先月はスタジオからの配信ライブを届けてくれた、Base Ball Bear。毎月の恒例シリーズとなりそうな配信ライブは今回は「HOME PARTY」と題され、ニューアルバムの「C3」のお披露目配信的なライブだった前回とはまた違う内容になるというのは、前回のライブから告知されていた。
それはメンバーそれぞれと全員で選曲したセトリのライブになるというもの。もちろん普段のライブのセトリもメンバーで考えているものであるが、メンバーそれぞれがどんな曲を選ぶのかは全く想像ができない。
20時になると真っ先に画面に映し出されたのは、バンドの19周年を祝うバースデーケーキ。この配信の当日はバンドの結成記念日当日である。その19周年を迎えたことに感謝を告げながら、小出のボケに堀之内が突っ込むという実にベボベらしい雰囲気のトークでこの日の趣旨である、メンバーそれぞれが曲を選んだライブであることを説明。
トークを終えると3人はソファから立ち上がってステージへ移動。3人が座っていたのはライブハウスの客席部分であったので、すぐさまステージへ。
メンバーが楽器を手にすると、まずは関根史織の選曲として小出祐介のギターが轟音を鳴らし始めたのは「天空Lonely Hearts」。シングル「STAND BY ME」のカップリング曲という果たしてライブで聴いたことあっただろうかという超絶レア曲であり、よくこの曲を選んだな!という感じしかしないが、今の3人で演奏されることによってもともとこういう曲だったんじゃないかと思えるようなタイトかつソリッドなスリーピースギターロックとなっている。いきなりこの曲というのがこの日の選曲のとんでもなさを予告している。
ガラッと変わって関根のベースがうねりまくり、小出のギターもブラックミュージックの影響が強い粘っこいサウンドを奏でる「文化祭の夜」。ある意味ではこの時期の曲は関根のベーシストとしての覚醒を感じさせるものだったが、今になって聴くとそれを改めて感じられるし、ファルセットボーカルを響かせながら1人でギターを弾き倒す小出のギタリストとしての覚醒の曲でもあったんだなと思う。
再びガラッと変わるようにシャープなギターロックに回帰していくのは「LOVE LETTER FROM HEART BEAT」。低空飛行するようなメロディからサビで一気に飛翔するような曲であるが、そのサビでは全編でコーラスを務める関根の存在感が際立つ。
間奏では堀之内が肉声で効果音を再生し、関根のボーカルパートではその姿よりも歌声によって大人の女性になったことを実感する。関根にそう感じるということは、同世代である自分も大人になったということだ。まだ10代だった頃に出会ったベボベが大人になって、自分も大人になった。紛れもなく一緒に歳を重ねてきた存在だ。この曲を演奏していた日本武道館ワンマンのことすらもつい先日のことのように思い出せるというのに。
「致死量の切なさを吸って 吐いた息で窓に書く手紙」
という実に小出らしい歌詞は今になって聴くとまさに致死量の切なさを感じさせてくれる。
関根パートを終えてのトークでは「天空Lonely Hearts」がもともとは「C」の1曲目として作られたというエピソードも。だからこそカップリングのつもりでは作ってなかった曲であるとも。
続いては堀之内選曲のパート。薄暗い照明がムードを作り出すのが実によく似合うのは「kodoku no synthesizer」。コンセプト色の強い濃厚なアルバム「新呼吸」の中でも重要な役割を担う曲であるし、「魔王」などを収録するアルバムの性質と、小出の人間性を実によく示している曲。
「新呼吸」ツアーの追加公演となった、ベボベも何度となくライブをやっていた、今はなきライブハウス渋谷AXを否が応でも思い出してしまうが、「LOVE LETTER FROM HEART BEAT」同様にずっと観てきたバンドだからこそその景色が今も脳内に残っている。
選曲者の堀之内がハイハットを細く刻む入りから小出のカラフルなギターが鳴り始めるのは「SHINE」。サビでコーラスを重ねながらうねりまくる関根のベース、間奏で唸りを上げる小出のギター、手数とパワーを兼ね備えた堀之内のドラム。キャッチーさとバンドの技術をどちらも最大限に感じさせてくれるとともに、
「青春は1,2,3」(岡村靖幸)
「ジャンプアップ」(SUPERCAR)
など、ベボベのルーツが散りばめられた歌詞、
「聖槍で檸檬を貫くように」
という文学的な歌詞。全方位的に聴きどころしかない名曲であり、バンドのグルーヴはさらに強くなっていく。
堀之内がDJのように曲タイトルを叫んで始まるのがおなじみなのは「夕方ジェネレーション」。小出は1コーラス目のAメロを歌うと「You gotta」と明らかにかけたようにして「夕方!」と叫ぶ。かつてはライブの最後に演奏されることも非常に多かった曲であるだけに、まだ6曲しかやっていないけれど、これでライブが終わりなんじゃないかという気持ちになる。とはいえ至るところに当時よりはるかに進化したアレンジが施されているのだが、この曲を演奏している時、聴いている時はバンドも自分も未だに夕方ジェネレーション真っ只中であると思える。
