「太陽光の力でロックフェスを」という意志の元、THEATRE BROOKの佐藤タイジがオーガナイザーとして、岐阜県中津川市で毎年開催されている、中津川 THE SOLAR BUDOKAN。
当然ながら今年は例年のような形で開催することはできないため、リアルとオンラインでのハイブリッドフェスとして開催。その「リアル」サイドとして行われたのが、この日の中野サンプラザでの事前収録ライブ。「太陽光の力」で行われるために、サンプラザという名前のこの会場で行われるのは実に合点がいくところである。
場内に入る際のアルコール消毒や検温、さらにはチケット半券のもぎり部分に名前と電話番号を記入するという徹底したコロナ対策っぷりで、本来なら2200人キャパの会場は700人限定となっているために、基本的に席は一つずつ開け、場所によっては1列丸々空いているところもある。
開演時間の17時前には中津川のフェスでもおなじみのMC陣による諸注意を含めた前説のあと、おなじみの濃い顔に短パン&Tシャツという野外スタイルそのものの完全フェス仕様な出で立ちのオーガナイザー・佐藤タイジも登場。
ここで開会宣言をしてから、配信ライブとしては初日の9/26のトップバッターを務める自身のバンド、THEATRE BROOKの呼び込みをするという部分の収録をしてから(未来の自分たちを紹介するという実に珍しい形に)、最初のアーティストを呼び込む。ステージに配置された機材から、すでに誰がトップバッターなのかは一目でわかる。
・ストレイテナー
アンプやキーボードなど、ステージに設置された機材によってトップバッターはストレイテナーであるということがすぐにわかるが、今やフェスではベテランの域に入るストレイテナーもこの日の出演者になると1番若手であるがゆえに、トップバッターというのも納得である。
おなじみのSE「STNR Rock and Roll」が場内に流れ出すとメンバー4人がステージに登場。久しぶりの観客を前にしたライブということで、どこか緊張したような感じの面持ちであるが、鮮やかな青い髪色のナカヤマシンペイがドラムセットの上に立ち上がると、少しどういう形で見ればいいのだろうかこの情勢でのライブのスタンスに戸惑っていた観客たちも一斉に立ち上がる。
「俺たちストレイテナーって言います!」
とホリエアツシ(ボーカル&ギター)が挨拶してギターを鳴らし始めると、爽やかかつ瑞々しいサウンドが流れ出したのは「Melodic Storm」。いつものようにイントロで「オイ!オイ!」と声を上げることはできないけれど、観客が掲げる腕の一本一本が、ここにいる誰しもがこの瞬間を待ちわびていたことを感じさせるし、バンドも言葉にならない思いを音として奏でていく。OJこと大山純がサビに入る寸前に人差し指を高くかか掲げる姿が
「指先に触れる瞬間」
を確かに感じさせてくれる。
普段ならばアウトロのコーラスは観客も巻き込んでの大合唱となるのだが、客席では声を発することができないために響くのはホリエとシンペイの歌声だけ。それでもなんだか、もちろん歌ってはいないんだけど、大合唱しているような感じがしてくる。それはきっとこれまでに数え切れないくらいに見てきたライブでのこの曲が作り出してきた光景が自分の脳裏に焼き付いているからだ。だからこそホリエも
「心の中で歌ってくれてるのがしっかり届いてました」
と口にしていた。きっと誰しもがそれを感じていたはずだ。
「武道館でも中津川でもないけれど、このステージに立つのが初めてなんで、数々の伝説を生んできた中野サンプラザに立てて嬉しいです」
という意外にもバンドにとって初めての中野サンプラザでのライブであることが告げられたが、だからこそ
「中央線の曲ということで」
と言って演奏された「吉祥寺」は今までに聴いたどこよりも鮮明に
「よく通ってた映画館はもうなくなって」
という吉祥寺の駅前や
「公園には新しいカフェが増えて」
という井の頭公園などの景色が脳内に浮かんでくるし、
「永遠みたいに思えて実は一瞬のことで」
