[Alexandros] presents 「THIS SUMMER FESTIVAL 2020」day1 Zepp Haneda 2020.8.14 [ALEXANDROS], [Champagne]
まだ自粛ムードが強かった6月にStay Homeのためのアルバム「Bedroom Joule」を提げた配信ライブを行った、[Alexandros]。
結局そのライブも前半は「Bedroom Joule」をメインとしながらも、後半は通常の形態での熱いライブを披露し、生で音を鳴らすことを待ちわびていたが、元々はツアーの一部として日程が組まれていたこの8月という夏に、実に6年ぶりとなる主催フェス「THIS SUMMER FESTIVAL」を待望の有観客&配信ライブとして開催。
かつてはアルカラやNothing’s Carved In Stoneなどのバンドを迎えて開催されていた、日本一遅い夏フェスとも称していたこのフェスであるが、今回はなんと[Alexandros]と[Champagne]との対バンという形での開催。どんなライブになるのか全く想像ができないが、夏フェスがことごとく中止や延期になっている中でこうして観客が見れる形でライブを開催してくれるというのはこれ以降のフェスやイベントの一つの指針や希望になっていくはずだ。
キャパに対して動員数を減らして500人ほどにしたために15000円という巨大夏フェスの1日券並か、それ以上に高いかもしれないというチケット代でもチケットは当たり前のように即完して抽選に外れたので配信を視聴するという形での参加になったのだが、開演の19時前から画面にはZepp Hanedaの客席が映し出される。
[Alexandros]のライブハウスでのライブで全席指定席というのはもしかしたら今回限りになるかもしれないが、その座席に座る、バンドのTシャツやタオルを見に纏った人の姿がアップで映し出されると、こうしてバンドのグッズを身につけてライブ会場に来るということも本当に久しぶりという人ばかりなはずだよな、と思う。
5分押しくらいで場内が暗転すると、流れ出したのは「Onion Killing Party」。タマネギが食べられない某メンバーのことを歌った曲であるが、ステージに現れたのはそのメンバーであり、昨年のさいたまスーパーアリーナのワンマンをもってジストニアの休養に入り、バンド勇退が発表されたものの、このコロナ禍によって最後のライブをやることができず、未だに在籍し続けている、ドラマーのサトヤス。
「胃が痛い。どんズベル可能性がある、というか確定している。みなさんが発声ができないから。ボディーランゲージでいいから心の声を届けて欲しい」
「ピンスポットが当たると007のジェームズ・ボンドみたいな気分。メンバーでありながらも最強の[Alexandros]リスナーの1人である俺よりも楽しめるか!?今日は全員集合と言いながらも、先代ドラマーである石川さんはズル休みしていて来ていません」
と、バンドの一線からは退いても相変わらずの伊達男っぷりをそのトークでもって示すと、
「冥界魔符よりこのバンドが戻ってまいりました!」
という実にサトヤスらしい言葉に導かれるようにステージ背面のスクリーンに映像が映し出され、先攻の[Champagne]が登場…と思ったら、スクリーンには[Champe]と映し出されている。これは改名時のゴタゴタを避けるための処理であるだろうが、全席指定&発声禁止というルールを知らされていないかのように、川上洋平(ボーカル&ギター)と磯部寛之(ベース)は登場から煽りまくる。
そのメンバーの出で立ちもどこか[Champagne]名義時代に回帰したかのようなものであり、川上はジャケット着用。登場SEの「Burger Queen」をそのままバンド演奏に引き継ぐという[Champagne]時代からおなじみのオープニングであるが、どこかストレートというよりもシンプルな印象を受けるのは、髪をちょんまげみたいに結いているサポートドラマー・リアドのドラムによるものだろうか。[Champagne]名義だからサトヤスがドラムを叩くんじゃないかと思ったりもしたが、さすがにそれはなし。というよりもリアドも[Champagne]時代から対バンを何度となくしており、当時2マンツアーも行っているだけに、当時から叩いてはいないとはいえ、[Champagne]時代を知っているドラマーである。
