本来ならば昨年リリースされた傑作アルバム「Section #11」のツアーを春に終え、例年のように日本各地のフェスをロックンロールで盛り上げまくってまた新たな季節へ…というより充実した1年になるはずだった、THE BAWDIES。
ところがコロナ禍によってツアーは志半ばで無念の中止。メンバーもファンも「最高傑作」と認めるアルバムの曲を堪能できる機会は奪われてしまった。(それだけに無理してでも高崎などまで観に行っておいたのは本当に良かったと思っている)
そんな中でもバンドは積極的に配信ライブを行って転がり続けるロックンロールバンドっぷりを示してきたが、ツアーが中止になって以降は初めて、実に8ヶ月ぶりというかつてないスパンを経てようやく有観客ライブを開催。それがこの日の中野サンプラザでのワンマンである。
中野サンプラザではすでに中津川THE SOLAR BUDOKANの公開ライブ収録でコロナ禍以降にライブを観ているが、この日も1席空けて隣の人と距離を保つという座席間隔は変わらない。だからこそ一緒にライブに来た人同士でも距離感が生まれてしまうのだが、久しぶりにライブという生の音を浴びることができる、肉眼でメンバーを捉えることができるという人もたくさんいるからか、どこか開演前の客席はソワソワしているような雰囲気。
開演時間の19時半頃になると、THE BAWDIESのメンバーによる影アナウンスの諸注意が。声がハッキリと分かれているから誰が喋っているのかがすぐわかるのも、ROYとTAXMANがはしゃぎ気味でMARCYがいじられるのも、声だけでもTHE BAWDIESはやはりTHE BAWDIESだ。
アナウンスが終わると場内が暗転し、おなじみの「SOUL MAN」のSEが流れると、降りていたステージの幕が上がり、セッティングされた楽器、その後ろにはこうしたホールやZeppクラスのライブハウスではおなじみのバンド名の電飾が光り輝く。
そこに登場する、キャメルカラーのスーツを着たメンバー。いつもクールを装っているMARCYが珍しく小走りしてステージに出てくるあたり、メンバー全員が本当にこの瞬間を待ちわびていたことがよくわかる。
最初は座っていた観客たちも「もう我慢できん!」とばかりに一斉に立ち上がると、それぞれが楽器を手にすると、音を合わせるというかもう爆音でぶっ放すというような感じで1音目を鳴らす。音に合わせて叫びたくなってしまうし、実際に叫んでもこの爆音にかき消されて聞こえないだろうけれど、口と鼻を覆っているマスクの存在によって声を出してはいけないことに気付く。出会ってからもう10年以上、数え切れないくらいにライブを観てきたけれど、初めての「声を出すことができないTHE BAWDIESのライブ」だ。
「またここから始めようという意味ではピッタリの曲なんじゃないかと思います!」
とROYが言うと、TAXMANとJIMが中央に集まってROYとネックを合わせるようにして音を鳴らし始めたのは、THE BAWDIESの始まりの曲である「I BEG YOU」。やっぱりこれだ、これなんだよなと思わざるを得ない爆音のロックンロール。声は出せなくてもリズムに合わせて腕をあげて飛び跳ねる観客。ステージ前にスライディングしてギターソロを弾き倒すTAXMAN。楽器だけでなく声も爆音なROYのボーカル。声を出せなくても、いつもと変わらないロックンロールパーティーの幕開けだ。
「乗り遅れないでくださいね!」
とROYが言って早くも演奏された「IT’S TOO LATE」では軽やかにステージ上を舞うようにしながら笑顔でギターを弾くJIMの姿が本当に楽しそうだ。こうしたステージ上で見せる表情とは裏腹に普段は割と暗い感じの男であるということを知っているからこそより強くそう感じるし、JIM自身もきっとこうしてファンの前でライブをすることで生きている実感を得られているはず。我々はその姿を観て我々自身の生きている実感を得ることができる。「Re-unite」というライブタイトル通りに、そうやってお互い生きてきたんだよなということを再確認するような場である。
ステージ後ろから炎が噴き出すという、燃え盛るような演奏をさらに熱くする演出のあった「NO WAY」は観客が一緒になって声を上げるフレーズだらけの曲であるものの、やはり声は出すことはできない。でもそうしたフレーズに合わせて腕をあげたりするファンは間違いなくみんな心の中で声を上げている。それが染み付いているのだから。
「THE BAWDIESでーす!」
とROYが久しぶりの有観客ライブであることの感慨を語りながら、この日は配信も行われていたということで、画面の向こうで観ている人たちへのアピールも忘れないというあたりはさすがである。
「行きたかったけど行けない」という状況で配信を観ている人もたくさんいるであろうだけに、そうした人もROYのこうした配慮は目の前で見ることができない寂しさを和げてくれるんじゃないかと思う。このライブより前に行われた配信ライブをそうした感じで見ていただけに。