というフレーズは目の前でそれを口にしているのがダイレクトに耳に届くからこそ、去年の中津川でのライブなどの景色を思い返して寂しくなってしまう。きっとそれは画面越しではわからないような心や感情の揺さぶられ方だ。
ひなっちこと日向秀和のゴリゴリのベースと、シンペイの一打一打が実に力強い「DAY TO DAY」、ホリエがアコギに持ち替えて歌う「彩雲」、4月にリリースしたことによってこうしてライブで観客の前で演奏されるのは初めてとなった「Graffiti」と、バンドは先日、メジャー2ndアルバムの「TITLE」を再現した「TITLE COME BACK SHOW」を配信したが、やはりそうしたコンセプトを持たないライブとなると「今のストレイテナーが持つ全ての名曲」を集約したようなセトリになるし、「TITLE」は「記憶」をテーマにしているだけに歌詞としては抽象的な表現が多いのだが、
「彩雲の影がこのまま消えるまで」
という「彩雲」のフレーズに代表されるように、近年のテナーには聴いてすぐに脳内で情景や景色が描ける曲が多い。だからこそこのセトリを夏の野外フェスのステージで、中津川のあの会場で聴きたかったと強く思えるのだ。
それはホリエがキーボードを弾きながら歌う「Lightning」もそうであるが、Aメロの低音コーラスを歌っている姿を見ると、やはりOJの加入と存在はこのバンドにとって必然的なものであったのだと思えるし、こうして久しぶりにリアルなライブを見ることによって、ワンマンに比べたら持ち時間が短いイベントやフェスなどでもホリエがキーボード弾きながら歌う曲を1曲は入れてくるんだよな、ということを思い出す。それがこの曲であるというのは少し意外であったが。
打ち込みのサウンドが流れ、そこに重いバンドサウンドが乗っかっていく「Braver」は不安や葛藤があるであろうこの状況下でこうしてライブに来るという選択をした観客たちの勇気を称えているかのよう。配信ライブではスタジオで車座になっていたために動きが制限されていたOJもこの曲では心身ともに解放されたように広いステージを動き回り、頭を振りながらギターを弾く。
どっしりとしたサウンドがどこかベテランバンドとしての余裕を感じさせながらも、その曲の持つテーマが都市部からはかなり離れた中津川のフェスの雰囲気にマッチしているように感じる「A LONG WAY TO NOWHERE」ではホリエのボーカルのタイトル部分を歌う伸びやかさに驚かされる。
配信ライブでもそうだったが、きっと1月以降のライブができなかった期間でもいつライブができるようになってもこれまでと変わらぬどころか、ちゃんと進化しているということを見せるために努力を続けていたのだろう。それはじっくりと音に浸ることができるホールだからこそよりしっかり感じることができたのかもしれない。
ここまではせっかく配信で全曲演奏した「TITLE」の曲を全くやっていないので、これが2日連続でライブをやったらガラッとセトリを変えてくるストレイテナーらしさだよなぁとも思っていたのだが、ここで「TITLE」からの「REBIRTH」を演奏。
人気があることをわかっている「SAD AND BEAUTIFUL WORLD」でもなく「REMINDER」でもなくこの曲。それはこの曲の
「羽が折れても飛びつづけた
何をなくしても手に入れるよ
羽が折れても何をなくしても届けるよ」
というメッセージが、音楽を、ライブを諦めていないというバンドの姿勢そのものだから。それは「TITLE COME BACK SHOW」の配信時にも伝わってきたことであるが、メンバーの歌う姿、演奏する姿を目の前で直接見ていると、そこに込められた意志をより強く感じる。
そしてラストにホリエがギターを弾きながら歌い始めたのは今やバンド屈指の名曲となった「シーグラス」。間奏からの最後のサビの入りで声が出せない観客が手拍子をする。その音がバンドの音をさらに加速させる。ひなっちは感情が溢れたかのように一瞬、膝をステージにつけてベースを弾く。ホリエの歌う
