今年はコロナ禍によって、関東地方では春以降フェスらしいフェスが全く行われなかった。
川崎の野外会場で毎年開催されてきたBAYCAMPもやはり同会場での予定通りのスケジュールでの開催をすることはできず、9月から11月に開催を延期し、会場も今年横浜に新しくオープンしたぴあアリーナMMに変更。それでもこうして今年フェスに参加できることが本当に嬉しい。
入場前には個人情報フォームへの入力、検温、消毒、入場後は座席は1つずつ開けられ、最前ブロックのスタンディングエリアは細かくブロック分け、さらには立ち位置も床に貼ってあるというソーシャルディスタンス対策がなされている。メインの2ステージ制というあたりは例年と変わらないが、会場のキレイさと対策っぷりは毎年帰りのシャトルバスを倒れそうになるくらい長い時間並ばされたり、トイレが次々に使用禁止になるという体たらくを発揮していたBAYCAMPらしからなさ。
10:25〜 LIGHTERS [EAST ISLAND STAGE] (Tip Off Act)
オープニングアクトという立ち位置のTip Off Actは東京のスリーピースバンドのLIGHTERS。ギター&ボーカルとベースが女性という編成である。
羊文学やHomecomingsというバンドたちを彷彿とさせるUSインディーに強い影響を受けているであろうサウンド。それを大きな会場で大きな音で鳴らせる喜びをかみしめるような満面の笑みを浮かべながらの演奏。(ボーカルはハーフなんだろうか、英語歌詞の歌唱も実に自然だ)
シンプルなサウンドながら演奏も実にしっかりとしており、なんならアジカンのツアーのオープニングアクトとして出てきてもおかしくないような雰囲気も感じる。わずか20分ほどという短い時間であったが、
「ずっと憧れだった」
というフェスの10周年のスタートを、このバンドが確かに切り開いたのだった。
11:00〜 東京初期衝動 [PLANT STAGE]
夏にはこのコロナ禍の中では異例と言っていいリキッドルームでの椅子なしスタンディングワンマンライブを敢行し、絶対に音を鳴らすのを止めないというバンドのスタンスを証明してみせた、東京初期衝動。しかしながらベーシストの脱退に伴い、このライブから新ベーシストが加入という、新たな体制のお披露目ライブとも言える状況となる。
おなじみのTommy february6「je t’aime ☆ je t’aime」のSEで希(ギター)、なお(ドラム)に加えて新メンバーのあさか(ベース)も先にステージに。見た目のバランス的にはこの日がこの編成での初ライブとは思えないくらいに馴染んでいる。
3人が楽器を手にして爆音を鳴らすと、椎名ちゃん(ボーカル&ギター)も登場してギターを重ね、
「お久しぶりです、東京初期衝動です!」
と挨拶して「Because あいらぶゆー」からスタート。やはり爆音、轟音。それはリキッドルームのワンマンの時にも思ったことだけれども、こうして目の前で音を鳴らしているからこそ感じられる圧。実質的なトップバッターであるが、やはりフェスの始まりはこうしたサウンドであって欲しいと個人的には思う。
椎名ちゃんがギターを置くとハンドマイクでステージを歩き回りながら歌う「高円寺ブス集合」へ。おなじみの曲中の「バニラの求人」の大合唱パートでは観客は声を上げることができないが、その分メンバーが思いっきり声を張り上げる。新メンバーのあさかもコーラスを務めているあたりはこのライブに向けて入念にスタジオに入ったりしてきたのだろう。椎名ちゃんは一瞬転んでしまったようにも見えたのだが大丈夫だっただろうか。
そうして、このバンドはこういう世の中の状況でもこんなに広いアリーナのステージでも全くスタイルが変わらないのだが、「流星」のサビではこのPLANT STAGEの上部に設置されているミラーボールが美しく煌く。EAST ISLAND STAGEにはミラーボールがないだけに、これはこのバンドにこの曲があって、それを演奏するときにこの演出が絶対似合うはずだというのをわかっている主催者(P青木はバンドの全国ツアーに帯同しているくらいに期待している)やスタッフのこのバンドへの愛あってこそ。
歌詞の韻の踏み具合が曲のキャッチーさを引き上げる「BABY DON’T CRY」、メンバーのコーラスもまた然りな「STAND BY ME」と、やはりこのバンドがこのステージに立てるまでになったのは曲が良いというのが最大の理由だよな、というのがわかる流れから、再び椎名ちゃんがハンドマイクでステージ上を歩き回り、飛び跳ねながら歌う「黒ギャルのケツは煮卵に似てる」では履いているズボンが鍛えた体からずり落ちそうになりながらも、
「峯田和伸大好き」
のフレーズを
「東京初期衝動大好きー!」
に自ら変えてみせる。きっとこのライブを見ていた人たちはみんなそう思っていただろうし、それをライブの場で一緒に叫べるような世の中になって欲しいと心から思う。
ノイジーなギターサウンドのパンク曲「兆楽」から、このフェスから再びフェスの灯が灯されることを告げるような「再生ボタン」へ。
「僕だけが止まった気がした」
というフレーズがコロナ禍で止まってしまった音楽が好きな人たちのライブへの想いを再生していく。バンドの演奏も椎名ちゃんのボーカルもアリーナで観れていることに違和感を感じないレベルになっている。
そしてやはりこの日もMCなしという、いつかご本人たちにそうしたライブのスタイルにたどり着いた理由を聞いてみたいと思うくらいに演奏だけに特化したライブの最後に演奏されたのは「ロックン・ロール」。
「ロックンロールは鳴り止まないって
誰かが言ってた 誰かが言ってた」
その「ロックンロールは鳴り止まない」と歌った、このバンドにも多大な影響を及ぼしているであろう存在の神聖かまってちゃんはこの日ラインアップに名を連ねている。ついに同じステージに立つ日が来たのだ。かまってちゃんが鳴り止ませなかったロックンロールを、今このバンドが鳴らしている。それはまた新しい世代へこれからも継承されていく。このバンドの音楽を聴いてバンドを始めたという女の子もたくさんいるはずだから。
東京初期衝動は来年にあさかを加えた体制での武者修行的なツアーに出ることを発表した。ライブを重ねることでバンドの存在は練り上がっていくということをわかっているから。その先にこうした広い会場のステージがきっとある。
どんなに世界の状況が変わっても、アリーナという大きな会場になってもこのバンドが変わることは全くないけれど、それでもいつかこういう会場でこのバンドがワンマンライブをする姿を見てみたいと思う。この日、この場所で東京初期衝動のライブが観れたのは幻なんかじゃなかった。
1.Because あいらぶゆー
