2日目。前日は朝イチは運営のいく末が案じられるくらいにかなり観客の数が少なかったが、この日は前日に比べるとアリーナのスタンディングエリアと客席はかなりの人で埋まっている。そのスタンディングエリアへの入り方も前日と変わっているあたり、例年のこのフェスには珍しく前日の課題を当日に解決しようという姿勢が見える。そこには絶対にこのフェスでコロナの感染者を出させないという強い意志があってこそ。
10:20〜 Cody・Lee (李) [EAST ISLAND STAGE] (Welcome Act)
この日のオープニングアクトは男女ツインボーカルの5人組バンド、Cody・Lee (李)。すでにいろんなフェスやイベントへの出演経験のあるバンドである。
この日出演するフジファブリック「Magic」のSEでステージに登場すると、高橋響(ボーカル&ギター)の出で立ちすらもどこか山内総一郎に似ている感じもする。
尾崎リノ(ボーカル&ギター)との男女混声ハーモニーを生かしながらも、楽曲にも一筋縄ではいかないポップさというフジファブリックからの影響も強いし、実際に高橋はステージで
「フジファブリックと対バンする夢が叶ったー!」
とも言っていたのだが、12月に1stフルアルバムがリリースされることを発表して披露された新曲「我愛你」からの後半では一気にサウンドがパンクに変化。歌詞にも
「恋と退屈」
というフレーズがあるあたり、銀杏BOYZからの影響も強いんじゃないかと思わせられるし、力毅(ギター)が最後に思いっきり弦を切りながらもなおギターを弾きまくる。その派手な出で立ちも含めて、ただのフジファブリックフォロワーではない、ロックスターになれる可能性を持っているバンドなんじゃないかと思った。
11:00〜 Mega Shinnosuke [PLANT STAGE]
この日のPLANT STAGEのトップバッターはMega Shinnosuke。年始にもライブを見ている俊英アーティストである。
Komaki♂(ドラム)らを擁する凄腕バンドメンバーが演奏を始めると金髪に染めたMega Shinnosuke本人も歌い始めるのだが、そもそもこうしたアリーナ規模のステージに立つのは明らかに初めてであろうだけに、かなり緊張している様子がわかる。それでも観客を盛り上げようと意識的にステージ前に出て行ったり、テンション高く叫んだりしているうちにその緊張はなくなってきたようではある。
凄腕メンバーたちの演奏がグルーヴしまくる「桃源郷とタクシー」、Mega Shinnosuke本人もギターを弾きながら歌うことでギターロックバンドさが増す「明日もこの世は回るから」と、現代の宅録アーティストらしいサウンドの壁のなさを感じさせてくれる変幻自在っぷりを見せてくれるのだが、「Sports」を演奏したかと思ったら同期のサウンドが出なくなってやり直し、結局同期を使わない形で演奏するという生ライブならではのハプニングも。初日はこうした場面は全くなかっただけに、どこか貴重なものを見ているようでもある。
しかし
「次で最後の曲です!………「え〜!」がないですね…(笑)
あ、お前ら声出しちゃいけないのか!」
と、このご時世のライブのガイドラインをすっかり忘れていたり、なぜかステージに持ち込んでいた「僕のヒーローアカデミア」の全巻セットを大切に持ち帰る姿などは、音楽は洗練されていてもまだ20歳になる男子であることを認めざるを得なかった。
とはいえ、やはりまだまだライブ経験が不足しているというのもあるし、このフェスは他の出演者たちが百戦錬磨のライブ猛者ばかりということもあって、まだまだライブにおけるボーカリストとしての力はこのキャパには足りていない。でもまだライブを始めたばかりだし、米津玄師ですらも最初はそうだった。これから先Mega Shinnosukeがライブアーティストとしてどう成長していくのか。少なくとも彼は現時点ですでにライブを楽しいものと捉えているのは間違いないし、その気持ちさえあればこれからグングン伸びていくはず。
1.Midnight Routine
2.桃源郷とタクシー
3.明日もこの世は回るから
4.Sports
5.O.W.A.
11:45〜 Czecho No Republic [EAST ISLAND STAGE]
隣り合わせであるこのフェスの2ステージは同じように見えて飾り付けなどが全く違う。もちろんそのセットも年によって変わったりもするけれど、PLANT STAGEは近代的、宇宙的なステージで、EAST ISLAND STAGEは南国のようなステージ。
そのEAST ISLAND STAGEの主としてこのフェスに出続けてきたのが、Czecho No Republicである。
メンバーがステージに登場すると、山崎正太郎のスタートダッシュを全速力で決めるようなドラムの連打から「Amazing Parade」でスタート。コーラス部分をみんなで歌うことはできないが、手拍子をすることはできるし、歌えなくてもその楽曲の持つ力が楽しいという感覚とこれまでのチェコのライブでも感じさせてくれた祝祭感を与えてくれる。
「天国があるかないかなんて考えたこともないけど
もしかしてここがそうかなって」
というフレーズがいつも「今、ここにいる幸せ」を実感させてくれる「MUSIC」はこのご時世でもこうしてフェスに来ることができていて、チェコのライブを観れているという幸せを噛み締めさせてくれる。この場所は間違いなく音楽ファンにとっての天国になっていた。
タカハシマイの伸びやかな声がアリーナいっぱいの規模に響き渡る「Everything」は夏の野外の青空に向かって声が伸びる様も聞きたかったとも思うけれど、こうした場所で聴いても改めてチェコというバンドとその音楽の持つスケールの大きさを感じさせてくれると、「NO WAY」では砂川一黄がステージ前まで出てきて思いっきり体を逸らしながらギターを弾く。
チェコはフェスシーンにおいては珍しい「昼間に見たいバンド」であり、ライブハウスも良いけど日比谷野音などの野外会場との親和性が抜群に良いバンドであるが、そんなバンドの中でも屈指の夜が似合う曲である「Fireworks」で花火を見ることができなかった2020年の夏に想いを馳せると、
「デビューしたばかりの時にミニアルバムを出して、ツアーに出るっていう時にAT-FIELDを紹介されて。これから一緒にライブをやっていくイベンターですって。今でも正直、イベンターとかよくわからないんだけど、青木さんと話していたらTHE BLUE HEARTSとか、GOING STEADYとか、銀杏BOYZとか、俺の好きなバンドのライブを作ってきた人で。そんな人が俺たちのライブを作ってくれて、こうしてフェスにも呼んでくれてる。青木さん、これからも末永くよろしくお願いします!」
と武井優心がP青木への感謝を語り、出会った頃の曲という「ダイナソー」を演奏。やはりみんなで大合唱できないのは寂しいけれど、その分メンバー4人全員が思いっきり歌っているのがよくわかる。
そして最後に演奏されたのは、