「今年最後の海へ向かう
夕焼けが白いシャツを染める
二つの長い影を残して
夏が終わりを急いでる
今年最後の海へ向かう
汐風が赤い髪を梳かす
丸いガラスを光に透かして
次の言葉を探してる」
という歌詞が今年は見ることも感じることもできなかった、毎年このバンドのライブを見てきた、中津川を含む日本中のいろんな野外の会場の景色を呼び起こす。きっと今年はもうこの曲を野外で聴くことはできないだろう。でも来年になればきっと、また。そうして絶望ではなくてあくまで希望だけを感じさせてくれるのは、このバンドとメンバーが希望を持って音を鳴らしているのがわかるからだ。
演奏が終わるといつものように前に並んで肩を組んで一礼してからステージを去っていった4人。その表情はやり切ったというような笑顔だった。常に止まることなく走り続けてきたバンドが8ヶ月ぶりにようやく我々観客の前に戻ってきたのだ。もともと好きなバンドだったことに間違いはない。でも、なんだかこの期間を経て、より一層このバンドのことを好きになれたような。来年はまたいろんな海や、風を感じることができる場所でこのバンドに会えますように。
1.Melodic Storm
2.吉祥寺
3.DAY TO DAY
4.彩雲
5.Graffiti
6.Lightning
7.Braver
8.A LONG WAY TO NOWHERE
9.REBIRTH
10.シーグラス
転換中もアルコール消毒液を持ったスタッフが客席を回るという徹底した姿勢の中、ステージはアンプの多かったテナーに比べると、アコギが数本と椅子という簡素なセットになり、奥田民生が出てくるというのは間違いなくわかるのだが、その横には奥田民生が絶対使わないであろう大型のアンプも聳えている。
いつものようにワークシャツにサングラスという出で立ちの奥田民生がステージに現れると、椅子に座ってサンプラーを押して自らSEを流すというどこまでもDIYなオープニング。
アコギを手にして音を確かめるようにしながら「俺のギター」を歌い始めるのだが、途中でギターを少しばかりミスすると、
「これは俺のギター」
という歌詞を
「これは誰のミス?」
と変えて歌うというあまりにも流石過ぎるアドリブ力に思わず笑いが起こる。
しかしミスはあったとはいえ、やはり奥田民生はめちゃくちゃギターが上手い。アコギの弾き語りというともすれば眠くなっても仕方がないような形態なのだが、アコギ1本だけでグルーヴを生み出していく様はどんどん引き込まれていかずにはいられない。テーブルには各種アルコール飲料も置かれており、実にリラックスしたような緩い雰囲気であるが、歌も含めたパフォーマンスは斬れ味鋭い真剣のよう。
曲間には突如として
「イェーイ!」
と叫ぶので、ウルフルズの「バンザイ 〜好きでよかった〜」をカバーするのかと思いきやそんなこともなく、自身の曲をその場の空気や自身のコンディションによって決めながら歌っていく。
だからこそ
「僕はロボット」
と歌う、ユニークなようでいてどこか人間とは同じ存在にはなれないのをわかっているような切なさを感じさせる「ロボッチ」を選んだのはどういう心境で?と思わざるを得ないが、「恋のかけら」のただひたすらに名曲と思うようなメロディの美しさがすぐにそんな疑問をかっさらっていく。
「外は雨降ってるんで、雨っぽい曲を。っていうかさぁ、この老舗会場である中野サンプラザもついに館内に喫煙所がなくなりまして。外にタバコ吸いに行かなきゃいけないんだけど、雨に濡れながら吸わなきゃいけないんですよ。どう思います?まぁタバコやめればいい話なんだけど(笑)」
とマイペースに観客に語りかけながら歌い始めたのは
「まだまだ雨は 地味ながらいつまでも続く」
と歌われる「コーヒー」。
しかしながらすぐに
「太陽のフェスなのに雨の曲やっちゃった(笑)間違えたな〜(笑)」
とその選曲を反省するも、
「もう30だからということで」
と30歳になる前に作ったこの曲を