2.高円寺ブス集合
3.流星
4.BABY DON’T CRY
5.STAND BY ME
6.黒ギャルのケツは煮卵に似てる
7.兆楽
8.再生ボタン
9.ロックン・ロール
11:45〜 超能力戦士ドリアン [EAST ISLAND STAGE]
リハからガンガン曲を演奏(?)していた、超能力戦士ドリアン。このフェス主催者のP青木の生誕祭に出演したりしているくらいの関係のバンドでもある。
やっさんとけつぷりというギタリスト2人がステージに登場するも、ボーカルのおーちくんは姿を現さず、やっさんがそのことにセルフツッコミを入れると、恐竜の着ぐるみがステージに現れて「恐竜博士は恐竜見たことないでしょ」からスタート。
ギター×2とボーカルというリズム楽器のメンバーがいない編成であるが故に、以前にライブを見た時はひたすらに面白いバンドというイメージであり、やはり面白いことには間違いないのだが、やっさんとけつぷりのギターの圧力、さらにはまるでアスリートのような出で立ちになったおーちくんのボーカルの力が非常に強くなっており、その演奏する姿からはどこかキュウソネコカミや四星球に通じるような熱さも感じさせる。
かと思いきや「天保山」では歌詞の「海遊館」のフレーズに合わせて、声が出せない観客もメンバーと一緒に「KYK」の人文字を作ったり、演奏せずに踊りながら歌うフォーメーションも無駄にやたらと洗練されてきている。とはいえその姿からはどこかキングオブコントの舞台であるかのようなユーモアさも感じてしまうけれど、それはリアルに炊飯器をステージに持ち込んでご飯をラップに包む「ご飯を多めに炊いてラップに包んで冷凍する人を褒めるラップソング」で無駄に極まっていく。
「声が出せない」ということは、曲を歌うことができないどころか、このバンドのライブではおなじみである
やっさん「いいですかー?」
観客「興味あるー!」
のコール&レスポンスもできないということで、観客は声を出さずに腕を挙げるだけにならざるを得ないのだが、それでもこのコール&レスポンスが徐々にではあるがしっかり浸透してきていることを感じさせる。
バンドの自己紹介ソングと言ってもいいような「いきものがかりと同じ編成」でバンドの存在をしっかりアピールし、この日ライブを見ていた人に忘れられないような爪痕を残すと、最後は未だにこのタイトルや歌詞の着眼点の秀逸さとメンバーの聡明さに感心せざるを得ない「焼肉屋さんの看板で牛さんが笑っているのおかしいね」。
視点はまるっきり逆であるけれど、打首獄門同好会「ニクタベイコウ」と並ぶくらいに、ライブ後に焼肉を食べたくなる曲。そんな曲を聴いていて得ることができる楽しいという感情は、自分が確かにフェスという場にいれているということを実感させてくれる。
キュウソをリスペクトする曲があるバンドであるし、面白いバンドという系譜的にはどうしてもそのキュウソやヤバTと比較されてしまう存在ではあるが、リズムが打ち込みという編成がその2組のようなライブバンドとして見てもらえない要因でもある。それはもう仕方がない。いろんな人に指摘されながらも、あえてそれをしないという選択を取っているということは、自分たちだけのやり方で他のバンドと同じような満足感を与えようとしているということ。その花が咲くような予感が感じられるような気が確かにした。
リハ.かんでみ〜んなハッピー!
リハ.万有インド力
1.恐竜博士は恐竜見たことないでしょ
2.ボールを奪い合う選手全員に1つずつあげたい
3.天保山
4.ご飯を多めに炊いてラップに包んで冷凍する人を褒めるラップソング
5.尊み秀吉天下統一
6.いきものがかりと同じ編成
7.焼肉屋さんの看板で牛さんが笑っているのおかしいね
12:30〜 Wienners [PLANT STAGE]
かつてはこのフェスのオープニングアクトとして出演したこともある、Wienners。当時からすでにオープニングアクトで出るバンドにしてはかなり名の知れた存在であったが、今やこのフェスにはなくてはならない存在である。
メンバー4人がステージに登場すると、いきなりの「蒼天ディライト」で客席の腕が左右に揺れるとともに、玉屋2060%(ボーカル&ギター)と560(ベース)は演奏しながら激しくステージを動き回る。まるで最近ライブをできなかった鬱憤を全てステージ上のパフォーマンスに変換するかのようであるが、やはり笑顔を浮かべながら手数の多いドラムを叩くKOZOらとは対照的にアサミサエ(キーボード&ボーカル)はこうしてライブができていることを噛み締めるかのように音を鳴らして歌っている。
今年、バンドは自粛状況下の中でもアルバム「BURST POP ISLAND」をリリースしており、「LOVE ME TENDER」などの代表曲に交えて「ANIMALS」「UNITY」というアルバム収録曲も披露されるのだが、この状況下で聴くにはあまりにモッシュやダイブなど激しい楽しみ方をしたくなる、つまりはWiennersのど真ん中であるキャッチーかつパンクな音楽をさらに研ぎ澄ませたような曲たちであり、しかもライブができていない状況であるにもかかわらず、定番曲と全く変わらないライブでの演奏のクオリティ。こうした機会が来ると信じてずっとバンドでリハを重ねたりしてきたであろうことがすぐにわかる。
そんな中でもパンクさだけで押し切るのではなく、短い時間の中に玉屋の内省的な一面を感じさせるような「午前6時」をじっくりと聴き入らせるように演奏して幅の広さを示しながら、玉屋はかつて2013年にオープニングアクトとしてこのフェスに初出演した時のことを回想する。深夜の時間や雨が降っている中など、初出演以降毎年出演してきたこのフェスで見てきた景色を全て口にしていくと、
「みんな、音楽を止めたくないからここに来たんでしょ!?」
と問いかける。それは初出演時と今では2人のメンバーが入れ替わり、それでも音を止めることなく活動してきたこのバンドだからこそ説得力を持つし(アサミサエは玉屋の言葉を聞いた後に拍手をしながら少し感極まっているように見えた)、
「眠れない夜は大きな声で泣いてね
涙は僕が全部食べてあげるから」
という「ゆりかご」のフレーズはこうした状況の中で我々が抱えている不安をバンドが全て受け止めてくれるかのように鳴らされていたし、ラストの「BURST POP ISLAND」でも最後を飾る「FAR EAST DISCO」のみんなで踊れて歌える、Wiennersの新たな代表曲になること間違いなしのポップなメロディは、いつかこの状況が明けて、観客もみんな声を出していいというライブに戻った時にみんなでこの曲を歌いたいと思わずにはいられなかった。