続いては「For Freedom」と、[Champagne]名義時代に発表した曲、なんならまだドラマーがサトヤスではなく石川だった頃の曲が続く。観客は声を出せない代わりにイントロから手拍子をし、スクリーンにはアナログテレビの画面越しに見ているかのような映像が流れる。
間奏で川上が、
「行けー!白井眞輝!」
と叫ぶと白井のギターソロが炸裂。コロナ禍という状況の遠慮は演奏中に関しては一切ない。完全にステージ上は普段のライブと変わらない。それはアウトロでの磯部の
「行くぞ東京ー!」
という煽りも含めて。この部分はこの日は配信もあっただけに、なんと叫ぶかギリギリまで迷っていたらしいが。
リアドのドラムのイントロに川上のアコギが重なる「Waitress, Waitress!」では磯部が
「おらもっと行けんだろー!」
と声が出せない観客をさらに煽り、川上も
「オイ!オイ!」
と煽りまくる。こうした声を出させるような煽りの場面に限っては、気にせずに声を出せる配信という形での参加で良かったかもしれない。現地でライブを見ていたら、今までと同じように煽られるがままに声を出していてしまっただろうから。
それはこの曲が好きだからこそだからであるが、ディスフェスという舞台で演奏されると、かつてこのフェスに出演したアルカラがカバーしたものの、稲村が英語歌詞を全然歌えなかったという場面を思い出す。なかなかこのバンドの英語歌詞は英語が普通に喋れる人の発音じゃないと厳しいだろう。
リアドのリズミカルなドラムのイントロから始まるというライブならではのアレンジで繋いだのは、早くも演奏された「Starrrrrr」。思えばミュージックステーションにも[Champagne]としてこの曲リリース時に初めて出演して大きな反響を呼んだ。
川上は普通のライブ同様にサビで観客に歌声を煽り、
「聞こえてるぞお前らー!」
と観客の心の声、さらには配信で見ている人たちが歌う声が確かに届いていることを叫ぶ。
普段この曲ではラスサビは観客に大合唱させるという、大きな会場でたくさんの人がいることによって真価を発揮するというこのバンドらしさの象徴的な曲であるが、そうした普段なら観客が歌う部分もこの日は川上がメインで歌う。それはやはり観客が声を出さないからであるが、
「light up all the star yeah」
という曲最後のフレーズをまたたくさんの観客がみんなで大合唱できる日はいつになったら訪れるのだろうか。NHK「シブヤノオト」出演時にこの曲を演奏した時にもそう思ったが、こうしてライブで演奏しているのを見ていると、それを絶対に諦めたくないと思う。
「改めまして[Champe]です。招待いただきました[Alexandros]、ありがとうございます!」
と川上は[Champe]と[Alexandros]が別バンドであることを主張しながらも、
「無反応だから全部スベってるような感じがする」
と、サトヤスが言っていたのと同じことを感じているようだ。
MC中にはスクリーンにかつての[Champagne]のロゴが映し出されているのだが、その下部分に表示されているはずのバンド名部分にはモザイクがかけられており、[Champagne]という名前を今使うのがどれだけめんどくさいことになるのかということを感じさせる。
2014年の武道館での改名ライブにて、川上がポーズを取り、サトヤスが深々と頭を下げて別れを告げたこのロゴをこうしてまたライブという場で見ることができるなんて全く思っていなかっただけに感慨深いものがあったが。
ちなみにこの[Champagne]でのライブ時はアンプなどの機材も当時のものを使っており、サポートキーボーディストのROSEがハットを被って演奏しているのを含め、メンバーの衣装もやはり当時のものになっている。
「9割は[Alexandros]のお客さんなんじゃないかと思ってたけど、我々のグッズをつけている人もいて安心した」