「もう55だからということで」
と歌詞を変えて歌うあたりはさすがであるし、「ロボッチ」も「恋のかけら」も1990年代に生まれた曲である。当時の爽やかなイメージを思い返すと違和感が発生してもおかしくないが、全くそんな風に思えないくらいに今の奥田民生が歌っても成立している。それは当時から今に至るまで、奥田民生の中身や音楽が進化しながらも軸や芯は変わっていないということである。
「太陽のフェスだから太陽の曲やらなきゃダメだな」
と言って「SUNのSON」で太陽側に引き寄せるも、その後にリズミカルにギターを鳴らした「マシマロ」は手拍子が起こる中で
「雨降りでも気にしない」
という歌い出しに自ら気付いて、
「また雨の曲歌っちゃった!」
と曲中にセルフツッコミ。この日の天気を考えたら合っていると言える選曲ではあるのだが。
「おうち時間がまだまだ長い人もたくさんいると思うので、気持ちだけでも。実践してみてもいいとは思いますが、怒られたりしても責任は取れません(笑)」
と言って歌い始めたのは、今でも出川哲郎の冠番組などでも起用されている(それはスピッツがトリビュートアルバムでカバーしたバージョンだが)、大名曲「さすらい」。
自分が中津川や、いろんな野外フェスに行くのも間違いなく「さすらい」の一つだった。車を運転したり、夜行バスや新幹線に乗って行ったり…。そうした過程で見てきた様々な景色や、出会った人。それはさすらったからこそ見ることができたものであり、今年はそうしたさすらいをすることが全くできなかった。そう思っていたら、全然そんな曲じゃないのになんだか泣けてきてしまったし、
「さすらいもしないで
このまま死なねえぞ」
というフレーズは来年以降、また各地をさすらう時に必ず頭の中に浮かんでくるはず。それは例年ならばやはりいろんなフェスに出演していた奥田民生自身もそのはずだ。
するとここで隣の椅子に座る男=佐藤タイジを招く。近年はパーマを当てている奥田民生は実は佐藤タイジのような髪型になりたくてパーマを当てたそうだが、毛量が圧倒的に足りなくて同じ髪型にはできないとのこと。
佐藤「同級生とかでめちゃ生える育毛剤使ってるやつとかいて。それ使えばこのくらいなるかもしれないよ?でも使うと性欲がなくなるらしいけど(笑)」
奥田民生「もう55歳なんだから性欲は別になくてもいいけど(笑)」
と、最終的にはなんの話だかわからない展開になるのだが、
「”HONDA”がおいらの相棒
言うこと聞かないオンボロ」
と奥田民生の車への愛を歌う「ルート2」で佐藤タイジもアコギで加わり、間奏では居合の達人同士の立ち合いのような、アコギとは思えないくらいにバチバチのギターバトルという名の共演が行われるのだが、ギターだけのはずなのに急にドラムのキックのリズムが入っているな?と思っていたら、佐藤タイジが右足でキックを踏んでおり、後ろに置かれたアンプはそのためのものだという。あれだけ凄まじいギターを弾きながらリズムをキープするという達人芸っぷりにフェス主催者としてだけではない、ミュージシャンとしての佐藤タイジの凄さを改めて感じることができた。
しかも佐藤タイジは名越由貴夫(近年はエレカシ宮本のソロバンドにも参加)からもらったというそのアコギにファズのエフェクターを噛ませており、奥田民生に
「もうアコギでもエレキの音出るからどっちでも変わらないじゃん!(笑)形が違うだけ(笑)」
と突っ込まれながら、ラストの「イージュー☆ライダー」でもそのギターを遺憾なく発揮。とはいえ、普段のライブであれば奥田民生は観客にサビを任せるのだが、やはりこの日はそれはできず、フルで歌うという逆にライブとしては珍しい形に。それくらいにもはや日本のスタンダードな名曲になっているということであるが、
「僕らの自由を 僕らの青春を
大げさに言うのならば
きっとそういうことなんだろう」
というフレーズのとおりに、中津川で奥田民生のライブを見ることは僕らの自由であり、僕らの青春になるはずだった。来年は絶対にあの会場でこの曲をみんなで歌いたい。そう思いながら、奥田民生は佐藤タイジと拳を合わせて並んでステージを去っていった。