2013年にこのバンドがオープニングアクトで出演した時のライブを自分は見ている。あれから7年も経ち、バンドはメンバー交代やメジャーデビューなどの怒涛な日々を過ごしてきた。でも根っこにある1番強くて変わらないものは「ライブバンドである」ということ。それがどれだけステージにおいて説得力を持っているかということを改めて思い知らされた。
1.蒼天ディライト
2.ANIMALS
3.LOVE ME TENDER
4.午前6時
5.UNITY
6.ゆりかご
7.FAR EAST DISCO
13:15〜 TENDOUJI [EAST ISLAND STAGE]
今やリキッドルームクラスがワンマンでソールドアウトするくらいの人気バンドになっている、千葉県松戸市出身のTENDOUJI。個人的には北浦和KYARAがなくなる時にthe telephonesのライブにゲスト出演した時以来のライブ。あれが今年の1月だったから、あの頃はKYARA以外のライブハウスがたくさんなくなってしまうなんて全く思っていなかった。
メンバー4人がステージに登場すると、ヨシダタカマサ(ベース)はフライングVを持ってバンダナを巻き、オオイナオユキ(ドラム)はバスケのユニフォームを着ているというキッズ感満載で、「太ってる方」ことアサノケンジ(ボーカル&ギター)の出で立ちとともに、音楽だけを聴いたら松戸出身っていうのが近隣市民としては信じられないくらいに洋楽っぽいけれども、その姿を見るといつも「ああ、とみ田(松戸の有名なつけ麺屋)のカウンターに座ってそうだな」って思える。
さてライブの方はというと、モリタナオヒコ(ボーカル&ギター)が冒頭から熱く歌い、メンバーも激しく演奏する「COCO」、本来なら観客も一緒になってコーラスを大合唱するはずの「Killing Heads」とキラーチューンを連発するのだが、明らかに前回見た時以上のその熱さによって、曲のイメージも洗練されたUSインディー的なイメージから、紛れもないロックバンドとしてのものに変換されていく。
モリタナオヒコとアサノケンジは同じボーカル&ギターでありながら見た目もボーカルスタイルもかなり違うし、メインボーカルを取る曲のタイプもみんなで歌えるロックソングがモリタ曲だとするならば、「NINJA BOX」などのアサノ曲はチルな要素の強い内省的な曲。そこにはそれぞれの人間性の違いも反映されているのだろうけれど、見た目的には豪快な(泥酔エピソードも含めて)アサノの方が曲やボーカルは繊細さが見えるというバランスも面白いところだ。
こうしてこのフェスのステージに立っていることができる喜びをアッパーな曲の演奏と、アサノのP青木などの主催者への感謝の言葉で示すと、対照的にモリタはパーカーを汗で滲ませながら、
「俺は正直、音楽はなくても生きていけるものだと思っている。生きていく上では音楽よりもトイレットペーパーの方が大事だし。
そんな音楽を聴くためにこの状況の中で昼間からこうやって集まってるあなたたちは頭がおかしい人たちですよ!
でも音楽やイベントはそんなあなたたちに支えられているんです!」
と語った。生きていく上では必要ではないかもしれない音楽を、28歳を過ぎてから始めるというにわかには信じられない経歴を持つバンドのメンバーたちが選んだということ。そこにはなくても生きていけるかもしれないけど、なかったら他に何もすることもない、面白いこともないというメンバーの生き様が滲んでいた。
だからこそのラストのパーティーソング「GROUPEEEEE」は音源とはまた違う、熱いんだけど、その熱さや楽しさを感じられることの愛おしさを感じさせた。完全に初のアリーナでのライブであっても、全く不釣り合いな感じはしなかったこのバンドは、これから先もこうした広いステージに立つ姿を見れるようになるかもしれない。
1.COCO
2.Killing Heads
3.NINJA BOX
4.YEAH-SONG
5.Kids in the dark
6.Peace Bomb
7.HAPPY MAN
8.THE DAY
9.GROUPEEEEE
14:00〜 teto [PLANT STAGE]
TENDOUJIが終わるや否や、すでにPLANT STAGEでセッティングを終えたtetoのメンバーはサウンドチェックで音を鳴らし始めた。
分厚そうなコートを着た小池貞利(ボーカル&ギター)、髪がかなり伸びた山崎陸(ギター)、逆に髪がめちゃくちゃ短くなり、今までは長い髪に隠れて顔がはっきりとは見えなかったのがちゃんと見えるようになった佐藤健一郎(ベース)、いつもと全く変わらない福田裕介(ドラム)の4人がバンドバージョンの轟音で「光るまち」を演奏し始める。小池は歌詞を
「あのライブやフェスはなくなってしまっても
それでもこうして…」
と変えて歌う。春から今に至るまでになくなってしまったたくさんのライブ。teto自身もバンド最大規模となるZepp DiverCityワンマンや、KANA-BOONとの2マン、今年も様々な場所に行くはずだった夏フェス…。たくさんのライブをやる機会を失ってしまった。それでもこうしてこのフェスが開催されて、こうして目の前で音を鳴らしている。その事実だけで泣きそうになってしまう。
「Pain Pain Pain」もサウンドチェックでやっていたので、本編では小池が早口で捲し立てまくり、山崎がその場で腿上げをするようにしてギターを弾く「暖かい都会から」でスタートするのだが、小池は早くもステージ上を所狭しと暴れまくる。
このBAYCAMPの前夜祭的なイベントの「DOORS」では小池がステージから降りて客席に突入したりもしていたようだが、さすがに今回はそうしたパフォーマンスはなし。
であるが、ライブが満足にできていなかった衝動をステージ上での暴れっぷりに変換してみせるのはいつものライブと同様という感じだけれど、「this is」でのパンクサウンドがさらに強くなったアレンジからはライブができない期間の鬱憤を曲に反映させて消化させているということを感じさせる。
「ねえデイジー」「invisible」という曲たちはフェスの短い持ち時間でやるのは少し意外な感じもしていたが、そうしてやる曲が毎回同じにならないというスタンスはこのバンドの暴れっぷりの強いパフォーマンスの上で重要な要素である気もする。
「9月になること」もまた「this is」と同様にパンク色が強いアレンジで演奏されたのだが、小池が暴れすぎてサビを歌えなくなっている間にコーラスでそこを担う佐藤の頼もしさがここに来てさらに強くなっているが、
「人によってはなんもない夏だったかもしれないですけどね、去年よりも今年の夏、今年の夏よりも来年の夏を楽しくしたい、そうやって生きていきたいんですよ」