と川上が言うと、実際に[Champagne]時代のタオルを持っている観客が映し出される。メルカリで買った可能性も…と川上は言っていたが、昨年のさいたまスーパーアリーナでのライブ時にも[Champagne]時代のタオルを持った人が映し出されたりしていただけに、これは当時のライブで買ってからずっと大事にしてきたものであろう。[Champagne]時代のグッズを[Alexandros]のライブに持ってきても全く違和感はないけれど、それでも[Champagne]のグッズを[Champagne]のライブで身につけることができる日がまた来るなんて想像もできなかったことがまさにこの日は起こっていた。
そんな[Champagne]時代の名曲の一つである「Kids」はリアドのドラムが疾走感をより強く感じさせるものになっており、だからこそサビでの川上の畳み掛けるような早口英語歌詞ボーカルにもよりスピード感を感じる。
この「Kids」収録のアルバム「Schwarzenegger」はこのバンドのディスコグラフィーの中で個人的に最も好きなアルバムであるのだが、そのアルバムの評価を決定づける曲の一つであるこの曲をこうして今でも聴けるというのは本当に嬉しいことだし、この対バンという企画に感謝したくなる。
白井は武道館のステージに立つまでは喋らないという、初武道館の前まで貫いていた美学によって喋らなかったので、この[Champe]はまだ武道館に立っていない頃という設定なのだろうけれど、方や磯部は
「職業や住んでる場所によってはこういうところに来るのが難しい人もいる。でもライブができて本当に嬉しい」
と、ライブを観に行きたくても足を運ぶことができない配信で見ているであろう人たちへの配慮を口にする。そういう人も実際にたくさんいただろうし、その人たちはこうしてメンバーが自分たちの状況をわかっていて、ちゃんと言葉にしてくれるというのは本当にありがたかったはずだ。
歓声が出せないなら思いっきり強く拍手を、ということで川上の
「行けるかー!」
という強い煽りの後には手が痛くなりそうなくらいの大きな拍手の音に会場が包まれ、その拍手を受けてのセッション的なイントロから始まったのは「Kill Me If You Can」。白井のワウを噛ませた空間系のギターアレンジが[Champagne]の再現としての演奏ではなく、今の進化した形での演奏になっている。
スクリーンには「KILL」の文字が映し出されていたが、この曲も「Kids」同様に「Schwarzenegger」に収録され、その後にシングルカットされるという形で再リリースされただけに、メンバーの思い入れや押す気持ちも強い曲なはず。
そのシングルカット盤に収録された「Waterdrop」や後にフェスで共演することになるPrimal Screamの爆裂カバー「Accelerator」が今となってはなかなか手に入らずに聴きづらくなっているという話を聞くたびに、リリース時にCDショップに予約しに行ったら店員がバンド名を知らなかったという思い出が蘇る。さすがにあの店員も今は[Alexandros]の存在を知ってくれていると思うけれど。
川上が歌い終わった後にピースサインを突き出したのを見て、そうした様々な思い出や思い入れが頭の中を去来していた。
リアドのドラムから川上がギターのイントロを鳴らすだけで大きな拍手が起こったのは「city」。背景の映像と照明が曲中に昼から夜に変わっていくという街の風景を描き出す中、最後の
「ここはどこですか?」
のフレーズを川上は最初だけ歌わなかった。それは普段から観客が大きな声で叫ぶことが決まっている部分だから。もちろんそのフレーズはこの日は無音になってしまったけれど、現地にいた人も配信を見ていた人もきっと頭の中ではそのフレーズが大きな声で響いていたはず。これまでに数え切れないくらいにその場面を見てきて、脳内に焼き付いているから。ライブでそのフレーズを叫ぶことが、自分たちが今このライブ会場に確かにいるという存在証明そのものだったのだ。
「爽やかな曲やります!」
と川上が言うとその言葉通りに涼しげな風が吹き抜けるようなサウンドが…と思いきや一気に激しいサウンドに展開する、全く激しくない曲というおなじみの「Don’t Fuck With Yoohei Kawakami」へ。爽やかどころか、川上のアップになったギターを弾く際の手の動きはどこかモザイクを入れるべきなように感じてしまうのは自分だけだろうか。
