2019年までは毎月のようにヤバイTシャツ屋さんのライブを見ていた。ヤバTはきっとオファーをくれたライブは全て受けるというスタンスでライブをやってきていたし、そうして様々なフェスやイベントに出演してはそこへ足を運んでヤバTのライブを見てきたから。
しかしそうしたフェスやイベントは2020年にはほとんど行われなかった。言うまでもなくコロナによってであるが、そうして去年まで出演してきたイベントやフェスがなくなってしまったことによって、それまでは毎月のように見てきたヤバTのライブも全然見れなくなってしまった。フェスやイベントに出演するようになってからずっと見てきただけに、そんな年は初めてだった。
そんな中でもヤバTは止まらなかった。アルバム「You need the Tank-top」を9月にリリースすると、感染対策を講じた上でなんとアルバムリリースの全国ツアーまで開催。今のところどこも中止にならない中で迎えた東京でのZepp Tokyoは何と5days。かつて、こやまたくや(ボーカル&ギター)は、
「デカいところで1回やるより、Zeppで5日間できるようなバンドになりたい」
とそのZepp Tokyoのステージで言っていた。(ROTTENGRAFFTYとの2マンだった)
その時に口にした目標がついに叶う時が来たのだ。いや、目標を叶えるというよりも有言実行と言った方がいいか。
5daysの初日は前日の3/2だったので、この日は2日目。今回のツアーは全箇所1日2公演という凄まじいスケジュールのものになっており、自分が参加したのは2部公演目。
その2部公演にしたのも、ガイドラインに沿ってキャパを減らさないといけない=見たくてもチケットが取れないとなってしまうであろう中で少しでも多くの人に見にきてもらえるようにというバンドからのファンへの配慮であることはすぐにわかることだ。
入場時のサーモグラフィーによる検温と消毒を経て場内に入ると、Zeppの中には椅子が敷き詰められている。サンリオピューロランドなど、普段はライブが行われないような会場でもスタンディングという形式でライブを行ってきたヤバTなだけに、この形で観ることになるというのは想像したことすらなかったが、それが逆にそうして楽しみ方やこれまでの形を変えてでもライブを行うんだ、というバンドの意志を感じさせるものになっている。
ヤバTのリミックス曲たちが場内に流れる中、20時30分(これでも緊急事態宣言下ということで開場/開演時間を前倒しにした。それは1部から2部へと至るまでのメンバーの休む時間が減ったということでもある)になると、場内が暗転しておなじみの「はじまるよ〜」の脱力SEが鳴ってメンバー3人が手を叩きながらステージへ。この光景自体は以前までと全く変わらないようにすら感じられる。
しかしメンバーがそれぞれ楽器を手にしてスタンバイすると、こやまがギターを鳴らしながら、
「今回のツアーは声は出すのは禁止!でも飛び跳ねるのは大丈夫!拍手したり手拍子するのも大丈夫!」
と、現在の状況下でのライブの楽しみ方を、事務的な諸注意としてではなく、ライブの挨拶であり開幕宣言として口にする。こやまがOKな行為を紹介している際に、ラメが散りばめられた華やかなベースを持つしばたありぼぼ(ベース)が両腕を使って大きな○を作っているのが何とも可愛らしいし、その姿は客席へと伝播していく。
そんな今までのライブとは違った楽しみ方をせざるを得ない中で1曲目に演奏されたのは、1stアルバムの収録曲であり、メジャーデビュー前からライブで演奏されてきた、みんなで楽しく歌って盛り上がるというタイプの曲である「Tank-top of the World」。そのみんなで歌う部分である
「Go to rizap!」
のコーラスではこやまが
「心で歌って!」
などのこの状況だからこその言葉を付け足していき、実際のコーラス部分はしばたともりもと(ドラム)のリズム隊によるものになっているのだが、2コーラス目ではこやまが
「もりもとだけで!」
と言ってもりもと1人にコーラスをさせると、
「もっと大きい声で!」
というスパルタっぷりを見せる。コーラスをすることができない客席はそのパンクなサウンドに反応して腕を上げ、飛び跳ねたりしている。こうしてヤバTのライブに来て、バンドが鳴らす生の音を聴けているのが嬉しくて、楽しくてたまらないというように。
アルバムのツアーということもあり、序盤で早くも放たれたキラーチューンは「ハッピーウエディング前ソング」。
「キッス!キッス!」「入籍!入籍!」
の客席の大合唱はない。でもやはりこの曲には何か特別な、メンバーが予期していた以上の力が宿っているというか、イントロのギターのフレーズを聴いただけで泣きそうになってしまう。それは今までにこの曲によって見ることができた様々な美しい景色がこうして目の前で鳴らされることによって蘇ってくるからだ。そして声を出したりはできないけれど、曲のテーマでもあるウエディングを祝うのではなく、