と小池が口にしてから演奏されたのは、まさにその言葉そのものを曲にしたというような最新曲「夏百物語」。今年の夏は本当に何もない夏だった。どこにも行けなかったし、本来ならば見ることができたはずのこのバンドのライブを見ることもできなかった。それでも来年の夏はきっと、今年の夏よりは…。過ぎ去った夏を思い出すような「9月になること」の後に演奏されたこの曲が一層その思いを強くしてくれる。
「音楽がなくなるわけないだろ、こんなに楽しいんだから」
というさりげない小池の一言ですらも今の状況で聞くと感動的に響くし、その後に演奏された、パンクさも性急さもないがただ優しさと暖かさに満ちている「手」を聴くと、この日みたいな、バカバカしい平坦な日常がいつまでも続いて欲しいのに、と思う。
そしてラストはやはり小池がステージを暴れ回り、もんどりうちながらも歌う「拝啓」。このバンドのライブのスタイルこそが刹那的とも言えるけれども、そんなステージで小池は
「今まで出会えた人達へ
刹那的な生き方、眩しさなど求めていないから
浅くてもいいから息をし続けてくれないか」
と歌う。それは客席にいた我々を含めた、この時代を生きる全ての人へのメッセージだ。またこうしてこのバンドのライブを見れるように、その日まで息をし続けていたい。終わった後にそう思えるくらい、tetoのライブは生きるための力をくれる。バンドがこれ以上ないくらいに生きているということを証明しているから。
リハ.光るまち
リハ.Pain Pain Pain
1.暖かい都会から
2.this is
3.ねえデイジー
4.invisible
5.9月になること
6.夏百物語
7.手
8.拝啓
14:45〜 HUSKING BEE [EAST ISLAND STAGE]
どこか客席にいる観客までもがこれまでの時間と様変わりしているように見えるのは、若手バンドにとっては父親くらいの年齢と言ってもいいベテランバンドのHUSKING BEEが登場したからである。
磯部正文(ボーカル&ギター)、平林一哉(ギター&ボーカル)、工藤哲也(ベース)に加えて、ドラムには盟友のFRONTIER BACKYARDの福田”TDC”忠章を迎え、リリースされたばかりの新作フルアルバム「eye」収録の「Memories Of You」からスタートするのだが、「eye」が原点回帰を思わせるような爽快なパンク、ロックアルバムとなっているため、結成25年を超える大ベテランバンドとは思えないくらいにライブから受けるイメージそのものも瑞々しくなっている。
「by chance」という代表曲も手数の多さと正確無比さを備えた福田のドラムが新たな屋台骨としてまとめあげることによって、磯部の独特な声質のボーカルと平林の美声ボーカルまでをもさらにフレッシュなものとして輝かせている。
中盤には「eye」の曲を続けたのは自分たちの生み出した新しい曲たちが今の音楽シーンにもきっと響くはずである、という意思を感じさせながら、工藤はTENDOUJIのライブを見ており、その際にメンバーがMCで言っていた主催者への感謝の言葉に自身の持つそうした想いを重ねていく。
「今のこの世界を、太陽と月はどう見ているんだろうか」
と、いわゆるエアジャム世代のソングライターの中でも屈指の詩人でもある磯部の言葉によって演奏された「The Sun and The Moon」からはその前に演奏された「NEW HORIZON」を含めて代表曲にして名曲を連発。
とりわけ、
「BAYCAMPに新しい風が吹きますように」
と言って演奏された「新利の風」、そして近年は横山健がライブでカバーしていることによって若い人達にもそのメロディの美しさが伝わっている「WALK」というクライマックスでの名曲の畳み掛けっぷりは、今もハスキンの曲が世代や時代に左右されない魅力を持っていることを証明していた。
ハスキンはもうメンバーが40代後半になっているし、工藤は音楽以外の仕事をしながら生活している。磯部もそうした工藤の生き方を見て、音楽以外の仕事をしてみようと思ったこともあったらしいが、当時BEAT CRUSADERSで時代を作ったヒダカトオルに
「あなたは何を言ってるんですか?あなたの音楽を待っている人が世の中にはたくさんいるんですよ?」
と言われ、そのヒダカのプロデュースによってソロアルバムを作り、それがハスキンの復活にも繋がってきた。
ハスキンのメンバーがそんな世代ということは、長く聴いてきたファンもそれに近しい世代の人が多いはず。工藤と同じように平日は責任のある立場として働いて、でも家族もいてコロナが心配で…という人たちが。
そうした人達からしたら、ハスキンがこの状況でもこうしてライブをしているという姿は大きな希望であり力になるはず。特に青春時代をこのバンドの音とともに過ごした人達からしたら、この状況でバンドが生の音を鳴らす姿や、発する言葉を聞くことができるのだから。そしてそれはきっとその下の、初めてライブを観たという人達でも何かしら感じることがあるはず。
15:30〜 LOW IQ 01 & THE RHYTHM MAKERS +
HUSKING BEEのライブでの演奏終了後に磯部は
「次は市川君です!」
と、次の出演者であるLOW IQ 01を紹介した。この2組の並びだけを見たら、このイベントがAIR JAMやDEVILOCKのようですらある。
そのLOW IQ 01は近年おなじみのフルカワユタカ(ギター)と山崎聖之(ドラム)によるスリーピースバンドのTHE RHYTHM MAKERS名義での出演なのだが、今回は「+」が末尾についており、先頃行われたワンマンライブにも参加していたASPARAGUSの渡邊忍もギタリストとして参加するというフォーピース編成である。
なのでDOPING PANDAのボーカルとASPARAGUSのボーカルがギタリストとして参加しているというやたらと豪華な編成となっているわけだが、渡邊忍は冒頭から暴れまくる、ステージから袖に消えてギターを弾くというキャラ通りの自由っぷりでこの特別な編成だからこその楽しさを声が出せない、モッシュができないという状況でもより引き出してくれる。
ベース&ボーカルのLOW IQ 01はさすがにかつてのMASTER LOW編成の時のハンドマイク歌唱のように自由にステージ上を歩き回りながら歌うことはできないが、ベース&ボーカルだったSuper Stupidとしての姿をケジメのラストライブでしか見たことがない身としてはLOW IQ 01の出発点としての形を見れるというのは実に嬉しいことだ。
そのLOW IQ 01は観客が声を出したりできないのをわかっているから、おなじみの「あ・ば・れ・ろー!」も
「心の中であ・ば・れ・ろー!」