磯部も寄ってきたカメラを真っ直ぐに見ながら配信を見ている人たちへアピールし、白井は白井タイムとも呼ばれるメタラー魂炸裂の長尺ギターソロへ。しかし口を開かないというあたりは[Champagne]当時の白井らしさを全うしている。
そんなクライマックス感を感じさせながらも、
「終わると思ったでしょ?あと1曲やります!今日は[Alexandros]さんを目当てに来たんでしょうけど、次は武道館でやりたいですね。それから幕張メッセやZOZOマリンスタジアムとかでも」
と、後に[Champagne]が名前を変えてから辿っていく会場の名前を挙げていったのは、自分たちが様々な困難や苦難に見舞われながらもそこに立ってきたという自信を感じさせたし、最後に演奏された、
「I’m gonna be a star
Yeah I know I’m gonna be the one」
という、こうしてスターになる前の心境を綴った歌詞の「Untitled」は野心や向上心を強く感じさせた、この日最もメンバーが[Champagne]として演奏しているようだった。
結果的に[Champagne]時代に生み出した曲を演奏し続け、[Champagne]として蘇りながらも今だからこそのアレンジをふんだんに取り入れるというただの回顧にはならないライブを見せたメンバーたちは
「ありがとうございました!またお会いしましょう!」
と言ってステージを去っていった。その言葉はまた冥界魔符からこのバンドが復活してこうしたセットリストのライブをやってくれるんじゃないかという期待を抱かざるを得ないものだった。
1.Burger Queen
2.For Freedom
3.Waitress, Waitress!
4.Starrrrrrr
5.Kids
6.Kill Me If You Can
7.city
8.Don’t Fuck With Yoohei Kawakami
9.Untitled
対バン形式ということで当然のように転換時間が設けられているのだが、そこには空気の入れ替えというこの状況下だからこその意図もあったはず。観客にも配慮した、ワンマンではなく対バンという形式だったのだろうか。
転換時間の後には再びMCのサトヤスがステージに登場するのだが、テンションが上がりきっているのか、ステージを一度通り過ぎて行ってしまいながらも、
「真夏の夜の夢という感じですよね〜」
と[Champagne]のライブを詩的に例えながら、
「ここ、Zepp Hanedaが観客を入れてライブをやるのは今日が初めてなんですよ。最初に観客の前に立ったのが俺という申し訳なさ(笑)
最初にライブやったバンドは[Champagne]」
と、図らずもこの日のライブがZepp Hanedaの柿落としになった記念すべき日であることを発表すると、
「武道館の時に「Kiss The Damage」演奏してる時以来のピンスポット浴びてますけど、やっぱり「何も見えない」としか言えない(笑)」
とステージでピンスポットを当てられている感覚を口にする。
まだ正式に卒業こそしていないが、こうしてサトヤスがステージに立つというか、表舞台に出ることも、ファンにはおなじみの映像作品の副音声でライブと全く関係ない豆知識を軽快に語りまくるのを耳にすることもこれから先はきっとなくなってしまう。そう考えるとこのMCで喋っている姿や時間が実に愛おしく感じられてしまう。
そんな中でサトヤスの呼び込みで後攻の[Alexandros]が登場。服装も近年のラフな感じ(川上の白いビッグTシャツは特に)になり、完全に[Champe]から[Alexandros]に変化している。
SEの「Burger Queen」をそのまま演奏するというオープニングの流れは全く同じであるが、機材が今のものに変わっている影響か、[Champe]の時とは変わって近年のライブで聴き慣れたサウンドになっている。同じ曲を同じメンバーが演奏してもそうして変化しているのがわかるのが実に面白い。
スクリーンには配信を見ている人のコメントが映し出される(ものすごい速さで流れていくから全然見えないけど)中で川上がステージを左右に歩き回りながら歌う「Adventure」では
「亜麻色に染まったZepp Haneda」
