配信ワンマン、さらには豪華なメンバーが集まったオンライン主催フェスと、この状況下であっても実に「らしい」活動をして、ロックバンドの生存証明を自らの手で行ってきた、UNISON SQUARE GARDEN。
昨年は大阪の野外会場での大規模ワンマン、さらにはB-SIDEアルバムのツアーと止まることを知らないような活動っぷりであったが、先日にはニューアルバム「Patrick Vegee」もリリースされるなど、コロナ禍であってもそれは全く変わらない。
そんな中で久しぶりのリアルライブとなるのが、各地のホールなどの座席がある会場を巡る「LIVE (on the) SEAT」というツアー。座席がある会場であってもライブが始まれば立ち上がる…というのが通常の座席がある会場でのロックバンドのライブであるが、今回は着席したままというスタイルであるだけに、どんな形になるのだろうか。リリースされたばかりのアルバム曲を入れてくるのかというセトリも含め、ツアーはすでに10月から始まって年末まで続くこのツアーの内容も含めて。
会場である東京ガーデンシアターは6月にオープンしたばかりの有明の巨大商業施設にある新たなホールで、自分が12年くらい前に初めてユニゾンのライブを観た東京DOME CITY HALLをさらに巨大化したような会場。とにかく広くて綺麗というのが入ってみての率直な感想。施設内には24時間営業の温泉施設もあり、ライブが終わるのが遅くなって帰れなくなった時も安心である。
入場前にはサーモグラフィーによる体温測定とCOCOAアプリのインストール確認、ダスキンとタッグを組んでの消毒、もちろん客席は間隔を空けるという徹底した感染予防対策。この徹底っぷりにユニゾンらしさというか、この状況でライブをやるんならここまでやるべきという意思が確かに感じられる。
度重なる注意喚起を促す場内アナウンスが流れる中でも客席からは話し声が全く聞こえてこない。そもそも席が1つ置きということもあるだろうけれど、独自の活動スタンスを持つユニゾンを見てきた人たちばかりなだけに、この状況でどうしているのがいいのかをそれぞれが理解して待っているかのように見える。
そんな中で17時半過ぎ、場内が暗転するとステージにかかった紗幕の向こうから聞こえてくるのは斎藤宏介(ボーカル&ギター)が歌う
「12時 時計塔の下新しいワンピースで
軽やかに、それは軽やかに走り出す
風船手にした子供 秘密の暗号に気づかず
離した、それを離した 空に吸い込まれた」
という「クローバー」のオープニングのフレーズ。
そのままアカペラで歌い、サビでは田淵智也(ベース)によるコーラスも重なるのだが、そのサビの
「君がここに居ないことであなたがここに居ないことで
回ってしまう地球なら別にいらないんだけどな」
というフレーズは紛れもなくバンドが目の前にいる「君」や「あなた」の存在によって自分たちの地球は回っているというメッセージだ。配信ライブでも見事な対応力やアイデアを見せてくれたユニゾンもやはり、こうして時間とお金をかけて会いに来てくれる人を何よりも大切なものだと思っている。そんな今この曲を演奏したからこそ感じられるメッセージに開始数秒で胸が熱くなる。
ゆっくりと紗幕が上昇してメンバーの姿が確認できるようになるとともに、アカペラからバンドの演奏に移行していく。メジャー1stフルアルバムの最後を飾る、あのアルバムの中では最も穏やかとも言えるような曲でさえも、やはりこうして久しぶりに目の前で鳴っているとその音の大きさや圧に驚いてしまう。それはこの新しい会場の持つ音響の良さも相まってのものであるが、ロックバンドが画面の向こう側ではなくて目の前で音を鳴らしている。そんな当たり前のようにシンプルなことにこんなにも感動できる。不要不急の最たるものとして報道されがちであった音楽やライブ以外でそんな感覚を味わえるものがどれだけあるというのだろうか。
とはいえやはりこのライブの特性である着席というスタイルは誰1人として崩すことはないし、最初はそうしたスタイルだからこそ「クローバー」を演奏し、そうしたユニゾンの中でもじっくり座って鑑賞するような曲を中心にしたライブになるのだろうか?とも思ったのだが、2曲目はまさかの「フルカラープログラム」。いつもならイントロで湧き上がるはずの歓声はもちろん起きないが、客席には腕を挙げたり、座りながらにして体を動かす人の姿も見える。なかなかこの曲をライブで座った状態で聴くということもない貴重な機会であるが、立ち上がりたい人もたくさんいたと思う。ユニゾンはそういうライブの衝動を与えてくれるバンドだから。でも誰も立ち上がらない。それはバンドから課された試験というか、我慢比べというか。どちらにせよ完全無欠のロックンロールを鳴らすバンドのためにも立ち上がることは許されないのだ。
と思ったら鈴木貴雄によるダンサブルなライブならではのアレンジに田淵のスラップ混じりのベースが加わるというイントロから変則的なリズムが激しく展開していき、
「自意識がクライシス迷子!」
