが、この日はそれに加えて「楽しい」という感情を確かに感じていた。それはこの日のライブがこうして笑い合えるものだったからだ。

思えばCOUNTDOWN JAPANでも杉野は、バンドは嬉しそうだった。自分たちを見たいと思っていてくれる人がこんなにたくさんいるということに。前にツイッターを見ていると、どうやらa flood of circleと2マンした時もそれまでに見たことがないくらいに楽しそうだったという。
舐められたくないからこそオラついているのだろうし、楽しいと感じたらそれが表情やライブの雰囲気にダイレクトに反映される。その姿はこのバンドを、このメンバーを本当に人間らしいなと思わせてくれる。人間だから感情が揺れ動くのだし、見ている我々も人間だからそうした姿を見ることによって感情が揺れ動く。ロックンロールとは、究極の人間らしい音楽なのかもしれない、とメンバーの姿を見ながら思っていた。

アンコールでは杉野が

「発表があるんですよ」

と演奏するよりも前に切り出し、5月にビクターからアルバム「CULTURE」をリリースしてメジャーデビューすることを発表し、その「CULTURE」に収録される新曲を披露するのだが、その際に出てきたのが田中に変わる新ベーシストの立澤賢。観客に「カビゴンみたい（笑）」と言われるくらいにぽっちゃりとした体型で、メガネをかけたままにするか外してからにするかを迷ったりと、このバンドにはいなかったひょうきんなキャラクターであり、諸先輩バンドには「本当にあれでいくのか」と言われているらしいが、すでに田中からレクチャーも受けていて、新作の曲はこの立澤が演奏しているということで、田中が見守る中で新作に収録される新曲「閑古鳥」を演奏。

イントロの段階ではa flood of circleで言うならば濃いブルースサイドの曲かと思ったのだが、杉野が歌い出すと勢いのあるロックンロールに変化していく。何よりも新メンバーの立澤賢がサビではコーラスも務めているというのはバンドにとって間違いなく新境地。
きっと観客の中には田中の最後のライブなだけに、全曲田中が弾くのが見たいというファンも多かっただろうし、それはバンドもわかっていたと思う。でもロックンロールバンドとして、進み続けるという意思をこうしてワンマンに来てくれる人たちの前で最初に見せたかったのだろうし、新曲のカッコよさでもってそうした思いを封じ込めて見せた。なかなか辞めるメンバーと新しいメンバーが同じステージに立っているという構図も普通は見れないものだ。立澤は最後には杉野の指令によって明らかに慣れていない巨体で客席に飛び込んでいた。

立澤から田中に再びベースをスイッチして「SEPTEMBER」を演奏すると、この4人で最後に演奏された曲は「叫んだ歌」。この日間違いなく最多のダイバーが出現したのも音と体でもってその思いを放出したバンドに呼応したものであるが、ロックンロールへの憧憬を歌ったこの曲を演奏している今の4人を、歌詞にある通りに16才や17才の、かつての少年だった頃のメンバーが見たらどう思うだろうか。きっと、あんなロックンロールバンドになりたいと思うだろうし、この4人での最後のライブはそう思わせるには充分なものだった。

演奏が終わるとメンバーはすぐさまステージを去っていった。ただ1人、田中を残して。その田中は最後までしっかり観客に向き合って手を振ったりしていた。この景色をいつまでも覚えていられるように。

メンバーが抜けるというのはバンドがまた一からスタートするということであり、メンバーの関係性が強ければ強いほど、このメンバーでなくなる=バンドの終わりということを選ぶバンドもいる。
でもclimbgrowはきっと、a flood of circleなどの先輩たちがメンバーが変わりながらも転がり続けてきた姿を見てきたはず。そしてそうして自分たちを更新し続けていくのがどんなにカッコいいことかということもわかっている。それを今度は自分たちが見せる番だ。

そして大人の言うことなんか絶対素直に聞きそうにないこのバンドがメジャーの世界に飛び込んでいく。それはロックンロールのカッコよさ、自分たちのカッコよさをもっとたくさんの人にわからせるからこその選択。
でも売れるためにバンドをやるのなら、ロックンロールという音楽は選ばないだろう。それでもまだ20代前半の4人の若い男たちは、あらゆる選択肢の中からロックンロールを選んだ。そしてその男たちはロックンロールを鳴らすための資質を持っていた。そんな男たちがロックンロールを選んだことに本当に感謝したいし、それだけでもこのバンドに賭けるには充分な理由になる。
未来はきっと俺らの手の中に。

1.極彩色の夜へ
2.THIS IS
3.LILY
4.ハイライト
5.群青色の記憶
6.太陽はまた昇り
7.RAIN
8.FENCE
9.mold Hi
10.SCARLET
11.KLAXON
12.PAPER PLANE
13.過ぎてしまった
14.街へ
15.POODLE
16.くだらない
17.ブラッドインブラッドアウト
18.革命を待つ
19.未来は俺らの手の中
20.ラスガノ