「全てのこのイベントの関係者、音楽関係者に届けたい曲」
という「Melody」。
「揺らいで消える流れ星のようなメロディを Oh
淡く光る億万の命のようなメロディを Oh
消えない 癒えない 果てない傷みのようなメロディをOh」
というフレーズは間違いなく音楽に救われてきた人間である優心が作った、音楽への想いを綴った曲。その想いはP青木をはじめとしたこのフェスを作っている人、参加している人にしっかり伝わっていたはずだ。
優心と自分は完全に同世代である。これまでもインタビューなどで優心はゴイステからの影響を口にしてきたし、学生時代にSUPERCARをよく聴いていたとも話していた。それらの音楽をまんまやるのではなくて、自分たちがやりたいこと、自分たちしかできないことをやることによって、その奥底からそうした影響が滲み出てくる。
この世に生を受けてほとんど同じ年月を過ごして、同じような音楽を聴いて育ってきた。だから理解できるものがこのバンドの中にはあると思っている。優心のこの日のMCを聴いて、ミュージシャンだけではないリスペクトできる人と音楽を通して繋がることができるというのを改めて実感したライブだった。
リハ.Festival
リハ.Call Her
1.Amazing Parade
2.MUSIC
3.Everything
4.NO WAY
5.Fireworks
6.ダイナソー
7.Melody
12:30〜 ネクライトーキー [PLANT STAGE]
リハからガンガン曲を鳴らしまくり、本番ではいつものようにメンバーが1人ずつ順番にステージに登場し、もっさ(ボーカル&ギター)がタイトルからしてシュールな「あの子は竜に逢う」を歌い始めた、ネクライトーキー。この状況下であっても日比谷野音でワンマンライブをしたりと、ずっとライブをして生きているバンドである。
アニメ「鷹の爪」のタイアップというあまりに似合いすぎている幸福なコラボを果たした新曲「誰が為にCHAKAPOKOは鳴る」というタイアップの規模を考えたらライブの最後にやってもおかしくないレベルのキラーチューンをこの前半に早くも演奏するというあたりにこのバンドらしさが感じられるが、タイトルの「CHAKAPOKO」のフレーズをメンバーだけでなく観客全員で叫べるようになるのはいつの日になるのだろうか。
なので「オシャレ大作戦」というこのバンドの名を世に知らしめたキラーチューンも前半に演奏し、カズマタケイはドラムソロで音源よりもはるかに手数を増やしながら、もっさは歌詞を
「ベイキャン ヘヘイヘイ」
と変えて歌い、そのもっさが朝日のギターのボリュームを操作してイントロの音量が変わっていく「許せ!服部」ではメンバーそれぞれのカウントダウンとソロ回しという個性が見た目からしてバラバラなメンバーそれぞれの演奏技術の高さをライブでしっかりと示してみせる。
「俺がなんでこうしてファズギターを踏みに来ているのか…」
という朝日のMCもあったが、そうした轟音ギターとシュールかつキャッチーな楽曲のアンバランスさをまとめ上げているもっさの歌声はもちろん、バンドの演奏もポップな可愛さとロックな強さをさらに強度を上げながら保っているというあたりはさすがにこの状況でもライブをしてきているバンドだ。
「こんな状況でも、ライブを楽しみにしてくれている人がこんなにいるのが嬉しい」
というもっさの言葉はライブをやって生きてきたバンドとしての矜持を確かに感じさせるし、「北上のススメ」「こんがらがった!」という2曲を演奏する姿を見ていると、それはライブをするのが何よりも楽しくて生きている実感を得られるから、ライブをやって生きてきたんだという思いが滲み出ている。それは見ている我々もそうであるし、そうして生きてきたのだ。
ラストはおなじみの「遠吠えのサンセット」。後半で一気に加速していくバンドサウンド、朝日のあまりにも弾きまくりなギター。その姿からはボカロPとしても評価され、そっちの道を選んでも生きていけたであろう朝日がなぜバンドという生き方を選んだのかという答えを示しているように見えた。
リハ.夢見るドブネズミ
リハ.ぽんぽこ節
1.あの子は竜に逢う
2.誰が為にCHAKAPOKOは鳴る
3.オシャレ大作戦
4.許せ!服部
5.渋谷ハチ公口前もふもふ動物大行進
6.北上のススメ
7.こんがらかった!
8.遠吠えのサンセット
13:15〜 Helsinki Lambda Club [EAST ISLAND STAGE]
サウンドチェックでシンセのチェックをする際に橋本薫(ボーカル&ギター)はCzecho No Republic「DANCE」のシンセフレーズを弾いていた。2016年にチェコが新木場STUDIO COASTで主催フェスを開催した時、すでに夜に都内でライブ予定があったにもかかわらず、夕方の時間に出演するという男気をHelsinki Lambda Clubが見せてくれた時のことを思い出さざるを得なかった。
そんな思い出に浸っている暇などないくらいに、ライブは今年配信リリースし、「もやもやさまぁ〜ず」のエンディングテーマ曲として起用されている「ミツビシ・マキアート」のストレートなロックサウンドで始まるのだが、チルなサウンドの「PIZZASHAKE」、パンクな「skin」とこのバンドはどれか一つのジャンルや「ヘルシンキってこういうバンドだよね」「ヘルシンキと言えばこの曲だよね」というようなイメージに一切限定されないくらいに幅広い。
それはありとあらゆる音楽を聴きまくり、それらを全て自分のものにできる橋本のあまりにも高すぎるセンスによるものでもあるのだが、とりわけ「ミツビシ・マキアート」も含めて今年配信リリースされた曲が、ロシア人のような帽子を被った出で立ちのギターの熊谷太起がシンセを弾く、捉え所がないくらいにシュールな「IKEA」、タイトルからしてNew Orderへのリスペクトとオマージュに満ちたニューウェイヴ「Happy Blue Monday」と、見事なまでに完全にバラッバラ。橋本はそれらの曲が収録されたニューアルバム「Eleven plus two / Twelve plus one」が翌週にリリースされることを告知していたが、果たしてどんなアルバムになっているのか全く想像だにできない。だからこそ楽しみにもなるのだけれど。
サーフロック的なチルっぽさも含んだ「引越し」からラストはVAN HARENを想起するような壮大なサウンドに軽快な言葉遊び的な歌詞が乗る「午時葵」。個人的には長い髪をイタコのように横に振り乱したりする稲葉航大(ベース)の意味不明な変態っぷりが自粛期間を経ても健在なのが嬉しいところでもあった。
初めてこのバンドのライブを見たのはUKFCのオーディション枠で出演した時だった。それからUKFCでおなじみのバンドとなり、今やこうして様々なフェスやイベントにも出演するようになったが、こうしてアリーナのステージに立っているのを見ると、出てきた当時のことを思い出してしみじみしてしまう。
リハ.Jokebox
リハ.それってオーガズム?