トークパートでは明らかに一気に体力を消費し、もうライブが終わったかのような雰囲気になっている。
選曲の理由として「kodoku no synthesizer」は以前は関根がチャップマンスティックを演奏していたが、今回はギター、ベース、ドラムというスリーピースの形で演奏したいと思ったという。
「SHINE」も含めて堀之内のコンセプトは3人編成でのライブを始めた時にもよく口にしていた「3人映え」であったそうだが、「夕方ジェネレーション」はただ自分が久しぶりにタイトルコールをしたいだけという実に堀之内らしい理由であった。
メンバーセレクトの最後のパートは「休憩」をコンセプトにしたという小出ブロックである。堀之内のドラムの連打からノイジーなギターが耳を覆うのは「深朝」。同じ「新呼吸」からのセレクトであるし、曲の持つ夜明け前の暗い時間帯という性質も堀之内の選んだ「kodoku no synthesizer」と実に近いものである。やはりそこは時には大喧嘩したりしながらも19年間同じバンドを続けてきた2人ならではと言えるだろうか。
小出がテーマとして掲げた「休憩」という言葉が最も良くわかったのは、ダブ的なレイドバックしたサウンドで関根がメインボーカルを務める「LOVESICK」を選んだからである。やはり関根は声から大人らしさを感じさせるようになっているし、その声には表現力というか、抑揚の付け方が実に巧みになったように感じる。確かに小出は休憩できるかもしれないけれど、他の2人はむしろより負担が大きくなっているような選曲である。
小出パートのラストは派手な曲ではないが、キラリと光るような佳曲「何才」。確かに休憩というように小出は2人が選んだ曲よりも余裕を持ってギターを弾いているように見えるし、張り上げ方も強くないボーカルからも余裕を感じる。それは小出だからそう感じるだけで、他の人が演奏するのも歌うのも難しいのはわかっているけれども。リリース時は29才という20代の終わりにいた小出ももう35才。この歳になって聴くこの曲は実に味わい深いものがある。
トークでは「何才」を3人全員が選ぼうとしていたというくらいにメンバーが気に入っている曲であることを語りながら、いよいよメンバー選曲ブロックへ。
「いつもの」とも言っていたように、今なおフェスなどでもセトリに入り続けている「17才」でいつもと変わらぬ選曲であるからこそのいつまでも変わらぬ名曲っぷりを遺憾なく発揮すると、小出のかき鳴らすギターとボーカルから始まるのは最新作「C3」収録の「風来」。直前のトークパートでは1月に久しぶりの有観客ライブを行うことも発表されただけに、この曲が描き出す景色のように、バンドはまた新しい旅へと歩き出す。17才の倍の歳になって生み出されたこの曲が変わらぬベボベのフレッシュさを感じさせてくれる。もう少ししたらようやくまたベボベのライブが見れるようになると思うと、なんだか物凄く感動的な曲として画面越しでも強く響いた。
「今まで配信ライブで1回もコール&レスポンスをやったことがないから」
という理由でリアルタイムのコメントを使ってヒップホップ的なコール&レスポンスをしてから始まったのは、おなじみの関根のベースと堀之内のドラムがグルーヴの渦を生み出し、小出がRHYMESTERのラップパートから自身のボーカルパートまでをも1人で担う「The CUT」。
関根は時折飛び跳ねながらベースを弾き、堀之内はカメラ目線でドラムを叩きながらコーラスをする。やはり話している時よりもライブをしている時が1番この3人は生き生きして見える。それを知っているし、その姿にいつも勝手に力をもらってきたからこそ、15年くらいずっとライブを見続けてきたのだ。最後には堀之内がジャンプしてキメを打ち、
「さよなら〜」
て言ってすぐさま配信が終わった。そんなダラダラしない感じが、なんだか実にベボベらしいなと思った。
しかしこのライブはこれで終わりではない。オフィシャルファンクラブ「ベボ部」会員限定で、兼ねてから会員に募集していた、リクエスト楽曲の上位3曲を演奏することを発表していたからだ。
画面が切り替わると、会議室的な場所にいるメンバー3人の姿が。ファン投票ランキングの20位からを発表していくのだが、「魔王」が14位に入っていることなど、意外な楽曲が上位にランクインしていることにメンバーは素直に驚いていた。
10位からはじっくりと発表。
10.LOVE LETTER FROM HEART BEAT
9.4D界隈
8.ラストダンス
7.海になりたい part.2
6.アイノシタイ
5.BOYS MAY CRY
4.明日は明日の雨が降る
3.サテライト・タウンにて
2.USER UNKNOWN
1.夜空1/2
という結果になったのだが、前回の日比谷野音ライブの際の人気投票1位だった「image club」が1位だと思っていたメンバーたちは「夜空1/2」が1位であるということに若干の肩透かしを食らっていた。