ROYはやはり「Section #11」のツアーが中止になってしまったことについても口にすると、その「Section #11」のオープニング曲である「DON’T SAY NO」からはまるでアルバムのツアーの続きのように。TAXMANとJIMのギターがサイケデリックに展開していくのにMARCYのドラムは激しくなっていくというセッション的なアウトロに中止になったとはいえ確実にアルバムの曲がライブで進化してきた軌跡を確かめることができると、キャッチーの極みと言えるようなサビで重なるメンバーの声に観客のものも重なっているようにも感じられる「LET’S GO BACK」、TAXMANボーカルによってストレートかつシンプルなロックンロールに感じられる「EASY GIRL」ではサビを歌うTAXMANの後ろにROYがピッタリとくっついてベースを弾き、メインボーカルではない曲であっても自分が一番目立とうとするという配信ライブで会得した手法を今回も発揮。最後にはJIMも2人の方に寄ってきて固まって演奏していたが、ROYは当たり前のように後でTAXMANに突っ込まれていた。
傑作アルバムをリリースしたばかりだというのに、ライブができなかった時期であってもというか、ライブができなかった時期だからこそというか、さらなる新曲が次々と生み出されていることを明かすと、すでに配信ライブでも披露していた、歪んだギターのロックンロールさと、4つ打ちのドラムの軽快さの融合が面白い新曲へ。
MARCYが「提灯」と名付けたというのは意味不明であるが、演奏前にそのタイトルを言われたことによって、なぜかそのイメージが曲についてしまうのが不思議。ということは案外イメージとしては外れていないのかもしれない。確実にタイトルは変わるだろうけれど。
ちなみにMARCYはインディーズ時代にも
「THE BAWDIESが最高の曲を生み出したらどんなタイトルにしますか?」
という問いに「鏡」と答えたらしいが、弟分のgo!go!vanillasが新作に「鏡 EP」というタイトルをつけたので、バニラズの次のアルバムは「提灯 LP」になると予言していた。どんな偶然なんだろうか。
するとライブではおなじみのメドレーへ。「KICKS!」〜「LEMONADE」〜「KEEP YOU HAPPY」という、しっかりそれぞれをサビまでしながらも3曲をAメロ、Bメロ、サビという形に繋ぐという構成にしているのだが、こうして繋ぐからこそ「KEEP YOU HAPPY」の多幸感がより強く感じられるし、それは同期のストリングスの音を取り入れた「HAPPY RAYS」もそうだ。この音楽を目の前で鳴らしてくれていれば、我々はどんなに苦しかったり最低な世の中であっても笑って過ごしていけるような気さえしてくる。そう思わせてくれる音楽の力、ロックンロールの力。それをTHE BAWDIESは確かに持っている。
「出てきて最初に音を鳴らした時に、前にいる人たちが「うるさっ!」みたいな顔をして。でもそれがいいんだよね。ロックンロールは大きな音で鳴らすのがカッコいいんだから」
という久しぶりのライブの1音目の衝撃をJIMがわかりやすく言葉にすると、先日配信され、MVも公開されたばかりの新曲「SUN AFTER THE RAIN」へ。MVでの新しい技術を使った企画でROYがスベり倒しているというか、メンバーからも全くリアクションがないことに憤慨しながらも、タイトル通りに雨が降った後に太陽が現れるという、どうあっても現在の世界の状況と重ねて聴こえてしまう曲。そこに太陽という名の希望が強く感じられるのはTHE BAWDIESだからこそであるし、それはスモークと紙吹雪が舞うという華やかなライブだからこその演出がより強く感じさせる。つまりは「Section #11」からの絶好調モードは以前継続中真っ只中なのである。
それをさらに感じさせたのは、さらなる新曲が演奏されたから。MARCYが「カラクリ」と評したことによってどうしてもそのガチャガチャとした機会的なイメージを感じてしまうが、クリーントーンのギターが引っ張るメロとキメ連発のリズムからサビで一気にキャッチーに振り切れるという一筋縄ではいかない構成の曲。と聴いたイメージをつらつらと書いていくと「カラクリ」と言えなくもないような気もしてくるのがやはり不思議。
再びTAXMANメインボーカル曲の「B.P.B」で踊らせまくり、飛び跳ねさせまくると、ここでこれを観るのも久しぶりの「HOT DOG劇場」へ。
「ソウダセイジ(ROY)と舟山卓子(TAXMAN)のラブコメシリーズ」というツアーの続編であるが、JIM演じる同級生のガリ勉メガネ君のあらすじ紹介も含め、あまりにも長くなりすぎているためについにメンバーは事前に吹き込んだ声に合わせて体を動かすという芝居にシフト。JIMはカンペを読む場面もあったりしただけにこの方式になってホッとしてそうであるが、前回は卓子の幼なじみでありソウダセイジの恋のライバルの男を演じたMARCYは何故か今回はソウダセイジを狙うストーカーの女役になるというキャラの定まらなさ。
そんなストーリーやクオリティが急激に上がった劇場を経ての「HOT DOG」はやはりこの日の最高沸点と言ってもいい盛り上がりを見せるのだが、最後のサビ前の「1,2,3,hey」のフレーズですらも声を出すことはできないけれど、思いっきり跳ぶことはできる。1席空けているからこそ、隣を気にせずに踊りまくることもできる。いつもと違う楽しみ方をしなくてはいけないライブではあるけれど、いつもと同じように楽しい。ライブが進むたびにそれがわかってくる。