リハ.しゃれこうべ しゃれこうべ
1.ミツビシ・マキアート
2.PIZZASHAKE
3.skin
4.IKEA
5.Happy Blue Monday
6.引越し
7.午時葵
14:00〜 FRONTIER BACKYARD [PLANT STAGE]
ステージにはシンセとドラムのみ。かつては大所帯バンドであったFRONTIER BACKYARDはいつの間にかTGMXと福田”TDC”忠章の2人だけのバンドになっていた。
そんな編成であるだけに同期を使いまくってTGMXがハンドマイクで歌い、時にシンセを弾くという形なのだが、そんな編成であってもバンド感を確かに感じられるのはTDCのドラムがもたらすものが大きいだろう。前日はHUSKING BEEでもドラムを叩いていたし、このフェスが始まった当初から出演し続けてきただけにTDCはこのフェスの影の功労者と言っていいような存在である。
一方でシェイカーを振ったりしながら歌うTGMXもかつてはKEYTALKなどのプロデューサーを務めていたこともあり、このバンドがシーンにもたらしてきた影響は実に大きいのだが、TGMX自身が言っていたようにこの日の出演者の中で最年長でありながら、2人組のバンドとして再スタートして今でも新たなダンスミュージックの形を追求し続けている。そうした姿勢が様々なアーティストやバンドからリスペクトされ、求められる理由なのだろう。
TGMXもMCで言っていたが、かつてのBAYCAMPのライブで客席に突入してマイクが入るギリギリの位置で歌ったり、あるいはLOW IQ 01のバンドのMASTER LOWのバンドのサポートギターとしてもステージに立ったり。そんな思い出を観客であるこちらも覚えているからこそ、またあの東扇島の会場でこのバンドのライブを見て踊りまくりたい。
14:45〜 リーガルリリー [EAST ISLAND STAGE]
サウンドチェックで響いていたのはくるり「三日月」の轟音カバー。それを鳴らしているのはリーガルリリー。もともとこのフェスに出演するようになる前からP青木の生誕祭に出演したりと、P青木の秘蔵っ子と言ってもいいようなバンドである。
髪が短くなったたかはしほのか(ボーカル&ギター)がステージ下手で導入的な歌を響かせる「ベッドタウン」からスタートするというのは自粛期間中に行っていた配信ライブと同じ流れであるが、すぐさま「GOLD TRAIN」からはギターが一気に轟音と化し、海(ベース)とゆきやま(ドラム)のリズムの強さもあって、一気に観客全員というかこの広いアリーナそのものをこのバンドの音が飲み込んでいっているのがよくわかる。
しかしいつライブを観たり曲を聴いたりしても、このバンドがどうやってこういう音楽を作っているのかというのが全くわからない。「1997」の突如として導入されるポエトリーリーディングしかり、そのリーディングに用いられる単語の数々しかり…。東京都福生市という場所はなかなか23区とは違うし、なんなら日本全国と比較してもだいぶ独特な場所であるが、やはりそこで育ってきたからこそ描けるものがあるのだろうか。
先日にはプラネタリウムで配信ライブを行ったことについて海が話し始めると、たかはしはステージ上部に輝く星空的な照明について
「偽物の星空で…(笑)」
と身も蓋もないことを言い出してしまうのだが、そうしてたかはしが喋り始めただけに海の話が遮られて、
「全然私に喋らせてくれない(笑)」
と海が言うとメンバーが笑い合う。その会話の緩さと演奏中のギャップは凄まじいものがあるのだが、ライブならではのイントロアレンジが追加された「リッケンバッカー」ではたかはしのギターがさらに唸りを上げ、海とゆきやまのリズムが間奏から最後のサビに向けてどんどん高まっていく。その音の凄まじさたるや、こんな状況下でなければ客席で衝動的にモッシュやダイブがおきていても起きていてもおかしくない。この2日間の中で最もそう感じた瞬間がここだった。
そのまま轟音にして爆音を鳴らすたかはしがステージ上でゴロゴロと転がり、海はステージ上を左右に走り回り、ゆきやまはその細い体のどこにそんな力が、と思うくらいのパワーを見せたかと思いきや、「スターノイズ」のイントロに繋がるとその音がスッと静謐なものに切り替わる。こうした曲間のアレンジすらもどうやったらこういう流れを思いつくのかが全く謎だ。
ラストの「蛍狩り」に至るときにはもはや客席全員が一瞬もよそ見することすら許されないオーラがステージから発されていた。普段はアリーナ規模には到底及ばないような場所でライブをしているバンドがアリーナを丸ごと飲み込んだ瞬間。この日1組目のそんな化け物バンド。
リーガルリリーはワンマンも観に行ったりしているし、この2日間の出演者の中でもそれなりにライブを何回か見たことがあるバンドだ。それでも、ライブ後に会場を歩いていても気付かないような素朴な見た目の少女たちがなぜこんなにとんでもないライブができて、オーラを纏うことができているのか。その理由が自分にはまださっぱりわからない。それがいつかわかる日が来るまで、音楽よ人を生かせ。
リハ.三日月
1.ベッドタウン
2.GOLD TRAIN
3.1997
4.林檎の花束
5.リッケンバッカー
6.スターノイズ
7.蛍狩り
15:30〜 MONO NO AWARE [PLANT STAGE]
ステージに現れたメンバーのうち、玉置周啓(ボーカル&ギター)が髭が生えたりしたことによって、見た目がワイルドになった印象のある、MONO NO AWARE。
しかしながら音楽はやはりワイルドというか、バンド版うすた京介(「すごいよ!マサルさん」など)とでも言うようなシュール極まりないものであり、
「ジャワカレー」「2段熟カレー」
というこの世にある音楽で他に歌詞に使われている曲が1曲もないであろうフレーズが出てくる「マンマミーヤ!」を聴いていると、なぜだか家でカレーを拵えたくなってしまうから不思議だし、そもそもそんな音楽が生まれるのが不思議で仕方がない。
「生麦生米生卵!」
と玉置が勢いよく発してからひたすら早口言葉を連呼するというアイデアだけで完全勝利な「かむかもしかもにどもかも!」では玉置が2度かもう少しか噛んだような気もしなくもない。
