これまでに数え切れないくらいにステージに立っているメンバーが変わってきたバンドであるa flood of circleであるが、メジャー3rdアルバム「ZOOMANITY」のツアーファイナルの赤坂BLITZを最後にベーシストの石井康崇が脱退し、HISAYOが加入してもう10年になった。
それを記念して、HISAYO加入後の初のアルバムとなった「LOVE IS LIKE A ROCK’N’ROLL」の再現ライブを開催。場所はホームと言えるライブハウスである新宿LOFTであり、コロナ禍という状況もあり、収容人数を減らしての1日2回公演で、自分が参加したこのライブは第二部。
新宿LOFTのある歌舞伎町ではサンタクロースの服を着たホストが歩いているという光景を見て、この日が紛れもないクリスマスであるということに気づかされるが、ビルの階段を降りて新宿LOFTの中に入ってしまえばそんなことは全く感じさせない、普段の新宿LOFTである。客席に位置が決められた椅子が置いてあること以外は。
チケットは月額ファンクラブ会員じゃないと取れないというくらいの即完となっていたが、年末に控えていた東西のフェスが中止になるくらいに第何波かわからないくらいの感染拡大している状況であるだけに、希望者にはチケットの払い戻しもしていたからか、並べられた椅子には人が座っていないものも散見される。
平日の1日2回公演ということで、2部はやはりスタート時間は遅い。なので20時30分という時間になると、場内が暗転しておなじみのSEとともにメンバーが登場…と思ったら、青木テツ(ギター)はいつもとほとんど変わらず、この日の主役と言ってもいいような存在のHISAYOも黒のワンピースという違和感ない姿であるが、佐々木亮介(ボーカル&ギター)はリリース当時にもよく着ていた白の革ジャンという近年では珍しい出で立ちであり、何よりもこれまではほとんど見た目が変わらない男であった渡邊一丘(ドラム)がパッと見では誰だかわからないくらいに髪をバッサリと切っている。その髪型はフレデリックの三原康司に近いものがあるが、男前度が上がるとともに、どこか若返っているような感覚すらある。
そんな4人が楽器を手にすると、鳴らし始めたのは「LOVE IS LIKE A ROCK’N’ROLL」の1曲目に収録されている「I LOVE YOU」。かつてまだリリースも発表されていなかった渋谷QUATTROでのライブの後に終演SEとして流れ、「何だこの曲!?」とファンをざわつかせたほどに、ロックンロールバンドとしてポップに突き抜けた曲。タイトルからしてもアルバムの軸になった曲になったことは間違い無いし、
「新宿東口」
のフレーズを
「新宿LOFT」
に全く違和感なく変えるというのは、まさに「今、ここ」のための曲だ。
とはいえライブにおいてはアンコールなどを担ってきた、ファンにとっても、恐らくバンドにとっても特別な曲と言えるこの曲が1曲目に収録されているということに、改めて「LOVE IS LIKE A ROCK’N’ROLL」というアルバムの恐ろしさと歪さ、フラッドというバンドの枠に囚われない、予想を心地良く裏切ってくれるロックンロールバンドらしさを感じさせてくれる。
「hey hey! hey hey!」
という観客がメンバーと一緒に歌うコーラスフレーズで声が全く聴こえないというのは一抹の寂しさも感じるとともに、そこはバンドにとっては観客が歌うものとして捉えているんだろうな、というファンへの信頼を積み重ねてきた曲でもあるということを感じるけれど。
名盤しか生み出して来なかったフラッドのディスコグラフィーの中でも、「LOVE IS LIKE A ROCK’N’ROLL」はファンからかなり人気のあるアルバムだと思う。それはこの再現ライブが発表された時のファンの沸きっぷりからもわかることであるが、このアルバムにはリリースから10年近く経った今でもライブの主力として鳴らされ続けている曲が多数収録されていること、それはつまりフラッドのライブでの代表曲が多数収められているアルバムでもあるということである。
