10月21日にa flood of circleの10枚目のアルバム「2020」リリース。前日には新宿LOFTで爆音試聴会を開催し、11月25日に恵比寿LIQUIDROOMにて「2020 LIVE」を開催。
弾き語りなどのライブもあったし、年末までいろんなライブもあるが、これが現在のところのa flood of circleの「2020」にまつわるライブのすべて。
どっからどう聴いても名盤でしかないこのアルバムのライブがこの日しかないというだけで今の世の中の諸々を呪いたくなってしまう。
この日のリキッドルームはキャパシティを減らしてはいるものの、スタンディングでのライブということもあり、検温と消毒を経て客席に入ると床にはテープで四角いマスがバミってある。そのマスの中がそれぞれの立ち位置になるということである。
自分はすでに8月にこのリキッドで行われた東京初期衝動のライブでこの会場でのこの状況下でのスタンディングライブを体験しているのだが、その時は床に足跡の印が貼られてあったので、形式はそれぞれのアーティストごとに違うということだろう。
開演時間前にはバンドの現場マネージャーによる前説というこれまでにはない、この状況下だからこその試みが。
「モッシュなどが起きた時は演奏を一時中断します」
などの、まぁ今はそうだよなぁと思うことを説明するのだが、明らかにこうした場所で喋るのに慣れていないのがわかるし、PAブースにいるスタッフがその様子を見てクスクス笑っているあたりにマネージャーとスタッフとの微笑ましい関係性が見える。
19時になると場内が暗転してSEもなしにメンバーが登場。この日は会場から生配信されているだけに、SEがなかったのだろう。2日前のRADWIMPSのライブもそうであったことを思い出す。
おなじみの黒の革ジャンを着た佐々木亮介らメンバーが楽器を手にすると、キメを一閃して会場内に爆音が響き渡る。爆音試聴会でも明かされていた、デビュー作と同じ始まりの鳴らされ方によって、亮介が
「IN THE DARK」
と高らかに歌うのはアルバムのオープニングテーマである「2020 Blues」。高速ポエトリーリーディングというようなまくしたてるメロ部分は確かにブルースの要素でもあるが、完全にサウンドや曲全体から受けるイメージはロックンロールでしかない。
「世界の終わりの闇の中で
それが一体なんだっつーんだよ
始めようぜ」
という歌詞はコロナ禍の世界を生きるためのオープニングテーマとも捉えられるけれど、実はこのアルバムはそれを意識して作られたものではないというから驚きである。つまりフラッドは世界がどんな状況であっても何らブレることなく、自分たちのロックンロールを作り上げたら結果的にそれが今の状況に呼応するものになっていたということである。
そのまま曲間全くなしで「Beast Mode」へ、というのはアルバムの流れ通りのものであるが、そもそも1月の渋谷QUATTROのワンマン時に観客のコーラスを録音してそれを音源に使用したというくらいにコーラスを歌いたくなるし、何よりもサビの最後のフレーズが
「暴れろ」
であるために、歌声もモッシュもダイブもなしというのはなかなか生殺し感すらあるが、椅子がないスタンディングライブであるだけにまだ今までのライブに近い形であるというのは救いでもある。亮介は最近では珍しく前半はちょっと声がキツそうな感じもあったし、メンバーのコーラスも序盤はまだ控えめ。とはいえバンド全体に固いようなイメージは全くない。冒頭からロックンロールをぶっ放しまくっている。
そのまままたも曲間なしで「Dancing Zombiez」へと突入していくのだが、まさかこの曲で声を出さないような事態になるなんて今まで想像したこともなかった。青木テツのギターソロではステージ前まで出てきて弾きまくるというのはいつもと変わらないけれど。
亮介が挨拶的なMCをしている時にふと思った。「暑い」と。今の世の中になってからのライブでそう感じることはほとんどなかった。椅子に座って見るということも多かったし、椅子があると立って見る人がいても全員が全員そうやって見るわけではないので、熱気が全体から発せられるわけではない。ぴあアリーナでは高い天井から換気をしまくっていて寒いとすら感じることが多かった。だから上着を着てライブを見ていることも多かったのだが、この日はこの段階でそれを脱いだくらいに暑かった。
もちろんこうしてスタンディングでライブをやるからには感染症対策として換気は徹底していた(そこは石野卓球らアーティストからの信頼が厚いリキッドルームは間違いないはず)はずだけども、それを観客の熱気がはるかに上回っていた。みんながフラッドのライブに飢えていたことや、アルバムを本当に最高のものだと思ってここに来ていることがその熱気の中から伝わってくる。ほとんど全員と言っていい人が名前も顔も知らない存在であるけれど、そういう人たちがたくさんいるということがわかるのが何と心強いことだろうか。そうしたことがわかるのも画面の向こう側ではなくて自分の目の前にロックンロールバンドとそれを信じているファンがいるからこそだ。