そんな玉置はこうして声が出せない客席の状況を「人類の進化・発達と発声の役割」というテーマで話し始めるのだが、いきなり
「まぁそれはさておき」
とちゃぶ台返しを行って爆笑を誘う。さすがアジカンのツアーにオープニングアクトで出演した際に
「ここにいるみなさん1人1人とアジカンの好きなところについて意見交換を交わしたい」
と言って一言でどアウェーな空気を覆してみせた男である。
何故だか人生について考えざるを得ないような深さを称えているような気もする歌詞の「井戸育ち」、
「ゾッコン」というタイトルフレーズを「ノーコン」「ロックオン」と韻を踏ませていくという天才っぷりにより磨きがかかっている最新曲「ゾッコン」から、先程の玉置のMCの後にやるべき曲だったのでは?と思わせるような「言葉がなかったら」を経て、何故だか今の日本の状況下で聴くのがこれまで以上に染みる「東京」ではメンバーのコーラスが重なっていくことによって、玉置の天才っぷりばかりに目がいくけれども、あくまでMONO NO AWAREはバンドであるということを実感させてくれた。玉置と加藤成順(ギター)は東京都ではあるけれど、遠く離れた八丈島出身である。そんな東京であるような、でも違うような…という場所から描いた曲だからこそ、よくある「地方民が見た東京」としての「東京」とは全く違う曲になっている。
決してリーガルリリーなどのようにライブで見てとんでもないな、と思うようなタイプのバンドではないが、それでもやはりなんだか気になってしまうようなバンドである。こんな歌詞を歌うようなバンドは音楽の歴史においても他にいないから。
リハ.イワンコッチャナイ
1.普通のひと
2.マンマミーヤ!
3.かむかもしかもにどもかも!
4.井戸育ち
5.ゾッコン
6.言葉がなかったら
7.東京
16:15〜 Awesome City Club [EAST ISLAND STAGE]
今回の出演者が発表された時に少し驚いたのがこのバンドの名前があったことだ。もちろんこれまでにもこのフェスに何度も出演しているが、バンドの状況的にライブをやるにはまだ時間がかかると思っていたから。
というのはバンド主宰者であるマツザカタクミ(ベース)に続いて、ユキエ(ドラム)も脱退し、リズム隊が居なくなってしまったから。それからこの日に至るまでにライブを重ねる時間もなかっただろうだけに、出演できるのだろうかという心配があったのだ。
しかしそんな編成の変化を逆手に取るように、モリシー(ギター)に加えてベース、ドラム、シンセ、コーラスというサポートメンバーを加えたさらに大所帯の編成となり、atagiとPORINのボーカル2人は楽器を弾かずに歌唱に専念することによってステージを動き回りながら歌えるようになった。それによって髪を青く染めたPORINの出で立ちもあってステージが実に華やかに感じられるようになっている。
自粛期間真っ只中の今年4月にアルバムをリリースしたばかりということもあって、男女ツインボーカルという特性をフルに活かすきっかけとなった代表曲「今夜だけ間違いじゃないことにしてあげる」以外はほとんどがそのアルバムからの曲となっており、それはまるでこの新しいバンドの形で鳴らすために作られたかのようにこの編成にハマっている。
そんな中でさらなる新曲として放たれた「ceremony」はどうあっても今年King Gnuがリリースしたアルバムのことを思い浮かべてしまうのだが、3人になったバンドの新たな幕開けを華々しく告げるような曲であり、ラストに演奏された「STREAM」の煌く音像と光が降り注ぐような照明もあって、メンバーがまだまだこのバンドの可能性を1ミリたりとも諦めていないことを自分たちの身をもって示していた。
前にマツザカが脱退したタイミングでatagiは「バンドという形態にこだわってるわけではない」というような話をしていた。ライブの編成的にはバンドであるが、コーラス専任のメンバーがいるということもその言葉の裏付けになっているし、そのこだわりがないからこそリズム隊が居なくなっても続けるという選択をすることができたのだろう。バンドとしてはネガティブなニュースが続いてきたが、だからこそ今このバンドの先にはポジティブな未来しか見えていない。
1.トビウオ
2.アンビバレンス
3.今夜だけ間違いじゃないことにしてあげる
4.最後の口づけの続きの口づけを
5.タイムスペース
6.ceremony
7.STREAM
17:00〜 四星球 [PLANT STAGE]
この状況であっても日本のありとあらゆる会場で自分たちのやり方でライブをやりまくっている、四星球。超強行スケジュールの中でこのフェスにも参加。
リハではまさやんメインボーカルで桜井和寿をパロディしまくったボーカルのミスチル「シーソーゲーム」を演奏するというやりたい放題さだが、いざ開演時間になると、
「今日は踊りたいお客さんが多そうだから、四星球に代わりまして、代打the telephones」
というアナウンスの後にステージのミラーボールが回り、telephonesのSEである「Happiness, Happiness, Happiness」が流れて、telephonesのメンバーのコスプレをした4人がステージに登場する。衣装だけではなくノブのシンセすらもダンボールで作り上げるまさやんの段ボーラーっぷりはやはり天才であると認めざるを得ないが、たまたまこの日はtelephonesの石毛輝が会場に来ているからということで、ノブのコスプレをした北島康雄(ボーカル)が石毛をステージに呼び込むと、石毛による
「DISCO!」
のコールで「運動会やりたい」に突入していくという、BAYCAMPの四星球だからこそできるオープニング。
その「運動会やりたい」では観客を客席真ん中から赤組と白組に分けて「腿上げ対決」などの競技が展開されていくのだが、2ステージ制という都合上、明らかにステージに近い赤組の方が人数が多いため、赤組の圧勝で終わる。その赤組は勝ったにもかかわらずまた腿上げをやらされるという勝った方がより辛いことになったり、客席にいる黄色いツナギを着た人たちを見つけて、
「POLYSICS待ちなのバレバレですよ!(笑)」