奥田民生はMCで飄々とし過ぎていて、ほとんど全ての発言が冗談のように聞こえる。でもこの日の
「声が出せなくても、拍手がなかったとしても、無観客よりは全然いい」
という発言だけは間違いなく本音だったはずだ。それはもう30年以上に渡って歌い続けてきたキャリアを持つ奥田民生だからこそ説得力がある。それだけ長い時間、いろんな場所で、たくさんの観客の姿を見てきたのだろうから。
1.俺のギター
2.ロボッチ
3.恋のかけら
4.コーヒー
5.SUNのSON
6.マシマロ
7.さすらい
8.ルート2 w/ 佐藤タイジ
9.イージュー☆ライダー w/ 佐藤タイジ
・OAU
サウンドチェックにメンバーが全員で出てくると、さらにそこに佐藤タイジが加わってのチェックとなっただけに、TOSHI-LOW(ボーカル&ギター)に
「最後に出てきてみんなで演奏するっていうはずだったのになんでここで出てきちゃうんだよ!この後にやっても茶番になっちゃうじゃん!(笑)」
と突っ込まれるという本番前からしてすでに笑わせてくれるし、こうしてライブが見れて楽しいなと思えるOAUが本日のトリである。
BRAHMANの4人にMARTIN(ヴァイオリン・ボーカル)・KAKUEI(パーカッション)を加えたアコースティックバンドであるという説明ももはや不要になっているくらいの存在だと思われるが、本番でメンバーが出てきて「Thank You」でMARTINが渋さと伸びやかさを兼ね備えたボーカルで歌うと、KAKUEIの姿に合わせて観客も手拍子をするのだが、飛び跳ねながら笑顔でウッドベースを弾くMAKOTOの姿はBRAHMANのライブの「闘争感」とは全く真逆の「祝祭感」に満ちている。曲の後半では一気にテンポが速くなるというアレンジも実に楽しい。
「Thank You」こそデビューアルバムに収録されていた曲であるが、昨年リリースされて本人たちも驚くくらいの売り上げを記録したアルバム「OAU」(なんならBRAHMANより売れているという説すら出ている)から「Midnight Sun」が演奏され、会場は夜を思わせるような暗く青い照明に包まれるのだが、それが夜の中津川でこのバンドのライブが見れたらきっと最高だろうなと思わせてくれる。どちらかというとフェスの持つ空気としてはBRAHMANよりこのバンドの方が合っているかのような。
「笑っちゃいけないんでしょ?反応がないとより笑わせたくなっちゃうな(笑)」
とまるで芸人のようなことを言うTOSHI-LOWによって、RONZI、さらには普段MCをしないからマイクすらないMAKOTOにまで、中野サンプラザであることにちなんで、サンプラザ中野くんのモノマネをさせるのだが、「RUNNER」をそれなりに歌えるRONZIに比べるとMAKOTOのは配信ではオンエアしてはいけないレベルのクオリティに。これにはTOSHI-LOWも
「いきなり振った俺が悪い(笑)」
とのことであるが、
「何をとち狂ったのか、こんな汚いおっさんたちの曲をNHKが「みんなのうた」に使って。子供に向けて何を歌うかっていうよりも、大人になった俺たちが、子供の頃に世界に旅に出れば幸せになれるんじゃないか?って思っていたのが、それは本当にそうなんだろうか?って考えるきっかけになればいいと思える曲にしたかった」
とそのまま曲に込めた意味を解説したのは「世界の地図」。
確かに、まさかBRAHMANのメンバーによるバンドの曲がNHK、しかも「みんなのうた」で流れるなんて全く予想できなかったことである。
でもOAUは地道に、真摯に活動を続けてきて、その過程で日本語歌詞がしっかり聴きとれるような、メロディを生かした曲を作るようになった。きっとNHKの担当の人はOAUの存在を知っていて、ちゃんと曲を聴いて起用したのだろうし、今やヤバTや岡崎体育がレギュラー番組を持っているという意味でも、地上波の中でも1番尖っていると言える放送局かもしれない。
