昨年末にも東名阪でホールツアーを行ったTHE KEBABSはそれだけでツアーを終えることなく、年明けからライブハウスツアーに出陣。福岡、岡山、京都というホールでは訪れていない会場を廻る中に千葉県は柏市にあるPALOOZAが入っているというのが実に嬉しいが、この日のライブの後は3月の札幌がファイナルという日にちが空くスケジュールになっているのは、田淵智也(ベース)のUNISON SQUARE GARDENも絶賛ツアー中(前日は高崎でワンマンをやっているという強行スケジュール)で、佐々木亮介(ボーカル&ギター)のa flood of circleも来月からはアルバムリリースツアーが始まるという兼ね合いによるものもあるだろう。
個人的に柏PALOOZAではかつてユニゾンが「Catcher In The Spy」のリリースツアーで来てくれた時に田淵がここに立ったのを見ている(斎藤宏介による柏トークも)のだが、亮介は千葉では千葉LOOKがホームと言っていい場所になっているだけにこうして住んでいる場所からより近い場所で観れるというのは実に嬉しいことだ。
久しぶりのPALOOZAは開演前はアルコールも販売しているし、客席も立ち位置に印が描かれた自由席だが、他のライブハウスもキャパをかなり減らして営業しているのを観てきたからか、なんだかその形態だと今までに来た時よりも少し広く感じてしまう。それはソールドアウトで満員になっているということもあるかもしれないけれど。
19時になって場内が暗転すると、拍手に包まれながら鈴木浩介(ドラム)を先頭にしてメンバーが登場するのだが、眼鏡をかけてパーマがかかった髪型も含めてクールな新井弘毅(ギター)に比べて田淵はやはり登場時から動きが不審であり、亮介は緑茶ハイの缶を持ってステージに登場するというアルコールが出せるライブハウスでのスタイルで、1曲目に演奏されたのは亮介がハンドマイクで今回のライブタイトルにもなっている「常勝」のフレーズを連呼する新曲「常勝アミーゴ」。
THE KEBABSは昨年リリースのアルバム「セカンド」においてはロックンロール以外のサウンドを取り入れるという意外な曲も生み出していたが、この曲は3人のどストレートなロックサウンドに亮介のボーカルが乗る、俺たちと君たちがいれば常勝だ、ということ以上でも以下でもない曲なのだが、歌詞をこの日メンバーが食べたと思われる「ホワイト餃子」「柏のみんな」に変えて歌い、亮介が「常勝」と書かれたグッズのタオル(元ネタはスラムダンクだと思われる)を掲げたかと思ったら自身の背後に投げるという自由さはTHE KEBABSならではである。
しかし、である。亮介の姿には登場時から違和感が凄かった。それはフラッドでの革ジャンというスタイルではないというのはTHE KEBABSではお馴染みなだけに、それだけならそうは感じないのだが、黒に様々なイラストがプリントされた上下同じ服は完全にパジャマと呼ばれる類のものなんじゃないかという違和感である。この時点ではまだ本当にそれがパジャマかは分からなかったが、その格好のままで寝ている亮介の姿が想像できるということはわかる。
そうして新曲で始まりながらも、
「退屈だベイベー」
という歌詞が、こうしてライブがないとバンドも我々も退屈だもんな、とも思うけれども田淵のスケジュールを見るとそうとも言えなくなる「THE KEBABSは暇だった」から、身も蓋もないくらいに
「ロバート・デ・ニーロの袖のボタン」
という歌詞がサビになっており、それでもこの歌詞をこんなにキャッチーに歌えるバンドは他にいないというか、それをやろうとするバンドもいないよなと思う「ロバート・デ・ニーロ」のそのキャッチーなサビがこんな歌詞であるのに観客が一斉に腕を上げるという不思議な一体感を生み出す。亮介は
「僕は寝転んでそれを聞きながら」
のフレーズで実際にステージに寝転がるようにしてバンドの演奏を聞きながら歌っているという自由さもTHE KEBABSのライブならではである。