と弄るなど実に四星球らしい楽しさで会場が満たされていく。
早くもクライマックス的な「妖怪泣き笑い」では
「たくさん笑えば涙が出るなら
たくさん泣いたら笑えるのかな」
という科学や化学では解明できない人間の感情の心理に触れた歌詞に思わず熱くなるし、それはこんなたくさんの人が涙を流さざるを得ないような状況であるということも無関係ではない。
「絶対音感彼氏」では最後に横浜のアーティストの曲ということで、ゆずの「夏色」に繋がるのだが、声が出せなくても伝わる盛り上がりっぷりに国民的アーティストの曲の強さを思い知らされるとともに、リハでの「シーソーゲーム」でもそうだったが、四星球のメンバーのどんな曲でも演奏できてしまうというコミックバンドと名乗りながらの演奏技術の異常なくらいの高さに感心してしまう。これだけの演奏ができればどんな音楽だって出来そうなものなのに、敢えてコミックバンドとしての生き方を全うしているし、技術の高さによる敷居の高さを全く感じさせない。それはやっぱり観客に笑って欲しいからなのである。
そんな中で「M-1グランプリ アナザーストーリー」というM-1のファイナリストたちのドキュメンタリー番組が好きすぎて、頼まれてもいないのに勝手にその番組のための曲を作ったというバラード曲「アナザーストーリー」はこのバンドが笑えるライブパフォーマンスだけではなく、メロディメーカーであるということを実感させてくれる名曲。フェスでの四星球でのライブでバラードを聴くとは、というこちら側の予想をバンド側が軽々と超えてくる。
すると北島はこれまでに何度か出演しているこのフェスについて、
「毎年野外でオールナイトでやってるフェスだけど、今年は夜明けを見ることはできない。でもこれから、このフェスをこれからの音楽シーンの夜明けにしていきましょう!」
と熱量をたっぷり込めて語るとさらに、
「こういう状況でフェスに来て、罪悪感すごいでしょ?でもその罪悪感を、明日からの仕事とか学校で人に優しくすることによって返していきましょう」
「昨日立川でライブやって、今日は朝に神戸のフェスに出て、さっきこの会場に着いた。こういう状況でもライブいっぱいやってます。できる時にやっておきたいから!」
「マスクして、ソーシャルディスタンス取って、声を出さないでライブを見て。あなたたちがそうまでして守ってるのはガイドラインなんて堅苦しいものじゃないんです。あなたたちはエンタメを守ってくれてます!」
と金言の嵐。ライブをできる時にやっておきたいというのは、ライブができない時期が確かにあって、いつかライブができなくなる時が必ず来るということをわかっているから。こうした名言を言えるということは、その奥にあるものや大事なもの、本質をしっかり捉えることができるから。
自分も罪悪感がないわけではないが、この北島の言葉によって最も強い肯定をもらったような気がした。きっとこの場所にいた人や、神戸のフェスで見た人、前日に立川のワンマンを見た人もそうだと思う。そう言ってくれたのがあまりにも嬉しすぎて、笑いたいのに涙が出てしまっていた。
そしてこれまでのライブでもクライマックスを担ってきた四星球きってのキラーチューン「クラーク博士と僕」の
「知らぬ間に始まった人生が 知らぬ間に終わっていく」
というフレーズがこの状況だからこそより強く響くと、
「今日はこの曲を歌いに来ました!」
と言って最後に演奏されたのは全国のあらゆるライブハウスを巡ってきたバンドが歌うライブハウス賛歌「ライブハウス音頭」。
最後には「横浜F.A.D」「横浜Bayhall」という横浜のライブハウスの名前も入れて歌っていたのは本当にさすがだし、こうした曲を作れるバンドだからこその愛があった。どんなにキツいスケジュールでも疲れを一切見せずに我々を心から楽しませてくれる。そんなバンドの姿にまた涙が出てしまっていた。
自分はもはや四星球はフェスにおけるジョーカー的な、BRAHMANにも似た存在だと思っている。フェスで見たらその日の全てを持っていってしまうような。それでいて心から笑えて泣ける。かつて自分は春フェス行脚で毎回セトリやパフォーマンスを変えるこのバンドのことを「天才の集団」と評したが、それどころか日本最強のライブバンドなのかもしれない。
リハ.鋼鉄の段ボーラーまさゆき
リハ.ギンヤンマ
リハ.シーソーゲーム 〜勇敢な恋のうた〜
1.運動会やりたい
2.妖怪泣き笑い
3.絶対音感彼氏 〜 夏色
4.アナザーストーリー
5.クラーク博士と僕
6.ライブハウス音頭
17:45〜 ドミコ [EAST ISLAND STAGE]
フェスで四星球の次に出るバンドは大変である。会場の空気を全てかっさらってしまって、その余韻がずっと残っているからである。
(だからこそロッキンオンが近年のフェスで四星球をトリに起用し続けているのは実によくわかっているとも言える)
そんな空気を切り裂くようにさかしたひかる(ボーカル&ギター)がルーパーやオクターバーなどを駆使してその場で音を重ねまくり、自身のギターからは轟音を発するのはドミコである。
冒頭からそうしてさかしたと長谷川啓太(ドラム)の2人だけのバンドとは思えないというか、2人だけであることで自由に、自分たちの思うままに音を作ることができているという感じなのだが、これまでに何度か見てきたライブとは少し違ったように見える。
それはMCこそ一切ないが、さかしたの
「センキュー!」
という言葉のテンションを始めとした様々な場面から感じられる。
その理由はドミコはこの状況下でも全国をツアーで回り、しかも1日2公演でそれぞれ内容を変えるという過酷とも言えるような形でライブをしまくっているバンドだからである。これから先どうやって活動していこうかと考えているバンドたちのはるか先をすでにこのバンドは走っているのである。
だからこそ「びりびりしびれる」「噛むほど苦い」という曲に抱いてきたサイケデリックというイメージよりもはるかにロックンロールだというイメージに塗り変わっていた。だからこそ「深海旅行にて」の導入で引用されていた、
「Rock and roll can never die」
というフレーズがより強い説得力を持つ。それはこのバンドがロックをロールし続けているバンドだから。
