今や様々なアーティストが無料だったり、チケット制であったりと、リアルなライブができない状況の中でなんとか違う形であってもライブをしている姿を届けたいと配信ライブを行っている。
キュウソネコカミや忘れらんねえよのように配信だからこそのパフォーマンスや演出を取り入れるバンドもいれば、KANA-BOONのようにストレートに演奏を見せるバンドなど、確かに普段から見てきたライブとは違うけれど、バンドごとに様々な手法や戦い方があって面白いな、と思う中で、まさかのヤバイTシャツ屋さんもついに生配信ライブを開催。
とはいえタイトルからもわかるように、一切普通の配信ライブにする気がないのが実にヤバTのひねくれているところでもあり、また逆にそれはバンドとしてストレートなところでもある。
21時30分からという、普通のライブだったら遅すぎて10代の学生とかでは参加できないような時間にしたのは、平日であっても仕事や学校を終えた人が家に着いて画面を見ることができるであろう時間帯を選んだということだろう。
その21時30分になると、
「外しまーす」
というスタッフらしき人の声が聞こえるとともに、待機画面からスタジオを映す画面に切り替わると、メンバー3人は思いっきりスマホをいじっているという、エゴサ大好きなヤバTらしい光景。ツアーの楽屋でも普通にエゴサをしている姿が映像作品のドキュメンタリー映像に収録されていたが、他のバンドの配信ライブでメンバーがスマホをいじっている姿から始まるというのは見たことがない。
そのままこやまは今まさに配信が始まったことをスマホでツイートしようとし、全然カメラを見ないのだが、この時点ですでに2万5千人が視聴していたという。思えば去年まではワンマンはもちろん、フェスやイベントにも出まくっていただけに、毎月のようにヤバTのライブを見ていた。それが最後にCDJで見てから7ヶ月。今年初めてのヤバTのライブが夏の、しかも自宅から見る配信になろうとは去年までは一切想像もしてなかった。つまり、そんなヤバTのライブが見れなくて飢えていた顧客たち(ヤバTファンの総称)がみんなこの配信ライブを楽しみに待っていたのである。
こやま「マルチ商法みたいな感じで広めてください!」
しばた「口コミでええやろ!」
という2人のやり取りの愉快さも全く変わらないが、「低画質低音質」をライブタイトルにするくらいに押し出しているがゆえに、このライブは固定カメラ1台のみ、しかも音もそのマイクが拾うという、RO JACKとかにエントリーする時の映像を撮るアマチュアバンドみたいな手法で行われるライブであることを明かす。ある意味ではサークルバンドの頃に戻るかのような。
「ここ(自分の心臓部あたりに手を当てる)で聴いてもらって」
というしばたの名言チックなフォローをした後に「スクショタイム」と称して3人がカメラ前に集まってピースをしたり、もりもとが今話題の瑛人「香水」のMVのコンテンポラリーダンスを踊る人のモノマネをするなど、全然ライブが始まらないのだが、ヤバTは本当に5曲演奏するだけだと20分くらいで終わる(30分の持ち時間のフェスで10曲くらい詰め込む時すらある)くらいにライブのテンポが速いバンドなので、こうして喋っているのも配信のうちであり、見てくれている人たちへのサービスでもある。
ようやく3人が自身の立ち位置に着いてスタンバイすると、音出しをしてからこやまとしばたがマイクスタンドを離れてカメラに近づく。毛先に金髪が混じるしばたはダメージジーンズ着用という出で立ちで、こやまは自分でも言っていたが、少し顔が丸くなったように見える。服装はいつもの黒であるが、少し腹が着痩せで誤魔化せなくなってきているような気もしなくもないが、本人も言う通りにライブが元どおりにできるようになれば体型も戻るのだろう。年間100本を平気で超えるくらいにライブをしてきたバンドだから。
1曲目にして久々のヤバTのライブのオープニングはやはり「あつまれ!パーティーピーポー」。しばたは
「えっびっばーっでぃっ!」
の普段は観客が叫ぶフレーズでカメラに近づいて耳に手を当てる。画面の向こうで叫んでいるであろう顧客たちの声を聞くかのように。
ライブではヤバTは曲のテンポが速くなることが多いし、決められた時間内で少しでもたくさん曲をやるためにあえてテンポを上げることもあるのだが、やはり久々のライブだからか無意識であったとしてもテンポは速くなっている。気持ちが先へ先へ、前へ前へと進んでいるライブバンドとしてのリアルを音が物語っている。
最後のサビ前の
「えっびっばーっでぃっ!」
では3人全員が耳に手を当てて顧客たちの声を聞こうとするのだが、どんなに壁が薄い部屋の中で見ていたとしてもこれは絶対に叫んでしまうし、同じ時間に何万人もそうして過ごしている人がいるということがわかるのが実に嬉しい。