に変えて叫ぶのだが、「Hangover Weekend」をはじめとしたパンクな選曲とサウンド、ライブパフォーマンスは声が出せないという観客の状況を全く考慮してないくらいに攻めまくっているし、一時期よりはだいぶボーカルとして声が出るようになっているように思う。
観客が声を出せないだけにリアクションがわからないというLOW IQの話に対して渡邊は
「声が出せなくても男ならあそこをおっ勃ててくれればすぐにわかるから!フル勃起させてくれ!」
ととんでもない下ネタで応える。そのリアクションすらも声が出せないからわからないという状況であるが。
その渡邊は後半はさらにステージングに勢いが増し、フルカワとステージ前まで出て行っては並んでギターを弾くという自身の立ち位置を完全に無視したパフォーマンスにLOW IQから
「戻ってこーい!」
と突っ込まれるなど、普段は突っ込まれる側のLOW IQがツッコミ役に回るほど。
そのLOW IQも
「来月誕生日を迎えるんだけど、50歳になります!えー!見えなーい!ハイ、みなさんの心の声を代弁しました!(笑)」
とこれまでと変わらぬ伊達男っぷりを見せながら、誕生日に行われる配信ライブの告知をすると、最後まで
「あ・ば・れ・ろー!」
と見た目同様にパフォーマンスも50歳には見えないアグレッシブさで「MAKIN’ MAGIC」、最後は渡邊がギターを弾きながらステージをひたすら走り回り、曲終わりには疲れ果てて倒れ込むという姿についつい笑ってしまうし、その姿を見ていると不安もなくなってしまうような「LITTLE GIANT」へ。山崎もドラムを叩きながら満面の笑みを見せたりと、こうしてバンドをやっていることが4人とも本当に楽しそうで、40代後半や50代になる時にはこんな大人になりたいな、と思わざるを得なかった。
リハ.WHAT’S BORDERLESS
1.Every Little Thing
2.Snowman
3.Hangover Weekend
4.Swear
5.Delusions of Grandeur
6.So Easy
7.MAKIN’ MAGIC
8.LITTLE GIANT
16:15〜 忘れらんねえよ [EAST ISLAND STAGE]
おなじみの出番前のサウンドチェックからガンガン曲を演奏するというスタイルの、忘れらんねえよ。このBAYCAMPでは大トリも担ったことがあるという、フェスを代表する存在のバンドである。
ロマンチック☆安田(ギター)、イガラシ(ベース)、タイチ(ドラム)というサポートメンバーたちとともにステージに登場するも、やはり情勢的に客席の中からステージへ向かうというようなパフォーマンスはできないため、柴田隆浩(ボーカル&ギター)が真剣な面持ちで「この高鳴りをなんと呼ぶ」を歌い始める。
すぐさま「俺よ届け」という柴田の情念をキャッチーなメロディに乗せて叫ぶ曲に繋がるあたり、いつもとはやはりスタイルが違うな、とも思うけれど、自己紹介はやはり
「菅田将暉です!」
というものであり、好きだった人が自粛期間中に彼氏とさらに仲良くなっているというエピソードを話すあたりは紛れもなくいつもの忘れらんねえよである。
そんな柴田という男の情けなさを突き詰めたかのような最新曲「歌詞書けなすぎて、朝」はこのフェスが例年通りにオールナイトで開催された時の早朝の時間帯に演奏されるのを聴いたらまた違う景色が想起できそうだなと思う曲であるが、その後に演奏された「そんなに大きな声で泣いてなんだか僕も悲しいじゃないか」はまさかこういうフェスでやるとは思っていなかったバラード曲。それはこの今の世の中の状況によって選んだものなのかもしれないが、やはり忘れらんねえよの音楽、曲はメロディが素晴らしいということを改めて感じさせてくれる。
ヒトリエのライブ時以上にイガラシのコーラスがはっきりと聞こえる「だっせー恋ばっかしやがって」を演奏すると、柴田はこれまでにもライブのクライマックスで演奏されてきた「忘れらんねえよ」を歌い始めた。
真っ暗になった場内の客席では観客がスマホライトを揺らす。この状況になってライブがなかなか見れなくなってしまったことで、この景色と光の美しさも忘れかけてしまっていた。それが見れただけでも感涙してしまうようなものであるのに、ライブでのこの曲ではおなじみの、バンドが演奏を止めて観客だけで合唱するという時間も作った。もちろん歌は聞こえない。バンドの演奏もないだけに無音の時間。それでも心ではみんなが熱唱していただろうし、なんだか歌声が聴こえているような気がした。それはきっとこれまでに数え切れないくらいにこの曲をみんなで大合唱してきた景色が頭に焼き付いているからだ。
「絶対すぐにまたみんなで歌える日が来るから!」
という柴田の言葉には涙を禁じ得なかった。それはこれまでに忘れらんねえよが作ってきたものが間違いではなかった、心から最高で美しいものだったということの何よりの証だ。
そんなクライマックスのような時間を生み出しながらも、最後に演奏されたのは「バンドやろうぜ」。
「あいつのバンドがMステに出てるから」
といういつもなら最近Mステに出た知り合いのバンドの名前を出して羨ましがるフレーズも、この日は
「もうテレビがどうとかどうでもいいんだ!」
と歌った。それよりも大事なことがあるというのを柴田はわかっているから。
「泣いた さあ あの夜を越えていくんだろ
いつか花咲いたら みんなでビールでも飲もう」
この夜を越えてそのいつかが来た時にこの曲をライブで聴いたらきっと今よりももっと泣いてしまう気がした。
普段の忘れらんねえよのライブでのビール一気飲みなど、そうした飛び道具的なパフォーマンスはこの日は一切なかった。それができるような状況ではないし、それよりも今やらなければならないこと、伝えなければならないことが確かにあることをこの日のライブは示していたし、それが忘れらんねえよの芯にあるものがなんなのかを示していた。
リハ.バンドやろうぜ
リハ.Cから始まるABC
リハ.踊れひきこもり
1.この高鳴りをなんと呼ぶ
2.俺よ届け
3.歌詞書けなすぎて、朝
4.そんなに大きな声で泣いてなんだか僕も悲しいじゃないか
5.だっせー恋ばっかしやがって
6.忘れらんねえよ
7.バンドやろうぜ
17:00〜 大森靖子 [PLANT STAGE]
忘れらんねえよが「忘れらんねえよ」を演奏して観客がスマホライトを揺らしている時、隣のステージでセッティングをしていた大森靖子のバンドメンバーたちも自分たちの準備をよそに真剣に忘れらんねえよのライブを観て、スマホライトを揺らしていたりした。両者の関係性と忘れらんねえよのライブの感動がわかるような瞬間であった。