「Zepp Tokyo 2日目、第2部!開催おめでとうー!ありがとうー!」
と、こうしてライブが出来ていることをバンド自身が祝い、ライブが出来ていることによって目の前にいる人たちがライブハウスに来てくれて、出会うことができたということへの感謝として鳴らされていた。ヤバTの中でもトップクラスにたくさんの人に聴かれてきた、聴く人それぞれによっていろんな思い入れを持つ曲が、この状況だからこそまた新しい意味を持ったのだ。
「ちょっとレアな曲やります!」
とこやまが言って演奏されたのは、3rdアルバム「Tank-top Festival in JAPAN」収録の「小ボケにマジレスするボーイ & ガール」。疾走するツービートのパンクなリズムがライブだからこそのテンションでさらにその速さを増しているのだが、どうしても1回のライブの時間や曲数が少なくならざるを得ない1日2部公演というスタイルであっても、こうして新作アルバムの収録曲でもなければ代表曲でもない曲を不意に演奏してくれる。だからヤバTのライブはどんな曲が次に演奏されるかわからないドキドキてワクワクを我々に与えてくれるし、そうした曲をいつでもライブで演奏できる、しかもこの状況であってもというのがヤバTがどんな世の中や状況であってもライブバンドであり続けている証拠でもある。
「かわいいあの子が 放課後に俺の上履き食べてた」
という、甘酸っぱいのか黒歴史なのかわからないような青春の思い出をこやまでしか、ヤバTでしか絶対描けないような歌詞で綴る「sweet memories」もまたライブで聴くとパンクなサウンドがより強く感じられる。というかこの曲はカップリング曲として2019年に世に出たが、新作アルバムにも収録されているタームの曲としてはそこまでライブでたくさんやってきた曲というわけではないのにこうしてパンクさを増した形で鳴らされているというのは、2020年に始まったこのツアーで演奏して磨き上げてきた曲だということ。ヤバTが止まらなかった成果が確実に音として出ている。
こやまはこの曲のハイトーン部分が少しキツそう(というか昨日から2日で4本ライブをやってるんだから喉がキツくなって当たり前のスケジュールである)であったが、今や「声が高くなり過ぎて人間には聞こえなくなるんじゃないか」とすら顧客の間で言われているしばたはそのさらに高くなったボーカルを笑顔で伸びやかに響かせる。もともと1stアルバムのリリースツアー時くらいまでは3人の中で歌唱力と演奏力が際立っていた、なんならバンドのサウンドを支えていたのはこのしばたのボーカルとベースであったが、それが昨日やツアーを経るごとにさらに進化している。それはリリースされたばかりのシングル「こうえんデビュー」の音源だけを聴いてもわかるくらいに。
曲間ではもりもとがTikTok用の動画を撮り始めるのだが、これはこやまに言われて始めた「100日連続TikTok投稿」を目指してのものだという。しかしそのこやまは
「TikTokはたまに投稿する方がオススメ欄に出てきやすい」
という元も子もないことを平然と言ってのけるので、もりもとの努力の甲斐がなくなってしまう。
そのこやまは好きな「TikTokならではの曲」として「青森ナイチンゲール」という曲を挙げるのだが、しばたが挙げた「本能寺の変」に比べてあまり知られていないという結果になったのだが、こんな何気ないやり取りであっても、ヤバTがあらゆるメディアから貪欲に音楽の知識を得ているということが伺える。そうした知った音楽がヤバTの音楽の新しい要素の一部になっていったりするのだろう。
しばたの好きな「本能寺の変」のネタをやるエクスプロージョンの新曲という嘘でしかない紹介によって演奏されたのは、タイトルまんまの内容の歌詞の「早く返してDVD」。しかしながらそんなシュールなタイトルの曲であっても、サウンドはヤバT流のラウドロックと言えるような迫力と重さ。そこにキャッチーさを加えるのがこやまとしばたの男女混声のハーモニーであり、
「TSUTAYA行けや!GEOとか行けや!」
という借りパクされている時の心境をこの上なくストレートに表したフレーズである。
さらに新作から演奏されたのは、タイトルにフィーチャーされたもりもとが曲ができた際にこやまに初めて
「本当にこれでいいんですか?」
と確認したという、もりもとのテーマソングにしてAEONのゲームセンターコーナーのテーマソングである「げんきもりもり!モーリーファンタジー」。
曲紹介ももりもとか行うのだが、そのもりもとによるセリフパートではこやまとしばたが座って無表情で演奏しているというもりもとへの無関心っぷりを示した姿が実に面白い。これからAEONのゲーセンコーナーで流れる曲はすべからくこの曲にして欲しいものである。どう聴いても楽しくなってしまうし、元気にならざるを得ない曲であるから。