しばたがイントロで手拍子をする「Tank-top of the world」は
「鍛えた俺を見てくれ」
というフレーズがこやまの少し丸くなった顔を見るたびにシュールに聞こえる。
「GO TO RIZAP!」
のコーラス部分でこやまが
「声が小さいー!」
と言うと、画面内でコーラスを担っていたしばたの声量がさらに大きくなる(しばたじゃなくて視聴者に向けてのセリフであるが)のだが、しばたのハイトーンボイスがマイクの音割れをよく誘発するので、タイトル通りの低音質であることがわかるが、ライブハウスでのライブを録画して編集したりすることなく聴くとこういう音質なのかもしれない。そう思うとなんの編集もアレンジもされていないこの音質はヤバTというライブハウスで生きるバンドのリアルなサウンドとも言える。
さらにテンポ良く「かわE」へ。「オイ!オイ!」とイントロからメンバーが煽る中、こやまとしばたがサビでネックを左右に振る仕草はまさにかわE超えてかわFやんけ、である。
しばたは最後のサビ前の「やんけ」を観客が叫ぶパートでも耳に手を当てて声を聞こうとしていたが、フレンズのひろせひろせもツイートしていたように、なんでスタジオで3人が演奏している姿を見るだけでこんなに感動してしまうのだろうか。
それはヤバTが演奏している姿や音にはライブハウスバンドとしてのロマンや楽しさ、そしてメンバーのキャラクターから来る人間性や熱量をどうしたって感じられるからであり、それがヤバTをただの面白い曲を作る面白い人たちのバンドではなく、熱いロックバンドにしてパンクバンドの最新系たらしめてきたわけだが、画面越しに見ていても、これまでに何度となく見てきては熱狂したり感動したりしてきた、ヤバTのライブの景色が頭の中に蘇ってくる。この日の配信ライブが画面越しであっても感動的だったのは、きっと自分自身が早くまたその景色を見れる日に戻りたいと思っているからだ。
すると5曲一気に駆け抜けるのではなくて、ここでMCタイム。時間は21:55くらいということで、本来ならば22時ちょうどに解禁になる情報をフライング告知。
それは9月30日に待望の4thアルバム「You need tank-top」がリリースされるという嬉しいニュースで、新曲9曲と先行曲4曲の13曲入りというボリュームに加え、昨年6月のサンリオピューロランドでの記念碑的なワンマンを様々な権利の壁を乗り越えて初回盤DVDに付属、さらには24時間以内に予約すると、メンバー3人の直筆サイン入りアナザージャケットまでもがついてきて4000円しないという衝撃の価格と内容。
この後も何回も「CDを実際に手に取って欲しい」とこやまは口にしていたが、それは単に利益だけの話ではない。ヤバTのメンバー自身がCD世代として、CDを手に取ることで様々なバンドのことをより深く知ったり好きになったりという経験があるからで、ヤバTのCDの毎回の用語解説なども含めて、自分たちのCDも実際に手に取ってもらえたらもっと自分たちが曲や盤に込めた想いを伝えることができるとわかっているからだ。確かにヤバTはこうした売り方、情報解禁の仕方がめちゃくちゃ上手いバンドであるし、実にクレバーな思考を持っているけれど、100%それだけで動いているんじゃなくて、そこに感情がしっかり入り込んでいるのを毎回感じる。
自分は2018年に出されたヤバTの2枚のアルバムをどちらも年間TOP10に入れた(2ndは年間2位)のだが、それもやはりCDを実際に買うことによってアルバム自体の魅力をより味わえたという部分は間違いなくある。
その2枚のリリース時のスピードからはかなり期間が空いたが、それはきっとこれまでよりもじっくりと曲に向き合って制作したからなのだろう。こやまの口にするアルバムへの言葉はこれまでで1番自信に満ちているように感じる。
その4thアルバムにも収録される、CM曲としてヤバTの存在をさらに知らしめた「癒着☆NIGHT」は手拍子だけでなく、しばたが自身の頭をパンパンと叩くのが可愛いが、ラストサビでもりもとがシンバルを連打すると音割れによって低音質であることに気づかされるし、しばたのボーカル同様に、低音質の時にどんな音が鳴ると音が割れるのかという音質についての勉強にもなるような気さえしてくる。
そして5曲だけのライブということで、あっという間のラストはこやまの泣きのギターが炸裂する「ハッピーウエディング前ソング」。久しぶりに大きな声を出して歌うという状況であっても、こやまとしばたのツインボーカルのコンビネーションは全く揺らぐことはない。(ギターの音を少し外した感じのこやまは少し笑っていたが)