そんな忘れらんねえよのバトンを受け取ったのが、大森靖子。ピエール中野(ドラム)、世界のあーちゃん(ギター)という凄腕メンバーが揃った大所帯のバンドが音を鳴らし始めると、白いドレスを着た大森靖子がステージに登場し、あーちゃんも曲に合わせて振り付けをする「絶対彼女」から始まり、大森靖子プロデュースアイドルグループZOCの「family name」というキャッチーかつアッパーな曲で客席にピンクや紫色の鮮やかなサイリウムが揺れ、それを振りながら観客も踊りまくる。
しかしそんな空気は「rude」「あまい」と、聴き入らせるというよりもよそ見をすることすら許さないくらいに観客全員の目を惹きつけるような情念を込めた熱唱によって変化していき、「TOKYO BLACK HOLE」「流星ヘブン」と続いていった頃にはまるでメデューサに睨まれているかのごとくに身動きが一切取れない、ただただステージを凝視するしかないような状態になっていた。
そんな状況の最後に演奏するためにあるような曲である「死神」を含めて、声が出せないというよりも、声を出すことを忘れてしまうくらいに、主演:大森靖子の舞台を観ているかのような圧巻の35分間だった。
歌い終わった瞬間に魔法を解いたかのように、
「超歌手・大森靖子でした!」
と明るく言ってステージから去っていった時、敢えて本人が超歌手と名乗る理由がわかった気がした。
リハ.ミッドナイト清純異性交遊
1.絶対彼女
2.family name
3.rude
4.あまい
5.TOKYO BLACK HOLE
6.流星ヘブン
7.死神
17:45〜 サニーデイ・サービス [EAST ISLAND STAGE]
上下とも黒のシャツとパンツというシンプル極まりない出で立ちの3人がステージに登場すると、近年は髪が長くて髭も長いという風体のイメージだった曽我部恵一が髪も髭もかなりすっきりしており、ダンディにすら感じられるようになっていることに驚く。その曽我部恵一のバンド、サニーデイ・サービスがこの流れの中で出演するというあたりがベイキャンのカオスっぷりの象徴のような感じがする。
丸山晴茂の悲しい別れのあったドラムには大工原幹雄を迎えているのだが、その大工原の手数とパワーを兼ね備えた、ロックでしかないドラムの存在が結成28年にもなるバンドをさらにブーストさせるような要因になっているのか、2008年に再結成した後に見たライブではメロウな歌物ポップス的な要素がライブにおいても強かったのだが、完全にロックンロールバンドとしてのサニーデイ・サービスになっている。
そんな中にあっても、コンビニで売っているコーヒーを恋や人生そのものになぞらえるという曽我部恵一の変わらぬ詩人っぷりがうかがえる今年リリースの最新アルバム収録曲「コンビニのコーヒー」の見事な歌詞から、バンドシーン随一のラーメンマニアから今やラーメン評論家という立ち位置にまで進化した田中貴(ベース)もコーラスというよりももはやボーカルと言っていいくらいに吠えるように歌う「セツナ」ではアウトロで長尺の激しいセッション的な演奏に突入し、曲終わりでは曽我部恵一と田中が楽器をアンプに擦り付けるようにノイズを発しまくる。まるで若手バンドたちにこれがロックバンドの何たるかであるということをその身をもって伝えているかのようだ。
しかし最後には名曲「サマー・ソルジャー」を情感をたっぷり含んだボーカルで歌ってステージを去っていった。わずか6曲という短いライブではあったが、サニーデイ・サービスというバンドがどんなバンドなのか、そのバンドは今どんなモードで音を鳴らしているのかというのがしっかりと伝わってくるような35分間だった。HUSKING BEEもLOW IQ 01もそうだが、日本のベテランバンドマンたちはまだまだ元気だし、先日訪れた、下北沢にある曽我部恵一がオーナーを務めるスパイスカレーは実に美味だった。
1.Baby Blue
2.魔法
3.春の風
4.コンビニのコーヒー
5.セツナ
6.サマー・ソルジャー
18:30〜 夜の本気ダンス [PLANT STAGE]
かつてインディーズで「WHERE?」を含めたアルバム「DANCE TIME」がリリースされて評判を呼んだ頃に、夜の本気ダンスはBAYCAMPのオープニングアクトを務めた。その際に入場口で配られたカップヌードルが結局お湯がないから貰ったところで食べることができないということを鈴鹿秋斗(ドラム)がいじったりしていたが、あれから5年経って夜の本気ダンスはこのフェスを代表するような存在になった。
おなじみ「ロシアのビッグマフ」のSEでメンバーが登場すると、
「クレイジーに踊ろうぜー!」
と米田貴紀(ボーカル&ギター)が言って「Crazy Dancer」で幕を開け、早くも客席では観客が踊りまくっている。声は出せないけれど、この状況でも踊ることはできる。それを証明するかのように。ステージでは西田一紀が独特の色気を振り撒きながらギターソロを弾きまくる。
米田が早くもネクタイを外してギターを弾かずに軽やかなステップで踊りながら歌うのは「fuckn’ so tired」であるが、その後には鈴鹿がやたらと関東の観客に久しぶりアピールをするMCをするのを聞いて、関西では夏からフェスが行われていて、このバンドのライブを見れる機会が何度もあったんだよなと思うと羨ましくなってしまう。
そんな今年の自粛期間後にバンドは新曲をリリースしているのだが、ややダークなダンスロックチューン「GIVE & TAKE」も光溢れるようなサウンドとメロディの「SMILE SMILE」もライブではホーンのサウンドなどを同期で流している。鈴鹿はライブで生演奏以外の音を使うことにずっと抵抗があったとも語っていたが、このチャレンジは間違いなくバンドの幅と可能性を今後さらに広げていくものになっていくはずだ。
そして再び米田がハンドマイク歌唱になる「TAKE MY HAND」で再び踊らせまくると、ラストは「戦争」。それこそ初出演時からライブの最後に演奏することの多い曲であるが、この曲に込められた
「マジで マジで来ないで戦争」
というフレーズは現代の世界への警鐘としても聞こえるとともに、曲中の鈴鹿のカウントに合わせて歌うことができないという一抹の寂しさも感じさせたのだった。
バンド名からして夜の本気ダンスはかなり誤解をされやすいバンドである。騒げればいい、踊れればいいというフェスで若い人が見るようなバンドだと。
しかし踊るスペースはあれど、歌ったり叫んだりサークルを作ったりすることができないこの状況下であることがかえって、それでも心から満足できるようなライブができる、地力の強さを持ったバンドであるということを示している。すでに関西ではライブをやっているということもあるけれど、個人的にはライブハウスやスタジオなど、毎回テーマや課題を持って挑み、それをクリアしてきた配信ライブ「High Scene Boogie」シリーズを行ってきた成果が確実にリアルなライブでの成長に繋がっていることがわかるのが、配信ライブを見守ってきた身としては実に嬉しく思う。