と歌詞を変えて歌い、おなじみの大合唱が起こるコーラス部分でスクリーンに向かって
「声聞かせてくれ!」
と、声が出せない代わりにコメントという形でコーラスをすることを促す。こうして川上がハンドマイクで動き回りながら歌うというのも[Alexandros]になってから増えてきたパフォーマンスであるということが改めてわかる。
「最高の夏フェスにしようぜ!」
と川上が言うと、セッション的なイントロから、これまでに何度となくライブでアレンジが変わってきた「Run Away」へ。リアドがドラムを叩くようになったことでそのアレンジの変化幅は若干落ち着いたようにも感じるが、きっとこれからもライブで演奏されるたびにこの曲は違う表情で違う景色を見せてくれるんだろうな、と思う。
実際に普段はタイトルフレーズ部分を観客が川上と一緒に叫ぶのがおなじみになっているのだが、この日はそれができない。それでも川上は
「声出せなくてもこんなに盛り上がれるの最高!」
と、観客が声が出せなくても盛り上がっているのがわかっているから、バンドの演奏のテンションもさらに高くなる。やはり演奏している目の前に観客がいてくれるというのがどれだけバンドにとって大きな力になるのかというのが川上の言葉とバンドの演奏から伝わってくる。
スクリーンには美しい満月の映像が映し出されたのはタイトル通りに月の美しさを歌った「ムーンソング」。その月の美しさに負けないくらいに川上のファルセットボーカルも美しいが、配信ライブもやっていたとはいえ、ライブがないこの期間中もストイックに練習して自身の最大の武器である歌を研ぎ澄ませていたであろうことがよくわかる。
「ラーラララー」のコーラスで川上は耳に手を当てて心の中でのコーラスを煽るが、観客のコーラスがないだけにメンバーがコーラスをしているのがよく映えるし、リアドもコーラスに参加しているというのもはっきりとわかる。
「もう1曲、月の曲やってもいいですか!」
と言って続けて演奏された「月色ホライズン」はこれぞ夏の野外で聴きたい爽やかさ。しかし今年はそれは叶うことがない。川上は間奏部分で急いでコメントを読み上げていたが、今年も各地のフェスの大きなステージで満員の観客がこのバンドの曲を歌う景色が見たかったと思うし、ロッキンなどで川上がカメラに密着して歌ってそのカメラを客席に向けさせるというロックスター的なパフォーマンスを見たかった。毎年その景色を見ては、夏フェスの大きなステージに立つこのバンドの姿を見れて良かったと思って夏を過ごしてきただけに。
磯部「[Champe]が温めてくれたからね。あのバンドは伸びるよ」
川上「あのバンドはこれからいろんなことが起きそうな気がする。気合いと根性はありそうだけど、運はなさそう(笑)」
と、自分たちが[Champagne]時代に辿ってきた道がどれだけ大変なことだったかを客観的に感じさせるコメントをすると、[Alexandros]でのライブでは普通に喋ることができる白井は、
「喋りで笑わせたり盛り上げたりするのは難しい。オープニングMCの彼は才能あると思う」
と、高校の先輩と後輩という、他のメンバーとは少し違う間柄である(だから白井はずっと「庄村」と名字で呼んでいた)サトヤスについて口にした。きっとそれは今もサトヤスがステージでドラムを叩いていたら恥ずかしくて口にできなかったと思う。でも1番昔からサトヤスのことを知っている白井だからこそ、サトヤスの凄さも1番知っていると言える。サトヤスもそう言ってもらえて嬉しかったと思う。
川上がツイッターのトレンドに「#おーおーおー」を入れたい、と言うと、
「#おーおーおーをコメントするまで始めねーぞ!」
と配信を見ている人たちを煽り、その間も白井と磯部はマイクを通さずにそのコーラスを口にする。これまでにもライブで大合唱を巻き起こしてきた「Dracula La」だ。
もしかしたら客席にいた人も我慢できずに歌っていたんじゃないかと思ってしまうし、配信で見ていた人たちは間違いなく歌っていたであろう。だからか全然普段とは違う形でも寂しく感じなかったし、
「不安を取り除いてくれ、リアド!」
と川上が歌詞を変えた瞬間に手数を一気に増やしたリアドのドラムが、サトヤスが居なくなってしまった不安をも取り除いてくれるかのような力強さを見せてくれた。