しばたは最後には叫ぶように、でも満面の笑みを浮かべて歌う。今となってはテレビなどでもヤバTの姿を見れるようになっているけれど、やはりメンバーたちはライブをやっている時が1番楽しそうに見える。そしてその楽しそうにライブをする姿は我々のことも楽しくしてくれる。だからこそこやまは最後に
「はやくライブができますように!」
と叫んだ。それは心からの思いの叫びと言ってもいいものだった。
「めっちゃ嬉しい。なんかポカポカしてる」
と5曲だけとは思えない充実感を感じさせながら、まだ終わらずにさらにアルバムのことについて話すメンバーたち。
マネージャーからも、
「アルバムの後半にまだこんな引き出し持ってんの!?」
とびっくりしたらしいが、ずっと1番近くで見てきた人ですらそこまで驚くというのは、いったいどんな曲が入っているのだろうか。ヤバTは基本的にバンドサウンドであるということは外さないだけに、その枠内で驚愕するような曲というものが果たしてどんなものなのか想像もできない。すでに何回も驚かされているというのに。
すると5曲だけと言っていたにもかかわらず、まさかのアンコールに。3人がドラムセットの前に集まって話してから演奏されたのは、ライブでは大合唱が起こる最後のサビ前のパートをあえてメンバーが歌わないことによって、画面の向こうで見ている我々が大きな声で歌える「無線LANばり便利」。
きっとまさに無線LANでこのライブを見ていた人も多いだろうし、YouTubeでの生配信ということで、県境だけでなくまさに国境すら超えて見ていた人もいたかもしれないこのライブの最後にこの曲を選んだというのは考えすぎなのだろうか。
演奏が終わると3人は「ずっと手を振る」と配信が終わるまでずっと手を振り続けていたが、意外にもなかなか終わらずにかなり長い時間振り続けることになって、別れの場面でバスや電車から手を振ったのになかなか出発しない、みたいな少し切ない感じになっていた。
気付いたらツイッターのトレンド1位、6万人もの人がこの配信を見ていたらしい。6万人ともなると観客数にしたらスタジアムクラスであるが、かつて
「デカいとこでやるよりもZeppで5daysとかやれるバンドでいたい」
と言っていたバンドであるだけに、そうした場所ではよほどの理由がない限りはやらないだろう。(メンバーが愛するサンリオピューロランドみたいに)
でも自分はヤバTのライブに数えきれないくらいに行ってはそのことについてツイートしたりしまくってきたからか、ヤバTが好きなフォロワーさんがたくさんいる。だからTLがヤバTで埋め尽くされていた。ライブが見れない期間は長かったけれど、だからこそみんなが本当に待っていたんだよな、ということが伝わってきて、それだけでなんだか感動してしまっていた。
冒頭でヤバTが配信ライブをやることを「まさかの」と書いたが、それはヤバTが無観客の配信ライブをやるようなバンドだとは思っていなかったからである。
それはヤバTのライブのスタイルが観客と楽しみあって互いに熱くなることによって相乗効果的にライブそのものが良くなり、客席もより楽しくなっていくというものであるということ以上に、ずっとライブキッズのままであるヤバTのメンバーは、映像作品こそリリースしていてもそれはあくまでライブの追体験であり、配信ライブは通常のライブとは絶対に違うものであるということを絶対的に理解しているバンドだからである。
だからこそ、普段のライブに近づけるために配信のクオリティを上げたりするのではなくて、普段のライブとは違うということをより明確にして、違うものとして見せるために低画質、低音質という通常の流れとは真逆の方法論を取っているのである。
5曲しかやらないワンマンというのも、ライブハウスのワンマンでは30曲近くやる、しかもライブのたびにセトリをガラッと変えるというライブハウスバンドとしてのスタイルとは全く違うものにするための方法論の一つ。
普段のライブとは全く違う配信ライブをやることによって、より一層ヤバTというバンドがどれだけ普段のライブハウスやフェス会場でのライブを大切に思っているかが伝わってくる。簡素なライブのようでいて、強い意志を貫き通すことを示した、バンドのスタンスを示すために考え抜かれたライブだった。
そういうバンドだからこそ、また少しでも早くライブハウスやフェス会場で見れるように。本当なら3月には志摩スペイン村のワンマンに行って、今まで行ったことがない、行く機会がないような場所にヤバTのライブで連れて行ってもらうはずだったんだから。
1.あつまれ!パーティーピーポー
2.Tank-top of the world
3.かわE
4.癒着☆NIGHT
5.ハッピーウエディング前ソング
encore
6.無線LANばり便利
文 ソノダマン