5年前にこのフェスのオープニングアクトで見た時とはもう別のバンドと言っていいくらいの次元に突入している。
リハ.Movin’
1.Crazy Dancer
2.LOVE CONNECTION
3.fuckin’ so tired
4.GIVE & TAKE
5.SMILE SMILE
6.TAKE MY HAND
7.戦争
19:15〜 神聖かまってちゃん [EAST ISLAND STAGE]
年始に行われた、ちばぎんの脱退ライブ以来初めてライブを見る、神聖かまってちゃん。コロナ後のバンドがどんな状態であるのかというのはもちろん、の子のステージ上での暴走を誰が止めるのかという意味でも実に興味深いライブとなる。
まだ若そうな男性サポートベーシストを加えたメンバーたちがステージに登場すると、演奏するよりも前にの子(ボーカル&ギター)が
「想像を超えた先に衝動がある」
とまるで演説のようなMCを始め、演奏するよりも前にそれなりに長い時間喋ったので持ち時間を押すんじゃないかという予感が頭をよぎる中でいきなりの「ロックンロールは鳴り止まないっ」というバンド最強の名曲からスタート。今聴くこの曲はやはりどんな世界の状況であったとしてもこうしてロックバンドが存在する限りはロックンロールは鳴り止まないということを示してくれているし、この日はこの曲に強い影響を受けたバンドである東京初期衝動が出演していることもあって、そのロックンロールは鳴り止まないというのはさらに下の世代に継承されている、終わらない螺旋の中にあるものであることもわかる。バンドが早くも想像を超えた先にある衝動を手にしていることも。
の子がボーカルにエフェクトをかけまくって歌う「毎日がニュース」、今までのライブのようにタイトルフレーズを観客全員で大合唱することはできない「あるてぃめっとレーザー!」、mono(ピアノ)が歌うの子の横でのっそりとした動きで踊りまくるダンスナンバー「drugs,ねー子」…バンドにおける良心でありタイムキーパー的な存在も務めていたちばぎんがもういないとは思えないくらいにスムーズに曲を連発していく。一時期からかまってちゃんはフェスでも他のバンドと変わらないくらいの曲数を演奏するようになっていたが、それはバンド内の意識の変化によるものだったのだろうか。
しかしながらこの世の中の状況というのはこれまで以上に言動にリテラシーを求められるものになった。誰かが何かしらの不用意な発言や叩く対象を探す大衆の目に触れて意図せぬ炎上を引き起こしたり。だからこそ規範的な言動が求められる世の中となったわけだが、かまってちゃんはまぁそんなものは全く気にしないバンドである。
なぜならばの子はこんな状況でも演奏中に衣服を脱ぎ捨ててパンツ一丁という出で立ちになってしまうからである。その姿で何度も冒頭に話した「想像を超えた先に衝動がある」という話を繰り返す。TVでの常軌を逸した言動が話題になったりもしたが、あれはパフォーマンス的な意味もあったかもしれないけれど、リアルにの子という人間がぶっ飛んでいるということをこの状況でライブを見ると実感させられてしまう。
の子がそんな姿で最後に歌うのは「ロックンロールは鳴り止まないっ」とは違うタイプのバンドの代表曲である「フロントメモリー」。思いっきりエフェクトをかけたマイクでステージを歩き回りながら歌いきったの子は曲が終わってもなお客席に向かってずっと喋り続けている。そんなの子を肩車してステージから連れて行ったのはmonoだった。かつてはステージ上での子と大喧嘩をしていた男とは思えないくらいに彼は成熟した大人の男になっていた。あれだけの子が喋りまくったにもかかわらず、ほとんど持ち時間は押していなかった。
1.ロックンロールは鳴り止まないっ
2.毎日がニュース
3.あるてぃめっとレイザー!
4.drugs,ねー子
5.さわやかな朝
6.るるちゃんの自殺配信
7.フロントメモリー
20:00〜 the telephones [PLANT STAGE]
忘れらんねえよと同様にかつてこのフェスの大トリも担ったことがある、the telephones。活動再開してからは昨年に続いて2年連続の出演にして、今年はPLANT STAGEのトリという位置である。
おなじみのSE「Happiness, Happiness, Happiness」でメンバー4人が登場すると、リリースされたばかりの最新アルバム「NEW!」の1曲目である「Here We Go」からスタート。まさにアルバムの始まりを告げるかのような曲がライブの始まりも告げる。これから先、この曲がこうして開幕を担う場面が多くなりそうだ。
するといきなり序盤での「Monkey Discooooooo」で客席は動いたりすることはほとんどできない中でも狂乱のディスコ状態に。ほとんど全ての観客が立ち上がってライブを見ていて、この曲を知っていて、こうしてライブで聴けるのを待ちわびていたのがわかる。何度となく出演してきたフェスであるということもあるが、間違いなくこのフェスはtelephonesにとってホームと呼べる場所の一つだ。
そんなtelephonesの最新アルバム「NEW!」はバンドの初期からのファンである自分としても最高傑作と断言できるくらいの名盤であると思っているが、新しい「sick rocks」的な位置を担う曲である「Changes!!!」、ループするメロディとリズムが段々とバンドサウンドの激しさを増していくという、新しいロックバンドとしてのダンスミュージックの追求形「New Phase」と最新アルバムの曲を連発していく。
すでにアルバム発売前にお披露目ワンマンで全曲ライブで演奏されていただけに、ライブで演奏されるのも発展途上感は全くないが、フェスでtelephonesを見る人が求めているであろうDISCO曲をやらずに新曲を連発するというのは、メンバーもこの曲たち、「NEW!」というアルバムに大きな自信を持っているということだ。フェスでこんなに攻めたセトリのtelephonesを観るのはいつ以来になるんだろうか。例え聴いたことがない曲でもライブで聴けば絶対に気に入ってくれるはずだし、これが今の自分たちがやりたいことであるというようなメンバーの意思が見える。
「こうしてみんなでライブを楽しむのが貴重なものになってしまったけど、それを共有できて本当に嬉しい」