上位10曲の中から抽選でどの曲を演奏するかを決めるのだが「夜空1/2」「アイノシタイ」「明日は明日の雨が降る」の3曲が選ばれる。自分が大好きな「BOYS MAY CRY」は抽選で引かれず、「若者のゆくえ」に至ってはランク外だった。
すると画面は再びライブハウスに切り替わり、今回のライブグッズを見に纏った3人が音を鳴らし始めると、鳴らし始めたのは「(WHAT IS THE)LOVE & POP?」のシークレットトラックという激レア曲の「明日は明日の雨が降る」。
そもそもシークレットトラックをリクエスト対象にしているというあたりが最大のこの曲の投票へのネタ振りであるのだが、ライブではリリースツアーで1回聴いたくらいの記憶しかない。
ということはこの曲を演奏している姿を見たことがない人の方が圧倒的に多いわけで、それは見てみたいよなぁという選曲である。「(曲の雰囲気が)重い」とも堀之内は言っていたが、今のバンドが新曲として出しても違和感がないであろうあたりは変わりながらも変わらない部分(それは蒼さと言っていいだろう)があるベボベだからこそだ。
2曲目は投票結果6位のダンスロック「アイノシタイ」。「PERFECT BLUE」のカップリング曲というこれまたレア曲であるが、今となってはそういうイメージもなくなってきているが、かつては4つ打ちギターロックの始祖的なバンドとも言われていたベボベの原点らしい部分を感じられる曲だ。とはいえもうこの曲がリリースされた頃には若手から中堅という立ち位置に差し掛かっており、ただの4つ打ちというよりはカメラ目線で表情を変えながら叩く堀之内のトライバルなビートはバンドの当時の経験や技量を感じさせてくれる。
この曲もそうであるが、やはりベボベはカップリングに名曲が本当に多いバンドだ。それは彼らが影響を受けたOasisやSUPERCARに通じる部分でもあるし、盟友であったチャットモンチーと共有していた部分だ。そのカップリング曲にも手を抜かないどころか、名曲を入れてきたからこそ、シングルCDを毎作買い続けてきたのだ。
「「明日は明日の雨が降る」はサブスクで聴いている人は存在に気づいていないんじゃないか?」
というCDだけだった時代とは異なる選択肢があるからこそのシークレットトラックの存在について考えさせられるMCから、20周年に向けた意気込みを語ると、最後に演奏されたのはまさかの投票1位となった「夜空1/2」。
小出と関根のボーカルの掛け合いから高まっていくサビではその2人のボーカルが1/2ずつを1にするかのように重なっていく。順位が発表された時は意外に感じたが、こうして聴くと実に納得がいく名曲だ。夜はすっかり寒くなった季節なだけに、星が見やすい季節でもある。きらめくような間奏の小出のギターソロを聴きながら、星が見えるかどうか夜空を見上げてみたくなった。青春を歌ってきたバンドの描くロマンチックな夜の曲。それはもしかしたら「不思議な夜」や「文化祭の夜」といったのちに生まれた夜の曲へのきっかけになるものだったのかもしれない。そんな曲を演奏する3人の姿は本当に美しかった。一等星のように。
この日演奏された曲や、ファン投票でランクインした曲には普段ライブでやるような曲はほとんどない。そうでない曲を聴きたい人がたくさんいるということは、月並みな言い方になるがベボベは様々なタイプの名曲ばかりを生み出してきたバンドであるということ。それともうこんなにもたくさんの曲を持つバンドになったんだということ。それは何があっても止まらずに続けてきたバンドだから積み上げることができたものである。
今回のライブでそうした普段のライブではやらない曲をたくさん演奏したということは、これからのライブでもいろんな曲を演奏する姿を見れるということ。かつてはフェスやイベントでセトリが毎回変わらないと言われていたが、きっとあの頃はリハや練習でいろんな曲をやれるような状況ではなかった。でも今はそれをバンドもファンも楽しみながら、かつてその曲が演奏された時のことを思い出しながら演奏し、聴くことができている。これからもそうやって思い出に浸りながらベボベの最新の姿を見れると思えば、この世の中の状況もなんとか乗り越えていけるような。
1月に行われるライブでは果たしてどんは曲がセトリに並ぶのだろうか。でもその前に今年も年末に幕張メッセで会えると信じている。こんなにベボベに会えない期間があるなんて、出会ってからの15年で1度もなかったことなんだから。
関根ブロック
1.天空Lonely Hearts
2.文化祭の夜
3.LOVE LETTER FROM HEART BEAT
堀之内ブロック
4.kodoku no synthesizer
5.SHINE
6.夕方ジェネレーション
小出ブロック
7.深朝
8.LOVESICK
9.何才
3人ブロック
10.17才
11.風来
12.The CUT
ファンブロック
13.明日は明日の雨が降る
14.アイノシタイ
15.夜空1/2
文 ソノダマン