「ブチ壊せ」
というサビの始まりのフレーズがアルバムの中でも最も激しいロックンロールとなっている「ファルコン」、きっとこんな状況ではなかったらハンドマイクを持った亮介が観客の上に突入して支えられながら歌っているであろう景色がたやすく想像できる「ヴァイタル・サインズ」では亮介が最後にステージを転げ回るようになりながら歌い、1月の渋谷QUATTROで新曲として披露されていた時にはこんなにスカッとしたロックソングになるとは思っていなかった「Free Fall & Free For All」と、アルバムの中でもロックンロールに振り切れた曲が続く。
そもそもテツが加入しての前作のセルフタイトルアルバム「a flood of circle」以降は完全にフラッドというバンドでやることが見えてきているというか、現行の世界と共振するようなサウンドの音楽は亮介のソロという追求する場所を作ったことによって、フラッドがさらにロックンロールに先鋭化することができるようになった。それが今のフラッドがリリースの度に最高を更新していることの理由である。ひたすらにロックをロールさせることに向き合えばいいという。
その最強モードに突入したフラッドの重要なピースになっているテツはこのリキッドルームでライブをやるのも、ここに来ることすらも初めてだという。確かに対バンなどでもフラッドをここで見るのは久しぶりだし、ワンマンとなるとそれこそ「PARADOX PARADE」のツアーファイナル時以来だろうか。
そんなテツが加入して初めてのリキッドでのライブとなるフラッドがロックンロールの時間であると告げる「見る前に跳べ」ではたくさんの人が一斉に飛び上がり、手を叩く。その景色もまたスタンディングライブだからこそだし、この選曲はそれを意識してのものなんじゃないかと思う。椅子が前後にあったら思いっきり跳ぶこともできないから。
すると亮介はここでいなくなった、もう会えなくなってしまった人たちへの想いを口にする。かつてこの会場でもフラッドのライブでギターを弾いたことのある弥吉淳二など、この状況で亡くなった人だけに向けているわけではないであろうけれど、その人たちやこうしてライブを見に来てくれる人たちこそが自分にとってはスーパースターである、ということを語ってから演奏されたのはアルバムリリース後は弾き語りライブでもよく歌っている「Super Star」。
「輝いている君は
僕のスーパースター
何度でも闇を割いて光ってるのさ
今もずっと」
という歌詞の通りに、自分にとっては、というよりもここにいた人たち全員にとってはフラッドというバンドこそがスーパースターだ。どんなに闇の中にいるような状態であっても、目の前で音を鳴らせば闇を割いて光ってみせてくれる。それが出会った時から今もずっと変わっていない。名盤間違いなしのアルバムの中でも屈指の名曲であると思っている曲であるが、それはこの曲の持つメッセージがバンドのものであり、我々のものでもあるからである。
この状況で聴くからこそサビで一気に開いていくメロディと
「Hello, hello new world」
という歌詞がここからが新しい始まりであるということを高らかに宣言するような「The Key」と、どこかアルバム収録曲以外の選曲にも「今やるべきである曲」というのが滲んで見えてくるのがわかる。唯一わからないことがあるとするならば、アニメタイアップにもなったこの曲が何故あまり売れなかったのかということである。
「Super Star」同様に弾き語りでもよく歌われている「人工衛星のブルース」もバンドバージョンで演奏されるのだが、この曲もまたブルースというよりはバラードと言っていいくらいにそこまでブルース色は強くない。強いて言うならば歌詞の人工衛星の悲しさや切なさこそがブルースであるというような。
「あなたが生きてる今日は史上最高だ
悲しい夜を超えたら また会えるように
遠く離れても 決して忘れないで
そこに宛てて叫んでいる歌があること
あなたが生きてる今日は史上最高だ
新しい歌が生まれたら また会いにいくよ」
というこうして目の前に居合わせることができている交歓をそのまま曲にしたかのような「天使の歌が聴こえる」はそれに加えてこれから先もこうして会えることを約束してくれているかのような。たくさんの観客が腕を挙げて飛び跳ねるというライブだからこそわかる盛り上がりっぷりも印象的だ。
「2020年はどんな年でしたか?ってよく言われるけど、俺たちは別にいつもと変わらないっていうか。世の中が悪い時もこれまでにもあったし、バンドとして大変なこととか、メンバーが足りないっていう時もあったし(笑)