「助けて〜」
と亮介が言うと、一気にサウンドがハードになり、亮介はコーラスで田淵に自身のマイクを向けたり、逆に田淵のマイクで2人で一緒に歌ったりする「お願いヘルプミー」、さらには新井のカッティングギターとリズム隊の演奏がさらにライブにスピード感を増す「チェンソーだ!」と、一応は「セカンド」のリリースツアーなだけに(ホールツアーでそれをすでに体験しているだけに若干の違和感もあるが)、これまでのライブ定番曲も加えながら「セカンド」の曲を演奏するという内容である。
亮介がギターを手にすると、イントロから田淵も新井も飛び跳ねまくり、それが観客にも広がっていく、まさにこのバンドのことを形容しているかのような「すごいやばい」からは佐々木亮介と田淵智也というロックシーンの30代半ば世代の中でも屈指のソングライター2人によるバンドであるということを感じさせてくれるようなメロディの際立つ曲が続く。
田淵のボーカル部分ではベースを弾かずに腕を広げて歌うことで、亮介とは全く違う(もちろん斎藤宏介とも全然違う)ボーカリスト田淵智也としての魅力を見せてくれる「うれしいきもち」はこんなに聴いていて楽しく、嬉しい気持ちになれる曲があるのだろうかというくらいに、目の前で曲が演奏されているということが嬉しく、そして鈴木によるサビ前の「ドンドン」というリズムも実に楽しくなる。
そのメロディの美しさをポップではなくギターロックというサウンドのフォーマットで聴かせてくれる「テストソング」で亮介が指を客席の方に向けて歌う姿も実にカッコいいが、この中盤で早くも「セカンド」の最後を担う曲である「夢がいっぱい」が演奏されるという、もうこれでライブ終わりなのか?とも思ってしまうような流れ。というのもこの小学生の作文のタイトルかのようなシンプル極まりない曲がアルバムを締めるのに実にふさわしい、そこに至るまでの全てをひっくるめた人生讃歌になっているからだ。
「今も夢がいっぱいだ だ!
カレーの匂いがする
ハラ減った 生きてるじゃん」
という偏差値の実に低そうな歌詞も、それを今まで数々の名曲の歌詞を描いてきた亮介が書いて歌うからこそ滲み出る深さがあるし、
「今しかないぜ 今しかないぜ
夢がいっぱいだ」
という締めのフレーズはある意味では多忙なスケジュールとコロナ禍という狭間にいながらもこうして精力的に活動しているTHE KEBABSの生き様を示している。今しかないから、今やるしかないと。
そんな大団円を迎えそうな流れから一転して亮介が
「今年の夏は海に行けなかったし
山にも行けなかったし
お祭り そもそもなかったし
それでかまわない
時は戻らない
それでかまわない
だって会えたじゃん」
と、昨年の夏を思い返させるような切なさを含んだ歌詞を歌い始め、でもそれすらもポジティブに昇華するように歌い続けると、サビの田淵の歌唱が明らかにホールツアーの時よりも良くなっている。それは上手さとかではなく、表現力としてより歌詞に思いを乗せられるようになっているというか。だからこそ
「大好きだよ 大切だよ
だから忘れないでくれよ
生きてるだけで幸せだよ
アイラビュラビュラ」
というそのフレーズが自分のために歌われているのだと思えて感動してしまうし、アウトロでの新井がしゃがむようにして鳴らす轟音ギターソロの音がその余韻をさらに強くする。最初からロックの達人集団であったスーパーバンドTHE KEBABSはライブを重ねることでより進化するバンドでもあるということをライブという場でしっかりと示してくれている。それはこれからも間違いなく進化していくということだ。
そんな感動的な流れをぶった斬るかのように亮介は、
「俺たちは柏っていう街のことを全く知らなかった。だから俺はパジャマで来ていい街だと思ってパジャマで来てしまった(笑)」
と、自身の衣装がやはりパジャマであることを告白し、田淵から「どんな街だよ!」と突っ込まれるのだが、その田淵も会場に向かう機材車の中で