「おばけ」〜「化けよ」での長尺セッション的な演奏では長谷川のパワーとスタミナを兼ね備えた超人ドラマーっぷりを改めて実感させ、そうして長谷川が叩くドラムのフレーズに合わせてギターを変えるというコンビネーションはこの2人だからこそできることであるが、この凄まじいほどの進化っぷりを見ていると、彼らはこの状況下で回ったツアーで何を見てきた、何を手に入れてきたんだろうかと思う。
そうした感情を表に出したり発言したりする人たちではないけれど、こんな状況でも自分たちのライブを観にライブハウスに来てくれる人たちの顔をこの2人は見ている。その観客たちの姿から筆舌に尽くしがたいくらいの力をバンドとしてもらってきたはずだ。それは今ツアーを回っているバンドじゃないと得ることができないもの。それを持っているというのが自分がこのバンドのライブがハッキリと変わったように感じた要素なんじゃないかと思う。
そしてラストの「ペーパーロールスター」ではたくさんの人が体を揺らす中、アウトロでさかしたが長谷川のドラムセットに(ドラム台じゃなくてドラムそのもの)乗り上げると、至近距離で向かい合いながらそれぞれの音を鳴らしていた。2人だからこそできること。それを極め尽くしたかのようなパフォーマンスだった。
普段はアリーナとは程遠いようなライブハウスで音を鳴らすバンドがアリーナを飲み込んだ瞬間。リーガルリリーがこの日のその1組目だったとしたら、2組目はこのドミコだった。今まで見てきたこのバンドのライブを大幅に更新していた。
リハ.まどろまない
リハ.こんなのおかしくない?
1.問題発生です
2.びりびりしびれる
3.噛むほど苦い
4.hey hey my my 〜 深海旅行にて
5.おばけ〜化けよ
6.ペーパーロールスター
18:30〜 POLYSICS [PLANT STAGE]
結成からの度重なるメンバーチェンジを経ても一切止まることなくライブをし続けて生きてきたPOLYSICSさえも、ライブを見るのは久しぶりだ。メンバーと同じ黄色いツナギを着て客席にいるファンの人たちを見ると、本当にPOLYSICSのライブが戻ってきたんだなと実感する。
その黄色いツナギを着たメンバーが登場すると、自分が最後にこのバンドのライブを見た時はまだ在籍していたナカムラリョウがいなくなり、再び3人になったことを実感する。なのでこのバンドの軸であるシンセを演奏するメンバーはいないけれど、ステージにはしっかりとシンセがあるのはカヨが脱退して3人になった時と変わらない。
POLYSICSはDEVOなどのニューウェーブバンドに影響を受けて始まったバンドであるが、ライブでは一貫してパンク的な熱量を生み出し続け、モッシュやダイブは当たり前的なフロアを前に演奏し続けてきたバンドであるが、そうした楽しみ方ができない状況であっても一切バンドのスタイルを変えることなく、「Sun Electric」「Pretty Good」というこれまでのライブでモッシュやダイブを起こしてきた曲を冒頭から連発するものだから、どうにもそれができない、見れないのがもどかしいような気持ちにもなってしまう。その衝動をバンドがずっと与え続けてくれているだけに。
こうしたフェスで演奏されるのは珍しい「Turbo Five」を終えると、ハヤシが客席に
「トイス!」
とおなじみの挨拶をするのだが、もちろん観客は声を出すことができないから「トイス!」で返すことができない。まさかPOLYSICSのライブで「トイス!」を誰も返さない場面を見るなんて全く想像したことすらなかったが、そんな世界に我々は来てしまっていることを実感してしまった。
しかしバンド側はさすがに最前線で戦い続けながらももはや大ベテラン。観客のこれまでのライブでの声を録音したと思われるサンプラーをフミ(ベース)が叩くと、「トイス!」という大きな声が響き、まるで観客が「トイス!」を言っているように聞こえる。ハヤシはこのシステムを気に入ったようで、
「家にこれが欲しい(笑)」
と言うほど。日常生活のどういう場面でこれを使うのかは全くわからないが。
観客を揺らしまくるのがクセになる新曲「Stop Boom」の披露から、後半は「Speed Up」で文字通りスピードをさらに上げ、ハヤシもフミも頭をガンガン振りながら演奏すると、「Electric Surfin’ Go Go」ではこの状況でも両手を上に挙げることはできるし、3人になって特徴的なシンセを演奏するメンバーが居なくなってもこうしてライブでこの曲を聴くことができるのは実に嬉しいことだ。
実はこのフェスに初年度から出演しているバンドであるだけに、
「初めて野外で開催された時は屋根がなくて、雨が降ったら機材をどうしてくれるのかと思った(笑)」
「ケータリングが辛ラーメン一つだけで、メンバー3人でそれを分けて食べた(笑)」
というこのフェスの至らぬ点を告発するかのようなMCとなるのだが、それでも毎年出演してきたのはそれを上回るようなものがこのフェスにはあったからである。
そう、これはフェスなのである。だからいろんなアーティストが会場にいる。ということでハヤシが呼び込んだのは、この日のトリであるキュウソネコカミのヤマサキセイヤ。アニメ「働く細胞BLACK」のオープニングテーマに決定している新曲「走れ!」にセイヤがゲストボーカルとして参加しているからこそのコラボであるが、それが見れるのはフェスならではだなと改めて思う。
とはいえPOLYSICSの長い歴史の中でもこうしてゲストボーカルを迎えた曲は全くと言っていいほどない。そんな中であえてセイヤを招いたのはきっと
「立ち向かえ」
などの、これまでにウルトラ怪獣などをテーマにした曲を作ってきたPOLYSICSとは思えないくらいのストレートさ。そうした熱さをPOLYSICSが欲したために招いたのがセイヤであったということ。POLYSICSに呼ばれるくらいにボーカリストとしてセイヤが評価されているというのはキュウソのファンとしても嬉しくなるし、そうしたきっかけもあってこの曲でPOLYSICSに出会う人が増えてくれたらそれも実に嬉しいことだ。
1.Sun Electric
2.Pretty Good