そんな流れをリセットするかのようにこやまが切ない感じのギターを弾いてから歌い始めたのはヤバT初期の名曲「DQNの車のミラーのところによくぶら下がってる大麻の形したやつ」。今聴いてもどんなタイトルなんだと思ってしまうが、そのこやまの「普通なら絶対に歌詞にしようとは思わないテーマをキャッチーな曲にしてしまえる」という天賦の才は当時から発揮されていたし、この曲の視点が「創英角ポップ体」や「珪藻土マットが僕に教えてくれたこと」にも繋がっていると思う。
しかしこの曲のイントロの切なげなギターを弾いた直後にこやまのギターの弦が切れてしまっていた。明らかにその影響でいつもとは違うギターの音になってしまったので、一瞬しばたもフッとこやまの方を向いていたのだが、こやまがそのまま何事もないかのように演奏したことによって、バンドとして1曲丸々そのまま演奏してみせた。
きっとこのツアー中にもこうしたアクシデントやトラブルが何回もあったのだろう。ひたすらに本数を重ねてきたことによって、そんなトラブルに全く動揺したりしないバンドになった。それは経験を積み重ねてきたバンドだからこそである。曲終わりですぐにギターをいたってスムーズに変える姿からも、本当に逞しさと頼もしさを感じる。
もりもとのTikTok投稿を受けたからこそ、
「TikTokの曲!」
と言って演奏されたのはリリースされたばかりの「こうえんデビュー」収録曲にして映画のタイアップにもなっている「Bluetooth Love」。映画タイアップになるのもしかるべきというくらいにヤバTのポップサイドの曲であるが、MV公開時に話題になったサビのダンスを観客のほとんどが完璧に踊れているということに驚いてしまった。みんなライブが行けない状況でもMVを見てヤバTの曲を聴いて、いつかライブに行ける時には…という思いを抱いていたのだろうか。自分は決して揃った振り付けをしたりするのが好きというわけではない(そもそも動きを覚えられない)タイプなのだが、声は出せなくても、モッシュやダイブができなくても、ヤバTの曲を、ヤバTというバンドのことを好きであるということをその振り付けを踊ることによって示すことができる。この振り付けは話題性よりも、そうしたこの状況でもライブを行うバンドだからこそのものなのかもしれないと思ったし、自分ももっと振り付けを覚えてみようと思った。
2部公演ということで、早くも終わりの時間が近づいてきている。(20時30分スタートでいつもの曲数をやったら帰れなくなる人もいるだろう)
本当にあっという間であったが、すでに何十本とこのツアーを経てきたメンバーからしてもあっという間だったようで、
こやま「駆け抜けてるな。青春のように」
しばた「We are 青春!」
こやま「俺が教師だったら黒板に「We are 青春!」って書きたいわ(笑)」
しばた「そんな教師絶対嫌やわ!(笑)」
と、まさに青春のように駆け抜けるようなライブの締めとして演奏されたのは新作からの「NO MONEY DANCE」。サビでのしばたともりもとの合いの手的なコーラスが曲の持つ楽しさとキャッチーさを倍増させていくのだが、きっとこの曲はそのコーラスをみんなで歌ったらもっと楽しいはず。そういう意味ではいつか近い未来にその完成形としてのこの曲をライブハウスで聴きたい。それができないことによるエネルギーをぶつけるような観客のジャンプはみんなが垂直跳びの自己記録をヤバTの音楽の力を得ることによって更新しようというくらいの高さだった。
そうして飛び上がっている時に思った。まだまだ寒い時期の、換気をしているライブハウス。こうしてモッシュやダイブが起こらない、客同士の間隔を空けるという形のライブであるだけに、寒さを感じたり、厚着をしてライブを見ることも増えた。
それはこの状況だからであるが、この日、この瞬間はTシャツだけでも暑いと感じるくらいだった。何なら汗をかくほどに。それは本当に久しぶりの感覚だった。それくらいに無我夢中で楽しんでいた。曲の力、バンドの力によってそんな状態になっていたのだ。ああ、ちょっと違うけれど、これがライブハウスなんだよな。そう思えるような、懐かしい、でも決して忘れることのできない感覚。それを久しぶりに味わえたことが本当に嬉しかった。
そんな感覚をさらに加速させ、さらに暑く熱くさせるのが「ヤバみ」。ライブならではの超高速バージョンは観客による手拍子によってさらに速くなっているようにすら感じられる。この日は「かわE」や「あつまれ!パーティーピーポー」は演奏されなかったけれど、それでも全く物足りない感覚がなかったのはこの曲や「ハッピーウエディング前ソング」がヤバTのライブアンセムとしてどっしりと聳え立つような曲になったからだ。そしてそうした曲はこれからももっと増えていく。「NO MONEY DANCE」や「Bluetooth Love」もこれからライブで演奏され続けることによってそうした曲になるはずだ。