「柏にもカップルがいるんだ」
という発言をしたことを突っ込まれ、その弁明として、
「我々の機材車が高速を降りて狭い路地の中に入りましたと。そこは通学路になっている道なのにガードレールもなく、下校中の小学生が歩いている。ああ、子供たちの安全が心配だ!そもそもこの歩行者が歩くような道を産業革命の賜である車に乗ってやってきた我々の方が悪いんじゃないかと。
かと思えばゲームの話をしているような学ランを着た中学生の2人組や、自転車で車の前に飛び出してくるおじさんもいて、まるでこの狭い路地は社会の縮図のようだと。そこにカップルが歩いていたものだから、
「柏にもカップルっているんだ」
と言ったわけです」
と、その言葉に至るまでに長い思考があったことを語る。そんな田淵の面白MCが聞けるのもTHE KEBABSのライブならではと言えるかもしれないし、ある意味ではライブの雰囲気、空気、流れに気をつけてライブを作っているユニゾンとは全く違う自由さがTHE KEBABSにはあるのだろう。
それはそんなMCの後に田淵が口笛を吹きながら、
「このセトリの流れはちょっとおかしいかもしれない(笑)このツアー反省してばかりだ(笑)」
と口笛がイントロも兼ねているのに普通に喋り始めてから曲に入っていくという緩さで、亮介は再びハンドマイクになって田淵にタイトルフレーズでマイクを向ける「サマバケ」という真逆の季節の曲すらもスタンディングのライブハウスで演奏されればその熱気でここはもう夏になってしまう。最後の鈴木のドラムソロからの
「夏だー!」
的な叫びも含めて。
そこから一気に激しく速いロックサウンドにシフトしていくのは「やさしくされたい」で、THE KEBABSのメンバー(特に歌詞を書いた田淵)の平和主義的なマインドを感じさせる曲であるのだが、その田淵はコーラスを務めながらも鈴木とのリズムが原曲より明らかに速くなっているし、鈴木のドラムパターンがより激しいものに感じられるあたりもライブをやりながら曲が育ってきているということを感じさせる。
それはタイプ的には似た曲である「THE KEBABSは忙しい」もそうであるのだが、柏PALOOZAにはステージ前両サイドに細い柱が立っていて、決して視界の邪魔になることはないのだがステージを動き回るタイプのアーティストからしたら邪魔に感じるものかもしれないのだが、亮介が
「宝焼酎の緑茶ハイ」
など歌詞をより自身の今の趣向に近いものに変えると、
「七つの海を股にかけるギター!」
と新井のギターソロに繋げ、新井はその柱の前にまで出てきてギターを弾きまくる。すると田淵も前まで出てきてベースを弾き、次の曲でコーラスをするために亮介は新井と田淵のマイクスタンドをその位置にまで持っていくというローディー的な働きを見せ、その位置で2人がコーラスを歌う「ジャンケンはグー」からはライブならではのアレンジを見せるゾーンへと突入していく。
THE KEBABSは基本的に超ストレートな、なんなら直感や思いつきが全てと言わんばかりにシンプルなロックンロールを演奏するバンドというイメージから少し変化を果たしたのが「セカンド」であり、そこに収録されたこの「ジャンケンはグー」では音源でシンセのサウンドが取り入れられているのだが、ライブでは誰もシンセを弾かず、同期として流すこともせず、ギター、ベース、ドラムだけのいつものTHE KEBABSの編成で演奏されることによって、新井の高速カッティングギターが体を揺らさざるを得ないファンクロックと化している。それは「グー グー」というファンキーさを際立たせるコーラスフレーズによるものでもあるのだが、このメンバーたちであるだけに当初からこうしたサウンドになることを想定してこのコーラスを当てたんじゃないかという気さえする。
それはサビにそのまま
「シンセサイザー」