警報音のイントロとともに真っ赤な照明がメンバーを照らす「Girl A」ではステージに歌詞が映し出される。これでもかというくらいに[Alexandros]のベスト盤のリリースライブ的な代表曲の連発っぷりである。
そしてそのサウンドは「Mosquito Bite」のリフでさらにロックさを強めていく。スタジアムを制圧するための強さを持ったリフがライブハウスを飲み込んでいく。個人的には近年のドロスの曲の中で最もライブで化けたと思っている曲だ。
間奏の激しいギターの応酬を終えた川上と白井はソーシャルディスタンスを保ってエアーグータッチをすると、勇壮なコーラス部分では
「声を出せる楽しみを忘れずに、またいつか出せる日を!」
と川上が口にする。これまでに数え切れないくらいに見てきて、数え切れないくらいに歌ってきたドロスとシャンペのライブ。その楽しさを忘れることは絶対にない。仮にもしこのまま声が出せないライブしか出来なくなってしまったとしても。でも忘れることはないからこそ、またあの楽しさを味わいたいのだ。
ドロスはバンドが演奏するだけで全てを持っていくことができるくらいのライブ力を持ったバンドだけども、観客の声がいかにそれを増幅してきたのか、それによって我々が様々な現実から解放されてきたのか、ということが改めてわかるようなライブだった。曲終わりでカメラに向かってポーズを取った川上の表情は、希望を全く失っていないように見えた。それが我々ファンにも希望を与えてくれる。
メンバーがステージから去ると、アンコールを待つ場内に「Burger Queen」とは全く違う、幻想的なBGMが流れてこの日のライブTシャツを着たメンバーが再登場。それはまるでライブの第三部の始まりのようですらあり、実際に「Bedroom ver.」としてROSEのキーボードがグロッケンのようなサウンドを奏でる「Thunder」はやはりそれまでとは全く空気が違う。「Bedroom Joule」のアレンジはこうして通常のライブにおいても演奏されるものになるということがわかったし、実に良いギアチェンジを担うことになる。
「[Champe]のおかげ、スタッフのおかげ、MCのおかげ、見てくれてる人のおかげで最高の夏フェスになった」
と川上が感謝を告げると、
「色々な声もいただきましたが、我々のファンなら大丈夫だろうと思った。10年色々あったけれど、ファンだけには恵まれたのかなと」
と、このライブを有観客でやることへの迷いがあったこと、その迷いを振り払ったのがファンの存在だったことを語った。
シャンペとしてデビューしてからずっと見てきたが、[Alexandros]のファンがマナーが悪かったりとか、フェスなどで悪目立ちするようなことを聞いたことは全くない。スタジアムやアリーナまで行くにつれてファンの絶対数が増えるし、いろんな人がその中に入ってくる。得てしてそうなると軋轢が生まれることが多いし、そのクラスになってそういうことが起こったのを何度も見てきた。
でもドロスはそうしたファン同士のいざこざみたいなものとは(自分が知り得る限りでは)無縁でやってこれた。それは奇跡的と言っていいとすら思えるし、バンドがあまりにもカッコ良すぎるからこそ、ファンは絶対に自分たちの立ち振る舞いでバンドのカッコ良さに傷をつけてはいけない、という意識を持ってこのバンドのことを見てきてついてきたんじゃないかと思う。
そうしたファンの意識をメンバーもちゃんとわかっていて、それを口に出してくれる。俺たちが最高で最強、だからそれだけで良いというメンタリティを持って突き進んできたバンドは、実はそれだけじゃなかった。自分たちの力だけでは手に入れることができないものを持っていることをわかっていたのだ。
「新しい時代とか新しい世界とか言われますけど、生の音がなくなったらバイトしなくちゃいけない。その覚悟は我々持っているけど、取り戻したいものがある。みんなも取り戻すのに力を貸して欲しい」
という川上の言葉もそうだ。ファンのことを心から信頼できているからこそ、そうして力を貸して欲しいと素直に言える。配信ライブだけになってしまったり、今までとは違う形だけのライブになってしまったら、失われてしまうものがあるのをわかっているから。新しい楽しさとかもあるのかもしれないけど、ドロスは今までのライブの持つ楽しさや力を信じているからこそ、アマチュア時代から路上でライブをしたりと、ひたすらにライブをやりまくることによって生きてきた。そんなバンドだからこその説得力が確かにあった。