そしてこやまが
「ライブハウスの曲!」
と言ってライブハウスのステージで演奏した最後の曲は新作アルバムのリード曲である「Give me the Tank-top」。
「愛と友情とPunk Rock 全部大事 でも俺は Tank-top
さあ 取り戻せ自尊心よ 笑いながら泣いた日よ
取り戻せ Come back kids, and our life」
という、どう聴いてもこのコロナ禍になってライブがなくなってしまっていた時期に作っていたであろうフレーズ。これまでもヤバTは「Tank-top」という言葉を自らのパンクロックとして鳴らしてきたが、それをこれまでで最もストレートに歌い鳴らしている。
そんなヤバTがこの曲を鳴らす姿を見ていたら、なんだか泣けてきてしまった。もともとアルバムリリース時からこの曲を聴いて泣いたという声もたくさん聞いていたし、切ないような、泣かせるような曲ではないけれど、どうしても「何もなかった」と思ってしまうようなこの1年の間でも、ヤバTはライブをしまくってきたことで、ライブバンドとしてさらに強くなっていた。それをしっかりと感じられたこと、その姿を自分の目で見ることができているということだけで泣けてきてしまったのだ。
この状況でどうするか、ということを考えて待っているというのも一つの活動の方法である。でもヤバTはそうはしなかった。この状況でもひたすらにライブをやるということを選んだ。それを選んだバンドだからこそのライブ感や強さが確かにあった。この状況でライブハウスに来る全国の人たちの姿を見てきたバンドだから鳴らせる音が確かに鳴っていた。
やはり東京に隣接する県で暮らしていると、昨年のヤバTのツアーに遠征していくのはなかなか憚られるところがあった。去年は物理的にライブを見ることはできなかったけど、ツアーを各地でやってきたということや、バンドのアカウントが上げていたセトリは逐一チェックしてきた。でもこうして自分の目でライブを見たら、本当にヤバTがめちゃくちゃライブをやってきたということがちゃんとわかったのだ。この1年でライブを進化させることができたバンドはきっと数えられるくらいしかいない。その中でも真っ先に名前が上がるのがヤバTだろう。
演奏が終わるとメンバー3人は観客に手を振ったりしながら、
「もしかしたら今日初めてライブハウスに来たっていう人もいるかもしれないけど、本当のライブハウスっていうのはもっと凄くてもっと楽しいところだから。
今は声出したりとかぐちゃぐちゃになったりはできないけど、また必ずそういうライブハウスで会いましょう。みんなで一緒に頑張りましょう!」
と、ライブハウスを守るためにツアーをやってきたバンドとしての覚悟を口にした。
ああ、ヤバTは背負ったのだと思った。ライブハウスという、過去に自分たちがマキシマム ザ ホルモンや10-FEETのライブを見て、バンドを組むきっかけをもらった場所を守るために。
それはもしかしたら重すぎるものかもしれない。この1年でツアーをやるということに理解を示してくれる人だけではないということもわかってしまったから。そういう人たちの心ない声がバンドに向いてしまうかもしれない。
でも、だとしてもライブハウスを守りたい。そのためにライブハウスに立ち続けていたい。喰らうものもあるかもしれないけど、貰えるものもある。全国を回ってきたことによって、その会場に携わる人やそこでライブを見た人はみんなヤバTに感謝しているはず。なかなか地方まで回るようなことはやりにくい状況だから。そんな中でもヤバTが来てくれるから、ライブハウスでライブが見れる。背負ったものはそうした人たちの思いや感情だ。ステージ背面の巨大な可愛らしいタンクトップ君の姿すらも、本当にカッコよく見えた。それはもちろん面白い3人という見た目のままのメンバーも。
「みんなで一緒に頑張りましょう!」
というありふれた、何気ない一言であるけれど、なかなかどうやってライブハウスを応援したら良いのかわからないような我々一般人にその道を示してくれる。ヤバTはこの1年で音楽もライブも存在そのものも、さらに凄すぎるバンドになっていた。
1.Tank-top of the World
2.ハッピーウエディング前ソング
3.小ボケにマジレスするボーイ & ガール
4.sweet memories
5.癒着☆NIGHT
6.早く返してDVD
7.げんきもりもり!モーリーファンタジー
8.DQNの車のミラーのところによくぶら下がってる大麻の形したやつ
9.Bluetooth Love
10.NO MONEY DANCE
11.ヤバみ
12.Give me the Tank-top
文 ソノダマン