のフレーズでは思わず声を上げたくなってしまうような「フィクションフリーククライシス」へ。この流れによって冒頭の「聴かせるような曲をメインにした…」という自分の浅はかな予想は完全に砕かれたわけだが、
「当然手ぶらじゃ世の中は渡れない 肝命じます」
というフレーズでは、これは禁止されていることじゃない!とばかりにリズムに合わせて手拍子が起こる。ユニゾンはそうした行為を一切煽らないバンドとして有名であるが、その観客の鳴らす音や手が動く様子は自分たちを見に来てくれた人がいるということを実感させるに足るものだったんじゃないだろうか。
しかしそうしたわかりやすいリアクションは禁止されているとはいえ、「誰かが忘れているかもしれない僕らに大事な001のこと」では2メロで鈴木がまるでFACTやCrossfaithかのごときブラストビートのように激しい、もはや手数が増したというレベルでないアレンジを加えたり、ライブで聴くのは久しぶりの「セレナーデが止まらない」では田淵がベースを弾きながら斎藤の横や後ろを激しく走り回るという姿に思わず笑いそうになってしまう。
本人たちは自分たちの演奏をでき得る最大限のレベルでやっているのだが、それがあまりに凄すぎて笑えてきてしまう。技術や手法もシンプルに一方向に向かって突き詰めるとエンタメとして作用するようになるということを示してくれるし、田淵のそれは見慣れてるファンですらも笑えてしまうというのは凄いことである。お笑いで面白いネタも何度も見たら慣れて笑えなくなってしまうというのに。
そのまま突入したのは詰め込みまくる音も言葉も詰め込みまくるユニゾンの最新曲「世界はファンシー」。すでに配信の主催ライブでは披露されていたが、実際に(というか音源よりもさらに速くなっているのだが)これを平気でギター弾いて歌っている斎藤は涼しい顔してどんな化け物なんだと思う。MVでは2サビ前の
「ハッピー」
のフレーズの出で立ちとポーズが反響を呼んでいたが、ライブでのスリリングさという意味では早くも持ち曲の中でもトップクラスなんじゃないかとすら思う。
アルバム「Patrick Vegee」では曲最後が
「The world is fancy!」
から
「Fancy is lonely.」
に変わり、「lonely」をタイトルに冠する「弥生町ロンリープラネット」へと繋がっていくのだが、この日は鈴木がヘッドホンを装着して同期の音が流れる「君はともだち」へ。
そこまでライブでは定番とは言えないこの曲がどうして今こうしてこのツアーでセトリに?と思ったけれど、
「何も知らないやつに君の事傷付けられてたまるか
見えないところで強く生きてる 気づいてる」
「僕だけが知ってる だから優しい声で、君はともだち」
というフレーズは、メンバーとは決して友達ではないしそうはなれないけれど、観客をそう思って呼びかけているかのようであった。
このコロナ禍の特殊な状況になったことによって元々の歌詞が持っている意味が変わったということはいろんなアーティストが口にしている。(それこそ復活を遂げたELLEGARDENすらも)
ユニゾンの3人(というか自他共に認めるセトリおじさんである田淵)がそこに自覚を持ってこのセトリを組んでいるのかはわからない。もしかしたら「そんなこと全く考えてないから」って言われるかもしれない。実際に田淵はインタビューでは
「世の中の状況によって作る曲が変わってはいけないと思う」
という旨の発言もしていた。でもやはりこうして今、目の前でその歌詞を聞くとそう感じてしまう。というか、そう思いたいのかもしれない。これはユニゾンから我々に向けられたメッセージだと。だからこそ明日からもそんな世界を前向きに生きていけるようになれると。
そんなユニゾンは普段はワンマンでもMCを全くやらないということもあるのだが、この日はこのタイミングで斎藤が口を開く。
「このガーデンシアターは初めてライブやる会場なんですけど、音はどうですか?というのも音が良くなかったらこれからここでライブをやるのはどうかな?ってなるから…」
と問いかけると声を出すことができない観客は拍手で応える。確かに音に関しては問題ないと思えたし、そういう意味ではこれからも何度もここでユニゾンのライブを見るようになるんだろうな、と思う。そうやって何度もライブを見ることによってファンにとって特別な場所になっていく。
とはいえ声を出してリアクションが取れないことに対して、
「僕は昔にポリープの手術をしたことがあって。手術後は喋っちゃいけなかったんだけど、病院で先生に「大丈夫そうですか?」って聞かれた時に「そうですね」って普通に喋っちゃって(笑)
その時の先生の気持ちに今日はなってます(笑)」
と、もうすっかり忘れかけていたが、斎藤がポリープ手術を受けた時のエピソードで返していた。鈴木は小さく
「Say,Ho〜」
とコールアンドレスポンスを仕掛けていたけれど、当然誰もレスポンスする人はいなかった。