「ライブハウスのために」って言うようなタイプのバンドではないけれど、このバンドの意識や意志こそが回り回ってライブハウスやライブで生きる人たちのためのものになっていく。何度となくライブを見てはこのバンドへの想いが強くなってきたが、配信だとしてもその想いはこれまでよりもさらに強くなった。
そして「Bedroom Joule」に収録された新曲「rooftop」も披露するという盛り沢山っぷりなのだが、リモートで作られたアルバムの曲であるだけに、
「画面越しでじゃれあう」
という配信で見ているからこそ響くフレーズもあるのだけれど、
「また会えるように」
というフレーズにこそこの曲を作ったバンドの想いが全て込められている。そのフレーズの演奏中に客席が映されると、タオルを顔に当てて泣いている人がいた。自分も実際に会場にいたらそうなっていただろうな、と思う。その人はコロナが世の中を覆ってからどんな生活をしてきたんだろうか。どれくらいぶりにこうしてライブハウスでライブを観れていたんだろうか。顔を覆うことなく、バンドが演奏する姿を笑顔で見ることができる日が少しでも早く訪れるように。
これで終わりかと思うくらいの感動に包まれる中で鳴らされるギターのアルペジオ。それは「ワタリドリ」のきらめくようなイントロ。音に合わせて飛び跳ねまくる観客たち。声は出せなくても、その姿を見ているだけで涙が出そうだった。ライブハウスで演奏されている曲に合わせて観客が飛び跳ねる。そんな当たり前だったけれど見れなくなってしまった光景が久しぶりに観れている。最後のサビで川上が客席にマイクを向ける。今までにこの曲が生み出してきた景色と変わらないように。そして
「いつかまた会う日まで」
という最後のフレーズ。自粛期間中に作られた「rooftop」とは全く違う意味合いと時期に作られたこの曲で全く同じことが歌われている。でもこの曲のこのフレーズはいつでも希望に満ち溢れている。「会えないから会いたい」んじゃなくて「絶対にまた会える」という希望。いつしかドロス最大の代表曲になっていたこの曲は、そうなるにふさわしいメッセージを持っていたのだった。
演奏が終わると川上がサトヤスを呼び込む。
「まだ在籍しております」
と言ってメンバーと並ぶと、
「明日は全裸か〜!?」
と自ら翌日のFC限定ライブでのMCのハードルを上げまくる。全裸になったら配信出来なくなってしまうけれど。
川上「もう改名はしたくない(笑)」
と[Champe]との対バンという形ならではの感想を語りながら、磯部は翌日のFC限定ライブのセトリをファン投票で決めていることについて、
「我々のCrewはまぁドSですね(笑)」
と普段やらないような曲ばかりになることを匂わせる。つまりはこの2daysは全く内容の違うライブになるということ。夏フェスがことごとく開催されない中で、リアルなライブを体感させてくれた、THIS SUMMER FESは、2020年の夏の1番強い思い出になるのかもしれない。
スタジアムやアリーナ規模のアーティストほど、今の状況ではライブをやれる目処が立たないと言える。それ以上大きな会場を探すのも、人数を減らして開催するのも実に難しいからだ。
でも紛れもなくスタジアム、アリーナクラスのバンドである[Alexandros]がこうしてライブをやれたことによって前に進められることは間違いなくある。ドロスが自分たちと自分たちのファンのために開催したこの2daysは、これからの音楽シーンのための大きな一歩になるのかもしれない。またドロスはきっとすぐにライブをやるはず。やれるということがちゃんとわかったから。その時には自分も、ワタリドリの様にいつか舞い戻りたい。ドロスがステージに立っているライブハウスに。
1.Burger Queen
2.Adventure
3.Run Away
4.ムーンソング
5.月色ホライズン
6.Dracula La
7.Girl A
8.Mosquito Bite
encore
9.Thunder -Bedroom ver.-
10.rooftop
11.ワタリドリ
文 ソノダマン