というフレーズが歌われる「てんとう虫の夏」もそうなのだが、亮介のポエトリーリーディング的なAメロの歌唱によるものもあって、同じように音源でシンセが使われている「ジャンケンはグー」よりもロックさを感じるライブアレンジになっている。
そして亮介はラストスパートと宣言して曲中の大胆なテンポチェンジがメンバーの動きと連動していてライブで演奏する姿を見るのが実に面白い「恐竜あらわる」へと突入していくのだが、ここまでで多分ちょうど1時間くらい。もともと曲が短いというのもあるけれど、MCも1回だけで、曲と曲の間もほとんどない。つまりはひたすら突っ走りまくりのライブということで、もともとフラッドもユニゾンもそうしたタイプのバンドとはいえ、それでもこのスピード感は驚異的であるし、「秒だった」という言葉はTHE KEBABSのライブのためにあるのかと思うくらいにあっという間にラストの「THE KEBABSのテーマ」へと突入していき、亮介は鈴木の紹介フレーズを
「運転めっちゃ上手い」
と歌っていただけに、もしかしたら機材車は鈴木が運転しているのだろうかとも思うし、最後には亮介が新井の髪をわしゃわしゃと触って可愛がり、田淵はその2人に自らも頭を突っ込んでいき、3人がまさに一体となっているかのような状態になり、ついつい見ていて笑顔になるというか、笑ってしまう。つまりはやはりTHE KEBABSはイカした奴らだったのである。
アンコールですぐさま再びメンバーが登場すると、ホールツアーの際に「闇に葬られた曲」的なことを言われていた、新井が高速でギターを刻む「Bad rock’n’roll show」が演奏され、もうやらないのかと思っていたであろう観客を驚かせつつ安心させるのだが、それは
「show must go on」
というフレーズを、ライブが中止になったりしつつある今だからこそ歌いたかったんじゃないかとも思う。
そして間奏で亮介だけならず田淵も、さらには観客も飛び跳ねまくるグルーヴを見せつけるかのような「ベガスでカジノ」と、改めてこんなにもう曲がたくさんあるバンドになったのかということをしみじみと感じていると、最後に演奏されたのはメンバーが思い出さなくても弾けるくらいにライブでやり続けてきた「ガソリン」で、まさに最後に燃料を全てぶち撒けるかのように熱いロックンロールを放ち、
「バイバイ!」
と亮介は言って常勝タオルを掲げてからやはり後方へ投げすて、4人はステージを去って行った。この爽快感たるや、やはりTHE KEBABSは負け知らずの常勝バンドだった。
世の中がこんな状況であるだけに、全て忘れてライブを楽しむことはできない。本当に全て忘れ去ってしまっていたら、間違いなくモッシュをしたり、全力でシンガロングしてしまうだろう。THE KEBABSのライブには、ロックンロールにはそんな衝動が溢れかえっている。
でもそんな忘れることができないような状況の中でもロックバンドは楽しい、ロックバンドのライブは楽しいということを、THE KEBABSのライブは教えてくれる。それは長い活動の中で必然的に背負わざるを得ないものがたくさんできたフラッドやユニゾンのライブとも違う楽しさだ。その楽しさをこの4人のバンドたからこそメンバー自身も感じているし、我々観客も感じている。それこそがTHE KEBABSが常勝バンドでいることができる理由なんだと思う。それを感じることができるライブが見れてやっぱり、うれしいきもち。
1.常勝アミーゴ
2.THE KEBABSは暇だった
3.ロバート・デ・ニーロ
4.お願いヘルプミー
5.チェンソーだ!
6.すごいやばい
7.うれしいきもち
8.テストソング
9.夢がいっぱい
10.ラビュラ
11.サマバケ
12.やさしくされたい
13.THE KEBABSは忙しい
14.ジャンケンはグー
15.てんとう虫の夏
16.恐竜あらわる
17.THE KEBABSのテーマ
encore
18.Bad rock’n’roll show
19.ベガスでカジノ
20.ガソリン
文 ソノダマン