3.Turbo Five
4.Stop Boom
5.Funny Attitude
6.Speed Up
7.Electric Surfin’ Go Go
8.走れ! with ヤマサキセイヤ
19:15〜 フジファブリック [EAST ISLAND STAGE]
Cody・Lee (李)など、この日はフジファブリックに影響を受けているバンドがたくさん出演しているので、ついついこのフェスでおなじみな存在っぽく感じてしまうけれど、実はこのフェスには初出演となるのがフジファブリック。
登場するなり山内総一郎が無事に初出演できたことの喜びを口にすると、「STAR」の伸びやかな煌くサウンドと共に山内のボーカルもアリーナいっぱいに伸びていく。さすがにワンマンでもこのクラスのキャパでライブをやっているバンドならではの安心感や安定感のようなものを感じられるし、それは先日に有観客のワンマンをすでにやっているということも無関係ではないだろう。
金澤ダイスケのキャッチーかつ軽やかなキーボードのイントロによって始まる「Sugar!!」ではサビ前に加藤慎一がステージ前に出てきて、声を出したりすることができない観客を両手で煽る。その姿だけでもグッとくるところがあるが、続く「Feverman」では歌詞の
「両の手を振って返し押して返し」
のフレーズに合わせて手を裏返す振りをレクチャーする役目を担うなど、演奏面だけではない存在感がどんどん増してきている。
「今年の夏は花火を見ることができなかった人も多いと思います」
という山内の言葉の後に鳴らされたのはやはり「若者のすべて」。今年は野外でこの曲を聴くことも、山内の言うように花火を見ることもできなかった。それでもこうしてこの曲を聴いていると、来年の夏こそは野外でこの曲を聴いて、夜空に上がる花火を見ていたいと思う。そんな、毎年体験してきた当たり前のことすらも今の状況になっては愛おしく感じてしまう。
あまりにもあっという間というか早すぎるライブの最後に演奏されたのは、小林武史プロデュースによって配信リリースされた「光あれ」。リリースされたのが6月だったということを考えても、このコロナ禍になる前から作られていた曲だろうし、それを意識したわけではないだろうけれど、この状況で聴くと今のこの世界に光を求めるような歌詞にしか聞こえない。ステージからメンバーに降り注ぐ照明の光を見ながら、きっとこの曲の歌詞が違って聞こえる日が来るはずだと思わざるを得なかった。
リハ.夜明けのBEAT
1.STAR
2.Sugar!!
3.Feverman
4.若者のすべて
5.光あれ
20:00〜 ストレイテナー [PLANT STAGE]
2日間のPLANT STAGEのトリを務めるのはストレイテナー。かつてP青木に
「BAYCAMPはストレイテナーに出てもらうために作った」
と言ってもらったことがあり、実際にバンドはそれからは毎年のようにこのフェスに出演している。
「STNR Rock and Roll」のSEでメンバーが登場すると、1曲目がまさかの「The Novemberist」で、この日、このフェスが開催されているのが11月であることを実感しつつ、この曲が聴けているのはそのためであることに感謝するとともに、ライブごとにガラッとセトリを変えるバンドであるストレイテナーの面目躍如と言っていいようなオープニングである。
ホリエアツシがアコギに持ち替えて演奏された、野外の会場で聞きたかったと思うくらいに爽やかな「彩雲」からはロックバンドのダイナミズムというよりもメロディの美しさを前面に押し出した歌物と言っていい曲が中心であり、それはホリエが告知した、12月リリースのニューアルバム「Applause」に収録される、バンドが旅する風景を描いたような「Graffiti」もそうである。
しかし同じくアルバムに入る「叫ぶ星」はタイトルだけで往年のファンはニヤッとしてしまうし、それがやはりソリッドなロックチューンであるということもまた嬉しいが、「タイムリープ」では再びメロディとホリエの歌を押し出し…と目まぐるしく曲が変化していってもそのどれもがストレイテナーのサウンドであると思えるのは20年以上活動してきたバンドだからこその説得力だろうか。
「毎年潰れるんじゃねぇかな、来年あるのかなって思ってるフェス(笑)」
とホリエはあまりに正直に口にしていたが、POLYSICSと同様に日本中のいろんなフェスに出てきたバンドだからこそそう思うところがあるんだろうし、そう思いながらも毎年出演してきたというところにバンドの義理堅さというか愛情を強く感じる。
「今年最後の海へ向かう」
というフレーズを聴きながら、今年は海の近くのフェスを観に行くこともなかったな、と思ってしまう「シーグラス」ではひなっちがグルっと回ったりしながらベースを弾き、フジファブリックの「若者のすべて」と同様に今年の失われた夏を思い返して切なくなってしまうし、来年はまたこの曲の歌詞を海の近くに行って脳内に思い浮かべたいものである。
そしてホリエがキーボードの前に座って弾きながら歌い始めたのは「灯り」。
「歓びの歌が聴こえてくる
ささやかな幸せ願うように」
というフレーズは、踊らせるよりも暴れさせるよりも今の状況でストレイテナーが発すべき言葉だと思ったのだろう。こうして目の前でロックバンドが音を鳴らす姿を見ていられることこそが、ささやかにして最大の幸せである。演奏後に4人がいつものように肩を組む、配信では決して見ることができない姿を見ながらそんなことを思っていた。
1.The Novemberist
2.彩雲
3.Graffiti
4.叫ぶ星
5.タイムリープ
6.シーグラス
7.灯り
20:45〜 キュウソネコカミ [EAST ISLAND STAGE]
2日間のトリ。特別な状況の中で延期して会場を変更してまで開催された今年のBAYCAMPのトリ。それを担うのはこのフェスとともに成長してきた、P青木の存在を知らしめたバンドでもあるキュウソネコカミである。
おなじみの本気のリハではスタッフの要望で「家」を追加するというサービスを見せると、本番ではこうしてフェスのトリを務めるようになってもなお尖り続ける刃を見せつけるような「5RATS」からスタート。5色の照明が5人のメンバーを照らすあたりにこのフェスのキュウソへの愛情を感じさせてくれる。