という言葉は活動再開後はライブをやりながら新曲の可能性を探っていたくらいにライブをやるからこそ活動を再開したtelephonesだからこそ説得力を持つが、昨年のtelephonesのこのフェスでのライブが大雨だったことを回想すると、客席にいた観客のほとんどは去年のライブを見ている、つまりは毎年このフェスに参加している人たちであることもわかる。
「他のフェスだと豪華なケータリングが食べれたりするけど、ベイキャンは特にそういうのもなく(笑)」
とケータリングの内容を明かされてしまっていたが、石毛はかつても
「楽屋のトイレが少ない」
とステージから言っていたように、そうした部分が改善されればより良いフェスになることを率直に口にするタイプだし、そうした改善点がありながらも毎年出演しているのは、そうした要素を上回るものがこのフェスにはあるからだ。
だからこそ深夜の野外で酒を飲みながら聴いたら最高に気持ちいいであろう「Tequila,Tequila,Tequila」から最新のDISCO曲「Do the DISCO」とさらに「NEW!」な曲で畳み掛けると、客席最後方の天井近くにある「BAYCAMP」という文字の電飾を指差して、
「ぴあアリーナも良いけど、やっぱりベイキャンは東扇島だよね。来年はあの電飾を東扇島に持っていくことができたらなと思います」
と、あの会場への強い思いを口にして最後に演奏されたのはやはり「Love & DISCO」。ベイキャンで思いっきり「DISCO」を叫ぶのも、来年のあの場所まで取っておこう。今までは特に思い入れが強いわけではない場所だったあの東扇島公園の会場が、このライブを見た後だと本当に大切な場所に感じる。それは自分が少なからずあの場所でいろんなライブを見てきたからだし、石毛輝の言葉にはそう思わせてくれるような力がある。
客席には過去のthe telephonesのTシャツを着た人もたくさん来ていた。telephonesはフェスに愛されてきたバンドだからこそ、フェスに悩まされることもあったけれど、フェスに出ればこうしてたくさんの人がtelephonesのことを待ってくれているのがわかる。
それは活動休止前にはわからなかったことであるだけに、今はそれがどれだけ愛おしくて嬉しいことなのかがわかる。きっと世の中が元に戻ってみんなでDISCOを叫ぶことができるようになったら、今まで出てきたフェスよりももっと楽しいと思える瞬間を体感できるはず。
リハ.A.B.C.DISCO
1.Here We Go
2.Monkey Discooooooo
3.Changes!!!
4.New Phase
5.Tequila,Tequila,Tequila
6.Do the DISCO
7.Love & DISCO
20:45〜 スチャダラパー [EAST ISLAND STAGE]
長かった1日もついにトリ。この日のトリはもう活動30周年を迎えるヒップホップグループ、スチャダラパー。かつてのこのフェスにも何度か出演している存在である。
DJ SHINCOが先に登場してターンテーブルから音を鳴らすとBOSE、ANIの2MCも登場するのだが、曲をやるよりも先にBOSEによるコール&レスポンス。ヒップホップのライブにおいては当たり前の光景であるが、観客は声を出せないだけに、「レスポンスのないコール&レスポンス」、つまりBOSEのコールだけが響き渡るという実にシュールな立ち上がりである。
スチャダラパーもまた今年明らかな名盤である最新アルバム「シン・スチャダラ大作戦」を4月にリリースしているのだが、
BOSE「誰も知らない曲だけど!」
と言って収録曲の「スチャダラパー・シン・グス」で始まり、全てのフレーズを「シン」始まりで韻を踏むために、
「シンパシー」「しんどい」「新境地」
という「シン」始まりの単語が次々と飛び出す中、ANIの
「シン・ゾー譲りのやってる感」
というフレーズはレコーディング時の日本の総理大臣の政策をユーモアを持って揶揄しているという、ヒップホップだからこそできる歌詞表現であるし、スチャダラパーのラッパーとしてのスキルの高さをあくまで自然体に、しかしこれでもかとばかりに示してくれる。
「MORE FUN-KEY-WORD」からはライブや音源ではおなじみのラッパーのロボ宙もステージに現れて、タイトルのフレーズが書かれたボードを持って歌うのだが、普段であればそのボードに書かれている単語をみんなで歌うためにボードを持っているだけに、声が出せないライブというのはどうにも勝手が違うようで、MCでも「ヒップホップにおける盛り上げ方をニューノーマルと言われる世の中でどうしていくか」という議論が展開され、
BOSE「プチャヘンザは残す。シェイクユアバディも大丈夫。say hoとかmake some noiseはダメだね」
と仕分けをする中で、普段は観客がタイトルの「アクション」の部分を叫ぶ「ライツ・カメラ・アクション」も観客が心の中で叫ぶという形でプレイされると、ロボ宙がVIDEOTAPE MUSICとともに作った新曲「サイエンス・フィクション」も披露される中、今でも心のベストテン第1位の曲である「今夜はブギー・バック」がスチャダラパーメインのラップバージョンで演奏される。小沢健二のパートをANIが歌うと歌唱力がなさすぎてBOSEがズッコケるというパフォーマンスもラップスキルと違わぬくらいにさすがである。
音源ではEGO-WRAPPIN’をフィーチャーしている「ミクロボーイとマクロガール」も含めて、ここまで新作の曲を連発するというのはtelephones同様に新作の内容に自信を持っているからであろうけれど、一方ではBOSEが喋りまくるMCではANIの返答が適当になってきていることに対して、
BOSE「ANIはいいよな〜。瀧(ピエール瀧)もANIみたいになりたいって言ってたもん」
ANI「滝は真面目だからね〜」
BOSE「瀧捕まったんだから真面目とか言われても(笑)」
という生のライブでないとなかなか突けないような際どいネタも含めて抱腹絶倒のトークの後は、
「家に帰るまでがBAYCAMPですから。ちゃんと帰ろう。帰ろうChant
と、トリだからこそ最後にラップすることができる「帰ろうChant」でもって、日本のヒップホップのオリジネーターの一角たる所以(本人たちは「普通なら10年でできることを30年かけてきた」と言っていたが)を見せつけるような、文句なしの初日のトリのアクトだった。
1.スチャダラパー・シン・グス
2.シン・スチャダラパーのテーマ
3.MORE FUN-KEY-WORD
4.ライツ・カメラ・アクション
5.ヨン・ザ・マイク
6.サイエンス・フィクション
7.今夜はブギー・バック
8.ミクロボーイとマクロガール
9.LET IT FLOW AGAIN
10.帰ろうChant
文 ソノダマン