だから言えることはいつも一緒。ロックンロール最高、イェーっていうことだけ」
という言葉からは度重なるメンバーの入れ替わりという普通なら心が折れそうになるようなことも、それを経験してきたことによってフラッドはこういう状況でもブレたり動じたりしないようなタフさを手に入れていた。そう考えるとああした苦悩の時期も決して無駄ではなかったんだな、と思えるし、もしかしたらコロナの世界に最もタフに立ち向かえているバンドなのかもしれないとすら思う。この状況になって金銭的には大丈夫なんだろうかという心配はあるけれど。
そのタフさを持っているからこそ、リズムに合わせて手を叩くのがただひたすらに楽しく感じられるアルバムの中のダンスチューン「Whisky Pool」は曲の歌詞も
「一緒に泳いでこうぜ 君と無敵の日々を」
と、ロックンロールさえあれば、ロックンロールバンドさえいれば我々は無敵だと思えるような全能感が湧いてくるものになっている。
さらには「Lucky Lucky」ではこの曲を手掛けたテツが自身のボーカルパートで
「今日はあんたらと恵比寿LIQUIDROOM」
と歌詞を変えて歌うことで、今この日この瞬間を生きていることを実感させてくれるし、間奏での亮介とテツの向かい合ってギターを弾き合う姿は実に微笑ましく目に映る。
亮介がギターを弾きながら言葉を発した後に演奏された「Rollers Anthem」はアルバム発売前にMVが公開された時からファンの間ではとんでもない名曲が生まれたと話題になっていたが、
「間違ってないぜ」
とサビで亮介が高らかに歌い上げるその姿。いろんな人がいていろんな考えがあるし、来たくてもライブには行けない人もいて、こうしてライブに来ている人もいる。それは世間や社会からしたら疑問に思われるようなことかもしれないけれど、自分の信じてきたロックンロールバンドに「間違ってないぜ」って言って欲しかったのだ。こうしてライブを観に来たという選択を肯定して欲しかった。MVが作られたにしては弾き語りなど、この日以前のライブではほとんど演奏されて来なかった曲だが、だからこそこの日にこの曲を聴くことができたことは絶対にこれからも忘れないと思う。
そのまま亮介とテツのギターが奏で始めたのは、どこか懐かしいような感じすらするイントロ。それは紛れもなく「ロシナンテ」のものだった。
「間違ってないぜ」
と歌う「Rollers Anthem」の後に
「何かを失くしながらそれでも行かなくちゃ」
と歌う「ロシナンテ」。それはバンドのこれまでの歩みをバンド自身が肯定するためのようですらあったし、その「ロシナンテ」のフレーズを歌う亮介の声にコーラスを重ねるのが、15年に渡って唯一一緒に何かを失くしながらここまで来たドラムの渡邊一丘であるというのが本当にもうこれしかないよな、という感覚になる。
すると4人がその渡邊のドラムセットに向き合って音を合わせる。1月のライブの時にはどこか決まりきらない感じになってしまっていた「プシケ」である。今回はそれもバッチリと決まり、おなじみの
「2020年11月25日恵比寿LIQUIDROOM」
という亮介の口上からのメンバー紹介と、紹介し終わった後に4人の音が重なる瞬間のカタルシスはこのバンドのこの曲をライブで聴くことでしか得ることができないものだ。出来ることならもうメンバー紹介の時に呼ぶ名前がこれから先に変わることがありませんようにと願うばかり。
そして
「俺たちとあんたたちの明日に捧げます!」
と言って鳴らされた「シーガル」は一緒になって大合唱することこそできないが、冒頭の亮介の歌い出しの
「イェー!」
に合わせて思いっきり飛び上がる観客。それは完全に見る前に跳んでいたし、なんだかこういう今までとは違う形であっても今までと変わらない熱狂を生み出して与えてくれるフラッドというバンドの凄まじさを改めて知らしめてくれているかのようだ。
コロナ禍になってからは観客があまり歌ったりはしゃいだりしないようなバンドが変わらないライブができるから強い、というような説をよく見るし、実際にフラッドに近しいところで言うならばUNISON SQUARE GARDENのライブは確かにそう思える。
でもバンドのスタンスややり方はどうあれ、こんな状況だろうと今までと同じ状況だろうと、ライブが凄いバンドはどんな形でライブをやっても凄いとしか思えない。この日のフラッドはロックンロールバンドとしてロックンロールをライブハウスで鳴らすことによってそれを証明しているかのようだった。
そして最後に演奏されたのはアルバムの最後を飾る曲でもある「火の鳥」。
「歌を聴かせてくれ」
というフレーズから始まり、亮介のポエトリーリーディング的な歌唱から、
「死なないやつはいないって知ってるのに
今も燃えてる青い炎
I LOVE YOU BABY!