HISAYOがゴリゴリのイントロのベースを鳴らす姿を亮介が指差して始まる「Blood Red Shoes」はまさにそんな曲の一つであり、赤い照明にメンバーが照らされながらこの曲を演奏する姿を数え切れないくらいに見てきたが、
「いかれてると言って 笑い飛ばしてくれ Baby
血も涙もあるから 今を生きる意味を
不確かな世界で 確かめてみたいんだ Baby」
というサビの歌詞は今この時代にこうしてライブハウスでロックンロールを鳴らすことの意味を見事なまでに言い当てているというか、これまでに聴いてきたこの曲とはまた違った意味を持って聴こえてくるのだ。
それはフラッドが常に「今」を更新しながら生きてきたスタイルのバンドだからということとも無関係ではないだろうけれど、
「おはようございます。a flood of circleです」
という亮介の挨拶の後のMCでいつも以上にHISAYOに話を振っていたのも加入から10年経った今だからこそであるが、何よりも当時はサポートギタリストの曽根巧とともに礎を作ったこのアルバムの曲たちを、今の最強のロックンロールバンドのフラッドとしてのものにしているのは紛れもなく青木テツのギターだ。
「Whisky Bon-Bon」のロックンロールとブルースという濃い酒同士を50:50ではなくて100:100で割ったような曲に宿るソリッドさと粘っこさをそのギターで味合わせてくれるというのは「あの頃は良かったな〜」というような、振り返りライブ的なものによくある後ろ向きな感情を全く感じさせることがない。このアルバムの曲をこのメンバーで演奏しているのを観れている、それが一番幸せなことだと思わせてくれる。それはHISAYOが
「入った当時から見てくれている人は同じように歳を重ねてきた人」
と言っていたように、おそらくは会場にいたほとんどの人がアルバムリリース当時からフラッドを見てきた人であるだろうけれど、きっとその人たちはみんなそう思っていただろうし、フラッドがそう思わせてくれるバンドであることをわかっているから、こうしてこのご時世でも都内のライブハウスに足を運んでいるのだろう。
亮介がギターを置いてタンバリンを叩きながら歌うのは、こちらも今でもライブの主戦力としておなじみの「Sweet Home Battle Field」。こうしたご時世でもなければ満員ですし詰めの客席に突入して行って、観客に支えられながら歌う亮介の姿が観れるというタイプの曲であるが、当然ながら今はそんなパフォーマンスをすることはできない。
だからといって物足りないかというとそんなことはなく、曲途中で亮介は持っているタンバリンをHISAYOの首にかけて、HISAYOはアルカラの稲村みたいな感じになるのだが、その首にかけたタンバリンをラストサビ前に自分で叩いて鳴らす姿は、物凄く端的に言ってしまえば「可愛い」というものでしかない。ベースを弾いている姿は「カッコいい」でしかないのに、このギャップの凄まじさがHISAYOが「姐さん」としてメンバーやファンに愛されている理由の一つだ。
アルバムの中で最も観客の声が曲の一部となってライブを作り上げる「賭け (Bet!Bet!Bet!)」もやはり声は出せないながらもコーラスフレーズに合わせてたくさんの腕が客席で上がる。みんなきっと心の中では思いっきり叫んでいただろうし、実際にまた一緒に歌える日が来ることを信じているはずだ。この日、この会場にいたり、配信を見ていた(2部は生配信があった)人にたちは、この曲の後半になるにつれてテンポがさらに速くなっていくロックンロールバンドに賭けている人たちなのだから。
今でもライブでやっている曲も多いとはいえ、アルバムとなると収録曲の中ではやはりなかなかライブでは演奏されないような曲もある。中でも「Hide & Seek Blues」はこうした再現ライブという機会でもないと聴けない曲であるが、タイトル通りにまさに息を潜めて隠れているようなメロ部分から、鬼から走って逃げるようなサビの疾走感へと鮮やかに転調していくという展開はロックバンドのライブだからこそのダイナミズムを感じさせてくれる。同じタイプに「Quiz Show」という曲があるだけに、なかなか今後もライブで日の目を見ることはないかもしれないが、今の4人でのバンドが演奏できる曲になったということは紛れもない事実である。