「この間「Patrick Vegee」というアルバムを出しまして。そのアルバムのツアーはまた改めてやるんだけど、せっかく今日来てくれた人のためにアルバムの中から新曲を」
と、やはり今回のツアーはアルバムのツアーとは全く別物であるとした上で、だからこそこうしてライブで聴くのが初めてになる曲は「夏影テールライト」。アルバムの中ではポップさが強めの、田淵と鈴木のハミング的な高音コーラスもそのイメージを強めている曲であるが、アルバムは元々はもっと早く発売されるはずだっただけに、コロナがなければこの曲はもしかしたら夏の野外フェスなどでも聴けていたんだろうか、と思ってしまった。
その「夏影テールライト」も「世界はファンシー」同様に曲の最後のフレーズが
「幻に消えたなら ジョークってことにしといて。」
という「Phantom Joke」に続くというアルバムの曲順になっており、今回はその流れ通りに「Phantom Joke」へ。「世界はファンシー」同様に歌うことすら超難しいというか、斎藤以外に誰かこの曲を完璧に歌える人がいるのかというレベルであり、実際に斎藤も歌えるギリギリのラインの上を歌っているような、ちょっとでも喉の調子が悪かったら全てが破綻してしまうかのような絶妙なバランスで成り立っている。
斎藤は初の配信ライブの際にも珍しく高音が出ないという姿を見せており、そのことについては「Patrick Vegee」の特典映像内のオーディオコメンタリーでリハから本番までの時間が短すぎて喉が回復していなかったと語っていたが、この日はそうした不調は一切感じさせなかったし、それは実際に観客の目の前でそうした姿を見せるわけにはいかないという気持ちによる入念な準備があったんじゃないだろうかと思われる。
激しいイントロのアレンジから雪崩れ込んだ「徹頭徹尾夜な夜なドライブ」では田淵が右足と左足を交互に高く上げながらベースを弾く。足を高く上げるというと、THE ORAL CIGARETTESの「大魔王参上」演奏時のあきらかにあきらの綺麗なフォームがすぐに頭に浮かぶが、この田淵の方はもっと思いきっているというか衝動的にやっているかのような動きだ。
さらに間奏では斎藤と田淵が揃って前に出てきて演奏すると、鈴木は立ち上がってバスドラを踏みながら上着を脱いで高く放り投げる。この曲の時は鈴木はコーラスもどこか音源よりも叫ぶようにというか、はみ出すようにというか、感情を爆発させているように見えた。それは間違いなくこうしてライブをしているのが楽しかったということだ。
斎藤が
「レディース&ジェントルメン!」
と叫んでから歌い始めたのは、歌詞に出てくる通りにダンサブルな「ライドオンタイム」。田淵もさらに暴れるかのようにステージを左右に駆け回るのだが、我々はそんな曲すらも座って見ている。ただ、この曲の歌詞にある
「お気に入りのスタイル」
は今はこのスタイルだ。それが普通にライブができるようになった際にはそれぞれが好きなようにライブを楽しむ。その日が来た時はまたこの曲を聴きながら踊っていたいのである。
鈴木が曲終わりで思いっきりスティックを放り投げたので、もしかしたらこれで終わりか?と思ったのも束の間、すぐにピアノの同期の音が流れる。「harmonized finale」のイントロだ。それまではステージを駆け回っていた田淵もコーラスをメインにしながら丁寧に演奏し、斎藤の歌う
「誰かを救いたいとか 君を笑わせたいとか 速すぎる時間時計の中で
ずっと続けばいいな けど 終わりが近づいてるのもわかるよ」
というフレーズがこの日のライブの終わりにふさわしいものとして響く。それはユニゾンが我々を救い、笑わせてくれているからこそより一層そう思えるのである。
そして、
「今日が今日で続いていきますように」
という、この日にこのライブを見れたことをより強く心や脳内に刻み込みたくなるフレーズにメンバーが声を重ねると、
「be with youを懇願して どれくらいだろう
新しい時代へと橋が架かるだろう
何回だってI’m OKまだ立てるから
君を追いかけるよ その未来まで」
という曲最後のフレーズでは斎藤のみにスポットライトが当たって真っ暗になる。まるで「クローバー」の始まりの場面を見ているかのようでもあるのだが、歌い終わってステージに光が当たった時には田淵と鈴木はすでにステージにはおらず、斎藤もギターを置いて去っていく。
あまりにも美しい、そして清々しいライブの終わり方。背面のバンドロゴの上には
「SEE YOU NEXT LIVE!」
の文字が。その文字の通りにすぐに次のライブを見る選択をした人もたくさんいたことだろうと思う。それは自分も含めて。
1.クローバー
2.フルカラープログラム
3.フィクションフリーククライシス
4.誰かが忘れているかもしれない僕らに大事な001のこと
5.セレナーデが止まらない
6.世界はファンシー
7.君はともだち
8.夏影テールライト
9.Phantom Joke
10.徹頭徹尾夜な夜なドライブ
11.ライドオンタイム
12.harmonized finale
文 ソノダマン