そうした日本語歌詞が強く染みる「こころの花」「Again」というあたりの曲ではTOSHI-LOWがボーカルを取る部分も多く、MARTINの流麗なヴァイオリンのサウンドがこのバンドでしか聴けない音楽としてホールの中に響き渡っていく。
するとここでサウンドチェック時からバレバレだった「シークレットゲスト」こと佐藤タイジがステージに登場。
「ミスターソーラー、奥田民生!」
というTOSHI-LOWの悪ノリは完全に無視されていたが、先ほどの奥田民生での出演時はアコギだったのが、ここではエレキになっていることを、
「OAUってOverground Acoustic Undergroundの略なのに、なんでアコギじゃなくてエレキで出てくるんだよ(笑)」
と突っ込まれていたが、これはMARTINが
「OAUに初めてエレキが入るのが楽しみだった」
というラブコールしたことによるものらしい。
その佐藤タイジが加わった「Where have you gone」「Americana」という曲はそれまでと一転して、アコースティックながらサウンドの圧が強い曲であるが、佐藤タイジのギターもここではブルース色を強めることによってOAUの音楽の中に溶け込んでいく。
奥田民生の時とは全く違うサウンドの表現力は佐藤タイジをただ上手いというだけではなく、その音から様々なインスピレーションを膨らませることができるギタリストであるということを実感させてくれるし、どことなく見た目的にもこのバンドの正式メンバーと言われても違和感が全然ない。
それはTOSHI-LOWやMARTINと喋っている時の懐の広さからも感じられることだが、きっとこれまでに中津川 THE SOLAR BUDOUKANに出たアーティストたちともそうやってコミュニケーションを取ることによって深い関係を築いてきたのだろう。本当に太陽そのもののような男だなと演奏する姿や喋る姿を見ていても思う。このフェスが長い年月続いてきて、1度行ったら毎年行きたくなってしまうフェスになっている最大の原動力はこの男が作っているフェスだということだろう。
そんな佐藤タイジはコラボ演奏を終えてもステージに残り、バチバチに楽器の音がぶつかり合うインスト曲「Bamboo reef boat」ではKAKUEIの隣でシェイカーを振りまくる。もうこの演奏に参加していたくてたまらないというような嬉しい表情であるのがよくわかる。
佐藤タイジがステージから去ると、MARTINの勇壮でありながらも慈愛を感じさせるボーカルがこの広いホール内を包み込むような「Making Time」を演奏し、
「ライブに行けなくても、音楽は自分の中に持っていることができる。応援したいとかじゃなくて、自分が挫けそうな時や辛い時に好きな音楽が頭の中に流れるだけで、力をもらうことができる。
俺は「念」みたいなものを信じている。子供が学校に行く時にベランダから「無事に帰ってこいよ」って念じながら子供が歩く姿を見ている。また来年、今度は中津川で会えるようにっていう思いを込めて」
と、曲に自分たちの想いを全て乗せるようにして最後に演奏されたのはこのバンドの存在をそれまで以上に広く、たくさんの人に知らしめた「帰り道」。
こうしてOAUがその想いを込めてくれた曲を聴いていると、やっぱり来年に中津川にまた帰るまでは死ねないな、と思う。そうして自分の中に死ねない理由や生きていく理由が増える。それは本当に幸せなことだ。
BRAHMANのメンバーがやっているバンドではあるけれど、OAUは形態もそうだし、サウンドとしてはBRAHMANとは全く違う。だからBRAHMANのファンでもOAUは聴かないという人もいるし、逆にOAUは聴くけどBRAHMANの激しいサウンドは苦手、ということを言う人もいる。