HISAYOはファンクラブ限定ブログで加入してからこれまでの経緯を綴っているのだが、それがまだ2013年くらいまでしか書けておらず、加入した当時は20歳の専門学生だったテツはまだ全然出てこないという、入れ替わりの激しかったバンドならではのMCをすると、曲に入るかと思いきや短髪になった一丘がストップをかけるように、
「再現ライブだと次に何の曲が来るのかわかるよね」
と話してから、自身がスティックを持ち替えて演奏されたのは「Yu-Rei Song」。アコースティックでもおかしくないようなサウンドの曲であるが、異なるのは一丘のスティックのみという形。まさにアルバムだからこそ入ることができる小品的な曲であるが、穏やかなサウンドの亮介のボーカルも含めて、この曲が入っているということが「LOVE IS LIKE A ROCK’N’ROLL」をより名盤たらしめている理由であると言える。
そんなハーフタイム的な時間から、亮介が再び気合いを入れるかのように客席を煽ってから演奏されたのは今年1月の渋谷QUATTROでの2daysワンマンでもハイライトを描き出していた「Boy」。
「転がり続けていく運命を生きるんだ」
「Oh Yeah Keep On Rolling」
というフレーズは今だからこそ、というかどんな状況のどんな時代であっても転がり続けることを選んだバンドとしてのテーマのようでもあるが、この曲を作った時にその後にさらなる転がり続ける運命が待ち受けていることをメンバーは予想していたのだろうか。でもそうした出会いや別れや経験がこの曲の説得力をさらに強めてきた。だからリリース当時よりも今の方がはるかに強く響く。それはバンドが転がり続けてきた姿を見てきたからだ。曲後半にはテツのギターの音が出なくなってしまっていたのにハラハラしてしまったが。
ライブでもハイライトを描いているように、このアルバムの中でも紛れもないハイライトとなっているのはその「Boy」から次の「The Beautiful Monkeys」へと連なる流れ。
このライブの前に聞き返していた音源よりもはるかに速くなっているテンポの演奏は観ているこちらにより強い衝動を与えてくる。だからこそ、今までだったら「Rollers Anthem」のMVに映し出されているような、満員の観客が熱狂し、ダイブしたりしているような光景が観れたはずだし、自分自身も席がなければ前へ前へと駆け出していたかもしれない。そんな、今までは当たり前だった、でもフラッドのメンバーがこの曲を演奏するからこそ我々に与えてくれる衝動の行き場がないということに泣きそうになってしまっていた。歌詞は完全なるセックスの曲なのに。
そのまま雪崩れ込んだ「King Cobra Twist」では亮介とテツのギターソロに加えて、HISAYOのベースソロまでも挟まれ、さらにはアウトロの演奏がメンバーによるセッション感の強い、長尺のものになっており、この曲がこのアルバムまでは毎回収録されていたセッションで生まれた曲であることを思い出させてくれる。1番この日の曲で遊べる曲というか、今の4人で鳴らされるからこそ化けた曲というか。
こうした再現ライブではやはり当時の話とかをしがちなものであるが、亮介は
「昔の曲をやっても昔のことを思い出すことができない。全部今の気持ちで歌っている」
と言ってからアルバム最後の曲である「感光」を演奏した。
「LOVE IS LIKE A ROCK’N’ROLL」がリリースされたのは2011年の11月。当然そのリリースツアーには東日本大震災以降という雰囲気が色濃くあった。それを最も強く感じさせていたのがこの「感光」だったし、最後に亮介が叫ぶように歌う
「生きていて」
というフレーズはあの出来事を経験した上で生きている我々へのメッセージだった。