そんな「HOT DOG」で熱くなったステージと客席を「BLUES GOD」のブルースというよりもやはりもはやロックンロールというグルーヴがさらに熱くさせると、軽快なメロディに合わせて観客が腕を上げたり指を「1,2,3」と掲げたりするキャッチーな「SKIPPIN’ STONES」と後半に再び「Section #11」の曲を並べるあたり、この曲たちは今後もライブの主力を担っていく曲になりそうだ。それくらいにキャッチーであるし、「SKIPPIN’ STONES」の最後にMARCYのドラムが一気に激しくなるという展開はまたライブハウスでも早くTHE BAWDIESのライブを観たいと思わせてくれる。
また、「SKIPPIN’ STONES」の途中ではROYが明らかに自身のベースに違和感を感じて後ろのアンプの方を振り返るという場面もあった。すかさずローディーの人が直していたが、TAXMANもその瞬間にすぐにROYの後ろに回ってベースを直そうとしていた。仲が良いというのは間違いのないバンドであるが、やはりそういう時に瞬時にメンバーのために体が動くというあたり、この4人は運命共同体というか、ロックンロールの神様みたいなものに選ばれた存在なんだと思う。
するとここでJIMがギターを下ろしてステージから去っていったので、久しぶりのライブということもあるし、このくらいまでかな?と思っていると、ステージにはキーボードが運ばれてくる。
「ここまではメンバーがいたから私だけをしっかり観る時間がなかったでしょう」
と言いながらもなかなかROY1人にはならないのはTAXMANがステージに居座っているからで、TAXMANはそのままキーボードで見事に「猫踏んじゃった」を弾いてみせる。ROYはそれに合わせて適当な歌(ゴスペルっぽく聞こえるのがすごい)を歌うのだが、これは著作権を考慮した配信対策らしい。
そんなやり取りもありながらTAXMANがステージを去ると、ROY1人だけでキーボードを弾きながら歌う「STARS」へ。ROYの提案によって客席では星が輝くような観客のスマホライトが光るのだが、まだ今のような世の中になる前に作られたこの曲も全く曲のタイプは違うが、「SUN AFTER THE RAIN」と同じような気持ちを持って作られたという。
普段から我々を日の当たる場所や光の差す方へ導いてくれるROYにも落ち込んだりする時がある。それはこれまでに作ってきた曲を聴けばわかることでもあるけれど、そうした「楽しい」という感情だけで生きている人ではないのがわかっているからこそ、THE BAWDIESのロックンロールは説得力を持っているのかもしれない。
そして最後に打ち上げ花火として演奏されたのは「JUST BE COOL」。サビを一緒に歌うことはできないし、ROYの超ロングシャウトに歓声を浴びせることもできない。でもだからと言って物足りないライブだったのかと言われたらそれは絶対にNOだ。THE BAWDIESのどこに惹かれてこうしてライブを毎回観に行くようになったのか。それはただひたすらにバンドのライブがとんでもなくカッコ良かったからである。曲をほとんど知らない、歌えない状態であっても。声を出せないからこそ、逆説的にそんなこのバンドの強さを思い知らされることとなった8ヵ月ぶりの有観客ライブであった。
演奏が終わると速やかに法被を着てきた大将ことTAXMANによる「わっしょい」へ。もちろん観客は声を出せないので、腕を上げたり正拳突きをしたりというアクションと心の声で大将の「わっしょい」に応じる。
どんなに楽しくて我を忘れそうであっても、大声を出してはいけないというルールは全員がしっかり守っていた。それはそうだ。そのルールを破ってしまったら、自分たちに光や希望を与えてきてくれたメンバーたちに迷惑がかかってしまうということをTHE BAWDIESのファンはちゃんとわかっているから。メンバーを悲しませたりしないために、決められたルールの中でロックンロールを楽しむ。バンドとメンバーはもちろん、集まったファンたちも最後までカッコいいロックンローラーだったのだ。
自分は度々「THE BAWDIESには選ばれたバンドだけが体現できるロックンロールの魔法がかかっている」と評してきた。それはこのコロナ禍の世界でも変わることはない。(THE BAWDIESの時は日本じゃなくて世界と言いたくなる)
それはこれからどんな世の中になってもTHE BAWDIESが転がり続けていく限りはそれは決して消えないということ。そしてどんな凶悪なウイルスであってもロックンロールを殺すことはできないということ。願わくば、またすぐにでもこうして会えるように。中止になってしまったツアーがまた再開できますように。
1.I BEG YOU
2.IT’S TOO LATE
3.NO WAY
4.DON’T SAY NO
5.LET’S GO BACK
6.EASY GIRL
7.提灯 (新曲)
8.メドレー
KICKS! 〜 LEMONADE 〜 KEEP YOU HAPPY
9.HAPPY RAYS
10.SUN AFTER THE RAIN
11.カラクリ (新曲)
12.B.P.B
13.HOT DOG
14.BLUES GOD
15.SKIPPIN’ STONES
16.STARS
17.JUST BE COOL
文 ソノダマン