何度でも俺を蘇らせる まだ始まってもないよな
アゲイン アゲイン アゲイン アゲイン
あなたの歌が僕の火の鳥」
と「Super Star」同様にいなくなってしまった人に想いを馳せるかのような歌詞。
でもやっぱり「Super Star」同様に、我々が「歌を聴かせてくれ」と思うのは亮介の歌であり、これまでに何度となく諦めそうになるようなことがあっても全く止まることなく立ち上がってロックンロールしてきたフラッドこそが我々にとっての「火の鳥」。そんなことを思っていたら、別に最後のライブでもなんでもないのに今まで見てきたいろんなフラッドのライブが脳内に走馬灯のように駆けめぐってきてしまった。この曲はきっとこれから先もこうしてライブで聴く度に特別な気持ちにさせてくれる曲になるんだろうなと思う。
アンコールではメンバー全員でスーパーファミコンの「マリオカート」をやったら渡邊が1番強かったという小ネタ話。テツはゲームをやりたいけどやり始めたらギターを弾かなくなるという己の性格をよくわかっているからやらないようで、HISAYOはスーファミですら画面に酔ってしまうくらいに全くゲームができないらしい。
そんな話をした後には重大な発表が。やはり「2020」のツアーをやるという本当に嬉しいニュースには思わず声をあげたくなってしまうが、じっと我慢してひたすらに拍手で応える観客たち。さらには年明けにリクエストを元にセトリを組む配信ライブも行われるなど、15周年はさらに攻めるフラッドの姿を見ることができそうだ。どうかそのツアーが無事に開催されて最後まで完走できるような世の中や社会や政治でありますようにと願うほかない。
そんな発表の後に演奏されたのはアルバムの中でまだ演奏されていない、ひたすらに突っ切る痛快なロックンロール「欲望ソング (WANNA WANNA)」。もはやバンドと一緒に歌うような部分ばっかりな曲であるだけに、せめてツアーファイナルになる4月の新木場STUDIO COASTの時にはそれができていますように。
そしてこの日の最後に演奏されたのはこれから先も転がり続けていくという意思表示をするかのような「GO」。
「アンタのせいで
かわったよ 止まってなんかいられねえ
目を開けて見る夢をアンタが見せたんだ
どうしてくれんだよ
Ready, Steady, GO Ready, Steady, GO
Ready, Steady, GO 走り続けてく Ready, Steady, GO」
というフレーズはリリースから何年経ったとしても変わらないフラッドの姿勢そのものだ。そこからは悲観も諦念も一切ない。その姿こそが我々にこの時代や世界を生き抜いていく力を与えてくれる。
演奏が終わると亮介と渡邊はそれぞれに
「またどこかで」
「生きてりゃ必ず会えるから」
と言ってステージを去っていった。来月もフラッドに会える予定があって、ツアーが開催されることによってその予定はさらに増えていく。それが生きていく理由になっていく。そう思わせてくれるものを不要不急だなんて誰が言えるんだろうか。
ロックンロールバンドがライブハウスでロックンロールを鳴らす。そんな当たり前のことを今の世の中の状況でやるということへの信念や覚悟しかないような夜だった。それを「2020」という最新にして最高の武器を手に入れて、持ちうるすべての力を使って成し遂げる。
ああ、やっぱりこれなんだよな。どんなに時代や世界や生活様式が変わらざるを得ないとしても、絶対に変わることのないもの。誰がなんと言おうとこれをロックンロールと呼ぼう。
1.2020 Blues
2.Beast Mode
3.Dancing Zombiez
4.ファルコン
5.ヴァイタル・サインズ
6.Free Fall & Free For All
7.見る前に跳べ
8.Super Star
9.The Key
10.人工衛星のブルース
11.天使の歌が聴こえる
12.Whisky Pool
13.Lucky Lucky
14.Rollers Anthem
15.ロシナンテ
16.プシケ
17.シーガル
18.火の鳥
encore
19.欲望ソング (WANNA WANNA)
20.GO
文 ソノダマン