でもそれが今はこのコロナ禍の真っ只中を生きる我々への何よりも強いメッセージとして鳴らされている。そう感じるのは何故か。それは亮介が、フラッドが、いつも今の気持ちで曲を鳴らし、歌ってきたからである。この日の「感光」は間違いなく2020年を生きるバンドによる、2020年を生きる我々へのメッセージだった。そこには
「I Feel The Shine」
というフレーズの通りに、微かであっても決して消えることのない光を感じることができた。これからもこうしてフラッドがロックンロールバンドとして転がっていれば、と思えるような。
アルバムがこの11曲で終わりなだけに、本編はこれで終わりなのだが、さすがにライブ自体はこれで終わることはできず、メンバーが再びステージに登場すると、この日の主役とも言えるHISAYOがこの日の物販で販売していた、自身がプロデュースしたイヤリングとタイツを紹介。すでに着用していた人もいたが、さすがに今回は完全に女性向けアイテムということで、男性にもプロデュースグッズを、ということで、HISAYOが大ファンである「女の友情と筋肉」という漫画の作者のKANAが描いたHISAYOの絵を公開し、それがプリントされたTシャツが発売されることを発表。
「私がこんなに喋ったりできるライブはそうそうないから」
ということで、さらにはずっとやりたかったという、マイクスタンドの前で缶ビールを開けてから演奏に入るという数々の酒飲みバンドマンがやってきたパフォーマンスをすると、当然演奏されたのはHISAYOをイメージして亮介が作ったという、この日のライブのタイトルの一つにもなっている「Beer!Beer!Beer!」で乾杯して終わりかと思いきや、さらに最後の曲として演奏されたのは今年リリースされたアルバム「2020」に収録された「Beast Mode」。
「暴れろ」
と言われても暴れることはできないし、コーラスを大きな声で歌うこともできないけれど、振り返るだけではなくて、最後に最新の、今の自分たちの姿を見せる。それこそが常に今を生きてきたフラッドの姿勢そのものであり、忘れようとしても忘れられない1年になってしまった2020年にフラッドが「2020」というアルバムをリリースしたことも絶対に忘れることはないだろう。
演奏が終わるとテツが
「またどっかで会おうぜ〜」
と言い、一丘は
「良いお年を〜」
と言ってHISAYOとともに笑いながらステージを去っていった。フラッドも出演するはずだったCOUNTDOWN JAPANが中止になってしまったので、自分の2020年のライブもこの日が最後だった。だからこそ、「良いお年を」という言葉が物凄く強いリアリティを持って響いていた。
そのCDJに出演するはずだった12月29日にもフラッドは配信ライブをやることを発表した。できない中でどうやって少しでも楽しいことができるかということにフラッドはとても自覚的であるが、それはそもそもファンが喜ぶことが1番なのではなく、自分たちがカッコいいと思う音楽を作って、自分たちがやりたいと思うことをやる。それをファンが喜んでくれるという、ロックンロールバンドとして実に健全なサイクルに今のフラッドはいる。
それはこうした再現ライブという企画もそうであるが、そうしたことができるのは、フラッドのメンバーたちが尖ったロックンローラーという一面もありながらも、心の底から優しい、愛を持った人間たちであるから。
そのことを彼らは10年近く前から体現していた。「愛とはロックンロールのようなものだ」というタイトルの名盤アルバムをリリースしていたのだから。フェスはなくなってしまったけれど、というかなくなってしまったからこそ、2020年の最後のライブがフラッドで本当に良かった。
1.I LOVE YOU
2.Blood Red Shoes
3.Whisky Bon-Bon
4.Sweet Home Battle Field
5.賭け (Bet!Bet!Bet!)
6.Hide & Seek Blues
7.Yu-Rei Song
8.Boy
9.The Beautiful Monkeys
10.King Cobra Twist 〜 Session#6
11.感光
encore
12.Beer!Beer!Beer!
13.Beast Mode
文 ソノダマン