自分自身もどちらかというとBRAHMANの方がライブを見たいバンドではあったのだが、こうしてこの状況下でOAUのライブを見ると、メンバーたちの持っている優しさや温かさを感じられる。それはもちろんBRAHMANのライブの随所からも感じられることではあるのだが、それをより強く感じられるというか、なかなかBRAHMANのライブでKOHKIやMAKOTOが笑いながら演奏する姿は見ることはできない。その2面性をどちらも見ていると、より彼らの人間性がよくわかる。
何よりも、BRAHMANのライブを見た時のあの「すげぇ…」としか言えなくなる感覚を、アコースティック編成であってもこのバンドも随所に感じさせてくれる瞬間が確かにある。名曲を生み出してきたのもそうだけれど、やはりそのライブ力がこのバンドが今にして過去最高の状況を迎えている最も大きな要素であるはずだ。
リハ.朝焼けの歌
1.Thank You
2.Midnight Sun
3.世界の地図
4.こころの花
5.Again
6.Where have you gone w/ 佐藤タイジ
7.Americana w/ 佐藤タイジ
8.Bamboo reef boat
9.Making Time
10.帰り道
ライブ後にはMC陣が改めて9/26(土)、9/27(日)、10/3(土)、10/4(日)に配信でフェスが開催されることを告知したのだが、毎年中津川の会場でこうしてMCを担当している2人はライブ後は少し涙ぐんでいた。こうして形は違えど中津川 THE SOLAR BUDOUKANが今年も開催されたという事実と、久しぶりに見ることができたライブの感慨を噛み締めているかのようだった。
この日、ストレイテナーが終わった後に自分は会場内のトイレに行った。その時に横にいた、奥田民生のファンであろう女性2人組が
「全然知らない人たちなのにライブ始まったらなんか泣いちゃった」
「うん、わかる」
という会話をしていた。
この日、ライブ開始前の前説でMC陣がこういう状況になってからライブを見るのが初めての人がいるか問いかけたら、8割〜9割の人がそうだった。ほとんどの人にとってはこのライブが本当に久しぶりに生で観れるライブであり、奥田民生のライブをずっと見てきた人からしたらこんなにライブが観れない期間(=奥田民生がライブをしない期間)なんてこれまでなかったはず。
ライブという場で、目の前で音が鳴らされることの感動を知っている人たちだから、それが戻ってきた事実の尊さに気づくことができるし、ストレイテナーのライブの素晴らしさがその感情を後押ししていたはず。
自分は7月から何本か生でライブを見る機会に恵まれていたが、それらのライブを経たこの日は1番「戻ってきた」という感覚が強かった。席は全て埋めることはできないし、声を出すことはできないけれど、このくらいの規模でワンマンができるアーティストが3組も揃って、短い時間ではなくてイベントとしては長めの持ち時間でライブをやってくれている。(その持ち時間の長さは中津川THE SOLAR BUDOUKANの持ち味の一つだ)
それはフェスやイベントという、ワンマンに比べたらまだまだ都内ではハードルが高そうなものが我々の日常に戻ってきつつあるという感覚。それは客間を開けざるを得ないからガラガラに見えてしまうライブハウスではなくてホールという場だったからこそ感じられたことかもしれないけれど。
2年前に初めて中津川THE SOLAR BUDOUKANに参加した時に、凄まじい後悔の念に襲われた。なぜ自分はこれまでにこのフェスに来ていなかったのかと。もし過去に戻れるなら、自分が行っていなかった年のこのフェスに行って、どんな歴史を積み重ねてきたのか、どんな素晴らしいライブが行われてきたのか、そんな、あの場所で起きたすべてのことを見たくなってしまった。それくらいに素晴らしいフェスだと思った。
でもどう願っても行けなかった年のライブはもう体験することはできない。終わってしまったバンドがあのステージに立つ姿を見ることも。でもフェスが続けばこれからこのフェスが積み重ねていく歴史や素晴らしいライブを見ることができる。それをこれから先も観続けていくために、来年はまた絶対に中津川で。
文 ソノダマン