「こうしてライブで会えるのが嬉しいー!」
とヤマサキセイヤが喜びを爆発させる「推しのいる生活」では
「わっしょいわっしょい」
のフレーズをみんなで歌うことはできないけれど、この時間まで会場に残っていた人にとっての推しであるキュウソのライブをようやくまた目の前で観れていることの喜びを噛み締めることができる。
早くも放たれた「The band」の
「やっぱりライブは最強だね すぐそこで生きてる最強だね
音源じゃ伝わりきらない 細かい感動がそこにはあるからだ!!!」
というフレーズはこうしてライブを見ることができない期間が長かったからこそ、今まで以上により強くその思いを感じさせてくれるし、セイヤも
「ライブなくても死ななかったけど、やっぱり楽しいー!」
と叫ぶ。それはやる側もそうだし、見る側も全く同じだ。だからこそ、凄すぎるなって思う時も多々あれど、キュウソはこれまでもずっと我々ファンと近い距離で生きてきてくれたバンドだと思っている。
初めてキュウソがフェスに出たのがこのBAYCAMPの無料で見ることができるステージだったということで、その当時に演奏していた「良いDJ」「ネコ踊る」という曲たちを今に演奏するのはこのフェスのトリをできるようになったからであるが、当時はまだ今ほどライブバンドとして覚醒してなかった頃とはいえ、その頃にこのバンドの凄さに気付くことが出来なかったというのは自分もその他メディアもまだまだ甘かったというかこのバンドの本質を見抜くことができていなかったということである。
「なめんじゃねぇ!」
のフレーズすらもこのトリというスロットで叫ぶことによってより強さを増す「ビビった」から、こうしてフェスに来ているだけで何もない休日ではなくなっているのに、本来ならば毎週どこかのフェスに行っていた去年までの夏を思い返すと、今年の夏は何もない休日ばかりだったなと思って、聴いていて涙が出そうになってしまう「何もない休日」と、バンドが曲を鳴らす時に宿る説得力がさらに増してきている。
無料ステージから始まって、メインステージのトリ。一つの夢を確かに叶えたと言える今演奏されるからこそより強く響く「冷めない夢」は、それでもなおキュウソのこれから先に期待をせざるを得ないし、これからどんな場所に我々を連れて行ってくれるんだろうかと思う。
するとヨコタシンノスケ(キーボード)が、
「全国のいろんなフェスに出てきたから言えるけど、こんなに狂っていて最高なフェスは他にない!たまに炎上したりもするけど、これからもドキドキとロックを俺たちに届けてくれー!」
とこのフェスへの思いを改めて口にし、
「青木さんがいなかったら生まれてなかった曲!」
という「ハッピーポンコツ」を演奏。P青木のPは「ポンコツ」のPであることからも、この曲目がP青木に向けられた曲であることがわかるが、今までのライブと同じようにカワクボタクロウ(ベース)はサビに入る前にポーズを決めたりする。その姿だけでもこうしてライブを見ているファンに力を与えてくれるのだから、つくづくキュウソは凄いバンドだと思う。
このフェスは「初心に帰らせてくれるフェス」らしい。それこそPOLYSICSが口にしていたケータリングなども含めて、恵まれない環境がそう思わせるのかもしれないが、そんな初心をバンド側が忘れないようにと最後に演奏されたのは、バンド名を冠した「キュウソネコカミ」。
「ロキノン系にはなれそうもない」
と歌ったバンドは今やロッキンオンのフェスでメインステージに立つようになった。それでもまだ満たされないというか、悔しい思いを抱えているようにも見える。それはきっと晴れることはないものなんだろうし、それがあるからキュウソはまだまだ上を目指せる。それはこのベイキャンのトリを担ってもまだまだそう思えるのである。
アンコールに応えて再びステージにメンバーが登場すると、いわゆる「3密」をバンドが愛してきたことを口にしてから、配信ライブなどでも演奏されてきた、3分間ぴったりで終わる新曲「3minutes」を最後に演奏。その独創的なアイデアはまだまだ枯れることはないだろうし、そうした笑えるようなテーマを名曲として昇華できるあたりがキュウソというバンドが本当に凄いと思える所以だ。この日も間違いなく、音源では伝わりきらない細かい感動がたくさんあった。やっぱりライブは最高だね。
売れたりしても遠くへ行ったっていう感じはしないタイプなのだが、関西でガンガンライブをしていても、関東では配信くらいしか見れなくて、キュウソを少し遠く感じたりしていた。でもやっぱりライブを見たらそんな気持ちはなくなった。これからもキュウソはずっと近くにいてくれる。来月のツアーで見たら、そんな気持ちなんかとっくに吹っ飛んでいるはずだ。
リハ.MEGA SHAKE IT!!
リハ.ポカリ伝説
リハ.家
1.5RATS
2.推しのいる生活
3.The band
4.良いDJ
5.ネコ踊る
6.ビビった
7.何もない休日
8.冷めない夢
9.ハッピーポンコツ
10.キュウソネコカミ
encore
11.3minutes
去年何本のフェスに行っただろうか。毎月毎週どこかでフェスが開催されていてそれに行っては新たなアーティストとの出会いがあったり、久しぶりに見るアーティストがいたり。いろんなアーティストがいて、いろんなアーティストのファンがいて、その人たちが同じ1日を作る。やっぱりフェスが好きだ。
それをこんな状況の中でも感じさせてくれて、ダスキンのスタッフがライブ中でもドアなどの人の手が触れるような場所を消毒して回るという感染対策をしていた今年のベイキャンに最大限の感謝と敬意を。
これまでは「シャトルバスに乗るのに時間かかり過ぎる」とか「トイレが少なすぎて仮設トイレが潰れまくってるから酒を我慢せざるを得ない」とか文句を言ってきたこともたくさんあったけど、今年これだけ最高なフェスを作ってくれたことには本当に感謝しているから、来年はまた川崎の東扇島で仮設トイレをたくさん用意して待っていてくれ。オールナイトがキツい生活リズムであっても今年もらったものを絶対に返しに行くから。
文 ソノダマン